第三話 攻防戦


 「世界を我が手に!!」
 その言葉を聞いた瞬間レオナは背筋が寒くなった。エリウスがその気になればそれは達成できるであろう。同時に多くの流されなくてもいい血が流れ、散らなくてもいい命が散るかもしれない。それがレオナには悲しかった。それはアリスも同様のようだった。
 「エリウス様・・・それでは多くの血が・・・」
 おずおずとアリスがエリウスに進言する。自分も進言したかったが、ためらっていたことをこの妹姫は勇気を振り絞って訴えたのだ。その強さにレオナは感動を覚えた。そんなアリスをちらりとエリウスは見つめる。そしてすぐにいつもの優しい笑みを浮べアリスを抱きしめる。
 「大丈夫だよ、アリス。無駄な血は流させないし、むやみに人を殺させたりしないから安心して」
 エリウスのその言葉にアリスはこくりと頷く。彼がそういったからには必ず実行するのが分かっているからだ。その言葉を聞いたレオナもエリウスを信じるつもりでいた。
 エリウスは即座に立ち上がると、軍師の衣装を身にまとう。そして足早に部屋を後にするのだった。レオナとアリスもあわてて自分の衣装を身につけ彼のあとを追う。エリウスはそのまま足早に執務室へと入ってゆく。アリスとレオナもそれについて入室する。
 「フィラデラ、大鏡を起動!各地に通信しろ!」
 執務室に入ったエリウスは大声で室内にいたフィラデラに命令する。他の魔術師たちと書類の整理をしていたフィラデラはその書類を部下に預けると、急いで執務室の壁にかけられた大鏡に駆け寄る。そして鏡に触れながら呪文を唱える。それに答えるように鏡の表面が歪む。しばらくしてそこに映し出されたのは、オリビアだった。
 「オリビア、そちらの様子はどうだ」
 『これは若様。こちらはほぼ予定通り進んでおります。あとはサンゼルア将軍をそそのかすだけでございます』
 オリビアはすでに策が進行していることを告げる。サンゼルアの名前はレオナも聞いたことがあった。確か隣国セルビジュ共和国の将軍だったはずである。斧の使い手で、この国の守り手として有名だった。その彼に何かしら策を弄しているようだった。
 「ならばすぐにでもサンゼルアをそそのかせ。彼には動いてもらわないと仕方がない」
 『かしこまりました。朗報をお待ち下さい』
 オリビアはそれだけ言うと通話を切る。エリウスの指示で今度は別の場所に映像が映る。今度はアリスもレオナも見たことのない青年が鏡に映し出される。丸メガネをかけ、何事か書類を熱心に読みふけっている。こちらにまるで気づいていない様子だった。 
 「久しぶりだな、ハイネンス」
 鏡の向こう側の青年に声をかける。向こうでは突然声をかけられ驚いた様子で鏡を見ているのが分かる。青年はあわてて立ち上がると鏡に近寄ってくる。
 『これはエリウス殿。お久しぶりです』
 ニコニコと人のいい笑みを浮べて青年はエリウスに話しかけてくる。だが、その笑みにはどこかしら裏を感じてしまう。気を許してはいけない、そんな笑みだった。当のエリウスのほうはまるで気にした様子はない。
 「例の件、どうなっている?」
 『それが評議会の連中も及び腰でね。この国に駐留するストラヴァイド光国の軍隊を怒らせるわけにはいかないってこっちの言うこと聞いてくれないんですよ』
 困ったものだといわんばかりに肩をすくめてみせる。なるほどこの男、うわさに聞いた商業国家・フライゼルトの若き長であるらしい。会話を聞いた限りかなり前からエリウスとは親しい仲のようだ。確かあの商業国家はストラヴァイドの庇護下にあったはずである。多くの騎士が駐留し各都市を守っているはずだった。ならばそれに遠慮してのこととレオナは思った。だが実際は違っていた。
 『まったく彼らときたら・・・騎士というだけで威張り散らして好き放題。とがめれば暴れる困った奴らですよ』
 ハイネンスは溜息交じりに答える。その言葉をレオナは信じることが出来なかった。光の大神・ユーナスを信奉する騎士たちがそのような無法を働くなどありえないと思っていたからだ。だが、これまで起こってきたことを考えればありえない話ではない。
 「お話の途中申し訳ございません。そのような部下の無法を騎士団長や副長はとがめたりなさらないのでしょうか?規律を重んじる騎士団ならば彼らにはその責任があるはずです。」
 『これは、アリス姫。それにレオナ姫でございますよね?初めましてハイネンス=フォーズと申します。以後、お見知りおきを』
 「そなたの名前は分かった。それでそこに駐留する騎士団の団長は誰だ?」
 『・・・団長はロイ=シュテナンス卿、副長はカテナ=シュテナンス様です』
 しばしためらったが、ハイネンスは溜息交じりに答える。それを聴いた瞬間レオナは壁を思い切りたたく。聞き覚えのある名前であった。
 「知っているの?」
 「はい。ロイも、カテナもリンゼロッタの取り巻きの者たちです」
 身内の恥をまたしてもさらしてしまった恥ずかしさからか、アリスはうつむいたままそう答えた。だが、レオナの知る限り、ロイもカテナもリンゼロッタの取り巻きではあったものの、有能な兄妹であったはずだった。その彼らが統率を取れないなど考えられなかった。何より根本的疑問があった。
 「しかし、何故取り巻きであったあの兄妹が・・・」
