第31話 竜騎士


 フェイト逃走から数日後、ゼルトランドはエリウスの指導のもと平静を取り戻しつつあった。魔導砲に組み込まれていた学生達もイシュタルたちの介護により皆快方に向かっている。大神殿におけるファーゼルト司祭を含む神官、信者の大量神隠し、傭兵師団の全滅とゼルトランド市民を納得させられる要素は少なかったが、リリスが率先してまとめ役に立ってくれたおかげで何とか平静を取り戻すことが出来そうであった。
 「ここはこれで大丈夫かな?」
 エリウスは自分の元に送られてきた資料に目を通しながら安堵の表情を浮べる。これもかつて魔術学院に在籍していたリリスのお陰である。彼女にこれほど人望があったのは意外だったが、話を取りまとめる役を買って出てくれたのはありがたかった。もし彼女がいなければ、ゼルトランドが平静を取り戻すのにはもう数日、いや数週間かかったことだろう。
 「ゾフィス、他の二カ国の様子は?」
 手元の資料に目を通しながら足元の影に問いかける。その影から声が返ってくる。
 ”ユトユラには今のところこれと言った動きはありません。結界を少し強めた程度でしょうか・・・”
 ゾフィスの話を聞いたエリウスは資料から目を離す。ユトユラの結界が強まったということはこちらが攻めてくる可能性を内側にいる者たちが気付いていることを意味している。それにこれほど強力な結界を張れるものは限られて来る。”九賢人”か”巫女姫”、そのどちらかであろう。
 「どちらにしろ内側に入らねければ意味がないが・・・」
 結界を破らない限りユトユラへの侵攻は不可能であろう。その結界を破るためには自分が全力であたらなければならない。だが、そのためには懸念が一つあった。
 「ゾフィス、アルセルムの動きのほうはどうだい?」
 ”すでに国境線に騎兵5000、歩兵15000を配置しております。それから・・・”
 「竜騎士たちかい?」
 ”はい。竜騎士の姿も国境線に何体か見られるようになっております”
 ゾフィスの報告を受けたエリウスは溜息をつく。懸念どおり、竜の国アルセルムはすでに戦う準備が万端のようである。これを放置しておくわけにはいかない。ならばまず、アルセルムを落としてからユトユラにかかるのが常道だろう。そう判断したエリウスはすぐさま軍議の開き全軍に通達する。
 「ではこれより、軍議を始めます」
 エリウスの横に立ったフィラデラがいつものように軍議を取り仕切る。顔ぶれは第四軍のゾフィス、第五軍のファーガントがいないだけであった。そのファーガントとはサーリアの鏡を通じて会話が出来るようになっている。フィラデラは地図を映し出すと説明を始める。
 「まず、ユトユラですが、相変わらず動きがないとのことです。対してアルセルムはすでに国境線に部隊を配置し終えているとのこと」
 『おお!かなりの数が見えるぜ、ここからでも!!』
 鏡の向こう側からファーガントがフィラデラの言葉に大声で応じる。ファーガントの目にはずらりと大軍が並び立つのが見えていた。その中には宙を飛ぶ部隊も見えている。
 『情報どおり、竜騎士どもも参戦しているみたいだぜ、エリウス様!!』
 「そうか・・・ファーガント。奴らが動くまでこちらから手を出すなよ?それからお前達は竜騎士たちからの攻撃は無視しろ。そいつらには適役を送る。それまではロカたちに任せておけ!」
 『ええー?手を出しちゃダメなのかよ!!?』
 鏡の向こう側で文句を言うファーガントだったが、エリウスの命令には納得する。アルセルム国境線はこれで大丈夫だろう。あとは部隊を分け、この先に備えることにする。
 「第一軍、第三軍、第七軍はユトユラ国境線の警戒に当たるように!結界が解けユトユラ軍が攻めてきたら専守防衛に努めるように!」
 エリススはそう命じると総指揮をストナケイトに任せる。命令を受けたストナケイト、アルデラ、シグルドは頭を下げる。続いてエリウスは姿を消したフェイトについての情報をオリビアに尋ねる。ゾフィスにも情報収集を任せておいたが、こちらには何も入ってきていない。各地で潜入工作を行っている第六軍ならば何かしらの情報が上がっているかもしれにと思ってのことだった。
 「申し訳ありません。こちらにも何の情報も・・・」
 「妙な話だな・・・ゾフィス、オリビアの情報収集能力は大陸でも一、ニを争う能力の持ち主だ。その二人の索敵にかからないなんて・・・」
 「そうですね・・・まるでこちらがわからない様に結界でも・・・あっ!」
 そこまで言ってフィラデラは自分の発言からフェイトの居場所を思いつく。エリウスも同時にその居場所がわかった。ゾフィスもオリビアも入り込めない結界、それが張ってあるのは数少ない。その一つが光の結界に守られたストラヴァイド光国、もう一つが人返しの結界に守られ、外界との交流を避けてきたユトユラ。
 「結界が張ってあってはどんな魔術師も中には入れない・・・そうなればこちらが探さない場所にいるに決まっているじゃないか・・・」
 自分の落ち度にエリウスは頭を抱える。結界の外でゾフィスもオリビアも探さない場所は一箇所しかない。それは自分たちのお膝元、ヴェイス本国である。そのことがわかったオリビアは舌打ちをする。確かに本国に配下を放ってはいない。それはゾフィスも同じだろう。
 「やられましたね・・・本国はノーマークでした」
 「まあ、誰も逃げた奴が自分のお膝元にいるとは思わないだろうからね・・・」
 悔しがるオリビアを宥めながらエリウスはどうしたものかと思案する。すぐさまフェイトを探しにいきたいところだが、アルセルムの動きが気になる以上、自分が動くわけにはいかない。ここは代役を立てて彼女を自分のもとまで連れてきてもらうのが最良の策だろう。
 「フィラ、やってくれるかい?」
 「フェイトを若様のもとまでつれてくるのですか?かまいませんが?」
