第7話 反乱
フライゼルト滅亡。この報は衝撃を持って各国に伝播していった。フライゼルト国民はすべて魔族に隷属化した、餌となった、殺され死人兵団に加わえられた。様々な憶測が噂となり、尾ひれがついて伝わっていった。
その噂を聞いた人々は恐れおののき、次は自分たちではないのかと恐怖した。
情報収集に当たっていた各国も国境を閉鎖し、ヴェイス軍の襲来に備え始めた。ある国は国境の防備を固め、ある国は軍隊を移動させ他国を伺い、ある国は和平の道を模索した。
それぞれの国がそれぞれの考えで行動し始めた頃、フライゼルトではヴェイス軍による統治が始まっていた。
統治といっても何が変わったわけでもない。これまでどおり、新たな評議会員を選出し、会議を開いて国を治める。その体制は維持するのだった。フライゼルト在駐のヴェイス軍は規律が徹底され無益な搾取は禁じられていた。
当初は魔族によって統治されると恐怖心を持っていた人々も、伝え聞いた伝承と違う態度で接してくる魔族に戸惑いを覚えていた。しかし日がたつに連れ、規律の正しさと、誠実さに考えを改め始めるのだった。
ストラヴァイド軍の非道とヴェイス軍の善政。どちらが正しいものかは人々には一目瞭然だった。いつしか人々は魔族を歓迎し、積極的にヴェイス軍に関わるようになっていた。
そんな街の様子の報告を受けたエリウスはフライゼルトの管理を新議長に任せると、次の一手を考え始めていた。
「フライゼルトの件はこれでいいな。シェーナも無事見つかったし、"九賢人"も一人、滅することが出来た」
エリウスは満足そうに頷きながら魔天宮の謁見の間にある玉座に腰を下ろす。その傍らにはシェーナを加えたアリス、レオナたち"巫女姫"が佇んでいた。
「フィラデラ、状況は?」
「各国とも国境線を固めてきています。特にフライゼルトと国境を接するシンドルテアは5万に及ぶ大軍を国境線に配備し、国境を越えるものを厳しく制限しているとのことでございます」
フィラデラは呪文を唱えると大鏡に地図を映し出す。それを見ていたエリウスは何事か思案しだすのだった。しばし無言で考え込んでいたエリウスだったが、顔を上げるとフィラデラに次々に指示を与えてゆく。
「シンドルテア国境には第一軍と第五軍を配置。何か動きがあり次第即時迎撃を命じておけ。全軍の指揮はストナケイト将軍に一任する」
「畏まりました」
フィラデラはエリウスから受けた指令を部下に伝える。命を受けた部下は即座に謁見の間から飛び出してゆく。エリウスはそれが終わると他国の情勢を聞いてゆく。どの国も相手の出方を伺い、自分たちの動きに注視している。他国を出し抜きこの大陸の覇権を目指しているのはみえみえだった。
そんな他国の情勢を尋ねながら、エリウスは別活動をしている者たちの動向を聞いてゆく。
「オリビアから連絡は?」
「昨日連絡が入りました。計画通り、セルビジュ重機甲兵団将軍、サンゼルア=ホド将軍はオリビア将軍の言に乗り、王位継承式に参席するために首都へと向かったそうでございます」
「セルビジュの首都の状況は?」
「前国王セルドム=セルビジュ公の跡を息子のナルアム=セルビジュが継ぐこととなり、その戴冠式に合わせて各地から将軍たちが集結しつつあるとのことでございます」
「国内の情勢は?」
「王妃の外戚である宰相・ホンラッド=キルネスの悪政により各地で不満が爆発しているとのコト。今回の王位継承もナルアム王子を傀儡とするためのものとの噂が大勢を締めております」
一通りセルビジュの情勢を聞いたエリウスはまた目を閉じて考え込んでしまう。自分が授けた策略どおりにオリビアが動いたとしてこのあとどうなるかを脳内でシミュレートしていたのだ。
「サンゼルア将軍はいつ首都に到着する?」
「サンゼルア将軍は明日中に首都スナに到着の予定とのことでございます」
「ドワーフの集落の長たちはどうした?奴らの動向は探らせておいたはずだが?」
「今のところ何の動きもみせていないとのことでございます」
フィラデラの報告を聞いたエリウスはドワーフの動きに眉をひそめる。こちらに完全に同調したわけではないからだ。下手に動かれると厄介なことにある。そのことを心配していた。エリウスの危惧を感じ取ったのかフィラデラは自分の案を提案する。
「エリウス様。ドワーフ族の動きが気になるのでしたら、我が第二軍のほうで始末をつけますが?」
セルビジュ国内のドワーフ族は多くの部族に分かれていて、一部族ごとの人数は少ない。だからといって侮るわけには行かない。団結すれば厄介な力の持ち主であるのだから。
「いや、下手につついて怒らせるのは避けたい。我が軍のドワーフ族を改めて使者としてたてろ!奴らの好物の酒を持たせてな。アメとムチを使い分けて交渉に当たれといっておけ!」
「かしこまりました」
