第8話 変体


 セルビジュ国境。部隊を移動させてきたクリフト、シグルドの元にオリビアが戻ったのは夜明け前のことだった。
 「よう、オリビア。相変わらず化粧が濃いな」
 天幕に姿を現したオリビアにクリフトが軽口をたたく。その言葉を聞いたオリビアの眉が少し動く。ようは皺が目立つようになった、遠まわしに老けたという嫌味である。もちろんそんなことはなく、外見も肌もまだ人間で言うところの二十代の若さを保っていた。
 「クリフト、余計なこと言ってないで軍を動かしなさい!」
 「そのようすじゃ、交渉決裂、てか?」
 「最初から話にならないわよ、あんな大ばか者」
 クリフトの言葉にオリビアはぷりぷりと怒っている。相当自分をないがしろにしたことが許せないらしい。クリフトがそんなオリビアの様子をにたにたしながら見つめていると、シグルドは無言のまま立ち上がる。
 「おっ、シグルドのおっさん。いくのか?」
 「ああ。今のうちに仕込みを済ませておく。先にいく!」
 シグルドはそれだけ言うと天幕から出てゆく。数刻もしないうちに、馬の嘶きがあたりに響き、騎馬部隊が移動を開始する。天幕の中でクリフトはその様子を確認するのだった。
 「相変わらず、すばやいねぇ」
 「あんたもそんなこといっていないで、さっさと動いたらどうなの?」
 のんびりとしているクリフトをオリビアが睨みつける。そんな彼女の様子もクリフトは意に解する様子はなかった。ただ、じっと天幕の中にあるランプを見つめていた。いつまで経ても動こうとしないクリフトにいらだったオリビアが再度抗議しようとすると、八軍所属の妖魔が天幕の中に入ってくる。
 「将軍、敵、動いた」
 片言の言葉でクリフトに状況を伝達する。それを天幕の中にいた飛蝗を捕まえながら聞いていたクリフトの目の色が変わる。捕まえた飛蝗を口に咥えると、勢いよく席を立つ。
 「よし、オーク長槍部隊を前面に出せ!ゴブリン突撃部隊は左翼から突撃、敵をかく乱せよ!ダークエルフ弓兵団は最後方より援護!一気に攻めたてろ!」
 クリフトの号令に妖魔は天幕を飛び出してゆく。それを見ていたオリビアはため息をつく。
 「まったくあんたは・・・どうしてそう好戦的なのかね?」
 呆れたような口調でクリフトをなじるオリビアにクリフトはにやりと笑ってみせる。
 「ちょうど今回、アレに最適な人材を見つけてね。そいつをモノにしようとおもってな」
 「あら、珍しい。久方ぶりじゃない?アレの適合者なんて」
 クリフトの言葉を聞いたオリビアが意外そうな声を上げる。クリフトもニタリと笑ってみせる。
 「だからそいつを確保するために敵が動くのを待っていたってわけだ」
 「なるほど。敵の、それも最前線にその適合者がいるってわけね?」
 オリビアの言葉にクリフトは笑ったまま頷く。その笑みにいやらしいものは感じない。子供のようなまっすぐな笑みだった。その笑みを見つめていたオリビアの背後から声がする。
 「まあ、そうでしたの。ひどいですわ、クリフト様。わたくしたちに黙ったままだなんて」
 「まったくだ。我らとて楽しみにしていたのだぞ?」
 声の主が誰であるかすぐに分かったオリビアは振り返りもせずに肩をすくめてみせる。
 「あんたたちもいたんだ。って、クリフトの側近だからいるか・・・」
 「お久しぶりです、オリビア様」
