第27話 砲撃


 魔導都市ゼルトランド。魔法に関しては大陸一を自負する国家であった。王制は敷かず、魔術学院、ユーナス神殿、魔法戦士団の三つの組織が合議をすることで国家運営を果たす国家であった。それぞれのトップは最近代替わりしたばかりの魔術学院学院長フェイト=ファルビル、50年に渡ってユーナス神殿を守ってきた大司教ファーゼルト=ハティアス、魔法戦士団の大隊長ズソールの三人であった。
 現在この国はヴェイス皇国に敵対する態度を示していた。ユーナス神殿は言うに及ばず、魔法戦士団も敵対の意思を明確にしてる。唯一態度が不明であった魔術学院もリリスの一件から敵対の意思を持っていることが判明した。エリウスたちヴェイス軍がこの国の国境を越えたのはリリスの一件から一週間がたってからであった。

 「さてと・・・ゼルトランドの奴らがどういった行動に出てくるかな?」
 エリウスの私室を訪ねたクリフトはテーブルに足を投げ出し天井を見上げながらそんなことを呟く。そんな兄の態度に眉をしかめながらフィラデラはエリウスに報告を続ける。
 「そのゼルトランドですが、現在のところこれといった動きは見せておりません」
 「国境線にも兵を配置していなかったし、妙だな・・・」
 「ゾフィスの報告によりますと、魔法戦士団は全軍首都に集結、ユーナス神官戦士団もユーナス神殿にこもったままとのこと。魔術学院は所属の魔術師を呼び集め何かをしているそうです」
 フィラデラの報告を聞いていたエリウスはフムと考え込んでしまう。魔法戦士団と神官戦士団が動かないのは大体想像がつく。気になるのは魔術学院の方である。所属する魔術師全員を集めて何を画策しているのかが読めなかった。
 「とはいえ、このまま進むしか手はないか・・・」
 ここで待っていても相手に時間を与えるだけで解決策にはならない。もし魔術学院が画策しているのならば、こちらから飛び込んでみるのも手だった。早く動けば動くほど相手は準備が整わずこちらの方が有利に働く可能性が高い。
 「でもこのまま行くと三箇所同時作戦になりそうだな・・・」
 エリウスは今後のことを考えながらそう呟く。魔術学院、ユーナス神殿、魔法戦士団、それぞれがそれぞれの思惑で動いていることは間違いない。どれを後にしてもよいというわけではないだろう。ならば三箇所同時に攻め込んでこれを撃退するのが得策だろうとエリウスは考えた。
 「そうすると・・・編成をどうするかだ・・・」
 エリウスはそのまま押し黙って考え込んでしまう。魔術学院の攻略はすでに"五天衆"の面々に任せてある。リリスが志願してきたので回復したばかりのアンナを加えて送り込むこととなった。指揮はクリフトに任せてある。
 「ユーナス神殿は・・・」
 「そこには我らが行きましょう」
 ユーナス神殿に誰を送り込むかを考え込んでいたエリウスに立候補する声が掛かる。顔を上げるとそこにはストナケイトとアルデラがたっていた。
 「兄上、義姉上・・・どうしてこちらへ?」
 「ゼルトランド攻略となれば我らが出なくてはならないでしょう・・・」
 「・・・ファーゼルトのことですか?」
 厳かに答えるアルデラにエリウスは静かに訪ねる。アルデラはそれ以上何も答えようとはしなかった。彼が何者でアルデラやストナケイトとどのような因縁があるのかをエリウスは知らない。聞こうとも思わない。それでいいと思っているから。
 「わかりました。ユーナス神殿は兄上たちにお任せしましょう。あと補佐としてゼロをつけさせます」
 エリウスはストナケイトたちの申し出を了承する。ストナケイトたちはそれに感謝すると広間を出てゆこうとする。そこで一度歩みを止める。
 「殿下、今は戦時。配下をあまり優遇なさいますな・・・」
 暗に兄上といったことを戒めると広間から辞して行く。思わず癖が出たとエリウスは頭をかくと次の配置に気を配る。
 「魔法戦士団か・・・ここには・・・」
 「そこには私を行かせてもらえませんか、殿下?」
 配置を考えていたエリウスの頭上から声がかけられる。それに気付いたフィラデラが魔法の矢をそこに放つ。それが当たるよりも早くその者は下へと降りてくる。
 「ちょっと、フィラ!何するのよ!!」
 「オリビア、いくらあなたでも殿下を見下ろすようなことをすれば、容赦はしませんよ!!」
 キッとオリビアを睨みつけながら指先に電光を集中させるフィラデラ。それに対してオリビアも爪を伸ばして臨戦態勢をとっている。八大将軍同士のにらみ合い。その緊張に誰もがその戦いをとめられないでいた。お互いが相手の隙を窺い、隙を見つけたらいつでも攻撃する気で身構えている。
 「二人とも、いい加減にしないか・・・本気で怒るぞ・・・」