エリウスの案をフィラデラはお辞儀をして承る。もちろんフィラデラ自身最悪を想定して活動している。もしものときの保険はかけておくつもりでいた。
「第三軍と第八軍にはかねてからの指令どおりに動くように指示しておけ」
最後の指示を終えるとエリウスはこれから起こる戦いをいかに押さえ込むかを考え込んでいた。
セルビジュ。切り立った岩山に囲まれた山の国。人間は平地に国を作り、ドワーフは山岳部に住まいを国の歴史を築き上げてきた。お互いに共存しこれまで暮らしてきたのだった。
だが、ここ1年で情勢は一変した。国王・セルドムの死後、人間による無用な搾取が激増したのだった。そのため、ドワーフ族との対立もまた、激増しつつあった。
このドワーフとの対立は人々を不安に陥れた。そこに魔族の侵攻、フライゼルトの滅亡と立て続けに不安を掻き立てる事件が続発したのだった。不安はいつしか現政権への不満となり、各地で暴動が続発した。そのため王宮は各軍団の将軍を各地に派遣し、暴動の鎮圧に躍起になっていた。
いっこうに暴動が治まらないことに業を煮やした宰相・ホンラッドはこの不安を一掃し、国内を纏め上げるためにナルアム第一王子の即位を発表した。これにより国を1つにまとめ挙げようと図ったのだった。
しかし思い通りにはことは運ばず、即位式は延期に延期を重ねて今日に至っている。
新国王の即位。本来ならば各国の王を招いての一大イベントとするはずだったが、この情勢下ではそれはかなわなかった。それでも国を挙げて大々的に行われることになっていた。
その戴冠式の舞台となるセルビジュの首都ナムはセルビジュのほぼ中央に位置していた。左右を五十メートルを超える絶壁に囲まれ、更に城壁は数十メートルの高さを誇る鉄壁の守りを固めていた。この守りやすく、攻め難い都市でかつてない戦いが繰り広げられりこととなる。
セルビジュ軍重機甲歩兵団将軍・サンゼルア=ホド。
彼は卑しい身分の生まれであった。幼き頃は食うにも困る生活を強いられていた。学もない彼に残された道はただ一つ、己の力のみであった。12歳で傭兵となったサンゼルアは、隣国サーナリアとの戦に参戦。もって生まれたその怪力を駆使して目覚しい活躍をみせる。多くの功績をあげ、わずか15歳で部隊長、18歳で軍団長にまで登りつめていった。
それ以上の地位を手に入れるために彼は跡取りのいない弱小貴族、ホド家の養子となり、貴族という肩書きを手に入れるのだった。弱小とはいえサンゼルアの活躍はその家の名を大きくしていった。
そしてついに22歳にして重機甲歩兵師団の将軍に登りつめたのである。
上流階級に登りつめたサンゼルアはそこで一人の少女と出会う。クリサリア=キルネス。宰相の末娘のその美しさに心奪われた彼は彼女を自分の妻にしようと画策した。だが、その思いは宰相に握りつぶされあえなく消え去った。そしてクリサリアは王妃として城にあがって行くのだった。その光景をサンゼルアは歯噛みして見つめるしかなかった、宰相への憎しみとクリサリアへの恋慕の情を深めながら。
あの日から12年間、サンゼルアはひたすら耐えてきた。心に秘めた思いに苦しみ、もがき続けた。
そんなある日、一人の踊り子が彼の元にやってきた。一夜のことと思いながら彼女と一夜を共にする。そこで彼は彼女の寝物語を聞くのだった。国王が死ねば時が来るという彼女の話をぼんやりと聞いていたサンゼルアであったが、本当にそのときがやってきたのである。
国王の死と共に宰相への不満が各地で爆発する。それを押さえるべくサンゼルアは各地に派遣されることとなった。その先で彼は不思議な夢を見る。即位式で反乱を起こせばすべてうまくいくと。目が覚めると彼の脳裏にはその計画の全容が鮮明に残されていた。サンゼルアは狂喜しそれを実行に移したのである。
各地にいる反宰相派と連絡を取り、宰相ホンラッド=キルネスを討つべく立ち上がったのであった。とはいえこの都市は攻め難い都市であることはこの国の出身者であるサンゼルアにはよく分かっていた。だから彼は脳裏に残った計画通りに即位式を利用したのだった。
即位式に参列する振りをして地方から帰参。更に部下たちにも即位を祝う市民を演じさせて、武器類を隠して首都ナムに入り込ませたのだった。協力者たちにも同様の方法で首都に潜り込ませる。いかに守りの固い街であっても中に入ってしまえば強者の勝利は間違いなかった。
即位式当日。サンゼルアは何食わぬ顔で式に列席していた。
「まもなく・・・か」
自分の勝利を思い描きながらサンゼルアは内心ほくそえんだ。そして視線を玉座の方に移す。玉座にはまだ10歳のナルアム王子が座り、その横には宰相のホンラッドが後見人よろしくふんぞり返っていた。サンゼルアはその顔を憎々しげに見つめる。
(待っていろ、今にその地位から引き摺り下ろしてやる!!)
