第23話 決闘(後編)
決闘場を風が吹きぬける。肌に寒さを感じながらゼロは決闘場に立つ。すでに灰となった弟分たちの残りかすを手にとってじっと見つめる。いつか自分もこうなるときが来る。そのときまで自分がアインスたちと同じように後悔無く死んでゆける自信がゼロには無かった。
(オレも作られた命。いつかはその日が来る・・・)
ゼロはアインスたちと構造面、製作コンセプトの面で違っている。アインスたちが戦闘データ収集とための実験体であるのに対して、ゼロは生態データ収集のための試作品であった。つまり何回、どれだけ激しい戦闘を繰り返すとその命が消滅するか、どこまで肉体を強化できるのか、それがゼロの実験内容であった。
(まだコアが魔力を吸収している。これならまだあと数年は生きられるな・・・)
体内のコアが大気中の魔力を吸収して活動をしていることを感じながらゼロはそんなことを思った。セツナたちのように自分で魔力を精製し、コアに溜め込んでおくことはゼロには出来ない。また、アインスたちのように供給は出来ないものの最初から強大な魔力を内包しているわけでもない。ゼロはあくまで外気から魔力を吸い取り、それを溜め込んで力にしている。その代わりセツナたち同様、肉体的に成長すれば内包出来る魔力の総量も上がってくる。将来的には容量が変わらないアインスたちを上回る魔力を内包できるはずであった。
(よし、肉体的異変は無し。いける!!)
指の一本一本までゆっくりと動かしながら体の状態を確認したゼロは、小さくなずいて自分の状態がいいことに満足していた。これならばいい戦いが出来る。その自信があった。そんなゼロに対するルドオール兵はまだ現れていなかった。
「さて、どうする、ビアンキ?相手は敵の最弱の男だぞ?」
「そですね・・・」
レイトームの言葉にビアンキはニヤニヤしながら答える。内心の嬉しさがにじみ出た笑みだった。そのにやけ顔のまましばし考え込むと恭しくレイトームに頭を下げると、自分の考えを述べる。
「ここはファンスロットに任せるのが得策かと・・・」
「どういう理由じゃ?」
「残りの相手はクリフトと五天衆の一人、私とレイトーム様ならば負ける心配はありますまい。我々の勝利は動かしようがありません。ならばここは我が軍最弱の男、ファンスロットに花を持たせてやるのが得策かと・・・」
ビアンキの言葉にレイトームは満足そうに頷く。自分も同じ考えだったからである。ビアンキに呼ばれたファンスロットは木陰で昼寝の真っ最中だった。無理矢理起こされたファンスロットは眠そうな顔をしながらしぶしぶ決闘場へと歩いてゆく。ファンスロットの姿にルドオール軍からは勝負を投げたのかなどという野次と共に彼をバカに仕切った笑いが巻き起こる。
「こいつは驚いた・・・エリウス、お前、ここまで読んでいたのか?」
「まあな。後の2人と戦ったって、得るものがまるでないし、ゼロの実力は伸びが少なすぎる。彼なら負けてもいい経験が積めると思ってね」
エリウスの言葉にクリフトは苦笑する。正直ルドオール側とヴェイス側ではファンスロットの評価はまるで違っていた。八旗将を決める戦いでいつもぎりぎりの勝利を収める男、それがファンスロットであった。そのため八旗将最弱の男などといわれているのだった。それに対し、エリウスたちの評は違っていた。八旗将最強、それがエリウスたちのファンスロットの評であった。
「しかし鈍い奴らだよな・・・ファンスロットが自分たちより強いとは欠片も思っていないんだから・・・」
「仕方がないよ。彼は自分の実力を押さえ込んでぎりぎり相手に勝てる力しか出さない。そんな相手を見切るには相当な腕が必要だからね。あいつらの腕ではぎりぎりでしか勝てない奴、にしか映らないわけだ」
「ここから見ても隙のない方ですが、それほどまでにお強いのですか?」
呆れた口調のクリフトにエリウスは笑いながら答える。そんな2人に不思議そうな顔をしたイシュタルが尋ねる。こと戦いに関しては疎い彼女の眼からしたら、どれほどの腕かは分からなかった。そんなイシュタルの膝の上に頭をのせたままエリウスは面白おかしそうに答える。
「そうだね・・・多分今の実力でもリューナと五分に渡り合える力を持っているよ。それも変身後の、ね」
「な、生身の肉体で、ですか?」
驚くイシュタルにエリウスは頷く。生身の人間が融合人間のリューナ、それも変身した後の彼女と互角に渡り合えるとはにわかには信じがたかった。融合人間の強さはここに着てから嫌というほど見せてもらっている。配下の訓練に参加したリューナが変身前でほぼ全ての兵を上回る実力を示しているのだ。能力が跳ね上がる変身後は生身の人間では勝てない、それが戦いの素人のイシュタルが導き出した結論だった。
「では、ゼロ殿が勝てる見込みは・・・」
「今のままではまずないだろうね。それも生身のままではわずかな望みも無くなったよ」
それなら何故彼をその戦いの場に送り込んだのかがイシュタルには疑問だった。勝てる見込みのない相手に、それも変身させずに挑ませるなど、無謀以外の何物でもなかった。しかしエリウスからすればここでゼロが勝つか負けるかはさしたる問題ではなかった。
「あいつにはもっと経験をつんで大きくなってもらわないとね。そのためには絶体絶命の危機を潜り抜けてもらう必要がある。そう言う意味ではファンスロットは絶好の相手なんだよ」
エリウスの言葉を聞いたイシュタルは静かに頷いた。戦いには負けるがゼロは生きて戻ってくる。エリウスの言葉にはそんな自信が満ち溢れていた。ならば自分はそんな傷ついたゼロを癒してやればいい。そう思いつつ視線を決戦場の方へと戻す。すでにファンスロットは決闘場に上り、ゼロと真正面からにらみ合っていた。
「やれやれ、俺が出陣だなんてね・・・」
ファンスロットは面倒くさそうに首を揉みながらじっとゼロの様子を伺う。ゼロのほうは軽く構えを取っていつ戦いが始まってもいいように身構えているのがファンスロットにもよく分かった。その様子にファンスロットは嬉しそうな顔をする。
(こいつはもしかすると、久しぶりに全力で戦えるかも・・・)
そんな喜びに浸りながら、ファンスロットもまた構えを取る。ゼロが拳を握り締めた構えであるのに対して、ファンスロットは手の平を開いたゆったりとした構えを取っている。お互いにらみ合ったまま身動き一つで傷にいる。が、そのままでは埒が明かないと思ったゼロの方が先に動く。
「しゃあああああっっ!!」
唸りを上げて剛拳がファンスロットに迫る。相手を叩き潰さんばかりの威力を持った一撃だったが、その拳はするりとファンスロットの顔をかすめるだけだった。ニ撃、三撃と拳が唸りをあげるが、ことごとくファンスロットの髪や顔をすり抜けて行くだけだった。
「なんだ?何で当たらない?」
自分の攻撃が当たらないことにゼロは訝しげな表情を浮べる。ファンスロットがかわしている訳ではない。彼は一歩たりともそこから動いていないのだ。なのにゼロの攻撃はまるで当たらない。まるで自分の攻撃が自分から軌道を変えてファンスロットを避けているのだ。
「ならば!!」
勢いある攻撃が当たらないとふんだゼロは手数の多さで攻め立てることにする。鋭い拳の連打がファンスロットに襲い掛かる。ファレンの使った”双天武拳・連”よりも早く鋭い攻撃だった。しかしその攻撃すべてもファンスロットに当たることは無かった。すべてが彼の体を避けて通り過ぎてゆく。ゼロの鋭い攻撃に対する驚きと、それが全て外れてくれた安堵の声がルドオール軍から漏れる。
「なんだよあれだけすごい攻撃をするのかって驚いたけどけど、当たらないんじゃなぁ」
「まったくだぜ、見掛け倒しもいいところだ!」
ルドオール陣営からはそんな声が聞こえてくる。しかし当のゼロの方は焦りの色が浮かんでいた。完璧な連撃だった筈なのに、そのこと如くが外れたのである。いや、ここにいたってその理由が分かった。全て受け流されたのである。ファンスロットは力を殺さずに自分の体に当たらないよう全て受け流したのである。絶妙のタイミングと最小限の動き、力しか使わずに。その神業とも言える動きは戦いに慣れていないルドオール軍の兵には分かることはなかった。それを理解しているのは三人、エリックとエリーザ、そしてソルンだけだった。
「相変わらず見事な受け流しだな・・・」
「本当に・・・相手は自分攻撃が自分から軌道を変えたと錯覚してしまうほど綺麗ですわ・・・」
ゼロとファンスロットの戦いを見ていたエリックとエリーザは唸り声を上げる。2人はこれまでのファンスロットの戦いを見ても他の者たちはいまだその実力を認めることが出来ずにいる中、彼の実力を認めてきた数少ない人物であった。だからこそ、ファンスロットに絶大な信頼を置いていたのであった。
(まぐれか?)
