・・・と、その時・・・
「おう、入るぜ」
部屋のドアがノックも無しに内側へ開かれ、スーツ姿の男が2人、室内に歩み入ってきた。
1人は小柄で痩せぎすの男、もう1人は190センチ近くはありそうな大男で、全身に堅く筋肉の付いていることが、服の上からでも良く分かる。
瑠璃花はその2人ともを、このアジトで見て知っていた。
つまりは彼らも、犯罪組織のメンバーなのだ。
小柄で痩せた男は井田という名前で、デブ男・笠間の同輩各らしい。
大男の方は、本人が名乗ったのを信じれば、薬師寺哲夫という名前だ。
井田や笠間たちが「社長」と彼を呼んでいることからすると、どうやら組織を仕切っているリーダーのようだ。
「お楽しみの真っ最中らしいな。悪いがジャマをするぞ」
その薬師寺が、ニヤニヤ笑いながら声をかけると、
「いやそんな・・・何か御用ですか、社長?」
笠間はペコペコと頭を下げ、へつらうように言った。
その様子からは、薬師寺が相当のカリスマ性を持って、この組織を束ねているらしいことが見て取れる。
海千山千の犯罪者たちを統率するのだから、それだけ頭が切れ、腕っぷしも強い男なのだろう。
「いやなに、コイツが思ったよりも早く用事を済ませて来たんでな」
薬師寺は、並んで立っている井田の肩を、ご苦労さんというようにポンと叩いて言った。
「つまりは新しいゲストのご到着ってワケだ。で、一刻も早く、その娘と対面させてやろうと思ってな」
「ヘエ、そりゃあまた手際が良かったですね」
笠間は少々残念そうな顔付きで答えながら、瑠璃花の耳元に口を寄せ、ささやくような調子で、
「お嬢ちゃんもせっかく気分が出てきたところだったけど、ここで一旦水入りだ。アンタに面会客が来ているそうだぜ」
(エッ?・・・)
笠間の言葉に、瑠璃花はギョッと目を見開いた。
面会ということは、瑠璃花の知り合いがここへやって来たということなのか?
一体この地獄の底に、誰が訪ねてきたというのだろう?
あるいは義父の祐太朗が来たのではないかと考えつき、瑠璃花は不安げに身じろぎをする。
あの男ならば、売り渡した娘の惨めな姿を見物に来るくらいのことはやりそうだ。
娘が汚され、辱められるのを見て楽しむつもりなのかもしれない。そういう鬼畜漢なのだ。
「よし、お客さんに入ってもらいな」
瑠璃花の不安をよそに、薬師寺は楽しそうに井田に言い付ける。
「ハイハイ、さあどうぞ・・・」
井田は一旦ドアの外へ出ると、そこに待たされていたらしい人物を、妙に丁重な物腰で部屋へ招じ入れた。
「あッ!」
室内の様子・・・つまり陵辱されている瑠璃花を・・・一目見て、入ってきた人物は短く悲鳴のような声を発し、その場に立ちすくんだ。
三枝祐太朗ではない。
美しくグラマラスな、若い女性であった。
よほど仰天したのか、大きな目をさらに見開いたまま、石のように固まっている。
驚いたのは瑠璃花も同様であった。
呆気に取られた表情になり、訪問者の顔を凝視する。
それがあまりにも意外な人物だったからだ。
(せ、先生?・・・どうして、こんな所に?・・・)
そう、それは何と、瑠璃花を担任している女教師、北畑早苗だったのである。
→進む
→戻る
→書庫のトップへ
|