「こっちだ、トッド。」
 もとより軍人出身の2人にとって警備に穴の開いたグラン・ガランに忍び込むなど造作も無い事だった。
 ブリッジを守る兵を廊下に引きずり込み、無言のまま息の根を止める。
 アレンの手には血に染まったバヨネットが握られていた。
 彼は地上に出てすぐに米軍基地に接触し、幾つかの武装を譲り受けていたのだ。
 トッドは兵士から奪い取ったと思われる短剣を持っていた。
 「さて、どうするか・・・」
 トッドは扉の陰から内部の様子を伺った。
 普段よりも少ない人数とは言えかなりの人数がブリッジに詰めている。
 目指すシーラ・ラパーナはブリッジの中央で指揮を執っているようだった。
 「誰だ!」
 背後から兵士と思われる声が聞こえる。
 (気付かれた!)
 しかし訓練された二人の身体は無意識のうちに互いに取るべき行動を確実にこなしていた。
 トッドは兵士に突撃し、その腹部に手に持った短剣を埋め込む、確実に止めを刺すためさらに捻りを入れる。
 アレンはブリッジに突撃し、瞬く間にシーラの身体を背後から抱え込んだ。周囲を威嚇するように手に持った血塗りのバヨネットでシーラが来ているドレスの胸元を切り裂いた。
 「何をするつもりなのですか?手を離しなさい。」
 シーラはこの状況にもかかわらず王女としての威厳を保っていた。
 毅然とした真紅の瞳がアレンに無言のプレッシャーを与えるが彼が動じた様子は無い。
 「さあ、早く武器を捨てて降伏しなさい、私を殺してもあなたはここから逃げる事など出来ません。」
 アレンはシーラの抗議を鼻で笑い飛ばすと自分の唇でシーラの口を塞いだ。
 唐突なアレンの行動にシーラの目が大きく見開かれる。
 舌で彼女の唇をこじ開けずるずると音を立てながら、むせ返りそうな甘い香りのするシーラの舌を吸い出し、自らの舌を絡める。
 一瞬の静寂の後、事態を理解したシーラの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
 たっぷりとシーラの唾液を味わった後、アレンは再び周囲に目を向ける。
 シーラは全身の力を抜かれたように呆然とアレンの腕に抱かれている。もうアレンに対して抗議する様子は見られない。
 耐えがたい屈辱に小さな身体が小刻みに震えているのが遠目にもはっきりと見えた。
 アレンが何も言わずとも周囲の人間には状況が理解できていた。皆が皆、シーラを助けるために今にも飛び出したいのだが彼女を人質に取られている以上ヘタな行動を起こす事が出来ない。
 「トッド!アレを出せ!」
 トッドは懐から金属の塊を取り出すとピンを口に咥え引き抜く。
 一瞬待った後、それをブリッジの中に投げ込んだ。
 シーラを抱えたアレンがブリッジから走り出すと同時に硝煙の起こす熱い爆風がブリッジに吹き荒んだ。
 アレンの一撃で気を失ったシーラを抱えるようにし、2人はグラン・ガランを抜け出した。
 グラン・ガランを隠している森からそれ程離れていない場所にアレンのレプラカーン、片肺だが応急処置の施されているトッドのライネックが片膝を立てるように置かれていた。
 比較的居住性に余裕のあるレプラカーンにシーラを乗せ、2体のオーラバトラーはその場を飛び立ち、東京を離れていく。


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