第9話 幻
リューナは走った。もはや人でなくなった自分のことなどどうでもよかった。ただひたすら、妹のことだけを思って駆けた。高位の司祭ならば壊れた心を癒せると聞く。それを出来るものは数が少ない。自分の知る限り三人しかいない。
アルセルムのユーナス神殿司祭、ファーゼルト=ルティアス。
ストラヴァイドのユーナス神殿の光の巫女・アリス=シーラ=ストラヴァイド。
そして・・・
壊れた妹の心を癒すにはその人たちに頼るしかない。アルセルムは遠すぎる。光の巫女は大結界の中。もはや頼るのは一人しかいなかった。そしてその最後の一人に頼るためにリューナはクリフトのもとへと急いでいたのだ。
「大丈夫だよ、リューノ。お姉ちゃんが必ず助けてあげる・・・必ず・・・」
異形の姿を解きリューナは妹を毛布にくるみひたすら走り続けた。クリフトはすでに首都から一日のところまで来ているという噂を聞いたからだ。そこに向けて走っていた。森を抜けた辺りでリューナは走るのをやめる。前方から地響きがしたためだった。あわてて森の中に身を隠す。
「なに?なんなの?」
地響きはどんどん近づいてくる。巨大な何かが歩く音、そしてそれに牽かれる車らしき音。だが、まともな馬車が地響きなど立てるはずがない。息を潜めその正体を見極めようとする。
「え・・・あれは・・・」
リューナはその正体を見て絶句した。巨大な象、エヴィル・エレファント四頭に牽かれた動く城、”魔天宮”であった。こんな非常識なものを扱うのは魔族しかいない。そう判断したリューナは意を決してリューノを抱えたまま木に登ると異形化する。人の姿ではとてもではないが飛び移れないと判断したからだ。
「待ってて、リューノ。もう少し、もう少しだから・・・」
リューナは愛しそうに妹を抱きしめると一気に跳躍する。それは妹を救うための跳躍だった。
”魔天宮”に飛び移ったリューナは警備の兵に取り囲まれたが、クリフトへの面会を強く求めた。最初こそ警戒されたが、セツナの登場で事態は一変した。セツナはリューナへの警戒を解かせると、ついて来るように促した。リューナは妹のためにそれに従う。
「意外に早かったな。もう少しかかるものと思っていたぞ?」
「妹を、妹を助けたいんだ・・・」
振り向くセツナに涙目になって訴える。セツナはそれ以上何も言わず、先を歩いてゆく。リューナが案内されたのは巨大な扉の部屋だった。呆然とするリューナを無視してセツナは扉に手を当てる。
「第八軍副将”五天衆”が一人、”風螂のセツナ”。開門を!」
セツナの言葉に反応するように扉が左右に開いてゆく。セツナはリューナについてくるように促すと、さっさと中に入ってゆく。リューナもそのあとに続いて中に入る。中は大広間であり、正面には玉座が据えられていた。そこには若い男が座りこちらを見詰めている。その後ろには三人の女性が控えめに佇んでいる。
「よく来たな、リューナ」
部屋の中の様子を伺うリューナに声をかけて来たのはクリフトだった。彼は若い男の右側に控え、その後ろにはエリザベートが控えていた。セツナもそこまで移動するとクリフトの後ろに控える。
「どうだった、首都の有様は?」
「・・・ひどいものだった・・・略奪が繰り返され、食料もまともにない。殺し合いさえも日常化していた」
悪化した治安状況をリューナはつぶさに話し出す。女性は慰みものにされ陵辱も日常化していた。そんな狂った街の様子をリューナは淡々と話してゆく。それをクリフトは黙ったまま聞いていた。
「私の妹も・・・お前たちの言っていたことは本当だった。人は欲に狂った生き物だ。私もお前たちに協力させて欲しい。だから、だから・・・」
そこまでいうとリューナは堪えきれずにリューノを抱きしめたまま、その場に座り込んでしまう。クリフトははあと息を吐くとリューナに近寄ってゆく。そして彼女の前にしゃがみこむと彼女の顔を覗き込む。
「俺たちに協力してどうしたいんだ、お前は?」
クリフトの言葉にリューナは顔を上げる。彼らに協力して戦う。そう心に決めてきた。だが、改めて聞かれると答えに窮してしまう。無言のまま妹をじっと見詰める。しばらく考え込んで答えを導き出す。いや、答えは最初から出ていたのだ。それを言葉にしていなかっただけの話だ。
「私は弱い人々を守りたい。妹のような人々を守るものでありたい。だから・・・」
「いい答えだ。こいつを俺の軍に入れるぜ、いいだろう?」
クリフトはそう言って立ち上がると玉座の青年のほうを向き直る。青年は無言のままこくりと頷く。それをみたクリフトは満足そうにすると、もう一度リューナの前に跪く。そして懐から指輪を取り出すと、リューナの左の薬指にはめ込む。
「リューナ、汝は今より第八軍副将”五天衆”が一人、”炎蝗のリューナ”を名乗るがいい」
クリフトにそう宣言されたリューナは指輪を見つめて改めて頷く。
「さてと、副将殿。何か欲しいものはございますかな?」
「妹を、妹の心を癒していただきたい。それ以外は何もいりません」
クリフトの問いにリューナはきっぱりと答える。
「心の癒し・・・か。そいつはアルデラの分野なんだけど・・・あいつ、今ストナケイトと一緒にシンドルテア国境線に残っちまってるし・・」
さてどうしたものかとクリフトは頭をかく。それはリューナにとっても絶望的ことだった。がっくりと力が抜ける。すると玉座の後ろに控えていた少女が一人リューナに近寄ってくる。そしてリューナの前にしゃがみこむと、リューノの頭に手をかざす。
