「この女、どうするんだ?」
 「使い道はいくらでもあるって、殺す必要はないだろ。」
 「それはそうだが・・・こんな事が上に知れてみろ、軍法会議では済まされんぞ。」
 「上の連中は現場の事など構っちゃいないさ、自分の地位を守る事で手一杯だよ。」
 ノインは薄暗いテントの中で目を覚ました。
 全身が痛むのは先ほどトーラスの爆発でダメージを受けたせいだろう。
 「目が覚めたかな、君は王国の兵隊さんだろう。ここはOZの野戦病院だ。」
 「なぜ、OZが私を助ける?」
 男はさも当然だというように肩をすくめて言った。
 「僕は医者だよ、けが人にOZも王国も無いさ。ま、一応捕虜って事で腕だけは縛らせてもらったけどね。」
 ノインの両腕は一つにまとめられベッドの手摺りに縛りつけられていた。
 「あと、タダメシ食わせるわけにはいかないからね。少し働いてもらうよ、簡単な仕事だからその時になったら言うよ。」
 ノインは首だけ動かして辺りを見回した。
 広めのテントに薬品棚が持ち込まれ様々な薬品類が収められている。
 ノインに話し掛けた男は軍服の上に白衣を羽織っている。清潔に切りそろえられた髪と細渕の眼鏡がさわやかな印象を与える、医師らしい、か細い体つきで年は22〜3と言ったところか。
 「もう少し休んだほうがいい、寝首を掻くような事はしないさ。安心して休んでくれればいいよ。」
 そういわれたもののやはり脱出する事を考えるノイン。
 しかし全身の打撲に加え両腕は頭上で固定されている。柔らかな包帯できつく縛られた腕は殆ど動かせそうに無い。
 (リリーナ様、大丈夫だろうか?ヒイロとカトルがいれば大丈夫だとは思うが・・・)
 「おーい、ドナトス、いるかい?」
 天幕の入り口を掻き分けるように体格のいい男が入ってきた。
 「なんだ、ゲイルか、何のようだい?」
 あのひょろ長い医師はドナトスと言う名前らしい。薬を調合する手を休め、男の方に顔を向ける。
 「俺が1番に決まったんだよ、くじ引きでな、ツイてるだろう俺。早速準備してくれよ。」
 ゲイルと呼ばれた男は少年のように無邪気に笑いながら話をしている。しかしドナトスの返事はつれなかった。
 「ダメだよ、まだ薬の準備が出来ていない。体だってある程度回復しないと。せめて今夜まで待ってくれ、悪いが今日は医師として許可する事が出来ないな。」
 ドナトスはそれだけ言うと再び机に向かった。
 「おいおい、そりゃねえぜ、こんなに危ない思いして戦ってんのに。」
 「危ない思いしてるのはモビルドールだろう、君達は安全な後方から指示してるだけじゃないのか?」
 男の言葉にドナトスは少し気分を害したようだ。どうやら彼はOZの中でもMDにいい感情を持っていないらしい。
 ノインは心の中でドナトスとまったく同じ事を考えていた。口に出して言ってやりたかったが今は大人しくしているのが得策だ。
 「解ったよ、でも一番は俺だ、忘れんなよ。」
 男はしぶしぶ引き上げていった。
 「ごめんね、騒がしいだろう、でももう静かになると思うから。」
 あくまで屈託無く笑う青年がノインには理解できなかった。
 (反MDのこの青年がなぜOZなんかに・・・)


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