あまりの見事な受け流しにゼロは思わずそう思ってしまった。先ほどの受け流しがまぐれかどうか確かめるようにもう一度鋭い連撃を見舞う。だが今回もそのこと如くがファンスロットには当たらず、受け流されてしまうのだった。ゼロは舌打ちをすると大きく後ろに後退する。
(このまま闇雲に攻撃していても受け流されるだけだ・・・もっと鋭く、早い一撃を!!)
腰を落とし、勢いをつけて猛然と再度ファンスロットに襲い掛かる。目にも止まらぬ連撃を繰り出して行く。その攻撃を意図もたやすくファンスロットは受け流す。しかしそれはゼロの予想範囲内だった。
(そのまま!!)
勢いに乗った連撃を受け流された瞬間、ゼロはファンスロットの腕に組み付く。思いもかけない行動に一瞬ファンスロットの動きが止まる。それをゼロは逃さなかった。巻き込むようにしてファンスロットを自分の拳の方へと引き寄せて行く。
「なに?!」
不意をつかれたファンスロットはその攻撃を受け流そうとしたが、片腕は封じられ、もう片腕ではその攻撃を受け流すことは無理だった。鈍い音を響かせてゼロの攻撃がファンスロットの顔にヒットする。
「よし、これなら!!」
ファンスロットから距離をとるとゼロはにっと笑って見せる。勢いに乗った強烈な一撃がヒットしたのだ。そのままファンスロットが倒れこむものと思い込んでいた。しかしその予想に反してファンスロットは平然としていた。
「そんな・・・手ごたえは確実に・・・」
驚愕の表情でゼロはファンスロットを見つめる。確かにファンスロットはゼロの攻撃を受け流すことが出来ずにその攻撃をまともに喰らっていたはずであった。なのに何のダメージもないかのように振舞っている。攻撃が当たらなかったのかとも思ったが、頬が赤く腫れ、唇の端からは血が滴り落ちている。それは紛れもなくゼロの攻撃が当たった証拠であった。
「ゼロの奴、なにが起こったか、わかっていないみたいだぜ?」
「まあ、仕方がないだろう・・・あんな神業、理解しろって方が無理だよ・・・」
ゼロとファンスロットの戦いを見つめていたクリフトとエリウスは感心したようにファンスロットを見つめている。ファンスロットの技術は2人の想像を超えるものであった。そんなファンスロットが何をしたのかまるで分からなかったイシュタルがエリウスの顔を覗き込みながら尋ねてくる。
「あの、エリウス様。今何をなさったのですか?」
「ファンスロットは攻撃を受けた瞬間、首を捻ってゼロの攻撃の勢いを受け流したんだ。いくら当たっても勢いのない攻撃じゃあ、ダメージは与えられないだろう?」
エリウスはイシュタルの顔に手を当てながら答えてくれる。戦いに関しては素人のイシュタルでもそのすごさはよく分かった。攻撃が当たったその瞬間を見逃すことなく受け流したというのである。まさに紙一重の見切りがなければ出来ない芸当である。そしてそれを成し遂げたファンスロットの強さも伝わってくる。
(もう一度試してやる!)
なにが起こったのか理解できなかったゼロはもう一度ファンスロットに飛び掛る。同じように連撃からの強烈な一撃をファンスロットに見舞う。今度は彼から目を話さず、攻撃が当たった瞬間を見逃すまいとじっと視線を集中させる。そして全てを理解し、舌打ちをするのだった。
「いい攻撃だった・・・俺の体に攻撃を当てたのは君が数年ぶりだよ・・・」
攻撃の当たった箇所を手で撫でながらファンスロットは感心しきった口調でゼロに話しかける。その表情は非常に嬉しそうなものだった。正直ファンスロットが全力で戦える相手など、現在のルドオール軍には皆無であった。自分たちの実力を過大評価し、まともに戦えるものなどいない状況だった。そのためファンスロットは受けに専念し、一切の攻撃を控えるという策にでた。そのため端から見れば一方的に攻撃されているだけのように見えたのである。そのためルドオール八旗将最弱などというレッテルを貼られる結果となったのである。そんなレッテルもファンスロットには興味がなかった。いつか自分を楽しませてくれる相手が出てくる。そう信じていたから。そしてその本気を出せる相手が今自分の目の前に現れたのである。
「自分から攻撃を仕掛けるなんていつ以来振りだろうな・・・」
ワクワクとする気持ちを抑えきれないままファンスロットは構えを変える。それまでのこじんまりとした構えから、左腕を前にして右腕を脇に固める。見たことのない構えにゼロはしばしその構えについて考える。しかしそれよりも早くファンスロットが距離を詰めてくる。
「考える暇もなしですか!!」
ゼロはグッと腰を落としそれを迎撃する。それまでのように受けに専念した構えではない上に自分から攻撃してきていることに自分の攻撃も当たるとふんだゼロは力のこもった一撃をファンスロットに見舞う。ファンスロットは唸りを上げて迫るその一撃を左腕一本であっさりと受け流す。そして右腕の掌底がゼロの顎をカウンターで捉える。
「がぐっ!!!」
鈍い音を立てて歯と歯がぶつかり合い、ゼロの体が高く宙に舞う。完全にカウンターで決まった一撃にゼロはそのまま倒れこみ動かなくなる。あまりに綺麗に決まった一撃にルドオール軍からも感嘆の声が漏れる。完全なるファンスロットの勝利、ルドオール軍の誰もがそう思っていたが、当の本人は右手をじっと見つめたままその場を動こうとはしなかった。
「ファンスロット、お前の勝利だ!さっさとその魔族の首をはねてしまえ!!」
レイトームが大声で命令するがファンスロットはその言葉が聞こえないかのようにしばし立ち尽くしていた。しばらく右手を見つめていたが、おもむろに構えを取る。その行動にルドオール軍からは疑念の声が、エリウスとクリフトからは感嘆の声が漏れる。
「さすがファンスロット、今の一撃が完全でなかったことに気付いたみたいだね」
「まあ、端から見ても完全に一撃だったからな」
エリウスもクリフトも感心仕切りだった。二人が言ったように、ファンスロットの疑念に答えるようにゼロがのそのそと立ち上がってくる。まだ足元がおぼつかず、よろよろとしながらも必死に立ち上がってくる。瞳はうつろで焦点が定まっていない。それでも何とか構えを取ってくる。
「ここまで出来る奴だったとはな・・・」
ファンスロットは嬉しそうに呟くと、また左前の構えを取りゼロに止めを刺すべく飛び込んでゆく。対するゼロも朦朧とした意識の中で必死に反撃の手段を考えていた。先ほどのように掴んで決める手もあるが、ファンスロットもそれは警戒しているはずである。他の手段を考えそれを実行する。
「やああああっっっ!!!」