 一人はそういってオリビアに深々と頭を下げる。それは長い黒髪を横で纏め上げた美少女だった。外見は15,6歳といった感じだが、そのまじめな口調は年齢を高く感じさせるのだった。着物に似た装束を身に纏い、腰には二本の刀をさしていた。
 「当たり前ですわ、オリビア様。わたくしたちがクリフト様のお側を離れることなどありえませんもの」
 もう一人が豪奢な金髪をかきあげながらそう言ってのける。純白のドレスなのだがスカートの左右にスリットが入り、活動的なものになっている。腰には矢筒を固定し、手には弓を持っている。年のころは17,8歳、高飛車なイメージを感じさせる美少女であった。
 「そうね、悪かったわ。でも、よかったじゃない。貴方たちのお仲間が増えて」
 「使える方ならよろしいんですが・・・」
 「クリフト様の選んだ方だ。間違いはなかろう」
 オリビアの言葉に金髪の少女は溜息交じりの答えるが、黒髪の少女はまじめに受け答えをしている。対照的な二人を見つめながらオリビアは笑みを浮べる。
 「さてと、おしゃべりはこれくらいにしておこう。いくぞ!」
 「「畏まりました、クリフト様!」」
 クリフトは愛用の双剣を腰にさすとマントを翻して天幕を出てゆく。そのあとを二人の美少女が続いてゆく。その後姿を見送ったオリビアは一つ溜息をつくと、火の灯されたままのランプに息を吹きかける。火が大きく揺らぎ、消える。同時に天幕の中からも人の気配は消えて去るのだった。

 「敵軍が別れただと?」
 ”ヴェイス軍動く”の報を聞いたリューナは予想外のことに驚きを隠せなかった。五万もの妖魔兵団と、一万の騎馬兵団、それを同時にわずか5000騎で相手しなければならないと思っていたリューナにとって朗報であった。そこにさらに続報が届く。
 「敵妖魔兵団、動きました!!」
 その報にリューナはそのときが来たことを覚悟する。正直10倍もの敵軍を相手にして生き延びられる自信はなかった。もし生き延びられたとしても敵に捕まり、慰み者にされる可能性が高い。そう考えると生きて国に帰れる可能性はないに等しかった。それでもリューナはやるつもりでいた。誇りを胸に。
 「全軍に通達!敵妖魔兵団を迎え撃つ!」
 リューナの命令に兵は天幕の外に飛び出してゆく。それを見送ってリューナはゆっくりと自分の鎧を身につける。これまであったことが走馬灯のようによみがえる。懐かしくも苦しい道のりだった。
 リューナはセルビジュの貧民層の生まれだった。彼女もまたサンゼルアと同様生きてゆくために傭兵となった。彼女にはサンゼルアのような恵まれた体はなかった。だが、それを補うかのような地方伝来の体術があった。サンゼルアのように腕一本で今の地位を築いた一人であった。
 そんな彼女に即位式に出席するために戻ろうとするサンゼルアが与えた命令は国境線の死守であった。この死ぬかもしれない任務をリューナは喜んで引き受けた。理由は首都に妹がいるからであった。ただ一人の肉親である妹もまた首都の防衛隊に所属していた。彼女はリューナのように体術の才能はなかった。平凡な妹を守るためにこの最前線を買って出たのだ。首都でなにが起こっているかも知らずに・・・
 「リューノ・・・元気で生きてね・・・」
 妹の無事を願ってリューナは死地に赴く。馬に跨り戦線を見つめた彼女も目に長槍を手に突撃してくるオークたちの姿が映った。すでに先発隊とオークの交戦は始まっていた。リューナは手綱を引き全軍に命令する。
 「全軍攻撃開始!動きを止めるな、囲まれるぞ!常に動き回り、相手を威圧しろ!!必ず生きて変えるんだ!」
