第二章 かけもの
「ん…んうっ…」
ガ、ガキにはかられた。
「ようし、記念写真も撮ったし皆で祝杯を上げるか!」
上げるなよ!
人が悶えているのを尻目にヒゲ男は宴の準備を始めた。次々に缶ビールを取り出しては先輩たちにトスする。
「ねえボクは?」
「心配するな、ちゃんとノンアルコールビールも買っておいたぞ」
「やったー」
小学生もビール美味いのかな?私にはビールと発泡酒の違いもわからない。
「皆、一つ提案なんだけど、ビールかけしないか?」
「優勝してないのに?勿体無いだろ」
先輩が水を差した。先輩は四人の中では一番体格がよく、だてにスキンではない。
「えーやろうよビールかけ」
「男ならやるしかないですよ。少し多めに準備してありますから」
「あ、ああ。ハナちゃんもそれでいいか?」
ハナちゃんは黙って頷いた。寡黙らしい。
「じゃ、全会一致って事で」
ヒゲ男の一言で一同は缶をシェイクし始めた。それだけで噴き出すイメージが強烈に浮かんでくる。
「キャッホウ」
少年が最初に開封した。
皆もそれに続き景気よくビールが乱舞する中、身長の関係上少年はかける相手がいなくて自分にかけている。やはり勿体無く見えるが、ヤクルトが優勝した時は宣伝と在庫処分を兼ねてヤクルトをかけるべきだと思う。
それにしても、私を放置して狂喜する連中のさまは狩猟民族の収穫の儀式さながらである。
逃げるなら今だ。
足どうしは縛られていない。左足だけバーベルに結び付けられているから、これさえ切れればいいのだ。縛られた手で縄をほどくのは困難。刃物も火も持っていないし…噛み千切るか。原始的だが、迷っている暇はない。だがすぐに、少年の失礼な一言で遮(さえぎ)られた。
「女にもかけてやろうよ」
はたと連中は一斉に私の方を見た。
「かけちゃう?」
ちょっと待て、植物に水をやるくらいの感覚で言うなよ!
奴らは素早く私を取り囲んだ。ほぼ無駄な事だが反射的に首を振る。奴らも新しい缶を振る。
――――くっ!
首筋に冷たい感触がしたと思うと、すぐにビールの雨に打たれた。布越しに随分飲まされた。
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