内心そう思いながら視線をさらに移す。ナルアム王子のとなりには彼の母親であるクリサリアが座っていた。12年前の、サンゼルアが恋した頃と変わらぬ美しさを残した彼女が笑みを浮べて座っていた。その笑顔はサンゼルアの心をかき乱した。
(早く君を・・・オレのものに・・・)
こらえがたい欲望が心を支配してゆく。12年。その長き思いがかなうときをサンゼルアは心待ちにしていた。
そしてついにそのときが来た。
式の開始を告げる鐘の音。それが始まりの合図であった。
まず街中で陽動の戦いが始まる。反宰相派の騎士たちが傭兵を使って陽動をかける。城内部の騎士たちがその鎮圧のために出撃したところで重機甲歩兵団を中心とした部隊が城内に突入する。場内にも彼らに呼応する騎士たちは少なくない。彼らと合流し一気に攻めたてる。
城内は騒然となっていた。味方である騎士団が反乱を起こしたのである。しかも多くの騎士たちがその反乱に呼応し寝返っているのだ。今城を守っているのは宰相子飼いの近衛騎士団だけであった。とはいえそのほとんどが宰相のおこぼれに預かろうとする者たちの子弟で構成されたものである。戦場を駆け巡ってきた重機甲歩兵団の敵ではなかった。有象無象に蹴散らされ全滅の憂き目に会うのだった。
「そろそろか・・・」
近衛騎士団のほとんどが出払ったタイミングで、サンゼルアは行動に出る。同じく式典に参列した仲間たちと共に、式場に隠してあった武器を手に一気に式場を制圧して行く。弱者は強者に抗う術はなく、次々と宰相派の貴族は討ち果たされてゆくのだった。
「サ、サンゼルア!貴様、国王陛下に反旗を翻すなど!!」
「だまれ!陛下の名を借りて非道の限りを尽くす外道どもめ!セルビジュの民に成り代わり貴様らを討つ!!」
型どおりの台詞で自分たちの正当性を主張すると、一気に玉座に迫り、宰相の動きを押さえ込む。ナルアム王子の傍を離れなかった騎士たちが行く手を阻むが、サンゼルアの敵ではなかった。数太刀でその命の火は消えるのだった。サンゼルアはかまわず歩を進める。
「サ、サンゼルア!!」
蒼い顔で自分を押さえ込むホンラッドにサンゼルアはニタリと笑ってみせる。もはや宰相も、王子も守るものは何もなかった。サンゼルアは王子を残して逃げ出そうとするホンラッドの首根っこを掴むと、床に組み伏せる。そして高らかに宣言するのだった。
「国を貶める宰相はここに捕縛した。今日の即位式は中止!殿下の身柄の確保を!」
サンゼルアの指示に従って、彼の配下がナルアムとクリサリアを有無を言わせずその場から連れ出してゆく。更に宰相をはじめとする捕縛された貴族を国賊として牢に投獄して行く。その上で自分が前国王の指示のもと、宰相一派の掃討を果たしたことを宣言しどちらにもつかずにいた中立派の騎士たちを味方につけ、宰相派の封じ込め支配を確実なものにするのだった。
サンゼルアの反乱劇は時間にしてわずか二時間ほどのことであった。
「いや!!放して!!放しなさい、サンゼルア将軍!!」
クリサリアは自分の手を握るサンゼルアに抵抗する。連れてこられたのは自分の部屋。ここに来て何をする気なのか、彼女にはよく分かっていた。だから懸命に抵抗しているのだ。
クリサリアの身柄を確保したサンゼルアは事後処理を部下に任せ、十数年の思いを叶えるべく、クリサリアを連れてこの部屋にやってきたのだった。激しく嫌がる彼女の手を引き、ベッドの上に放り出す。興奮と期待とで胸がいっぱいだった。身につけた鎧を脱ぎ捨ててゆく。
「貴方を初めてみた日からこの日が来るのをどれほど待ち焦がれたことか・・・」
サンゼルアは鎧の留め金をはずす。重い金属鎧が音を立てて床に落ちる。鎖帷子を脱ぎ捨て、その下に着た戦装束も脱ぎ捨てる。三十代になっても衰えることのない筋肉質な肉体にクリサリアは少しどきりとした。これまでそのような筋肉質な裸を見たことがなかったからだ。
「貴方をはじめてみたあの日、いつか貴方を俺のものにするつもりで来た。だが、貴方は陛下のものになってしまった。あの日俺がどれほど泣いたか、ご存知ですか?」
サンゼルアはそう言いながらベッドの上に上ってくる。クリサリアは逃げようとするがその足首をサンゼルアの手が掴み、逃がしてはくれなかった。そのまま上から圧し掛かられ逃げられなくなってしまう。