「”癒しの力よ、我が声に答えよ。汝の前に眠りし者の心を癒したまえ”」
力ある言霊が唱えられる。呪文は完成し、リューノが光に包まれる。リューノの顔色が少しよくなってくる。それを見たリューノは妹の体を抱きしめる。わずかずつではあるが先ほどまでほとんど感じられなかった生命の息吹を感じられるようになってきていた。
「心を癒す呪文は一度に効果を発揮しません。この子は私がお預かりして心を癒すとしましょう」
少女は笑みを浮べてそう言う。リューナは温かみを取り戻した妹の体をひしと抱きしめる。そして少女の方を向き直ると、深々と頭を下げ礼を述べるのだった。
「ありがとうございました・・・えっと・・・」
そこまで言った時点でリューナは相手の名前を伺っていなかったことを思い出した。少女の方も名乗っていなかったことを思い出したらしくリューナに自己紹介を始めた。
「申し遅れましたね。私はアリス=シーラ=ストラヴァイドと申します」
「・・・え?ひ、光の巫女様?」
「そう呼ばれていたときもありましたわね。今は十二”巫女姫”が一人、ですが・・・」
思いかけない人物との出会いにリューナは唖然としてしまう。アリスのほうは気にした様子もなくニコニコとしている。すると他の二人も一歩前に進み出ると自己紹介をし始める。
「アリスが自己紹介をして我らがしないわけにはいかぬな。私は剣の”巫女姫”、レオナ=シーン=ストラヴァイドという。以後、良しなにな」
「私は楯の”巫女姫”、シェーナ=ベルヴェット。よろしくね、リューナ様」
二人の名前を聞いたリューナは驚きを隠せなかった。片やストラヴァイドの姫将軍、片やフライゼルト前議長の愛娘、共に有名な人物だった。その人たちが言う”巫女姫”とは何かはわからないが、何か重要なことであることだけはよく分かった。リューナの視線は最後の一人に注がれる。これほどの人々に傅かれるほどの人物である。よほどの大物と言うことは分かった。
「最後は僕だね。エリウス=デュ=ファルケン。以後の活躍、期待しているぞ、”炎蝗のリューナ”よ」
総大将であり、ヴェイスの王子でもあるエリウスが自分の眼の前にいたことを知り、リューナはあわてて傅く。エリウスはそれを静止すると、クリフトのほうに向き直る。
「クリフト、詰めのほうを頼む。シグルドのほうにはすでに指示しておいた」
「OK。ナムを一気に攻め落とす」
エリウスの指示にクリフトは頷くそれを聞いたエリウスは満足そうに頷くと、席を立ち奥に下がってゆく。レオナとシェーナもそれに続く。アリスも、リューナからリューノを受け取ると彼女を連れてエリウスの後についていってしまう。後に残されたリューナはリューノのことを思い起こしながら、決意に満ちた表情で立ち上がる。
「クリフト様、これからどのようになさるおつもりですか?」
作戦の内容を聞かされていないリューナはクリフトに尋ねる。するとクリフトはセツナに指示しナムの都の地図を作戦台に広げさせる。
「我々の目的はあくまでサンゼルアの打倒だけだ。一般市民を巻き込む戦いは避けなければならない」
「ですが、サンゼルア配下の兵たちは町のいたるところに分散して立て篭もっておりますが・・・」
実際にナムの街をみてきたリューナから意見が出る。もちろんそのことは承知の上だった。そのことについてクリフトから作戦の内容が明らかにされる。
「そんな策で・・・うまくいくのでしょうか?」
話を聞いたリューナは驚きを隠せなかった。作戦には博打的要素が強いように思えた。だが、クリフトはそれを信用していた。エリウスのたてた策に間違いがないことを、そして仲間たちの実力を。
「リューナ。悪いがうまくいくかではない。うまくいかせるのが、我々の仕事だ」
その言葉を聞いたリューナははっとなる。誰かがことをなすのを待っているのではない。自分から行動を起こし、それを達成する。それは他人任せにしない決意だった。リューナもその決意を胸に秘める。
「さてと、俺たちも行くとしようか・・・」
「ねえ、クリフト。わたしも一緒に行っていいかしら?」
移動しようとするクリフトたちに頭上から声がかけられる。謁見の間の天井の梁に一人の妖艶な容姿の女性が座っていた。もちろんそれはオリビアだった。
「かまわないけど?どうしたの積極的じゃないか、いつもと違って」
いつもと違うオリビアにクリフトは肩をすくめながら尋ねてみる。内部工作を主任務とする彼女が前線で戦いたいなどいつもならばありえないことであった。
「あの男には貸しがあるからね」
オリビアはそういいながら天井の梁から飛び降りてくる。相当な高さがあるが、オリビアは何事もなかったかのように見事に着陸する。あの男とはサンゼルアのことであり、貸しとは自分の申し出た取引のことだろう。彼にそでにされたことが相当腹が立ったようだった。
「まあ、いいか。苦しむのは俺じゃあないし・・・」
気楽なことを言いながらクリフトは謁見の間から出てゆく。そのあとにリューナ、セツナ、エリザベートが続く。オリビアはクリフトたちが部屋から出てゆくと、翼をはためかせて空に舞い上がる。そして夜の闇に消えてゆくのだった。
セルビジュ王都・ナム。切りたった崖と鉄壁を誇る城門に守られた城塞都市。この城壁の外に妖魔突撃隊が武器を手に集結しつつあった。第八軍の妖魔兵団が押し寄せる波のごとく城壁に取り付いてくる。数に劣るセルビジュ側は城壁から石などを落としてこれに対抗した。
