第12話 裏切
第一の関を突破したヴェイス軍はその勢いに駆って第二の関を目指して侵攻をはじめた。ここではシグルドが先陣を務め、クリフトたちが後詰に回った。草原に立てられた関を騎兵隊の力で一気に突破しようという策であった。森を抜けた一同の目に広大に広がる草原が目に飛び込んできた。
「ここがワーム平原か・・・」
広大に広がる草原を見つめながらエリウスは感嘆の声を漏らした。その広大な草原を見つめながらエリウスは頭の中で今後のことについて計算を始める。足元を見たり当たりの風景を見たりしながら考え込む。
「どうかなさいましたか、エリウス様?」
考え込むエリウスに疑問を持ったのかレオナが馬を近づけて来る。
「いや、この草原は思った以上に苦戦を強いられそうだからね。当初と少し策を変えてみようと思う。レオナ、シグルドに突入を待つように伝令を走らせてくれないかい?」
「畏まりました」
エリウスに命じられたレオナは近くにいた兵に伝令を走らせる。エリウスはその場で進軍を止め陣を築かせる。エリウスは陣から草原を見渡し眉をひそめる。そんなエリウスの隣に立ちレオナも草原を見渡す。
「素晴らしい見晴らしですね。はるか先まで見通せる・・・」
「それが厄介なんだ・・・」
草原を見渡したレオナは素直に感想を漏らす。それに対してエリウスは眉を潜めたまま考え込む仕草で答える。この草原のどこが厄介なのかとレオナもよくよく考え込んでみる。
「見通しがいいということは敵に見つかりやすいということですか・・・」
辺りを見回しながらレオナは思いついたことを述べる。それを聞いたエリウスは小さく頷く。
「そうだ。そしてもう一つ・・・」
「もう一つ?まだあるのですか?」
エリウスの言葉に自分が気づかなかったこの草原の厄介なことにレオナは興味を持った。レオナの質問にエリウスは足元を見ながら説明を始める。
「足元の草を見てごらん」
エリウスにそう言われたレオナは足元を見る。草が覆い茂り、腰ほどの高さまで延びてきている。これならば身を隠していることも可能だろう。
「なるほど・・・身を潜めやすく、進軍しにくい地形ということですね」
「そういうことだ。僕が敵軍の将ならばこの先に罠を仕掛けたり、待ち伏せをしたりしているはず」
エリウスはそれを警戒して進軍を中止したのだ。もしあのまま進軍していたら手痛い目にあったかもしれない。だからといっていつまでもここに陣を引いておくわけにはいかなかった。
「レオナ、あの子を連れてきてくれないか?今頃、エンたちと馬車の方でお休み中だと思うから」
「あの子をですか?なるほど、そういうことですか」
エリウスがなにをしようとしているのか、すぐに理解したレオナは大きく頷くと、アリスたちの乗る大型の馬車の方に向かってゆく。中にはアリスをのぞく面々、シェーナ、ナリア、エン、ライ、ランがお休み中だった。それぞれ気持ち良さそうな顔で寝息を立てていた。
「お姉様、何か御用ですの?」
「私が用があるのはこの子だけだ。他の子達は寝かしておいてやれ」
レオナはアリスにそう答えると、アリスの膝の上にいるものをひょいと摘み上げる。それは蝶の羽根を持った小さな人間、フェアリーだった。先日本陣近くで倒れていたのをアリスが見つけ介抱した者だ。ちびドラゴンたちにはいたく気に入られているようで、よく追いかけられている。それでもここから出て行くようなことはしなかった。
「ティン、起きろ!」
「ふぇ?れおらしゃま?あしゃれすか?」
完全に寝ぼけたフェアリー、ティンがレオナのほうに顔を向ける。やれやれといった顔でレオナはティンの額を軽くつついてやる。姿勢が崩れ倒れそうになって、あわてて起き上がる。しばらくしてから、レオナの手の上からパタパタと飛び立つ。
「うう、まだねむいですぅ・・・」
目を擦り、眠そうな顔をしながらそんなことを言ている。
「エリウス様がお前に仕事を頼みたいそうだ・・・って、寝るな!ティン!!」
ティンに話しかけたレオナだったが、当のティンは空を飛んだ状態のままこくりこくり始める。怒ったレオナは手短にあった水をティンの頭からかける。
「ぷにゃあああ!!ちゅめたい〜〜!!」
「また寝るからだ!さっさと来い!お前に仕事を任せることになった!」
「ふぁ〜い、わかりましたぁ」
濡れた髪をレオナのマントで拭きながらまだ眠そうな返事を返す。レオナのこめかみに血管が浮かび上がっているが、マイペースなこのフェアリーはそれに気づいた様子はない。端から見ているアリスのほうがはらはらとして気が気でなかった。
「エリウス様からのご命令だ。この周辺の地形、敵の位置などを正確に掴んできてほしいそうだ」
「はーい、調べてくればいいんですね?」
ティンが返事を返すとレオナは静かに頷く。それを見たティンは鼻歌交じりに草原へと飛び出してゆくのだった。その後姿を見送りながら、レオナは疲れたような、心配そうな表情を浮べるのだった。どうもレオナはこのフェアリーと相性が悪いらしく、毎度会話をしただけで疲れてしまうのだった。
第二の関にヴェイス軍接近の報が届いたのは数時間前、関の大将、ルドルーラはすでに前もって用意した堀に長槍兵を待機させ、ヴェイス軍を迎え撃つ準備を進めていた。草原には足元にロープを張ったり、溝を掘ったりして各所に罠を仕掛けてある。
「こちらの騎兵隊の準備は?」
「すでに準備、整っております。いつでも出撃可能です」
ルドルーラの問いに副官はきっぱりと答える。それを聞いたルドルーラは満足そうな顔をする。これでヴェイス軍が来たとしても撃退できる準備は整ったことになる。