 『何でもリンゼロッタ様の逆鱗に触れたとかでこちらに送られてきたんですよ。まあ、体のいい国外追放ですね』
 「何を考えている、あのバカは!!それでは彼らがやる気をなくすのも頷ける!!」
 眉を吊り上げてレオナは激怒する。実際にはその怒りはリンゼロッタのほうに向けられていた。あの女が関わるとろくなことがない。そう思わざる得なかった。
 「つまりハイネンス。彼らをどうにかできればそちらはこちらの意向に従うと?」
 『もちろんです。今のストラヴァイド光国に従っても何の利益もございませんからね』
 「それは結構。軍を動かしストラヴァイド軍と交戦させましょう。その兄妹が滞在する場所は?」
 『彼らは国境の守備が主任務ですが、基本的にこのシオーンの街に駐留しているんですよ。国境は下っ端や民兵に守らせて・・・』
 ハイネンスの言葉はさらにレオナを怒らせる。完全な任務放棄である。本国が封鎖されている今、いかに頑張っても本国に戻ることはかなわない。それがかえって彼らに好き放題させてのだろう。
 『ただ、明日から数日間は視察のため国境の街に出陣することになっています。そこを狙われては・・・』
 「・・・いいでしょう。ではすぐ進軍を開始します。よろしいですね。それから、彼女の行方は?」
 『そちらについてもあまり芳しくありませんね。リゲルグ前議長がどこかにかくまわれているのは確かなのですが・・・まったくその行方はわかりません。まあ、心当たりはいくつかあるんですが』
 ハイネンスは肩をすくめて答える。エリウスはしばし思案したあと、こくりと頷いた。
 「では彼女の一件はあなたの方に一任しましょう」
 『そう願えますか。その代わり、ストラヴァイドの騎士たちのほうはよろしく願いますよ。』
 ハイネンスはそう言うとお辞儀をする。鏡から彼の姿が消えると、エリウスはふうと息をつく。そしてすぐさま立ち上がるとてきぱきと指示を始める。
 「全軍に通達!これより我が軍は軍事行動に移る。目標は商業国家・フライゼルト!先鋒は第五軍、ファーガントへ連絡急げ!第三軍はセルビジュ方面へ。奴らの警戒に当たれ!第一、第二、第七軍は僕とともに進軍!第八軍はこれまでどおりストラファイド光国の警戒に当たれ!」
 てきぱきと指示を送ると周りにいた妖魔たちが各方面に指令に走る。エリウスは一息つくと今度はフィラデラに指示を送る。
 「フィラデラ、今回の進軍は派手にいきたい。あれの用意をしておいてくれ」
 「かしこまりました。すぐに準備を致します」
 エリウスの命に一礼すると、フィラデラは部屋を出てゆく。すると今度は魔法の大鏡が光り大きな一つ目の顔が映し出される。第五軍大将軍ファーガントである。
 『エリウス様!!俺が今回の先鋒って本当か?』
 銅鑼を鳴らしたような大声でわめきたてる。あまりの大きさにレオナもアリスも耳をふさいでしまってしまった。エリウスのほうは慣れているのか平然とした顔で受け答えをしている。
 「ああ、そうだ。頼むぞ。それから、街にはなるべく被害を与えないように。それが絶対条件だ」
 『おお、任せて置け!で、捕虜はどうしたらいい?』
 「なるべく殺すな。それから敵の大将と副将は僕のところに連れて来い。聞きたいことがあるからな」
 エリウスの言明を受けたファーガントは素直に頷くと通話を切る。どのような戦いになるのかレオナには見当もつかない。だが、大きな戦になることだけは確かだった。そんなレオナの緊張感をよそにエリウスは厳かに席を立つ。
 「さあ、いこうか。これが世界を手に入れる戦いの始まりだ」
 そういうと颯爽と歩き出す。そのあとをレオナとアリスがつき従う。もはや光も闇もない。ただこの主について行こうという想いだけだった。それはレオナにとっても、アリスにとっても長く厳しい戦いの始まりだった。

 フライゼルト国境の街セラン。農耕生産物を多く扱うこの地域はヴェイスと隣接した地域として昔から激戦の地でもあった。そのためこの地域にはストラヴァイド兵が多数常駐し、ヴェイスの動きを監視していた。だが近年、ヴェイスが動かず、上層部の監視がないのをいいことにストラヴァイド兵の横暴は極みに達していた。そのため街の住人の多くはストラヴァイド兵に対しいい感情は持っていなかった。
 「うむ。なんら問題はなさそうだな」
 査察を終えたロイ=シュテナンスは溜息混じりにに呟いた。年に2回こうやって国境の街に視察にこなければならないのだ。事務的ことはすべて部下がやってくれるので、取り立てて何かするわけでもない。それでも任務の1つだ。しっかりこなさなければならない。
 「お兄様、これで今回の査察の日程はすべて終了ですわ」
 「そうか、なら今晩はここに泊まって明日帰るとしようか・・・」
 日程の終了を告げる妹にロイは安堵の表情を浮べる。だが実際にはまだ仕事が残っており、この街のお偉いさんに顔見せをしなければならない。そのためのパーティーが今晩準備されているのだ。主賓である自分がでないわけにはいかなかった。そんなパーティーに出席しなければならないかと思うとまた溜息が漏れる。
 「ため息のつきっぱなしですわね、お兄様」
 「つきたくもなるよ、こんな事務的仕事ばかりではね。何もすることが無いというのは歯痒いな」
 「そんなことを仰らないで・・・確かにこのような閑職に追いやられはしましたけど、ワタクシはお兄様と一緒にいられるだけで幸せなのですから・・・」