「あ、貴方はご自分が何をなさっているか分かっているのですか?」
「わかっていますとも。俺がやろうとしているのはこの国の改革!」
「ならば私は関係ないでしょう!!」
「そう言う貴方もご自分の立場がよく分かっていらっしゃらないようで・・・」
いやらしい笑みを浮べて話すサンゼルアのその言葉にクリサリアはどきりとする。その言葉が何を意味しているのかはわからなかったが、自分にとって不利なことに違いはなかった。そんなクリサリアの不安を感じ取ったのかサンゼルアは言葉を続ける。
「先ほど宰相閣下以下現政権の権力者の一掃が終わりました。こういえばお分かりですかな?」
クリサリアはどん底に突き落とされるような想いだった。父である宰相ホンラッドはよき人物であったとは思わない。だがこの国のために様々な働きをしてきたこともまた事実であった。そしてクリサリアがこの王宮で国王の死後も権力を誇ってこれたのも、父であるホンラッドがいたからである。父と国王、両方の後ろ楯をなくしたクリサリアはただの女性に過ぎなかった。サンゼルアはそのことを暗に彼女に伝えていたのだった。
「貴方という方は・・・己の権力欲のために父上を!!」
クリサリアは憎しみのこもった眼差しでサンゼルアを睨みつける。だが当のサンゼルアのほうはどこ吹く風といった感じで気にした様子はなかった。
「何か勘違いなさっていらっしゃるようですが・・・貴方の父上を裁いたのは下級騎士と街の人々ですよ?」
「え??!」
サンゼルアの思いもかけない言葉にクリサリアは呆然とする。その言葉の意味が彼女にはよく分からなかった。サンゼルアは呆然とする彼女に説明してゆく。
「貴方の父上はこれまで街の人々に過酷な税を課してきました。そしてそれに反対する人々をことごとく弾圧してきたのはご存知ですかな?」
初めて聞く話にクリサリアは驚きを隠せなかった。そんなクリサリアを無視してサンゼルアは言葉を続ける。
「捕らえた宰相閣下をはじめ、捕らえた権力者の方々の裁きは街の方々や下級騎士たちに任せたんですよ。我々がやったのでは温情をかけてしまいますからね」
笑みを浮べながらサンゼルアはそういった。彼らに任せればどのような結果が分かっていながらそうしたのである。サンゼルアの非道にクリサリアは言葉もなかった。だが、クリサリアにはまだ尋ねたいことがあった。
「ナルアムは・・・あの子は無事なのでしょうか?」
「殿下ですか?さあ、どうでしょうね・・・」
含みを持った笑みを浮べてサンゼルアはさらりとそういってのける。その言葉にクリサリアはブルリと体を震わせる。愛しい子供に何かあったのではないか。最悪のことが頭をよぎる。
「まさか・・・あの子を・・・」
「さあ、どうでしょうね?すべては貴方次第ということですよ」
サンゼルアはそう言うとクリサリアの唇を己の唇でふさぐ。突然のことに対応の遅れたクリサリアであったが、あわててサンゼルアを押しのけようとする。しかし彼はびくともしなかった。サンゼルアは彼女の唇を堪能するとニタリと笑う。
「殿下のことは俺は知りません。まあ、おとなしく我が物となったほうが得策ですよ」
「い・・・や・・・寄るな・・・陛下・・・陛下・・・」
自分の体をいやらしく動き回る手の動きに身震いしながらクリサリアは今は亡き前国王に助けを求める。それが無駄と分かっていながら。
クリサリアが王宮に上がったのは15歳のときであった。王妃が亡くなり、その後添いとして王宮に上がったのであった。セルドム国王が65歳のときである。セルドムはこの幼い后に心奪われた。足蹴く彼女のもとに通い、彼女を求め続けた。そのため国政はおろそかになり、いつしか宰相がすべてを取り仕切ることなり、国は荒廃していく事となった。
クリサリアは最初こそ政略結婚とあきらめかけていたが、この年老いた国王が自分を大切にしてくれることにいつしか国王を本当に愛するようになっていた。そして一年後、クリサリアは一人の子供を身ごもる。国王にとって初めての子供であった。生まれた子はナルアムと名付けられ、国王はその子を溺愛した。
