第30話  解放


 ユーナス大神殿地下祭殿。戦いが終わり、男の高笑いが響き渡っていた。男の名はファーゼルト。ヴァンパイア真祖の一族の生き残り。狂ったように笑う彼の眼の前にはぐちゃぐちゃに引き裂かれた鎧が転がっていた。その鎧に身を包んでいたものはすでに原形をとどめていない。
 「ひゃはははははっ!バカが!たかが魔族程度がこの私に、真祖の私に敵うはずも無かろうに!!」
 引き裂かれた鎧を憎々しげに踏みにじりながらファーゼルトは狂ったうような笑いをやめようとはしなかった。そんなファーゼルトが踏みにじる鎧を呆然と見つめる少女が祭壇の上にいた。全裸で両手を手錠で封じられた少女は、弱々しく頭を振りながら目の前で起こった現実を受け入れられずにいた。
 「嘘・・・嘘だよね・・・ケイト・・・」
 床に掘り出された鎧が彼女、真祖の姫アルデラの最愛の人ストナケイトの死を物語っていた。もはや彼はこの世には存在しない。その現実が彼女を絶望の淵に追いやっていた。
 「くくくっ!私の最愛の妻に手を出したりするからこんな目にあうのだ!自分の愚行を呪うがいい!!」
 ファーゼルトはようやく満足したのか、ストナケイトの鎧を踏みつけるのを止めアルデラの方に向き直る。しかしアルデラはまだストナケイトの鎧を見つめるだけでファーゼルトを見ようとはしなかった。そんなアルデラの姿にファーゼルトは舌打ちをする。
 「アルディレイラ!貴方はあの魔族から解放されたのです!私のほうを見なさい!!」
 未だに自分の方を振り返らないアルデラに業を煮やしたファーゼルトは彼女に大声で語りかける。アルデラの視線がわずかに動く。その目にストナケイトの鎧の残骸を握り締めたファーゼルトが映る。
 「あっ・・・ああっ・・・」
 その残骸に奪い取ろうとアルデラの手が宙を掻く。だが、ファーゼルはそれをさせず、さらに厳しい顔をする。
 「いつまで死んだ奴の呪縛に囚われているのだ!お前はあの悪魔の呪縛を離れ私の元に戻ってきたのだ!」
 キッとアルデラを睨みつけどなるように大声でわめき散らす。しかし、アルデラの方はそんな声は聞いておらず、必死になってファーゼルトの持つ残骸を奪い取ろうとしていた。
 「奴は死んだ。私とおまえは本当の夫婦に戻ったのだ!これからは次代の闇の王を生み、共にこの世界を支配しようではないか!」
 そう言ってファーゼルトはストナケイトの鎧を握りつぶす。崩れ行くストナケイトの鎧を見つめていたアルデラの双眸からは滂沱の涙がこぼれ落ちる。止め処ない涙を流しながら懸命に消えてゆくストナケイトの鎧のカスを掴もうとするが、ファーゼルトはそんな彼女の手を握り締め祭壇に押し倒す。
 「さあ、邪魔者はいなくなった!心置きなく次代の王をつくろうではないか!」
 そう言ってアルデラの体にむしゃぶりついてくる。押し倒されたアルデラはうつろな眼差しのまま涙を流す。手だけが空しく宙を掻く。
 「ケイト・・・ケイト・・・ケイ・・・ト・・・」
 アルデラの記憶は初めてストナケイトに出逢ったときまで遡っていた。父王の呪縛から逃れるためにもがいていたときに召喚されてきた漆黒の悪魔。常に自分を包み込んでくれていた優しい悪魔。自分を愛し、守ってくれてきた悪魔。その彼はもういない。その受け入れがたい現実にアルデラは完全に混乱してしまっていた。
 「いや・・・・ケイト・・・ケイト・・・を・・・」
 全身を震わせながら小声で呟く。そんなアルデラの言葉は彼女の体を貪るファーゼルトに聞こえていなかった。体中を舐めまわし、二度目の挿入の準備に入っていた。いきり立ったペニスを精液と愛液で濡れたヴァギナに宛がい奥を目指して挿入しようとする。
 「ケイトを・・・返して!!!!」
 その瞬間アルデラの意識が魔力の奔流となって爆発する。信じがたい魔力の爆発がファーゼルトを壁まで吹き飛ばす。下半身丸出しで情けなく壁に激突したファーゼルトは驚きに顔をゆがめる。押さえ込んであったはずの魔力が復活したことが納得がいかなかった。
 「な、なんで・・・あっ!!」
 ファーゼルトが見たものは弾け飛び床に散らばった首輪と手錠の残骸であった。体の内から噴出した魔力が押さえ込んでいたものを弾き飛ばしていた。だが、それ以上にファーゼルトを驚かせたのはアルデラの魔力であった。
 「なんだ、なんなのだ・・・あの魔力は・・・」
 噴出した魔力は霧状のものになり、彼女の体を包み込んでいる。まさに漆黒の霧を纏ったヴァンパイアの女王の姿であった。その姿に美しささえ感じたファーゼルトはよろよろと立ち上がると、ふらふらと無造作に近寄ってゆく。まるで彼女に吸い寄せられるように・・・
 「うつくしい・・・なんて美しいんだ・・・」
 魅入られた表情で無防備に近寄ったファーゼルトはまたもアルデラに目に見えない魔力の塊をぶつけられ、無様に吹き飛ばされる。今度はさらに強く壁に叩きつけられ、大量の血が喉を逆流してくる。
 「ぐはっ・・・ばかな・・・彼女にこんな魔力があるはずが・・・」
 自分を軽々と吹き飛ばす魔力にファーゼルトは信じられないといった表情を浮べる。今のアルデラの魔力は自分の最大魔力をはるかに凌駕してしまっている。自分よりも生まれの遅いはずのアルデラがそんな魔力を身につけていたことがファーゼルトには信じられないことだった。