「さすがに鉄壁の城塞都市ってことか・・・」
クリフトは感心したように状況を見つめながら、次々に指示を出してゆく。
結局昼過ぎまで妖魔兵団は何度となく突入を試みることとなる。だが、そのことごとくを跳ね返されいまだ城壁を突破することはできずにいた。向こうの攻撃は届き、我々の攻撃は届かない。一方的な展開に負傷者の数も増える一方だった。もちろんそれも計算のうちだった。
「そろそろ時間、だな」
クリフトは太陽に目をやるとそう呟く。太陽がその時間を告げたかのように切り立った崖の上に誰かの姿が映し出される。第三軍大将軍・シグルドだった。その後ろには第二軍一万騎が控える。
「いよいよだな・・・恐れるな!!我らの勇気をこの一線に!!!」
シグルドはそう叫んで仲間を鼓舞すると、身を躍らせ一気に崖を下り始める。そのあとに第二軍が続く。ケンタウロス、騎兵で構成された第二軍がこのような場所から突撃してくるなど誰が想像しただろうか。切り立った崖を馬で駆け下りようなどと、自殺行為に等しかった。
「ゆけええ!!」
そう叫びながらシグルドは見事に崖を駆け下りる。その様はとても絶壁を駆け下りているようには見えなかった。平地を駆けるのと変わらぬ様で駆け下りてゆく。そして見事崖を下りきるのだった。その雄姿に鼓舞された第二軍の騎士団もそれに続く。
第二軍も何騎か崖から転げ落ち絶命したが、それでもそのほとんどがシグルド同様見事に城内に降り立つ。崖からの奇襲を受けた場内は騒然とし混乱に陥る。一部の部隊が城門に取り付き、かんぬきを解放する。
「よし、一気に攻め落とすぞ!ただし一般市民には被害を出すな!!」
クリフトの号令一過、妖魔兵団が開け放たれた城門をくぐって街中に侵入する。数に劣るセルビジュ軍にもはや勝ち目はなくなっていた。ヴェイス軍による総攻撃が始まった。
「第二軍は通りで守りを固めるものたちを討つ!続け!!」
騎槍を手にシグルドは壁を気づいて立てこもるセルビジュ軍の部隊に突撃する。鮮やかに土嚢の壁を飛び越すと中に立て篭もる者たちの真ん中にひらりと着地する。そして鮮やかな槍捌きで一人、二人と敵兵を倒してゆく。混乱するセルビジュ兵に追い討ちをかけるように他の騎士たちも飛び込んでくる。
壁を破壊して敵を一掃すると、シグルドは次の目標に向かって駆け出す。そのシグルドに向かってセルビジュ軍騎兵隊が攻撃を仕掛ける。シグルドはその攻撃を鮮やかにかわして槍を一閃させ敵を討ち取ってゆく。
「やるねぇ、シグルドのおっさん。これは負けてられねえかな?」
シグルドの活躍を目の当たりにしたクリフトは妖魔兵団を指揮して建物に潜む敵兵のあぶり出しに取り掛かる。扉を突き破り中に突入すると、中に潜む敵兵を見つけ出してゆく。抵抗するものは容赦なく反撃させ、降伏したものは縄をかけて捕縛させることを全軍に徹底させた。
「こりゃ、楽勝かな?」
セルビジュ軍を圧倒し制圧する光景を見つめながらクリフトは満足そうに頷く。その彼の背後から三人の騎士が武器を構えて襲いかかる。三人の剣がクリフトの首を、背中を、腰をとらえる。が、彼らが切り裂いたものはクリフトの残像に過ぎなかった。
「そんなに殺気撒き散らしてたら、奇襲なんてばればれだって」
クリフトは彼らの背後に回りこむと呆れたように言う。騎士たちがあわてて振り向いたときにはもう遅かった。クリフトの細剣が三人の喉を正確に刺し貫く。三人はクリフトとの実力の違いを痛感しながら絶命するのだった。
「まあ、街中はこんなものだろう。あとはあいつら次第だな」
クリフトは細剣に着いた血を拭うと城の方に視線を移す。陽動としては十分すぎるほど成果を果たしたのだ。あとは彼女たちにすべてを託すことにした。
セルビジュ王城・フライゼル。城内は魔族の城壁突破の方に大混乱に陥っていた。急ぎ城を封鎖し魔族の侵攻に備える。サンゼルア指揮下の騎士たちが右往左往して警戒に当たっていた。
「さてと、これからどうしましょうか」
闇に紛れて五人の人影が城内の様子を伺う。オリビア、リューナ、セツナ、エリザベート、そしてドワーフの少女・アンナであった。五人はリューナの知る抜け道を通って城内に侵入したのだ。計画通り、クリフトとシグルドの二人が率いる二軍が城外で騒ぎを起こしてくれたおかげで城内は大混乱となっている。
「オリビア様。我々は王子の身柄を・・・」
「オッケイ。そっちは三人に任せた。こっちはリューナ、あんたが付いて来なさい」
セツナの意見にオリビアはあっさりと同意する。リューナもそれに同意すると、五人は闇に紛れると、二組に分かれて行動を開始する。
セツナ、エリザベート、アンナの三人は地下を目指した。捕らわれているナルアム王子の身柄の確保。それがクリフトから厳命されたことだった。だが、地下に続く階段は厳重に警備されていて、戦わずに進むことは出来そうになかった。セツナは舌打ちをする。
「仕方がない。出来れば戦闘は控えたかったが・・・」
「そんな余裕はなさそうですわね」
「一気に決めよう」
三人はお互いに顔を見合わせるとこくりと頷く。そして胸元に手を当てると大きく深呼吸をする。
「「「魔素解放!!!」」」
三人は同時に叫ぶ。体内に蓄積された魔素が解放され、三人の体が変体して行く。セツナは蟷螂に、エリザベートは蜂に、アンナは甲虫に変体して行く。変態し終えた三人は各々の武器を手に階段の踊り場に飛び出してゆく。
「なっ!?て、敵襲!!」
「遅い!!!」
