第10話 会議


 セルビジュでの一戦から一夜が明けた。
 サンゼルア軍を破ったヴェイス軍はそのまま首都ナムに駐留していた。ヴェイス軍に撃破されたサンゼルア軍を中心としたセルビジュ軍は反撃の機会をうかがい、各地に散らばっていった。
 その間にエリウスは首都で行動を起こしていた。まず、首都に住まう者たちへの攻撃、簒奪の厳禁。犯罪者への厳罰。難民の保護。様々なことを行い治安の回復に尽力した。同時に逃げ出すものを罰するようなことはせずに、暖かく見送るようにした。
 思いもかけない魔族の行動に国民の間に動揺が広がっていた。そんな中、国民に訴えかける演説が王城から流された。王城のベランダに姿を現したのは前国王の妻であるクリサリアであった。
 「こくみンのみナさン、わたクしのいうコとをよくキいてくだサい」 
 クリサリアは切々と訴えかける。父である宰相が何をしてきたのか、その暴挙を止めるためにサンゼルアが立ち上がったこと。革命を成し遂げたサンゼルアが自分にしたこと、王子ナルアムにしたこと。そして今魔族がこの地に駐留する理由、それを切々と話してゆくのだった。
 「かくめイをうたいナがラ、おうけヲないがシろにしたさんぜルあしょうグんハたおれまシた。いまこソわたしたチはなるあむオうのもと、いっちダんけつしてくにヲたてなおさなケればならないトきなのです」
 クリサリアの言葉に国民は同調し歓声を上げる。その歓声にクリサリアは手を振って答え、後ろに控えていたナルアムを前面に押し出す。すると国民はナルアムの、クリサリアの名を連呼して歓声は最高潮に達するのだった。

 その様子をエリウスとフィラデラ、オリビアの三人がじっと見つめていた。
 「オリビア、クリサリア妃の容態は?」
 「だめですね。完全に心が壊れてしまっています。アリス様が回復させようと努力されていますが、完治には相当の時間がかかるかと」
 昼夜を問わないサンゼルアの暴行に心を閉ざしたクリサリアは自我は完全に崩壊し、人形のような状態で発見された。今後のことも考えてエリウスは、即座にリューノのときと同様アリスに回復を願ったが、心の傷は深く、回復は難しい状態だった。
 「仕方がないか。フィラデラ。人造人間(ホムンクルス)の調子はどうだい?」
 「ほぼ、問題ありません。自我の構築はしていませんが、ほぼ本人と同じ構成で出来ていますのでばれる可能性はないと思われます」
 エリウスの質問にフィラデラはそう答えると、バルコニーの方に視線を移し、クリサリア、ナルアム母子を見つめる。そこには歓声を上げる国民に手を振って答える二人の仲睦まじい母子がいた。もちろん、二人は本人などではなく、フィラデラが生み出した人造人間であった。クリサリアは自我が崩壊した状態、ナルアムは”巫女姫”として目覚めた以上、王子としてこの国を治めるわけにはいかなかった。
 「ナルアム王子のほうは男性体にしてありますので生殖機能は残してあります」
 フィラデラは報告を続ける。それを聞いたエリウスは小さく頷くと奥に消えてゆく。この国はクリサリアとナルアムの人造人間を中心に自分が選び出した側近たちによって治められていくことになるだろう。新たに宰相に選び出した男にはそれをしっかりと説明しておいた。新宰相も快諾している。
 「さてと・・・この国はこれで大丈夫だな・・・」
 エリウスはフィラデラ、オリビアを連れて魔天宮へと戻る。作戦会議室に入ると、上座の席の後ろにはアリス、レオナ、シェーナ、ナリア(ナルアムの本名)が控えている。クリフトの後ろにはセツナ、エリザベート、リューナ、アンナたち副官が、シグルドの後ろにも、キリン、オームら副官が控えていた。さらには新宰相の息子ら新しいセルビジュ軍の将軍たちも固い面持ちで席についている。
 「さてと会議を始めようか」
 席に着いたエリウスは皆に声をかける。一同に緊張した面持ちとなる。エリウスの左側に立ったフィラデラが呪を唱えると、一同の前にこの地域の地図が浮かび上がる。その術にセルビジュ軍からは感嘆の声が漏れる。
 「さて殿下、今後の方針ですが、やはりサーナリアに向けて進軍を?」
 地図を見ながらクリフトがエリウスに質問する。そこにいる誰もがそうするものと思っていたので、この質問は形式的なものとばかり思っていた。ところがエリウスの意見は予想と違っていた。