 それまで黙っていたエリウスがようやく口を開く。厳しい眼差しで二人を睨みつけている。エリウスのその言葉に従いフィラデラは電光を消し、オリビアも爪を短く引っ込める。それでもしばしにらみ合うと分と踵を返して背中合わせにそっぽを向いてしまう。
 「まったくこの二人ときたら・・・」
 幼い頃からそりのあわない二人は何かにつけてけんかをしてきた。物堅く生真面目なフィラデラ、いい加減でちゃらんぽらんなオリビア。相容れない性格の二人が仲良くないのは端から見ているレオナたちにもよく分かった。だが、幼い頃からこの二人を見てきたエリウスとクリフトの意見は違っていた。
 「まったくもう少しお互いに歩み寄れるようにならないと・・・」
 「仲がいいくせにすぐい張り合うからな、この二人は・・・」
 端から見ているととても中が言いようには見えなかったが、二人にはそう見えているらしい。それを証明するようにフィラデラもオリビアも頬を染めて困った顔をしている。二人に事実を言われて恥ずかしいのだろう。
 「まあ、いいや。オリビア、魔法戦士団は君に任せる。フィラ、君もだ。ディー、シィー、アールを連れて行くといい」
 エリウスにそういわれたオリビアは喜びを、フィラデラは”どうしてこの女と”と抗議の表情を浮べる。しかしエリウスの顔は一切の苦情を受け付けないといっていたので仕方なく黙ることにした。
 「エリウス様、王都まで2千を切ったそうです」
 見張りからの報告を受けたエリウスは頷く。距離千の位置に魔天宮を停止させ、三面同時進行を開始する予定であった。その位置まで魔天宮を侵攻させるよう指示を出す。その瞬間だった。轟音と共に魔天宮が大きく揺れる。テーブルの上の飲み物はこぼれ、調度類も次々に床に落ちて砕け散る。
 「なんだ、なにが起こった!!?」
 突然のことにエリウスは見張りに報告を求める。しかしその返事が戻ってくる前にもう一度大きく魔天宮が揺れる。今度は先ほどよりも揺れが激しく、エリウスたちも床に投げ出される。チビ竜やティムは泣きながらアリスに縋りついている。自分たちでもこれだけの騒ぎである。魔天宮内がどれほどの混乱になっているかとエリウスは心配になる。
 「キール、何かわかったか?」
 「は、はいです!フィントからの攻撃です!」
 「フィントからの?"メテオフォール"でも喰らったというのですか?」
 フィントからの攻撃と聞いたフィラデラが広域魔法でも受けたのかとキールに尋ねる。しかし、キールは首を振ってあっさりと否定する。
 「いえ、報告によりますと、光の矢のようなものが一直線にこちらに・・・」
 そこまで言いかけた瞬間だった。三度目の大きな衝撃が魔天宮を襲い、広間のバルコニーを、壁を吹き飛ばしてゆく。その衝撃で天井が崩れ落ちてくる。
 「きゃああああぁぁぁっっ!!」
 突然のことにアリスはチビ竜たちを抱きしめたまま身をかがめる。それでどうにかなるわけではなかったが、落ちてくる残骸はほとんどレオナとユフィナトアが砕いてくれたおかげで彼女たちに怪我はなかった。サーリアたち他の"巫女姫"たちにも怪我はない様子だった。
 「このままではまずいな・・・一時後退する!」
 みなの無事を確認したエリウスは即座に後退を指示する。手早く指示を送るエリウスの頭上の天井が崩れ落ちる。別のところに意識が集中していたエリウスの反応が一瞬遅れる。
 (しまった・・・)
 エリウスは眼前に迫った天井を見つめて舌打ちをした。"アトミック・ブレイク"で砕くことも、魔法障壁を張って防ぐことも間に合わない。それほど対応が遅れてしまった。大量の瓦礫がエリウスの頭上に降りかかる。
 「エリウスさまーー!!」
 レオナたちの悲鳴が響き渡る。床に落ちた瓦礫の巻き起こした土煙によってエリウスがどうなったか確認することは出来ない。崩壊した広間にはエリウスを捜し求める声だけが空しく響き渡っていた。


 「んっ・・・ここ・・・は・・・」
 意識が覚醒したエリウスはうっすらと目を開ける。体のあちこちがズキズキと痛む。しばし考え込んで何故こんなところにいるのか考え込む。
 「そうか・・・瓦礫の下敷きになって・・・」
 目の前に迫った瓦礫、その後のことは何も覚えていない。おそらくみんな総出で自分を助け出してくれたのだろう。エリウスはふうと溜息をつくと体を起こそうとする。が、どうやっても起こすことが出来ない。まるで金縛りに会ったかのように動くことが出来ないのだ。
 「な、なんだ?」
 慌てて自分の体のほうを見ると、寝かしつけられた自分の上や周りにはレオナたち"巫女姫"、エンやライたち神竜がクウクウと寝息を立てている。自分が心配で片時も離れようとはしなかったのだろう。ありがたいことではあったが、完全に自分の周りを固めてしまっていて身動き一つ出来ない状況である。エンやライにいたっては自分の上によじ登ったまま眠ってしまっている。心配してくれるのはありがたいが、これでは体がもたないぞと思うエリウスだった。