ルドルーラが立てるてた策はこのようなものだった。まず各所に設置した罠で敵の出鼻をくじき、更に突進してきた部隊を長槍兵で迎撃する。更に関からの弓の援護を合わせて敵を追い散らし、騎兵隊で残りを殲滅する。地形を熟知した自分たちに有利な策を実行するつもりでいた。
「ヴェイス軍の動きは?」
「草原に入った地点で陣を敷き、今のところ動く気配はありません」
「偵察されている可能性は?」
「地上も、空もそれらしき影はまるで・・・何匹かの妖魔が辺りを探っている程度です」
ルドルーラはすぐにヴェイス軍が突入してこないことに少し苛立ちを覚えた。何か策を練っているのかとも勘繰ったが、それらしい行動は見せていない。何かこちらを誘う出だそうとして、わざと動かずにいるようにも思えた。もしそうなら、ここで苛ついたら負けだとルドルーラは自分を戒める。
「各部隊に私からの指示があるまで動くなと厳命しておけ!」
ルドルーラはそう命じると、ヴェイス軍の方に目をやる。まるで動く気配のない敵陣を睨み付けながら、我慢のときを迎えるのだった。
それから3日、ヴェイス軍は時折妖魔が罠近くまで近付いてくるがそれ以上何もせず引き返すという行動を繰り返していた。兵の間には苛立ちと疲労が見えてくる。こちらの方がイニシアティブを握っているはずなのに、追い詰められているのが自分たちのような気がしてくる。
「このままでは埒が明かないな・・・」
ルドルーラは舌打ちする。そこにヴェイス軍動くの報が入る。ルドルーラも我慢の限界に達していたので急ぎ行動に移る。物見櫓に登ったルドルーラが見たのは横一列に並ぶ重騎兵団だった。それも馬に乗った騎士ではない。ケンタウロス族の戦士だけで構成された部隊だった。
「あれを先陣にするつもりか?」
ルドルーラは驚きの声を上げる。ケンタウロス族の戦士は数こそ少ないが、優秀な戦士たちで、特に平原での戦いはお手の物といわれている。彼らが先陣を切るのである。長槍による馬を狙った攻撃は功を奏さないだろう。後は罠に期待するしかない。
「うおおおおおおおお!!!!!」
鬨の声を上げてケンタウルス族の戦士たちが一斉に第二の関めがけて突入してくる。ルドルーラは敵が罠にかかる瞬間を今か今かと待ち構える。ケンタウルス族の戦士たちが罠を仕掛けた箇所に達した瞬間、ルドルーラは勝利を確信した。
「これで奴らは壊滅的・・・なにぃぃぃっっ!!???」
勝利の確信は一瞬にして消えうせてしまった。仕掛けたはずの罠は一切発動せず、ケンタウロス族の戦士たちは無傷のまま長槍兵たちの元まで達してしまったのだった。長槍兵たちは一斉に立ち上がりこれを迎撃する。ケンタウロス族の戦士は騎槍を手に一切勢いを殺さずそのまま敵兵の中に突入してゆく。騎槍が敵兵を一人、また一人と貫き、駆け抜けてゆく。
「迎撃急げ!騎槍攻撃は勢いが命。足を止めた瞬間がねらい目だ!!」
物見櫓からルドルーラはあわてて指示を送る。指示を受けた長槍兵達は急いで通り過ぎた間ケンタウロス族の戦士の背後に回りこみ、これを攻撃しようとする。その瞬間、ケンタウロス族の背中にいた何かが飛び降り、長槍兵の首筋を次々に切り裂いてゆく。
「な、なんだあれは?」
あわてたルドルーラはその正体を確認しようと身を乗り出して目を凝らす。それは子供のように小さな皮鎧を来た男たちだった。更に目を凝らして正体を確認する。
「ホビット族か!」
正体に気づいたルドルーラは声を荒げる。動きのすばやいホビット族が乱戦に参加するのは厄介である。下手をすれば同士討ちになりかねない。慌てふためく敵兵をあざ笑うかのように、ホビットたちは次々と敵兵の喉を切り裂いてゆく。ホビット族に気を取られている隙に今度は体を返したケンタウロス族の戦士が騎槍攻撃を再開する。
「陣形を立て直せ!やられる・・・」
ルドルーラが指示をするより早くケンタウロス族の戦士たちは長槍兵達を次々に始末してゆく。完全に混乱しきった兵たちではこのケンタウロス族とホビット族の波状攻撃を逃れる術はなかった。その光景をルドルーラは臍をかんで見つめるしかなかった。
「閣下!出撃の許可を!関の外の兵を見殺しには出来ません!!」
一部の兵から出撃の許可を求める声が出される。もちろんルドルーラもそのつもりでいた。しかし、出撃の許可を出そうとした直後、敵の動きに変化が生まれた。ホビット族が次々にケンタウロス族の背中に乗り、次々に自陣へと引き返してゆくのだ。
「なんだ・・・どういうことだ・・・?」
相手の意図が読めず、呆然とするルドルーラであったが、撤退する彼らの進行方向を見てその意味を理解する。その先には多くの騎兵がずらりと並んでいた。今のようにケンタウロス族の騎兵ばかりではない。人間族の騎兵も混ざっている。敵の本体が動いたということだ。
「くぅ・・・今関をあけて援軍を出すわけには・・・」
ルドルーラは苦悶の表情を浮べる。今関を開ければ敵は挙って関に進行してくることだろう。そうなればこの関は終わりである。だからといってこのまま関の外の兵を見殺しにすることも出来ない。戦況はルドルーラに苦渋の決断を迫るのだった。
「さて、そろそろ頃合か・・・」
ずらりと並んだ騎兵隊の先頭に立ったシグルドは愛用の銀色の槍をスッとず上にかざす。
「突撃!!一気に関を落とすぞ!!」
シグルドの号令一過、騎兵は一斉に関を目指して進軍する。一万に及ぶ大軍の突撃は地鳴りを起こして敵に圧迫感を与える。騎兵隊は次々に長槍兵を打ち倒し、関の門を目指す。
「じゃあ、シグルド将軍。露払い、行ってくるぜ!」
