第6話 楯
リオーン城壁の外側。
ストラヴァイド軍とヴェイス軍の戦いはヴェイス軍の圧勝で幕を閉じていた。三体のドラゴンの登場はストラヴァイド軍の士気を完全に崩壊させ、その圧倒的戦闘力はストラヴァイド軍を寄せ付けなかった。一方的虐殺は敵軍のほぼ8割を葬ってようやく終了した。
「やはりラビエフは街の中か」
ストラヴァイド兵の尋問に当たったストナケイトはリオーンの街の方に視線を送る。今頃先に街に侵入したロカと対峙している頃だろう。彼の勝利を祈りつつ、事後処理に当たるのだった。
その頃。リオーンの地下水路では、子飼いの騎士10名と共に街を脱出しようとしたラビエフがロカと対峙していた。側面に人の顔を彫った兜をつけた敵騎士の存在感に、ラビエフは息を呑む。同時に先ほどこの騎士は奇妙なことを口走っていたのを思い出す。両親の仇、と。
「いったいだれだ・・・こいつは・・・」
これまで様々な謀殺に関わってきたラビエフには心当たりが多すぎた。それでも魔族に命を狙われるとは思いもよらなかった。魔族に身を落として自分の命を狙ってきたことになる。それほど自分がにくいのだろうか。
「その顔ではわたしは誰だかわかっていないようだな。まあ、無理もない」
ロカは見下したように言い放つと、地面に突き立ててあった大剣を悠然と抜き放つ。普通よりも幅の広い大剣で柄の部分は槍のように長い。それを楽々と扱っているのだ。相当の使い手であることはラビエフでも分かる。そんな敵と真っ向から勝負する気はない。
「よいか、誰でもいい、奴の動きを封じよ。その隙に他の者は奴の横を駆け抜ける」
ロカに聞こえないように側近たちに話しかける。勝負などする気はない。逃げる算段をしているのだ。それは部下たちも同じであった。こんな化け物に自分たちがかなわないことは百も承知している。
「いいか、号令と共に一斉に飛び掛れ」
ラビエフの命にお互いに視線を向けて合図を送りあう。そして剣をぬくとロカに向けて構えるのだった。
「よし、いけええ!!」
ラビエフの号令と同時に側近の兵たちは駆け出した。ロカとは逆方向に。つまりは敵に背を向けて逃げ出したのである。まさかこんなことになるとは思わなかったラビエフは呆然とそれを見送るしかなかった。やがて我に返ったときには側近たちはそうとう離れてしまっていた。
「き、きさまら・・・敵に背を向けて逃げ出すとは何事か!!戻れ、戻らんか!!戻って私を守れ!!」
脂汗を浮べて叫ぶがそれを聞くものは一人としていない。
「醜いな・・・これが騎士団の現状か・・・」
ロカはそう呟くとカテナの面に手をやる。そしてそれを正面に持ってくる。正面を向いた瞬間、死仮面の瞳に光が宿る。その状態でロカは呪文を唱える。そして一気に駆け出す。呪文の力で常人を超えたそのスピードはラビエフを通り過ぎると、あっという間に逃げ出した騎士たちの前に回りこむ。
「ひ、ひ、ひやあああああ!!!」
ロカに回りこまれた騎士たちは情けない声を上げてその場にへたり込んだり、震え上がっている。回り込んだロカはゆったりと騎士たちのほうを振り返る。ロカの顔を見た騎士たちは息を呑む。その顔は自分たちがかつて使えていた女性だったからだ、
「そんな・・・カテナ様・・・」
「ひいいいっ。お、お許し下さい・・・・」
ロカの顔を見た騎士たちの態度は、恐怖に顔をゆがめて土下座して謝る者、腰を抜かしそうになりながら逃げ出そうとする者、恐怖に心臓を鷲掴みにされながらも懸命に剣を構える者、様々だった。そんな姿を醜く思いながらロカは呪文を唱える。
「”火蜥蜴の尻尾よ、我が剣に宿れ”!」
呪が完成し、柄の先端に炎のムチが生まれる。剣を振り回し、ムチを唸らせてロカが構える。敵の攻撃は剣で受け、接敵したものは剣で切り裂く。剣の重さとロカの力でその破壊力は常人の出せるものではなかった。金属の鎧をやすやすと切り裂く。
逃げようとすれば、今度は炎のムチが唸りを上げる。背中を打ち据え、首に絡みつく。次々に喉を、背中を焼かれてゆく。引くも攻めるも出来なくなった騎士たちは次々にロカの前に屍を晒してゆく。
「そんな・・・わたしの・・・側近たちが・・・」