 仲間を鼓舞し、勇気付ける。そのリューナの言葉に答えるように兵士たちは妖魔の海に飛び込んでゆく。実力は自分たちの方が上であっても周りを囲まれてはどうすることも出来ない。数という絶対的力の前にリューナたちは徐々に追い詰められって行く。それでも引く事は出来なかった。引く事はすなわち首都を危険に晒すことだったから。
 「お前らなどにこの国を荒らさせてなるものか!!くらえ、双天舞脚・天!!」
 リューナは馬上で逆立ちした状態のまま、足を左右に広げ手を軸にして回転する。舞うような動きで相手の頭を蹴り飛ばし、踵で蹴りつぶす。妖魔を一匹また一匹と蹴り倒してゆく。だが、いかにリューナの腕が立とうともそれは焼け石に水であった。いつしかリューナも敵に囲まれ孤立無援の戦いを余儀なくされるのだった。
 「負けない、負けられるものか!!双天舞脚・穿!」
 前転するようにしてオークの鼻を叩き潰す。馬も倒され、地に降り立ってもリューナは懸命に戦い続けていた。もはや仲間がどれだけ生き延び、どれだけ戦い続けているのかまるで分からなかった。ただ眼の前の襲い来る敵を蹴り倒す。それしかリューナには出来なかった。
 「いやはや・・・すごい腕だな・・・」
 呆れたような口調でリューナに誰かが話しかけてくる。リューナはあわててそちらの方を振り返る。そこには一人のダークエルフが双剣を腰のベルトにさしてじっとリューナを睨みつけていた。その背後には黒髪と金髪の美少女が控えている。三人とも隙がなく、無言のままリューナを威圧してくる。
 (こいつら、できる・・・)
 相手の隙のなさにリューナは息を呑む。腰を落とし構えていると、仲間が集まってくる。
 「リューナ、ここは俺たちが!!」
 仲間の一人がそう言って他の仲間と一緒に三人に切りかかる。それを見た黒髪の少女が一歩前に踏み出すと、腰を落として構える。光が煌めき、金属と金属のぶつかり合う音が響き渡る。次の瞬間にはリューナの仲間の剣が根元から切り落とされていた。黒髪の少女が刀を抜き放ち、根元から断ち切ったのだ。
 「な・・・」
 切り落とされた剣を仲間たちは呆然と見詰める。そんな彼らの脚を、肩を鎧の隙間を通して矢が突き刺さる。金髪の少女の放った矢だった。そんな狭い隙間に狙いを外さずにつき立て仲間を戦闘不能に貶めたのだ。これだけを見ても二人の少女の技量は見て取れた。リューナは思わず息を呑む。
 (私で勝てるだろうか、彼女たちに・・・)
 もちろん自分の腕に自信はあった。だがそれさえも凌駕するような腕前を彼女たちは見せたのだ。おそらく彼女たちはまだ余力を残しているに違いなかった。更に、その後ろに控える男。間違いなく彼女たちの上官に当たる男だろう。立ち振る舞いをみるだけでこの男にだけはかなわない、そう思ってしまうのだった。
 (それでも!!)
 リューナはあきらめることなくダークエルフの青年に突進する。もちろん黒髪の少女がその行く手を遮る。それはリューナの予想通りだった。太刀のほう側に駆け込み、その腕に飛び乗る。抜刀しようとしていた腕は押しとどめられる。そのまま勢いを殺さず肩に乗り彼女を飛び越える。
 (ひとり!)
 黒髪の少女の向こう側にはもちろん金髪の少女が弓を構えていた。それもリューナにとって予想通りだった。少女に向かって飛び込み、弓を持った手を蹴りつける。弓を取りこぼした瞬間、彼女の肩に飛び乗りたかだかとジャンプする。
 (ふたり!!)