 「ケイトを・・・返しなさい!!」
 ストナケイトを求めるアルデラは全身から魔力を放出し、無差別に祭殿を崩壊させてゆく。幸い自分を狙ってはなっているわけではなかったのでファーゼルトはそそくさとアルデラから逃げ出してゆく。アルデラから距離をとったファーゼルトはズキズキと痛む体を押さえながら暴走するアルデラを恐ろしそうに見つめる。
 「何が、どうなったというのだ?何で彼女にあんな魔力が・・・」
 信じがたい事実を突きつけられてもファーゼルトはそれが納得が出来ないでいた。しかし、ファーゼルトを上回る魔力を発するアルデラの方もその力をもてあまし、暴走し周囲を破壊する存在となっていた。
 「なんて力だ・・・あれが・・・」
 「そう、本当のアルディレイラの力だ!」
 暴走するアルデラの姿を見つめていたファーゼルトの背後から声がする。慌てて振り返ったファーゼルトの目には闇しか映らなかった。いや,闇などではない。闇のように深い色をした炎であった。漆黒の闇色の炎。それがファーゼルトの眼の前で燃え盛っていた。それは魔力を含んだ炎でファーゼルトの全開の魔力は遥かに凌駕していた。
 「な・・・なんだ、これは・・・」
 「なんだはないだろう?私を殺すのではなかったのかい?」
 自分を遥かに上回る魔力の存在にファーゼルトは信じられないといった顔つきで呟く。すると闇色の炎が龍のような生き物を形作ると目が開き、ファーゼルトを睨みつけながら嘲り笑うようにその呟きに答えてくる。その声はファーゼルトには聞き覚えのあるものであった。
 「まさか・・・貴様は・・・」
 「そうだよ、ようやく思い出したかい?君が殺そうとした相手のことを・・・」
 眼の前の炎は脅えるファーゼルトを目を細めて見つめる。その言葉にファーゼルトは愕然とする。今目の前にいるのは間違いなければストナケイトと言うことになる。
 「そんな、貴様はさっき確かに・・・」
 「バカかい君は?魔族が人の姿をしているわけないだろう?」
 引き裂いた鎧の方を振り返りながら叫ぶファーゼルトにストナケイトはくすくすと笑いながら答える。人の姿をする魔族がいる噂はファーゼルトも聞いたことがある。しかしそれはあくまで仮の姿である。本来の姿は大概は異形の怪物である。もちろんそれはあの鎧騎士にも当てはまり、あの鎧姿は仮の姿であり、今目の前にいるのがストナケイトの本当の姿ということになる。
 「ならば、何故・・・何故引き裂かれそうになったときに本当の姿を現さなかった!!?」
 「簡単なことだよ。私が本当の姿を現したら空間が歪んでしまってアルデラに怪我をさせてしまう。そんなことのないように力を絞り込んで顕現してきたんだが・・・まだ絞り込む必要がありそうだ・・・」
 ストナケイトの言葉にファーゼルトは彼の回りに視線を移す。圧倒的魔力の流れが空間を歪ませ、闇色の炎が触れた柱や床を消滅させてゆく。信じられないような力の奔流にファーゼルトは声も出なかった。顔面蒼白になりガタガタと震えだす。これまで自分が圧倒的力で相手を押しつぶしてきた状況が今自分に襲いかかってきているのだ。
 「そんな・・・なんでそんな力を持った魔族がこの世界に・・・」
 「召喚されたのさ、アルデラにな・・・」
 「か、彼女に・・・?」
 数百年前、アルデラが自身の父親に反逆したときに召喚されたのがストナケイトだというのだ。しかしそれを鵜呑みにすることは出来なかった。強大な魔力を持った魔神をを召喚するにはそれに見合った魔力が必要となる。人はそれを己の魂を対価として行うことがあるが、アルデラが魂を対価とするはずがないし、これほどの魔族を召喚するほどの魔力があるはずがなかった。
 「アルデラにはそんな力がないと言いたげだな・・・残念だが彼女は真の”真祖の姫”。お前のような紛い物と一緒に考えるな・・・」
 「紛い物・・・?私がか?どういう意味だ!!?」
 「何だ、知らないのか?なら教えてやる。創造神ヴェイグザスが生み出した真祖のヴァンパイアはただ一体のみ。それが”真祖の姫”だ」
 初めて聞く話にファーゼルトは完全に動揺していた。ストナケイトはそんなファーゼルトに悠然と昔話をしてやる。
 「お前は自分が真祖だと思い込んでいるみたいだが、残念ながら違う。お前たちは”真祖の姫”によって作られた人形に過ぎない」
 「私が人形だと・・・?」
 「そうだよ。”真祖の姫”はその存在から孤独であった。いかに望もうと下僕しか生み出せないのだからね。だからその心の隙間を埋めるべく父親役、恋人役の人形を生み出し、そいつらに役割を演じさせた。そして自らも記憶と力を封じてそれを堪能していた。」
 切々と話をするストナケイトの言葉にいつしかファーゼルトは聞き入ってしまっていた。そんな話、嘘だと思いながらもその話しから耳を背けることが出来なかった。ストナケイトの話はさらに続く。
 「しかしいつしか人形たちは己が本分を忘れ”真祖の姫”を支配するようになっていった。そこで彼女は無意識の内に私という存在を召喚し、人形の排除を望んだのだよ」
