第19話 騎兵隊


 シンドルテア公国。国土のほとんどが平原で占められているこの国の特産はなんと言っても良質の馬だった。国民も物心つくころから馬に慣れ親しみ、馬の扱いに関しては大陸一の国といわれていた。そのためこの国の軍は騎兵隊がその重要な地位を占め、数、技術、統制、どれをとっても他国の騎兵隊を大きく引き離していた。
 「動いたのはどの部隊だ?」 
 シンドルテア軍動くの報を聞いたストナケイトはどの部隊が動いたか伝令に尋ねる。動いたのは第一部隊から第三部隊までで、すでに戦闘が始まってるとのことだった。
 「こちらに新しい人員が入ったばかりのこのときを狙われたか・・・」
 いいタイミングで攻めてくるとストナケイトは仮面の下で微笑んだ。この戦いそれなりに楽しめそうだという期待が持てたのだ。即座にストナケイトは動く。ダン、ガン、ミルドに第一軍を三隊を預けるとこれの迎撃に向かわせる。そして自身はファーガント、アルデラと共に、中央に位置する敵本隊に注意するのだった。
 そして戦いの幕が上がる。

 第一部隊。この迎撃に当たったのはガンだった。自分は獣化し、騎士団を率いて敵部隊に突入を図る。
 「こんなに早く百人抜きの機会が来るとは思わなかったけど・・・」
 ミルドとの約束を思い出したガンは早くも巡ってきた機会に心躍らせていた。馬に跨り先陣を切って敵の集団に突撃してゆく。ガンも自在に獣化できる法を習得することが出来た。ただ、獣化できてもその力は満月のときに比べてスピード、パワー共に格段に低下している。それを補うべく肉体強化に余念はなかった。
 「この程度なら満月でなくても十分だ!!」
 馬の背中で獣化したガンは爪を伸ばして敵兵の間を駆け抜ける鋭い爪が首筋を、肩口を切り裂き、相手を落馬させる。重装備の騎士にはパワーをこめた一撃を腹部に見舞う。ガンが駆け抜けたあとには二人、三人と、敵兵が地に倒れ伏しているのだった。
 「うし!順調!!」
 順調にて騎兵を倒してゆくガンであったが、その肩口を何かが凪ぐ。ぱっくりと肌が裂け、鮮血が宙に舞う。腕が使えなくなるほどの傷ではなかったが、ガンはあわてて馬首を返す。そこには銀色に輝く剣を握り締めた少年が馬に跨り、ガンを睨みつけていた。
 「僕はシンドルテア軍三騎が一人、レナード!化け物め、覚悟!!」
 「けっ!他国に侵攻しておいてその言い草かよ!」
 「貴様らが先にフライゼルトを攻め滅ぼしたのだろうが!この魔族が!」
 憎しみの籠った眼差しでガンを睨みつけながら少年は剣を振るう。ガンはそれを寸での所で交わす。少年は常人離れしたスピードで剣を振るい、何度もガンに切りかかる。その鋭い斬撃をガンは紙一重でかわす。少年のスピードはどんどん速くなり、ガンに並ぶほどの速度にいたる。
 「魔族など消え去るがいい!”ソニック・ショット”!!」
 高速の斬撃がガンに襲い掛かる。ガンは何とかそれを受け流すと大きく後退する。それでもガンの胸元は大きく切り裂かれ、鮮血が舞う。
 「魔族は消え去れだ?何様のつもりだ、てめぇ?」
 ガンの眼差しが鋭くなる。少年が魔族に激しい憎しみを持っていることは手に取るように分かった。だが、それがどうしたというのがガンの考えだった。
 「生きとし生きるものに害しか為さぬ汚物の分際で!」
 「害を為す?手前ら人間が最高だとでも思ってやがるのか?とんだおめでた野郎がいたもんだ」
 憎しみのこもった口調でまくし立てる少年をガンは馬鹿に仕切っていた。
 「人間の欲望にまみれた姿を知らないのかよ、てめえは?」
 「人の欲望などたかが知れている!魔族に操られ悲劇を起こす人間だっている!全て貴様らが!」
 レナードは怒りに任せて剣を振るう。全力の”ソニック・ショット”をガンに繰り出す。ガンは避けようとせずにぐっとその場に腰を落とす。そして力のこもった一撃をレナードの鋭い攻撃目掛けて繰り出すのだった。
 「てめえの弱さを人の所為にしてるんじゃあねえ!!」
 ガンの大気を震わすような叫びと共に放たれた一撃と、レナードの憎しみのこもった一撃がぶつかり合う。鈍い音と共にレナードの剣がガンの拳深くに食い込む。その様子を見たレナードは勝ったと思い笑みを浮べる。が、その笑みはすぐに凍りつく。剣に亀裂が入り粉々に砕け散ってしまったのだ。
 「そんな・・・僕の・・・ソニック・エッジが・・・」
 「けっ。スピードを得るためにこんな薄っぺらい剣を使っているからだ、バカ!」
 ガンは心底馬鹿にした口調でレナードを睨みつける。まだ体が出来上がっていないレナードが大人並の攻撃力を得るために選んだ道はスピードであった。しかし、重たい大人用の剣ではそのスピードが殺されてしまう。そこで彼は刀身を薄くし、剣の重みを軽くする方法をとったのだった。