三人の姿を認めた兵が騒ぎ立てる。その兵も次の瞬間にはセツナによって両断されていた。セツナは双刀を抜き放つと敵兵の中心に駆け込んでゆく。すばやい動きで敵の攻撃をかいくぐりながら、確実に相手の急所を切り裂いてゆく。セツナの動きについてゆける敵兵は皆無であった。
「セツナにばかり気を取られていると痛い目見ますわよ!」
エリザベートの弓がその合間を縫うようにして敵兵を射抜く。正確に急所を打ち抜いてゆく。セツナよりも先にエリザベートを倒そうと、彼女に殺到するが、その行く手をアンナが遮る。
「バカ正直につられやがって!みんなまとめて吹き飛びな!」
甲虫(♂)の姿になったアンナは自慢の大槌を遠心力をつけて振り回す。エリザベートに殺到した敵兵はそれをかわすことはかなわなかった。その一撃を喰らった数人が、一瞬にして血と内臓と骨を撒き散らして肉塊と化す。その一撃に他の兵が驚き、動きが止まったところをセツナとエリザベートが次々と討ち果たしてゆく。
「この”土甲のアンナ”の大槌を喰らいたい奴はいないかい?」
アンナは大槌を振り回しながら大見得を切る。アンナの一撃もそうだが、この三人の隙のないコンビネーションに敵兵の戦意は完全に崩壊していた。武器を放り出して逃げ出してゆく。
「なんだよ、もう終わりかよ!?」
アンナはつまらなそうに辺りを見回す。すでに辺りには敵兵の姿はなく、逃げ出す兵をセツナたちは無理に追いかけるつもりはなかった。武器を納めると三人は急ぎ階段を下りてゆく。
城の地下三階、日も射し込まないところに重罪人用に牢がある。三重の鍵をかけ、決して脱走できないように厳重な警備が常に敷かれているはずだった。しかし今はその警備は一人もいない。先ほどの戦闘を聞きつけ、すでに非難してしまったようだった。
「何だよ、つまらねえ。もう少し骨のある連中かと思ったぜ」
アンナはブツクサ文句を言いながら扉に手を掛ける。同時に罠が発動し、無数の槍がアンナに降り注ぐ。しかし、一本として彼女の甲を貫くことはかなわなかった。降り注ぐ槍のすべてが彼女の甲に弾かれる。
「なんだよ。こんな罠しか用意してねえのか?」
アンナは鼻で笑いながら扉を鍵ごと引っこ抜く。扉を背後に放り出すと部屋の中に足を踏み入れる。一歩進んだところで歩みを止める。
「おい、やられたみたいだぜ?」
「分かっている」
アンナは中を覗き込みながら後ろの二人に声をかける。セツナとエリザベートもあたりに視線をめぐらし警戒している。人ではない何かの気配を感じ取っているのだ。
「くだらない罠をかけますわね」
エリザベートが嘆息をつくと同時に階段が鉄格子によって封じられる。逃げ場を失った彼女たちをあざ笑う声が響く。見ると階段から一人の男が降りてくるところだった。
「魔族とは相当バカな連中のようだな。こんな単純な罠にかかるとは」
男は完全にセツナたちをバカに仕切っていた。セツナたちのほうはあわてず辺りを見回している。
「で、これからどうするつもりだ?言っておくが我らに毒物は効かぬぞ?」
「それくらいこちらも承知の上ですよ。あなた方の処刑はこいつらの担当です」
男はそういいながら壁に隠された仕掛けを作動させる。セツナたちの左右の壁とアンナの正面か壁が開き奥から獣をいくつも合成したような生き物が姿を現す。それを見てもセツナたちは動揺しなかった。
「キメラか・・・」
「こんなもの、どこから持ってきたのやら・・・」
壁の奥から現れた怪物に驚きもせず、逆にあきれ返っていた。そんなセツナたちの態度に男は激怒する。
「お。おまえら!何をそんなに余裕持った振りしているんだ!怖いなら怖いと・・・」
「この程度の出来損ない、怖くもなんともありませんわ」
「まったくだな。とはいえ遊んでいる時間ももったいない。全力でつぶすぞ」
男の怒鳴り声をエリザベートは鼻で笑って答える。セツナはさっさと終わらせたいらしく全力でいくことを宣言する。その言葉にアンナが喜びの声を上げる。
「おい、全力出していいのか?」
「かまわん。どうせ、王子は自室に監禁されているのだろう?ならここを崩壊させてもなんら問題にならん」
アンナの言葉にセツナは平然と答える。驚いたのは男の方だった。
「な、何故、お前らが王子の居場所を・・・」
「説明する必要はあるまい?という訳だ、リューナ。王子の救出はお前に任せた」
”了解。みんなも気をつけて”
セツナの念話に上の階を行くリューナが答える。念話は特殊な訓練が必要だが、融合人間同士ならば遠く離れてもお互い話をすることができる。それを使ってリューナに王子の身柄確保を任せ、自分たちはキメラ退治に専念するのだった。
「さてと・・・本気でぶっ潰してやる!!」
大槌を構えると、大きく息を吸う。それと同時に大槌も変形を始める。四つに分解し、その中央に力場が発生する。それはどんどん大きくなり、力を増してゆく。
「くらいな!重爆弾!!」
アンナは大槌を振りかざすと、それを思い切り振り下ろす。あんなに襲いかかろうとしていたキメラがその一撃に飲み込まれる。轟音と激震。先が見えないほどの土煙。なにが起こったのかわからなかった男だったが、土煙が晴れるとそこに肉塊と化したキメラを見て驚愕するのだった。
「まあ、この程度かな?」
アンナは満足そうに頷くと、元の形に戻った大槌を肩に担ぐ。
「まったく、アンナはもう少し優雅に戦えませんの?」
エリザベートはアンナの方に目をやると思わず呟いてしまう。そして溜息を漏らす。