「頼むぞ、アンナ。我々はこのまま関に突入する!」
シグルドの背中に捕まっていたアンナは、シグルドにそう言うと大槌をかざして関の入り口めがけて跳躍する。
「うらあああ!!砕け散りな!!」
大槌を振りかざしたアンナは勢いを殺さず、そのまま大槌で関の入り口に攻撃をする。轟音を立てて関の入り口が崩れ落ちる。それを見届けるとアンナはそのまま関の中へ、シグルドに率いられて騎兵隊も次々に関の中に入り込んでゆくのだった。
「くそ!!侵入を許したか!!」
ルドルーラは悔しそうにそう叫ぶと、愛用の剣を抜き放つ。残った騎士たちに敵の迎撃を命じる。剣を抜き迎撃に移る騎士たちであったが、勢いに乗ったヴェイス軍を押さえるのは至難の業だった。勢いよく飛び込んでくる敵兵の槍になす術もなく多くの兵たちが討ち取られてゆく。
「陣形を組みなおせ!重騎士団を前面に押し立て敵の勢いをそぐ!急げ!!」
ルドルーラとて関を任されら将軍である。無能というわけではなかった。だがその彼の能力を上回る強さを敵が発揮してきただけだった。敵の全滅が無理と分かった今攻めて敵軍を関から押し返すだけでもしなければならない。重騎士団を中心とした陣形で反撃に出る。
「そうくるか・・・だが!!」
シグルドは敵の陣形が変わったのを見ても少しもあわてずに、槍をかざして敵の壁に迫る。重騎士団も槍を構えて応戦に出るが、それをあざ笑うかのような槍捌きで重騎士たちの鎧の隙間に槍を突き立ててゆく。鎧の隙間を通った刃は急所を貫き、相手を無力化してゆくのだった。
「おらおら!!この雑魚どもがぁぁぁッッッ!!!」
共に関に突入したアンナが大槌を振り回して攻撃に参加する。元々凶悪な破壊力を秘めた彼女の攻撃は次々と重騎士を押しつぶし、吹き飛ばしてゆく。たった二人でルドルーラの敷いた陣形に穴を開けてしまった。穴の開いた陣形など何の役にも立たない。こぞってヴェイス軍がなだれ込んでくる。
「くそ!!ここまでとは・・・」
いとも簡単に陣形を崩されたルドルーラは唇を噛み締めて悔しがる。もはやこの関の放棄は時間の問題であった。撤退を考えた彼の前に味方をなぎ倒して銀色の鎧のケンタウロスが飛び込んでくる。
「敵将・ルドルーラ殿か?我はヴェイス軍第三軍団大将軍、シグルド=ファーネンス!いざ尋常に、勝負!!」
シグルドは名乗りを上げると愛用の槍をかざしてルドルーラに戦いを挑む。敵将の登場にルドルーラも面食らってしまった。まさか敵将が自分たちの目の前まで飛びこんで来るとは思わなかったのだ。ルドルーラは愛用のレイピアを構えこれを向け打つ。
「ルドルーラ=シラントス、参る!!」
ルドルーラは名乗りを上げると、鋭いつきでシグルドに襲い掛かる。細いレイピアとはいえ特別にあつらえたもので強度には自信があった。鎧とぶつかり合っても折れることはないだろう。シグルドの鎧の隙間を縫って致命傷を与えようと攻撃を繰り出す。
「はははっ、面白い、なかなか面白いぞ、そなた!」
シグルドは笑いながらその攻撃を槍で受け流す。弾くとかそう言うものではない。槍の柄でレイピアの軌道をそらしているのだ。勢いを殺さずに。何度攻撃しようとも、どれだけ早く動こうとも、無駄だった。すべての攻撃は読まれ、いいようにあしらわれるのだった。ルドルーラからすれば面白いわけがない。
(これほどの力の差が?くそ!!)
シグルドが槍を返すだけで攻撃を仕掛けてこないところからも、今の自分が遊ばれているだけだと分かる。分かっていても攻撃をやめるわけにはいかなかった。いつかは当たる時が来る。そう信じてひたすら攻撃を繰り返すのだった。金属と金属のこすれあう音が絶え間なく続く。
「これだけやれば、まだ我に及ばぬことくらいそなたならわかるであろう?何故攻撃をやめぬ?」
相変わらずルドルーラの攻撃をいなしながらシグルドは不思議そうに尋ねてくる。ルドルーラは歯を食いしばり、屈辱に顔をゆがめながら吐き捨てるように答えるのだった。
「攻撃をやめることはつまり、我が誇りを捨てること。それを認めるわけには・・」
「・・・訂正しよう。そなたはつまらぬ男だったようだな・・・」
シグルドの言葉にルドルーラは顔を上げる。自分でも分かっていた。攻撃を繰り返すのは負けたことを認めたくなかったから。ただそんな自分のプライドのためだけに剣を振るっていたのだ。それをシグルドはつまらないといったのだ。自然とルドルーラの剣が動きを止める。
「これで、終わりだ・・・」
シグルドは槍をかざすと、鋭い一閃を放つ。ルドルーラにはその軌跡すら見えないほど鋭い一撃だった。槍は正確にルドルーラの方を貫く。その槍を引き抜くと鮮血が舞い、ルドルーラはその場に片膝をつくのだった。
「私の負けです・・・この身、いかようにも・・・」
ルドルーラは俯いたまま腹の底から絞り出すような声で敗北を認める。負けたことが悔しかったのではない。自分が惨めでちっぽけなプライドに縋ったことが恥ずかしかったのだ。そして、それを教えてくれたこの騎士ならば討たれてもいいと思ったからこそ、敗北を認めたのである。
「一つだけ窺ってもよろしいでしょうか?」
ルドルーラはどうしても納得の行かないことがあった。それは自分たちの仕掛けた罠がまるで作動せず、自分たちの布陣も見破られていたことだった。偵察も何もされていないのにどうやって罠を回避し、こちらの布陣を呼んだのか不思議でならなかった。
「答えは簡単だ。フェアリーとホビットの手によるものだ」