気合とともに強烈な一撃をファンスロットに見舞う。先ほどよりも半歩踏み込んで攻撃する。しかしその気合いのこもった一撃もファンスロットはあっさりと受け流してしまう。そしてまたカウンターの掌底がゼロの顎を捉える。だが、それもゼロの計算の内であった。顎を引きながら左の上段回し蹴りがこれまたカウンターになる形でファンスロットの側頭部に命中する。お互い顎と側頭部に攻撃を受け、がくりと膝をついてしまう。
「ははっ・・・あと少しだったのに・・・」
満足そうな笑みを浮べたゼロはそのまま前のめりに倒れ伏す。ファンスロットも側頭部を押さえたままその場にしゃがみこんだまま動けなくなってしまう。両足が震えて立ち上がることが出来なかったのだ。
「攻撃する腕のほうからの攻撃・・・か。これなら受け流しは出来ないな・・・」
ゼロの本能的攻撃に感嘆しながらファンスロットは大きく溜息をつく。背後のルドオール軍からは止めを刺せという声が聞こえてくるが、もう動くことも出来ないし、たとえ動けたとしてもゼロを殺す気は無かった。ただ久しぶりに味わった戦いの満足感に浸っていたかった。
「ふん!やはり弱者はどうしようもないものだな!!」
蔑むような声にファンスロットは背後に目をやる。そこには愛剣を携えたビアンキがニヤニヤといやらしい笑みを浮べて立っていた。笑みを浮べたままビアンキはファンスロットの横を通り過ぎる。そして倒れたゼロの傍まで行くと剣をその首筋に当てる。
「おい、ビアンキ!何をする気だ!!」
「何って、お前の代わりにこいつに止めを刺してやろうと思ってな!!」
「余計なことをするな!」
ファンスロットは慌ててビアンキを止めようとするが、体が言うことを利かない。ニヤニヤと笑ったビアンキはファンスロットの静止に耳も傾けずに、ゼロの首筋に自分の剣を振り下ろして行く。鈍い音が響きファンスロットは思わず目をそらしてしまう。ゼロが首をはねられたものと思い込んでいたがどうも様子がおかしい。恐る恐るそちらに視線を戻すと、ゼロの前にクリフトが鞘に収めた剣でビアンキの一撃を防いでいた。
「き、きさま・・・」
「気絶した相手の首を取ろうなんて、悪ふざけが過ぎるぜ?」
片手でビアンキの剣を弾き飛ばすとクリフトは倒れたゼロに肩を貸してやって助け起こす。そしてビアンキには目もくれずにそのまま自陣へと戻っていこうとする。収まらないのはビアンキの方である。姿勢を整えるともう一度剣を構えなおす。
「貴様、どこへ行く気だ!!このまま私と戦ってゆけ!!」
激昂し声を荒立てるが、クリフトは完全に無視したままだった。罵詈雑言を浴びせかけるとようやく脚を止めちらりとビアンキの方に視線を向けてくる。そして一つ溜息をつく。
「今更死体とどんな勝負をしろって言うんだ・・・おとなしく死んでいてくれ・・・」
冷ややかな言葉の意味がビアンキにはわからなかった。眼の前の男がなにを言っているのかその意味がわからない。首を捻っていると、クリフトはそのまま振り向きもしないまま自陣へとまた歩き出す。バカにされたと思ったビアンキはまた大声でクリフトを罵る。
「貴様、わけの分からないことを言って煙に巻こうというのか、この臆病者め!そんなに私が恐ろしいのか!おい、無視するなといっているだろう!!」
あくまで振り向こうとしないクリフトに完全に怒ったビアンキは剣を振りかざして背後から襲いかかろうとする。が、一歩前に出ようとしてその姿勢を崩しいてしまう。なにが起こったのかまるでわからない。倒れゆく、ビアンキの視線はじっとクリフトを見つめていた。その視界が縦に真っ二つに割れてゆく。ビアンキが驚きの声をあげるよりも先にその視界は無数に割れそのまま真っ暗になってしまう。ビアンキの意識があったのはそこまでだった。後にはただ、無数に切り刻まれた肉塊が血の海の中に転がっているだけだった。
「恐ろしい人だ・・・俺でも数太刀しか見切れなかったもんな・・・」
背中に冷や汗をかきながらファンスロットは溜息をつく。クリフトと当たらなかった幸運を喜びながら、痛む箇所を押さえながら自陣へと引き上げてゆく。ルドオール陣営ではレイトームが眉を吊り上げて戦況を見守っていた。せっかく一勝リードしたのがわずか数秒で並ばれてしまったのだ。腹立たしいことこの上なかった。その腹立たしさに彼女の口調も荒くなる。
「ユーノ!ユーノ、楯を!!」
彼女の言葉に後ろに控えていた少年が慌てて大振りの楯を彼女に差し出す。だが、イライラとして何事も気に食わない彼女はその楯を受け取ると、ユーノと呼ばれた少年を受け取った楯で殴りつけるのだった。
「私が命じる前に渡す準備くらいしておきなさい、こののろま!!」
殴られて倒れたユーノを腹立たしげに何度も蹴りつける。ユーノは無抵抗のまま、ただレイトームのなすがままだった。ひとしきり殴りつけると、ようやく気分が収まったのかレイトームは楯をかざして決闘場へと進んでゆく。他のものの視線がレイトームに注がれる中、倒れ気を失ったユーのを抱き上げてファンスロットは奥へと下がる。
「まったく、ひどいことをする姫様だ・・・」
ブツクサ文句を言いながら下がるファンスロットの耳に大歓声が聞こえてくる。おそらくはレイトームが何かしらのパフォーマンスをしたのだろう。それで自軍が盛り上がっているのだ。そんな歓声もファンスロットには興味なかった。もはや結末の見えた戦いほど面白くないものはない。
「さて、この後に控える結末をどう受け止めますかな、女王陛下・・・」
ファンスロットの視線は女王ルイトームのほうへと向いていた。当のルイトームは自分付きのメイド、アンジェリカにワインを注がせながら悠然と戦いを見つめている。この戦い負ければ自分の首を捧げる約束になっている。しかし、あの強欲女王のことだ、何かしら卑怯な策を弄しているに違いない。そう思いながらファンスロットは最終戦が行われる決闘場へと視線を戻すのだった。
「さてと・・・最終決戦か・・・そろそろセツナとリューナも戻ってくると思うけど・・・」
伸びをしながら立ち上がったエリウスは視線を他の場所へと移動させる。その視線の先には扉があった。壁や屋根など何もない。ただ扉がその場に聳え立っていたのだ。エリウスがじっと扉を見つめていると、その扉が開かれる。そして扉の向こう側からぼろぼろになったリューナと澄ました顔のセツナが出てくる。
「セツナ。どうでしたか、修行は?」
「はい、この3日間の修行でリューナにも”双天武拳”の基礎を教え込めました」