 「そんな薄っぺらい剣じゃあ、一発で砕けるぜ!!」
 その剣の薄さを見破ったガンは直接殴ることで、破壊したのだ。根元から砕け散った剣を呆然と見つめるレナードに、ガンは一気に追い討ちをかける。痛めたこぶしをレナードの腹部に叩き込む。突き上げる感覚と共に、激痛が全身を駆け抜ける。血と共に胃液が逆流してくる。
 「ぐはぁぁっっ!!」
 「いい事教えておいてやる。俺の義理の姉妹は人にひどい陵辱を受けて人間であることをやめた!」
 ボタボタと口から血を吐き出しながら蹲るレナードにガンは冷めた眼差しで睨みつけながら言い放つ。驚いた表情を浮べるレナードにガンはさらに言葉を続ける。
 「ミルドの故郷は自分たちの言いなりにならないからって滅ぼされた!」
 レナードは反論できないままガンの言葉を聞いていた。人間がそんなことするはずがない。魔族が自分たちがやったことを人間の所為にしているだけだと言いたかった。だが、言葉が出てこない。ガンの真剣な眼差しはそれが嘘でないことを物語っていた。
 「それが人間の中に眠る、欲望だ!!」
 レナードはがっくりとうなだれたまま何も言い返せなかった。今まで自分が信じてきたものが根底から崩壊していくような感覚に、激しく動揺していた。だからといって魔族を認めることは出来なかった。魔族が世界を支配しようとしている事実は動かせない。ならば正義は自分にある。そう心から信じる。
 「魔族に・・・世界を・・・支配されてたまるか!!」
 「手前ら人間が支配していい世界でもねえだろうが!!」
 自分の信じた世界のために、レナードは砕けた剣を振るう。世界を守る。その思いのためだけに・・・だが、その一撃よりもガンの膝蹴りの方が早かった。痛めた腹部に見事に決まる。
 「げはっ!!」
 前のめりになって血を吐き出すレナードの後頭部に、ガンの裏拳が炸裂する。顔面から地面叩きつけられ、顔が土にまみれる。それでもレナードは痛む体を奮い起こして立ち上がる。ここで立ち上がらなければ自分が、人の世が暗黒に染まる気がした。ガンの言葉を認めてしまう気がした。ただその思いだけだった。
 「世界は・・・世界はーー!!」
 絶叫して立ち上がったレナードの即頭部にガンの上段回し蹴りが炸裂する。鈍い音を立てて骨が砕け、レナードは数メートル、吹き飛ばされる。そしてそのまま動かなくなるのだった。
 「ぼくは・・・せかいを・・・ま・・・ま・・・」
 光を失った眼差しで空を見つめながらレナードはそう呟く。懸命に指を動かし、立ち上がろうとするが体は彼の言うことを聞かない。徐々に体の動きは止まり、そのまま事切れる。そんなレナードの死体を見つめながらガンは大きく息を吐く。全身傷だらけになりながらガンは勝利を収めたのだ。
 結局レナードの死は部隊全体の士気を低下させ、戦闘を維持できなくなる。士気のなくなった部隊は踵を返して撤退して行く。ガンはそれを追撃せず、本隊へと帰還する。
 「結局8人しか倒せなかったぜ!!」
 ブツクサ文句を言いながら引き上げるガン。敵の隊長を討ち取り、さらにこの部隊で一番の撃破数を上げている。それでもガンには納得がいかなかった。百人抜きがいつになることやらと思いながら、ガンは溜息をつくのだった。

 一直線に本隊を目指す第二部隊。これを迎撃したのはダンだった。銀色の髪をなびかせ、自分たちに突進してくる騎兵隊を指を鳴らして迎え撃つ。
 「ここから先にはいかせん!!」 
 ダンの鋭い拳がダン目掛けて飛び込んできた騎士の腹部に減り込む。それを合図にダンの一方的な攻撃が始まる。飛び上がると、馬の上を駆け巡って、次々に騎士を打ち倒してゆく。一撃で腹部を穿ち、頭部を蹴り倒す。あるものは昏倒し、馬にそのままどこかに連れて行かれ、あるものは落馬して果てた。
 「せい!!」
 ブシンの元で武術の基礎を習ったダンは、これまで以上に正確で、鋭い攻撃を繰り出す。獣化しなくても、その一武を引き出す方法を会得したダンにとって、この攻撃はいともたやすかった。そんなダンに誰かが襲いかかる。その攻撃に気づいたダンは大きく跳躍する。
 「だれだ、おまえ・・・」
 「我はシンドルテア軍三騎が一人、ポール!我が棍棒を受けよ、獣人!」
 直径50センチはあろう棍棒を振り回してポールはダンに襲い掛かる。一撃でも喰らえば骨が砕け、数メートル吹き飛ばされそうな攻撃をダンは見事にかわす。その攻撃を見たダンのポールの評はただのパワー馬鹿だった。正直スピードがのろく、ダンのスピードならば十分に回避できる攻撃だった。