 「エリウス様、目が覚められたのですね・・・」
 部屋に入ってきたアリスがエリウスの意識が戻ったことに安心したのか、ホッとした表情を浮べている。その表情は疲れ切ってもので、青白くすらあった。たぶん自分が倒れてから休むことなく看病してくれていたのだろう。
 「心配をかけたみたいだね・・・」
 自分に近寄ってきて顔色を伺っていたアリスにそう囁くとようやく動かすことの出来た右手で髪を撫でてやる。アリスはうっすらと涙を浮べてエリウスの手を取ると自分の頬に当てる。
 「本当にびっくりしました。エリウス様が瓦礫に埋もれてしまったときはどうなるものかと・・・皆心配で、心配で・・・」
 「わかるよ。この状態じゃあね・・・」
 エリウスはそう言うと自分の足下のほうに視線を移す。アリスもそちらに目をやってくすっと笑う。走行するうちにレオナがまず目を覚ます。続いてユフィナトアが、サーリアが次々に目を覚ましてゆく。
 「エリウス様、気付かれたのですね!」
 「よかった。なかなか目を覚まされないのでどうしようかと・・・」
 皆嬉しそうな顔をしてエリウスに寄って来る。エリウスは皆が心配しいてくれていることが嬉しくもあり、恥ずかしくもあった。そして同時に少し困っていた。
 「あの・・・エリウス様、どうかなさったんですか?」
 その表情を読み取ったナリアが尋ねてくる。エリウスは乾いた笑みを浮べて自分の足元の方を指差す。そこではエンたちがモゾモゾと動き始めていた。おそらく今の騒ぎで目を覚ましてしまったのだろう。慌てて皆黙り込むが、すでに遅かった。
 「うにゅぅ・・・にゃに・・・」
 「うるしゃいの・・・なんかあっらの・・・?」
 まずエンとライが目を覚ます。続いてチイが、スイが、ランが目を覚ます。そしてしばし眠そうに目を擦っていたが、エリウスが目を覚ましているとわかると表情が一変する。
 「ああ!!エリウスが目、覚ましたぁ!!」
 「ほんとうだ!!エリウスが目覚ました!!」
 「心配したんだぞ、エリウス!!」
 「エリウス様、どこか痛いとこない・・・?」
 「・・・大丈夫・・・?」
 エンもライもチイもランもスイも目にうっすらと涙を浮べて尋ねてくる。エリウスはそんな彼女たちの頭を優しく撫でてやるとやさしく微笑んで答えた。
 「もう大丈夫だよ。心配かけたね・・・」
 エリウスの言葉にチビ竜たちの表情が一気に晴れる。エン、ライ、チイの三人はエリウスの胸の中に飛び込み、頬を擦り付ける。ランとスイはエリウスの袖口にしがみ付き嬉しそうな笑みを浮べる。いくらもう大丈夫とはいえまだ起き抜けでこれでは困ってしまう。慌ててレオナたちがエンたちを引き離そうとするがその前に誰からエンたち三人の頭を殴り飛ばす。
 「エリウス様はまだ目覚められたばかり・・・無茶をしない!!」
 「ヒョウ、痛いの・・・」
 「またぶった・・・」
 「ヒョウ、痛いじゃないか!!」
 ようやく目を覚ましたヒョウにいつもの如く殴り倒された三人は頭を押さえて涙ぐむ。殴ったヒョウの方は悪びれた様子はなく平然としている。ランとスイが涙ぐむ三人を必死にあやしている。大喧嘩になる前にとレオナたちがえんたち五人を抱きかかえエリウスから引き離してしまう。
 「すまない、本当にもう大丈夫だよ。ところで状況はどうなっている?」
 エリウスが尋ねるとイシュタルが一歩前に進み出て状況を説明してゆく。
 「現在魔天宮は王都フィントから2000の位置まで後退、今のところ敵からの攻撃はありません。魔天宮は大広間が崩壊しただけでほかに被害は出ておりません。ただ・・・」
 「ただ、なんだい?」
 「エリウス様を守ろうとしたクリフト将軍が頭を強く打って、現在もまだ眠ったままです」
 イシュタルの報告にエリウスは驚き体を起こす。自分の怪我がこの程度で済んだのはクリフトのおかげだったのだ。感謝すると共に彼の容態が気になってくる。
 「怪我のほうはもう大丈夫です。意識もそのうち回復するだろうとのことです。ですが大事をとって一週間ほど安静にしておいた方がよろしいかと・・・」
 頭を打ったのだからそれは仕方あるまい。クリフトが一週間もおとなしくしているか疑問だが、いい休養と思って休んでもらうにこしたことはない。
 「そうか・・・そうなると部隊の編成を一部変更しなければならないな・・・」
 エリウスはそう言うと考え込んでしまう。クリフトの代わりはフィラデラが務めてくれるだろう。そうなるとオリビアの補佐がいなくなってしまう。どうしたものかと考え込んでいるとレオナとユフィナトアが手を上げる。
 「エリウス様、私とユフィナトアが参ります。最近全力で戦ったことがありませんので戦いたくございます」