シグルドの言葉を聞いてルドルーラはようやくどうしてこうなったのかが分かった。フェアリーやホビットなどの背の低い部族のことを頭から除外していたのが敗因だったのだ。おそらくそれらの部族が見つからないように妖魔族をちょろちょろと斥候のふりをさせたのだろう。自分たちはそちらにばかり目がいってしまって、本質を見落としていたことになる。完敗だとルドルーラは思った。
「その代わり、部下たちの安全は・・・」
自分の命と引き換えに部下の安全を申し出る。するとシグルドはルドルーラの怪我を癒させると同時に、投降した兵たちには一切手を出させることをしなかった。これはこれまでもヴェイス軍に徹底されてきたことだったが、ルドルーラには信じられない光景だった。
「貴方にはこの戦争が終わるまで、捕虜となっていただきますが、よろしいかな?」
シグルドの問いにルドルーラは素直に頷いた。当たり前のことだった。戦争中に敵の将軍を解放などしないだろう。それがもとで自分たちの軍が負けることになるかもしれない。そんな危険を冒すようなことはしないだろう。むしろ処刑されないのが不思議なくらいだった。
「我が君は無用な殺しは避けよと仰っている。わざわざ殺す必要もないでしょう・・・」
ルドルーラの心のうちを見透かしたかのようにシグルドは彼を殺さなかった理由を答えてくれる。それを聞いたルドルーラは安心した顔つきで捕虜として引き立てられてゆくのだった。シグルドはその後姿を見送っていると、レオナを連れたエリウスが関の中に入ってくるのが見えた。
「我が君。第二の関、制圧完了いたしましてございます」
シグルドは片膝をついて礼の型を取ると、エリウスに報告をするのだった。エリウスは片手を上げてそれに答える。そして周りの兵たちに事後処理を指示してゆくのだった。
「それにしても、相変わらず見事な腕前だな、シグルド将軍」
「恐れ入ります。此度は面白い人材に出会え、嬉しい想いでいっぱいでございます」
シグルドの言葉にエリウスは感心した顔つきになる。シグルドの面白い人材とは将来シグルドたちに匹敵するほどの腕を持ちうる逸材のことである。人の世の勇者、英雄に匹敵する実力の持ち主ということになる。それほどの人物がこの関にいたことが驚きであり、それを喜ぶシグルドを頼もしく想うのだった。
「さて、これで、当面の目標は達成したわけだ・・・次はあの子達次第だな・・・」
エリウスはそういいながらはるか遠くの山を見つめるのだった。その山に第三の関があり、そここそが最大の難所であるのだった。そこの攻略こそが最重要課題であった。その成否の鍵を握っているのが背後からけたたましい声で近付いてくる少女たちであった。それを思うとエリウスは頭が痛くなる思いだった。
ファーガン山、山中。ここに築かれた第三の関はシーゲランス最大の関であり、守りの要であった。行進には細道を通らねばならず、関は厚く、守りを重視した作りになっていた。そのため専守防衛に専念できる作りになっている。護りに入られた関を落とすのは至難の業であった。
この日、第三の関はいつも以上の緊張感と賑わいを見せていた。そのわけは王都より第一王女・サーリア=デュ=シーゲランスが慰問のためこの関を訪問したためであった。戦時中の、それも最前線に当たるこの関への慰問はきわめて異例で、大掛かりな警備が敷かれていた。
「・・・皆さんの活躍、奮起を期待しております」
戦意高揚のための演説をサーリアはこう締めくくった。彼女の演説が終わると爆発的歓声と、サーナリアの名や帝国の名を兵たちは連呼し、士気は一気に高揚した。それを見たサーナリアはホッと胸をなでおろし、壇上から降りる。そんな彼女を御付の女騎士・ファランと護衛の将軍・ゴルザド、さらにが関の責任者・サーラハイムが迎える。
「見事な演説でしたわ、姫様」
ファランは一礼するとそうサーリアに話しかけた。サーリアも緊張から解放されたのか笑みを浮べてこれに答えるのだった。ゴルザドも無言のままうなずいている。元々無口なこの騎士はめったなことでは自分から口を開くことはない。そんな二人を押しのけるように後ろからサーラハイムが声をかけてくる。
「いや、本当に見事な演説でした。これでヴェイス軍の下等軍勢に我が帝国の恐ろしさを見せ付けることが出来ましょう」
サーラハイムはニヤニヤ笑いながら饒舌にサーリアに話しかける。そのいやらしい顔つきにサーリアは顔をしかめるがこの男はそんなことを気にも止めずべらべらと話を続けるのであった。嫌そうな顔をするサーリナの心情を察したのか、ファランがスッと間に入りサーラハイムの言葉を遮る。
「申し訳ありませんが、サーラハイム将軍。姫様は疲れておいでの様子。部屋でお休みいただきたいのですが?」
「これは気がつきませんで。部屋へは部下に案内させましょう」
ファランの介入にサーラハイムは少し眉をしかめたが、すぐに後ろに控えていた兵にサーリアたちを貴賓室に案内するように命じるのだった。サーラハイムのいやらしい視線を感じながらサーリアたちは貴賓室に案内され、中に入ってゆくのだった。
「なんですか、あの男のあの目つきは?姫様に対してあのような不純な眼差しを向けるなど!!」
部屋に入るや否や、ファランは激昂して当たりに怒鳴り散らす。相当先ほどのサーラハイムの目つきが気に入らなかったようだった。当のサーラハイムはホッとした表情を浮べてソファーに座り込む。
「あの男は権力志向の強いロッテルダム伯爵の長男だからな。姫様の覚えをよくしておきたいのだろうよ」
「何を馬鹿なことを!あの男の無能は誰もがよく知るところ。姫様に色目を使うなど・・・」