 顔を赤く染め上げながらカテナはロイの袖を掴む。そんな妹を優しく抱きしめる。この15になったばかりの妹のためにここまで来たのだ。それを後悔はしていないし、必ず本国に戻るつもりでいた。すべてはこの妹のためなのだ。
 「すまなかったな。お前に愚痴るつもりは無かったんだが・・・」
 「かまいませんわ。お兄様は優秀ですもの。必ず本国に戻れますわ」
 「ああ。そのときはお前も一緒に・・・」
 ロイがそこまで言った瞬間だった。城壁に何かがぶつかり崩壊する。あわててロイとカテナはそこを調べに行く。そこには一メートルほどの大きな石がめりこんでいた。こんな大きな石がどこからと辺りを調べていると、また一個、また一個と空から降ってくる。
 「なんなんだ、これは?」
 「お兄様、アレ!!」
 カテナに促されて彼女の示した方向に視線を移す。そこは小高い丘でこの街を一望できるところであった。そしてそこには巨人が何人か並んで立っていた。手には先ほどから跳んでくるくらいの大きさの石が握られている。それを力任せに投げつけてきているのだ。下手な投石器よりも威力がある。
 「いかん、このままでは城壁が崩れるぞ!」
 ロイはあわてた。巨人族のパワーで石を投げられたらこんな城壁くらい簡単に崩されてしまう。そうなったら巨人族の後ろに隠れている魔族が攻め込んでくることは容易に想像できた。そうなる前に巨人族の投石を抑えなければならない。それにはこちらから打って出る必要があった。
 「お兄様、ワタクシが出ますわ。200ほど兵をお貸し下さい!」
 「この際仕方がないか・・・カテナ、無理だけはするなよ!」
 勇ましき妹は兄に口づけすると駆け出してゆく。ロイはそんな妹の姿を見つめながら彼女の無事を望むのだった。

 「さてと・・これだけやれば奴らも出てくるかな?」
 ファーガントは投石をしていた巨人たちの攻撃を中断させる。城壁の一部を壊せば敵はそれを阻止しようと出てくるはずだというエリウスの策を実践したのだった。ただ目標は城壁だけで街の中に石を放り込まないようにするように厳命してある。その甲斐もあって街には被害が出ていない様子だった。後は敵将が出てくるのを待つだけである。
 果たして、その通りに城門が開き騎馬兵が200ほど駆け出してくる。それを見たファーガントは喜んだ。力勝負こそ彼の真骨頂なのだから。
 「よし、てめぇら!一気に踏み潰すぞ!」
 ファーガントの号令一過、巨人族の戦士50人が一気に丘を駆け下りる。数的には不利だが、それを補って有り余るパワーがファーガントたちにはあった。それはカテナたちも心得ている。巨人族相手に力勝負を挑むような馬鹿なまねをする気はさらさらない。
 「いいか、奴らの足元をすくえ!転ばせてしまえば、巨人族といえどもその力を発揮し切れん!」
 カテナの命令で数騎の騎士がお互いに鎖を持ち、巨人たちの足の間を駆け抜けてゆく。両足に鎖を絡ませると、巨人の巨体はバランスを維持できず、地面に転がすことに成功する。そこを逃さず、数人に騎士が剣を手にその上に圧し掛かり、止めを刺してゆく。この戦法を駆使して一体、また一体と巨人を打ち倒してゆく。
 「ちい!やっぱりそう言う戦法できたか・・・お前ら例のもの、使ってやれ!」
 相手が巨人族とわかったらこの戦法で倒しに来るだろう事はエリウスが読んでいた。そこで前もってファーガントにはこれらの戦法に対処する方法とそれに必要な道具を持たせてあった。
 「よし!このままこの戦法で相手の動きを封じて巨人族を駆逐するぞ!!」
 自分たちの作戦がうまく機能していることがわかったカテナは味方を鼓舞し、一気に殲滅しようと図ってくる。そのカテナの言葉に騎士たちも応じて鎖を手に巨人たちに群がってゆく。
 「早々いつまでも同じ策が通じると思うな!!おう、やっちまえ!!」
 ファーガントは騎士たちが左右に分かれ、鎖で足元をすくおうとした瞬間を見計らって号令をかける。その号令に呼応して巨人たちは腰に下げていた棍棒を地面に突き立てる。そのため巨人の足を絡めとろうとしていた騎士たちの鎖はそれよりも先に棍棒に絡まってしまうこととなった。
 「るるるがああああぁぁぁっっっ!!」
 棍棒に鎖が絡まったのをみるや、巨人たちは雄たけびを上げて棍棒を振り上げる。二頭の馬と巨人の力比べ、それは巨人の圧勝であった。
 「ぐああああっっ!!」
 「ぎゃああっっ!!」
 次々に馬ごと宙に投げ出された騎士たちが地面に叩きつけられてゆく。強かに打ち付けられ、次t義にその動きを止めてゆく。かろうじて息はあるようだが、戦闘の続行は不可能だった。
 「くッ、我々の作戦が読まれていた?そんなバカな・・・」
 自分たちの作戦があっさりと見破られた上に手痛い反撃を受けたことにカテナは苦々しい表情を浮べる。優位に立ったと思った瞬間、いとも簡単に戦況をひっくり返されたのだ。悔しくないはずがない。そのカテナの同様はあっという間に全軍に伝わってゆく。
 「よし、相手の動きが止まった!!一気に攻めたてろ!!」
 騎士の動きが鈍ったのを察したファーガントは一斉攻撃に打って出る。棍棒を地面に叩きつけ、丸太のような脚で蹴り上げられる。数の優位など圧倒的なパワーの前には何の意味も成さなかった。