 「そんな攻撃じゃあ、俺は倒せないぜ?」
 余裕綽々でポールの攻撃をかわしながらダンはポールを挑発してみせる。はっきり言って攻撃も単調で、目をつぶっていてもかわせそうな攻撃だった。それでもポールは棍棒を振り回し、ダンに襲い掛かってくる。
 「お前を討ち取って、敵将を打つ!!」
 ポールからすればダンは自分の攻撃が怖くて逃げているだけの存在だった。だからいつか攻撃が当たればそれですべてが終わると思っていた。力任せに棍棒を振り回し、ダンに襲い掛かる。唸りをあげて襲い来る棍棒をダンは寸分の狂いもなくかわし続ける。
 「くそ!当たれ!!」
 当たれば一撃で仕留められる。その自信のもと、ポールは棍棒を振るい続ける。そんなポールをあざ笑うかのようにダンは見事にその攻撃を避けるのだった。さすがに力任せに棍棒を振るい続けてきたポールの動きが鈍る。明らかない疲れが出てきたのだ。
 「くそ、こんなことでめげてたまるか!!」
 気合を入れなおし、もう一度ダン目掛けて思い切り棍棒を振りぬく。だが、今度はダンは避けようとはしなかった。腰を落とし、こぶしを握り締める。唸りを上げてポールの棍棒がダンに迫る。
 「双天武拳”砕”!!」
 気と力を込めたこぶしがポールの棍棒と轟音を立ててぶつかり合う。ポールはダンが吹き飛ばされる様を想像した。だが、ダンは平然としており、それどころか逆にこぶしで殴りつけられた棍棒の方に無数の亀裂が走る。ガラガラと音を立てて砕け散る棍棒をポールはただ呆然と見つめるしかなかった。
 「力任せで倒せるほど、俺は甘くないぞ!」
 再びこぶしを握り締めたダンが今度は自分の方からポールに襲い掛かる。棍棒を壊されたポールは対応が遅れ、ダンに懐に入り込まれる。ポールの両肩にダンの両のこぶしが叩き込まれる。
 「双天武拳”突”!!」
 ダンのこぶしがポールの両肩の関節を砕く。支えを失った腕がだらりと垂れ下がる。力の入らない腕での攻撃を諦めたポールは足で蹴りつけようとする。しかしダンはその蹴りを易々とかわすと、今度はその膝関節目掛けてアッパー気味の一撃を放つ。
 「双天武拳”翔”!」
 鈍い音を立ててポールの膝が砕ける。膝まで砕かれたポールはがくりと膝を折る。もはや反撃の余地は残っていなかった。そのポールの延髄にダンの手刀が決まる。白目をむいたポールはそのまま地面に倒れ伏す。そんな第二部隊の大将を見下ろしながらダンは一つ大きく息をつく。
 「師匠、うまく出来ました・・・」
 ブシンに習った武術、双天武拳がうまく決まったことをダンは大いに喜んだ。双天武拳はこれからの戦いに役に立つだろう。そして銀狼の力もまたこれからの戦いに欠かせないものになるに違いない。そのことを思いながらダンはこぶしを見つめる。
 「師匠、師匠の分までオレが頑張ります」
 戦いに参加しない師匠に代わって自分が頑張る決意をするダンであった。

 大回りをして陽動に当たる第三部隊。これの迎撃に出たのはミルドであった。愛用の銀製の剣をかざして敵に突っ込む。新調した鎧は青の映える鎧で、戦場において目を引く存在だった。それがミルドの狙いであり、相手の攻撃を自分に集中させるつもりで戦いに挑んでいた。
 「さあ、かかってこい!!」
 自分に集まってくる敵に向かって突入する。今回の戦いは自分が新たに手にした力を測るのに適していた。馬を操り、敵部隊にむかいながらミルドは意識を体に集中する。
 「戦闘力増強、基本増加値100、パワー+30%、スピード+20%、テクニック+50%・・・」
 増強できる力を各能力に割り振る、これがエロル族の秘術だった。これを一般兵にまで応用させれば魔族とも十分に戦えると思ったフィリップが欲したのだった。もっとも扱いが難しく、並みの兵では肉体が崩壊する危険性をフィリップは考慮していなかったのだが。
 「せいっ!!」
 増強した能力で剣を振るう。ミルドの強力な一撃は相手の武器を吹き飛ばし、鎧の上から叩きつけるような衝撃を与える。その衝撃に耐え切れなかった兵は落馬し、戦闘不能に陥る。ミルドは落ちた兵に気遣うことなく、二度、三度剣を振るう。
 「我が邪魔をするな!」
 相手の攻撃を巧みに受け流し力を削いでゆく。力を削がれ体勢を崩した兵の胸元に強烈な一撃が見舞われる。時にはパワーで、時にはテクニックで、時にはスピードで敵兵を圧倒するミルド。その姿は戦場で圧倒的存在感を示していた。そんな彼女に一人の女性が襲いかかってくる。
 「戦場であたしより目立つんじゃないよ!!」