ラビエフは自分の子飼いとしてそれなりの者を選んだつもりだった。その騎士たちがたった一人の魔物の前に赤子同然の扱いを受けているのだ。驚いたことだろう。今のうちに逃げ出そうと試みるが、その度にロカの視線がラビエフを射抜く。その視線に睨まれる度に体が動かなくなるのだった。
「これで、ラスト!!」
相手の攻撃をかいくぐってロカは心臓を正確に剣で串刺しにする。十人の騎士たちをあっという間に片づけたロカはラビエフのほうを向き直る。そしてカテナの面を元の位置に戻すのだった。
「次はお前の番だ、ラビエフ・・・」
厳かにそう言い放つと、今度はロイの面を顔の正面に持ってくる。ロイの死仮面の目に光がともる。その顔を見たラビエフは絶叫する。
「な、なんなんだ、お前は?ロイにカテナの顔を持つ魔物だと?一体、なんなんだ!!何故私を狙う!?」
「答えは簡単だろう?復讐だよ、我が両親のな!」
これまでラビエフは何年も騎士をやってきた。だが権能での冴えない彼が倒せる魔物など皆無であった。だから魔物に仇呼ばわりされてもぴんとこなかった。
「何だ、この仮面を見ても我が両親のことが分からないのか?」
ロカはそういってロイの死仮面を指差す。ラビエフにもその意味がようやくわかってきた。そして同時に言いようのない恐怖が体を支配してゆく。がたがたと体が震え、腰が抜けてしまう。その場にへたり込みながらも手を使って何とかその場から逃げ出そうと試みる。
「まさか・・・ほんとうに・・・ロイとカテナの子供なのか!?」
「そうだ。我が名はロカ。ふたりの魂が我が魂に宿りて生まれた魔物だ」
二人の魂を宿したと聞いたラビエフは彼の持つ死仮面の意味がわかった。そしてその息子であるというロカが自分を追いかけて来て、敵といった意味も。
「ま、まて!お前の父や母を殺したのは私ではないぞ!!あいつらが勝手に魔族に捕まって・・・そうだ、殺したのは魔族だ!お前の同族だぞ!!」
「醜いな。俺の言う復讐とは父や母をだまして好き放題やってきた貴様らを両親に代わって討つという意味だ!」
「そ、それは・・・」
魔族に責任を擦り付けて逃れようとしたラビエフであったが、それはロカには通じなかった。両親は自ら魔族として同化し、自分を残したのだ。心残りはただ一つ、光国の行く末だけだった。ステラを盟主に国の安定を図る。そのための露払いをしなければならないのだ。
「貴様らのような俗物を討つことこそ、両親の望み!」
「こ、殺されてたまるか!!」
ロカに自分の剣を投げつけると、ラビエフは背中を向けて逃げ出す。剣を構えていたロカはやすやすと投げつけられた剣を受け流す。そして気合と共に一閃する。
「はへっ?????」
走るラビエフの視界が上下にずれる。
「あへ?ら、らんれ?????」
なにが起こったのかラビエフにはわからなかった。そしてそれを理解することはもはやなかった。そのまま地に倒れ付し血の海の上で絶命する。ロカの一閃はラビエフを一刀両断していたのだ。切り殺されても分からないような鋭い一閃。父・ロイの剣技を魔力で増強したものだった。
「父上、母上。ラビエフは討ちました。あとは・・・」
ロカは両側の両親に報告する。そして心に誓う、本国に巣くう奸物を討つことを。そして剣を担ぐとラビエフの死体に背を向けて歩き出す。自分の未来に向けて。
リオーンの街は完全にヴェイス軍に開放されていた。郊外での戦いに勝ったエリウスはすばやく捕らえた民兵を解放し、リオーンの街に返してやった。街に戻った民兵は今自分が体験したことを他の人々に話す。ストラヴァイド群が自分たちを囮にして魔族をうとうとしたこと、それを魔族が守ってくれたこと、捕らえた自分たちを殺すことなくすぐさま解放してくれたこと、それらすべてを語った。
これまでストラヴァイド軍に抑圧され、無用の搾取を受けてきた人々は彼らの言う侵略者が解放者であり、伝え聞くような残酷な性格の者でない事を知ることとなった。結果、彼らの怒りの矛先はストラヴァイド軍と何も動けなかった現フライゼルト評議会に向けられた。
「ラビエフを引き渡せ!!」