 「じゃあ、たのむよ。それからセツナ、リューナ、エリザベート、アンナ、リリス。君達はフィラデラに付き従ってフェイト探索の任についてくれないか?」
 セツナが上司であるクリフトに目を向け許可を求めると、クリフトは無言で頷く。許可の出たセツナたちはフィラデラへの動向を承諾する。五人だけだが、本国に戻ればまだ今回の作戦に参加していない予備軍が残っている。そいつらも動員すれば人一人くらい余裕で発見できるだろう。
 「では、フェイトの件はフィラデラたちに任せた。それからアルセルムの件だが、こちらにはボクと第六軍、第八軍に参戦してもらう。よし、では解散!すぐに行動に移ってくれ!」
 エリウスが解散を告げると皆席を立ち、行動に移る。そんな中で一人会議室に残っているものがいた。エリザベートだけが一人残り、俯いたまま何事か考え込んでいた。エリウスは何事かと彼女を見つめていると、何事か決心したかのようにエリザベートは頷くと、エリウスに歩み寄り彼の前に傅く。
 「エリウス様、編成決定後にこのようなわがままを申すことをお許し下さい。じつは・・・」
 「キミをアルセルム攻略に加えろというんだろう?」
 エリザベートが言おうとしていることを察したエリウスは先に彼女の言葉を述べる。エリザベートは素直にこくりと頷く。アルセルムは彼女の生まれた国。しかも彼女はその王族である。気にならない方がおかしいだろうとはエリウスも思っていた。
 「キミから志願してこなければこのままフェイト探索の任につけるつもりだったけど・・・決着は自分でつけるんだ、いいね?」
 「はい!感謝します、エリウス様!!」
 エリウスの言葉に笑みを浮べたエリザベートは一礼すると会議室から出てゆく。そんな彼女を見つめていたエリウスはこのアルセルム攻略も一筋縄ではいかないだろうと感じていた。



 アルセルム・シンドルテア国境線、ヴェイス皇国第五軍大将軍ファーガントの視線の先にはおよそ20000を超える大軍がひしめき合い、決戦のときを待ち構えていた。対してこちらはわずか1000にも満たない少数である。もっともそのすべてが巨人族であるので、敵の十倍に匹敵する力は持ち合わせている。
 「お前ら、どういう闘い方がしたい?」
 ファーガントは後ろに控える四人に振り向きもしないで尋ねる。すると後ろの四人は口々に答える。
 「そんなの聞くまでもないでしょう?若!!」
 馬頭の男がポージングを決めて尋ねる。腕の筋肉がピクピクと戦慄く。
 「俺達に頭を使った作戦なんて出来ませんからね!!」
 牛頭の男がポージングを決めて答える。胸の筋肉がムキムキと盛り上がる。
 「力押し、力押し!!」
 豚頭の男がポージングを決めて意見を述べる。腹筋がモコモコと蠢く。
 「まあ、それしかありませんか・・・」
 鶏頭の男がポージングを決めて同意する。背筋がビクビクとひくつく。
 「まあ、俺達の戦い方なんてそんなもんか・・・」
 こんな連中に意見を求めた自分がバカだったと諦め顔でファーガントが答える。その間も四人は筋肉を動かしてポーズを決めている。正直言ってそれだけでも暑苦しい。こいつらもここしばらく戦いから遠のいていたため暴れたくて仕方がないのだ。それは自分も同じである。
 「ここの所暴れられなかったからな!存分に暴れていいぜ!!」
 「そんなこと言って若が一番暴れたいだけなんじゃないですか?」
 部下に暴れることを許可すると逆に突っ込みを入れられる。実際そうなのでファーガントは答えないでおく。四バカのほうもさして気にしている様子もなく早く開戦のときを待ち構えていた。だがそんな五人の思いとは裏腹にアルセルム軍はまるで動こうとはしない。
 「エリウス様にこっちから手を出すのは厳禁と言われているからな。さてどうしたものか・・・」
 動こうとしないアルセルム軍にファーガントはイライラしていた。あれだけ軍を配置しておきながら手を拱いているのが信じられなかった。だが、こちらから手を出すことはエリウスに厳禁されている。どうやったらあちらが動くかファーガントは思案するが、いい案が浮かばない。
 「若!俺達が挑発して見せましょうか?」
 「お前らの挑発?やめとけ、やめとけ!筋肉ぴくぴく動かすだけの挑発がなんの役に立つ?こっちがバカにされるだけだから却下だ!」
 「そんなことないですぜ?新しい挑発の仕方を開発したんですわ!これなら相手も動くこと間違いなし!!」
 こいつらが新しい何かを考えていたことは意外だった。もしそれでアルセルム軍が動くならばこんないいことはない。しばし考え込んだファーガントは許可を出す。
 「いいだろう。お前らも早く戦いたいだろうし、女とも犯りたいんだろう?」
 「へへっ、わかってましたか?もう、溜まっちまって・・・」
 「前の女はすぐに壊れちまいやしたからね・・・今度のはもう少し長持ちしてもらいたいもんで・・・」
 このバカどもの遠慮など知らない攻めを受けたらどんな女性でも壊れてしまうだろう。もう少し女性は優しく扱えと教えているのだが、優しく手を添えればいいぐらいにしか理解していないこいつらは激しく捕虜を攻め立て壊してしまったことが多数回あった。
 「今度こそぶっ壊すんじゃねえぞ?」
 「わかってやすよ!」
 そう言うと四バカはアルセルム軍を挑発すべく最前線へと向かって行く。その間にファーガントはアルセルム軍が動いたときのことを考えて部隊をいつでも動かせるように準備させておく。相手が動いて国境線を越えたらすぐに迎え撃つことが出来るように抜かりなく準備しておく。
 「よし、ここらでいいか?」
 「おおよ!これをみて怒らねえ奴らはいねえからな!」