 「いや、我々はシーゲランスへと侵攻する」
 この大陸の南西に位置する軍事大国・シーゲランス帝国。その国力、戦力はストラヴァイドに匹敵するといわれる。そこに攻め込もうというのだ。以外ない件に一同に動揺が走る。
 「ま、末席ながら某に発言の機会を・・・」
 「君は確か宰相に任じたエストール殿の・・・」
 「息子のベリスにございます」
 少年は丁寧に頭を下げる。今回の一件以来魔族の戦い方に感銘を受けた若者は少なくなかった。ベリスもその一人であった。だからセルビジュ軍に籍を置きながらこの軍議への参加を希望したのである。
 「かまわないよ。言いたいことがあったらすきに発言するといい。位は命令系統を整えるためのもので、あまり意味はないから」
 エリウスは笑いながらベリスの発言を許可する。ベリスもホッとしたような表情を浮べて、自分の意見を述べ始める。エリウスは目を閉じてそれを真剣に聞いていた。
 「サーナリアへ侵攻せず、何故シーゲランスに侵攻を?」
 皆が思った疑問を素直にエリウスにぶつけてみる。それを聞いたエリウスは目を開けると、にこりと笑ってその問いの答えるのだった。
 「サーナリアへ侵攻すれば、シーゲランスに介入の口実を与えてしまうからだよ。今回のセルビジュへの軍事介入は即時に動いたからシーゲランスは動けなかったようだけど、あの老獪なリケルバウト皇帝が二度もそれを許すとは思わない。サーナリア軍のみならずシーゲランス軍まで同時に相手にするのは得策ではないからね」
 エリウスの言葉をベリスはだまって聞いていた。確かにサーナリアに専念できない可能性が高い。リケルバウト皇帝の老獪さはベリスもよく分かっていた。今回のヴェイス軍と同じようにサーナリア保護を口実に攻撃してくる可能性が高い。
 「なら、相手の裏をついてサーナリアにではなくシーゲランスに一気に侵攻する。そのほうが一国と戦うだけですむし、何より戦火が広がらないですむからね」
 エリウスの言葉を聞いてベリスは黙り込んでしまった。シーゲランスがサーナリアに侵攻すれば三国間の争いになる。そうなれば戦火に焼かれるのはサーナリアだけではない。内乱の傷跡がいえないセルビジュにまで及ぶ可能性をエリウスは示唆しているのだ。
 「ですが、我々がシーゲランスに侵攻している間にサーナリア軍が動く可能性も・・・」
 「おそらくそれはないだろう。サーナリアの国力を考えれば無益な遠征などするはずがない」
 エリウスの言葉はもっともで、サーナリアが遠征をする気ならば、内乱が起こっている間にしたはずである。内乱が収まった今頃になって行うとは考えにくかった。
 「分かってもらえたかな?では侵攻ルートなどについて説明してゆこう」
 エリウスはそう言うとフィラデラに地図を切り替えさせる。地図はシーゲランス帝国のものに切り替わる。
 「こちらとしても被害を最小限にとどめたいからな。一気に王都を落とす!」
 「王都を?」
 「ああ、そのためにもこのルートで侵攻する!」
 エリウスはそう言うと指揮棒でセルビジュからほぼ一直線にシーゲランスの王都・コンドルアを結ぶ。それを見た一同から驚きの声が漏れる。
 「五の関を越えていくと・・・そう仰るのですか、エリウス様・・・」
 シグルドが唸るように言葉を搾り出す。その言葉にエリウスは黙って頷く。
 五の関。シーゲランスの王都に至る道の中でもっとも平坦で道の整ったルートである。これ以外のルートは山や谷が多くまともに進むこともままならない。しかしその代わり最短ルートには堅固な五つの関がその行く手を阻むのである。そしてそこはシーゲランスでも有数の将軍たちが警備に当たっていることで有名だった。
 「この五つの関を一気に突破し、王都を落とす」
 「ですが今回は侵攻の口実がありませんよ?」
 エリウスそ言葉にクリフトが水を差す。確かにその通りだった。フライゼルトはストラヴァイド軍討伐、セルビジュは反乱軍鎮圧を目的とした出兵となっている。だが、今現在シーゲランスへの侵攻の理由となるものは存在しなかった。しかしエリウスはにやりと笑う。
 「その点は問題ない。そろそろ奴らの方から理由を作ってくれるはずだ」
