|
第１１話 森林
国境線を超えたヴェイス軍は圧倒的な力でシーゲランス国境警備隊を撃破する。元々シーゲランス国境警備隊はストラヴァイド光国がセルビジュ、サーナリアに侵攻した際、本国への侵攻の足止めをするのが主任務であった。
だが今回はヴェイス軍のセルビジュ侵攻を察知できず、セルビジュへの侵攻を許してしまった。これを何とかしようと焦った国境警備隊長はセルビジュに侵攻。ヴェイス軍にあっさりと蹴散らされてしまった。しかもこれを理由にヴェイス軍のシーゲランス侵攻を許す結果となってしまった。
国境線でセルビジュで隊列を組みなおしたヴェイス軍と真っ向からぶつかることになった。元々数に勝るヴェイス軍に国境警備隊は散々たる敗北を喫し、撤退するしかなかった。
「まあ、こんなところか・・・」
妖魔兵団と激突し散り散りになってゆく国境警備隊を見つめながらエリウスは満足そうに呟いた。いつも移動に使っている魔天宮は今回は使えないため馬上からの観戦となっている。
「これでシーゲランスと本格的戦闘に入るわけだ」
エリウスは気を引き締めなおすと、近くに控えたクリフトに指示を与える。
「クリフト、ダンたちに伝令！早急に第一の関に進軍、これを落とせと伝えよ！」
「了解、了解！」
クリフトはエリウスの指示を受けると近くの伝令にダンたちに今の言葉を伝えるように指示する。伝令は頷くとすぐに姿を消す。ダンがダークエルフ狩人部隊を率いて第一の関を目指したのはそれから数分後のことだった。
「アレが、第一の関・・・か」
第一の関から数百メートル離れた地点からダンたちは関の様子を伺う。関の中は兵たちが迎撃の用意をしているらしく騒々しい。だからといって迎撃に関の外に出てくるようなことはしなかった。
「あいつら、こっちの挑発には乗ってこないんだろう？」
一緒に関の様子を伺っていたダークエルフの狩人に尋ねてみる。彼はこくりと頷く。これまで何度かダークエルフが森の中から弓を射て挑発して撤退してみたが、一人として彼らを追ってこようとはしなかった。森の中が彼らのテリトリーであり、自分たちにとって不利であることを知っているのだ。
「さてさて、どうしたものかな？」
ダンは笑みを浮べる。ハルバット将軍とミルドが歴戦の将であることはエリウスから聞かされている。彼らを外におびき出して戦力をそぐ策に出たが、どうやら見破られているようだった。もしその策が破られたときの次善の策はすでにエリウスから授けられている。考えるまでもない。
「それじゃ、行きますか」
ダンはそう言うとにやりと笑う。今晩はちょうど満月の夜。今晩の襲撃が最適であった。ダンはそのことをダークエルフの部隊に告げる。かれらは即座に行動を開始する。
「それじゃあ、ザン、ガン。一気に攻め落とすぞ！！」
ダンが宣言すると後ろに控えたザン、ガンもそれに呼応する。夜まであと数刻、ならば待っている必要はない。ダンたちは行動を開始するのだった。
「敵の動きは？」
「散発的に攻撃を仕掛けてきますが、すぐに撤退しますのでおそらくは挑発かと」
ハルバットは報告を聞きながら満足そうに頷く。やはり予想通りヴェイス軍は森の中での戦闘を望んだようだった。こちらを挑発し、森の中に引きずり込もうとする意図が手に取るように分かる。その挑発には乗らず、関で守りを固める策が最善であった。逃げてきた国境警備隊の残存兵にもこのことは徹底させている。
「戦力差をいかにカバーするかだな」
この関を護る兵は1万に満たない。敵はこの何倍もの兵力で押しつぶしに来ることも考えられる。。それに対抗するには関で護りに徹し、森を天然の関に使って反撃するしかなかった。
「今夜は満月、月明かりが強いな・・・」
明かりがあることは兵たちにとっては心強い。篝火と月明かりがあれば、十分に戦うだけの明かりを得ることが出来る。それを考えれば相手がダークエルフでも対抗できるように思えた。そんな中遠くで悲鳴が聞こえる。ハルバットはあわててミルドを引き連れてその場に駆けつける。
「どうした、何があった！？」
「見張りがやられました！それと篝火が！」
報告を受けたハルバットは辺りを見る。確かに篝火が倒れ火が消えかかっている。そのそばには矢が転がっている。おそらくこれで倒されたのだろう。まずいとハルバットは思った。明るさという利点を敵はまず奪おうとしているのだ。ならば早急に対策をとる必要があった。
「篝火の警護を！それから倒れた箇所は即刻復旧させよ！急げ！！」