その国王も昨年崩御した。半身を奪われるような思いにかられながらもクリサリアは今日まで必死に生きてきた。すべてはナルアムのためであった。そのナルアムの即位の日にこのようなことが起こったのである。クリサリアはすべてに絶望し、全身から力が抜けてゆくのが分かった。
「陛下・・・へい・・・か・・・」
ナルアムの身の安全を考えれば、おとなしくしておいた方がいいのはクリサリアにもよく分かっていた。わかってはいても前国王に対する思いを捨てきることは出来なかった。うわごとのように呟きサンゼルアを拒絶する。
「もう陛下はいないんですよ。貴方を守るものは誰もいない。おとなしくなさるんですね!!」
うわごとのように陛下と繰り返すクリサリアに冷たく言い放つと、ドレスの胸元を引き裂く。シルクの下着に隠されたふくよかな胸がこぼれ落ちる。あわてて隠そうとするがその手をふさがれ隠すことはかなわなかった。
「ああ・・・十二年、長い十二年でしたよ・・・それもいま・・・」
サンゼルアはそう言うと下着をむしりとる。下着に押さえ込まれていた乳房が露になる。白い肌は恥ずかしさに朱に染まり、小刻みに震えていた。その乳房を愛でると、サンゼルアは乳首に舌を這わせる。
「いや、やめて!やめてください!!」
「何を仰るのやら。十年以上もご無沙汰している体は疼いて仕方がないでしょうに」
嫌がるクリサリアにサンゼルアは冷たく言い放つ。その言葉を聞いたクリサリアはびくりとなる。ナルアム誕生の直前に大病を患ったセルドムは不能者となってしまった。クリサリアといかに肌を合わせようとも勃起することはなく、十代後半から二十代前半をクリサリアは男から遠ざかった生活を余儀なくされたのだった。
「そ、そんなことはありません!!」
クリサリアは顔を赤く染めてサンゼルアの意見を否定する。だが事実からだの奥で何かが疼き、男を求めているのがわかる。セルドムと愛し合い、感じた幸せを体が欲しているのがよく分かった。しかしその相手はセルドムではない。そのことが理性を成り立たせ、サンゼルアを拒絶するのだった。
「嘘はいけませんね、嘘は・・・ちょっと舐めただけでこんなに立たせて・・・」
サンゼルアはそういいながら乳首を力任せに抓る。痛みと共に表現できないような感覚が体を駆け巡る。それが体の中を更に熱くし、男を求めるのであった。
「だ・・・め・・・やめて・・・」
か細い声で拒絶する。しかしサンゼルアは許さず、乳首を舐め、抓り、擦り、摘み、刺激する。絶え間なく襲い来る快感に、クリサリアの理性は壊れそうになっていた。それを支えたのがセルドムへの愛と、ナルアムへの思慕であった。それさえも快感は押し流そうとする。
「さあ、今度はオレのものを舐めてください!」
サンゼルアは自分のペニスをクリサリアの眼前に突き出す。大きく反り返ったそれにクリサリアは恐怖に顔をゆがめる。セルドムのそれよりも遙かに大きく、太かったのだ。セルドムとの愛の営みのときは愛しさを感じたものが、サンゼルアのペニスには恐怖しか感じない。
「いや・・・やめて・・・」
涙を流して拒絶するがサンゼルアは容赦なくペニスを顔に押し付けてくる。先頭後汗を流していないため、ペニスの悪臭はひどかった。鼻を衝くような匂いにクリサリアは顔をしかめ、頭を振って拒絶する。
「さっさとしゃぶるんだ!殿下になにが起こるかわからないぞ?」
サンゼルアは怒った口調でそう言い放つ。その言葉はクリサリアにとって致命的であった。ナルアムにもしものことがあってはいけない。もうこの男には逆らえない、そう思わせる言葉であった。そう分かっていても男性の性器を舐めるなどクリサリアには出来なかった。
もたもたとしていると待っていられなかったのか、サンゼルアはクリサリアの顎を掴むと、口を半開きにさせてそこにペニスをねじ込んでくる。ペニスの大きさに顎が外れるような感覚になりなるクリサリアを無視して、サンゼルアは自分から腰を動かしてクリサリアの口内を陵辱してゆく。
「ああっ、なんて気持ちいいんだ・・・もっと舌を絡めるんだ、いいな!」
サンゼルアの命令には逆らえなかった。おずおずと口内のペニスに舌を当てる。舌先に熱い感触が伝わってくる。だが、触ったくらいで満足するはずがなかった。ゆっくりと舌を絡め、ペニスを刺激する。頬を窄め、口内でペニスを扱く。ビクビクと口の中でペニスが暴れまわるのが感じ取れた。