 「このままでは・・・全軍に通達、私の元に集結しろ!急げ!!」
 巨人族の圧倒的パワーの前に次々に倒されてゆく仲間を目の当たりにしたカテナは慌てて全軍を一箇所に集結させる。そしてランスを構えさせると、巨人めがけて突撃する攻撃に変更する。
 「ゆけぇ!!奴らを貫き、我らに勝利を!!」
 カテナの叫びに呼応して騎士たちは次々に突撃してゆく。それを迎え撃つ巨人族は棍棒を振り回し、足を蹴り上げ、腕を振り回す。その攻撃に何人もの騎士が叩き潰され、吹き飛び、弾き飛ばされる。それでもめげずに突撃を繰り返し、少しづつながら巨人を刺し貫くのだった。
 「ちっ・・・このままでも勝てるが、被害もでかそうだな・・・」
 ファーガントは意外に善戦する騎士団に舌打ちする。このままいけば自分たちの勝利は間違いなかった。それでも数人の兵が討ち取られる可能性が高かった。エリウスは勝利を望んではいたが、それ以上に被害を少なくすることを望んでいる。 ならばこのままではいけないとファーガントは思った。
 「まあ、そろそろ頃合か・・・」
 さすがに敵の突撃の勢いも弱まりつつある。その隙を逃すつもりはなかった。ファーガントが手を上げると、兵たちは一斉に腰に隠してあった網を取り出す。それを一斉に騎士たちに向けて放り投げる。
 「な、何のつもりだ・・・クソ、動けない!」
 網が絡まった騎士たちの動きが鈍る。網が絡まり馬が転倒する。大混乱だった。馬を捨て、網を剣で切り裂いて逃げ出そうとするがそれよりも早く巨人族が彼女たちを押さえ込んで行く。一度巨人族に押さえ込まれてしまったら逃げ出しようはなかった。
「ぐう・・・このような策を弄してくるとは・・・」
 力押しの巨人族がこんな手の混んだ策を使ってきたことに驚きながら、カテナは戦況を見つめる。残ったいるのは自分と数人の取り巻きだけだ。完全に部隊は崩壊していた。兄に申し訳ないが、ここは撤退するしかなかった。手綱を引き馬首を翻す。
 「けっ!てめえだけケツまくって逃げ出そうって言うのかよ!!」
 そのカテナの存在に気づいてファーガントは怒声を上げる。そして膝を折り、思い切り跳躍する。体格さ、身長差もあったが、ファーガントは見事な跳躍で逃げ出そうとするカテナの前に着地する。
 「なっ!そんな!!」
 突然眼の前に降ってきた巨人にカテナはあわてて手綱を切る。が、急に手綱を切ったため完全にバランスを崩してしまった。その瞬間を見逃すほどファーガントは甘くなかった。片手でカテナを押さえ込む。
 「おまえがこの部隊の指揮官か・・・」
 「くう!離せ、離さんか!!」
 ファーガントに捕まったカテナはわめき散らして暴れる。だがそんなもの苦にならないほどの力でファーガントはカテナを押さえ込む。完全に逃げることは出来なかった。
 「申し訳ありません、お兄様・・・」
 唇を噛み締め、涙を浮べて敗戦を兄にわびる。そんな彼女をファーガントは楽々と持ち上げ撤退して行く。初戦はヴェイス軍の圧勝で幕を閉じる。

 城壁から様子を伺っていたロイの顔色が変わる。最愛の妹が敵に捕まったのがここからでもよく分かった。あわてて城壁を降り、助けに向かおうとする。だがそれを配下の騎士が押しとどめる。
 「なりませんぞ、隊長。今ここで隊長まで失うわけには・・・」
 「私が魔族ごときに破れるとでも思っているのか!どけ!どかねば切る!!」
 剣を抜いて部下を脅す。それでも退こうとしない部下とさらに言い争いになるが、それを押しとどめようとするかのような声があたりに響く。何事かと、ロイはそちらを確認し、絶句する。
 彼の視線の先には先ほどの小高い丘があった。そこにいつの間にか城が出来ていたのだ。誰だって驚く。だが実際にそれを注視すると、それは城ではなかった。
 「な・・・なんだ、あれは・・・」
 あまりに非常識な光景にロイはそれ以上何も言うことが出来なかった。それは体長10メートルクラスの巨象・エヴィル・エレファント、四頭に引かれた車であった。まさに車輪のついた動く城、その言葉がふさわしかった。戦いを終えた巨人族が捕虜を連れてそこに戻っていくところを見ても、あそこにヴェイス軍の大将がいることは間違いないなかった。だが、あのようなもの圧倒的存在のものをどうやって攻略したらいいか、ロイにはわからなかった。それほどのものだった。
 「すまん・・・カテナ・・・」
 そこに連れて行かれる妹を歯噛みして見つめるしか今のロイにはすることが出来なかった。

 敵軍の本拠地に連れてこられたカテナはその圧倒的なものに声もなかった。敵軍の将として中に連れ込まれ、さらに驚愕する。中はまさに城だった。巨人族のファーガントが乗っても十分な広さが確保されている。広大な広さを誇るそこには無数の魔族、妖魔が右往左往してその維持に当たっている。その合い間を縫って上の階へと引き立てられる。ファーガントが扉を開けると、大広間へと引きずり下ろされる。
 「ここは・・・」
 広大な広間。目の前には玉座があり、そこには一人の青年が座っていた。左右には二人の美女。さらに騎士や魔術師が自分を取り囲んでいる。眼の前の青年が総大将なのだろう。圧倒的存在感えカテナを圧倒してくる。そしてその青年の左右に控える二人の美女。その顔にカテナは見覚えがあった。
 「よくそのようなところに立っていられますわね、姫様方・・・」