ハルバットの命を受けた兵は急いで関のあちこちに散ってゆく。残った兵は新しい薪を持ってくると、残り火をその薪に移して新しく火をつける。だが闇に紛れたダークエルフは正確にその死角をついて篝火を倒してゆく。消えてはまた熾す。お互い無駄な労力をしばし続けることとなった。
「妙だな？」
ハルバットはこの状況に首をかしげる。無駄に同じことを繰り返しているだけで他に何かしてくる気配がない。こちらがじれるのを待って一斉攻撃でも仕掛けてくるのかとも思ったが、その気配も無い。相手の意図がつかめなかった。だからといってこちらから動くのも危険である。
「どうします、閣下。このままでは・・・」
「わかっている・・・何が狙いだ？」
考え込むハルバットは篝火にやっていた目を動かす。その視線がふと、物見櫓で止まる。そこで相手の意図をようやく掴むのだった。
「しまった！奴らの本当の狙いは見張りのほうだ！！」
守りと視線を篝火に集中させている間に、歩兵が物見櫓に乗り移り見張りを始末する。そのあとは一斉攻撃ということだろう。ハルバットはその意図を読み取り敵の攻撃に備えるよう指示しようとした。しかし、時すでに遅かった。怒号のような声が辺りから響き渡る。一刻置いて雨のような矢が降り注ぐ。
「くう！遅かったか！？」
降り注ぐ矢を剣で払い落としながらハルバットは悔しがる。もう少し早く気づいていたならばこんなことにはならなかっただろう。すでに見張りはやられ、ダークエルフの弓兵たちが関の上を制圧しているのだろう。そこからこれだけの矢を射ているのだ。
「閣下！敵歩兵どもが！」
ミルドの言葉にハルバッドは辺りを見回す。何人かの歩兵が接近戦を挑みこれを討ち果たしていっている。いくらダークエルフとはいえ背後から奇襲をかけ、複数人で一人に襲い掛かる。非力なダークエルフを相手に接近戦を仕掛けるにしても、出遅れたこちらの方が圧倒的に不利である。次々と兵たちは討ち取られてゆく。
「仕方がない！全軍に通達！関の入り口まで後退！そこで迎え撃つ！」
ハルバッドの指示が全軍に伝えられる。とはいえこの指示をどれほどの兵が聞いているだろうか。完全に相手の奇襲が成功した形である。多くの兵が討ち取られ、怪我をし、捕虜となったことだろう。それを思うとハルバッドは自分に腹が立った。
「ミルド！後詰は任せた！」
「畏まりました、閣下！」
ハルバッドの命を受けたミルドは最高峰に回り、追ってくるダークエルフの兵を討ち取ってゆく。広い場所でミルド級の戦士を相手にしてはダークエルフの戦士などに勝てる見込みなどなかった。
「へへっ、少し出遅れたおかげで上玉に出会えたみたいだな」
ミルドの背後から嬉しそうな声が響く。あわてて振り返るとそこには一人の少年が立っていた。年のころは１７．８歳、、しかしミルドには見覚えのない少年だった。何よりシーゲランス軍の鎧を着ていない。だが、ヴェイス軍の鎧も着ていない、正体不明の少年であった。
「貴様、何者だ？」
ミルドは突然現れた少年に警戒を緩めなかった。出で立ちもそうだが、何よりもその両手が彼女の警戒心を掻き立てた。武器などもってはいない。だが、その両手は血にまみれていた。おびただしい血が附着し、地面に滴り落ちている。素手で人を殺せる者、ミルドはそう判断した。
「何者・・・か・・・まあ、敵ってことだけは確かだな」
少年はにやりと笑うと、一気にミルド目掛けて跳躍する。ミルドはその一撃を楯をかざして受け止める。強烈な衝撃と共に数メートル吹き飛ばされる。かろうじて転倒はしなかったが、楯は大きく曲がって使い物になりそうになかった。ミルドは仕方なくその楯を捨てる。
「へえ、今の一撃もかわすのか・・・こいつはますますいいのが残ってたぜ！」
少年は嬉しそうに笑みを浮べる。今の一撃を見ただけでも並みの戦士ではないことが十分に分かる。ミルドは指で後詰を担当する兵に合図を送る。合図を受けた兵は一斉に弓を持ち、少年めがけて射る。無数の矢が少年に襲い掛かるがこれをあっさりと回避してしまう。
「この・・・くだらねえこと、してんじゃねえよ！！！」
少年は大声で吼えると兵の一人めがけて飛び掛る。弓を射る時間もあたえないほど鋭い動きだった。間合いに入った少年の回し蹴りが兵の脇腹に食い込む。骨の砕ける音がしたあと、兵は数メートル先まで吹き飛ばされ、動かなくなる。月明かりのもと、立ち上がった少年の姿は人ではなかった。二足歩行するトラ。そう形容するのが一番しっくり来る姿だった。
「ワータイガー・・・獣人か？」
ミルドは彼の正体を知って驚きの声を上げる。まさかこんなところにライカンスロープがいるなどとは思わなかったのだ。今のままでは味方は全滅しかねない。ライカンスロープのスピードに一般の兵ではついていけないし、何より彼らに有効なダメージを与える武器を彼らは持っていない。