 エリウスのその言葉に全員が首をかしげる。しかし、エリウスはそれ以上なにも言わず、進軍の内容を説明し始めるのだった。
 「まずは第一の関、ホールゼンの森だが・・・」
 「そこは俺たち妖魔兵団からダークエルフ弓兵隊を出そう。奴らなら森での活動は得意だ」
 クリフトの言葉にエリウスは頷く。が、すぐに押し黙ってしまう。
 「どうした?何か問題でもあるのか?」 
 「ああ・・・関を護るハルハット将軍をどうしたものかと思ってね。それに副将のミルドもいる。この二人の相手はダークエルフたちだけではつらいだろう?」
 エリウスの言葉にクリフトは納得した。ハルハットもミルドも生粋の戦士である。森の中では有利に戦えてもいつまでも彼らが相手の有利なところで戦ってくれるとは思えない。もし肉弾戦になれば、貧弱なダークエルフでは彼らと渡り合うのは困難だった。
 「なら、どうする?おれも一緒に行こうか?」
 「いや。森の中なら彼らに任せたほうがいいだろう。そろそろ満月だしね」
 そのエリウスの言葉を聞いたクリフトは納得した。確かに彼らならばこの任務にうってつけだろう。彼らには自分から伝えておくとエリウスは告げると、話を進めることにした。
 「次に第二の関、シェルト平原はシグルド、君の騎馬軍団に任せて問題ないね?」
 エリウスの問いにシグルドは無言で頷く。ケンタウロス族である彼にとって平原での戦闘はお手の物であった。平原での戦闘に負けるとはシグルド自身も思っていなかった。
 「第三の関、ここが最大の難所、だね」
 地図を見ながらエリウスは呻いた。フォーガン山の細い山道に気づかれた関所、それが第三の関だった。正直外から攻めるには隊列が組みにくい。それほど狭い道なのだ。ここを通る以上魔天宮での進軍は出来ないとエリウスは覚悟している。
 「さて、どうしたものかな・・・」
 顎に手を当て考え込んでしまう。ちょうどそのときだった。誰かがこちらに走ってくる足音。壁に激突する音。泣き喚く声。会議室の外側が騒がしくなる。それを聞いたエリウスは頭を抱え込み、フィラデラの眉が大きく跳ね上がる。事情を知るものはくすくすと笑い、知らないものは何事かと部屋の外が気になりだす。
 「エリウスーーー!!!」
 会議室の扉が勢いよく開け放たれ、赤い髪に赤い瞳の五歳ほどの少女が飛び込んでくる。少女は会議室のテーブルに飛び乗ると、そのままエリウスめがけてジャンプし彼の胸の中に飛び込んでくる。エリウスは何とかそれを受け止める。少女は頬をエリウスの胸に擦り付けて喜びを表している。
 「えへへへっ。エリウスー、あそぼー?」
 「こら、エン!今会議中だぞ?」
 エリウスは溜息交じりに少女に注意するが少女の方は気にした様子はなかった。事情を知らないものたちは何がどうなったのか分からないままでいると、今度は金髪に金色の瞳の少女が飛び込んでくる。さらに緑色の髪に緑色の髪の少女もおどおどしながら室内に入って来る。どちらも五歳児くらいの外見である。
 「コラー、エン!よくもやったなぁ!!」
 金髪の少女は鼻の頭を真っ赤にし、目に涙をためて怒っている。何があったのか想像がついたエリウスはため息をつきながらエンに話しかける。
 「エン。おまえ、ライの脚を引っ掛けたんだろう?」
 エリウスの話しかけられたエンは照れ笑いを浮べながら頷く。ここまで走ってくる途中、エンがライの脚をかけ、壁に激突させたのだろう。あとから入ってきた緑髪の少女がその目を拭ってやる。
 「ライちゃん、大丈夫?」
 「これくらい平気!それより、エン!いつまでそこにいるつもりよ!!」
 ライは頬を膨らませてエンに突進する。そしてエリウスの膝の上で取っ組み合いのけんかを始める。
 「私のほうが先に来たんだからここはわたしのだ!!」
 「何言っているのよ、卑怯な手で奪い取ったくせにぃ!!」
 大声で罵りあい、お互いの髪を頬をつかみ合って引っ張り合う。その喧嘩を見た緑の髪の少女は涙を浮べてしまう。エリウスは困った顔でフィラデラのほうを向いてみるが、その顔を見て今度は青くなる。フィラデラのこめかみにはすでに血管が浮かび上がっていることにエンもライも気づいていなかった。
 「エンちゃんも、ライちゃんも喧嘩しちゃダメ・・・」