「評議会員はすべてヴェイス軍に差し出せ!」
口々に叫んで、ストラヴァイド光国軍の詰め所、評議会所、評議会員の屋敷に押しかけた。だが、街に入ったヴェイス軍は街の人々の無用な殺戮と略奪を押さえ込み、すばやく評議会員たちの身柄を拘束していくのだった。そんな中いっこうにラビエフとその取り巻き立ちの行方だけはつかめずにいた。
「だめです、ストナケイト様!ラビエフたちの行方はいまだつかめておりません!」
「早急に身柄を拘束せよ!それから街のものに危害を加えないようにすることをもう一度徹底させておけ!」
ストナケイトは最前線に立って事細かに命令を与えてゆく。その傍にはアルデラが控えている。報告に来た妖魔が下がると、アルデラは深いため息をつく。
「どうやら一足違いだったようですね」
「そのようだな。どこかに秘密の抜け穴でも用意してあったのだろう。我々がそれを発見する頃には奴らは遠く離れてしまっている可能性もある」
「では、首謀者を取り逃がしてしまったと?」
「いや、すでに殿下が先手を打たれていた。おそらくロカが奴らを討ってくれただろう」
ストナケイトは先日仲間になった者を信用していた。腕は確かだし、性格も生真面目である。彼ならば確実に仕事をこなしてくれると信じていた。そしてそれは現実のものとなる。地下水路から戻ったロカがラビエフ以下その取り巻きたちを討ったことを報告したのだった。これによりリオーンの街、いやフライゼルト国そのものが解放されたのであった。
そのころ・・・
フライゼルト評議会所の地下へ続く螺旋階段をエリウスは一人歩いていた。ここに前評議会議長・リゲルグの娘、シェーナがいるという話を聞きだしたからだ。もちろん罠という可能性もある。最後までレオナとアルデラが同行することを懇願したが、エリウスは首を楯には振らなかった。
「こんな地下に大空洞があるなんてね・・・街の人でも知らないだろうな・・・」
視界の先に広がる空間を見つめながらエリウスは感慨深げに呟いた。この螺旋階段は評議会所に五重の封印の先に隠されていた。巧妙に隠され、話を聞いていなければ分からないほどであった。
「・・・ようやく終点か・・・」
エリウスの視界が開けてくる。螺旋階段が終わり大空洞に到達する。石畳の敷き詰められた広大な空間には魔法の明かりが灯され視界が開けるようになっていた。エリウスはそこを慎重に中心部へと進む。そこには一人の少女が魔方陣の上に座り込んでいた。
「君がシェーナ=ヴェルベットかい?」
エリウスは静かに少女に話しかける。少女は顔を上げる。両目を魔束帯で封じられ、両手も手錠と鎖で、足も鎖につながれていた。更に首にも拘束具がはめられ、四方に鎖が延びている。厳重な封印が施され、逃げられないようにされていた。
「君がシェーナかい?」
エリウスは優しくもう一度尋ねる。少女は無言のまま小さく頷く。彼女の足元の魔方陣は魔力封じのもので、もし彼女が"巫女姫”として覚醒してしまったときのための保険といったものだった。まずエリウスはそこから手を付ける。呪文を唱え、右手を地面につく。
「”闇を封じし、光の鎖よ。その役目を終え、束縛より解き放たれん”」
呪が完成し、シェーナの足元の魔法陣が消滅する。次にエリウスは目を封じた魔束帯に手を掛ける。視力を奪う帯がはがされる。閉じられていた目がゆっくりと開けられる。赤いその瞳がエリウスをじっと見つめる。そしてシェーナは嬉しそうに微笑むのだった。
「エリウス様、やっとお会いできました」
「シェーナ、やはり君は封印が・・・」
エリウスの問いにシェーナは無言で頷く。生まれ持ったものなのか、それとも偶然の産物なのかは分からない。だが、シェーナの"巫女姫"としての記憶は解放されていたのだ。ゆえにここに封印されたのだろう。エリウスは呪文を唱えてシェーナの両手の封印を解く。枷と鎖が吹き飛び、両手が自由になる。
「で、いつまでそこで見ているつもりだい、貴方は・・・」
エリウスは視線を下に落としながら話しかける。シェーナはエリウスが誰に話しかけているのか分からなかった。ただ漆黒の闇の向こう側に向けて語りかけていることだけは分かった。すると闇が揺れる。