「お前たちはさがれ！この男に普通の武器は効かん！」
ミルドは一般の兵を下がらせると愛用の剣を構える。副官に任じられたときにハルバッドに送られた銀製の一品である。これならばこの男にもダメージを与えることが出来る。腰を落として少年の攻撃に備える。
「やっぱりあんたいいぜ。瞬時に戦況を見つめられる目。なかなかじゃねえか。そうか、あんたがミルドって副官か。エリウス様が警戒するだけのことはあるな」
少年は嬉しそうに笑いながらミルドを見つめている。その笑顔は本当に嬉しそうであった。おそらくここに来るまで彼が本気で戦える相手はいなかったのだろう。
「一応名乗っておくぜ。オレは獣人族のガンだ！」
少年はそう叫ぶとまたしてもミルドめがけて跳躍する。今度はミルドも落ち着いて対応する。あの丸太で殴りつけるような攻撃を喰らっては一たまりもない。落ち着いて相手の動きを見極めぎりぎりのところで攻撃をかわす。
「すげえな、アレをかわすか！」
ガンは嬉しそうに叫ぶと、右足を軸に反転し裏拳をミルドめがけて繰り出す。その一撃をしゃがみこんでかわしたミルドの頭上ぎりぎりのところをガンの裏拳ががかすめる。ガンの胸元がミルドに晒される。ミルドはそこを狙わない愚か者ではなかった。力のこもった一撃が突き出される。
「くらえぇぇぇぇ！！！」
気合のこもった声と共に鋭い一撃がガンを襲う。ぎりぎりのところで体を捻ってかわす。胸元に一筋赤い筋が通る。うっすらと赤く染まり、血が滴り落ちる。
「銀製の剣か。ますますやりがいがありそうだ」
ガンはそう言うと、バックステップで少し距離をとると、構えなおす。ガンがさがったのを見るとミルドも構えなおす。相手がライカンスロープであることを除いても、相当のてだれであることが分かった。同時に自分の中にわくわくする思いが芽生えてくる。
（私はこの戦いを喜んでいる？いや、まさか・・・）
ミルドはしばし自問する。そのわくわくの正体はすぐに分かった。強敵と戦える喜びだった。久しぶりに全力で戦える喜び、それがミルドの心に芽生えてきたのだった。ミルドは大きく一つ深呼吸をする。
「この男をこのままにしておくわけにはいかぬな」
気分を落ち着けると剣をガンに向けたまま腰を低く落とす。今度はミルドの方がガンめがけて跳躍する。矢のような鋭い一撃がガンめがけて繰り出される。その一撃をぎりぎりでガンはかわす。かわすと同時に後ろ回し蹴りを放つ。これをミルドは華麗なステップでかわす。まるでお互い踊っているような攻防であった。
（この男、強い・・・もし、このまま持久戦に持ち込まれたら・・・）
ミルドが恐れる第三の理由、それが持久力であった。このままガンの攻撃を受け続けた場合、確実に自分の方が先にへばってしまうだろう。勝負を決めるならば一瞬、ミルドはそう判断した。
「この一撃に・・・」
先ほどよりも更に深く腰を落とす。先ほどを上回るスピード、鋭さを持った一撃ならばガンを倒すことも出来るだろう。この一瞬にすべてをかけることにした。それをガンも感じ取っていた。腰を更に低く落として次の一撃に備える。お互い動くことが出来ないまま、時が流れる。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
お互い無言のままじっと相手の隙を窺う。相手のわずかな動きに反応しけん制しあう。一瞬の隙が命取りになることがお互い分かっていたから気を抜くことが出来なかった。
長き睨み合いの末、先に浮いたのはガンの方だった。我慢しきれなくなったガンは大きく跳躍する。ミルドは剣を引いてこれを迎え撃つ。頭の中はガンの次の行動を考える。対してガンは一切小細工無しに突っ込んでゆく。ここにわずかな差が出た。
「くう！しまった！！」
先の行動を読もうとするあまり、突きが一拍遅れる。それを見逃すほどガンもおろかではない。ミルドの突きをかいくぐり、ミルドの腹部に一撃見舞う。強烈な一撃にミルドは意識がそこで途切れる。くの字に曲がったミルドを支えながらガンはホッと息をつく。
「やれやれ、危ねえところだったぜ・・・」
気を失ったミルドを肩に担ぎながら頬に手を触れる。すっぱりと一直線に裂け、血が滴り落ちていた。もしあの時、ミルドの行動が一拍遅れていなかったら自分の顔面に剣が叩き込まれていたことだろう。
「まだまだ、俺も精進が必要ってことか。」
ミルドを担ぎ上げるとガンはそんな独り言を言いながらその場を後にするのだった。