 ファーゼルトにとってストナケイトの言葉は絶対に信じることの出来ないものであった。だが、心の奥底にある何かはそれが真実であることを告げているように思える。そんなはずはないと否定してみるがどうにも落ち着かない。
 「どうしたんだい?落ち着かないみたいだけど・・・」
 ストナケイトは喉を鳴らして笑いながら尋ねてくる。心の奥底を見透かされたような感覚にファーゼルトはドキリとする。何とか言い返そうとするがなぜかストナケイトに対して体が萎縮してしまって何も言い返すことが出来ない。ただ、汗だけがだらだらと滴り落ちてくる。
 「体の方は覚えているみたいだね。心の奥底に眠る恐怖を・・・」
 ストナケイトの言葉にファーゼルトは青くなる。心が体が震え、その動きを止めてしまう。それはストナケイトとアルデラの存在に自分が恐怖している証拠であった。しかし、それを認めることは出来ない。認めてしまったら己が人形であることをも認めてしまうことになるから。
 「う・・・うううっ・・・」
 なんとか何か言おうと試みるが、どうしても何も言うことが出来ない。ただ、喉がからからに渇き、うめき声だけがもれてくるだけであった。そんなファーゼルトの様子を見つめながらストナケイトはさらに言葉を続ける。
 「私を召喚した彼女は私と契約を交わした。その生涯、彼女の傍にいることを。決して何者にも覆すことの出来ない契約。それが彼女とわたしの間にはあるのだよ」
 ストナケイトのいう契約とはいわば夫婦の契りのこと。魔神と”真祖の姫”との決して消えることのない約束。それが結ばれていたのだ。その認めがたい事実にファーゼルトは体を震わせ絶叫していた。自分がアルデラに作られた人形など、アルデラが自分たちを滅ぼすために魔神を召喚したなど、そしてその二人が決して消えることのない契約をかわしたなど信じることはファーゼルトには出来なかった。
 「がああああぁぁぁぁっっっ!!!」
 のどの奥から絞り出すような声で絶叫する。押し込められていた魔力を吐き出し、震える体に鞭打って恐怖に打ち勝たせる。目の前にいる悪魔など自分の敵ではないと言い聞かせて。
 「貴様などに、貴様などにぃぃぃっっっ!!!」
 魔力を全て吐き出させるようにしてストナケイトに襲い掛かる。しかし、ストナケイトは悠然とその一撃を受け止めると、燃え盛る黒い炎が刃となって体のあちこちから突き出してくる。そしてその刃がファーゼルトの魔力に守られた体を意図も簡単に切り裂いてしまう。
 「がはぁぁぁっっっ!!!」
 「悪いが、二度も見逃すわけには行かなくてね・・・」
 「ぐっ!だが、この程度の傷など・・・」
 自分の再生能力ならば片腕一本失ったくらいでは参らない。すぐに再生できるとファーゼルトは思い込んでいた。意識を集中させて再生を図る。しかしファーゼルトの予想を裏切る事態が起こった。いくら意識を集中させても切られた腕が再生しないのである。
 「なぜだ・・・何故、再生しない!!?」
 何度意識を集中させても結果は同じであった。予想外のことにファーゼルトは完全に混乱しきっていた。そしてこの再生しないこの傷には見覚えがあった。それが心の奥底に眠っていた別の恐怖を呼び起こす。
 「思い出したようだな・・・」
 「そんな・・・まさか・・・」
 ファーゼルトは恐怖に苛まれよろよろと後退する。目の前にいる存在に完全に飲み込まれていた。そんな恐れおののくファーゼルトを感心したようにストナケイトは見つめる。
 「覚えていたようだな・・・あの時お前に重傷を与えた存在を・・・」
 「やはり・・・あのときの・・・」
 数百年前、アルデラが反乱を起こしたとき、自分に一瞬にして深手を与えた存在、そしてそのときの傷も長きに渡り再生することがなかった。そう、今の片腕のように・・・
 「我が体は魔界の炎、いかなるものも焼き払い、消滅させる炎。それに切られたとあらば、再生など利かぬと思え!」
 再生の出来ないヴァンパイアなど不死身ではない。もしあの炎で切り刻まれたら終わりである。二度と再生などできず、完全なる無に戻されてしまう。恐怖に支配されたファーゼルトは奇声を発してストナケイトに背を見せる。プライドも何もかなぐり捨ててひたすら生き延びるために逃げようとする。
 「哀れだな・・・」
 そんな背中を見せた存在をそのままにしておくほどストナケイトも甘くはない。闇色の炎が膨れ上がり逃げるファーゼルトを背後から切り刻んでしまう。さらに追い討ちをかけるように黒い炎が切り刻まれた肉体を包み込む。やられたファーゼルトのほうはなにが起こったのかまるでわからないうちにこの世から消滅していった。
 「人形風情側が身分をわきまえず、姫君に手を出すからだ・・・」
 塵一つ残さず消滅したファーゼルトに冷たくそう言い放つとストナケイトは視線を暴走を続けるアルデラに向ける。体中から噴出した魔力があらゆるものを腐食し消滅させてゆく。炎と霧の違いはあるが性質としては似通った力をストナケイトとアルデラは持っていた。
 「完全に我を失っているな・・・」
 暴走を続けるアルデラを見つめていたストナケイトは大きく溜息をつく。自分が目の前に立ってもそれに気づかないほど混乱しているとなると、早急に手を打たないとこの神殿を食い尽くしてしまうかもしれない。ストナケイトは意識を集中させてゆく。それに答えるように下半身に十数本の触手が生み出される。