「貴方に隙ができるのを待っていたんですが・・・ばればれですか・・・」
やれやれといった口調で闇の向こう側から一人の男が姿を現す。メガネをかけ、顔には柔和な笑みを浮べている。だが、シェーナにはその笑みが空恐ろしいものに思えた。
「そんなものを狙っていたわけではあるまい、ハイネンス=フォーズ。いや、”九賢人”が一人・リカルド=ヴェルベットとお呼びした方がよろしいかな?」
「何だ気づいていましたか・・・」
闇から顔を出したハイネンスは頭をかきながら意外そうな顔をした。顔からは柔和な笑みは消え、残酷な笑いに変わっていた。あの笑みの裏側にこの笑みが隠されていたのである。いかに隠そうとしても、その本質を隠すことは出来ない。レオナもシェーナもその本質を見抜いていたのである。
「私が"九賢人"の一人といつからお気づきに?」
「最初からさ。魔族に交渉を持ちかけてきた人間にしては瞳の中にどこか気を許せないものがあったんだ。憎しみ、警戒、そういった感情だった。それは魔族にではなく、僕個人に向けられたものだったからね」
「おや、賢明に押し殺したつもりでしたが、気づかれてしまいましたか」
「この世界で僕個人に憎しみと警戒を抱くものは”九賢人"しかいないからね」
エリウスは肩をすくめながら自分の推理を披露する。
「それほど自分たちの支配する世界が大事かい、君たちは?」
「なんと仰ろうともはやこの世界は我々のものですよ。我々によって管理されたね!」
ハイネンスの放つ殺気が増大する。
「人間族の進化を止めた世界など何の意味がある!単なる自己満足だろうが!」
「自己満足?貴方に何が分かる。人は我々に管理されてこそ幸せに生きられるのだ!」
「違うな、お前たちは恐れたんだ。いつか人が自分たちを超える可能性のある種族であることを。だから自分たちの言葉でがんじがらめにし、進化の可能性を摘み取ってきたんだ!」
エリウスはハイネンスを厳しい表情で睨みつける。その言葉にハイネンスの表情が一変する。強烈な殺気を撒き散らしてエリウスを睨みつける。そん殺気に当てられたシェーナはカタカタと震えながら、スッとエリウスに縋り付く。息をのんで状況を見守る。
「人が我々を追い越すかも知れないですと?それを我々が恐れたですと?」
「そうだよ。だから君たちは僕を封じ、”巫女姫"を封じ、世界を封じてきた」
「・・・・」
エリウスの言葉にハイネンスは無言でいた。だが、その殺気はどんどん大きくなってゆく。肌をさすような感覚にシェーナはただ震えるだけだった。そんな中でもエリウスは悠然と話を続ける。
「僕たちがいなくなった世界で、君たちは都合のいい伝承を作り上げた。そして真実を知る人間以外の種族との交流を禁じ、弾圧したんだ」
ヴェイグサスは人の進化の過程として色々なものを用意してあった。そのことごとくを"九賢人"は封じ、進化を遅らせてきたのだ。その結果精神的に堕落しきった人間は、腐り果ててしまった。進化が行き詰ったのである。
「だから僕は君たちを倒す。12人の”巫女姫"を解放し、新たな世界を作り出す」
”九賢人"により腐りきった旧世界の刷新。”九賢人"と腐りきった人類の淘汰。それがエリウスの本懐であった。このフライベルト侵攻はその第一歩に過ぎないのだ。
「貴方がそう仰ったからといって、我々が"はい、そうですか"とおとなしく言うことを聞くとでも?」
「思っていないよ。だから力づくで行かせてもらう!」
エリウスは腰を落とす。それに答えるようにハイネンスも腰に隠した武器を取り出す。起動呪文を唱えると、それは巨大な斧となる。普通ならば使えないような大斧を両手にはめたグローブによって仕えるようになったいた。
「”怪力の手袋"に”破壊の斧”ですか・・・」
「そうですよ。いくら貴方でも完全に力を取り戻していない今ならばこれでも十分に倒せますよ!」
ハイネンスはそう言うと力任せに斧を振り回す。エリウスはその攻撃を寸でのところでかわしながら、浪々と呪文を唱え始める。
「”すべてを打ち砕きし、力よ。我が手に宿りその力を解き放たん!”