 ぽろぽろと涙をこぼして喧嘩をやめるように訴える少女にようやくエンもライも動きを止める。そしてあわてて少女をなだめようとする。 
 「だ、大丈夫だよ、ラン。これはこみゅにけーしょんの一環だから」
 「そ、そう、そう。だから、ね。泣かないで」
 涙目のランを何とかなだめようとエンもライも懸命であった。二人が喧嘩していないと分かるとランはようやく泣くのをやめ、はにかんだ笑みを漏らす。エンもライもホッと胸をなでおろす。それもつかの間だった。二人の耳を誰かがギュッと摘み上げる。
 「部屋に入るときはノックをして許可をもらってから静かに入る。そう教えたはずよね?」
 二人の耳を抓りながらフィラデラは静かに二人に質問する。言葉遣いは静かだが、言葉の端々に迫力を感じる。
 「いたたたたっ、フィラ姉ちゃん、ごめんなさい!」
 「そんなに引っ張ったら、いたいよー」
 目に涙を浮べて謝る二人であったがフィラデラは許してはやらなかった。完璧に怒っているとエリウスをはじめフィラデラを知る人物たちは黙って成り行きを見つめるだけだった。下手に二人をかばって自分が怒られるのは勘弁して欲しかったからだ。 
 「今日はいい機会だからゆっくりと話をしてあげるわ。ラン、貴方はエリウス様の傍にいてもいいわよ」
 「ええ?ランばっかりずるいぃ!!」
 「そうだよぉ!わたしたちもエリウス様のそばにいたいぃ!!」
 二人そろって文句を言うが聞き入れてもらえない。逆に睨まれる。
 「貴方たちはエリウス様に迷惑かけたでしょう?ランはおとなしくしていたんだから当たり前の話です!」
 「そんなぁ・・・ランも何か言ってよぉ!!」
 「そうだよ。フィラ姉ちゃんのお説教、長いんだからぁ・・・」
 あわててランに助け舟を求めるが、当のランはオロオロするだけでどうしたらいいかわからずにいた。混乱しきった頭は謝ってしまえという結論に至った。考え無しに頭を下げる。
 「あの、えっと、えっと・・・ごめんなさい!」
 「いい子ね、ラン。さぁ、二人はこっちに来なさい!」
 「「ランの裏切りものぉ!!」」
 フィラデラはそう言うと、二人の耳を摘んだまま部屋から退出してゆく。二人の恨みがましい声を残して。その様子をオロオロとしながら見ていたランだったが、しばし考え込んだあと、チョコチョコとエリウスに近寄るとその膝の上にちょこんと座る。エリウスがその髪をなでてやると、嬉しそうな顔をする。
 「エリウス様、この子たちに少し甘すぎのようですが?」
 背後から冷たい声がする。レオナが冷たい表情でこちらを見ているのが分かる。どう答えていいものか思案していると、ランが上目遣いでレオナを見つめる。その顔を見たレオナはそれ以上何もいえなくなってしまう。ようやく事態が収まったとエリウスはため息をつき、呆然としている面々に説明を始める。
 「まあ、これで第三の関の攻略は何とかなるな。ラン、やってくれるかい?」
 膝の上でおとなしくしている少女を見下ろすと、ランはきょとんとした表情でエリウスを見上げる。なにを言っているのかわからないようだった。それはランの正体を知らない面々も同じだった。エリウスがランの相手に忙しいのが分かると代わってクリフトが説明する。
 「ああ、あの子はランって言って人間の外見をしているけど、人間じゃあない。風の神竜だよ。さっき連れて行かれたのは炎の神竜と雷の神竜。わかったかな?」
 クリフトの言葉は衝撃をもって知らなかった面々に伝わった。最強の竜がまさかこんな少女だとは思わなかったというのが正直な想いだった。その間にエリウスはランの了解を取り付ける。
 「じゃあ、ラン。うまくいったら何かほしいものはあるかい?」
 「・・・なんでもいいの?」
 エリウスの質問にランは遠慮がちに尋ねる。エリウスが頷くと顔に満面の笑みが生まれる。
 「えっとね、大きなぬいぐるみと、アリス様のクッキーとホットミルク。あまーいやつ」
 「それでいいの?」
 「うん!!!」
 エリウスが聞くと大きく頷く。アリスのほうを伺うとこちらも笑みを浮べて分かりましたと了承してくれる。これで第三の関は攻略できたも同じといえよう。
 「そうすると次は第四の関、キクリス川か・・・」
 「エリウス様、少しよろしいでしょうか?」