そういいながらセツナはぼろぼろのリューナと消えてゆく扉を見つめる。”アナザー・ディメンション”別空間に時間軸の異なった空間を作り出し、扉を通して行き来する呪文。”双天武拳”の基礎を教え込むためにエリウスが作り出した亜空間である。そこでセツナとリューナはアインスたちが敗れた直後から篭り、あちらの時間で丸3日間、こちらの時間で三時間、みっちりと修行をつんで来たのである。修行でぼろぼろになったリューナの傷はイシュタルが癒しの魔法で癒してくれる。
「さて、リューナ。お前の出番だ・・・」
「わかりました。それで戦況は・・・」
「これで最終戦。勝敗は三対三の五分と五分。お前の勝敗がこの決闘の勝敗を決する」
エリウスの言葉にリューナは思わず息をのむ。そんな大事な試合を自分に任せられるとは思いもしなかった。緊張から汗が滲んでくる。心臓がドキドキと高鳴ってくるのが分かる。そんなリューナにセツナは厳かに声をかける。
「リューナ、貴方なら十分に勝てるはずです。”双天”は拳と脚、双方が揃って始めて型をなす。そのことを忘れないようにな・・・」
セツナの言葉にじっと耳を傾けていたリューナは自分の頬を一発はたくと、気合を入れなおして決闘場へと向かう。決闘場ではすでにレイトームがイライラした表情で待ち構えていた。
「アラ、来ましたの・・・恐れをなして逃げ出したかとも思いましたわ」
ふんと鼻を鳴らしてバカに仕切った顔でリューナを見つめてくる。そんなレイトームの態度はリューナにはどうでもいいことだった。自分の戦いをする、今のリューナにはただそれだけしか頭に浮かんでこなかった。スッと腰を落とし構えを取る。レイトームも楯を構える。大振りの楯はレイトームの姿を隠してしまうほど大きかった。そんな状況の中戦いが始まる。
「はああああっっ!!」
気合のこもった声と共にリューナは先制攻撃を仕掛ける。様子見の緩めの連打を見舞う。そのこと如くが大振りの楯に弾かれる。だがそれはリューノにとっては予想範囲内だった。踏み込んだ足を軸に後ろ回し蹴りを繰り出す。しかしこの一撃もレイトームはその楯で受け止める。鈍い金属音が響き渡る。
「くう、硬ッ!!」
楯の硬さに眉をしかめながらリューナは距離を取る。普通の楯ならばすでに拉げて使い物にならなくなっているはずだった。しかしレイトームの大振りの楯は拉げるどころか、傷一つついていない様子だった。たいした防御力の楯だとリューナは思う。もし完全に防がれていたら、技を出した直後を狙われていたに違いない。それが出来なかったということはレイトームのほうもリューナの攻撃の衝撃で反撃をする余裕は無かったのだろう。
「なら・・・」
リューナは軽くステップを踏むと、すばやい連打で揺さぶりをかける。だが、そのことごとくが楯に弾かれ、逆に軽い一撃には対応できるのか、レイトームの反撃の剣がリューナを襲う。二発、三発と繰り出されたたちが脇をかすめ、肌を切り裂いてゆく。
(軽い攻撃じゃあ弾かれて、反撃されるだけだ。なら重い蹴り技で楯を吹き飛ばす!!)
リューナは攻撃方針を変えると、後方に宙返りする。そのまま倒立すると手を軸に蹴り技を放ってゆく。遠心力のついた重みのある攻撃がレイトームの楯に激突する。鈍い金属音を響かせるが、レイトームの楯はびくともしなかった。元々重い楯はリューナの攻撃では弾き飛ばすことが出来なかった。
(このままじゃあ、ただの消耗戦になる・・・)
正直自分の方が不利である。いくら攻撃を加えてもレイトームにはダメージがまるで与えられない。逆にレイトームのほうは耐えるだけだが、時折攻撃してこれるし、楯を攻撃するこちらも手足にダメージを受けてゆく。長引けば長引くほど自分の方が不利であった。
(どうする・・・このままじゃあ、こちらがやられる・・・)
焦りが汗となり頬を伝って滴り落ちる。自分の負けはすなわちエリウスの死を意味する。そんなプレッシャーがリューナの動きを鈍くしてゆく。逆にレイトームのほうは動きが鋭くなり、反撃できる回数も増えてゆく。繰り出される攻撃にリューナの肌に細かい傷が付きそこから赤い血が滴りい取る。
「何をしているのです、リューナ!正面からだけが攻撃する場ではないでしょう!!」
セツナから叱責の声が響く。その言葉にリューナはようやくハッとなる。セツナから習った”双天武拳”の基礎、それには”双天舞脚”のほかの使い方も含まれていた。リューナはその事を思い出し、目を閉じる。そして大きく一つ深呼吸をして気分を落ち着かせる。
「”双天舞脚・瞬"・・・」
リューナのその呟きと共にその姿が消える。リューナの姿が消えたことにルオドール陣営からは驚嘆の声が上がる。レイトームもその姿を追って自分の立ち位置を移動させる。が、リューナの動きはそれをはるかに上回っていた。移動し着地と同時にすぐに移動する。着地時のためを利用しその動きをさらに加速させてゆく。いつしかその姿は幾つにも分かれてゆく。
「なんてスピードだ・・・俺でも目で追うのがやっとなんて・・・」
クリフトが感嘆の声を漏らす。クリフトでも目で追うのがやっとの移動速度である。レイトームにその姿を捉えることが出来るはずもなかった。きょろきょろとリューナの姿を追って辺りを窺うレイトームであったが、その体に大きな衝撃が走る。前から、後ろから、肩へ、脚へ、肩へ、ありとあらゆる箇所へと攻撃が加えられる。その攻撃を楯で防ぐことは叶わなかった。
「おい、セツナ。なんなんだ、あの動きは?」
「”双天舞脚・瞬"・・・"双天舞脚"の爆発的攻撃力を移動に特化した技です。その移動速度は目で捉えられるものではありません。そしてその移動は最終的には大気すら蹴り、宙を駆けます」
セツナの言葉にクリフトは唖然としてしまった。そんな移動をされたら楯を使った防御などなんの意味を成さなくなる。ただ一方的に攻撃されるだけとなってしまう。今のレイトームのように・・・しかし、その攻撃も硬い鎧に阻まれて決定的なダメージを与えるまでには到っていない。
「その程度の攻撃この鎧には毛ほども感じぬわ!!」
レイトームの言葉どおりいくら攻撃を繰り返しても、彼女にダメージを与えたようには見えない。しかしリューナはそれでも移動速度を落とそうとはせずに、ただひたすら何度も何度も攻撃を繰り返してゆく。効かない攻撃の連続にレイトームは勝ち誇った顔をして真正面からそれを受け止める。そんなレイトームの行動にセツナは冷ややかな笑みを浮べる。
「おろかな・・・どんな攻撃にも伏線があると何故気付かぬ?」