ゴルザドの言葉にファランはさらに怒り狂いながら文句を言う。そんな彼女の言葉を苦笑いを浮べたままサーリアは聞いていた。だが、すぐに真剣な表情に変わると、声を潜めて二人に話しかける。
「本当にいいのですか、二人とも・・・ここから先は・・・」
「いまさら何を仰っているのです。私はいつまでも姫様のおそばに・・・」
「某は・・・」
きっぱりと答えるファランに対してゴルザドは言いかけて言葉を止める。そして先に貴賓室のベッドで休まされていた少女の方に視線を向ける。
「某は娘さえ助かるならばいかようにも・・・」
二人の言葉を聞いたサーリアは嬉しそうに頷く。この先の苦難を考えるとこの二人の同行は嬉しかった。そして静かに行動を始めるのだった。
「あれが第三の関・・・か・・・」
山道から少し外れた地点から見下ろすようにエリウスは第三の関を見つめる。馬にも乗らず、共の者も連れていない。一緒にいるのはエン、ライ、ランの神竜のチビたちだけだった。三人ともここまで来るのに疲れたのか、その場に座り込み、アリスが作ってくれたクッキーを摘みながら、果汁水の入った水筒を口に当て、飲み干してゆく。
「アリス様のクッキー、やっぱりおいしいの!!」
ランは満足そうな顔でクッキーをぱくついてゆく。エン、ライも嬉しそうな顔でクッキーを食べてゆく。アリスの作ったクッキーは甘く、お子様の三人には嬉しいお菓子であった。そんな三人を暖かい笑みを浮べて見つめながらエリウスも腰の水筒を取り中身を飲み干してゆく。
「さてと・・・そろそろ来ると思っていたよ、ゾフィス」
エリウスは水筒を口から話すと自分の足元の影に話しかける。影の一部が盛り上がると人型をなしてゆく。
「ご無礼申し訳ありませぬ、若様。火急の用向きでありましたゆえ・・・」
「火急?何かあったのか?」
「第三の関にシーゲランス第一王女、サーリア姫が参っております」
ゾフィスの言葉を聞いたエリウスはぴたりと動きを止める。
「本当なのか、それは?」
「間違いございません。戦意高揚の演説も行いましたので・・・」
それを聞いてエリウスはため息をつく。来て欲しくない人物に攻撃対象に来られたのだ。ため息の一つもつきたくなるものである。そのエリウスの心中を察してか、ゾフィスは言葉を続ける。
「尚、サーリア姫は、御付のファラン、ゴルザド両騎士を伴ってわが国への亡命を図っておられる由・・・」
ゾフィスの言葉にエリウスはまた驚いた。サーリアがこの関まで来ていたことだけでも驚きだが、さらに近従を伴って亡命まで考えていたことが何よりも意外だった。
「もしかして、サーリア姫は?」
「はい。”姫巫女”としての記憶に目覚めておいででございます」
エリウスがなんとなく思って尋ねた問いに、ゾフィスはよどみなく答える。それを聞いてエリウスはやはりと納得する。どうしてサーリアの記憶が戻ったのかは分からないが、”姫巫女”として目覚めている彼女は必然的にエリウスの傍を求めたのである。
「ならばその思いに答えねばなるまいな」
エリウスはスッと関の方に視線を移す。そして一息ついたチビドモを連れ呪文を唱えると、その場から姿を消すのだった。それを見送ったゾフィスはまた影にその姿を隠してゆく。あとには誰も残らず、ただ風だけが物悲しそうに吹いているだけだった。
貴賓室に戻ったファランはサーリアの顔を見るなり、首を左右に力なく振るのだった。
「ダメです、姫様。いたるところに見張りが立ち、とてもではありませんが脱出するのは不可能化と・・・」
「そうですか・・・ここまで来ればエリウス様の元までもう少しですのに・・・」
ファランの報告を聞いたサーリアは悲しそうな表情を浮べて呟いた。幼い頃から自分の中に別の自分がいるような違和感を覚えたサーリアは、いつしかそれが本当の自分であり、”巫女姫”としての過去の記憶までも取り戻していった。そしていつしか、あったことさえないエリウスに思いをはせるようになっていた。
「何とか、何とか脱出できないでしょうか・・・」
悲しそうな表情を浮べてサーリアはファランとゴルザドの語りかける。二人は困った顔をしてしばらく考え込んでいたが、やがてゴルドザが発言する。
「姫様、某が囮になりましょう。魔族に操られたふりをして暴れます。その隙に姫様はファラン殿と」
「ですが、ゴルザド様。それではご息女が・・・」
「あの子のことは頼む、ファラン殿。あの子にニフラード病の特効薬を・・・」
ゴルザドは懇願するようにファランに頼み込む。ニフラード病。全身が硬化するこの難病を直す術は存在しない。ヴェイスを除いては。ヴェイスではエリウスが特効薬を開発し、この難病は不治の病ではなくなっていた。しかしヴェイスを悪魔の国と決め付けている各国はこの特効薬を毒物として取引を禁じたのである。
「あの子はまだ五歳。まだ先は長い。この老いぼれの命で姫様とあの子が幸せになるなら・・・」
ゴルザドは絞り出すように言葉を紡ぐ。ゴルドザが50歳を過ぎてはじめて生まれた子供は今年になってニフラード病に感染してしまった。目にいれても痛くない存在を失いたくない思いからゴルザドはヴェイスへの亡命を決意した。同じくヴェイスを目指すサーリアの護衛は渡りに船だった。
「ですが、貴方様を置いて・・・」
なおも食い下がろうとしたファランであったがそこで膝を折ってしまう。目の前がかすみ、言いようのない眠気が体を襲う。まともに体を動かすことも出来ない。そばではサーリアがすやすやと眠り込んでおり、ゴルザドも膝を折って頭を押さえ込んでいた。