「まあ、戦い方は人それぞれ。そこまで強要いたしませんわ」
エリザベートはそう言うと左手の弓をかざす。針の部分が中に引っ込み、穴が開く。
「Come On! My Slaves!!」
エリザベートの言葉に答えるように穴から無数の針のようなものが飛び出してくる。その針たちはエリザベートに傅くように彼女の周辺を飛び回る。エリザベートが手を横に払うとその針たちは一斉にキメラに群がる。鋭い針はキメラの体を切り裂き、貫く。一斉に無数の針に襲われたキメラはなす術がなかった。あふれ出す血は止まることを知らず、キメラの足元に大きな血だまりを作り出してゆく。そしてついにはその上で絶命するのだった。
「エリザベート。我も汝の戦い方に文句はつけんが、あまり綺麗とはいえぬぞ?」
セツナはエリザベートがキメラを倒すのを確認すると、自分も準備に取り掛かる。両方の刀を手の部分に納めると、代わりに背中から大太刀を取り出す。それを腰ダメに構えると、キメラを睨みつける。
「南無阿弥陀仏・・・閃夢舞刀・一閃!!」
それが男の聞いた最後の声だった。次の瞬間には男の視界は左右に割れてゆく。その視線の先ではキメラが同じく真っ二つにされ崩れ落ちる姿と、ゆっくりと大太刀を鞘に収めるセツナの姿だった。セツナに居合い切りは、キメラのみならずその後ろにあった鉄格子、さらにはその後ろの男までも真っ二つにしたのだった。
「さてと、ここに長いは無用。さっさといくとしよう」
セツナの言葉にエリザベートもアンナも頷く。三人は身を翻した階段を駆け上がってゆくのだった。
「どけえ!!邪魔をするなぁ!!」
王子の部屋へと急ぐリューナの前にはサンゼルアの親衛隊がぞろぞろと進行方向を邪魔する。それらを蹴り砕き、蹴り潰してきたのだった。それでもまだたくさんの騎士が王子の防衛に回っているのだった。魔素で変身し、姿が分からないとはいえ、かつての仲間と戦うのはリューナにとって少し気後れすることだった。
「決して魔族を王子のもとに行かせるな!!」
彼らは不退転の決意で望んでくる。そんな彼らにリューナは複雑な思いでいっぱいだった。”人間など滅べばいい。”妹をぼろぼろにされたリューナは一度はそう願った。それは人間の邪悪な暗黒面を見てしまったからだった。だが、今自分の眼の前で自分に戦いを挑んでくる者たちは純粋にこの国のために命を欠けている者たちだった。
(何故、そこまで純粋になれるの?)
彼らの思いをリューナは理解していた。かつての自分のように守りたいものを守る。そのために彼らは戦っているのである。自分の誓い”弱気者を護る。”その誓いと同じように。リューナにはそんな純粋に国を思う彼らの姿は懐かしくもあり、目障りな存在でもあった。
(どうしたらいいの?)
リューナの中の迷いが次第に大きくなってゆく。このまま戦い続けていいものか、それとも彼らを説得するべきか。いや、説得はダメだろう。異形のものの言葉など彼らの耳には届かないだろうから。ならば、ここは王子には手を出さずに引くべきか。様々な考えが頭の中をよぎりリューナの心を乱してゆく。迷いは動きに顕著に表れる。
「せいやあああ!!」
気合のこもった騎士の一撃がリューナに迫る。間一髪でかわせたが、動きが鈍くなっているのが自分でもよく分かる。このままではまずいと思いながらも、自分の進む道を模索していた。
”リューナ、聞こえますか?リューナ”
焦るリューナの脳に直接誰かが語りかけてくる。聞き覚えのある優しい声であった。
「アリス・・・様?」
”そうです。今、エリウス様を通して貴方に語りかけています。迷う貴方に助言をしたくて”
アリスの言葉にリューナはどきりとする。遠く離れているのに彼女には自分の心のうちが読めるのだろか。そんな疑問が頭をよぎる。だが、アリスはそんなリューナの考えを無視して話を進める。
”私が貴方に言えるのはただ一言。自分の決めた道をたがえないで下さい。ただそれだけです"
アリスの言葉がリューナの心を穿つ。何を自分は迷っていたのだろうか。自分が滅ぼせばいいのは自分が見たような腐りきった者達だけでいいはずである。彼らのような信念を持った者たちを殺す必要などないではないか。簡単な答えだった。そのためにこの強大な力があるのだから。
「ありがとうございます、アリス様。このリューナ、迷いが晴れました」
リューナはアリスに礼を言う。もはやリューナに迷いはなかった。自分の信じたことをなす、ただその想いだけだった。セツナたちも同じ思いなのだろう。彼女たちにしても人間にひどい目に合わされようともそのすべてが悪とは思っていないだろう。それでも戦えるのは自分たちの戦いに信念を持っているからだ。
「私も戦う!リューノのような者たちがもうでない様に!!」
自分の想いは固まった。リューナは大きく後退すると、息を吐く。体が軽くなった気がした。
「お前たちの信念と我が信念、どちらも尊ぶべきもの。だが、我は負けるわけにはいかぬ!」
リューナはそう言うと大きく跳躍する。跳躍の瞬間、魔弾を開放する。その勢いを借りて天井まで飛び上がる。そしてもう一度天井で魔弾を開放し、超スピードで騎士たちの中心を強襲する。リューナの蹴りが床に炸裂するとそこを中心に爆発が起こる。爆風に騎士たちは吹き飛ばされ、壁に強かに叩きつけられる。
「双天舞脚・爆・・・」
リューナはスッと立ち上がりながら技の名を呟く。彼らの命を奪わずに戦闘不能にするにはこの技しかなかった。リューナは騎士たちが動けないことを確認する。