 槍を脇に固め、そのままミルドに突っ込んでくる。その一撃をミルドは剣でうまく受け流す。通り過ぎた敵兵は馬首を返すと、またミルド目掛けて突入してくる。幾度となく鋭い攻撃がミルドに見舞われる。その全てを華麗に受け流し、逆に攻撃を加えて行く。その攻撃を敵兵も見事に受け流す。
 「やるじゃない!あたしはシンドルテア軍三騎がひとり、プリム。あんたはあたしが倒す!」
 プリムは意地になってミルドに攻撃をしてくる。相手の死角を衝くような鋭い攻撃、フェイントを交えた攻撃、ありとあらゆるテクニックを駆使してミルドに襲い掛かる。だがミルドはその攻撃の全てを冷静に捌き、受け流す。プリムの攻撃はことごとく無力化される。
 「クソ、こんなはずは・・・」
 焦りの表情を浮べて、プリム流行を振るう。しかしいくら攻撃しようともミルドには傷一つつけられない。このままではいけないと思ったプリムは、一度ミルドから距離を置く。そして構えた槍に全神経を集中させる。
 「くらえ、”スパイラル・エッジ”!!」
 鋭い回転を加えられた槍がミルドに襲い掛かる。いつものようにそれを受け流そうとしたミルドだったが、剣がその槍の動きに巻き込まれ、弾き飛ばされる。槍はそのままミルドの肩口を凪ぐ。肩アーマーと血が宙に舞う。ぎりぎりでかわしたミルドだったが、肩口に浅い傷をつけられていた。
 「どうですか、我が一撃は!」
 肩で息をしながらプリムは自分の一撃を誇って見せる。確かに誇れるだけの攻撃ではあった。ミルドも感服していた。そしてそれに答えるように彼女も剣を構える。
 「では私も最高の技を持ってお答えしましょう。”ミラージュ・ソリッド”!!」
 ミルドの剣が煌めき、無数の光がプリムを覆ってゆく。キラキラと煌めく大気に美しさを感じていたプリムだったが、次の瞬間、全身を血に染め上げる。なにが起こったのかわからない。なにが起こったのかもわからない、なにをされたのかも分からない。ただ吹き出した鮮血を見つめながら、全身の力が抜けていく感覚を感じていた。
 「なにを・・・したの・・・」
 「無数の斬撃を多方向から一斉に行う技、それが”ミラージュ・ソリッド”よ。もっとも昔の私には出来なかった技だけど・・・」
 多方向攻撃による、不可避の技。それゆえに扱いが難しく、肉体に与えるダメージも大きい。そのため昔のミルドには仕えない技だった。しかし今はエロル族の秘術がある。これと駆使すれば可能な奥義であった。それでもまだ肉体のあちらこちらに痛みが走る。
 (私もまだまだということか・・・)
 体の痛みに堪えながら、プリムのほうを見る。彼女ももはや動くことは出来ないらしく馬の上にへたり込んでしまっている。ミルドは勝負がついたと、プリムの馬の尻に鞭打ち、敵陣の方へと追い返す。
 「よし、残りの敵を討つ!」
 気合を入れなおしたミルドは剣を握りなおすと、また戦いの輪に加わってゆく。新たに得た力を試すように。

 「ストナケイト様、アルデラ様。陽動に出した部隊が待ち伏せを受け、撤退してまいりました」
 ダンたちが先陣を迎え撃っている間に陽動部隊を出したストナケイトであったが、それが待ち伏せを受け撤退したという報を聞いて驚きを隠せなかった。完全に裏をかいた策だっただけに、自分の策が読まれていたとしか思えない。同時に敵軍にそれだけの策をたてられる軍師の存在が嬉しかった。
 「どう思う、アルデラ・・・」
 「まだ判断しかねます。それなりの軍師がいるようにも見えますが・・・」
 アルデラは何かに判断しかねる様子で答える。何か引っかかることがある、そう言いたげな表情だった。そんなアルデラの様子が気になったストナケイトは彼女に尋ねてみる。
 「何がそんなに気に掛かる?」
 「こちらの策を呼んでいる割にはたてている策がお粗末過ぎます。こちらの策を読んで陽動部隊を待ち伏せたというよりも・・・」
 アルデラはそこまで言って言いよどむ。言っていいものかどうか悩んでいるようだった。そんな彼女にストナケイトは発言するように促す。ストナケイトに促されてようやく決心したのか、アルデラは言葉を続ける。
 「こちらの策を呼んだのではなく、スパイがいるのかもしれません」
 「スパイ?この軍の中にか?」
 ストナケイトの驚きの言葉にアルデラは静かに頷く。確かに彼女の言う通りかもしれなかった。スパイがこちらの策を敵本陣に伝える。それを聞いた敵軍がこちらの策を逆手に取った布陣を引く。そのために予想以上の苦戦を強いられているのだろう。
 「しかしこれだけの兵がいると、誰が内通者か・・・」
 「そのことでしたら大丈夫です。すでに手を打って置きました」