関の宿営地まで後退したハルバッドはその残存兵の少なさを確認し、悔しさに唇を噛み締めていた。もう少し早く相手の動きを察していたらここまでの被害は出なかっただろう。
「こちらの土俵で戦っていたつもりだったのだがな・・・」
ハルバッドはため息をつく。敵の挑発には乗らず、関で撃退することに専念させていたはずが、逆に相手に攻め込まれることになろうとは思わなかった。いや、そのことは念頭に置いてあったはずだった。しかし、この数日の挑発行動にいつしかその警戒は解けてしまっていたらしい。
「そのことに私自身も気づかなんだがな・・・」
うまくのせられたものだとハルバッドは感心した。自分の意思で行動したつもりが、いつの間にか相手の手の平で踊らされている。これが”操りし者”の実力ということなのだろうか。何よりも恐ろしいのはそんなことを微塵も感じさせない策の立て方、それを寸分の狂いもなく実行できる敵の力量だった。
「だからといってこのままこの関を明け渡すわけにはいかぬな」
すでにこの襲撃は第二の関以降に伝達されている。ここで自分がなさなければならないことは、少しでも敵を道連れにすることだった。副官のミルドが戻らないことは心配だったが、敵もこれ以上待ってはくれないだろう。今この関に残っているものたちは志願者だけである。
「たとえこやつらを倒しても・・・」
敵の先陣を倒してもその後ろには数万の妖魔兵団が控えている。これを相手にして生き残るのは不可能なことだった。だから志願者だけ残し、志願しなかった者たちには第二の関までけが人を搬送させている。残ったのはわずか１００名弱。それでもハルバッドはやるつもりでいた。
「閣下、準備整いました！」
「よし！皆のもの、討って出るぞ！妖魔どもを一体でも多く道連れにしようではないか！！」
ハルバッドの言葉に残った兵は歓声を上げて答える。ミルドが傍に控えていないことは痛かったが、彼女ほどの手だれがそう簡単にやられるとは考えられない。無事生き延びていることを信じ、ハルバッドは剣を手に討って出た。
「うおおおおおおっっっ！！」
ハルバッドは剣を振るいダークエルフを次々と討ち取ってゆく。１対１の肉弾戦ならば、ダークエルフに後れを取るようなことはない。だが徐々にダークエルフの他にもゴブリンやコボルド、オークなどの妖魔たちの姿が混じり始める。
「関が破られたか・・」
妖魔が姿を見せ始めたのは敵の主力が関を破った証拠だろう。ならばここが落ちるのも時間の問題だろう。それでもハルバッドは引く気はまるでなかった。
「すごいな、この負け戦でそこまで戦えるとは」
剣を振るうハルバッドに感心したような声がかけられる。声のしたほうを見るとそこには二人の男がハルバッドを見つめていた。ハルバッドはその二人が強敵であることを肌で感じ取っていた。
「ザン、手を出すなよ。こいつの相手はオレがする」
「わかった。気をつけて、兄貴！」
ザンはダンにそう言うと一歩うしろにさがる。ダンは無言のまま大きく息を吸い込むと頭上の月を見つめる。満月の効力か、体中に力が満ち溢れてくるのを感じる。体は体毛に覆われ、鋭い牙と爪が生えてくる。
「狼？ライカンスロープか？」
「ご名答。ワーウルフのダンだ！相手してもらうぜ、おっさん！」
変身を終えたダンは拳を構える。ハルバッドもこの強敵の登場に改めて構えを取る。ダンは無造作に地面を蹴るとハルバッドめがけて突進する。それを迎撃しようとするが、寸でのところで姿が消え、剣は空を切る。あわててハルバッドは構えなおすが、すでに背後に回ったダンの回し蹴りがわき腹を捉えていた。
「ぐうううっっ！」
鈍い金属音と共にハルバッドの体は大きく吹き飛ばされる。何とか持ちこたえたハルバッドだったが、わき腹の激痛に片膝をついてしまう。
「数本持っていかれたか・・・」
わき腹を押さえながらハルバッドは溜息を漏らす。ダンのスピードに完全に対応し切れなかった。パワーも敵のほうが上だろう。ならばこちらは技で応戦するしかない。ハルバッドはそう思いながら立ち上がり、剣を構えなおす。
「へえ、あの一撃を耐え切ったか。たいていの奴らはこの一撃で動けなくなったのに・・・」
ダンは感心したような眼差しでハルバッドをみつめる。ここに来るまで何人もの兵と戦ってきたが、その全員が今のような一撃を受けて動かなくなってしまったことにダンは苛立ちを覚えていた。もっとまともに戦えるものと戦いたい、ダンの願いはそれだった。今その願いがかなおうとしている。
「おっさん、あんたがハルバッド将軍かい、もしかして・・・」