 レオナがそう言うとユフィナトアも頷く。レオナとユフィナトアの二人ならば敵の戦士団に遅れをとることはないだろう。しばし考え込んだエリウスはこくりと頷く。
 「わかった、許可しよう。残りの"巫女姫"たちは魔天宮で待機。ディー、シィー、アールの三人も魔天宮に残しておけ。奇襲を受けたときに少しでも戦力が欲しい」
 「畏まりました。それと・・・」
 「なんだい、イシュタル」
 「どうやって王都に近付きましょう・・・王都に近付く前に先ほどの謎の兵器で狙い撃ちされそうなのですが・・・」
 イシュタルの言葉にエリウスは固まってしまう。確かにそのとおりである。先ほどの謎の攻撃を掻い潜らなければ王都に近付くことは出来ない。近付かなければいかなる戦力を持ってしても無駄でしかない。
 「さっきの攻撃の正体さえわかれば・・・」
 「そのことについては我輩から説明しようぅ!!」
 また考え込んでしまったエリウスに今度は別のところから声がかけられる。そちらの方に目をやると扉を大きく開け放ってドクターがジェニーを連れて入ってきた。胸を張り、妙にえらそうである。一応そのことへの突っ込みはなしにしておいてエリウスはドクターに聞き返す。
 「ドクター、先ほどの兵器のことをご存知で?」
 「話を聞いた限りではおそらく、魔導砲であろうな!!」
 「魔導砲?」
 「うむ!純粋な魔力だけを圧縮し打ち出す兵器だ。魔力の密度によって射程、威力とも変わってくる」
 ドクターは敵が使った兵器について説明してくれる。それを聞いてエリウスは納得がいった。魔天宮は魔法攻撃に対してかなりの防御力を持っている。しかしそれは属性魔法に対してである。純魔力の攻撃など人間には出来ないことであり、仮に出来たとしても魔天宮を崩すほどの威力を精製するのは不可能に近い。
 「なるほど。でもどうやってそんな強大な純魔力を・・・」
 「おそらく学生まで動員して魔力を精製しているのだろう。一人一魔力ずつでも1000人いれば1000魔力になるからな。何人もから魔力を同時に集められるようになっているの、あの砲台は!!」
 「そうですか・・・って、ドクター、何でそんなに詳しいんですか??」
 あまりにドクターが敵の砲台について詳しいことに疑問を持ったエリウスが問い詰める。しばしエリウスの目をじっと見つめていたドクターだったが、ついっと視線をそらしてしまう。
 「あっ!目をそらした!!」
 「目をそらした!悪いことしたんだ!!」
 そんなドクターの行動にチビ竜たちが騒ぎ立てる。しばし困った顔をしていたドクターだったが、やがて観念したのか、視線をエリウスのほうに戻す。
 「理論を構築したのは50年も前の話じゃぞ?まだ残っておるとは思わなくての・・・」
 ドクターは恥ずかしそうに白状する。ドクターはヴェイスに来る前はゼルトランドの魔術学院に在籍していたことは聞いたことがある。その彼が魔術学院を飛び出し流浪の旅をしていたところをスカウトしたのである。
 「そうなると、ドクターが構築した理論を組み直したものがいるということですか・・・」
 「そう言うことになるのぉ・・・」
 エリウスは余計な事をしてくれると舌打ちをする。
 「それでこの砲塔の弱点は何かないのですか?」
 「弱点か?いくつかあるぞ?例えばチャージに時間がかかる。地下には攻撃が及ばない。そんな弱点があるぞ?」
 相手がどれほど余力を残して攻撃してきているかはわからない。チャージし始めたと飛び出して砲撃されたんではどうしようもない。しかし、地下を通るほうも問題がある。地下を掘り進む能力を持ったものが一人もいない。妖魔を使って徐々に掘り進めいったら一週間以上かかってしまう。
 「手詰まりか?なに、こんなこともあろうかとモグラ型の融合人間を用意してきてやったぞ!!」
 胸を張るドクターのあまりのご都合主義にエリウスは眩暈がしてきた。そんな都合よく作っていられるものなのだろうか・・・しかし今はそんなことを気にしている余裕はない。相手が動き出す前に殲滅しなければこちらがやられる可能性があるのだ。
 「よし、全軍に伝達!作戦、開始!!」
 エリウスの号令でゼルトランド攻略戦が開始される。長くもあり、短くもある厳しい戦いが・・・
 「んっ?そういえばアンは?」
 唯一姿が見えない神竜が気になったエリウスはみなに尋ねてみる。みんなも辺りを探し出す。果たしてアンはベッドの上にいた。涎をたらしながら気持ち良さそうにスピスピと寝息を立てている。アレだけの大騒ぎがあったというのにたいした神経である。さすが最強の神竜とエリウスは感心してしまうのだった


 集合場所に集まった一同を待ち構えていたのはドクターと先ほど報告のあったモグラ型融合人間であった。えらそうに胸を張ったドクターの後ろに隠れるようにしているモグラ型融合人間を見た一同の表情が一変する。
 「ええ・・・ああ・・・ドクター、一つ聞いてもいいかい?」