 「アルデラ、今目覚めさせてあげる・・・」
 生み出したその触手をアルデラに向けて放つ。触手はお互いの力を相殺させながらアルデラの体に絡みつく。一糸纏わぬ白い肌を黒い触手がなまめかしく蠢く。白い肌を蠢いていた触手がそのうち彼女の感部を弄り始める。アルデラのことは誰よりも知り尽くしているストナケイトは正確に彼女の感じる箇所を攻め立ててゆく。
 「んんんっ・・・はんっ・・・」
 暴走していたアルデラの口から甘い声が漏れ始める。それに同じる様に彼女の体を取り巻いていた霧も収まってゆく。そして光を失っていた瞳にも光が戻ってくるのだった。 
 「あんっ・・・いいっ、ああああっっ・・・」
 ごそごそと触手が乳首を割れ目を撫で回すたびにアルデラはモジモジと反応を見せる。やがてアルデラの意識は完全に元に戻り、体を取り巻いていた黒い霧も完全に体の中に消え去ってしまう。
 「・・・ケイ・・ト?本当に・・・ケイトなの?」
 「ああ、我は無事だ・・・心配をかけたな・・・」
 「ケイト、ケイト、ケイト!!」
 満面の笑みを浮べて喜ぶアルデラをストナケイトも笑顔で迎える。そして彼女に絡みついた触手は彼女の体のそこかしこを撫で回し、快楽を呼び起こしてゆく。
 「ああっ、ケイト・・・なにを・・・」
 「お前の体の穢れ・・・今清めてやる!」
 そのストナケイトの言葉どおりに触手の内一本がアルデラの膣内に侵入して行く。侵入した触手は愛液とファーゼルトの置き土産によって奥へと楽に入り込んでゆく。しかしストナケイトはその置き土産をそのままにしておくつもりはまるでなかった。膣内に入り込んだ触手が変化を始める。
 「さあ、我が触手よ。彼女の体の穢れを清めたまえ!!」
 ストナケイトの言葉に答えるように膣内に入り込んだ触手は変化を示す。先端が開き口となり膣内に残されたファーゼルトの精子をすすり取ってゆく。
 「ああんっ、なに、これ・・・・」
 体の中を啜られる快感にアルデラは悶える。体の中にあったファーゼルトの精液を一滴残らず啜り取ると、その触手は膣からモゾモゾと出てゆく。そして外に出た触手は黒き炎を発し、その炎で自身を浄化してゆく。
 「頑張ったね、アルデラ・・・今ご褒美をあげよう・・・」
 アルデラを愛しそうに見つめたストナケイトはそう言うと触手を一本ペニスの形に変形させる。ビクビクと脈打つペニス型の触手をアルデラの膣内へと押し込んでゆく。太く硬いそれが体内に進むにつれてアルデラの口からは甘い声が漏れ始める。
 「くうんっ、そこ・・・きもちいい・・・」
 触手が膣を刺激するたびにアルデラは頭を振り、腰をくねらせて触手を受け入れる。愛液はとめどなく滴り落ち、アルデラを極みへと押し上げてゆく。そんなアルデラをストナケイトは何度も何度も攻めたて快楽の極みへと押し上げてゆく。自身もその極みを目指して・・・
 「くんっ、あふん・・・・ああああっっ!!」
 「アルデラ・・・一緒にイこう・・・」
 悶えるアルデラをストナケイトの触手が極みへと追い立てる。ストナケイトの言葉に答えるようにアルデラは何度も何度も頷きストナケイトを迎え入れる。逞しい触手が何度も子宮をノックし限界を告げてくる。
 「あああっ、ケイト、ケイト!!!」
 アルデラは絶叫し極みを迎える。ストナケイトもまた極みに達し、大量の精液をアルデラの膣内に満たしてゆく。自分の子宮の中が愛するもので満たされてゆく感覚に酔いしれながら、アルデラは幸せを噛み締めていた。それがいつまでも続くことを祈りながら・・・
 「これで私の数百年に及ぶ因縁は決着がつきました・・・・」
 「ならこれからはエリウスの因縁に決着をつけてやろう・・・」
 しばしの幸せを噛み締めた二人は神官衣と鎧を纏いなおしいつもの姿に戻ると、アルデラは目をつぶり安堵の溜息を漏らす。数百年に渡って続いてきた戦いの終わりを感じ、アルデラはホッとしていた。そんなアルデラを抱きしめてストナケイトは弟のために戦うことを提案する。アルデラもそれに同意する。ならばいつまでもここにいるわけには行かなかった。新たなる戦場を求めて二人は地下祭殿を後にする。エリウスを助ける戦いに身を投じるために・・・



 魔術学院の戦いも最高潮に達していた。お互いの魔術を駆使し、魔力を込めてぶつけ合う。呪文の種類ではフィラデラが上回っていたが、威力ではグロリアが上回っていた。同じ魔法をぶつけ合ってもフィラデラの魔法が一方的につぶされる。そんな状況が続いていた。
 「くっ、なんて魔力だ・・・さすが魔術学院の副学長といたところか・・・」
 フィラデラはグロリアの魔力に舌を巻いた。本来ダークエルフである彼女の魔力は人間を上回っている。そのダークエルフのなかでも秀才といわれた彼女の魔力は常人の1.5倍の魔力を誇っていた。グロリアはその彼女の魔力をさらに上回っているのである。
 「これも私が開発した魔力増強薬のおかげさ。一時ではあるが魔力を2倍にまで高めてくれる秘薬だよ!」
 「それもドクターの置き土産ですか?」