 第四の関攻略を考えようとしたエリウスにレオナが意見を求める。エリウスは発言を許可する。
 「第四の関、攻略は私に任せていただけないでしょうか?」
 思いもかけないレオナの言葉にエリウスは首を傾げた。かつて姫将軍と謳われた彼女がいつまでも城の中でぼんやりしているはずはないとは思っていた。だがこのタイミングで自分から志願してくることに疑問を感じたのだ。レオナはその理由を静かに語りだした。
 「第四の関を護る将軍、カルラとはかつて剣を交えたことのある方。決着をつけたいのです」
 エリウスを正面から見据えてレオナは素直に自分の想いを告白した。かつての戦いは引き分けであった。だからここで決着をつけたいと思っていたのだ。
 「あの、レオナ姉様が出るのでしたら私も出てよろしいでしょうか・・・」
 おずおずとシェーナが手を上げる。これには他の皆も驚いた。評議長の娘として戦いなど知らずに生きてきた少女が戦場に出るというのだ。これだけでも驚きに値する。すると今度はナリアまで手を上げる。これにはベリスたちが驚きの声を上げる。
 「姫様、なりませんぞ!貴方様が戦いに赴くなど!!」
 「ですが私も”巫女姫”の一人です。戦場には慣れて置かないと・・・」
 ベリスたちの反対をナリアは押し切ってしまう。いかに”巫女姫”三人がそろっているとはいえ、それだけでは不安に思えた。さすがにエリウスも許可を出せずにいた。するとセツナが手を上げる。
 「でしたら我ら”五天衆”が警護につきましょうそれでよろしいですかな?」
 セツナの一言でさすがのエリウスも折れた。かわりに妖魔兵団5000が同時に進行することも条件につけた。さらに騎兵2000、妖魔兵10000を魔天宮に残し、ベリスたちセルビジュ兵たちには自国の警護を言いつけた。当初ベリスたちは一緒に行動することを望んだが、まだサンゼルアの残党がいるこの国を他国のものが警護するわけにはいかないということで納得してくれた。魔天宮に要る兵は緊急時には好きに使っていいというお墨付きまで与えられた。
 「第五の関はほとんど情報が入ってきていない。ここは第四まで突破してから策を立てることにしよう」
 エリウスがそう言うと会議は解散となった。各自自分の持ち場に散ってゆく。エリウスも第一の関突破のための助っ人を呼びに移動するのだった。

 ヴェイス国南西に位置する森、サザンの森。この一角にライカンスロープたちの集落があった。この集落の若長であるダンたち三兄弟の家は集落の一番奥にあった。
 「ちょっと、ダン。やめてよ!」
 厨房で料理をしていた新妻を後ろから抱きしめてきたダンに新妻のリンが抗議の声を上げる。だが、ダンはそれを無視してリンの胸を弄ぶ。
 「まだ物足りないんだよ。それにお前のその姿見たら・・・」
 「あふっ・・・だ、だからって・・・」
 寝坊をしたリンはあわてて飛び出してきたので下着一枚にエプロンという挑発的な格好をしている。これを見て発情しない方がおかしい。ダンの手がリンの豊かな胸を弄り、もう片手がエプロンの裾をたくし上げ割れ目を擦りあげる。リンの体がピクリと震える。
 「いい加減にしろ、このエロ狼!!」
 手にしたなべがダンの頭を直撃する。パカーンといういい音があたりに響き渡る。
 「いてぇ!!なにするんだよ!!」
 「それはこっちの台詞だ!これからちびどもの朝食を作らなきゃなんないって言うのに!」
 ダンの家は大家族である。といっても親に見捨てられたライカンスロープの子供たちを引き取って育てているためだった。その数15人。リンが来るまではダンたちが日替わりで食事の準備をしていたが、今はリンが一手にそれを引き受けてくれている。
 「まったく盛りのついた犬じゃあるまいし。昨日の夜、あんなにやったじゃない!おかげで今朝起きられなかったんだからね!」
 「いやあ、昨日は激しかったなぁ・・・お前もあんなに激しく燃えて、求めてきて・・・」
 「・・・・それはいいからさっさと食事準備を手伝って!!!!」
 ダンの一言に顔を真っ赤に染めてリンが大声で叫ぶ。さすがにダンもあわてて食器を取り出したり食事の準備を手伝うのだった。そうこうするうちにガン、ザンやちびどもも起きてくる。リンはガンたちにちびどもの世話を任せると急いで食事の準備を続けるのだった。