 ニヤニヤ笑った四バカはおもむろに下半身をむき出しにして踊りだす。大きく勃起したものを前に突き出したり、腰を振ったり、筋肉を戦慄かせたり、逸物をブラブラ揺らしながら激しく踊ってみせる。自分達は挑発しているつもりでやっているのだろうが、端から見たらただの筋肉裸踊りでしかない。
 「やっぱりあいつらに任せたのが間違いだった・・・」
 それを見たファーガントは頭を抱えこんでしまった。こんなもの見せ付けられたら確かに相手は怒るだろう。だが同時にこの踊りは自国ヴェイスの、果てはエリウスの名を貶めるものである。四バカはもちろんのこと、こんなものを許可したファーガントもお叱りは免れないだろう。
 「でもいまさらやめろとも言えんし・・・」
 未だに激しく腰を振って踊り狂う四バカを見ながらファーガントは呻く。これでアルセルム軍が動かなかったら本当にただのバカである。そんなファーガントの苦悩をよそに四バカの踊りは最高潮に達していた。肥大しきったペニスは臍まで反り返り、全身の筋肉は汗でキラキラと輝いている。
 「ウをおおおおおおっっっっ!!!!」
 四バカの踊りが終わるか終わらないうちに大気を引き裂くような怒声が響き渡る。ついにアルセルム軍が動いたのである。さすがにアンナ裸踊りを見せ付けられて怒らない方がどうかしている。鬼気迫る表情のアルセルム軍が武器を手にヴェイス軍に迫る。
 「若!動きましたよ!!」
 いそいそとズボンを履きながら四バカが報告に来る。どうせならこのままアルセルム軍にこの四人を差し出したい気持ちになりながらもファーガントは全軍に交戦を命じる。ペニスだけ隠した四バカも各々の武器を手にこの戦闘に参戦する。ただどういうわけかアルセルム軍はその四バカに多く突撃してゆく。
 「なんだ、何でこんなに敵が多いんだ?」
 ホウルが槍を振り回しながらこの状況に首を傾げる。何でこんなに敵が自分達を敵視してくるのかわからないでいた。
 「知るかよ!どんどん倒せ、倒せ!!」
 カウルが斧で敵を切り裂きながらホウルに答える。彼もなんでこんなに敵が集まってくるのかわからなかった。
 「まったく鬱陶しいぜ!!」
 ピウルが鉄球を振り回して群がる敵兵をなぎ倒してゆく。その数はいくら倒しても減ることはなかった。
 「おおっ、いい女を見つけましたよ!」
 チウルが大鎌で敵を切り刻みながら見つけた女騎士を掴み上げる。女騎士は必死に抵抗するが力の差は歴然としている。握り締めているとそのうち力が抜けぐったりとしてしまう。気を失った女騎士をチウルは肩に担ぐようにして群がる敵に対応してゆく。
 「くそ!こっちは女なんて来やしねぇ!」
 「お前のそのツラじゃ女の方が嫌がるぜ!ぶひゃははははっ!」
 「なんだと、このやろう!!」
 文句を言うピウルをからかう様にホウルが下品な笑い声を上げる。その言葉を聞きつけたピウルはけんか腰になる。もっとも敵が多くてホウルの相手をしているほど暇はなかった。武器を振り回して敵を追い払いながらもその目は女を追い求めていく。
 「よっしゃ!こっちも捕まえたぜ!!」
 女魔術師を捕まえたカウルが鼻息も荒く叫ぶ。すでにホウルは女司祭を捕まえて肩に担いでいる。自分だけ遅れていることに苛立ったピウルの攻撃がさらに荒くなる。
 「手前ら男に用はないんだよ!!女を出せ、女を!!」
 「けけっ、てめえは男のケツでも掘っていろってことだよ!」
 荒れ狂うピウルをさらに怒らせるようなことをホウルが挑発する。案の定ピウルは怒り出し今にもホウルに掴みかからんばかりに暴れだす。そんな二人を諌めるようにチウルが間に立つ。カウルの方はこの争いに無関心を装っている。
 「バカなことで争うじゃない!ピウル、右手にまだ何人か女の戦士が残っていたはずです、そちらに行きなさい。ホウル、ピウルをバカにしていないで敵を倒したらどうです?あなたが一番撃端数が少ないですよ?」
 「ありがてぇ!感謝するぜ、チウル!!」
 「けっ!リーダー面してるんじゃねえよ!俺は最後に残った敵を一掃するのがすきなんだよ!!」
 チウルの言葉にピウルは喜び右翼へとかけてゆく。逆にホウルは眉をしかめて憮然とする。まったく対照的な態度になった二人を見ながらチウルはため息をつく。そんな彼も大鎌で近付く騎士達をニ、三人まとめて胴体から真っ二つにしている。ホウルのほうもニ、三人まとめて串刺しにしている。圧倒的力の差がそこにはあった。
 「だ、だめだ!後退しろ!!竜騎士を前に!!」
 巨人族の圧倒的な力の前にアルセルム軍は徐々に後退して行く。それを追撃しようとするヴェイス軍に数十騎の竜騎士が行く手を遮る。強敵の登場に巨人族の動きが止まる。
 「いいか、巨人どもには近付くな!いくら飛竜たちでもその力にやられる!遠間合いからブレスでしとめるんだ!!」
 竜騎士隊の隊長が部下に命令してゆく。力で巨人族に対抗しようとは思わない。相手の力の及ばないところで戦うのが常道と判断してのことだった。竜騎士たちは各々散開して行く。そして巨人族の手の届かないところまで上昇すると一斉に竜にブレスを吐かせる。いかに下級の飛竜とはいえそのブレスは強力である。一体の威力では倒せなくても三体,四体集まれば巨人族も耐え切れなくなる。
 「ちぃ!盾で防げ!!熱くてかなわん!!」
 飛竜のブレスにファーガントは肌を焼かれながらも部下達に指示を送ってゆく。前の戦で作らせた盾で放たれるブレスを防ぐ。しかし、木製の盾が炎のブレスを防ぐことはできず、すぐに燃え尽きてしまう。エリウスには手を出すなと言われたがこれではどうやってもこちらから手を出すこともできない。
 「くそ!ロカたちはどうした?」
 「すでに上に・・・」
 ブレスの攻撃に晒されたファーガントはイライラした様子で辺りを探す。すると巨人族の一人が上空を指差す。そちらを見たファーガントは飛竜の間を飛んでゆく人影を見つける。もちろんそれはロカであった。竜騎士が姿を見せた時点でロカはすぐに上空へと向かい、一体の飛竜の背中へと飛び乗っていた。