 内通者を見つけ出す手立てがないことに困っているストナケイトにアルデラはすでに手を打ったことを告げる。そしてこちらは何食わぬ顔で軍議を開くことを提案する。相手を油断させるためである。その策をストナケイトは了承し、内通者捕縛のための作戦が展開される。
 軍議を開始してしばらくすると、外が騒がしくなる。そして騎士に引き立てられた女性が一人天幕に連れてこられる。縄で縛り上げられているところを見ると彼女が内通者なのだろう。そんな彼女の頭の上をティムが胸を張って飛んでいる。
 「アルデラ様、捕まえたですよ」
 「ご苦労様、ティム・・・よくやりました」
 アルデラのたてた策はこうであった。まずに偽りの軍議を開き、スパイにその話を聞かせる。この時点でティムが天幕の外を見張っていて、怪しい行動を取ったものをマークしていたのである。そしてその策に見事に引っかかったのが彼女、ここ数日踊り子として軍に従軍していた女であった。
 「くっ・・・」
 ストナケイトの前に引き立てられた踊り子は悔しそうな顔をする。ストナケイトに変わってアルデラが彼女に詰問する。鋭い眼差しで彼女を射抜くように見つめながら。
 「名前はなんと言うの?」
 「・・・・・」
 アルデラの問いに踊り子はそっぽを向く。何も話す気がないという意思表示だった。そんな不遜な態度の彼女にアルデラは手にしたムチを振り下ろす。特製の茨型のムチである。踊り子の白い肌を引き裂き、赤い鮮血が滴る。元々乳首と秘所以外隠していないような衣装を身に纏っていた彼女の体は叩きがいのあるものだった。
 「もう一度聞きます、名前は?」
 「・・・・」
 痛みに眉をひそめながらも踊り子は無言を突き通す。そんな彼女にアルデラは容赦なくムチを振り下ろす皮が裂け、血が滴り落ちる。激痛に顔をゆがめながらも踊り子は何も語ろうとはしなかった。それどころか舌を噛み切って自害しようとする。だが、それをみてもアルデラはあわてることはなかった。
 「”リジェレネイト”」
 厳かに踊り子に呪文をかける。彼女の体が光に包まれ、彼女の口から溢れる血が収まる。舌を噛み切って自害したはずなのに、舌が治っていることに踊り子は驚きながらも、もう一度舌を噛み切る。だが、噛み切った舌はすぐに再生し、彼女に死を許さなかった。
 「無駄です。貴方に再生の魔法をかけました。何度舌を噛み切っても、今日一日死ぬことは出来ませんよ」
 アルデラの言葉に踊り子は驚き、悔しそうな顔をする。捕まったら自害するように仕込まれてきたのにそれが出来ないことは屈辱であった。ならばせめて何も答えるまいと心に誓う。そんな踊り子にアルデラはもう一度尋ねる。
 「しぶとい女ですね・・・」
 踊り子の意志の固さに感嘆しながらも、アルデラは次の策に移ることにした。
 「ティム、ミルド、ガン。あなた方は外にいなさい。いいですね」
 そんなアルデラの命令にガンとティムは文句を言うが、これから何をするかうすうす感じ取ったミルドは一礼し不平を言うガンとティムを連れて天幕から出て行く。三人が出て行ったのを確認するとアルデラは今度は天幕の外にいるファーガントに命令する。
 「ファーガント、貴方のところの四バカをここへ・・・」
 「あいつらを?まあ、かまいませんが、何するつもりで、姐さん?」
 「いいから呼んで来なさい。その間にこちらは準備をしておきます」
 ファーガントにそう言うとアルデラは、天幕の中に戻り呪文を唱える。天幕内の空間が広がり、巨人族でも入れるほどの広さに変化する。その中心に踊り子を連れてきて首輪と鎖で固定する。逃げられない踊り子はアルデラをすごい形相で睨みつけるが、アルデラはそんなもの気にする様子はなかった。
 「姐さん、連れて来やしたぜ?」
 「準備できているわ、入りなさい」
 ファーガントが戻ってきたのでアルデラは天幕の中に入ることを許す。天幕の中を覗き込んだファーガントは自分も入れるほどの広さであることが分かると、もそもそと中に入ってくる。その彼の後ろから、馬、牛、豚、鶏の頭をした巨人が続いて天幕の中に入ってくる。
 「アルデラ様、お呼びで?」
 馬頭がポージングを決めながらアルデラに訪ねる。腕の筋肉がピクピクと脈動する。
 「俺たちの力が必要とか?」
 牛頭もポージングを決める。背筋が生き物のように蠢く。
 「何なりと御命じ下さい!」
 豚頭がポージングを決めながら言う。胸筋が上下に動く。
 「我らなんでも致しますぞ!」
 鶏頭がポージングを決めて頷く。腹筋がびくびくと鳴動する。
 まったく暑苦しい上にむさ苦しい。すでに全裸で四人ともペニスを丸出しの上、大きく膨らませたままポ−ジングを決めている。筋肉バカと揶揄されるのも分かる気がする。そう思うストナケイトだった。