「これは・・・眠り薬・・・か・・・」
異常に気づいたときはすでに遅かった。ファランの意識はそこで途絶え床に倒れ伏す。
「くくくっ、油断大敵ですよ、皆さん・・・」
貴賓室のドアが開き、サーラハイムがいやらしい笑いを浮べて部屋の中に入ってくる。三人が完全に眠りについていることを確認すると、サーリアを抱き上げ、あとに控えた部下たちにファランとゴルザドの始末を指示する。二人に裏切りの罪をでっち上げ、サーリアを我が物にするつもりで仕組んだ策だった。
「こうもうまくことが運ぶとはね。あの商人のくれた眠り薬はなかなかのものだったな」
そんなことを言いながらサーラハイムは、上機嫌にサーリアを自室に連れ込む。そして彼女をベッドの上に寝かしつけると、いそいそと鎧を脱ぎ始めるのだった。下着一枚の姿になると、鼻息荒くベッドの上に上がると、サーリアの衣装を丁寧に脱がしてゆく。
「ああ、予想通り、なんて美しい肌をなさっているんだ・・・」
うっとりとした表情でサーリアの手や足に頬づりをしながらサーラハイムはサーリアのドレスを、下着を剥ぎ取ってゆく。一枚剥ぎ取るごとにサーラハイムの鼓動は高鳴り、興奮し、押さえが利かなくなってゆく。すべて脱がし終える頃には目は血走り、股間は限界まで張り詰めていた。
「姫が・・・夢にまで見た姫様が我が物に・・・」
「ならないよ、下種野郎!」
鼻息荒くサーリアに覆いかぶさろうとした瞬間、サーラハイムの体は宙に浮き、したたかに壁に打ち据えられる。肺の中の空気がすべて吐き出されるような苦しさにサーラハイムは激しく咳き込む。なにが起こったのかわからないサーラハイムの目に裸のサーリアに毛布をかけて抱き上げる男の姿が映った。
「な、んだ、貴様は・・・」
息苦しさに咳き込みながらもサーラハイムは男に詰め寄る。だが、男はサーラハイムには興味がないらしく、サーリアの髪を撫でるだけで、彼を無視するのだった。そんな男の態度に怒り狂ったサーラハイムは足元にあった愛剣を抜き放つ。丸腰の相手ならばこれだけで怖気ずくと思った。しかし青年はちらりと視線をサーラハイムに向けただけですぐに視線を元に戻してしまう。
「姫様から手を離せ、この下郎が!!」
自分のことは棚に上げてサーラハイムは青年に切りかかる。ため息を一つついた青年はもう一度サーラハイムに視線を向けると、何事か呟く。瞬間、彼の周りに巨大な火球がいくつも出現する。それがすべて容赦なくサーラハイムに襲い掛かる。全方向から襲いくる火球をサーラハイムはよけることなどできず、悲鳴を上げる暇さえ与えずに、一瞬にして消し炭と化すのだった。その消し炭を見下ろしながら青年、エリウスは蔑むように言い放つ。
「下郎は貴様のようなもののことを言うんだよ。生まれ変わるときには覚えておくといい」
そう冷たく言い放つと、エリウスはサーリアを連れて部屋を後にする。部屋の外に出ると、誰かがエリウスに駆け寄ってくる。もちろんエンたちであった。ファランやゴルザド、ゴルザドの娘をそれぞれが抱えあげて連れてきている。ちびっ子に持ち上げられる大の大人という光景は滑稽で笑えるものがあった。
「エリウス、おじさんたち助けておいたよ!!」
エンが笑顔でエリウスに近寄ってくる。そんなエンの頭を撫でてやると、ライもランももの欲しそうな顔でエリウスを見つめている。あわてて二人の頭も撫でてやると嬉しそうな顔に変わる。
「じゃあ、この人たちは僕が連れて行くよ。エンたちは教えたとおり、ここで好きなだけ遊んできていいからね」
「帰ったら一緒にお昼寝してくれる?」
「いいよ。アリスもホットミルクを作って待っているから。じゃあ頑張ってね」
三人の頭をもう一度撫でてやるとエリウスはサーリアたちを連れて姿を消す。
「よーし、頑張って遊ぶぞぉ!!」
「おーーーー!!!」
エンたち三人は嬉しそうに掛け声を上げると、宿舎から外へと飛び出してゆく。外で見張りをしていた兵たちは驚きの表情を浮べる。当たり前の話である。こんなところに幼児が姿を現したのだ。驚かない方がどうかしている。そのうちの一人があわててエンたちに駆け寄ってくる。
「ど、どうしたんだい、お嬢ちゃんたち?ここはあぶない・・・」
「エンちゃん、ぱーんち!!」
話しかけているのを無視してエンのパンチが男の腹部に命中する。男は仲間を何人か巻き込みながら、数十メートル吹き飛ばされる。あまりの光景に兵たち全員絶句してしまう。
「まけないぞー!ライちゃんきーーっく!!」
ライの飛び蹴りが関の壁を吹き飛ばす。ランはオロオロしながらも物見櫓の支柱を引っこ抜き、これを崩壊させる。尋常ではない子供たちの暴れっぷりに兵たちもあわてて押さえ込みにかかるが、いかに大人が数人集まったところで彼女たちを抑えきれるはずもなかった。次々と吹き飛ばされ、跳ね飛ばされてゆく。
「めんどくさいなぁ・・・元の姿で、一気に終わらせちゃおう?」
「おっけい!!」
「・・・わかったの・・・」
エンの言葉にライもランも同意する。三人は意識を集中させ変身を解く。少女の姿は崩れ、赤、黄、緑色の竜が姿を現す。それが止めだった。関の中は恐慌状態に陥る。
「し、神竜だぁぁっっ!!にげろぉぉぉっっ!!」
恐慌状態になった兵たちは武器を捨て次々に逃げ出す。神竜に戦いを挑もうとするものなど一人としていない。我先にと仲間を押し倒し、踏みつけ関から逃げ出してゆく。そんな関の中をエンたちは気持ち良さそうにブレスを吐き、しっぽを振って踊っている。本人たちは踊っているつもりでも、関は壊滅的損害をこうむることとなった。
「ここ・・・は・・・?」