 憎々しげな視線をレオナとアリスに向けてカテナははき捨てるように言い放つ。その言葉を眉一つ動かさずにレオナとアリスは受け流す。
 「それはこちらの台詞よ、カテナ=シュテナンス!王国に忠誠を誓いながら、何ゆえ王家に仇なす者に組する?」
 「それはどういう意味でしょう?王家に仇なすのはあなた方でしょう」
 魔族に組するものとカテナは言いたかったのだ。それはアリスもレオナも心得ていた。だがそれ以上になさなければならないことが彼女たちにはあったのだ。そのためにはいかなる誹謗中傷にも耐えるつもりでいた。
 「魔族に組するのがいけないというならルードたちはどうなります?」
 「それはどういう意味ですか?」
 「前国王を生贄に使って結界を張ったんですよ?」
 カテナは驚きの表情を浮べる。そこまで彼女たちには聞かされていなかったらしい。
 「そんな・・・それには何かわけが・・・それにだからといって魔族に組みしていいとは・・・」
 しどろもどろに言い返すが、心の中には現王家への疑念が渦巻いていた。自分たちも彼らに振り回されてこの地に飛ばされてきたのだから当たり前である。追い討ちをかけるように結界で閉じられた故郷、その結界を張るために前国王が生贄にされたこと、それらすべてが事実のように思えてきた。
 「もしもそうだとして・・・今回のこの侵略は一体・・・」
 「侵略?悪いけど、それは間違いさ。僕らが来たのは要請によるものだよ」
 信じられない言葉をエリウスは口にする。一体誰がそんなことを要請するというのだろうか。ここまでこの商業都市のために心を砕いてきた兄を裏切るようなことを。そんなカテナの表情から状況を察知したエリウスは何かを悟ったような顔をする。
 「どうやら君たちはこの国で起こっていることがわかっていないようだね」
 「どういう意味だ、それは?」
 エリウスの言っていることが分からず、カテナは怒鳴り返す。
 「そうだね、そろそろお客様が来るからそれから詳しい話をしてあげよう」
 「お客様?」
 カテナがわけが分からずにいると、扉が開き一人の騎士が入ってくる。黒い骸骨の鎧を纏った男、ストナケイトであった。ストナケイトは入り口で敬礼する。
 「軍師殿、投降してきた者を捕らえましてございます」
 「来たみたいだね。いいよ、ここにお通しして」
 エリウスはストナケイトにそう指示する。ストナケイトは畏まると扉を開け、その向こう側にいた投降者を室内に招き入れる。その者は両手を拘束されていた。その顔はカテナがよく知る人物であった。
 「お兄様・・・何故・・・」
 「無事か、カテナ・・・」
 投降者が兄であったことにカテナは唖然とする。彼女にとって信じられ無いことであった。だがロイは平然としていた。さもそれは当然といわんばかりに。
 「貴方がこの軍の総司令官殿か。私は・・・」
 「ロイ=シュテナンス殿ですね。ようこそ、魔天宮へ」
 名乗りを上げようとするロイをエリウスは制止する。そしてストナケイトに命じ、ロイとカテナの戒めを解くのだった。思いもかけない行動にロイもカテナも言葉が無かった。そんな彼らを無視してエリウスは言葉を切り出す。
 「まず自己紹介しておこうか。僕はヴェイス軍総司令官、エリウス=デュ=ファルケン。君たちの事はこの二人から聞いている」
 エリウスの名前を聞いたロイとカテナは息を呑む。”操りし者”エリウスの二つ名を知らないものはいない。彼の建てる策はまるで最初からそうなるようにすべての人間がそれを実行してしまうのだという。まるで操られたかのように。今回自分たちがここにいるのも彼に操られたからなのかもしれない。
 「姫様方、何故・・・」
 ロイはカテナ同様憎しみのこもった瞳をアリスとレオナに投げかける。まずはそこから離さなければならなかった。レオナがリンゼロッタにはめられ殺されそうになったこと、アリスがクライゼにその身を狙われたこと、彼が偽勇者であったこと、そしてルードが前国王を生贄に大結界を張ったことを述べた。それらの話はロイには俄かにしんじられないことだった。さらにエリウスは言葉を続ける。
 「今回の遠征はフライゼルト評議会議長・ハイネンス=フォーズの要請によるものです。ストラヴァイド光国軍の無法をどうにかしていただきたいというね」
 「我が軍の無法?バカな・・・」
 「そうですわ、お兄様が無法行為を許したり、見逃したりなさるはずが・・・」
 「あったんですよ、あなた方に表だけ見せてね」
 思いもかけない言葉にロイはエリウスの策ではないかと疑ってみた。だが捕虜である自分たちに嘘をついて何の徳があるというのだろうか。そう考えるとエリウスのいっていることが真実のように思えてきた。
 「では、無法行為を行っている者はいあった誰なのですか?」
 「こちらの調べでは貴方の副官のラビエフと言う男ですね」
 信じられなかった。ラビエフは自分の腹心中の腹心である。その彼が裏切るなど信じたくも無かった。
 「その男を信じたいかもしれませんが、こちらの調べではラビエフはリンゼロッタの配下の一人だそうですよ。簡単に言えば貴方の見張り、あわよくば暗殺までしようという意図を持ってのね」
 エリウスの言葉を聞くほどにラビエフへの疑念は増してゆく。重要な書類はラビエフが処理していたし、視察も彼が支持した箇所しか周ったことが無かった。彼に任せて置けば安心という自分の心理を付き自分を骨抜きにしていたのではないかと疑いたくなる。