セツナは今リューナがやっている攻撃が次の攻撃への布石でしかないことがわかっていた。それはここにいる誰もがわかっていたし、ファンスロットをはじめとする八旗将の生き残りたちもそれを感じていた。その間にもリューナの攻撃はとどまるところを知らず、高速で動き回り、レイトームの鎧を叩いてゆく。その衝撃はいつしか内部へ振動として伝わりレイトームの内臓に深刻なダメージを与えていった。そのダメージにレイトームが気付いたときにはすでに遅かった。
「そんな・・・」
体が思うとおりに動かすことが出来ないことにレイトームは驚愕の表情を浮べる。腕も脚もまるで動かすことが出来ない。正面にリューナが姿を現してもその攻撃を自慢の楯で防ぐことさえ出来なかった。しかし、リューナはすぐには攻撃に出ずにその場に立ち、じっとレイトームを見つめる。
「どうですか、"双天武拳・凍”の味は・・・」
「き、貴様、私の体に何をした?」
「鎧の上から振動を与え、貴方の身体機能を麻痺させたんです。今の貴方は指一本動かすことも叶わない・・・」
そう言いながらリューナは両手をぐっと後ろに構える。腰を落とし、とどめの一撃をレイトームに見舞うべくダッシュする。その姿を青ざめた表情でレイトームは見つめるしかなかった。
「これで終わりです!"双天武拳・砕”!!」
気合のこもった声とともにリューナの両の掌底がレイトームの胸元に見事に決まる。激しい衝撃が体を突き抜け、レイトームはおびただしい量の血を吐きながら倒れこむ。そしてその体を守る鎧も粉々に砕け散ってゆく。己の吐いた血の海に倒れたレイトームの瞳から生気が失われてゆく。リューナは構えを時大きく息を吐くと、その右腕を高々と天にかざす。己の勝利を鼓舞するかのように。
「そ、そんな・・・レイトーム様が・・・」
「うそだ・・・わが国が負けるなど・・・」
レイトームの死と自国の負けがルオドール軍全軍に伝播してゆく。それは悲鳴となってルドオール軍を包み込んでゆく。ルイトームは怒りに満ちた表情で決闘場を睨みつけ、手にしていたグラスを八つ当たりにアンジェリカにぶつけている。グラスは砕け値を滴らせながらアンジェリカはそそくさと割れたグラスを片付けてゆく。
「このまま魔族の軍門に下るくらいなら・・・」
「そうです。幸い奴らは数人。こちらの全軍を挙げて戦えば・・・」
将軍クラスの者たちがルイトームの傍に集まって相談を始める。戦い終えたばかりのファンスロットたちは蚊帳の外でこれから起ころうとしている状況をじっと静観していた。たとえ戦闘になっても戦いには参加しない。それが正々堂々と戦ったヴェイス軍への礼儀だと思っているし、何より自分たちのほこりを汚される気がしてならなかった。
「人に仇なす魔族など打つべし!!」
「そう!無念の死を遂げられたサーナリア国王の無念、我らが晴らそうぞ!!」
ファンスロットもはじめて聞く言葉をルイトームは兵を鼓舞するために口にする。その言葉にファンスロットたちは混乱してしまった。すでに友好関係にあるサーナリア国国王を殺したとして何の益がエリウスたちにあるというのだろうか。それどころか、害しかないことをあの聡明なエリウスがするとは思えない。だが、サーナリア国国王の死を信じたルオドール軍兵の指揮は高揚してゆく。魔族打つべし、その気運があたりを包み込んでゆく。ちょうどそんなときだった。ルドオール軍の真ん中に巨大な棺桶のようなものが中から降り注ぐ。その棺桶は人が五、六人は入れるほど大きなものだった。
「なんだ、これは・・・」
傍にいた兵がその棺桶に手を触れてみる。すると大きな音を立てて棺桶のふたが開き、左右に扉が開いてゆく。そして中を覗き込んだルオドール兵は言葉を失った。それまでの魔族打つべしの気運もどこかへと吹き飛んでしまうものだった。棺桶の中にはスズハとスズハ配下の兵が全裸のまま吊るされていた。その体には無数のつたのような植物が絡みつき、スズハたちの性器を弄んでいた。
「あへっ・・・もっと・・・もっと、しへぇ・・・」
腰くねらせて更なる快感を求めるスズハのその姿は完全にその自我が崩壊し、淫欲に身を任せたものの姿だった。そんなスズハの姿にルドオール兵の間から動揺が生まれる。レイトーム付きの彼女は特殊部隊を率い、その部下は屈強の兵で固められていた。その当のスズハもその部下たちも淫欲に犯され完全に自我を崩壊させてしまっている姿はルドオール兵にとって驚愕の姿でしかなかった。
「いかがですか、我々との約束を反故にしようとした愚か者の末路は?」
上空から棺桶を落とした張本人、フィラデラが冷たくルドオール軍に言い放つ。その言葉の意味はルイトームにはよく分かっていた。そしてスズハの姿を見たファンスロットもその言葉の意味を理解する。
「女王陛下・・・貴方は・・・」
自分たちまで裏切られたことにファンスロットは怒りの形相をルイトームに向ける。それは意味を理解したエリック、エリーザ、ソルンも同じであった。徐々に動揺が全軍に広がってゆく。それは将軍たちの言葉でどうにかなるものではなかった。不信と疑惑があたりを包み込む。
「どうせ負けたら首を差し出す約束は反故にするんだろう?だったら一騎打ちでけりをつけないか?」
ひょいと決闘場に上がったエリウスは指でルイトームを挑発する。その挑発を受けたルイトームの表情が怒りに染まる。ここで受けなければ、自軍の崩壊は免れないような状況に陥ってきている。逆にここでエリウスを討ち取ることが出来れば、ヴェイス崩壊に持ち込む起死回生の一手となる。それならばとルイトームは席を立ち決闘場を目指す。そんなルイトームを将軍たちが慌てて押しとどめる。
「あのようなものの相手を女王陛下がなさることもありませぬ。ここは我らにお任せを!!」
ルイトームを押しとどめ自分たちが代わりに決闘場に向かおうとエリウスのほうを振り向く。だがそれは出来なかった。エリウスの鋭い眼光が将軍たちを射抜く。その眼光に体は動かなくなり、腰砕けの状態になってしまう。その場にへたり込んで動けなくなった将軍たちの横を静かにルイトームが通り過ぎてゆく。それをとどめることが出来るものはもはや一人もいなかった。
「やっと出てきたね。最初から僕らで戦えばよかったんじゃないかい、女王ルイトーム、いや、”九賢人”が一人、ルイトーム=ハンガ?」
「まったくだわ。あんな役立たずを使わずにわたし自ら貴方方を始末しておけばこんなことにならなかったでしょうに・・・」
冷笑を浮べながらルイトームは笑って見せる。自分の娘も含めこれまでの戦いで死んでいった者たちを蔑むような言い方だった。その言葉にエリウスは少し眉をひそめる。そんなエリウスを無視するようにルイトームはドレスを脱ぎ捨てその下に纏った戦闘服姿になる。
「この姿になるのは十何年振りかしら・・・」