サーリアはうっすらと目を覚ます。大きなベッドの上に寝かされている。周りの光景は見たことのないもので、先ほどまでの貴賓室でないことだけは確かだった。
「んっ・・・え?きゃっ!!」
体を起こしたサーリアは自分が裸であると知ってあわてて毛布で胸元を隠す。ここがどこであるかは分からないし、なにが起こったのかもわからない。ファランもゴルザドもいない。サーリアに言い知れない不安が広がってゆく。
「あら、目を覚まされましたの?」
部屋の扉が開き、湯気の昇るカップを乗せたお盆を持った少女が部屋に入ってくる。サーリアはその少女に見覚えがあった。そう、面識のある少女だった。
「アリス・・・姫?」
「お久しぶりですね、サーリア姫・・・」
久方ぶりに会った少女にアリスは笑顔を向ける。サーリアのほうもアリスがいることに安堵し、ここがヴェイス軍であることを悟るのだった。
「あの・・・アリス様・・・私は一体・・・」
「関の将の姦計に嵌っていたところをエリウス様が助けてくださり、この魔天宮までお連れになったんですよ。ファラン様も、ゴルザド様もご無事ですよ」
サーリアの質問にアリスは笑顔のままで答えると、持ってきた薬湯をサーリアに勧める。ファランたちの無事を聞いてホッとしたサーリアはありがたく受け取ると、それを一口口に含む。薬湯の苦さが口の中に広がり、体を温めてくれる。ようやく落ち着きを取り戻すのだった。
「アリス様、ではエリウス様も・・・」
「ええ、そろそろいらっしゃる頃ですわ・・・」
そうアリスが言うと、ドアが開きエリウスが部屋に入ってくる。サーリアはあわててお辞儀しようとするが、エリウスはそれを制する。
「サーリア姫、君はすでに”巫女姫”としての記憶が目覚めているとの事だけど?」
「はい、幼き頃よりもう一人の自分がいるような感覚がありまして・・・」
エリウスの質問にサーリアは一つ一つ答えてゆく。記憶は目覚めて以来、エリウスの傍にいたい。その思いがいつしかサーリアの心を支配するようになっていた。”ヴェイス軍、動く”の報ははそんなサーリアの感情を爆発させるきっかけとなった。
「そうか・・・それで能力の方はまだ?」
「・・・はい・・・」
エリウスの問いにサーリアは顔を赤く染め上げて小さく頷く。能力の解放。それがどのようになされるのかサーリアは知っていた。だからこそ顔を赤く染めたのだ。エリウスはアリスのほうをちらりと見る。見られたアリスは少々複雑そうな表情を浮べながらも、一礼すると部屋から出てゆくのであった。
「じゃあ、いくよ、サーリア・・・」
エリウスは上半身裸になると、ベッドの上に上がりサーリアの頬を撫でる。その言葉にサーリアは顔を赤くしたまま頷く。エリウスは顎に手を掛け、優しくキスをする。長く、優しい口付け。それは緊張状態にあったサーリアから緊張を徐々にほぐして行くのだった。
「んんっ・・・ん」
長い口付けを交わしながらエリウスは徐々に舌をサーリアの口の中に侵入させてゆく。入り込んだ舌はサーリアの舌先を舐め、徐々に絡ませあってゆく。最初こそ消極的だったサーリアの舌の動きはエリウスのそれにあわせるかのようにだんだんと大胆になってくる。
「んっ・・・あふっ、ちゅばっ・・・あああっ」
舌を絡ませあい、唾液を交換し合う。お互いの唾液の混ざり合う音がいやらしく部屋に響く。そんな音も今のサーリアにはどうでもいいことだった。エリウスといられる、エリウスと肌を重ねられる。そんな幸せを噛み締めるのに精一杯だった。
「んっ・・・あああっ」
力の抜けたサーリアの手から毛布がずり落ちる。16歳にしては豊かな胸が露になる。サーラハイムもこの胸に見入っていり、いやらしい視線を向けていたのだ。これまでサーリアには恥ずかしい対象でしかなかった胸だが、エリウスは優しくそこを撫で、揉みあげる。
「あふあっ、そ、そんな・・・・」
感じたことのないような快感が背筋を駆け抜けてゆく。エリウスは優しく白く張りのある肌を堪能する。片手でも余るほどの大きさを誇る乳房は、柔らかく、押してもすぐに元に戻るほど張りがあった。エリウスはその柔らかさを思う存分味わう。
「いい・・・ああんっ・・・エリ・・・ウスさ・・・ま・・・」
喘ぎ、悶えながらサーリアはエリウスの名前を口にする。エリウスは無言のままそれに答えるように桜色の乳首を口に含む。びくりとサーリアの体が震える。硬く勃起した乳首を舌先で転がすようにしていじってやると、サーリアの口から喘ぎ声が漏れ始める。
「あんっ・・・いい・・・そ、そこ・・・ああああっ」
頭を振って全身に染み渡るような快感を味わう。そんなサーリアの胸から腹部を伝って、エリウスの手が下に延びる。栗色の陰毛を撫で上げると、硬く閉じられた両足の隙間に手を忍び込ませる。またサーリアの体が震え、両足に力がこもり手の侵入を拒む。
「力を抜いて、サーリア・・・」
エリウスが耳元で囁くと、魔法にかかったようにサーリアの体から力が抜ける。エリウスはゆっくりとまたの間に手を差し込み、うっすらと濡れた場所を指先で撫で上げる。
「ひゃん!!」
サーリアは大きな声を出してエリウスにしがみつく。二度、三度そこを撫でてやるだけでサーリアはエリウスにしがみついたまま動かなくなる。そんな彼女とは対照的に彼女の奥からは彼女の心を代弁するかのように、蜜が滴り落ちてくる。エリウスはサーリアを気遣いながら中指を膣の中に差し込んでみる。
「んくっ!んんんっ!!」