 「よくきました、四バカ。貴方たちにはやってもらいたいことがあります」
 アルデラは彼らの呼び方に一切遠慮などしない。そんなアルデラの呼び方を四人はまるで気にした様子はない。だから頭まで筋肉だといわれるんだと、ファーガントは頭を抱えたくなった。しかし、本人たちが気にしていない以上いう必要もないだろうと何も言わないでおく。
 「この女から敵軍の情報を聞き出して欲しいのです。何をしてもかまいません。ただし情報を聞き出すまでは壊してはいけませんよ」
 「何をしてもいいんですかい?」
 アルデラの言葉に四人はもう一度確認する。アルデラがこくりと頷くと、にやりと笑う。自分たちに出来る尋問の仕方など一つしかない。それをするためにここに呼ばれたのである。いやらしい目つきで自分を見る魔族に踊り子は恐怖に顔をゆがめる。逃げようにも鎖が邪魔をして逃げ出せない。
 「く・・・来るな・・・」
 にじり寄る四バカに恐怖の眼差しを向けて踊り子は必死に逃げようとする。それが無駄だと分かっていても少しでも四バカから距離をとろうとする。それを阻止するかのように斧が振り下ろされる。股間ぎりぎりのところに叩き下ろされる。脂汗を浮べた踊り子の股間から黄色い水が溢れ出す。青い顔をしてうつむく踊り子にアルデラがもう一度尋ねる。
 「もう一度だけ尋ねる。名前は?」
 「・・・」
 唇を噛み締め、ふいっとアルデラから顔を背ける。答える気はないという意思表示だった。それを見たアルデラはくすっと笑みを浮べる。
 「そう・・・ホウル、カウル、ピウル、チウル・・・やりなさい!」
 いっこうに白状しない踊り子にアルデラは非情の決断を下す。その言葉を待っていたかのように4人の巨人が踊り子を取り囲む。下卑た笑みを浮べて。
 「じゃあまずこれから頂くかな」
 そう言うと豚面のピウルが踊り子の前に膝をづく。そしておいしそうにずるずると先ほど踊り子が漏らした小水を啜り始める。その破廉恥な行動に踊り子は顔を赤くする。
 「少ししょっぱいが、いい味だぜ」
 「や、やめろ・・・そのようなこと・・・」
 恥ずかしさに首を振る踊り子を無視してピウルはさらに小水を啜り上げてゆく。わざと踊り子に聞こえるように大きな音を立てて啜る。たまらず踊り子は身をよじる。そんな彼女を今度はホウルが背後から抱きしめる。そして有無を言わさず、一気に身につけていたものを剥ぎ取ってしまう。乳首を隠していただけの衣装が剥ぎ取られてしまう。
 「おお、絶景かな絶景かな。」
 「なかなかでかい胸しているじゃねえか!」
 じろじろと踊り子の裸を見つめながら勝手なことを口走る。両手を後ろ手に縛られている今、踊り子は裸を隠す術は無い。遠慮なくじろじろと観察される。フルフルと体が震える。それにあわせるように乳房も震える。そん卑猥な光景が四バカをさらに興奮させる。
 「どうする?もうやっちまうか?」
 「少しは濡らさねえときつすぎやしねえか?」
 「そういや、そうだ」
 踊り子の裸を見るのに飽きた馬面のホウル、牛面のカウルはお互いに目配せすると、踊り子の胸にむしゃぶりつく。十分な大きさを持った胸はフルフルと震え、桜色の乳首はその舌使いにピクピクと反応を示す。激しく啜り上げ、ざらざらとした感触に舌が乳首を舐め上げる。そんな激しい攻めに踊り子は頭を振って耐えようとする。
 「や、やめろ・・・やめろ・・・そんなところ・・・ああんっ・・・」
 身をよじって逃れようとするが二人の激しい舌使いはそれを許さない。ジンジンとしみこむような感覚が踊り子の脳を冒してゆく。そしていつしか声は鼻にかかり、喘ぎ声を漏らしてしまう。自分ではどうすることも出来ない快感、それに脳が囚われてしまったのだった。
 「上の方は二人に任せてわたしは下の方を堪能させていただきましょうか」
 鶏面のチウルは気障たらしくそう言うと、踊り子の割れ目に手を伸ばす。電気の走ったような感覚が踊り子の全身に走り抜ける。チウルは小水で濡れたそこをじらすように丹念に撫で回す。踊り子の喜ぶ箇所は決して撫でない。その傍ですぐに離れてしまうのだった。
 「何かリクエストがありましたら言ってもらいたいものですな」
 「そんなもの・・・ない・・・ひゃん!!」
 そのじらす愛撫にいつしか踊り子の腰はくねくねとくねり、割れ目の奥からはとろとろと愛液が滴り落ちてきていた。頭では嫌がっても、体は素直に反応していたのだ。それを止める術は無かった。
 「まったく、そんなちんたらやってるんじゃねえよ、チウル!こうやって舐めちまえばすぐじゃねえか!」