 「なんですかな、若様?」
 「それがモグラ型の融合人間かい?」
 思わず聞いてしまったエリウスの質問がその場にいる皆の同じ意見であった。当たり前のことを聞かれたドクターは憮然とした表情を浮べる。
 「これがモグラ以外の何に見えるというのですかな?」
 「いや、姿かたちのことを言っているんじゃなくて・・・」
 エリウスの、いや、皆の視線が一点に集中する。男性陣は呆れた顔をし、女性陣は顔を赤く染めたり、憤然とした表情を浮べている。その視線を感じるのかモグラ型融合人間は恥ずかしそうに俯いてしまっている。その視線にようやく気づいたのかドクターは嬉しそうに説明を始める。
 「おお、お気づきになりましたか!!」
 「いや、誰だって気付くって・・・」
 気付いてもらえたことが嬉しいのかドクターは満足そうな笑みを浮べいる。もっともこれだけ目立つものに気付かない方がどうかしていると思うのはエリウスだけではないだろう。
 「で、なんなんだい、これは・・・」
 「うむ。地底を掘り進むことの出来る武器を考案していた際に行き詰まりましてな。ブシン殿に相談したんじゃよ。そうしましたらこういう武器があると教えてくださっての!!」
 「ほうっ・・・」
 「その名も”ドリル"!!男の浪漫だそうです!!」
 そう叫びながらドクターは金属製のらせん状の突起を紹介する。
 「ええっと、ドクター。ちょっといいかい?」
 「皆まで言いますな!何故これが男の浪漫かというと・・・」
 エリウスの問いにドクターは勝手に答え始める。よほどドリルが気に入ったのか、完全に悦に入ってしまっている。
 「いや、男の浪漫どうのはどうでもいいんだ・・・僕が聞きたいのは・・・」
 「なんですかな?」
 「そのドリルが何で股間についているかということなんだけど・・・」
 エリウスの言葉にその場の全員が頷く。モグラ型融合人間の股間には特大のドリルが燦然と輝いていた。それが恥ずかしいのかモグラ型融合人間は俯いてしまっている。当たり前の話である。生まれて来て自分の股間にそんなものが生えていたらどれほどの衝撃だろうか。しかし、ドクターのほうはまるで気にした様子はなかった。
 「硬度、回転数とに最高レベル。厚さ10センチ以上の鉄板にも楽々と穴を開けますぞ!!」
 「いや、ドリルの性能もどうでもいいんだ・・・なんで股間に付けたかを聞きたいんだけど・・・」
 一人話の見えていないドクターは悠然とドリルの性能について説明を始める。しかし、エリウスたちからすればそんなことどうでもよかった。どうして股間につけたかの方が気になったから・・・
 「そんなもの決まっているではないですか!!」
 「どういった理由だい?」
 「男の浪漫だからです!!」
 ドクターの説明に全員が呆れた表情になる。そんな理由で股間につけたというのか。皆がモグラ型融合人間に同情してしまう。こんな生みの親を持って不幸だったというよりほかにない。
 「ドクター、ブシンも股間につけろと言ったのかい?」
 「いいや、ブシン殿はなにも言っておりませんぞ!」
 それを聞いて皆から溜息が漏れる。ブシンのほうもまさか股間にドリルをつけるとは思っていなかっただろう。このマッドサイエンティストには常識という言葉は通用しないらしい。
 「・・・まぁ、いいだろう。それでこのモグラの配属先だけど・・・」
 「それはもちろん、構成の薄いオリビアか、ストナケイト殿のところですね!!」
 「いや、我らはゼロを加えた少数精鋭で十分!オリビア殿が・・・」
 「うちもレオナ様たちがいらっしゃいますから結構です!新人の管理はフィラの担当ではなかったかしら?」
 皆が皆、この得体の知れないモグラを連れて行く気にはなれずお互いに権利を譲り合う。いや、押し付けあう。エリウスは溜息をつきながらその光景を見つめていた。口を挟んで恨まれるのはごめんこうむりたかったから・・・
 しばしの議論の後、ようやくモグラは脱出地点で待機することで話しが一致した。誰にも受け取ってもらえなかったモグラ男はめそめそと泣いている。一応エンたちに慰められているが、子供に慰められてはさらに落ち込むというものである。哀れなモグラ男を無視してエリウスはようやく進軍できるとホッとする。
 「よし、進軍開始!」
 エリウスの号令一過、モグラ男の掘る穴を通って一路ゼルトランドの首都フィランを目指すのだった。


 「うふふっ・・・いい子ね・・・」
 暗闇の中女が少女の首筋をチロチロと舐め上げる。へびのように長い舌が少女の体をうごめき、嘗め回してゆく。
 「ああっ、副学長・・・そこは、そこは・・・」
 「いいわ、若い子は・・・肌が綺麗で活力に漲っている・・・」