呪文が完成し、拍手を打つと、両手が赤く光る。ハイネンスの攻撃をかいくぐって、右手が斧に触れる。鈍い音と共に”破壊の斧"が砕け散る。間髪いれずにエリウスの左腕がハイネンスの肩に触れる。”破壊の斧”と同様に鈍い音を立ててハイネンスの腕が砕け散る。肩口を押さえながらハイネンスは転がって距離をとる。
「”アトミック・ブレイク”ですか・・・厄介な・・・」
額に脂汗を浮べながらハイネンスは呻く。”アトミック・ブレイク”。原子レベルで物体を崩壊させる呪文である。強力な呪文ではあるが、厄介な部分も併せ持つ。1つが目標に触れなければ効果がないこと。もう1つが持続時間が短いこと。その二つであった。
「まあ、このくらいは、ね」
そう言うエリウスの両手から光が消える。呪文の効力が切れたのである。相手に触れる体術と短い間に相手を倒す技術。その二つを持ち合わせたエリウスにとっては使いやすい呪文ではある。
「ですが、この程度で勝ったと思われるのも困りますからね!」
ハイネンスは懐に隠した煙幕を床に叩きつける。白い煙が周囲を覆いつくし、視界を効かなくする。ハイネンスはその間に鍵のようなものを出してそれを床に差し込む。
「貴方のような化け物を相手に肉弾戦を挑もうとしたのが間違っていましたよ。ここからは全力で行かせてもらいますよ」
ハイネンスはそう言うとぽっかりと床に開いた穴に飛び込む。嫌な沈黙が辺りを覆う。じっと気配を探るエリウス。その足元で何かが動く気配を感じる。それを感じ取ったエリウスはシェーナの鎖を断つと、思い切り跳躍する。次の瞬間二人のいたところに巨大な手が現れる。もしその場に残っていたならばエリウスたちは握りつぶされていたかもしれなかった。
「ふん!危険を察して逃げましたか・・・」
ハイネンスのつまらなさそうな声があたりに響く。飛び出した手のあたりの床が崩れ、そこから巨大な何かが姿を現す。それは全長10メートルを超える巨大なゴーレムであった。
「いかがですかな、このゴーレムの雄姿は。貴方が復活したときのために作っておいたものですよ」
自慢げに言うハイネンス。その体の各所にはチューブのようなものでつながっており、ハイネンス自信がゴーレムを動かしているのだった。
「精神制御による操縦、直列方魔動力エンジン搭載によるハイパワー、そして多重構造の防護呪装甲。まさに無敵のゴーレムですよ」
ゴーレムの使用を謳いながらハイネンスは悦に入っていた。その様子を無言のまま見つめていたエリウスはそのまま一気に距離を詰める。そしてもう一度"アトミック・ブレイク"を唱える。エリウスの両手がゴーレムの装甲に触れた瞬間、原子崩壊を起こして崩れ落ちる。だがそれは装甲のほんの一部に過ぎなかった。
「無駄ですよ。多重構造になっているのです。"アトミック・ブレイク”で破壊できるのはほんの一部装甲のみ。全体的にはダメージなどないに等しい!」
確かに"アトミック・ブレイク”が破壊できるのは手が触れた部位のみである。生物であればその一撃で無力化することが可能だ。しかし相手がゴーレムでは装甲の一部を破壊したくらいでは止まらないのも事実であった。
「しかし防御ばかりではありませんよ!こんな攻撃も出来るんです!”スマッシュ・ナックル”!!」
ハイネンスの雄たけびと同時にゴーレムの右手が、左手が唸りをあげて放たれる。直撃を受けたらぺちゃんこに潰されてしまうような一撃がエリウスに襲いかかる。一発目はかわしたエリウスであったが、二発目はかわしきれなかった。それでも何とか"アトミック・ブレイク”を唱えてこぶしを受け止める。が、やはり砕けたのは装甲のほんの一部に過ぎなかった。それでもほんの一瞬隙が出来た。それを逃さずエリウスは跳躍し危機を脱する。