「前国王を暗殺して以来じゃないかい?」
懐かしそうな顔をするルイトームにエリウスは肩を竦めながら答える。その言葉にルイトームは眉をひそめる。ルドオール軍内部に動揺が広がるがルイトームはそれを否定も肯定もしない。ただじろりとエリウスを睨みつけるだけだった。エリウスのほうはその視線をさらりと受け流しながら、指を鳴らして戦いに備えている。
「まったく貴方という方は・・・我が予定を全てぶち壊しにしてくれる!!」
怒りの形相に顔を染め、ルイトームは雄たけびにも似た怒鳴り声でエリウスを恫喝する。そして体に力を込め、肉体を変化させてゆく。二の腕が大きく盛り上がり、腿も今の二倍くらいに膨れ上がる。全身の筋肉が大きく盛り上がり、それまでのスリムなナイスバディが筋骨隆々のマッチョへと変貌する。
「このまま貴方を粉砕して差し上げましょう!二度と蘇れないくらいに!!」
そう叫びながらエリウスに飛び掛る。エリウスが回避したところにルイトームの拳が炸裂する。轟音を立てて決闘場の一部が粉砕される。そのままルイトームは跳躍し、エリウスを追撃する。その巨体からは想像できないようなスピードでエリウスに迫ると、その丸太のような脚でけりを放つ。何とかその一撃を受け止めたエリウスであったが、勢いまで殺すことは出来ず、数メートル吹き飛ばされる。そのエリウスをルイトームはさらに追撃する。高々とジャンプし、上空からエリウスに襲い掛かる。両足でエリウスを踏み潰し、豪腕で押しつぶす。
「す、すごい・・・」
エリウスを圧倒するルイトームの動きにルドオール軍から感嘆の声が上がる。その強さにそれまで途絶えていた歓声が盛り返してくる。しかしそれもごく一部の兵によるものでしかなく、まだルドオール軍内部にはルイトームへの疑念が渦巻いていた。
「まったくすごい怪力だな・・・身体強化魔法か?」
ルイトームの猛攻にエリウスは何とか逃れよろけながらルイトームに問いただす。しかし彼女はにやりと笑うだけで答えようとはしない。それがエリウスの言葉を肯定していた。エリウスは先ほど受けたダメージを確認する。肩とアバラを少しいためたくらいでダメージそのものはさほどひどいものではなかった。それを確認し終えると、すっと構えを取る。エリウスが構えるのとほぼ同時にルイトームは再度襲い掛かる。
「はぁぁぁぁっっっ!!」
豪腕が唸りをあげてエリウスに襲い掛かる。だがエリウスはその勢いを殺さずに逆に巻き込むようにしてルイトームを投げ飛ばす。その腕は関節を決めたまま。関節投げの激痛を堪える事が出来ずにルイトームはそのまま投げ飛ばされる。鈍い音を立ててルイトームの右腕が砕け散る。さらに投げられ、腕を折れたルイトームに追い討ちをかけるようにエリウスは足を使ってもう片腕を固める。腕を決められたまま押さえ込まれてしまう。
「ぬぐうううっっ!!」
「無駄だよ、力技で返せる関節技じゃあない」
エリウスの言うとおり動くことすらままならない。しかし、ここであきらめる気はない。ルイトームは腕を捨て脚で蹴り殺すつもりで無理矢理起き上がろうとする。ミシミシと腕関節が軋みをあげる。エリウスも逃がすまいと関節に力を込める。ミシミシいう音はどんどん大きくなり、ついに鈍い音を立てる。それと同時にエリウスは腕から手を離す。そのチャンスをルイトームは見逃さなかった。脚払いでエリウスの動きを止める。
「もらったぁ!!!」
脚を払われた折れたエリウス目掛けてルイトームは膝を落としてくる。顔に落とし、頭蓋骨を押しつぶす一撃だった。しかしエリウスはその一撃を倒立でかわすとその首に脚を絡めると、ひょいとその肩の上に飛び乗る。そしてそのまま首を決めたまま、ルイトームの背後に倒れこむ。仰け反るようにして投げられたルイトームは頭から地面に叩きつけられる。さらに首も鈍い音を立てる。
「うぐっ・・・がぁぁっ・・・」
首を押さえよろよろと立ち上がるルイトーム。そんな彼女が最後に目にしたのは巨大な火の玉だった。指先に魔力を込め、紅蓮の炎を呼び出したのである。ありえない光景にルイトームは驚きの声を上げる。
「そんなばかな!?ここは魔力を拡散させる結界で覆われているはず・・・それなのに何故魔法が仕える?」
「そんな結界、とっくになくなっているよ。あれだけ派手に戦えば決闘場自体そうとう歪んでいるからね」
エリウスの言葉にルイトームはようやくあたりの結界が作動していないことに気がついた。魔力を封じた結界の中で戦えば肉弾戦に優れた自分の方が有利だと思い込んでいたルイトームにとって予想外のことだった。いや、予想してしかるべきことだった。それを失念していたのは自分の落ち度だ。悔やむルイトーム目掛けて容赦なく叩きつけられた炎は悲鳴を上げるまもなくルイトームの髪も、肌も、骨も、全てを燃やし尽くしてしまう。
「ふうっ・・・終わりっと!」
極炎の炎の後には黒い残りかすだけが残っていた。肉弾戦に特化した"九賢人"でも、紅蓮の炎には敵わなかったという事である。ルイトームの死にルオドール軍からは悲鳴が巻き起こり、命の惜しい者たちは我先にと逃げ出そうとする。しかし、腰が抜けて動けないものがほとんどであった。先ほどまでルイトームに追従し魔族討伐を主張していた将軍たちも慌てて命乞いをしてくる。その代わり身の速さにエリウスは眉をひそめる。
「エリウス卿。此度の戦、わが国の完敗。我が首にて我らが主の首の代わりに・・・」
ファンスロットが一歩前に進み出てエリウスに願い出る。その後ろにはエリック、エリーザ、ソルンの三人も追従する。そんなファンスロットにエリウスは首を横に振る。
「此度の戦、汝らが悪いとお思うならば、新たな主のもと、その力を存分に振るうことで償ってくれ・・・」
「新たな主・・・?」
エリウスの言葉にファンスロットは首を傾げる。先王に子供はいない。その後祭であったルイトームも、その娘であったレイトームもすでにこの世にはいない。先王の兄弟もすでにルイトームによって排斥され、誰一人として王位を継ぐものは残っていなかった。そんなファンスロットにエリウスはゆっくりと説明を始める。
「今から十五年前、まだ先王がご健在のころ、彼は一人の侍女と関係を持ったらしい。その女性はたまたま先王の子供を身篭った。ところがその子供が生まれる前にルイトームは先王を暗殺、その王位を簒奪してしまった。そのためその女性はおなかの中の子供と共に王宮を去り、ルドオールの片田舎で子供を出産、おんなで一つで育ててきたらしい。」