「うぐっ・・・もうだめだ・・・」
サンゼルアはそううめくと、腰を震わせる。口内のペニスは大きく脈打ち、サンゼルアの手がクリサリアの頭を逃げられないように固定する。次の瞬間、口の中のペニスが大きくはじけ、大量の精液が発射される。あまりの量にクリサリアは息苦しくなるが、逃げることは出来なかった。行き場のない精液は飲み下すしかなかった。
「んんんっ!んぐっ、んぐっ、んぐっ!!」
懸命に喉を鳴らして飲み下そうとする。しかし、熱く粘りつく精液はなかなか飲み下すことが出来ない。射精された大量の精液が口内を選挙する。ようやく射精を終えたサンゼルアは満足そうにペニスをクリサリアの口内から抜く。解放されたクリサリアは苦しそうに咳き込みながら、口の中の精液を吐き出すのだった。吐き出された精液がボタボタと滴り、ベッドの上に水溜りを作る。
「そんなにオレの精液を飲むのはお嫌ですか・・・」
精液を吐き出すクリサリアを見つめていたサンゼルアは突然冷たくそう言い放った。クリサリアはあわてて顔を上げる。サンゼルアは彼女を見下ろしながらニヤニヤと笑っている。
「そんなにお嫌でしたら・・・」
飲まなければどうなるか、彼はクリサリアを脅しているのだ。そう感じ取ったクリサリアは涙ながらに顔を吐き出した精液の溜まりに近づける。そして少しずつ舌で舐め取って飲み込んでゆく。そんな光景をサンゼルアは満足そうに見つめていた。量が多かったせいもあった飲み終わるのに相当時間がかかった。
「こ、これで・・・もう・・・」
「そうですね。貴方様は男の精液が大好物のご様子。今度は別の場所で出して差し上げましょう」
飲み終えたクリサリアは解放を願うが、サンゼルアはニヤニヤと笑ったまま勝手なことを言う。”別の場所に出す。”その言葉の意味はクリサリアを恐怖のどん底に陥れた。あわてて逃げ出そうとするが、その足首をまたしても掴まれ、引きずり戻される。足を大きく開かされ、下着に包まれた秘密の場所がサンゼルアの眼前に開帳される。
「いいにおいだ・・・甘くて、臭い・・・メスの匂いだ・・・」
「だめ・・・やめて、やめてぇぇぇぇ!!!!」
悲鳴を上げて拒絶するクリサリアであったが、その言葉はサンゼルアには届かず、最後の下着もむしりとられてしまう。セルドムにしか見せたことのない秘密の場所が別の男にまじまじと見られている。その恥ずかしさがクリサリアの心に大きな傷をつけていた。
「一児の母とは思えない綺麗さだ・・・ビラビラも、クリトリスも、みんなピンク色で・・・味の方は・・・?」
サンゼルアは一通りクリサリアのおまんこを見つめると、今度は舌を中に差し込んで舐めてくる。おぞましい感覚がクリサリアの体中を駆け巡る。サンゼルアは舌で一通り舐めまわすと、今度は口をすぼめて愛液を啜りだす。わざと音を立てて勢いよく啜り上げた。
「ああっ・・・やめ・・・て・・・」
両手で顔を覆い隠してクリサリアは頭を振って嫌がる。好きでもない男に濡らしている現実が無性に許せず、嫌だった。だが、サンゼルアは彼女の言葉には耳も傾けず、ずるずると勢いよく啜る続けた。
「すごいな、飲んでも飲んでも溢れてくる。それに膣内もヒクヒクと蠢いて男を欲しがっている」
「そんなこと・・・仰らないで!!」
サンゼルアは股間から口を離すとわざと大声で現状を報告する。それを聞いたクリサリアは絶叫する。男の技に反応してしまう体を抑えることは彼女には出来なかった。サンゼルアもそれが分かっているからこそ、わざと大きな声で彼女に話したのだった。
「そろそろ、いい頃合だな・・・」
サンゼルアはそう言うとクリサリアの腰に自分の腰を近づける。何をさせるのか察したクリサリアはサンゼルアの手を振り払い逃げようとする。だが、すぐに押さえ込まれ、ねじ伏せられてしまう。
「だめぇ!!それだけは・・・それだけは!!!」
絶叫して拒絶するクリサリア。しかしサンゼルアがその言葉を聞き入れることはなく、逆にわざと腰をたたくあげさせて彼女に挿入の瞬間を見せ付ける体位を取らせる。
「ほうら、入るぞ!」
「ああ・・・ああああっ・・・」