「避けきりましたか・・さすがですな」
ハイネンスは感心したような声を上げる。その間に放たれた腕はまるで意思があるかのように胴体の元に戻り、元の鞘に納まる。その光景を見ていたエリウスは鼻を鳴らす。確かに厄介な相手であった。どうしたものかと考えるエリウスの口元から血が滴り落ちる。先ほどの一撃がエリウスにダメージを与えていたのだ。
「このままじゃ、埒が明かないね。さっさと終わらせようか」
エリウスは再び構えると、呪文を唱える。先ほどまでの"アトミック・ブレイク"とは違った呪文であった。
「”汝は混沌の闇なり。汝は破滅の力なり。その力、我が元に集いてかの敵を打ち崩さん・・・”」
目を閉じ詠唱が続く。"アトミック・ブレイク"を上回る呪文。呪文が上位になればなるほど詠唱時間は長くなる。エリウス級となると、中級いかは無詠唱でも発動できる。"アトミック・ブレイク”などの上級呪文でも即座に発動できるが、最上級となると話は別である。それなりの集中と詠唱時間が必要になってくる。その隙を見逃してくれるほどハイネンスが優しいはずがなかった。
「隙だらけですよ!」
ハイネンスの乗るゴーレムが胸をそらす。そこに魔力が集中してゆく。それを感じたエリウスは舌打ちをする。その攻撃を喰らったら自分でもただではすまないほどの力を感じたのだ。そしてその攻撃は自分の呪文が発動するよりも数秒早かった。
「これで貴方はまた混沌の闇に変えるのですよ、エリウス・・・いや、創造神ヴェイグサス!」
ハイネンスの高笑いが響く中、ゴーレムの攻撃がエリウスに迫る。その光景をシェーナは身動きひとつせずにただ、無言のまま見つめていた。
死・・・
消滅・・・
エリウスとの別れ・・・
恐怖・・・
孤独・・・
様々な感情と記憶がシェーナの脳裏によぎる。
「い・・・や・・・だめ・・・もう、私から奪わないで・・・」
知らず知らずのうちに涙が頬を伝う。エリウスにゴーレムの攻撃が当たる瞬間・・・
「いやーーー!!!やめてーーー!!!」
シェーナの絶叫が空洞中に響き渡る。その瞬間エリウスの眼前に巨大な楯が現れゴーレムの攻撃を完全に遮断する。それを見た瞬間エリウスはにやりと笑う。
「残念だったな、ハイネンス。シェーナが楯の”巫女姫”でなければ、お前の勝ちだっただろうに」
エリウスの言葉にハイネンスは絶句する。シェーナの力はすべてを遮断する楯の力。その力がゴーレムの攻撃を遮ったのである。その隙にエリウスの呪文が完成する。
「混沌の闇に帰るのは君の方だ、”九賢人”リカルド=ヴェルベット!”インフィニット・ケイオス”!」
エリウスの呪文が発動した瞬間、ゴーレムを十二の星が覆い尽くす。その空間内に光でも闇でもない、無の混沌が出現する。それが触れた瞬間、ゴーレムの体が消滅してゆく。
「そんな、バカな・・・なんだこの呪文は、我々は知らぬぞ!!」
「そうさ。これは僕にしか唱えられない呪文のひとつ。君たちどころか、"巫女姫”でも制御できない代物さ」
消滅してゆくゴーレムに恐れおののくリカルドにエリウスは冷たく言い放つ。
「そんな・・・バカな・・・」
混沌の力がリカルドを包み込む。そこには何も残らなかった。無。それがその空間を支配していた。リカルドの消滅を確認すると、エリウスは大きく息を吐く。同時にシェーナもまた床に倒れふす。エリウスはあわてて駆け寄り彼女を助け起こす。その瞳には光が宿っていない。