 自慢げに話すグロリアだったが、フィラデラの問いに苦々しい表情を浮べる。どうやら図星だったらしい。そんな彼女を無視してフィラデラはどうしたらいいか思案する。普通に戦えば一発の威力の大きな彼女の方が攻撃力は高いし、魔力の総量も2倍になっているのだから使える魔法の回数も彼女の方が上ということになる。
 (さてと・・・どうしたものかな・・・)
 無詠唱呪文を駆使して戦うという手もあるが、どこまで通じるか疑問である。いい手が浮かばないうちにグロリアの方が先に動き出す。仕方なくフィラデラは応戦する。
 「炎よ、全てを焼き尽くす息吹となれ!”フレイム・ブレス”!!」
 「全てを凍てつかせる、息吹よ!汝の前にあるものの動きを止めよ!”コールド・ブレス”!」
 炎と氷の息吹がぶつかり合うが打ち消されたのはフィラデラの氷のブレスであった。炎のブレスがフィラデラの周囲を薙ぎ払う。フィラデラは慌てて下がるが、それよりも早くグロリアの炎のブレスが命中する。
 「しまっ・・・」
 フィラデラは驚愕の表情を浮べたまま灼熱の炎に包まれる。赤き炎はフィラデラを包み込み、その体を焼き尽くしてゆく。もはやフィラデラの話す術はなかった。
 「くっくっくっ・・・”漆黒の魔女”も大した事なかったわね・・・」
 自分の勝利を確信したグロリアは燃え盛る炎を見つめてほくそえむ。世界でも有数の魔女を倒したとなれば自分の名前は有名となる。もしかするとフィラデラの2つ名で呼ばれるようになるかもしれない。そんなことを想像すると嬉しくてたまらない。
 「あとは・・・お前たちの始末か・・・」
 勝ち誇ったグロリアはセツナたちのほうに視線を移す。もはや自分の勝利を疑っていなかった。だが、振り向いたグロリアは眉をひそめる。フィラデラがやられたというのにセツナたちはまるで戦う準備をしていない。武器を鞘に収め、悠然と自分を見つめているのだ。
 「お前たち、何でそんなに悠然としている!!まさかもう諦めたのか?」
 「まさか・・・まだ勝負はついていませんよ、グロリア副学長・・・」
 不機嫌なグロリアに答えたのはリリスであった。リリスのまだ勝負はついていないという言葉にグロリアは首をかしげ、視線を炎の方に戻してみる。先ほどまで気付かなかったが、炎の中で何かが悠然と構えているのが見える。
 「なんと・・・我が魔法を受けて生きていられるはずが・・・」
 「私が魔力を全開にすればあの程度の魔法、どうということはないですよ・・・もっとも封印解除がもう少し遅かったらまずかったですが・・・」
 驚くグロリアに平然と答えるフィラデラの足元にはいくつかの装飾具が落ちていた。それは間違いなく彼女が身につけていたものである。先ほどの言葉と足元の装飾具、それが魔力を抑えていたことは間違いなかった。それを証明するかのように炎の中のフィラデラの魔力がこれまでを遥かに越えるものに増大してゆく。
 「な・・・そんな・・・ばかな・・・」
 「貴方はいま、常人の2倍の魔力をお持ちのなのでしたね・・・でも残念でした・・・私が相手でなければ勝てたでしょうに・・・」
 恐怖するグロリアにフィラデラは同情的な眼差しで彼女を見つめる。今のフィラデラの魔力はグロリアの魔力を遥かに上回っていた。そしてそれがグロリアに自分の敗北も告げていた。
 「そんな・・・なんでそんな魔力を・・・」
 「ひとつは生まれついての素質でしょう。もう一つはダークエルフの特性。そしてもう一つは兄の魔力まで喰らって私は生まれたんです・・・」
 フィラデラの父親も母親も魔力が非常に高かった。その素質を受け継いで生まれた彼女の魔力は生まれつき異常に高かった。ダークエルフの特性もあったが、同時に双子の兄クリフトの魔力までも喰らって生まれてきたのが彼女であった。そのためクリフトは魔法が一切使えない剣士となってしまった。
 「でも私も苦労したんです・・・」
 くすくすと笑いながらフィラデラは話を続ける。強大すぎた魔力はちょっとしたことで周囲に危害を加えてしまう。本人の意思に関係なく振るわれるその力がフィラデラを不幸にすると思った彼女の両親はヒルデに相談し、その魔力を最小限にまで封じることにした。そのための封印を5つ用意し、それを彼女に身につけさせることで彼女の力を押さえ込んできた。その封印が今とかれたのである。
 「さあ、続きを始めましょう・・・」
 フィラデラが左手を振るうと、彼女を取り巻いていた炎は一瞬にして消え去ってしまう。彼女の体には火傷一つついていない。さらにその体を取り巻く魔力が周囲のものを破壊してしまっている。
 「悪いけどさっさと済ませることにしましょう。全力はまだ私にもコントロールしきれない代物ですから」
 フィラデラはにっこりと笑ってそう宣言する。彼女の体から噴出している魔力が暴走を引き起こしているのが手に取るようにわかる。こんなばかげた敵を相手にするのはグロリアとしては本望ではない。慌てて逃げ出そうとする。が、その動きはあっさりと封じられる。
 「”バインディング・ネット”。おとなしく捕まりなさい!」
 フィラデラの手から放たれたネットがグロリアの動きを封じる。何とか逃れようともがくグロリアであったが、体に巻ついたネットはどんなに力を込めても引き千切ることは出来なかった。あっさりとグロリアを捕縛してフィラデラは床に散乱した封印の装飾具をもう一度身につけてゆく。一つ着けるごとに噴出す魔力は押さえ込まれてゆく。