眼前で膣内に飲み込まれてゆくペニスをクリサリアはどうすることも出来ず見つめているだけだった。十年ぶりのペニスが膣道を割り開いて侵入してくる。その感触にクリサリアは心では拒絶しているのに、愛液を滴らせペニスを喜んで受け入れる体を恨んだ。
「ああっ・・・なんて心地よさだ・・・このためにオレは・・・」
クリサリアの膣内にペニスを埋没させたサンゼルアは恍惚とした表情を浮べて彼女の膣内の感触を楽しむ。十年ぶりに男を迎え入れた膣は愛液を滴らせ、ペニスを締め付ける。それが心地よく、更に欲望を駆り立てるのであった。もはやサンゼルアに歯止めは利かなかった。
「うぐおおおお!!」
「いや!だめぇぇ!!そんなに・・・激しくしないで!!ああああっっっっ!!」
サンゼルアは激しく腰を動かし、クリサリアにペニスを叩きつける。その激しい動きにクリサリアは悶え苦しんだ。いや苦しんではいなかった。快楽のふちに追い込まれ絶叫していただけだった。サンゼルアも歯止めが利かなくなったためか、容赦なく何度も何度も腰を叩きつける。
「おおおおおっっっ!!もう、もう、でるっっ!!」
「だめぇ!!膣内は、膣内だけは!!」
サンゼルアは絶頂が近いことを告げる。それを聴いた瞬間、クリサリアは快楽の淵から現実に引き戻される。膣内で大きく膨らんでゆくペニス。それが何をしていようとしているのか、人妻であり、一児の母でもある彼女にはよく分かっていた。そしてそれをされることがセルドムに対する最大の裏切りであることも。
「いやあああ!!やめて、やめてぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!!!!」
絶叫し、手足をばたつかせて拒絶する。だが、男の力にかなうはずもなく押さえ込まれてしまう。最後の瞬間に向かってサンゼルアの動きが加速する。ペニスが一際力強く子宮をたたいた瞬間だった。熱い液体が子宮内に暴発する。何度も何度も液が子宮にたたきつけられる。その現実をクリサリアは体で感じ取っていた。彼女も大きく体を震わせて終わりのときを迎える。膣道は更に狭く狭まり、ペニスから一滴残らず精液を搾り取ろうと締め上げる。
「・・・・・へい・・・か・・・」
クリサリアはそんな浅ましい自分の肉体を恨みながら、愛した人に詫びを入れる。裏切ってしまった自分を責め立てた。結果、彼女の心は硬く閉ざされるのだった。サンゼルアにとって最愛の人を手に入れた瞬間であり、永遠に失った瞬間であった。
「ずいぶんとお楽しみのようで・・・」
クリサリアとの営みはこれで何度目になるだろうか。彼女が心を閉ざしてから何度となく彼女の膣内に精を放ってきた。もうその回数は覚えていない。快楽に溺れ、肉欲に流されていた。そんなサンゼルアは女が自分たちの寝所に忍び込んでいることに声をかけられるまで気づかないほどクリサリアにのめりこんでいた。
「だ、誰だ、貴様は!!」
サンゼルアはあわてて枕もとの懐剣を手にする。もし暗殺者であったならとっくに自分は殺されていたはずだった。そうならなかったことに安堵し、胸をなでおろす。
「そんな怖い顔をなさらなくてもよろしいじゃないですか」
「おまえは、あのときの・・・」
寝所に現れた女性はかつてサンゼルアが肌を合わせた踊り子であった。今回の反乱計画の概要を彼に教え、名も告げずに去っていった素性の分からない踊り子、それが彼女であった。しかしたかが踊り子風情がこのような城の奥にこられるはずがない。サンゼルアが警戒していると彼女は笑みを浮べて平然としていた。
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。私は報酬をもらいに着ただけだから」
「報酬・・・だと?」
「私が授けた計画通りに実行したからここまでうまくいったんでしょう?報酬をもらうのは正当なことだと思うけど?」
踊り子はくすくすと笑いながらサンゼルアを見つめている。事実この女の授けてくれた策は見事であった。宰相一派を一掃し、この国を再生し、さらにクリサリアまで手に入れられたのだから。だからといってこんな踊り子風情に報酬を払うのも腹立たしい。しばし考えてからサンゼルアは口を開いた。