「力の使いすぎか、やばいな・・・まだ完全に覚醒していないのに”巫女姫"の力を使ったから・・・」
仕方がないとエリウスはそっとシェーナの唇に自分の唇を重ねる。自分の魔力をシェーナに分け与え、覚醒を促そうと考えたのだ。
「・・・・・・」
シェーナはエリウスの為すがままになっていた。エリウスは動かぬシェーナの優しく抱きしめたままキスを続けた。ゆっくりと舌をシェーナの口内に差し込み、彼女の舌に絡める。意識のないシェーナはまるで反応を示さない。プちゃピチャと舌を絡める音がする。
「・・・ん・・・・んくっ・・・」
少しずつシェーナの口から声が漏れ始める。それを確認したエリウスは、キスをしたままシェーナの衣服を剥ぎ取ってゆく。埋めれてこの方、一度として殿方に見せたことのない肌が晒されてゆく。
「ふふ、綺麗だよ、シェーナ・・・」
唇を離れた下がゆっくりとシェーナの肌を伝い下にさがってゆく。舌先がシェーナの胸に到達する。それなりの大きさを持った胸がフルフルと震える。片手で揉むと、シェーナの体がぴくっと反応を示す。エリウスはシェーナを刺激するようにゆっくりと、円を描くようにして胸を揉む。
「ふ・・・ああ・・・・あっ・・・」
シェーナの声から確実に甘い声が大きくなってゆく。それを確認しながらエリウスは今度は桜色の乳首を口に含む。舌でころころと転がし、啜って刺激する。
「あふっ・・・・ああっ・・・」
シェーナの声に答えるように乳首も硬さを持ち上を向いてゆく。それを感じ取りながらエリウスは右を舐め、左を舐め、また右を舐め刺激してゆく。乳首は痛いほど勃起し、感じていることを示す。シェーナの声も確実に大きくなってゆく。そして瞳の光も徐々に回復していった。
「うん、いい感じだ」
エリウスはそう言うと次の段階に移行する。マントを床に引きそこにシェーナを寝かしつける。シェーナの足から最後に一枚を引き抜くと、大きく足を左右に開かせる。シェーナの秘密の花園が蜜をたたえてエリウスを迎える。
「ほら、ここはどうだい?」
エリウスはゆっくりとシェーナの中に指を飲み込ませてゆく。男を知らない膣道はキュウキュウと指を締め付けてくる。その締め付けを感じながらエリウスはゆっくりと指を動かす。
「ああっ!い・・・いは・・・ああああっ・・・」
これまでと違って頭を振って反応を示す。膣もまた指を締め付け、蜜を滴らせてエリウスを迎え入れる。エリウスがシェーナの感じる箇所を掘り返すたびにシェーナの体は反応を示して震える。とろとろと滴る蜜が校門を濡らしエリウスのマントにシミを作ってゆく。
「ひゃん!ひあああああっ!!」
がくがくと震えて反応を示すシェーナの声は大きくしっかりとしたものになっていた。瞳の光もまた完全に戻っていた。完全に覚醒した意識の元、シェーナはエリウスを受け入れていたのだ。
「エリウス様、エリウス様!!」
エリウスにすがりつき涙を流して彼の名を連呼する。ここに封じられた長き月日のうちにエリウスが消えることを恐れていたシェーナにとって、やっとめぐり会えた人である。もう離したくはなかった。それが分かっているからこそエリウスはシェーナの髪を優しく撫でるのであった。
「君の覚醒はまだ、完全じゃあない。僕を受け入れてくれるね?」
エリウスが優しく語りかけるとシェーナは顔を赤くして小さく頷く。エリウスはそれを確認するとシェーナを自分の膝の上に乗せる。そして自分のいきり立ったものを引き出すとそっとシェーナの花園に宛がう。ペニスの先端が花園に触れると、溢れ出した蜜がペニスに滴り落ちる。