ダンの言葉にハルバッドは無言のままうなずく。それを見たダンはうれしそうに笑い出す。強敵の出現、それが嬉しくてたまらなかった。指を鳴らして舌をぺろりと舐める。対するハルバッドのほうはやや余裕はなかった。
（さて、どうしたものかな？）
基本的身体能力ではライカンスロープの方が上回っている。スピード、パワー、生命力、どれをとってもずば抜けている。付け入る隙があるとすれば大振りになる技を受けきってそこを返すしかないだろう。それもほんの一瞬のこと。返しきれなければこちらの負けである。
（それでもやるしかあるまい！）
ハルバッドは覚悟を決める。それを見たダンも真剣な表情に変わる。二人の一騎打ちの迫力に飲み込まれるように周りの戦闘は収まり、静寂があたりを包み込む。誰かの息を呑む音が聞こえてきそうなほどの静けさ。そんな中で二人はお互いの隙を窺っていた。じりじりと歩み寄りながら間合いを測る。
「しゃっ！！」
ハルバッドの隙を見つけたのかダンが気合のこもった声と共にダッシュする。ハルバッドは冷静にこれを迎え撃つ。鋭い右膝がハルバッドの腹部に襲い掛かる。それはフェイント、おとりだった。ダンの右膝がハルバッドにはかすりもせず、行き過ぎる。勢いを殺さずに一回転して上段蹴りを放つ。
「うらぁぁぁぁっっ！！」
ダンの全力の一撃がハルバッドに見舞われる。ハルバッドは楯でその一撃を受け止める。鉄のひしゃげる音と骨の砕ける音。耳障りな二つの音が響き渡る。ダンの一撃で完全にハルバッドの左腕は使い物にならなくなった。
「肩まで砕かれたか・・・しかし、この隙はのがさん！」
痛みをこらえてハルバッドは剣を突き出す。鋭い一閃がダンに襲い掛かる。大技を繰り出し、体勢の崩れたダンにはよける術はなかった。この一撃でハルバッドの勝利が決まるはずだった。肉を切り裂く音と共に、鮮血が中に舞う。ハルバッドの剣はダンを深々と突き刺していた。そう、ダンの左腕を・・・
「よけられねえなら、こうするまでだ！」
ダンはにやりと笑う。左腕を犠牲にして相手の攻撃を封じる。自分がつい今しがたダンに見せたカウンターを逆にダンに見せ付けられた格好になった。ハルバッドはあわてて剣を引くが、びくともしない。ダンが筋肉を引き締めて剣を動かなくしているのだ。
「これで終わりだぜ、おっさん」
ダンの言葉にハルバッドも観念した。左腕は使えず、剣も封じられた。もはやどうすることも出来ない。たとえダンの攻撃をよけたとしてもその後がもう続かないだろう。ならばハルバッドに残された行動は１つだけだった。顔を上げ全軍に撤退命令を出そうとする。そこで彼の表情が凍りついた。その目に背後からダンを弓で狙う兵の姿が映ったのだった。
「や、やめ・・・」
一騎打ちに敗れたこの状況で背後から攻撃させたなどとなれば自分の名に傷が付く。ハルバッドはあわててその兵を止めようとした。だが、それよりも早く矢は放たれた。銀の鏃。ライカンスロープに致命的ダメージを与える武器。それが狙い外さず、ダンの心臓に吸い込まれてゆく。鈍い音とともに鮮血が舞う。
「・・・・・ザ・・・・ザン！！」
背後を振り向いたダンはその眼の前に熊の姿を見とめるのだった。ライカンスロープ化したザンがダンの代わりに矢を受けたのだった。深々と心臓に矢が食い込んでいる。完全な致命傷だった。ゆっくりとスローモーションでザンが倒れふす。弓を射った兵は会心の一撃に歓喜したが、直後ダークエルフ兵に斬殺されるのだった。
「ザン！おまえ、なんで？」
「兄貴の・・・ダンの兄貴の役に立ちたかったんだ・・・」
あわててザンを抱き起こすとダンはザンを問い詰める。するとザンは弱々しくぼそぼそと話し始める。
「まだ小さかった俺たちをダンの兄貴は必死に面倒を見てくれた・・・傷だらけになって・・・ぼろぼろになって・・・俺たちを、身寄りのないチビどもを・・・」
そんなダンの姿がザンにとって憧れであり、誇りであった。
「だからいつかダンの兄貴と一緒に戦える日が来るのを楽しみにしていたんだ・・・こうやって兄貴の役に立てる日が来るのを・・・」
ザンは嬉しそうに微笑むと大量の血を吐き出す。目にはもう何も映っていない。そんな弟をギュッとダンは抱きしめた。弟を助けられない自分の無力さを呪うのだった。
「兄貴・・・チビどものこと・・・大切・・・に・・・」
そこまで言うとザンは事切れた。力を失った手が地に落ちる。
「ぐうううう・・・・ガアアアアアアアア����！！！！」
ダンはザンの体を抱きしめて絶叫する。その雄たけびは大気を震わせるのだった。
「まさか、ダンの封印が解けたのか？」