 「さてと・・・こいつの処罰は貴方に任せます、リリス」
 装飾具を身につけたフィラデラは床にうち捨てられたグロリアを見下ろしながらその処罰をリリスに一任する。処罰を任されたりリスは大きく頷くとグロリアの前にしゃがみこむ。育ての親の仇を討つつもりであることは明らかだった。
 「ぐっ・・・ううううっ・・・ぎゃああああっっ!!!」
 だがリリスが育ての親の仇を討つ前に、急にグロリアが苦しみだす。慌ててグロリアを抱き起こしたリリスはその顔を見て絶句してしまった。顔中しわだらけでとても実年齢にすら見えない。先ほどまでの顔ととても同一とは思えないような顔だった。
 「どうやら、ドクターの残した魔力増強薬の副作用のようね・・・」 
 リリスと同じくグロリアの顔を覗き込んだフィラデラはその症状を推察する。この薬は一時的に魔力を倍加するが、その効果が切れたとき、副作用が襲ってくる欠点があったのだ。おそらくドクターがこの欠点に気づき破棄したはずの理論をこの女が見つけ出し使ったのだろう。自業自得とはいえ哀れな姿であった。もはやよぼよぼの老婆となった彼女の体からは一切の魔力を感じない。
 「副作用は生命力と魔力を一気に消耗してしまうこと、そんなところね・・・」
 大まかな副作用を推察したフィラデラはグロリアから視線を移す。もはや老婆と化し、魔力の欠片も持たないものなど脅威にもなりはしない。それよりも眼の前の魔導砲をどうにかしなければならない。魔導砲を無力化するためにフィラデラたちは行動を開始する。



 傭兵団の闘技場の戦いも極みに達していた。いくら切り倒しても再生してくる人工生命体の傭兵にレオナたちは苦戦を強いられていた。いくら切り倒しても、突き殺しても再生しその数を増やしてくるため、もはや手のうちようがない状態であった。武器を構えたまま傭兵たちの攻撃をやり過ごすのが精一杯であった。
 「まずいな・・・このままでは数に押し切られる・・・」
 「どうしましょう、レオナ様・・・」
 自分と背中合わせに槍を構えるユフィナトアは困った顔をしている。予想外の敵がいたことは自分たちの甘さだが、このままここでやられるわけにはいかない。
 「仕方がないな・・・オリビア、しばし時間を稼いでくれないか?」
 「どうやって時間を稼げって言うんですか、レオナ様?私の淫夢はこいつらには効かないんですよ?」
 「それは普通の術であろう?本気のそなたの淫夢はいかなるものの動きも封じるものであろう!?それがたとえ無生物であっても・・・」
 レオナにあっさりと指摘されたオリビアは苦々しい表情を浮べる。確かに全力でやれば無生物に一時的に感情を持たせたり、死者に心を取り戻させたりできる。その上で淫夢を見せることとでその動きを封じたり心を破壊したりできる。おそらくそんなことが出来る夢魔はオリビアだけであろう。
 「でも、あれって疲れるんですよねぇ・・・」
 「このまま殺されてもいいのか?」
 「そうですね。それも嫌ですから・・・仕方がないか・・・」
 レオナに半分脅されるように諭されたオリビアはレオナたちの前に立つ。胸元に手を当てて呪を唱える。それに答えるかのように彼女の体に無数の刺青が浮き上がってくる。顔に、腕に、脚に、無数の赤や黒の刺青の紋様が刻まれる。その紋様が浮かび上がると同時にオリビアの力も増大してゆく。
 「こんな醜い姿になるから出来れば使いたくなかったんだけど・・・使わせたからにはいい夢、見れるとおもわないことね・・・」
 凶悪な笑みを浮べたオリビアが動く。死体ならば脳に、無生物ならば命令系統に意識を覚醒させる力を叩き込み、その上で淫夢を見せる。感情という物がない以上淫夢を見せたからといって完全に動きが止まるというわけではない。だが、それまでの命令などは一切起動しなくなり動きを一時的に止めることは可能である。
 「これでいいですか、レオナ様?」
 「十分だ。ユフィナトア、一気に攻め落とすぞ!!」
 「わかりました!!来い、ミスト!!」
 ユフィナトアは親指の先を軽く噛み切り血を滲ませると、それで地面に召喚紋を描き出す。召喚紋が構成されるとユフィナトアの叫びに呼応するかのようにユニコーン・ミストが召喚される。ミストの背中に跨るとユフィナトアはミストの角に触れ祈るように天を仰ぐ。
 「我が父神たるヴェイグザスの作りし神具よ。今こそ我が手に来たれ・・・”エレメンタル・ランス”よ!!」
 ユフィナトアの祈りに答えて光が集まり一本の槍が姿を現す。これまでユフィナトアが使っていた槍よりも長く、穂先がユニコーンの角の形をした槍であった。姿を露した槍と掴むとユフィナトアはそれを構えてさらの言葉を続ける。
 「神の槍に宿れ、炎の力よ・・・”フレイム・ランス”!!」
 ユフィナトアが槍に力を込めるとあたりから赤い何かが集まり、槍に炎の力を宿す。その炎の力に包まれた槍で動かない傭兵たちに攻撃を加える。これまで通り槍は傭兵の体を貫くが、槍に纏った炎の力がその体を包み込み、焼き尽くしてゆく。焼き尽くされてはもはや再生は不能であった。
 「ミスト、どんどん退治していくわよ!!」
 ”心得た、主よ!!”