 「まだ足りませんか?では奴らが逃げ出したセランへと入ってみましょうか。どのようになっているかよく分かりますよ」
 エリウスはそういって立ち上がるとロイとカテナについてくるよう指示する。そして二人を伴ってセランの街に向かうのだった。

 セランの街でロイとカテナが見た光景は信じられ無いものだった。多くの人が飢え、病気に苦しみ、荒みきっていた。エリウスは食糧を配給し、暴力行為を禁止する。徹底した管理の下セランの街を管理してゆく。ロイはそんなエリウスに舌を巻く。人を惹きつけるカリスマと、その有り余る才能は生まれ持ったものなのかもしれない。そんなエリウスにロイは魔族であるなしを超えて尊敬の念すら抱き始めていた。そして自分の目がいかに節穴であったか思い知るのであった。
 「こんなことになっていたなんて・・・」
 カテナは苦しむ人々を見て周りながらその惨状に表情をゆがめる。自分たちがセランの街に入るのに、一切抵抗はなかった。すでにストラヴァイド軍の姿はなく、無抵抗な市民がおびえているだけであった。民を守るのが騎士の役目と考えていたカテナはこの有様に絶句してしまった。
 「我が騎士団がここまで腐っていたとは・・・」
 ロイもうめく。騎士団は逃げ出すとき、行きがけの駄賃といわんばかりに略奪をし、逃げ出していったという。その話を聞いたときロイは民を前に両手を地に着いて謝罪した。そんなロイに市民は怒り、石などが投げつけられた。それを受け額を割りながらもロイは土下座してひたすら謝った。そんな彼の思いが伝わったのか、人々は者を投げつけるのをやめていった。ロイを助け起こしながらエリウスはこの街が開放されたことを宣言するのだった。人々は魔族による開放を驚きはしたが、自分たちに危害を加えないと分かると歓喜を持って迎え入れるのであった。
 「エリウス殿。わたしは一体何を見てきたのでしょう・・・子供とはあんなに無邪気に笑うものなのですね」
 アリスから配給の食事を受け取り笑みを浮べる子供を見たロイはしみじみと感想を漏らす。心のそこからの笑みと、剣で脅されたものの笑みはまるで違う。それすら自分は分かっていなかったのだ。
 「これからどうするつもりだい、君たちは?」
 「我が軍の始末はわれわれの手でつけます。即刻ラビエフたちを追って・・・」
 「死ぬというのか?ならぬぞ、ロイ、カテナ!」
 レオナはロイとカテナを戒める。どんなイ二人の意志が固かろうと無駄に命を散らさせるつもりは無かった。懸命に説得するが二人はかたくなにそれを拒む。
 「最初から死ぬつもりだったんだろう、君たちは?結ばれぬ愛を嘆いて・・・」
 かたくなに拒む二人にエリウスはポツリと口を挟む。その言葉に二人の表情が曇る。
 「・・・その通りです。私とカテナは愛し合ってしまいました。実の兄妹なのに・・・」
 「それを抑えることは私たちには出来ませんでした。でも世間はワタクシたちを・・・」
 汚らわしい存在としてみてきたのだろう。こんな閑職に追いやられても、頑張ってこれたのは兄が、妹がいたからだった。だがどんなに頑張ってみたところで自分たちの愛を誰も認めてはくれなかった。いつしか二人は死という言葉を思い浮かべるようになっていた。今回の件はそのいい機会だった。 
 「愛を貫きたいならわが国に来ればいい。近親婚などいくらでもあるぞ?」
 「ですがそのために故国を裏切ることは・・・」
 「裏切るのではないよ。解放するんだ、正統な後継者、ステラのためにね。」
 エリウスの言葉にロイたちははっとなる。まだ王位継承者は残されていた。ステラを王位につかせれば自分たちの忠誠心も示せるはずだった。これは反乱などではない、薄汚い略奪者から国を取り戻すための戦いなのだ。頭では分かっていてもなぜか参加を思いとどまってしまう。
 「姿かたちを気にしているのなら、転身すればいい。どのような方策を望むかは君たち次第だ。今晩一晩ゆっくりと考えてみるといい」
 エリウスはそう言うとレオナ、アリスを連れて魔天宮へと戻ってゆく。その後姿を見つめながらロイとカテナは決まらぬ進路に思い悩んでいた。

 「私はエリウス殿に付いてゆくつもりだ」
 魔天宮の一室を割り当てられたロイは妹に率直に答えた。思い悩み、考え抜いた末の結論だった。そんな兄の結論にカテナは驚きを隠せなかった。
 「そんなお兄様。魔族に組すると仰るのですか?」
 「魔族といってもエリウス殿はしっかりとした考えの持ち主だ。それに被害も最小限に抑えるように努力されている。街の人に手を出すようなこともされていない」
 これまで自分の配下がやってきたことと比べてどちらが卑しき種族であるかは歴然としていた。ロイにとってシュテナンス家などどうでもよかった。だが唯一心残りだったのが忠誠を誓った王家に仇をなすことになることだった。だがステラがいればその心配は無いだろう。
 「父上は己が保身のためにルードに組し、我らもそれにしたがってリンゼロッタに従ってきた。色目を使ってきたあの女も私がお前を愛していると知るとこのような場所に追いやった。どちらが欲にまみれた世界なのだろうな」
 「それはワタクシにも分かっております。ですが・・・」