その雄たけびを聞いたエリウスは声のするほうを見つめながら険しい顔をする。それを見たレオナが馬を近づけてくる。アリスやシェーナたち馬に乗れない”巫女姫”たちは馬車を仕立ててある。
「エリウス様、ダンの封印とは？」
「ダンは絶滅したといわれる銀狼種だ」
エリウスの言葉にレオナは目を見張る。銀狼種はその特殊性と美しさから乱獲され、絶滅したといわれていた種族である。その生き残りがいたのである。驚き以外なかった。
「だが、まだ自分にはそれを制御しきる力がないとわかっていたらしくてね。僕に銀狼の能力を封じさせていたんだよ。それが今解けた・・・」
エリウスは心配そうに声のしたほうを見つめる。もし力の制御が出来なければ敵だけではない。味方まで虐殺してしまいかねない強大な力だ。そしてそれは己さえも。
「嫌な予感がする・・・」
エリウスはポツリと呟くとそちらの方に馬を走らせようとする。それをレオナが阻止する。銀狼には銀の武器が通じない。倒すには魔法しかないが、その魔法も効き目が薄い。竜族や魔神に近い種族なのである。
「お待ち下さい、エリウス様。危険です、お近づきになりませぬように」
「退いてくれ、レオナ。ダンを止めなければ、余計な犠牲が・・・」
「だからといってエリウス様を危険な目に合わせるわけには参りません！」
力のこもったレオナの一言にエリウスは黙り込むしかなかった。おそらくここで言い合っていてもレオナは引く事はないだろう。ならば時間の無駄である。だからといってこのままダンを放置しておくわけには行かなかった。仕方なくエリウスはセツナを傍に呼び寄せる。
「すまない、セツナ。ダンの身に何かが起こったらしい。彼を殺さずに押さえ込めるのは君しかいないからね」
「畏まりました。ようは意識を奪えばよろしいのですね？」
「ああ。体の傷はすぐに直せるからね。加減はしなくていいよ」
エリウスの言葉にセツナは頷くと、雄たけびのした方角を見つめる。そして嬉しそうな笑みを浮べるとそちらに向かってかけてゆくのだった。
雄たけびのした場所に着いたセツナが見た光景は地獄そのものだった。敵、味方関係なく攻撃する銀毛の狼。その破壊力は圧倒的で、一撃で鎧ごと肉体を破砕してしまう。あたり一面血に染まり、ぐちゃぐちゃに破裂した死体がそこかしこに散らばっていた。
「これほどとはな。なかなか楽しませてくれる」
セツナは生存者がいないか確認する。唯一生きているのは全身の骨を砕かれた騎士だけだった。近寄ってみるとまだかすかに意識があった。
「ほう？まだ生きておられたか。だが、その傷では・・・」
「ああ。もう長くはないだろう・・・」
近寄ってきた少女を見上げながら騎士は荒い息のまま彼女の言葉に答える。ほぼ全身の骨が砕け、助かる見込みはほぼなかった。それは本人もよく分かっているようだった。
「救援のために来られた方か？」
「そうだ。我が軍師様は彼のものをまだ失いたくないと仰られてな」
「そうか・・・私からも頼む・・・あの者を助けてくれぬか・・・」
そう言う騎士の顔をセツナは怪訝そうな表情で見下ろす。敵である男を助けろなどとおかしなことを言うものだと思ったのだ。その表情に気づいたのか騎士は話を続ける。
「彼がああなったのは私の部下の責任。彼のは殺戮者としてではなく、偉大なる戦士として名を残してほしいのだ、このハルバッドに勝った者として・・・」
「そなたがハルバッド将軍か・・・なるほど、軍師様が気に入られるだけのお方だ」
ハルバッドの言葉を聞いたセツナは何かに納得したようだった。そしてそれ以上何も言わず、視線をダンの方に向ける。腰を落とし構えを取る。
「まあ、軍師様の許可は得ている。少し痛い目を見て眠るがいい」
セツナは変身すると一気にダンとの距離を詰める。新手の登場にダンは猛獣のごとき雄たけびを上げてこれを迎え撃つ。ダンの高速の一撃をかわすとセツナの掌底があごを捉える。普通の兵ならば顎の骨が砕け散りそうな一撃を受けてもダンは少しのけぞるだけだった。
「確かに素晴らしい素質だ。だが・・・」
セツナはそのままのけぞったダンの右腕を捻り上げ、そのまま引き倒す。右肩の子抱ける音が響く。更に追い討ちをかけて両足に腕を絡め、そのまま回転する。鈍い音を立てて両膝が折れる。立つ力を奪われたダンは低く唸りながら、それでも上体を持ち上げセツナに襲い掛かろうとする。その後頭部にまたしても掌底が叩き込まれる。
「いかに素質があろうとも、それを使いこなせねばただの犬だ！」
意識を失い沈黙したダンを軽々と方に担ぎ上げながらセツナは肩のダンに言い聞かせるようにそういった。もちろん本人が聞いていないことは百も承知の上である。