 「まずは一体!!」
 飛竜の背中に飛び乗ったロカはすぐさま背中に跨った騎士を切り伏せる。さらに主を失った飛竜の背中にも剣を突き立てる。二つの命を失い地上へと落下してゆく飛竜の背中から他の飛竜の背中へとロカは飛び移る。そして同じように騎士と飛竜の命を断ってゆく。
 「いかに強大の力を有した飛竜と言えども、背中の敵まではどうすることもできぬか・・・」
 騎士と飛竜を倒しながらロカは一人言を呟く。確かに竜騎士の力はこの大陸でも屈指の強さを持つ騎士団だろう。しかしそれは真正面から戦えばの話である。その背中に飛び乗りさえすれば飛竜は手出しできなくなる。さらにその騎手を切り伏せられれば終わりである。その騎手は飛竜の上に座り、それを操りながら戦うのでその実力は半減している。そこをロカはついたのである。
 「空中という利点を奪われればこの程度か・・・」
 同じように空中に飛び上がったダンも竜騎士に攻撃を加えてゆく。背中の騎士ごと飛竜の首をへし折ってゆく。槍を使ってそれを迎撃しようとする竜騎士達だったが、その槍をダンは華麗にかわしてゆく。ダンがかわすたびに銀色の体毛が揺れ、輝いて見える。
 「まあ、我々のような非常識な攻撃ができるものの方が少ないかと・・・」
 脚部に力の全てを注ぎ込んだミルドもこの戦いに参戦していた。ジャンプ力という面では他の二人を凌駕しているが、攻撃力が下がってしまっているため、飛竜の翼に攻撃を加えてゆく。翼を折られた飛竜は飛べなくなり、地面に叩きつけられる。そこへ待ち構えていた巨人族が群がりこれを撲殺してゆく。
 「それよりも敵もこちらに対応してきたようだな・・・」
 アルセルム軍の動きに目をやったロカが二人に注意を促す。見れば敵飛竜舞台は飛行間隔を取り、ロカたちの攻撃に備えている。こちらが攻撃を加えたあと飛び移れないようにするつもりであることはみえみえであった。だがその程度の対策がロカたちに通じるはずもなかった。
 「その程度のこと、こちらが予期していなかったとでも?」
 ミルドはそう言うと落下しかけている飛竜の背中で思い切り踏み込む。全力で飛び上がったミルドのジャンプ力は先ほどを上回るものであった。そのまま飛竜の翼に攻撃を加えその翼をへし折ってゆく。そしてさらにジャンプをし、次の敵へと飛び移ってゆく。
 「噂の竜騎士がこの程度とはな・・・」
 そんなことを言うダンはさらに器用なことをやってのける。倒した飛竜の首を掴むと前方へと放る。その勢いを使って前転をしてその放り投げた飛竜の背中へと飛び乗る。そこからさらにジャンプをし、次の獲物に飛び掛ってゆく。常識では考えられない攻撃をダンは事も無げに行ってくる。
 「そう言う常識はずれな攻撃はやめてもらえますか?」
 頭を抱えたくなる感じを覚えながらもロカは背中に半透明な魔力の翼を広げる。魔力の翼を広げて宙を駆り、獲物に襲い掛かる。そのロカをブレスで迎撃しようとするが、宙を自在に動き回るロカはブレスを易々とかわしてゆく。さらに剣を振りかぶってその飛竜の首をそぎ落としてゆく。
 「ふう、一時はどうなることかと思ったぜ・・・」
 自軍の空中戦部隊の活躍を目の当たりにしながらファーガントは溜息をつく。あのまま飛竜に攻撃を加えられ続けていたらジリ貧でこちらがやられていたはずである。そう思うとロカたちの存在はありがたいことこの上ない。自軍の被害は大きいが戦闘不能というほどではない。まだ戦闘の継続は可能であった。
 「よーし、このまま逃げ出した敵軍を・・・」
 逃げ出した地上軍の追撃を命じようとしたファーガントの目に他の物体が映る。徐々にこちらに近寄ってくるその物体は三つ。どれも飛竜を遥かに越える大きさを誇っていた。その周りには二体の飛竜。さらに翼竜の姿も何体か見受けられる。その姿を見たファーガントは舌打ちをする。
 「何でこんなところにエルダークラスが出て来るんだよ!!」
 ファーガントが愚痴るのも無理はなかった。エルダークラスはドラゴン族の中でも神竜、エンシェントに次ぐ実力の持ち主である。力的には四バカと同じくらいだが、なんと言っても高さという利点を持っている。これを利用されてはファーガントでも太刀打ちできない。
 「かといって空中の三人じゃあな・・・」
 強固な鱗を持つ上位種のドラゴンを相手にロカたちの攻撃がどこまで通じるかが問題であった。先ほどまでのように一撃で倒すことは不可能だろう。何発も攻撃を加え、倒すしかない。だがそれが三匹もいたら、それを倒すまでの間にこちらの被害が甚大になってしまう。
 「俺が空を飛べたらなぁ・・・」
 自分なら十二分にエルダードラゴンと渡り合える自信があるのにとファーガントは悔しがる。そんなファーガントを無視するかのようにエルダードラゴンは地上軍に攻撃を加えてゆく。強烈無比なブレスが大地を染める。その攻撃に耐え切れなかった巨人族の兵が次々に大地に膝をつき倒れてゆく。
 「くそ!撤退しろ!!早く!!」
 上空ではロカたちがエルダードラゴンに飛び移り攻撃を加えているが、その鱗に阻まれあまり効果を挙げているとは言えない。その効果が上がる頃にはこちらは全滅しかねない。ならば今のうちに後退するのが得策とファーガントは全軍の後退を命じる。その命令に従い後退し始めるヴェイス軍、それにエルダードラゴンを始めとする竜騎士団が追い討ちをかける。
 「エルダーさえ何とかなれば・・・」
 「そいつらは俺たちに任せておけ!!」
 悔しがるファーガントの頭上を誰かが跳び越してゆく。慌てて頭上を見上げたファーガントの目に漆黒の肌をしたエルフの姿が映った。愛用の白と黒の細剣を腰に挿したクリフトであった。
 「クリフト!!」
 「この前の戦のとき俺は何もできなかったからな!今日は存分に暴れさせてもらうぜ!!」