 「まったく、予定より遅くなったじゃないの!」
 「俺のせいじゃないだろう?大体昨日の夜求めてきたのは・・・」 
 「うっさい!よけいなこというな!」
 文句を言うリンだったが、手痛い反撃を受けて手短にあったお玉でダンの頭を殴りつけて黙らせる。ちびどもの世話をしながらその口ゲンカを聞いていたガンたちはやれやれと肩をすくめる。
 「あれ?お姉ちゃんたち、またやってるの?」
 「おお、ルン。いつもの日課だよ」
 裏口から大きな洗濯籠を持った少女が入ってくる。一番はやく目を覚まし、一家の大量の洗濯物を洗い、干し終えてきたのだ。ルンは籠を置くと手を腰に当て呆れた顔をする。毎朝のこととはいえよくやるものだと感心する。リンとルンがこの家に来て一ヶ月弱、ダンとリンが結婚してからまだ二週間と経っていない。その間毎朝の恒例の光景となってしまったのだ。
 「ルンねえ、ダンにいまたまけるの?」
 一番のおちびがルンに寝巻を脱がしてもらいながら舌たらずなしゃべり方で尋ねてくる。それを聞いた一同は大爆笑する。毎朝の光景は結果も恒例であった。一番のちびにも分かるほど分かりきったことなのだ。
 「そうだね、お姉ちゃんの圧勝だよ」
 笑顔でおちびの頭を撫でながらルンは自分がよくここまで笑えるようになったと思う。母が殺されたあの日、多くの騎士に姉が陵辱されたあの日、ダンたちライカンスロープに助けられこの地に来たあの日、ルンは心を閉ざしていた。それを解きほぐしてくれたのがライカンスロープの子供たちであった。周りから病原菌のように蔑まされながらも必死に生きる子供たちの姿に感銘を受けたルルは心を開いていった。
 徐々に笑顔を取り戻したルルは姉と共にダンの洗礼を受けた。獣人になれる可能性は低かったが、無事に二人とも獣人病にかかり、獣化できる様になった。同時に振るい名前を捨てるのことにした。リリはリンと、ルルはルンとそれぞれ名前を変えた。更にリンはダンからのプロポーズを受けここに一つの家庭が出来たのだ。それはルンにとってかけがいのない、暖かなものだった。
 「まったく無節操にもほどがあるわよ、貴方は!!」
 「で、ちょっと待て!そのフライパン、どうする気だ!!」
 ダンとリンの喧嘩も最高潮に達したのか、リンが必殺のフライパンを取り出す。この一撃を喰らってダンがKOされれば朝の喧嘩は終わりである。その頃にはちびどもの着替えも終わる頃だろう。そんなことを思っていると、豪快な音、数刻おいて悲鳴が聞こえてくる。いつもと違う状況にルンたちは顔を見合わせる。
 「お姉ちゃん、どうかしたの?」
 あわてて部屋を覗き込むと、そこに広がる光景を目の当たりにして凍りついた。それはフライパンを投げた格好で止まっているリンと、そのフライパンをよけたダン、そしてそのフライパンを顔面に受けた青年の姿であった。
 「や、やぁ、ダン。仕事のことで・・・」
 ポロリと落ちたフライパンの下から鼻血まみれの顔を覗かせながら青年はそこまで言うと後ろに倒れてしまう。
 「で、殿下ーーーー!!!!!」
 その場にいた全員が悲鳴にも似た絶叫を上げるのだった。

 「申し訳ありません、申し訳ありません!!」
 「まったくもてこの不手際、平にご容赦を!!」
 リンもダンも両手をついて土下座して首を垂れる。ソファーに寝かされたエリウスはルンに濡れたタオルを鼻に当ててもらって冷やしている。いつまでも謝り続ける二人にエリウスは笑みを向ける。
 「いや、いいよ。ノックもせずに入ろうとした僕も悪かったんだし・・・」
 「そういうわけには!!」
 なおも食い下がろうとするダンをエリウスは制す。そして首を左右に振るのだった。それを見たダンはそれ以上何もいえなくなってしまう。
 「悪かったと思うなら、僕の依頼をしっかりとこなして欲しい」
 エリウスははっきりとそう言う。ダンたち三人はしかとそれを受けるのだった。
 「ダン、気をつけて行ってきてね」
 リンがダンの裾をつまみながら心配そうに呟く。その顔を見たダンは笑みを浮かべその手を取り、しっかりと握り締めるときっぱりと断言した。
 「大丈夫、必ずお前の元に返るさ」