「素晴らしい腕前だな」
ダンを一瞬にして無力化したセツナの腕前を見ていたハルバッドは感心したように呻く。
「これが父より授けられし無手の武術」
「いい技を最期に見せてもらった。貴方の名前を聞かせてもらってよろしいかな？」
「”風螂のセツナ”と申す」
セツナの名前を聞いたハルバッドは納得したように頷くと目を閉じる。自分の最期が近いことを肌で感じていた。
「セツナ殿。ダン殿に伝えてくれませぬか。貴方の弟を奪いしは我が不徳なり。言葉では謝り尽くせぬが、我が命でご容赦いただきたい、と」
「畏まった」
セツナの返事を聞くとハルバッドは満足そうな笑みを浮べる。ミルドのことや、家族のことは心配だったが、もう自分にはどうすることも出来ない。今戦ったものたちの心根を信じるしかない。
（ミルドよ、先に逝くことを許せ・・・）
心の中でミルドに謝るとハルバッドはそのまま息を引き取った。これによりシーゲランス帝国第一の関は陥落したのだった。関中に勝利を告げる雄たけびが響き渡るのだった。
（ここは・・・）
両腕を縛られた状態でミルドは目を覚ます。辺りは暗く、周りには柵まである。どうやら時間帯は夜、簡易の牢屋に入れられているようだった。麻のようなものが下に引かれているがごつごつした石の感触が痛く感じられた。雄たけびのような歓声が聞こえるところから関からはそれほど離れてはいないのだろう。
（あの歓声・・・関は落ちたのか・・・）
とてもあの状況で関を守り通せたとは思えない。今のミルドに出来ることは、ハルバッドが無事関を脱出していることを願うだけだった。
「目が覚めたみたいだな・・・」
洞窟の入り口から少年が入ってくる。先ほど戦ったガンという名の少年だった。すでに獣人の姿ではなく、少年の風貌に戻っていた。だが、その表情には悔しさが滲んでいた。とても戦いに勝利した側の人間とは思えない表情だった。その疑問が口につく。
「何をそんなに悔しそうな顔をしている。勝ったのはお前たちの方だろうが・・・」
「ザンの兄貴が殺された・・・お前らの仲間に・・・」
ミルドの疑問にガンはそのわけを教えてくれる。それを聞いたミルドは馬鹿なことを言っていると思った。これは戦争だ。戦えば死ぬこともある。そんな覚悟も無くこの少年は戦場に赴いているのだろうか、そんなことを思っていた。だがそれは間違いだった。
「戦って負けたなら悔しくねえ。だけどな、この関の大将と一騎打ちしているダンの兄貴を背後から殺そうとしてそれをかばって死んだんだ。分かるかよ、この悔しさが！！」
ガンの言葉にミルドは衝撃を受けた。関の大将とはハルバッドのことに間違いはないだろう。一騎打ちの背後から手を出すなど許されることではない。ハルバッドがそれをさせるわけはなく、ハルバッドの騎士の誇りを傷付けるものであり、帝国の名を貶めるものに他ならなかった。
「そんな・・・ばかな・・・」
「なんでなんだよ、ちくしょう・・・・」
咽び泣くガンにミルドは何も言ってやることが出来なかった。咽び泣く少年を見つめながらミルドはただ愕然としているだけだった。
目を覚ましたダンが最初に目にしたのは、自分の顔を覗き込んでいるリンだった。
「よかった・・・目を覚ましたのね？」
「オレは・・・ぐおぉぉ！！」
ホッとした表情を浮べるリンにダンは体を起こして尋ねようとして、激痛に襲われる。とてもではないが起き上がれる状態ではなかった。
「暴走した貴方をおとなしくさせるために体の各所の骨を砕いたそうよ。くっつけたそうだけど、まだ痛みはあるだろうって」
リンに説明されたダンは自分が何をしたのかを思い返す。ザンが殺され、目の前が真っ暗になってからは何も覚えていない。ただなんとなく両手が生暖かい何かで染まってゆく感触だけは覚えていた。
「オレは・・・銀狼化したのか？」
「そうらしいわよ。ほら」
リンはダンの質問に答えると鏡を彼の眼の前に差し出す。鏡を覗き込んだダンは自分の髪が銀色に染まっているのを見た。間違いなく銀狼の毛並みだった。自分が何をしたのかも思い当たった。それを思い起こすと自虐的になってしまう。
「ザンを・・・」
「え？」
ポツリと呟いたダンの声がリンにはよく聞こえなかった。聞き返すとダンは目に涙をためて言葉を続ける。
「ザンを護ってやれなかった。弟を護ることがオレの役目だったはずなのに・・・」
ダンの悔しそうな顔を見てリンはなんと声をかけていいのかわからなかった。ただ無言のままそっとダンの頭を抱きしめてやる。
「ザンのためにもこの戦い、早く終わらせないとね。そして私みたいな人を一人でも減らせるように」