 嬉々とした表情のクリフトの背中には大きな白い翼が生えていた。エルフに羽など生えているはずがなく、それはプリスティアが作り出した翼であった。その擬似の翼をはためかせてクリフトはエルダードラゴンのブレスをかわしながら、切りかかってゆく。2本の細剣がエルダードラゴンの強固な鱗に食い込み、鮮血を撒き散らす。
 「オラ、オラ、オラァァァッッ!!!」
 クリフトは絶叫を上げてエルダードラゴンを切り刻んでゆく。その攻撃を受けたエルダードラゴンは絶叫を上げる。鮮血を撒き散らしながら必死に抵抗するエルダードラゴンの反撃がクリフトに襲い掛かる。しかしその攻撃はクリフトに届くことはなかった。
 「鈍い、鈍い!!!」
 華麗な身のこなしでエルダードラゴンの攻撃をかわしたクリフトはさらに攻撃を加えてゆく。細剣が鱗を切り裂き、ドラゴンの肉体を切り裂くたびに鮮血が舞い、空を赤く染めてゆく。顔を、体を赤く染めたクリフトの攻撃はエルダードラゴンの動きが止まるまで続く。そしてついにその動きを止めたエルダードラゴンが大地に降って来る。地面に強かに叩きつけられたドラゴンはまだブレスを吐きクリフトを攻撃しようとする。クリフトに当たらない攻撃を繰り返していたドラゴンはやがてその力を失い、大地に倒れ伏す。
 「よし!完調!!」
 ドラゴンを打ち倒したクリフトは上空でガッツポーズを取る。そのクリフトが倒したドラゴンの横にもう一体ドラゴンが降って来る。こちらはロカたちが三人がかりで倒した一体である。三人ともそこそこ怪我はしているものの、命に別状はなく、無事に大地に降り立つ。
 「って、あと一匹はどうしたんだ?」
 三体いたエルダードラゴンの内二体は今眼の前で息絶えている。だがここに姿をあらわしたエルダーは全部で三体、あと一体足りない。フリーになっているはずのもう一体がまるで攻撃してこないことに疑問を持ったファーガントは辺りの様子を伺う。そこで一体のエルダードラゴンが一人の男に動きを封じられているのを見つける。
 「って、エリウス様??!」
 思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。そこではエリウスがエルダードラゴンの動きを片手で封じていた。先ほどまであれほど荒れていたドラゴンがまるで借りてきた猫のようにおとなしくなってしまっている。鼻を鳴らしてエリウスに擦り寄っている光景にファーガントは自分の目を疑った。
 「すげぇ・・・あのエルダーを・・・」
 エルダードラゴンを押さえ込むエリウスの姿にファーガントはなんともいえない頼もしさを感じていた。よくよく考えてみれば神竜をも従えるエリウスにしてみればエルダードラゴンを従えるなど簡単なことなのかもしれなかった。
 「となると後は・・・」
 ファーガントの視線は他のところに移る。残された懸案は竜騎士だけである。特に後からエルダ-ドラゴンと共に現れた竜騎士の二人はほかに比べて豪奢な鎧を纏っているところから、王族か将軍と見て間違いないだろう。彼らを討つか捕まえるかすればこちらの勝利は間違いない。そう思った瞬間だった。ファーガントの横を一本の矢が鋭く通り過ぎてゆく。慌てて横をみるとそこにはエリザベートが変身した状態で弓を構えて立っていた。今しがた弓をいたのは彼女なのだろう。放たれた矢は、豪奢な鎧をまとって竜騎士の一人の乗る飛竜の眉間に見事命中する。その一撃で絶命した飛竜はご主人様ごと上空から落ちてくる。それを確認すると、エリザベートは無言のままもう一本矢を番える。それを引き絞ると改めて狙いを定めて射放つ。
 「うおっ!すげぇ・・・」
 ファーガントが呻き声を漏らすほど綺麗な軌道を描いて矢は上空高く飛ぶ飛竜の目をまたしても寸分の狂いもなく射抜く。その芸術的射撃にファーガントはうめき声を上げるしかなかった。目を射抜かれた飛竜は同じように主人ごと上空から落ちてくる。地面に叩きつけられた乗り手はかろうじて息があるらしいが動くこともままならないのはここからでもよく分かる。
 「おい、四バカ!おまえら、あそこにって今落ちてきた騎士を捕まえて来い!!」
 「へーい、分かりやした!!」
 それを確認したファーガントはエリザベートから頼まれるまでもなく四バカをそこへ向かわせる。彼女が騎士ではなく竜を狙ったのは騎士を捕虜にするつもりであったと踏んだからだ。指示された四バカはいそいそと飛竜が落ちた辺りへと向かってゆく。
 「ファーガント、今のうちに撤退を!後続が来る前に陣形を立て直す!!」
 エルダードラゴンをおとなしくさせたエリウスはファーガントに大声で指示を飛ばす。確かに先ほどまでの戦闘の所為で陣形は乱れ、けが人も多く出ている。ここは一度退き、第八軍と合流して陣形を立て直す必要があった。ファーガントはエリウスの言葉に頷くと自軍にテキパキと指示を送る。
 「全軍、国境線まで後退!陣形を立て直すぞ!急げ!!怪我人は忘れるな!!」
 ファーガントの指示のもと、第五軍は国境線へと後退してゆく。撤退して行くヴェイス軍をアルセルム軍は追撃してくることはなかった。地上軍は完敗、竜騎士たちもも何騎も落とされている。自信を持って送り出したエルダードラゴン三体も、二体は討ち取られ、一体は敵に寝返ってしまった。しかも幹部二人を人質に取られたのである。被害の面では五分でも、心理的ダメージはアルセルム軍の方が大きかった。だが、まだ今日は序盤に過ぎない。明日以降アルセルム軍本体が来た時が本番なのだから。遠くに見える敵軍本体を見つめながらエリウスは明日以降の激戦を覚悟するのだった。


 「離せ、無礼者!!!」