「すまない。お前たちに望み、叶うよう私も努力しよう」
それだけ言うとリューナは更に奥を目指して駆け出す。目的地である王子の部屋が見えると、一気にその扉を蹴破った。中に飛び込んだリューナはそこで目を見張った。数人の男が三人の少女に群がる光景。おそらく王子付きの侍女たちだろう。皆裸に剥かれ、男たちの欲望の慰み者にされていた。
「貴様ら!!」
怒りに満ちたリューナは男たちに容赦ない攻撃を加える。リューナの登場にあわてて剣を取ろうとする男たちの頭を確実に蹴り砕いてゆく。十秒と経たずに男たちは頭を吹き飛ばされて床に転がった。
「貴様らのような輩が、先ほどの騎士たちの思いを踏みにじるんだ」
動かなくなった騎士たちにそう吐き捨てると、リューナは侍女たちの元に駆け寄る。彼女たちの目はすでにうつろで、焦点が合っていない。口からはよだれと精液をだらしなく滴らせ、ヴァギナとアナルからもとめどなく精液があふれ出している。何度も何度も容赦なく注ぎ込まれた結果だろう。
「うへへへっ・・・もっろ・・・もっろ、おちんぽぉ・・・しぇいえきちょーらい・・・」
いまだに男の性器を求める彼女たちをそっとリューナはゆっくりと近づく。そしてその首筋に手刀を叩きつける。三人は短くうめくとそのまま気絶する。
「大丈夫。貴方たちも・・・」
気絶した三人を抱きしめながらリューナは囁くように三人に話しかける。そして床に寝かしつけると上からマントをかけてやる。三人の回復を祈りつつリューナは部屋の奥へと進んで行く。部屋の奥のベッドの上には一人の少年が大きなぬいぐるみを抱きしめながらおびえた瞳でこちらを見つめている。
「ナルアム王子・・・でございますね?」
丁寧に尋ねると、少年は怯えきった様子でがたがたと震えながら小さく一度頷く。その怯え方を見たリューナは仕方がないと思った。自分の目の前で繰り広げられる陵辱劇。嫌がる侍女たちがケダモノたちに教われる光景。部屋中に響く悲鳴を、嬌声。それらをずっと見聞きしてきたのだ。そこに異形の者が来ればもう王子には限界だろう。
「大丈夫です。私は貴方様の味方です」
リューナは変身を解きナルアムの前に跪く。それでもまだナルアムはおびえた顔で彼女を見つめている。リューナはその髪を撫でてちゃると彼をスッと抱き上げる。いつまでもここでゆっくりしているわけには行かなかった。
「貴方様をこれより我らが主の下にご案内します」
ナルアムは怯えてはいたが、悲鳴も上げず、嫌がる仕草も見せなかった。逆にリューナにしがみついてくる。本能的に自分を守ってくれるものが分かったのだろう。それを確認するとリューナはセツナたちと合流すべく駆け出した。後のことはオリビアに任せて・・・
王の間。絶えることなく騎士が出入りしていたこの部屋も今は誰も入ってくるものはいない。出てゆくものもいない。ただ一人玉座にサンゼルアがイライラと顔をゆがめたまま座っていた。先ほどまでここに届けられた報告が彼を苛立たせたのだ。
「くそ!ここまでうまくいったのだぞ?たかが魔族の襲撃を何故抑えきれない」
魔族侵攻に対して、彼はまず捨石を国境線に配備した。リューナたちの部隊のことである。自分に反旗を翻しかねない面々で構成し、置き去りにしたのである。その間に革命は成功し、魔族侵攻に対抗できるはずであった。ところが魔族は自分のたてた策の裏を見事についてくるのだった。
「冗談ではない。私以上の策士など・・・」
いまだ書く目の成功が自分の手腕によるものと思い込んでいたサンゼルアは次々と齎される魔族の動きに苛立ちを隠せなかった。そしてついには場内に進入されたとの知らせが入り、彼の怒りは爆発した。側近の兵たちに当り散らし、わめき散らした。勝てないのは自分が無策だからではなく、自分の指示通りに動かない騎士たちが悪いと言い出したのだった。自分のことを棚にあげてわめき散らすサンゼルアに側近たちも辟易とし、さっさと王の間から出て行ってしまった。
「くそ、くそ、くそっ!!」
ぎりぎりと歯軋りをしながら怒りを露にする。そして手元にあった鎖をぐいっと引く。鎖に引かれて一人の全裸の女性が玉座の後ろから姿を現す。首には首輪をはめられ、鎖で逃げられないようにつながれていた。そのままサンゼルアの前に引きずり出された女性はクリサリアであった。
「おい、クリサリア。舐めて俺の怒りをおさめろ!!」
「・・・はい・・・ごしゅじんさま・・・」
果てることなきサンゼルアの暴行と陵辱にクリサリアの精神は完全に崩壊してしまっていた。完全にサンゼルアの奴隷と化し言いなりとなっていた。クリサリアはサンゼルアの前に傅くと、前を広げてペニスを取り出す。すでに大きくなったペニスを指で撫で上げると、丹念に舐め上げてゆく。
「もっとちゃんと舐めろ!!」
鎖を引いてクリサリアにもっとちゃんと舐めるように強要する。クリサリアの方はご主人様の命令に懸命に舌を這わせ、口に含み、扱く。ピクピクと脈打つ感触を舌で確かめながら、手を、舌を使ってご主人様にご奉仕する。いつしかサンゼルアの腰は浮き、限界を迎えていた。
「くう・・・いくぞ!ちゃんと飲め!!」
サンゼルアはそう言うとクリサリアの口の中にいっぱいの欲望を解き放つ。吐き出される精液をクリサリアは懸命に飲み込もうとするが、量が多すぎたため、むせ返ってしまう。口からはみ出したペニスからまだ精液があふれ出し、クリサリアの顔を髪を白く染める。