リンの言葉を聞いたダンは視線を彼女の方に向ける。リンもまたザンの死を悼んでいるのだ。ここに来てまだ日はさほど経ってはいない。それでもかわいい弟であったことに変わりはなかったのだろう。
「ありがとう、リン・・・」
「どう致しまして・・・」
礼を言うダンに満面の笑みで答えたリンはダンの唇にそっと口付けをする。しばらくお互いの唇を貪りあった二人だったが、やがてそっと唇を離す。
「今日は私がやってあげる」
リンは優しくそう言うと、ダンの布団をめくり上げる。そしてズボンを脱がせると、むき出しになったペニスを両手で擦り上げ始める。その手の動きに反応してペニスは徐々に硬く、大きくなってゆく。雁首や鈴口を撫で上げるとビクビクと震え、更に硬く、大きくなってくる。
「ほら、もうこんな・・・」
大きくなったペニスをうっとりとした顔で見つめながら、リンはペニスに舌を這わせる。暖かく、柔らかな感触がダンの脳を刺激する。陰茎を二度、三度舐め上げると、先端から透明な液体が滴り落ちてくる。それを舐めとると、今度は亀頭全体を口に含む。
「んくっ、んんっ・・・んんんんっ」
舌を絡め亀頭を雁首を刺激する。リンの口からくぐもった声が漏れる。徐々に唾液がペニスに絡まりいやらしい音を奏でだす。唾液が絡まるに連れリンの口の動きは早くなり、音も大きくなってゆく。
「はぅっ！リ、リン・・・もう・・・」
「ぷはぁぁぁ、いいよ、このまま出しても・・・」
口に含んでいたペニスを一度出すと、リンは限界の近いダンにそう答える。そしてもう一度口に咥えなおすと更に激しく口を動かしてペニスを啜り舐めまわす。口に中のペニスがピクピクと動いているのがよく分かる。一際強くすするとそれは限界を迎えた。
「うぐっ！でる！！」
ペニスが大きく戦慄くと熱い液体を発射する。リンはそれをすべて口で受け止めるとおいしそうに喉を鳴らして飲み下してゆく。こくりと飲み干すと、もう一度ペニスをしゃぶって残り汁まで啜り上げる。そのいやらしい表情と啜り方に一度精を放ったダンのペニスはあっという間に元気を取り戻すのだった。
「うふっ、もう元気、元気。今度はこっちで出してね？」
そう言うとリンはゆっくりとダンを跨ぐ。いきり立つペニスに手を添えたままゆっくりと自分の割れ目に宛がう。そして一切躊躇などせずに腰を落とすのだった。すでに濡れていた割れ目はすんなりとペニスを飲み込んでゆくのだった。リンの奥へ奥へとペニスが侵入して行く。
「あうっ、ダン、ダン！いい、いいわぁ！！」
激しく喘ぎながらリンは激しく腰を振る。上下させ、時には回転するような動きでペニスを絞り上げる。吹き出した愛液がダンの腹を、玉をぬらしてゆく。
「あっ、あっ、あっ・・・もっと、もっとぉ！！」
激しく腰を動かしながらリンはダンを求める。それに答えるようにダンもリンを下から突き上げる。ほとんど動けないダンの動きはわずかなものだったが、リンにとってはこの上もない感触だった。
「うくっ、リン。そんなに締め付けると・・・」
ペニスを動かすたびにキュウキュウと締め付けてくる膣の動きにダンは弱音を吐く。あまりの締め付けの気持ちよさに早くも限界が近付いてきていたのだった。
「いいよ、ダン。そのまま、んあっ・・・膣内に・・・子宮をいっぱいにしてぇ・・・」
甘えるように、求めるようにリンはダンに腰を摺り寄せてくる。ダンもその望みにこたえるかのように一際強く腰を突き上げる。ペニスがリンの子宮口ををノックする。
「ひっ、あああっ・・・ああああああああっっっっ！！！」
大きな声を上げてリンは背中をそらせる。体が大きく震え、膣道がぎりぎりと締まり、ペニスを締め上げる。それがダンの限界のときだった。勢いよく子宮の中めがけて射精する。熱い液体が子宮を満たしてゆくのを感じながらリンは幸せそうな顔をする。
「ダン・・・子供を作ろう・・・いっぱい、いっぱい作ろう・・・幸せな家庭を作ろう・・・」
子宮にダンの精を感じながらリンはダンの胸元に倒れこむと、そんなことを囁いた。そんなリンを抱きしめまがらダンは小さくこくりと頷いた。同時にダンはある決意をしていた。それは銀狼の能力を操る術を身につけること。今回のような失態はしないために、それをやらなければならなかった。
（ザン、お前の分まで生き延びてみせるからな。そして子供たちを幸せにするからな）
ダンは最愛の人を抱きしめながらそんなことを思っていた。
シーゲランス帝国との戦いはまだ始まったばかりであった。そして激戦はこれからも続くことになるのだった。
→進む
→戻る
→ケイオティック・サーガのトップへ
|