 ゼルトランド魔術学院副学長グロリア=ビーズは大の女好きとして有名だった。男好きとしても有名だが・・・これまで彼女の毒牙にかかってきた女子学生は数知れない。成績や単位をネタに呼び出し毒牙にかけてゆくのが彼女の手段だった。今日とて、先日中途入学を果たしたばかりの女子生徒に目をつけ呼び出したところである。
 「もっと、鳴きなさい・・・気持ちいいと、壊れてしまうと・・・」
 グロリアは長い舌を少女の肌に這わせながらギロリと睨みつける。蛇に睨まれた蛙のように少女の体は動かなくなり、グロリアのなすがままにされる。グロリアは嬉しそうに少女の乳首を口に含む。
 「ふふっ、ピンク色の乳首・・・綺麗だわ・・・」
 幼さを残す胸をチロチロと舐め上げ刺激してゆく。襲ってくる快感に恐怖し、少女は大きなリボンを揺らして頭を振る。そんな少女の快感と恐怖の入り混じった表情がさらにグロリアを興奮させ、欲情させる。半裸の少女の体を細い指が蠢き、乳首を舐り、お尻を撫で回す。
 「ふぁぁ・・・副学長・・・もっと、もっとしてください・・・」
 「いい子ね、素直なことはいいわ・・・」
 グロリアはそう言うと少女の股間に指を這わせる。一瞬びくりと体を硬くする少女だったが、すぐに体の力を抜きグロリアの指を受け入れる。下着の上から恥毛をまで回していた指はすぐには割れ目には行かずに内腿をゆっくりと撫でてゆく。そのもどかしさがたまらないのか、少女はモジモジと腿を擦り合わせ始める。
 「ふふっ、どうしたの?」
 「あの・・・その・・・お股が・・・熱いんです・・・」
 「どこが熱いのかしら?」
 恥ずかしそうに顔を赤く染めた少女の訴えにグロリアは意地悪く尋ねる。はっきりとどこが熱いか答えるように強要する。隠語など使ったことのない少女はなんと言っていいかしばし考え込んでしまう。そしてようやくなんと言えばいいかを悟り、蚊の鳴くような声で訴えかける。
 「あ・・・オ・・・マン・・・コ・・・をいじって・・・くだ・・・さい・・・」
 「もっとはっきりいなさい!!」
 言いよどむ少女をしかりつけたグロリアはわざと少女の乳首を捻り上げる。痛みに少女は涙目になって何度も頷く。それに満足したグロリアは乳首から指を離す。ホッとした少女は涙目のままグロリアに訴えかける。
 「おねがいします。私のビショビショのオマンコをめちゃくちゃにしてください・・・」
 「よく出来ました。今いじってあげるわ・・・」
 意地悪というスパイスをかける事で燃え上がった少女の肉体をグロリアは待っていましたとばかりに貪り始める。大きく勃起した乳首を唇に挟み込んで舌先でチロチロと舐めながら、割れ目を下着の上からゆっくりと撫で回す。あふれ出した愛液が下着を濡らしもっと欲しい、もっといじって欲しいと訴えてくる。
 「ふふっ、こんなに濡らして・・・もっといじめてあげる・・・」
 グロリアはそう言うと少女の下着をずり下ろす。うっすらと生えた恥毛の感触を楽しむと、指を割れ目の中へと押し込んでゆく。男を知らない少女の膣道はグロリアの指を押し返そうとする。
 「いい感触だわ・・・もっと感じなさい、もっと喘ぎなさい。淫らに狂いなさい!!」
 グロリアはそう叫びながら少女の膣内を弄り回す。少女の感じる箇所を見つけては撫で回し、弄り回す。その度に少女の口から喘ぎ声が漏れ、愛液を滴らせる。あふれ出す愛液はいつしか潮のように噴出し、ベッドをぬらしてゆく。
 「へあぁっ・・・もう、ダメ・・・狂っちゃう・・・」
 「この程度で狂っちゃダメよ・・・」
 うつろになった眼差しでグロリアを見つめる少女の口から漏れた言葉にグロリアは更なる快感を持って答える。濡れた穴の少し上、勃起した豆をもう片手の指で摘む。感度の強いそこを激しく攻め立てられた少女は悲鳴にも似た声を上げて喘ぐ。
 「ひゃああっ!!!そこ、そこは!!!ダメダメダメェェッッ!!!」
 絶頂を向かえビクビクと何度も痙攣する少女から手を離し、グロリアは満足そうに頷くと少女の脚を大きく広げてその股間に顔を埋める。イったばかりのそこは蜜を滴らせながらヒクヒクと戦慄いていた。
 「すごいわね、こんなに濡らして・・・」
 感心したグロリアはぺろりとあふれ出す愛液を舌ですくってみる。たったそれだけでも少女の体は痙攣を起こし、愛液を噴出してくる。グロリアは満足そうに頷くと口を割れ目に押し当て愛液を音を立てて啜りだす。わざと大きな音を立てて啜ることで少女の羞恥心を刺激する。
 「やだぁ・・・そんな大きな音・・・立てないで・・・」
 頭を振って嫌がる少女だったが体に力が入らず、どうすることも出来ない。ジュルジュルと啜られる音を聞きながら体を震わせているしかなかった。
 「なかなかの味ね・・・それじゃあ・・・」
 グロリアは愛液を舐めるのをやめると体を起こす。そして少女の足を大きく広げるとそれを跨ぎ、自分の股間を少女の股間に押し付ける。ちょうど二人の割れ目が重なるような格好になる。