「ふうぅぅ・・・よかったぞ。後始末はちゃんとしろよ?」
サンゼルアの命にクリサリアは素直に頷くと、射精を終えて勢いを失ったペニスにまた舌を這わせ、ペニスに残った汁を舐め取ってゆく。ペニスを綺麗にする行為を満足そうに見つめていたサンゼルアであったが、違和感を感じ始める。射精したばかりのペニスがまた元気を取り戻し、射精を訴えているのだ。
「お、おい!クリサリア!!」
フェラチオを止めさせようとクリサリアに訴えようとするが、どうにも体が動かない。それどころか、声を出すことすらままならない。その間にもペニスはクリサリアの舌捌きに絶頂へと登りつめていった。二度目の液体をクリサリアの口内に大量に吐き出す。クリサリアはそれをおいしそうに飲み下してゆく。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
短時間での連続射精にサンゼルアの呼吸は荒かった。それでもまだサンゼルアの体に自由は戻らず、しゃべることすらままならなかった。クリサリアも口を離そうとはせず、ひたすらペニスを嘗め回し、すべての精を放出させようとしていた。耐え切れず、三度目の射精のときを迎える。
「ご主人様、もっと、もっとたくさん出してくださいね」
クリサリアは妖艶に微笑みながらサンゼルアを誘惑する。その笑みにサンゼルアは身震いしながら、クリサリアの為すがままになっていた。その舌使いを満喫し、心のそこから快楽を堪能するのだった。そして心は闇に落ちてゆく。どこまでも、どこまでも・・・
「まったく、楽勝ね、こんなくずの始末・・・」
サンゼルアの頭の上に寝そべりながらオリビアはそんなことを言う。彼女の指はサンゼルアの右のこめかみに食い込んでいる。オリビアの侵入に気づかなかったサンゼルアは、彼女の見せる淫夢に飲み込まれ、今自分が何をしているのか、どんな状態にあるのかさえ分からなかった。ただひたすら快楽の闇に落ちてゆくのみだった。
「まあ、私たちの役に立ったんだけら、いい夢でも見ながらイきなさい。永遠に・・・ね」
オリビアはそう言うとこめかみから指を引き抜く。サンゼルアは糸の切れた人形のように力なく崩れ落ちると、そのまま倒れ付してしまうと、二度と起き上がることはなかった。ただ、フルフルと体を震わせ、時折射精する、ただそれだけだった。オリビアが見せる永遠に覚めることのない淫夢。その夢に体が反応しているのだった。
「さてと、ごみの始末はついたし、あとは貴方ね・・・」
オリビアは倒れたサンゼルアには目もくれず、背後に声をかける。そこにはすでに心の壊れたクリサリアがぶつぶつと何事か呟きながら座り込んでいた。そんなクリサリアの前にしゃがみこむと、オリビアはその顔に舌を這わせ、優しく口付けをする。
「眠りなさい。そして・・・」
ゆっくりとクリサリアの瞳が閉じてゆく。クリサリアの瞳が完全に閉じるのを確認したオリビアは唇を離し、怪しげな笑みを浮べる。そして彼女を抱えあげると、闇の中に消えてゆくのだった。
戦闘が終結したのはそれから数時間後のことだった。
そして・・・その晩・・・
魔天宮奥の間。エリウスの寝所で淫らな宴が繰り広げられていた。エリウスの腰の上でアリスが大きく踊る。アリスのヴァギナをエリウスのペニスが蹂躙し、かき回す。エリウスの腰の動きに反応したヴァギナは蜜を滴らせて喜びを表す。アリスの口からも何度となく喘ぎ声が漏れる。
「エリウス様、エリウスさまーー!」
エリウスがアリスを突き上げる度にアリスは歓喜の声を上げる。そんな二人をレオナとシェーナは少し離れたところからじっと見つめていた。そんな二人に挟まれる格好でナルアムが裸で弄ばれている。
「まったくアリスったらあんなに喘いで・・・」
「アリス姉様、本当に気持ちよさそう・・・」
エリウスに愛されるアリスの痴態を見ながらレオナとシェーナは口々に感想を漏らす。その間も二人の手はナルアムの性感を撫で回し、刺激する。
「うあ・・・ああああっ・・・」
初めて味わう性感にナルアムは抵抗できずに、二人の為すがままになっていた。レオナの手がナルアムのペニスに触れる。一際大きく体が反応を示す。
「あら、まだ皮を被ったままでも初々しい反応を示すのね」
レオナはそう言いながらまだ包皮に包まれ剥き出しになっていないペニスを撫でまわす。その度にペニスが大きく震える。徐々に硬さを帯び、大きく反り返る。
「へえ、一人前に反応を示すんだ。おもしろい・・・」
「レオナ姉様。遊んでちゃダメですよ。そろそろ・・・」
「そっか。もうそんな時間なんだ」
見ればアリスはエリウスにしがみつき、快楽を貪っていた。もう限界が近いのか、二人の動きは激しさを増し、嬌声も一際大きくなる。それを見たレオナは納得してナルアムのペニスに顔を近づける。そしてそれを口に含むと舌を使って舐めまわす。
「ああ、お姉ちゃん・・・そんなこと・・・」
震えながらナルアムは拒絶の意思を表す。味わったことのない快感がナルアムに襲いかかる。皮の上から裏筋などを舐めていた舌がいきなり皮の内部に割り込んでくる。皮と亀頭の間に唾液を流し込むようにすると、レオナはぐっとペニスに力を入れる。するとレオナの力に答えるように、ずるりと包皮が剥け、赤い亀頭が姿を現す。
「ああ・・・い、いたいよぉ・・・」
目に涙を浮べながらナルアムは呻く。そんなナルアムの呻きを聞きながらレオナはペニスを口に含む。まだ剥けたばかりのペニスがピクピクと口の中で踊る。