 「そうさ、義姉さん。俺たちがついているんだ、ダン兄貴に無理はさせないよ」
 ダンの言葉と、ザンの言葉を聞いたリンはようやく納得する。それを見届けたダンたちは新たな戦場へと向かう準備を始めるのだった。シーゲランス軍が国境を超え、攻撃を仕掛けてきたとの報が入ったのは、その準備が出来た数時間後だった。これを受けヴェイス軍はシーゲランスへの報復攻撃を宣誓するのだった。


 「まったく、国境警備隊もろくなことをせん!!」
 男は届けられた報告書をテーブルに叩きつける。報告書を届けてきた兵は縮こまるようにして部屋を辞すのだった。それを見届けると、傍らにいた女性が大きく息をはく男に尋ねる。
 「報告書にはなんと?」
 「国境警備隊がセルビジュ国内に侵攻、撃退されたらしい」
 それを聞いた女性の眉が大きく跳ねる。一部の功を焦った兵が勝手に軍を動かしたために、敵に進軍の理由を与えてしまったのだ。これによりこの国が戦場になる可能性がでてきた。
 「それでヴェイス軍は?」
 「すでにわが国に報復攻撃を宣言して来おった。こうなることが分かっていたかのようなすばやさだな」
 男は感心した様子で唸る。
 「さすがは”操りし者”ということですか?国境警備隊は彼のいいように操られたと・・・」
 「そうだ。奴らに侵攻の口実を与える手伝いをしてしまったのだからな」
 さてどうしたものかと男は考え込んでしまう。今後のヴェイス軍の動きを考えてみる。幾通りかの可能性が考えられるが現実味があるのはひとつしかない。ハルバットはあえてミルドに尋ねてみる。
 「ミルド、ヴェイス軍はどう動くと思う?」
 「おそらく一直線に王都を目指すかとおもわれます、ハルバット様」
 ハルバットに尋ねられたミルドは自分の意見をよどみなく答える。それはハルバットも同様であった。ならばヴェイス軍がまず目指すのはこの第一の関ということになるだろう。ならば敵先陣の構成は森林での行動が得意なダークエルフ族が中心ということになるだろう。
 「そうなると、この関で迎え撃つのが得策か」
 「そうなります。すでに兵には敵の無駄な挑発には乗らないように厳命してございます」
 「さすがだな。手回しがいい」
 ハルバットはそう言うとミルドの腰に手を回して彼女を自分のもとに抱き寄せる。ミルドは抵抗することなく甘えるようにしてハルバットの胸の中に納まる。将軍と副官という二人が男女の中になったのは相当前の話だった。ハルバットは妻子ある身だが、この美しい副官を抱いてしまった。ミルドもまたそれを拒まなかった。
 「お前は本当に美しい・・・」
 ハルバットはそういいながらミルドに口付けをする。お互いに舌を絡めあい、唾液を交換し合う。唾液のいやらしい水音が部屋に響くがそれも二人には心地よかった。ハルバットはキスを続けながらゆっくりとミルドの服を脱がせてゆく。シュルシュルと衣擦れの音が響く。
 「ああっ、閣下・・・」
 服がはらりと床に落ちる。同時にミルドは恥ずかしそうに体をよじる。ハルバットは何も言わずに胸を隠す布をはらりと解く。布が床に落ちミルドの豊かな胸が揺れる。
 「なんて綺麗な胸なんだ・・・ミルドよ、お前は美しい・・・」
 ハルバットはうっとりとした顔でミルドの胸に舌を這わせる。柔らかな弾力を見せる胸とは対照的に、その頂はすでに固く勃起し始めていた。ハルバットは何も言わず、そこを丹念に舐めまわす。
 「ああっ、そこっ!ふああっ・・・閣下ぁ・・・」
 ミルドは甘い声を出して喘ぐ。それに呼応するように乳首は更に硬く勃起してくる。それをハルバットは喜び、更に激しく舌を這わせ、すすり上げ、舐め上げ、歯を立てる。
 「ああん、いい!そこ、そこを、もっとぉ!!」
 ミルドは激しく喘ぎながらハルバットを求め、受け入れる。ハルバットは乳首を舐めたまま、手をゆっくりと背中を這わせ形のいいお尻を揉む。お尻の柔らかさをしばし味わうと、そのまま今度は股の間に手を差し込んでゆく。そこは下着の上からでもはっきりと分かるほど湿っていた。
 「ミルド、ここはもうこんなに・・・」
 「ああっ、恥ずかしいです。閣下・・・」
 ハルバットの言葉にミルドは顔を赤く染めながら手で覆い隠す。そんなミルドの顔を見つめながらハルバットは股間に差し込んだ指をゆっくりと動かし始める。布の上から割れ目を撫でるとすぐに反応を示す。