「何が望みだ?男か?金か?領土か?」
「そんなものいらないわ。私が欲しいのはこの国のお・う・じ・さ・ま」
笑みを浮べたまま踊り子は平然と言ってのける。ふざけた奴だとサンゼルアは思った。第一ナルアムはまだサンゼルアにとってこの国を纏め上げるのになくてはならない存在だ。それをおいそれと踊り子などに差し出せるわけがなかった。ならばなすべきことは1つしかなかった。
「悪いが、貴様などにやるものなど何もない!!」
サンゼルアはそう叫ぶと手にした懐剣を踊り子に投げつける。懐剣は狙いをはずさず、踊り子の喉下に突き刺さったはずだった。だが、そこには誰もいなかった。壁に懐剣が突き刺さる。
「あら、約束を破る上に殺そうとするわけ?」
サンゼルアがバルコニーの方を振り向くとそこには踊り子の服を脱いだ女性が立っていた。その背中には黒い蝙蝠のような翼、耳もエルフのように長かった。
「貴様、魔族か!!」
「あたり。もしかして気づいていなかったの?」
怒鳴るサンゼルアに女性はバカに仕切った口調で応対する。その態度のサンゼルアは更に怒り狂う。だが、女性はサンゼルアなど気にも留めていないようだった。くすくすと笑いながら相手を完全に舐めていた。そうこうする内に部屋のドアが開き、数人の騎士が武器を手に部屋の中に駆け込んでくる。
「閣下、ご無事で!?」
「おう!それよりも魔族だ!逃がす出ないぞ!!」
サンゼルアの言葉に騎士たちはバルコニーの女性を認識する。そして武器を向けると、油断なく構える。そんな騎士たちに興味がないのか、女性は完全に無視を決め込んでいた。
「おのれ、舐めるな!!」
騎士の一人が女性の態度に愚弄されたものと思い込み、切りかかる。しかし、剣はむなしく空を切るだけだった。
「お・そ・い」
騎士の背後に現れた女性は彼の耳元でそう言う。騎士はあわてて振り向くがもうそこにも姿はなかった。辺りをきょろきょろして探すがどうしても見つからない。が、次の瞬間、騎士のこめかみに女性の指がつきたてられる。
「貴方はどんな”悪夢”を見せてくれるのかしら?」
女性はそういいながら根元まで指をねじ込む。騎士は悲鳴とも、絶叫ともつかない声を上げる。しばらく声を上げながら震えていたが、そのうちに顔中脂汗をかいてくる。髪もどんどん白くなってゆく。がたがたと震え、目の光が失われていく。そんな騎士を女性は満足そうに見つめる。
「なかなかの”悪夢"だったわ。まあ、今日はこの辺で引いて上げるわ」
くすくすと笑いながら女性はバルコニーへと飛び出す。サンゼルアはあわててあとを追う。
「貴様、何者だ!?ただの魔族ではないな?」
「当たり前でしょう?私の名前はオリビア。ヴェイス軍第六軍団大将軍にして夢魔族の長・オリビア=ナイトメア。あなた方に悪夢を届けるものよ」
オリビアはくすくすと笑いながら翼をはためかせて宙に舞う。
「サンゼルア将軍。我が君はこう仰っていましたわ。”かの将軍は約をたがえよう。欲に取り付かれた人間そのもののごとく。”とね」
その言葉にサンゼルアはかっとなった。まるで自分が強欲な人間のように言われた気がしたからだ。だが、事実、クリサリアを手にしながらナルアムを使ってこの国を手にしようとしているのだから、強欲以外の何物でもない。そのことに彼自身気づいていなかった。
「”過ぎたる欲は身を滅ぼす"とも仰っておりましたわ。その言葉の意味、身をもって知ることになるでしょうね。アハハハハハッ!!」
オリビアは高笑いしながら闇夜に姿を消してゆく。サンゼルアはオリビアの消えた闇を見つめながら、これからの戦いのことを思い巡らすのであった。せっかく手にしたものをむざむざと魔族などにくれてやるつもりは毛頭なかった。激戦になるだろうが、勝つ自信はあった。今回の反乱も自分によるところが大きかったのだから。
サンゼルアの欲望はいつしかこの大陸全土の支配になっていた。そしてそれは自分には達成できることと思い込んでいた。オリビアの残した言葉など彼には届いていなかった。天国から地獄へ、急転直下。そんなことになるとはまるで思わないサンゼルアであった。
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