初めて聞く話にルドオール軍に動揺が走る。特に動揺が激しかったのが貴族主義を掲げてきた貴族、騎士たちであった。次代の国王が民衆の味方になれば自分たちが今度は弾圧される側に回る。それを恐れていた。エリウスはそんな動揺し、顔を真っ青にさせている貴族主義者たちを鼻で笑うと、視線を他の方向へと移動させる。それに釣られて他の面々もその視線をそちらへと向ける。
「あ、あいつは・・・」
驚嘆の声が漏れ始める。そこにはレイトーム付きの召使、ユーノがこれまた動揺した顔つきで立っていた。誰も予想もしなかったことであるし、こんな話信じられるはずがなかった。エリウスはスッとユーノの前まで進む。
「ユーノ君だね?母上から受け取ったものを出してごらん・・・」
エリウスのその言葉にユーノはぎくりとした顔をする。動揺の色はさらに濃くなり、ガタガタと体を震わせている。どうしていいものかとじっとエリウスを見つめていたが、ようやく首から隠し持っていた首飾りを取り出すとそれをエリウスに手渡す。そしてエリウスはそれをファンスロットに預ける。それを見たファンスロットは言葉を詰まらせて驚いてしまう。
「間違いありません。これは先王愛用の首飾り・・・ではユーノが・・・」
ファンスロットの言葉にエリウスはこくりと頷く。当のユーノはおろおろとするだけでなにが起こっているのか理解できずにいるらしい。おそらく事実を聞かされないまま育てられたのだろう。そんなユーノにファンスロットはそっと近付きその瞳をじっと見つめる。
「ユーノと言ったな。これをどうしたんだ?」
「それは母さんの形見なんです。母さんが死ぬときに大事にしなさいといって渡してくれたものなんです・・・」
俯いたままポツリポツリと答える。その言葉に嘘はないだろう。しかし首飾りだけでは納得しない者もいるのは事実である。さらに決定的証拠を突きつける必要があった。ファンスロットは無言のままユーノの右腕を取るとその袖を引き裂く。露になった肩口には奇妙な文様があざとなって浮かび上がっていた。
「間違いない。貴方は先王の遺児、この国の正統な後継者です」
ファンスロットはそれだけ言うとユーノの前に膝をつき、深々と頭を下げる。それに習うようにエリック、エリーザ、ソルンが膝をつき敬礼する。それを見たほかの騎士たちも同じように膝をつき新たな主に敬礼する。ファンスロットは新たに自分たちの生きる道に喜びを感じていた。ユーノをよき主に、王にすることこそ自分の勤めだと思っていた。それはエリックたちも同じであった。逆に完全に肩を落としていたのが貴族主義者の面々である。もはやこの国で大きな顔をすることは出来ないだろう。それどころかこれからはこれまでのツケを払って行かなければならないかもしれない。そう思うと前進から力が抜けてゆくのだった。
「まあ、これからはユーノを中心に国を立て直すことだな。それと戦勝の品物は頂いてゆくよ」
おろおろとするだけのユーノに傅くファンスロットたちにエリウスの言葉が響く。顔を上げたファンスロットの目にはアンジェリカを肩に担いだエリウスの姿が映った。アンジェリカが戦利品だといわんばかりにエリウスは彼女を見せ付けている。
「その子はレイトームの・・・」
「そうだよ。だけど、僕が探していた"巫女姫"でもある。だからもらってゆくよ」
エリウスはそれだけ言うとアンジェリカを方に担いだまま自軍の方へと戻ってゆく。その姿をじっとファンスロットは見つめたまま、スッと首をたれる。自分たちに新しい道を示してくれたものへの礼であった。
「あ、あの・・・わたし・・・どうなるんでしょうか・・・」
「君には僕のところに来てもらう。いいね?」
魔族の元に連れて来られたアンジェリカは戦々恐々と言った面持ちで青ざめてしまっていた。そんな彼女に自分のもとに来ることを告げると、エリウスはアンジェリカの頬を撫でる。その手のぬくもりにアンジェリカは落ち着いたのか、大きく頷きエリウスの前に傅く。
「はい、よろしくお願いいたします。我が主よ・・・」
「いや、主とかそう言うのではなくて・・・」
「何でもお命じ下さい。何でもこなして見せます、ご主人様」
嬉しそうな顔でエリウスに傅くアンジェリカにエリウスは大きな溜息をつく。ただ自分にご主人様と言って傅いてくれる彼女の存在は少し嬉しかったりした。それが表情に出ていたのか、後ろに控えていたイシュタルがエリウスのお尻をギュッとつねる。
「いつっ!な、なんだい、イシュタル?」
「なんでもありません!!」
頬を膨らませてそっぽを向くイシュタルを何とかなだめようとする。ちなみに魔天宮に戻ったエリウスは他の"巫女姫"の面々からも同じようにつねられたという。これに対するエリウスの言い訳は・・・
「だってみんな”エリウス様”とは言っても"ご主人様”とは言ってくれないじゃないか・・・だから嬉しかったんだよ・・・」
というものだった。これを聞いた"巫女姫”をはじめ皆がエリウスの事をご主人様と呼ぶようになったという。さすがにこれは恥ずかしかったのか、すぐにやめさせることとなった。ただアンジェリカだけはエリウスのことをあくまで"ご主人様"と呼び続けたという。
「んんんっ・・・んふっ・・・」
ジュブジュブと水音を立ててアンジェリカはエリウスのペニスを口に含む。唾液がペニスに絡みつきいやらしい音を奏でる。エリウスの股間に顔をうずめたアンジェリカは熱心に、丹念にエリウスのペニスを舐め上げ、啜り上げる。エリウスに教え込まれたことはすぐに覚え、それを実行してくる。
「そうだ。口に含んだまま舌を絡めて・・・」
「んっ、ふぁい・・・・んんんんんっっ・・・」
エリウスの教えに小さく頷き舌を這わせる。唾液が絡みつき、テラテラといやらしくペニスが煌めく。アンジェリカは舌を這わせ、啜り、舐めあげてエリウスを喜ばせようとする。
「いいよ。それでは今度はその大きな胸を使ってご奉仕してくれ」
「はい。畏まりました、ご主人様・・・」
エリウスの命令にアンジェリカはペニスから口を離し、メイド服の胸元のリボンを解く。そして服の胸元のボタンを解放し、大きな乳房を露にする。大きな胸を揺らしてエリウスの前に傅く。胸を露にしたまではよかったが、この先どうしたらいいのか、アンジェリカには知識がなかった。
「その胸で挟みこむんだ。そして先端を舐める。いいね?」
「は、はい。わかりました、ご主人様・・・」
エリウスの言葉に自分が何をすればいいのか理解したアンジェリカは、慌てて大きな乳房でエリウスのペニスを挟み込む。熱く脈打つペニスを胸で挟み込み、擦り上げながらその先端を丹念に舐めあげる。ペニスを包み込む肉圧と、先端を舐め上げる快感にエリウスは気持ち良さそうな顔をする。そんなエリウスをもっと喜ばせようとアンジェリカは胸で擦りあげ、先端を啜り上げる。その快感にエリウスの腰は徐々に上がってゆく。