 小水を舐めていたピウルがチウルの愛撫に業を煮やして横から顔を突っ込んでくる。そしてその舌で踊り子の割れ目をべろりと舐めあげる。ざらりとした生暖かい柔らかな感触に踊り子は身を震わせる。そんな踊り子を無視して何度も何度もピウルは割れ目を舐めあげる。
 「やめろ・・・やめて・・・いやああああああぁぁぁ・・・」
 頭を振って懸命に逃れようとする踊り子。そんな彼女を四人がかりで押さえつけ好き勝手に愛撫する。
 「まったく貴方という方は・・・もう少し順序というものを覚えるべきですね」
 「けっ!ちんたらやってたら日が暮れちまうじゃないか!こっちは早くやりたくてうずうずしているんだよ!!」
 ピウルはそう言うと腰布を脱ぎ捨てる。人のものを超えたペニスがビクビクと戦慄き脈打っていた。それを目にした踊り子は力なく頭を振る。これまで色々な男と肌を合わせてきた。全ては情報を得るための手段だった。大きいの、小さいの、長いの、短いの、太いの、細いの、色々と見てきた。だが今見ているペニスはそのどれよりも大きく太く、長かった。それがビクビクと震えているのだ。
 「それもそうだな。さっさとはじめるか」
 「おうよ。で誰が一番だ?」
 「今回の一番撃破数の多かったものにしましょう。二番手は後ろの穴、三番手は口、ビリは手ということでどうでしょう」
 チウルの意見に他の三人も了承する。結果はホウル、カウル、チウル、ピウルの順番だった。ピウルは地団太を踏んで悔しがる。そんなピウルを無視してホウルはごろりと床に寝転ぶ。
 「おい、そのお嬢さんを上に乗せてくれ。そうでもしねえと俺様のでかいのは入らないからな」
 ホウルは下品に笑いながら自分の下半身を指差す。そこを見た踊り子は絶句する。ピウルのものなど比較にならないほど大きなペニスがそそり立っていた。がたがたと体が震えてくる。そんな彼女を左右からピウルとカウルが持ち上げる。両足を大きく広げ、ホウルのペニスの上に移動させる。
 「まったく、最初がホウルのものなんてな・・・かわいそうに・・・」
 「後で使う方はタマらねえぜ?がばがばになっちまってよ」
 嫌がる踊り子を無視してカウルとピウルは踊り子の割れ目にホウルのペニスの先端を潜り込ませる。
 「いや・・・やめて・・・誰か、助けて・・・」
 必死になって身をよじり何とか逃れようとする踊り子。だが巨人族の力は強く、逃れることは出来ない。必死に愛するものの名を叫びそれにすがろうとする。それも無駄なことだった。
 「そーら、天国にご案内だ!!」
 踊り子の体を力任せに押し下げる。ぶちぶちとホウルのペニスが踊り子の膣道を引き裂き奥へと進んでゆく。いくら何度となく経験を積んできた膣でもこれほど大きなものを入れるのは無理があった。その激痛に踊り子は声を上げることも出来ず、ビクビクと痙攣するだけだった。
 「なんだよ、入れただけで失神か?まだ半分も入っていないのによ」
 「しかたがねえ。このまま一気に全部入れちまおうぜ」
 カウルとピウルはそう言うと踊り子の体を力任せに押さえ込んだ。ずぶずぶと膣を押し開きペニスが奥に飲み込まれてゆく。そしてホウルのペニスはずるりと踊り子の最奥へと到達する。そこまでだった。踊り子は痛みに完全に意識を失い、白目をむいて失禁してしまう。
 「ちぃ、このアマ、人の腹に小便たれやがった。まったくお仕置きするしかねえな」
 自分の腹に広がる黄色の液体を見ながらホウルはブツクサ文句を言う。そして意識の無い踊り子を下から遠慮なく突き上げる。その突き上げに意識のない踊り子は力なく諤々とホウルの腹の上で踊る。
 「ううぅう・・・あああぁぁぁ・・・」
 徐々に意識が覚醒してきた踊り子がうめき始める。痛みによるものなのか、快楽によるものなのか判別は出来なかった。ただその顔は先ほどまでの頑固に拒む顔ではなかった。
 「へへっ。気分出てきたみたいだな。ほら、俺のも扱きな」
 「私のもしゃぶっていただきましょうか」
 踊り子の両手を解放するとピウルは自分のものを握らせ、チウルは己のペニスを踊り子の口の中にねじ込む。無意識なのうちに踊り子はそれを擦り、舌を絡めて舐めあげる。その表情は完全にイってしまっていた。おいしそうにペニスにむしゃぶりつき、先から溢れる液体を啜り上げる。
 「さてと、そろそろ本番と行くか」
 一人取り残されていたカウルが自分のペニスを扱きながら踊り子に近寄る。ホウルに突き上げられフルフルと震えるお尻を鷲掴みにすると、ヒクヒクと戦慄く穴にペニスの先端を宛がう。そしてそのまま遠慮など一切せずに押し進める。腸壁を引き裂いてカウルのペニスがアナルに埋没する。