 「それにエリウス殿は私たちの愛を煙たがったりはしなかったぞ?」
 確かにそうだった。それどころか結婚を勧めてまで来た。今までそのようなことは一度としてなかった。そのことはカテナにとっても心惹かれるものだった。
 「だが、人の身のまま戦えば母上をはじめ多くの方々に迷惑がかかる。エリウス殿の言葉に従って魔族に転身するつもりだ。姿形が変わろうとも我が心までは変わらないからな」
 「でしたらワタクシも!」
 「ダメだ、お前まで魔族になる必要は・・・」
 「魔族と人間では寿命が違いすぎます。お兄様を残して一人老いていくなんてワタクシは嫌です!!」
 妹の強い信念にロイの方が折れるしかなかった。そっと妹を抱き寄せ強く抱きしめる。
 「ならば共に生きてゆこう。お前を決して離しはしない」
 「ワタクシもですわ、お兄様」
 ロイとカテナは抱きしめあい、熱い口付けを交わす。二人は重なり合ったままベッドに倒れこむ。お互いに唇を貪りあい、舌を絡めあう。絡み合うしたが唾液を絡め、ピチャピチャといやらしい音を立てる。それでもロイは妹の唇を離さず、そのまま服の間に手を差し込む。大きくなりかけの胸を優しく揉みまわす。
 「あふぅ・・・いい・・・」
 離れたカテナの唇から甘い声が漏れる。ロイは胸を揉みながらもう片手で胸元を開く。服を引き摺り下ろすと、引き締まった、無駄の無い肢体が露になる。その胸元のふくらみは白い下着で覆い隠されている。髪を撫でながら下着をずりあげると、ここ一年で大きさを増した胸が露になる。タプタプとした柔らかな感触が気持ちいい。何度も何度も優しく揉む。そして桜色に乳首を指で擦り、優しく指で押しつぶす。カテナは甘い声を上げながら兄の愛撫を受け入れる。徐々に乳首は勃起し、硬く上を向いてくる。そこを口に含む。すでに硬くなったそこを舌で舐めまわすと、さらにコリコリとしこり、つんと上を向いている。
 「いい・・・気持ちいいですわ・・・お兄様・・・」
 喘ぐカテナの胸を弄りながらロイの右手はさらに下に降りてゆく。腿を撫で上げながらミニスカートをたくし上げる。白い二本の腿の合流地点に白い下着が露になる。下着の上からそこを撫でるとすでにそこは濡れ始め、下着に小さなシミを作り始めていた。
 「もう濡らして・・・」
 「恥ずかしいです、お兄様・・・」
 顔を隠すカテナを無視してロイは下着を一気にずり下ろす。染み出した愛液が下着に糸を引く。下着を脱がせるとロイはカテナの両腿を抱え込むようにして股の間に頭を潜り込ませる。カテナの足が左右に割られ、愛液に濡れた場所が露になる。
 「やあ、お兄様・・・」
 「気持ちいいのだろう?ほら、こことか・・・」
 ロイの指がカテナの膣内に侵入してくる。感じる箇所を弄られカテナのからだがビクッと反応を示す。ロイの指は二箇所、三箇所とカテナの感じる箇所を掘り当て、指先で穿り返す。その度にカテナの体は反応を示し、膣の奥から愛液が染み出してくる。
 「こんなに溢れさせて・・・」
 指を抜きそこに附着した愛液をカテナに見せ付ける。それを見たカテナは顔を赤くして両手で覆い隠してしまう。ロイはそんな彼女の股に顔をうずめると今度は舌で愛液を舐め取ってゆく。
 「あふん・・・あああっ・・・お兄様・・・そこ、そこ・・・・」
 舐めれば舐めるほど奥から愛液が滴り、カテナは腰をくねらせて喜ぶ。ロイの舌はさらに喜ばせようと奥に奥に入り込んでゆく。奥に入るほどに愛液は溢れ、ロイの口に流れ込んでくる。それをコクコクと飲み干しながら、ロイは更にカテナの秘部を舐めまわす。
 「いああ・・・はぁああ・・・うひいいいい・・・」
 腰をくねらせ、喘ぐ。絶え間ない快感がカテナを高みへ高みへと押しやって行く。体を小刻みに震わせ、そのときを迎えようとしていた。が、その直前でロイの口がカテナから離れる。お預けを食ったカテナはもの欲しそうな瞳で兄を見つめる。
 「そろそろ・・・いいかい?」
 股から顔を離したロイがカテナに尋ねる。カテナは兄が直前でやめた理由を察すると、恥ずかしそうに顔を赤らめながら小さく頷く。それを確認したロイはズボンの前を開け、ペニスを取り出す。早く妹を蹂躙したくていたそれは限界まで張り詰め、ビクビクと震えている。それをゆっくりと妹の入り口に宛がう。
 「いくぞ」
 「はい、お兄様」
 ロイの言葉にカテナは頷く。ロイが腰を進めるとずるりとペニスはカテナの奥に吸い込まれてゆく。これまで何度カテナと肌を合わせてきただろう。数え切れないほど合わせてきたが、一度たりとも飽きたことはない。いつも新鮮で瑞々しかった。
 「ああっ・・・お兄様、お兄様!!」
 「カテナ、カテナ!!」
 激しく腰を振り、お互いに腰をぶつけ合う。お互いに背中に手を回し、抱きしめあい、お互いの隙間をなくそうとする。ロイのペニスがカテナの膣をすりあげ、かき回す。カテナの膣壁がロイのペニスに絡み付き、締め上げる。苦痛にも似た快感を味わいながら、ロイはカテナを攻めたてる。カテナはロイにしがみつき、彼を求める。求め合う行為が更に愛液を滴らせ、溢れ出す愛液がペニスを伝ってベッドの上にしみを作る。
 「ああん、おにいさま!もう、もう!!」
 「カテナ、私も、もう・・・」