 「さぁ、いくわよ・・・」
 グロリアはそう言うと腰を動かし始める。お互いの割れ目がこすれあい、溢れた愛液がグチグチといやらしい音をかなで始める。陰唇がこすれあい、クリトリスとクリトリスがぶつかり合う。感じたことのないような快感に少女は発狂寸前だった。
 「やだぁ・・・狂っちゃう、おかしくなっちゃう・・・い・・ああああああっっ!!」
 狂いそうな絶叫をあげて少女が悶える。それでもグロリアは攻め立てることをやめようとはしなかった。少女の割れ目と絡め愛、クリトリスをぶつけ合う。自らも高みを目指して・・・
 「もう・・・ダメ・・限界・・・ああああああああっっっっ!!!」
 「こっちも、もう・・・・」
 少女とグロリアがほぼ同時に体を震わせる。ほぼ同時に頂へと登りつめた二人はしばし余韻を味わうかのようにお互いのヴァギナを擦り合わせていた。やがてグロリアの体が少女から離れる。少女は悲しそうな表情を浮べるとグロリアに縋りつく。
 「副学長、これ一回きりにしないで下さい・・・お願いします・・・」
 「・・・いいわよ。この後のことに耐えられたらね・・・」
 グロリアはそう言うと指を鳴らす。それに答えるかのようにドアが荒々しく開けられ数人の男子学生が中へと入ってくる。全員全裸でむき出しのペニスがビクビクと嘶き、女を求めている。
 「ふ、副学長・・・これは・・・」
 「私のかわいい実験動物よ。人より強い魔力を与えたんだけど、異様なほどの性欲を見せてね。悪いけど、この子達の性欲処理をしてあげて頂戴」
 グロリアは冷めた眼差しで少女を見つめながらそう言うとさっさとベッドから降りてしまう。変わって男子生徒たちがベッドの上に上がってくる。逃げそこなった少女はあっという間に男子生徒たちに取り囲まれてしまう。皆目を血走らせ、口の端に泡を吹いている。とても正気とは思えない。
 「もし貴方が正気を保っていられたら、また相手をしてあげるわ・・・」
 「い・・・い・・・いやぁぁぁぁっっっ!!」
 少女の絶叫が狂宴の始まりを告げた。男子生徒は次々に少女に群がり少女を汚してゆく。かわいらしい小さな口にペニスを押し込む、頭を押さえ込んで無理矢理動かす。白い両手にいきり立ったペニスを握らせ、自分の手を添えて扱かせる。二度の絶頂で濡れそぼったヴァギナにいきり立ったペニスを捻じ込んでゆく。
 「ふぐっ!!ふうううううっっ!!」
 声にならない絶叫を上げて少女は嫌がる。しかし押さえつけられた状態ではどうすることも出来ない。無理矢理処女を散らされ少女は泣き叫ぶ。それでも欲望を抑えきれない男子生徒の一人がアナルへとペニスを押し込んでゆく。全身を汚された少女の目から光が失われてゆく。
 「ふううっ、うううううっ・・・・」
 ふさがれた口から漏れる声は物悲しく、寂しいものだった。その後三時間、少女は男子生徒の慰み者としてただただ犯され続けるのだった。ようやく満足した男たちが少女から離れたときには少女の体は精液で汚れまくり、膣からもアナルからもとめどなく精液がこぼれてくる状態だった。
 「以外に持ったほうね・・・でももう、使い物にはならないわね・・・」
 皺が目立ち始めた顔で少女を見下ろすと、グロリアは鼻を鳴らして勝手なことを言う。そして壊れた少女をそのまま放置すると男子生徒を連れてその場を後にする。壊れた少女は身動き一つせず、死んだかのように眠るのだった。


 ゼルトランド魔術学院。その校門の前にフィラデラに率いられた”五天衆"が集結していた。門を硬く閉ざした魔術学院を見上げながらフィラデラは全体像を把握してゆく。
 「あそこから見えるのが例の魔導砲ね・・・」
 学院の塔の一角に設けられた砲台を発見したフィラデラは感心した口調で呟く。相当な大きさの砲台で狙いは間違いなく魔天宮に向けられている。射程外に魔天宮が落ち着いているためか、砲撃する気配は感じられない。それよりもフィラデラが気になったのは学院の外には一切警備はしかれておらず、完全な無警戒状態であることだった。
 「妙な話だな・・・これほどの攻撃力を持った砲台を他のニ勢力が守ろうともしないとは・・・」
 一切警備がしかれていない状況にフィラデラは首を傾げる。元学院姓のリリスによれば元々中がよかったわけでない三勢力がお互いのために兵力を裂くのはありえないと説明していたが、魔族討伐の考えでは一致しているはずなのにどうしてなのかが理解できなかった。
 「おそらく、戦争後の発言力を気にしてのこと・・・」
 セツナが簡潔に説明してくれたが、それだけではない気がしてならなかった。それでもこの砲台を無効化しないことにはどうすることも出来ない。
 「アンナ、扉を開けて!」
 「任せろ!!」
 アンナは愛用の槌を振り回すと、勢いよく扉を打ち付ける。轟音を立てて扉が吹き飛び学院内への道が開かれる。