 「ぎゃあああああああ!!!いやああ!!」
 激痛に踊り子は絶叫する。痛みは踊り子を正気に戻し、助けを求める。それは決してかなわぬ願いであった。その絶叫する口も、またチウルのものが差し込まれしゃべれなくなる。上から下から、口を、手を巨人どもが蹂躙する。痛みと屈辱、悲しみと怒り、様々な感情が交錯する。そしてそれはいつしか快楽へと押しつぶされてゆく。踊り子は一切の感情を捨てそれに身をゆだねてしまう。

 「んんっ、ひやあぁ・・・んう・・・んう・・・もっろぉ・・・」
 鼻にかかった声で喘ぎ、腰を振り、しゃぶりつく。完全に快楽に飲み込まれた踊り子は自分から落ちてゆく。そんな彼女をホウルたちはおもう存分犯し倒す。いやらしい水音とよがり声、肉のぶつかり合う音があたりに響き渡る。
 「お前たち、ストップだ・・・」 
 それまで狂乱の宴を静観していたアルデラがホウルたちに動きを止めるよう命じる。突然性交が中断され、快楽を与えてくれなくなったことに踊り子は抗議の声を上げる。
 「もっと・・・もっとかき回してよぉ・・・気持ちよくしてようぉ・・・」
 「して欲しければ先ほどの問いに答えよ」
 快楽を求めう踊り子にアルデラは静かに問いかける。その問いに踊り子はあっさりと口を割る。
 「・・・アレア。シンドルテアの隠密れす・・・」
 「では問おう、アレア。お前たちの狙いはなんだ。”白の巫女”はどこにいる」
 「貴方たちの足止めぇ。私はそのための情報収集係なの。”白の巫女”がどこにいるかは知らない」
 アルデラが見た限り嘘を言っているようには思えなかった。しばし考え込んだアルデラはさらに質問を続ける。
 「今回の一件、お前たちに指示を出したのは国王か?」
 アルデラの問いにアレアは首を左右に振る。
 「陛下はここしばらく寝込まれたまま。指示が宰相閣下とランバート司祭がされているわ」
 アレアは涎をたらして男を欲しながら素直に答える。今の証言から国王と”白の巫女”はいずこかに軟禁され、国の実権は宰相と司祭が握っているのに間違いはなかった。そしてランバートの名前はアルデラには聞き覚えがある名前だった。アルデラの顔に残酷な笑みが浮かぶ。
 「ネ、答えたんだから・・・お願い・・・もっとかき回して!!」
 懇願してくるアレアにアルデラは片手を挙げる。それに答えるようにホウルたちの動きが再開される。アルデラはそれ以上その光景を見ることなく席を立つと、ストナケイトたちと共に足早に退出する。背後からは四バカの遠慮の欠片もない攻めにアレアの壊れゆく声が響いていた。
 「どうします、ケイト?」
 「俺はこのまま軍を動かして敵軍を撃破する。せっかくいいものが手に入ったしね。これを使わせてもらうさ」
 そう言うとストナケイトは手にしていた指輪をアルデラに見せる。装飾品が施された豪華な指輪だった。
 「魔法の指輪ですか・・・どんな効果が?」
 「”通話”だよ。おそらくこれを使ってこちらの情報を流していたんだろうね」
 ストナケイトの言葉にアルデラはなるほどと思った。いかにここでこちらの動きを知り、敵軍のその情報が伝わり、対応を取ったとしても、対応が早すぎる。アルデラはそう思っていた。その種明かしがこの指輪だったわけである。ここで仕入れた情報をこの指輪を介して敵軍の報告する。これならば距離に関係なく、連絡を取れるわけである。そこで今度は逆にこの指輪を使おうというのである。
 「ですが誰にその偽の報告を?」
 「アレアだっけ・・・彼女にやらせるさ。ちょうどいい頃合だろう・・・」
 背後で響く嬌声はもはや言葉を為していない。獣のように喘ぎ、男を求めている。その彼女に情報を流させ、相手を混乱させようというのだ。こちらもやられたのだから文句は言えないだろう。
 「それにすでにまいた種がそろそろ芽を出すころだろう」
 「まいた種?アレのことですか?信用してもいいと?」
 「どうだろう。まあ、戦略の一つとして考慮して差し支えないだろうね」
 他の策があることを匂わせるストナケイトの言葉にアルデラは頷く。この戦いの天才が負ける可能性など万に一つもないことは彼女が一番よく知っていた。
 「それで君はどうする、アルデラ?」
 「私は一足先に王都へと飛びます。逢っておきたい人物がおりますので・・・」
 アルデラの言葉にストナケイトはそうかとだけ答えると、マントを翻して副官に昇格したロカに戦支度を命じる。全軍挙げて進撃し、一気に敵軍を撃破するつもりでいた。そんな彼の背後にはすでにアルデラの姿はなかった。夜の月の下ヴェイス軍の咆哮が響き渡る。


→進む

→戻る

ケイオティック・サーガのトップへ