 お互いに口付けを交わし、抱き合ったたまま、同時に絶頂を迎える。ロイは一滴残らずカテナの子宮に射精する。射精する間もお互いに離れようとはせず、お互いの隙間を埋めようと懸命になっていた。これまで何度となく射精してきた。子供を生してもかまわないと思い、射精してきた。だが一度としてその願いはかなえられなかった。これが最後の夜であっても、その思いは変わらなかった。
 「お兄様・・・」
 体内に感じる熱い思いにカテナは涙する。ロイはそんな妹を力いっぱい抱きしめた。最後の夜をお互い後悔しないよう、何度も求め合い、過ごしてゆく。愛し合う兄弟は自分の存在を相手に刻み込むように愛し合った。最後のその瞬間が来る、そのときまで・・・
 そして夜が明けた・・・・

 「二人をひとつにしろ・・・だと?」
 ロイの言葉にエリウスはもう一度尋ねなおした。
 「はい。妹と離れて暮らすのはもう耐えられません。ならば二人の魂をひとつにしていただきたいのです」
 素直に自分たちの思いをエリウスに話す。その隣に控えるカテナも愛する兄の手を握り締めたまま真剣な表情でエリウスを見つめている。しばし考え込んだエリウスは静かに答える。
 「確かにそれは可能だ。だがその場合、どちらかの魂がもう片方に吸収されてしまう可能性が高い」
 「二度とはなれることはないのでございましょう?」 
 「ならばそのようにお願いいたします」
 己の魂が消滅するかもしれないことに二人は躊躇なく決断する。その覚悟を酌んだエリウスは静かに頷く。
 「アルデラ!転身の儀を!!」
 「畏まりました」
 エリウスの傍に控えていたアルデラが杓杖を手にロイとカテナの前に立つ。そして浪々とした言葉で、呪文を唱えてゆく。二人の足元に魔法陣が出現し、二人を淡い光が飲み込んでゆく。
 「これでいつまでも一緒だ、カテナ・・・」
 「はい、お兄様・・・」
 抱きしめあった二人を光が包み込む。二人を飲み込んだ魔法陣から光の卵が出現する。かつてレオナが転身したときと同じものだった。その卵に亀裂が走る。新たな魔族の誕生だった。
 「お前は、ロイか?それともカテナか?」
 新たに誕生した鎧の騎士にエリウスは静かに尋ねる。転身したからにはどちらかの魂を宿しているはずであった。だが鎧の騎士は静かに首を横に振る。
 「そのどちらでもありません」
 「ロイでも、カテナでもないとは・・・ではそなたは誰だ?」
 「まだ名前がありません。母が宿せし新たなる命なればまだその存在は知られておりませぬ」
 そこまで言われてエリウスはその騎士の正体がわかった。ロイでも、カテナでもない第三の魂。カテナの胎内に宿ったばかりの命。それが魔族として体現してきたのである。両親の魂をその魂に宿して。顔を上げた騎士の兜の両側にはロイとカテナの顔が浮かんでいた。安らかな幸せそうな表情を浮べて。
 「ならばそなたはこれより双面の騎士・ロカを名乗るがよい。父、母に負けぬ騎士となれ!!」
 「畏まりましてございます、エリウス様!」
 「そなたは第一軍団所属とする。大将軍ストナケイトに従い活躍して見せよ!!」
 生まれたばかりの騎士、ロカはエリウスの言葉に頭を深々と下げる。エリウスはロカの活躍を祈ると共に、子供にすべてを託して消えていった悲しい兄妹の魂の幸せを願うのだった。


 「エリウス様・・・・」
 先を行くエリウスにアリスは遠慮がちに声をかける。その目には大粒の涙を浮べている。
 「ロイもカテナも何故あのような結末を望んだのでしょうか?生きていればいいこともあったでしょうに・・・」
 アリスにはそれが残念でならなかった。二人の間に新しい命が生まれたことは嬉しかった。だが二人はそれを知らないまま消えていったのだ。それがアリスには不憫でならなかった。
 「彼らなりの決断だから、僕がどうこう言えるものではないよ。でも、彼らは崇高な存在だったと思うよ」
 「え?」
 「だってそうだろう。自分たちの思いを遂げるために命をとしたんだ。自分たちの愛も、王家への忠誠もすべて示して見せたんだよ。それに彼らの死に顔は幸せそうだったじゃないか」
 エリウスの言わんことはアリスにも分かっていた。分かってはいたがそれでも悲しくて涙が止まらなかった。こんな悲しい思いをこれからもしていかなければならないのか、そう思うと心が痛んだ。そんなアリスをエリウスは優しく抱きしめる。
 「優しい子だね、アリスは。でもこの世界を元に戻さなければまた今回みたいなことが起こり得るんだ」
 エリウスは優しくそして力強くそう言う。アリスにもレオナにもその言葉の意味が分からなかった。エリウスはさらに言葉を続ける。
 「そのためにも君たち”巫女姫”の力が必要なんだ」
 ”巫女姫”前々から気になっていた言葉だった。自分の力の根源はそれであるといわれてもそれがなんなのかレオナにはわかっていなかった。これまで聞いたことのない言葉、存在が自分の中にあるように思えた。レオナはそれを知りたかった。
 「エリウス様、その"巫女姫"とは一体なんなのですか?私の中にもそれがあると仰いましたが・・・」
 レオナの質問にエリウスは腕組みをしたまましばし考え込んでしまう。考え込んだのち顔を上げると、決意に満ちた表情でこう言った。
 「そうだね、いい機会だ。君たちに話しておこう。12巫女姫の話を・・・」


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