 「んあっ!閣下、そこは、そこはぁ!!」
 割れ目は更に蜜を滴らせ、ハルバットの指をぬらしてゆく。ハルバットは濡れ具合を確認すると布をずらし、直接割れ目に指を差し込む。そこは蜜で潤いながらも熱い場所だった。
 「ああっ、閣下、閣下ぁぁぁっっっ!!!」
 絶叫するような声を出しながらミルドはハルバットにしがみつく。ハルバットにしがみつくミルドと同じように膣内もハルバットのの指にからみついてくる。その狭さを楽しみながらハルバットはミルドの感じる箇所を次々に掘り起こしてゆく。
 「ふああっ、そこ、そこもぉ!」
 ハルバットにしがみつきその指の動きにすべてをゆだねる。ハルバットの指の動きは更に激しさを増し、ミルドを高みへと導いてゆく。ミルドはそれの増すがままになっていた。
 「ああああっ、閣下、もう、もう!!!」
 ミルドは限界が近いことを告げる。膣壁が断続的に指を締め付けるのを感じていたハルバットもまたそれに気づいていた。だからハルバットは指をさらに激しく動かす。更に蜜が溢れハルバットの手をぬらしてゆく。
 「閣下、閣下ぁぁぁ!!」
 ミルドは絶叫し、ハルバットにしがみつく。体を膣を断続的に痙攣させて絶頂に至ったことを告げる。しばしそのまま放心していたミルドだったが、嬉しそうな笑みを浮べると、腰を落としハルバットの前に座り込む。そして前を解放すると大きく勃起したペニスを取り出すのだった。
 「今度は私がご奉仕しますわ、閣下」
 勃起したペニスを擦り上げながらミルドは陰茎に舌を這わせる。ミルドの舌に反応してハルバットのペニスはピクピクと蠢く。それを嬉しそうに見つめながらミルドは雁首を、鈴口を舐めあげ、ペニス全体を口に含む。
 「んんんっ、んぐ!」
 ペニスに唾液と舌を絡ませながら頭を前後に動かしてゆく。動かすたびに唾液の絡まる音がジュブジュブと部屋に響く。ペニスを覆いつくすような絶妙の感触にハルバットは歓喜の声を上げる。
 「いいぞ、ミルド。その調子だ・・・」
 それを聞いたミルドは更に舌を絡ませ、ペニスを刺激する。口の中のペニスがピクピクと蠢き、限界が近いことを知らせてくれる。それを感じ取ったミルドは更に激しく舌を絡ませ、口を動かす。それに連れてハルバットの呻き声も大きくなり、腰も浮いてくる。
 「うお!ミルド!!!」
 ハルバットが一際大きな声を上げると、口内のペニスが暴発する。熱い粘つく液体が口の中いっぱいに吐き出される。ミルドはそれを飲み下しながら更にペニスに残ったものまで啜りとる。勢いを失ったペニスはチュルンとミルドの口からこぼれ落ちる。唾液と精液の混ざり合った液体が糸を引く。
 「んんっ、閣下の、濃くておいしいです・・・」
 こくりと口の中に残った精液を飲み下しながらミルドはおいしそうな顔をする。口の端からは唾液はとろりと滴り落ちる。それがなんとも卑猥でいやらしかった。ハルバットのペニスはそれに反応するかのように硬さを取り戻してゆく。
 「さあ、ミルド、おいで・・・」
 ハルバットはミルドを招きよせる。ミルドはハルバットの上に跨ると自分で割れ目を開いてハルバットのペニスを招き入れる。ペニスがミルドの膣壁を押し開いて進む。何度ここを貪ってきたことだろう。いまだ飽きることない。ハルバットは妻を今でも愛している。だがそれと同じくらいミルドを愛していた。彼女の子供がほしいと思うほど。そしてミルドもまたハルバットを愛していた。彼のすべてを受け止め、支えるつもりでいた。ハルバットはこれからもこの女を求め続けていくことだろう。
 「ああっんぁぁ!閣下、もう、もうぅ!!」
 ミルドはハルバットにしがみついて限界が近いことを告げる。ハルバットもミルドを抱きしめ力強くペニスを叩きつける。子宮に熱い液体が迸る。ミルドもハルバットも小刻みに震え、高みに達したことを告げる。お互いにそれを確かめ合いながら離れることなく唇を重ねる。
それは明日から始まる激戦を前に、お互いが離れるのを惜しむかのようだった。愛し合う二人を夜の闇が包み込んでゆく。


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