「いくぞ」
そっとシェーナの腰を押し下げる。ペニスの先端が花園に飲み込まれてゆく。溢れる蜜が潤滑油となり、男を知らない膣道がペニスを飲み込んでゆく。
「ふくっ・・・いた・・・」
ペニスが膣道を進むほどに柔肉は押し広げられ、シェーナに痛みを与える。涙を浮べて痛みに耐えるシェーナをエリウスはそっと抱きしめる。そして無言のまま、更にシェーナの腰を落とす。何かが裂けるような感触。後はペニスはすんなりと奥に飲み込めれてゆく。
「い・・・た・・・ああっ・・・」
背を大きくそらせてシェーナは喘ぐ。痛みによって肺の中の空気がすべて押し出された感覚。息苦しさに懸命に息を吸い込もうとする。が、呼吸すらままならない。パクパクと口が動くだけだった。そんなシェーナを無視するかの様にエリウスはゆっくりとシェーナの腰を動かしはにめる。
「あぐぅ・・・ひぃぃ・・・いた・・・ああああっ・・・・」
傷ついた膣をすりあげる感触にシェーナは痛みを訴える。その痛みをどこかに追いやろうと必死にエリウスにしがみつく。そんなシェーナの背中をさすりながら、エリウスは行為を辞めようとはしなかった。エリウスのペニスは何度も彼女の膣を擦り上げ、子宮の入り口をノックする。
「いふぅ・・・ああっ・・・い・・・いあぁぁ・・・」
痛みを訴えていたシェーナの口から徐々に快感を訴える声が漏れ始める。そしてシェーナの脳も高みへと、絶頂へと上り詰めて行くのだった。
「いい・・・あああっ!あんっ!エリウ・・・スさま・・・もう・・・」
シェーナは己の限界を訴える。それはエリウスも心得ていた。ペニスを締め上げる膣の動きが断続的になってきたからある。それが分かっているからこそ、腰の動きを早め、自分も高みへと追いやろうとしていたのだ。
「ひぐぅ!いいよぉ!!エリウス・・・サマーーー!!」
絶叫しシェーナの体が大きく反り返る。同時にシェーナの膣が強くエリウスのペニスを締め付ける。それが合図となった。ペニスの先端から熱い物が吐き出され、シェーナの子宮を満たしてゆく。それはシェーナの心の隙間をも埋めてゆく。
”この方を守りたい"
その想いが心を支配する。その想いが最大となったとき、シェーナは赤い光に包まれる。レオナの覚醒と同じ現象。身なりを整えたエリウスはそのときをじっと待つ。やがて光の卵にひびが入り、中から白き翼の少女が姿を現す。
「おかえり、楯の”巫女姫"・シェーナ=ヴェルベット」
エリウスは慈しみをこめた声で生まれ変わった少女を迎える。少女はスッとお辞儀をしてそれに答えるのだった。
誰もいない漆黒の部屋。そこに一人の男がいた。男がじっと見ている先には巨大な棺桶が立てられ、九本の太い鎖にがんじがらめにされていた。そしてその周りには十二本の燭台がその棺桶を取り囲んでいる。男の傍にも一本の燭台があり、そこだけに明かりが灯されている。じっと棺桶を見つめていると、大きな音を立てて太い鎖がはじけ飛ぶ。更に一本の燭台に明かりがともるのだった。
「くくくっ・・・いいぞ・・・魔族どもめ、役に立ってくれる!」
そう言って男は愉快そうに笑うのだった。
「"九賢人"がいなくなればこれが使えるようになる。さすれば魔族など簡単に駆逐できようぞ。そしてそのときこそ、我がこの世界の支配者となるのだ!!」
欲にまみれた男の下卑た笑いが部屋中に響き渡る。それがなんであるかも知らずに・・・世界は少しずつ、壊れ、崩壊に向かっていた。
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