 魔天宮の拷問室に気の強そうな声が響き渡る。声の主は先ほど捕まえたアルセルム軍の指揮官二人のうちの一人。気の強そうな瞳で辺りを睨んでいる。もう一人は気の弱そうな顔で俯き加減に辺りの様子を伺っている。二人とも鎧だけ剥ぎ取られ、両手を後ろ手に手錠をかけられ、鎖でつながれていた。
 「わたしはアルセルム第二王女、シールム=アルセルムなるぞ!」
 シールムは自分を捕らえていることがどれほどの悪であるかを訴えるかのようにわめき散らす。わめき散らすシールムと共に捕まっているのが妹のフィーラ=アルセルムであった。姉ほど気の強くない彼女は俯いたまま何もしゃべろうとはしなかった。
 「少しは黙ったらどうだ?お前らは捕虜なんだぜ?」
 場違いに騒ぎ立てるシールムにあきれ果てながらファーガントは注意する。それで黙るようなシールムではない。ファーガントに罵声を浴びせすぐさま解放するように要求してくる。その態度にファーガントは肩を竦めて見据える。その様子をエリウスは喉を鳴らして見つめていた。
 「なるほど・・・なかなか気の強い王女様だ・・・」
 「何だ、貴様は!!?」
 「僕かい?僕はエリウス=デュ=ファルケン。君達の言うところの魔族の王子さ」
 エリウスの自己紹介を受けたシールムは青い顔で息を呑み、フィーラはカタカタと震えだす。そんな二人を見つめながらエリウスは笑みを漏らす。その笑みに侮蔑を感じたのか、シールムがまた怒鳴りだす。
 「さすがは魔族の王子!常識などないようだ!!貴様のような・・・」
 「お前のようなものがエリウス様に常識をとくとは片腹痛いわ!」
 勢い込んで捲くし立てようとしたシールムの言葉を、エリウスの隣に立っていたエリザベートガ遮る。自分の発言を遮られたシールムは忌々しそうな表情でエリザベートを睨みつける。その視線を飄々と受け流しながらエリザベートは言葉を続ける。
 「アルセルム第二王女?貴様はただの王家の分家の次女ではないか。正統な血筋の王家を皆殺しにしてその地位を簒奪したな!」
 エリザベートの言葉を聞いたシールムは血の気の引き切った青い顔をし、フィーラは何がなんだかわからない顔をしている。それを見たエリザベートはくすくすと笑い始める。
 「どうやらフィーラ、それに三女のアルセラにはなにも話していない様ね?まあ、話せないでしょう。あの子達が姉のように慕っていた人たちを惨殺したなどと・・・」
 シールムは何故そのことを目の前の魔族が知っているのかわからず動揺しきっていた。あの一件は自分達のほかは側近の者達しか知らないはずである。もちろんアルセラにもフィーラにも教えていない。エリザベートはわざと変身を解いていない。シールムが動揺する様を心の中であざ笑うためである。だからシールムはまだ目の前にいる魔族がエリザベートであることに気付いていなかった。
 「な、何を口からでまかせを・・・」
 「動揺しきった言葉遣いでなにを言っているのかしら?あの日第一王女から第三王女までが集ったあの別荘で、近従の兵を使って命を奪ったのはどこの誰だったかしら?」
 エリザベートの言葉を否定しようとしたシールムだったが、さらに紡ぎだされたエリザベートの言葉にまた黙り込んでしまう。確かにあの日、別荘を訪れた第一王女から第三王女までの命を奪っている。姉であるディアナは王位を欲し、自分はストラヴァイドから来た貴族の息子と結婚したいがために・・・
 「あう・・・あう・・・」
 「すごかったわね・・・王女達が連れてきた兵や召使たちまで皆殺しですもの。しかも盗賊に襲われたことにして国王陛下に報告、薬を使って王妃殿下ともどもその命を奪うとはね。浅ましいにも程があるわ・・・」
 「貴様さっきからなにを言っている!まるで見てきたようなことを!!」
 「見てきたのよ、あの地獄をね!!」
 必死になってエリザベートの言葉を否定しようとするシールムであったが、そこでようやくエリザベートは自身の変身を解く。蜂の顔が崩れその下から現れた顔を見た瞬間、シールムは真っ白な顔になり、フィーラは嬉しそうな,驚いたような表情を浮べる。
 「どうしたの?何か言うことがあるんじゃないかしら?」
 「なんで・・・おまえが・・・」
 「そうね、あの時あなたに斬られた傷は深かったわ・・・まさに致命傷だったわ。見てみる?まだ残っているわよ、あのときの傷・・・」
 エリザベートは笑みを浮べた顔でシールムを見つめながら自分の胸元を指差す。そこにはシールムに突き立てられた剣の痕が今も残っていた。そのことを知っているシールムは動揺し、ガタガタと震えだす。目の前にいるのが間違いなくエリザベート本人であると認めたのだ。
 「もうだめだと、もう死ぬんだと思ったわ・・・でも貴方たちに復讐したい、一太刀でも浴びせたいというわたしの願いを神様は叶えてくださったの」
 くすくすと笑いながらエリザベートは冷ややかな眼差しで見つめる。シールムの方は自身の悪事が白日のもとに晒され動揺しきっていた。どんな姿をしていてもエリザベートが生きていたというのが事実である。それが自分にどんな不幸を招き寄せるか、シールム自身がよく知っていた。
 「生き延びたわたしは一刻も早く本国に戻ってあなたたちを打ちたい気持ちを抑えて今日まで来たの。お父様とお母様まで殺したあなたたちを・・・」
 冷酷なまでのエリザベートの眼差しを受けたシールムはがたがたと震えて止まらなくなる。逃げ出したくても逃げ出すことはできない。さらに知られたくない、知って欲しくなかった妹にまであの日のことを知られてしまったのだ。妹の眼差しまでが自分を貫いているようで息苦しかった。
 「わたしを・・・殺すの・・・」
 「そのつもりでいたわ・・・でもその前に聞かないといけないことがあるから・・・」
 復讐を果たす前にやらなければならないことがエリザベートには一つだけあった。それをやらなければこの女を殺すわけにはいかなかった。そのためにはどんな非情な事もする覚悟でいた。