「一気に剥いたからね」
レオナは優しく嘗め回しながらペニスを軽くつつく。そしてそれが最大限まで大きくなっているのを見ると、ゆっくりとナルアムを跨ぐ。自分の割れ目の下にナルアムのペニスが来るように調節すると、ナルアムの下腹部と自分の割れ目でペニスを挟み込むようにして擦り上げる。
「ああっ・・・な、なに・・・いまびりびりって・・・」
「ふふっ、気持ちよかった?」
荒い息をしながら喘ぐナルアムを見つめながらレオナは何度もペニスを割れ目で擦りあげる。
「わぁ、レオナ姉様のアソコから溢れた蜜でナルアム君のおチンチン、ビショビショです」
割れ目に擦られるペニスを覗き見ていたシェーナがそんなことをいいながらペニスの鈴口を指先でつつっとなでる。それが発射の合図であった。ナルアムの腹の上に白い液体が発射される。それを確認するとレオナはナルアムの上から退く。ナルアムはペニスを痙攣させながら初めての絶頂にただ呆然とするだけだった。
「うーん。そろそろ大丈夫のようね」
「そうみたいですね、一気に抜いちゃいましょう」
レオナとシェーナはナルアムのペニスをじっと見つめるとそんなことを言って顔を見合わせる。お互いに頷きあうと、ペニスを握り、ナルアムの下腹部に手を掛ける。指でそっと肌を撫でると、少しずつ肌が捲れてくる。それを何度もやっているうちにペニス自体がポロリと抜け、その下から女性器が顔をのぞかせる。
「やっぱり人工性器だったようね」
呆れた顔で抜き取ったペニスを見つめながらレオナは呟く。
「でも不気味なものですね。ちゃんと射精まで出来るなんて・・・」
「まあ、誰がやったかなんて大体想像がつくけどね」
まだ手の中でビクビクと脈打つ人工ペニスを見つめるレオナにアリスを絶頂に導いたエリウスが近寄ってくる。アリスのほうは満足した顔で寝息を立てて散る。エリウスは体をナルアムの近くまで移動させると、彼女を抱き起こす。ナルアムはまだ顔を赤く染めたまま、ぼうっとしていた。
「それはさておき、そろそろ始めようか。準備は出来ているみたいだし」
ナルアムの股間に指を這わせたエリウスはそこが十分に潤っていることを確認すると、彼女の腰を引き自分のペニスの真上に持ってくる。そしてゆっくりとナルアムの腰を落とす。
「ひあああっ!!」
まだ硬さの残る秘肉をこじ開けてエリウスのペニスがナルアムの膣内に侵入する。狭い膣壁を押し広げ、初めての証を突き破る。いかに濡れていようとのそれは激痛である。ナルアムはエリウスにしがみつきそれから逃れようとする。エリウスも彼女の背中を撫でて落ち着かせようとする。
「いたかったかい?」
エリウスの問いにナルアムは声も鳴く何度も頷く。声を出すのもつらいらしい。仕方なくエリウスはそのまま動かず、ナルアムの痛みが引くのを待つ。徐々にナルアムの呼吸が整ってくるのを確認してから、ゆっくりとあまり刺激しないように注意しながら動き始める。
「うくっ・・・いう・・・ああっ・・・」
少しでも激しく動くと痛みを訴えるので、あまり激しくは動けない。それでもナルアムの締め付けは強くペニスを断続的に締め付けてくる。
「動けないのはつらいでしょう?エリウス様」
「私たちがナルアムの痛みを和らげてあげます」
それまで口を挟まなかったレオナとシェーナが割り込んでくる。二人はナルアムの体を抱くと、そのほぼ膨らみゼロの胸に口づけする。ナルアムの体が小さく震える。何度も何度も口付けを繰り返し、体を刺激すると、ナルアムの口からはいつしか痛みの声は消え、喘ぎ声に変わっていた。
「もう、大丈夫みたいだな」
ナルアムの反応を見たエリウスは少し強めにペニスを突きたてる。それに対して痛みを訴えないことをみると、強めに腰を動かし始めるのだった。まだ初めて男を知ったばかりの膣はエリウスのペニスをぎりぎりと締め付け、膣壁をすりあげる動きはナルアムを高みへと押し上げる。
「ひぐっ!ああっ!んああっ!!」
徐々に喘ぎ声も大きくなる。それにあわせるようにエリウスの動きも早くなってゆく。そして一際強く子宮をたたいた瞬間、熱い液体がナルアムの子宮に注ぎ込まれる。同時にナルアムの体も大きく震え、一際大きな声でなくと、そのままぐったりとしてしまうのだった。
「イったみたいだね。それで・・・と」
気を失ったナルアムを抱き起こすとエリウスは、はめられた首輪を覗き込む。赤い宝石の部分に竪琴の紋章が浮かび上がっていた。
「”竪琴の巫女姫”か・・・」
それを確認したエリウスは息をつく。ここまで順調に”巫女姫”を集められるとは思わなかったからだった。同時に裏で動く”九賢人”の動きも気になる。おそらく今回ナルアムの股間に人工性器を取り付けたのも”九賢人”のうちの誰かなのだろう。
「まだまだ、楽観視できないってことかな?」
エリウスは天井を見上げながらポツリと呟くのだった。
暗闇の中、三本目の燭台に灯がともる。その炎を見つめながら男は薄ら笑いを浮べる。すべて自分の思い通りにことが運んでいることがおかしくてたまらなかった。
「我がこの世を支配するときは近いな・・・」
薄気味悪い笑みを浮べながら男は中央に安置された棺桶を見つめる。それが開放される日を夢見て今はおとなしくしていることにした。そしてその日が早く来ることを願うのだった。
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