 ユフィナトアを背中に乗せたミストが駆ける。ユフィナトアの槍が煌めく。人馬一体の攻撃に傭兵たちは次々に消滅してゆく。そんな戦いをしばしレオナは何もしないで見つめていた。
 「さすがはユフィナトアだな・・・早くしないと出番がなくなる・・・」
 このままないもしなかったらオリビアに何を言われるかわかったものではない。レオナは急いで自分の行動に移る。
 「我が父神たるヴェイグザスの作りし神具よ。今こそ我が手に来たれ・・・”ディメンション・ブレード”!!」
 レオナの言葉に空間が裂ける。空間の裂け目から剣の柄が姿を現し、レオナはその柄を無造作に掴むと一気に抜き放つ。姿を現したのは長さ2メートルはあろう、片刃の剣であった。その刀身は金色に輝き、みるものの心を奪う美しさを秘めていた。レオナはその剣を正面に構える。
 「消え去りなさい、虚空の闇に!!」
 レオナは剣を傭兵たちに振るってゆく。その剣は正確に傭兵たちを切り裂いてゆく。切り裂かれた傭兵たちは本来ならば切られた所から再生し、数を増やすところであったが、今度の攻撃はわけが違っていた。切られた所から体が内側に引っ張り込まれてゆく。レオナの剣が空間を切り裂き、そこに傭兵たちを吸い込んでいく。
 「どんな再生能力を持っていても虚空の闇に飲み込まれては再生できまい!」
 レオナは神具を振るい、空間を切り裂き、次々に庸兵を虚空の闇に飲み込んでゆく。レオナとユフィナトアの二人の本気の前に無限の再生能力を有したよう兵団も敵ではなかった。三人を苦しめた傭兵団が全滅するまでには数分しか時間がかからなかった。



 「ばかな!!!」
 自身の勝利を伺っていなかった女はイスを蹴倒して立ち上がる。水晶球に映し出されている光景は数刻前まで自軍の優勢を見せていたはずなのに、今はその片鱗すら残っていない。
 「これが奴らの本気か・・・折角クリフトが怪我をしたというのに・・・」
 魔導砲の攻撃でクリフトが怪我をした光景は彼女の”遠見の水晶”に映し出されていた。そしてそれによってどのような編成でこちらを攻めてくるかも手に取るようにわかった。だから相手の苦手とする敵、因縁のある敵をそこかしこに配置しその力をそぎ取ってゆくはずであった。そう、その計画は途中まではうまくいっていたのである。
 「相手の本気を読みきれなかった私のミス、そういことなのか・・・」
 彼女が倒したはずの駒が復活し、自分の駒が倒れる。今盤上ではキングとクイーンが黒い駒に囲まれていた。特にキングはひどくポーンにまで囲まれてしまっている。もはや逃げ場のない状況であった。
 「だからといってキングを奴らに渡すわけにはいかない・・・」
 悔しそうに盤上を見つめていた女は短く呪文を唱えるとその部屋から姿を消す。キングを守るために。



 「慌てて動き出したみたいだね・・・」
 サーリアの神具である”オールマイティ・ミラー”に映し出された女の慌てふためく姿を見つめながらくすくすと笑う。そして傍らに置かれた盤上の五角形の駒を動かし相手方の駒を奪い取ってゆく。女の盤上とは逆にエリウスの側にある駒のほうは無傷で、相手側はほぼ全ての駒が奪い去られていた。あと残されているのは”王将”と刻まれた駒と、”飛車”と刻まれた駒だけであった。
 「さてと・・・あとは”飛車”を狩って”王将”を救出するか・・・」
 機嫌良さそうに盤上を見つめていたエリウスは椅子から立ち上がる。女が動いた以上自分の出番であることは明らかだった。彼女が向かった先がどこであるかは大体想像がつく。
 「アリス、サーリア、イシュタル。後は任せた・・・」
 エリウスは後のことを残された”巫女姫”たちに託すと魔天宮から女の向かった先へと転移する。これからが戦いの本番であり、最後の戦いであることを知っているアリスたちはエリウスの無事を祈りその姿を見送るのだった。



 「さてと・・・この魔導砲だけど・・・」
 目の前に佇む魔導砲を前にフィラデラは思案していた。魔導砲の破壊は簡単なことであった。自分の魔法とセツナたちの攻撃で十分に跡形もなく破壊することが出来る。しかし、そうした場合大きな問題が起こる。その原因は魔導砲に繋がれたものたちにあった。
 「ドクターの説明で理解したつもりでしたけど・・・」
 魔導砲につながれた人間を見てフィラデラはため息をつく。ドクターの説明では魔導砲に据え付けられた水晶に魔力を送り込むだけで撃てる原理であったが、ここにあるのは人間を直接水晶球に繋ぐことでその魔力を吸い上げているのである。魔天宮の結界を破るほどの威力を発揮できたのもこうして無制限に魔力を吸い上げた成果であろう。
 「だが、こんなことをしたらすぐに死んでしまうぞ・・・」
 あまりに無謀な動力源の確保にフィラデラは怒りを覚える。だからこそ3発以上連射してこなかったのだろうが、それでもドクターの原理から遠く離れたこのシステムが非人道的であることは間違いなかった。
 「アンナ、魔力供給のパイプを引きちぎれる?」
 「その程度、簡単だぜ!」
 「そう、ならやってちょうだい。セツナはアンナがパイプを引きちぎったら砲台の破壊を!」
 「心得た!」
 「あとのみんなは動力にされている人たちの救出を!」
 その言葉にエリザベートたちも頷く。そしてすぐさま行動に移る。アンナが魔導砲に繋がるパイプにしがみ付くと力を込めて引きちぎる。パイプが引きちぎられた動力源から人々をエリザベートたちが救出してゆく。リリスによれば動力にされていたのは魔術学院の出身者や生徒たちで間違いなかった。おそらくグロリアにだまされてここに集められ、動力にされたのだろう。
 「命に別状はないようです・・・」
 簡単な診断をしたリリスは全員無事であることを報告する。しかしまだ彼女の表情は優れなかった。新たに魔術学院学院長になったはずのフェイトの姿が見当たらなかったからだ。