 「答えなさい・・・ライオットはどこにいるの?」
 エリザベートの問いにシールムはぎくりとした表情を浮べる。カタカタと震えながらエリザベートを見つめる。その瞳は嘘は許さないといっているのがよく分かる。だがそのことを言うわけにはいかない。ライオットこそ自分達が王家を名乗る最後の砦となる人物なのだから。
 「言いなさい!ライオットは、弟はどこにいるの?」
 「し、知らないわ!病気で死んだんじゃなかったかしら?ねえ、フィーラ?」
 「私も知りません・・・エリザ姉様が居なくなったあの日から会わせてもらえなくて・・・」
 シールムに対してフィーラのほうは素直に答える。事実フィーラとアルセラは弟のライオットとも仲がよかったが、あの事件以降会う事をきつく禁じられていた。だから今どこにライオットがいるのか知らなかった。フィーラは姉の方に視線を向けて知っているのなら教えてほしいと目で懇願する。だが、シールムは目をそらしてそれを拒絶する。
 「どうやら話す気はないようね・・・まあ、それならそれでいいわ・・・ファーガント将軍!!」
 「ああ、任せろ!おい、お前ら!!」
 ファーガントはフィーラを解放するとエリザベートに彼女の身柄を預け、代わりに奥に控えていたものたちに声をかける。これから起こる事をフィーラに見せたくないエリザベートは彼女をエリウスに託し、奥に退かせることにする。何か尋ねたそうにしていたフィーラだったが、強制的に奥へと引っ込められる。
 「待ってましたぜ、若!!」
 奥に控えていたのは四バカであった。体の傷はイシュタルの魔法で癒え、ピンピンとしている。呼び出された四バカは全裸のままシールムを取り囲む。巨人族の巨体に囲まれシールムは言い知れない圧迫感を受ける。さらにその視線の先には人など比較にならない大きさのペニスが反り返っていた。それが視界に入った瞬間、シールムは声にならない悲鳴を上げ、ガタガタと震えだす。
 「もう一度聞くわ。ライオットはどこ?」
 「・・・知らないっていっているでしょう!!」
 シールムは再度ライオットの居場所を尋ねてきたエリザベートの顔に唾を吐きかけて答える。ここでライオットの居場所を吐くことは自分の身の破滅であることはシールムもよく承知していた。だから決して口を割るまいと必死になっていた。たとえどんな拷問を受けても耐え抜けばいつか助けが来る。そのときまで耐えぬこうと決意し、歯を食いしばる。そんなシールムの態度にエリザベートはそれ以上何も聞かない。冷ややかな表情で四バカのほうに視線を移す。
 「もういいです。好きになさってください・・・」
 「おう!でも壊れるかもしれないぜ?」
 「構いません。私が知りたいことを知っているのはこの女だけではありませんから。他の奴らへの見せしめのために完膚なきまで犯ってしまってかまいません!」
 そう言ってニッと笑うエリザベートの顔は冷酷そのものであった。四バカは好きにしていい許可が下りたことに喜び勇んでシールムを取り囲む。
 「さっき捕まえた女達、二回で壊れちまったからな・・・まだヤリ足りなかったんだよ!!」
 ニヤニヤと笑いそんなことを言いながらながらホウルがシールムの顔を覗き込む。先ほどの戦闘で捕まえた女たちはすでに壊れた人形として部屋の隅に放置されている。その膣からは信じられないくらいの量の精液がとめどなく滴り落ちてきている。それを見たシールムの表情が恐怖に染まる。
 「やめろ・・・やめろ・・・」
 弱々しく頭を振って拒絶するシールムだったが、それが聞き入れてもらえるはずがなかった。唯一の可能性はライオットの居場所をエリザベートに白状することだった。しかしそれだけは彼女のプライドが許さなかった。何とか逃げ出そうと身を捩るが、そんなことで逃げ出せるほど巨人族の力は甘くない。無駄な足掻きに過ぎなかった。
 「さてと・・・素っ裸になってもらうとするかな?」
 下卑た笑みを浮べたか売るがシールムの服を一気に剥ぎ取る。シールムがまとう絹の服が心地よい音を立てて引き裂かれる。その下から現れた肉体を見たカウルたちは舌打ちをする。
 「なんだよ、予想通り貧弱な体つきだな・・・胸なんて真っ平らじゃねえか!!」
 腹立たしげにカウルはその膨らみに少ない胸に掴みかかる。その大きな手では指先でもいじれるほど小さな胸を力任せに弄り回す。その激痛にシールムは悲鳴を上げる。さらにピウルがまたの間に体を入れると、シールムの両足を抱えるようにしたヴァギナを舌でべろりと味見する。次の瞬間、ピウルはしかめっ面になる。
 「おい、こいつ、処女じゃないぞ!!?」
 「なに?胸なしで処女でもない?どこも取るとこないじゃないか!!」
 ボリューム感のない肉体にあって唯一ともいうべき楽しみを奪われたホウルが不平を口にする。これでは犯る気も失せると言わんばかりに文句を口にしている。そんなホウルにエリザベートはそっと声をかける。
 「その代わりといってはなんですが、彼女、人妻ですよ・・・」
 「なに?人妻?」
 「ええ。ストラヴァイドの貴族とすでに結婚しています。だから非処女なんです」
 エリザベートの説明を受けたホウルは納得した表情を浮べる。それならば非処女でも仕方がない。逆にそれならそれなりの楽しみ方があると笑みを浮べる。その笑みを見たシールムは背筋が寒くなるのを感じた。これから何をさせられるのかわかったものではない。そんなシールムは余計なことを言ったエリザベートを睨みつけるが、エリザベートの方はどこ吹く風で涼しい顔をしている。
 「さてと・・・じゃあ、奥さん。たっぷりとイかせてやるぜ?」
 ニタッと笑ったホウルがシールムの眼前に自分のペニスを見せつけてくる。先ほどよりも近くで見る大きく怒張したものは人のそれなど比べ物にならない大きさだった。それがビクビクと脈打ち、先ほどまで犯していた女の愛液でテラテラと光輝いている。ガタガタと震えだしたシールムの両足をカウルとチウルが大きく左右に広げながらホウルのペニスが入れ易い位置まで持ってくる。