 「よし、このまま魔導砲を制圧するぞ!」
 フィラデラの号令の元セツナたちは駆け出す。砲台が取り付けられている塔に侵入するとひたすら上を目指す。しかし、ここでもおかしなことが起こった。守っているのはゴーレムばかりで魔術師が一人もいないのである。
 「確かほぼ全員の魔術師を招集したはずですわよね?」
 「うん。学生まで動員したって言うから1000人は下らないんじゃないかな?」
 エリザベートの質問にリューナが答える。国中の魔術師を集めれば最低でもそれぐらい入るだろう。ドクターによればこの魔導砲には魔術の実力は関係ない。ただ魔法が使えればそれだけでいいのだと説明された。だから学生まで狩出されたのではないか。なのに一人として魔術師に会わないはどう考えてもおかしかった。
 「学院内で何かあった、というコト・・・」
 セツナの言葉に間違いはないだろう。もし魔術師が一人もいなくなったのならばそれはそれでかまわない。被害に逢った学生には悪いがこちらとしては無駄な戦いをしないで済むのだからむしろ歓迎することだった。
 「どちらにしろ、このゴーレムたちを始末しないと先には進めないよ!!」
 リリスはそう言うと雷の矢を放ちゴーレムを貫く。セツナの剣が、リューナの拳と蹴りが、エリザベートの矢が、アンナの大槌が、フィラデラとリリスの魔法が次々にゴーレムに襲い掛かりその動きを止めてゆく。
 「それでもかなりの数だよ?」
 「うざいなぁ、もう!!セツナ、一気に決めちまおうぜ!!」
 「承知!!」
 アンナの呼びかけに答えたセツナは両刀を大きく左右に広げて構える。その後ろでアンナが大槌を変形させ始める。動きの止まったセツナたちに次々とゴーレムたちが押し寄せる。
 「”閃夢舞刀・金木犀”!!」 
 セツナはそう叫ぶと両刀を構えたままぐるりと一回転する。無数の魔力の刃が周囲に吐き出され、爆発したように周囲に発散する。その刃に次々にゴーレムの体が切り刻まれ、その動きが止まる。
 「よっしゃっ!後は任せろ!!”爆鬼破砕・震撃弾”!!」
 動きの止まったゴーレム目掛けてアンナは巨大化させた大槌をフルスイングする。セツナはそれをしゃがんでかわす。セツナの頭上をすり抜けた全力の一撃が動きの止まったゴーレムを巻き込み次々に打ち砕いてゆく。たった2発の技でその場にいたゴーレムすべてが破壊されてしまったのである。
 「よし、これで先に進めるぞ!!」
 「急ぎましょう。他の勢力が動き出したら厄介です」
 フィラデラは他の面々に急ぐように促す。確かに今は動いていないがいつ動き出すかわかったものではない。さっさと終わらせてしまうにこしたことはないだろう。フィラデラたちはさらに上階を目指す。と、突然フィラデラが歩みを止める。何かを警戒しているかのようにあたりの様子を伺っている。
 「セツナ、何か感じる?」
 「殺気のようなものを感じます・・・」
 広場で撒き散らされている殺気にフィラデラとセツナは警戒を強める。それはリューナたちも同様で、どこから誰が襲ってくるかわからない状況に緊張し、息を呑む。
 「そこ!!」
 気配を読み取ったフィラデラが柱の一角に魔法の矢を放つ。矢が炸裂し、その陰に隠れていたものが飛び出してくる。
 「よく私の気配が読めましたね・・・」
 飛び出してきたグロリアは感心しきっている。彼女が副学長のグロリアであることはリリスから聞かされて正体は分かっていた。だが飛び出して着たその姿を見たフィラデラたちの動きは完全に止まってしまう。
 「な、なに・・・あれ・・・」
 気持ち悪いものを見たような表情を浮べたリューナが隣のリリスに尋ねる。リリスも口元を押さえたまま首を横に振るだけで答えることが出来なかった。
 「この姿に恐れをなしましたか?」
 「いや、別の意味で恐れをなした・・・」
 自慢げに胸を張るグロリアにアンナは首を振る。みながそれに同意する。その恐れをなした衣装とは真っ赤でフリルのいっぱいついたミニスカート、小さな羽根をあしらった上着、星のついた杖、髪はツインテールで大きなリボンで縛っている。肩にはマスコット人形まで就けている。皺の入ったババァであることを除けばまさに魔法少女といった出で立ちだった。。
 「さあ、このプリティウィッチ、スターグロリアがまとめてお仕置きしてあげるわ!!」
 「貴方が消えてなくなってちょうだい・・・」
 あきれ返ったものを見たフィラデラは口元に手を当てたままぼそっと呟いた。その言葉に皆同意する。しかし当のグロリアはびしっとポーズまで決めている。どうしようもないバカのようだった。
 変態副学長vs"五天衆"。どうでもいい戦いが今始まろうとしていた。


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