「いいよ、アンジェリカ・・・そろそろイくからね。全部飲めたらご褒美をあげよう・・・」
エリウスの言葉を嬉しそうな顔で聞いたアンジェリカはさらに激しくペニスを攻め立てる。その攻めにエリウスの限界はあっけなく訪れる。アンジェリカの口の中に熱い粘液が大量に放出される。喉に絡みつくような粘液を喉を鳴らして飲み込み、尿道に残った分まで啜り上げる。全て飲み終えたアンジェリカは嬉しそうな笑みを漏らす。
「よくできたね。じゃあご褒美は何がいい?」
「あの・・・その・・・」
モジモジと俯いたままアンジェリカは何も言えずにいた。しかし何をして欲しいかは言わなくてもよく分かる。エリウスはひょいとアンジェリカを自分の膝の上にのせると背後からその胸に手を這わせる。大きな乳房をやさしく揉み上げ、乳首を指先で転がす。
「もうこんなに乳首を勃起させて・・・」
「申し訳ありません・・・その・・・ご主人様のペニスを舐めていたら・・・」
「欲しくて欲しくてしょうがなくなっちゃった・・・そういうこと?」
エリウスが尋ねると、アンジェリカは恥ずかしそうに小さく頷く。それを見たエリウスは片手で胸を弄びながら、するりともう片手を下へと下ろす。スカートをたくし上げ、腿と腿に合わせ目へと指先を移動させる。黒い布に覆われたそこはすでに潤い、濡れていた。
「もうこんなに濡らして・・・そんなに欲しかったのかい?」
下着を横にずらし二本の指を割れ目へと押し込む。濡れたそこはあっさりと指を受け入れる。指先でアンジェリカの膣内を弄ると、アンジェリカの口から甘い喘ぎ声が漏れ始める。指をさらに奥へ奥へと押し込むと蜜はさらにあふれ出し、アンジェラの甘い喘ぎ声も大きくなる。
「ご主人様・・・そ、そんなにしたら・・・」
「気持ちいいだろう?でもこの先をどうして欲しいかは自分から言うんだ、いいね?」
とろんとした表情のアンジェリカにエリウスは囁く。アンジェリカは小さく頷くとそっと立ち上がり、下着を脱ぎ捨てる。そして自分でスカートをたくし上げ、両足を広げて濡れた自分の割れ目をエリウスに見えるようにしながらおねだりをする。
「ご主人様、私のこの濡れた場所にお情けを下さい、お願いします・・・」
エリウスはアンジェリカの腰に手を回すと自分の下に引き寄せる。そして自分のイチモツの上につれてくると、何も言わずにペニスを割れ目へと押し込んでゆく。みちみちと膣道を引き裂いてペニスが進む。
「ひぐっ!い・・・痛い・・・痛いです、ご主人様・・・」
目に涙をためて訴えるアンジェリカだったが、エリウスは無視して無理矢理、奥へとペニスを押し進める。ぎゅうぎゅうと膣壁がペニスを締め付ける感触を楽しみながら、奥へ奥へと進んで行く。一際硬いところで一瞬動きが止まるが、ぐっと力を込めてそこと突破する。
「あぐっ!!!」
全身を駆け巡る破瓜の激痛にアンジェリカはエリウスに両手、両足でしがみ付いて耐えようとする。処女膜を超えたペニスが子宮に到達するまでエリウスにしがみ付いたままじっと痛みに耐える。こつんと先端が子宮の入り口に到達して、ようやくエリウスは動きを止める。動きが止まったことでアンジェリカは、息を吐いて痛みを追いやろうとする。引き裂かれた膣道はズキズキと痛み、あふれ出した愛液に混じって破瓜の証が幾筋も赤い糸をエリウスの陰茎を滴り落ちる。
「あふっ・・・あああっ!!ご、ご主人様?」
息を吐いて痛みを抑えようとしていたアンジェリカだったが、痛みが収まる前にエリウスが動き始める。下から激しく突き上げ、傷ついた膣道をこすり上げる。激しい痛みに首を振って耐えるアンジェリカだったが、徐々にその感覚が違ったものに変わっていくのを感じた。痛みが収まり、僅かずつ快感を与えてくれる。その快感をもっと味わいたくて、アンジェリカは自分から腰を振ってそれを得ようとする。
「あんっ、ご主人様・・・もっと、もっと突いて下さい・・・もっと、激しくぅ!!」
甘える声を出してエリウスの訴えるアンジェリカ。自らも腰を振り、快感を貪る。2人の腰がぶつかり合い、アンジェリカの胸が激しく揺れる。その揺れる胸にエリウスはむしゃぶりついて、さらなる快感を呼び込もうとする。アンジェリカからあふれ出す愛液はさらに量を増し、愛液は空気を含んで泡立ち、淫らな水音はさらに大きさを増す。
「あああっ、ご主人様・・・、もう、もうわたし・・・もう!!」
ギュッとエリウスに縋りついてアンジェリカは限界を訴える。エリウスのほうも限界が近いらしく、腰の動きが激しくなる。さらに力強くペニスを突っ込み、子宮の奥へと押し込んでゆく。アンジェリカは小刻みに震えて、その動きを受け入れる。そして2人は大きな快楽の波へと飲み込まれてゆく。
「ひんっ、ご、ご主人様・・・ご主人さまぁぁぁッッッ!!!」
一際大きな声を上げてアンジェリカは絶頂の頂へと登りつめる。激しく膣道を締め上げてくる。その締め付けにエリウスも耐え切れず、アンジェリカの子宮奥深くへと己の精を吐き出すのだった。エリウスの熱い思いを体で感じながらアンジェリカは脱力してエリウスにもたれかかる。限界を超えた行為にそのまま眠りについてしまう。
「ふう。なんかいつもと違って新鮮だったな・・・」
"ご主人様"という言葉がここまで自分に活力を与えるものなのかと不思議に思いながらエリウスは眠りについたアンジェリカをベッドに寝かしつける。その首筋には"巫女姫"の紋章が浮かび上がる。
「そういえばこのこの紋章ってなんだろう・・・」
興味を覚えたエリウスはそっとそれを覗き込む。それを見て驚いた顔をする。
「うーん、まさかこの子が・・・」
スウスウと安らかな寝息を立てるアンジェリカの髪を撫でながらその紋章をただ見つめるしか、エリウスには出来なかった。かわいい寝顔で眠るアンジェリカを抱きしめると、エリウスもベッドの中に寝そべる。すぐに心地よい倦怠感が眠りを運んでくる。それにエリウスは抗おうとはせずに眠りの闇に身を任せるのだった。新たなる戦いへ向かうために・・・
闇の中。七つ目の燭台に明かりが灯る。四本目の鎖は引きちぎれ、男の狂気の笑いがそこには響いていなかった。珍しくその場に男の姿はなく、引きちぎれた鎖と明かりを灯した燭台だけが煌々と部屋を照らしていた。残りご本の鎖と五台の燭台。残されたそれらが来る日を待ちわびているのだった。
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