 「前戯はなしだ。すぐに濡れるだろうけどな!」
 「やめろ・・・やめてぇぇぇっっ!!!」
 シールムが涙目になって懇願するがホウルは容赦なくペニスを彼女の膣内に押し込んでゆく。夫のペニスでこなれた膣道をホウルの極太ペニスが引き裂いてゆく。前戯なしで押し込まれた膣道は無残にも引き裂かれ、大量の出血をする。その溢れ出して血がペニスを伝い床に滴り落ちる。
 「おお!人妻って割にはかなり締りがいいぞ?」
 「そりゃ、俺たちの極太を突っ込めがほとんどの人間の膣は狭いだろうさ!!」
 シールムの膣道の感想を述べるホウルにピウルは下卑た笑みを浮べたままそんなことを言う。確かにホウルのペニスは全部膣内に収まらないで半分近く余ってしまっている。シールムは膣を引き裂かれた激痛に白目をむいて気絶していた。そんなシールムの両手を掴むとホウルは力いっぱい腰を動かし始める。引き裂かれた膣道を血を潤滑油代わりにして滑らせながらペニスを動かす。
 「ひぎゃあああっっ!!あがああっっ!!!」
 激痛に意識が覚醒したシールムは絶叫する。弱々しく頭を振って何か言おうとするが、痛みに呂律がまわらず、悲鳴にしかならない。ホウルは激痛に苦しむシールムの表情を見ながら力いっぱいペニスを動かす。子宮を押しつぶさんばかりの勢いで押し込まれるペニスにシールムはどうすることもできなかった。
 「どうだい、奥さん・・・旦那のものより気持ちいいだろう?」 
 「ひがっ・・・ああああっ・・・・うああああっっ・・・」
 「だめだ、だめだ。もう嬉しすぎてこっちに戻ってきてねえ!」
 ホウルの質問に白目をむいて悶えるシールムの態度にカウルはげらげら笑いながら変わりに答えてやる。事実シールムはもう何も考えられずにいた。激痛とそのあと襲ってきている快感に何も考えることも出来ない。もはや愛する夫のことなど考える余裕などシールムにはなかった。


 「まったく、旦那に操を立てないとはなんて浅ましい淫乱な奥様だ!」
 チウルは口ではそんなことを言いながら、シールムの後ろに回りこむとそのペニスをヒクヒクと戦慄くアナルに無理矢理押し込んでゆく。2本目の侵入にシールムは大きく体を痙攣させる。激痛とも快感ともつかない異物の侵入にシールムはまた奇妙な声を上げて答える。
 「うあっ・・・あああっ・・・ひぐああああっっ・・・」
 「ああっ、ああっ・・・こんなに涎をたらして喜んじゃって・・・これはもう完全に壊れちまったかな・・・」
 「なんだよ。まだ一本も終わってねえぞ?根性なしだな?」
 「淫乱なだけだよ!!」
 うつろな眼差しでホウルたちのペニスを受け入れたシールムはまさに半分壊れていた。痛みに負け、糸の切れた操り人形のようにぐったりとし、ホウルたちのしたい放題にされていた。ヴァギナとアナルの両方にペニスを突き刺した状態でホウルたちはスクワット運動を始める。二人が同時に立ち上がるたびにペニスが一番奥まで突き刺さり、シールムの体が大きく飛び跳ねる。
 「ひぎゃあああぁぁぁっっっ!!!!!」
 その激痛に耐え切れなくなったシールムは獣じみた悲鳴を上げて涙をぼろぼろとこぼす。そして二人がしゃがんだとき、必死になって地面に脚を着こうとバタつかせる。だが身長差が激しいため二人が座った状態でもシールムが必死に足を伸ばしてもつま先がやっと届く程度であった。それでもシールムは激痛から逃れたい一心で必死になって足を伸ばす。
 「ははっ。まだ壊れちゃいないみたいだ!この様子じゃ、まだまだ大丈夫だな!?」
 「そんなに痛いか、奥さん?でも、残念だったな!!」
 必死になって足を延ばすシールムを笑い飛ばしながら、彼女の脚が地面に着いた瞬間、ホウルとチウルは同時に立ち上がる。折角痛みから逃れられそうだったシールムの顔に絶望の色が浮かぶ。さらに立ち上がった二人のペニスがシールムの子宮を、腸を圧迫する。その激痛にまた表情を一変させる。そんなシールムの様子を楽しむように楽しむようにホウルたちは何度もスクワットを繰り返す。
 「ふぐっ、あがああっっ!!!うはぁぁぁっっ!!!」
 逃れられない激痛と屈辱にシールムは次第に抵抗する力を失ってゆく。白目をむき、口の端から泡を吹いて流されるままに流される。そしていつしか激痛は快楽へと変化して行く。ホウルたちの動きにあわせて腰をくねらせ、更なる快感を求め始める。シールムの心が壊れた瞬間であった。
 「すまねえな。こんなに早く壊れちまうとは思わなかったぜ・・・」
 「構いませんわ。この女に聞こうとしていたことは他の者に聞けば済む事ですから・・・」
 早々にシールムが壊れたことにカウルはすまなそうにエリザベーとに謝る。それにエリザベートは構わないと答える。シールムがここで壊れてもまだ三人、ライオットの居場所を知っているものが居る。そいつらから聞き出せばすむ事なので、シールムが壊れたことは問題ではなかった。
 「壊れた女に用はありません。四方でお好きなようになさってください!」
 「ああ。好きにさせてもらうぜ?」
 ニヤニヤ笑うカウルにそう言い放つとエリザベートは拷問部屋をあとにする。部屋を出る彼女の背後から快感と激痛に喘ぐシールムの声が聞こえてきたが、エリザベートは何の感慨も持たずにその場をあとにする。エリザベートにとってもうどうでもいい存在でしかなかった。一つの復讐が終わりを告げるように、重い扉が閉じられる音が響き渡る。だがそれはまだ終わりの音ではない。始まりの音に過ぎないのだった。


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