 「あとは、これだけ・・・」
 双刀を構えたセツナが眼の前の巨大な砲台を見つめながらそう呟く。力を両刀に込め、一気に切り裂く。切り裂かれた砲台は轟音を立てて崩れ落ちその役目を終える。その崩れ落ちた砲台の跡にセツナは何かを発見する。
 「フィラデラ様、なにかある!」
 「え?なにがあると?」
 セツナに声をかけられたフィラデラはセツナの指差すところを見つめる。同じようにリリスたちもそこに視線を送る。そこには巨大な水晶球が置かれていた。ドクターの話ならばそれが魔導砲の魔力を集積する水晶球なのだろう。だがその水晶球の中にさらに何かが存在していた。
 「あれは・・・」
 水晶球を見つめていたリリスが驚愕の声を上げる。その瞳に映し出されたのは一人の少女の姿であった。そしてその姿には見覚えがあった。
 「フェイト・・・・」
 そんなところにいるとは思わなかった少女の姿にリリスは驚きを隠せなかった。それを聞いたフィラデラはなるほどと納得した。魔導砲の主動力は彼女だったのだ。他の生徒はそのサポートに過ぎない。そしてシステム的に彼女の意識が戻り逃げ出そうとすればエネルギーが逆流し生徒たちの命を奪う仕組みになっていたのだろう。
 「そこまでして隠そうとした存在となると・・・」
 「そうよ。その子が貴方たちの探していた”巫女姫”の一人・・・」
 答えは別のところから返ってきた。それが誰なのか、フィラデラには大体想像がついていた。
 「意外に出てくるのが早かったわね。ゼルトランド議会議長、いえ”九賢人”アセンブラ=ウォーニッシュ」
 「アラ、私の正体に気づいていたの?」
 「気づかない方がどうかしてますよ。魔術学院長を封印し、ヴァンパイアを大司祭に任命し、傭兵団を影から操る。そんなことが出来るのはこの国の実力者だけ。その実力者で三人を除けば・・・貴方しか残らないじゃないですか」
 自分の正体にあっさりと気づいたフィラデラにアセンブラは驚いた表情を浮べる。だが、フィラデラはそれが当たり前といった顔で答える。それを聞いていたアセンブラの表情が曇る。
 「まあ、正体に気づいたことは誉めて差し上げましょう。でもその子を貴方たちに渡すわけにはいかないの」
 「ではどうなさるおつもりで?」
 「決まっているでしょう?ここで死んで頂戴・・・」
 くすくすと笑いながらアセンブラは指先に魔力を集中させてゆく。それを背後に感じながらもフィラデラはあくまで余裕たっぷりに振舞っていた。そんな彼女の振る舞いがアセンブラに疑念を覚えさせる。
 「何をそんなに悠然としているのですか?先ほどの戦いの疲労で魔法が仕えない貴方が!!?私の相手など出来ないでしょう?」
 「たしかに・・・でも貴方の相手はわたしではありません。貴方の相手は、ほら、後ろにいらっしゃいます」
 フィラデラの言葉にアセンブラは背後を振り返る。そこにはエリウスが呪文を唱えながら自分を見つめていた。慌てて呪文の方角を変えようとするが間に合わない。アセンブラの表情が絶望に包まれる。
 「何故、私がここにいると・・・」
 「サーリアの力を侮っていたね。君が僕たちの動きを”遠見の水晶”で覗いていることは気づいていたよ。だからこちらに有利な配備をさせるように配属を変えさせてもらったよ。彼らが負ければ君自ら出張ってくると思っていたしね」
 くすくすと笑いながら答えるエリウスを見つめていたアセンブラの表情が硬くなる。自分の有利な配置をしたはずがエリウスのいいように操られていたことになるのだ。怒りと悔しさに心がかき乱される。そんな彼女にエリウスは冷たく言い放つ。
 「それじゃあ、さようならだ・・・」
 その瞬間、”インフィニット・ケイオス”が完成し、アセンブラを混沌の闇が包み込む。アセンブラは悲鳴を上げる暇もないうちに闇に飲み込まれ消えてゆく。それをエリウスは何の感慨も持たずに見つめているのだった。
 「さてと・・・フェイトを助けようか・・・」
 エリウスはアセンブラが完全に消滅したのを確認するとセツナに視線を移す。それを感じ取ったセツナは小さく頷くと手にした刀で眼の前にある水晶球を切り伏せる。水晶球は真っ二つに切り裂かれ中に眠っていたフェイトが外に解放される。リリスはそんなフェイトに心配そうな表情を浮べて駆け寄る。
 「んっ・・・あっ・・・」
 解放されたフェイトの意識が戻るまでそう時間はかからなかった。リリスに抱えられたフェイトはしばらく自分の置かれた状況がわからないままぼうっとしていた。そんな彼女に近寄るとエリウスは笑みを浮べて声をかける。
 「怪我はないかい?」
 「え・・・エリウス・・・王子・・・」
 「そうだよ。君は・・・」
 「私は・・・私は・・・”巫女姫”なんかになりたくない!!!」
 エリウスの存在を認めたフェイトはそう叫ぶと転移魔法を唱えてその場から姿を消す。あまりに突然のことにエリウスもリリスも他の面々もただ呆然としているだけだった。ややあってエリウスは自分を指差しながら愕然とした表情を浮べてフィラデラたちに尋ねる。
 「もしかして、ぼく・・・ふられたのかな?」
 そのエリウスの問いにその場にいた全員が深々と頷く。その事実を認めたくなかったエリウスはうなだれ自分の負けを認めるしかなかった。ゼルトランド攻略戦はヴェイス軍の圧勝で終わったが、”巫女姫”奪還は当の”巫女姫”脱走という結末で片付いた。何故フェイトが逃げ出したのかそれはわからない。だが逃げられ、敗北を喫したエリウスはフェイトの行方を必死になって捜す。見つけたからといって事態が改善するとは限らない。それでも探さずに入られなかった。何とか話しをしたい、その一心で・・・


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