エリウスにしがみついたままサーリアは喘ぎ声を漏らす。その声にこうするかのように蜜はあとからあとから滴り落ち、エリウスの指を濡らして行く。ある程度の湿り気を感じたエリウスは人差し指を膣内に押し込んでゆく。二本の指は狭い膣道を広げてサーナリアの感じる場所を探り当てる。
「いあ、んんっっ・・・ひうあ、エリ・・・」
悶えながらサーリアはエリウスを求める。エリウスもサーリアを高みへと押しやろうと、さらに感じる場所を探り当てる。指の動きが早くなるに連れてサーリアの声も大きくなってゆく。指先がサーリアの最も敏感な箇所を弄った瞬間、サーリアの体が大きく飛び跳ねる。二度、三度痙攣をして、極みに達したことを告げる。
「サーリア、気持ちよかった?」
エリウスが耳元で囁くと、サーリアは顔を真っ赤にしたまま頷く。それを見たエリウスはにこりと笑うと、サーリアの両足の間に自分の体を押し込む。自然とサーリアの脚が開き、エリウスにすべてをさらけ出す体勢になる。エリウスはペニスの先端をサーリアの膣口に宛がうと、サーリアにそっと囁く。
「いくよ・・・」
エリウスの言葉にサーリアは短く頷く。それを確認すると、エリウスはそっと腰を押し進める。男を知らない膣道を押し開いてエリウスのペニスが膣内にもぐりこんで行く。メチメチと無理やり押し広げる感触に、サーリアは苦悶の表情を浮べ、爪を立ててエリウスにしがみつく。
「・・・んくっ・・・ううっ・・・んんぅっ」
無言のままエリスの肩に背中にサーリアの爪が食い込む。声を出すまいと懸命にこらえているのだ。あまり長時間耐えさせるのはかわいそうと、エリウスは力を込めて一気にサーリアの処女膜を貫通させる。股から真っ二つにされるような痛みにサーリアは涙を浮べて悶える。
「全部入ったよ・・・」
優しく囁くとサーリアはやっと笑みを浮べる。しばらくお互いに抱き合ったままサーリアの痛みが引くのを待つ。時間をかけ、サーリアを休ませるとゆっくりと抽送運動を開始する。サーリアの膣を痛めないように気を使いながら、長いもので膣壁を擦りあげる。
「ひぐっ、あううあっ!!いい・・・エリウスさまーーー!」
サーリアは絶叫するようにエリウスを感じ、嬌声を上げる。愛液をペニスでかき回す音が次第に大きくなってゆく。大きくなるにつれて、エリウスのペニスの先端が力強くサーリアの子宮をノックする。初めての快感に悶えるサーリアも、きつい締め付けの中を動くエリウスも限界に近付いていた。それがわかっているからこそ、エリウスはさらに力強くサーリアを攻め立てる。
「エリウス様、エリウス様・・・もう・・・もうぅぅ!!」
サーリアはエリウスの限界を知らせる。膣が断続的に締まり、エリウスも限界に導いてゆく。エリウスなサーリアを抱きしめたままサーリアの最奥にペニスを突き立てる。同時に限界を向かえ、自分の精を放つ。精が子宮に当たるとサーリアも体を震わせて絶叫する。
「いや、もう・・・もうだめ・・・」
体を震わせて限界を教えてくれる。その締め付けを味わいながら、エリウスは己の分身をサーリアの子宮にすべてぶちまけるのだった。その熱さを感じながら、サーリアも限界を迎える。首筋に証が表れ、、鏡の紋章が浮かび上がる。お互いに抱きしめあったまましばしの余韻を味わうのだった。
サーリアを抱きしめたまま休んでいたエリウスの耳に誰かが走ってくる足音を感じ、頭をもたげる。勢いよくかけてきたそれは、ノックも無しに部屋の扉を蹴破って侵入してくる。部屋に駆け込んできたエンとライが、ベッドに向けてそのまま勢いよく飛び込んでくる。
「エリウス、お昼寝、お昼寝!!」
ベッドの中に潜り込むと二人は嬉しそうな顔でエリウスにそう言ってくる。突然の侵入者にサーリアは目を丸くしていたが、エンもライもそんなことお構い無しの様子だった。エリウスは頭を抱えて二人に注意しようとした瞬間、横から手が伸びて二人の耳をつまみあげる。
「貴方体は何度言ったらノックしてから部屋に入るというのを覚えるのかしら?」
こめかみに青筋を立てたフィラデラが二人の耳を遠慮なく引っ張りあげる。フィラデラに連れられて魔天宮まで戻ってきたエンたち三人だったが、エンとライの二人は嬉しさから、フィラデラの存在を忘れて、またしても暴走してしまったようだ。懲りない二人である。
「いたたたたっ、ごめんなさい、ごめんなさい!」
「フィら姉ちゃん、許してぇ!!」
「ダメです。今日という今日は朝までお仕置きです!!」
フィラデラはエンとライの耳を摘みあげたまま引き立ててゆく。入り口のあたりでオロオロしていたランをちらりと見ると、奥に入るように促し、エンとライをそのまま引き立てていってしまう。二人の悲鳴と泣き声が遠のいていくのを見つめながら、エリウスはランを招き寄せる。嬉しそうな表情を浮べたランがチョコチョコと駆け寄ってきて、ベッドの中に潜り込む。そしてサーリアにぺこりとお辞儀する。
「お姉ちゃん、新しい”巫女姫”様?」
「ええ。”鏡の巫女姫”サーリアといいます」
「ん。わたし、ラン・・・」
自己紹介するとランはそっとサーナリアに抱きつく。胸元に顔をうずめたまま眠り込んでしまうのだった。自分の胸の中ですうすうと眠りにつくランを抱きしめながら、サーリアも眠りにつくのだった。仲良く抱き合ったまま眠りにつく二人を見つめながら、エリウスも二人を抱きしめるような格好で眠りに就く。
幸せな時間が流れてゆく。エリウスは順調に進む戦いの中、本国ヴェイスに危機が迫っていることを、このとき知る由もなかった。
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