 今度はダークエルフの青年に狙いを定める。勝てなくともこういった方策で相手を無力化する術はある。頭では分かっていてもそれを実行する技量を持ったものは少ない。ダークエルフの青年はそれを実行したリューナの感嘆する。一方のリューナには余裕などなかった。ここで一気に決めてしまうつもりでいた。
 「これで、どうだ!!双天舞脚・閃!!」
 回転の遠心力と落下のスピードによる破壊力の増強。それが閃である。今リューナの持ちうる技の中で最も威力の高い技である。それでダークエルフをしとめるつもりでいた。
 「いい連続技だ、度胸もいい。だが・・・」
 ダークエルフの姿がそこまでいうと消える。リューナはあわててあたりを探すと、彼は自分の目の前に姿を現すのだった。そしてリューナの喉元を掴むとそのまま地面にたたきつけられる。肺の空気と一緒に大量の血液が逆流してくるのが分かった。痛みと息苦しさに地面をのた打ち回る。
 「ん?少しやりすぎたかな?」
 「よろしいのでは?それよりもクリフト様、別の部隊がこちらに向かってきますが・・・」
 リューナは自分を見下ろすダークエルフを涙目で見つめながら、金髪の少女の言葉を聞く。あわててそちらに視線を移すと、自分たちを助けに来たのか50人ばかりの戦士たちが近づいてくるのが見えた。
 「いい加減、鬱陶しいな・・・セツナ、エリザベート!好きにやっていいぞ!」
 「力を解放してもいいと・・・」
 「好きにしろ、といった・・」
 セツナと呼ばれた黒髪の少女がクリフトにもう一度確認する。クリフトがもう一度頷くのを確認すると、二人は笑みを浮べる。そんな二人の気の流れが変わる。おぞましい邪悪な気配を感じ取ったリューナは全身の毛穴が開くのを感じた。何か恐ろしいことが起こるような予感がしていた。
 「みんな・・・逃げて・・・」
 必死に仲間に叫ぶがその声が彼らに届くことはなかった。二人の少女の気が一気に増大する。皮膚が変質し、別の生き物に変化していくのだった。その姿にリューナは目を見張った。セツナは蟷螂と人が融合したような姿で両手首には鎌の代わりに刀が納められていた。エリザベートは蜂と人の融合したような姿で左手が蜂の針と弓が合さった武器になっていた。セツナの肩には"風"の、エリザベートには”水”の文字が刻まれていた。
 「だめ・・・だ・・・逃げて・・・」
 こいつらには勝てない。リューナは瞬時にそう感じ取った。必死に仲間にもう一度叫ぶが、それよりも早くセツナが動く。両手の刀を抜き放つと、一気に跳躍する。敵の中央に飛び込むと刀を振るう。
 「遅い!閃夢舞刀・瞬鋼斬!!」
 刀が閃くたびに敵は地に倒れ伏してゆく。鎧など来ていないかのように平然と切り刻んでゆく。その鋭いまでの太刀筋と、舞うような動きをリューナは呆然と見つめるのだった。
 「セツナばかりに気を取られていると!シュテナント舞弓術・ライジングショット!」
 今度はエリザベートが無数の矢を一斉に放つ。その一本一本が狙いを外さない。まるでセツナの動きを予測しているかのように彼女には一本たりとも当たることはなかった。ふたりの圧倒的力の前に仲間たちが次々に倒れてゆく様をリュ-ナは何も出来ないまま、目に涙をためて、ただ見つめているだけだった。
 (ごめん・・・みんな・・・)
 リューナは己の無力を嘆いた。結局助けに来た仲間たちはセツナとエリザベートの二人に一太刀も浴びせられないまま、わずか三分で全滅してしまった。大勢が決するとクリフトは合図を送り戦闘を終了させる。初戦はヴェイス軍の圧勝であった。リューナ以下多くの兵が死亡または捕虜となる結果であった。

 「やめろ!離せ!!」
 クリフトに組み敷かれたリューナは懸命に身をよじる。鎧も衣服もすべて剥ぎ取られ、全裸の姿だった。裸を見られるのが恥ずかしいわけではない。もちろん、男と肌を重ねるのもこれが初めてというわけではない。色々な経験をしてきた。後ろの穴が好みの男、膣内射精が好きな男、飲ませるのが好きな男、色々な男と肌を合わせて来た。これも生き抜くための方法のひとつに過ぎなかった。 
 (だからって、魔族と・・・)
 おぞましさに身震いする。リューノのことを思うと死ぬに死ねなかった。口で拒絶したからといって助けてもらえるわけがない。必死に逃げる方策を考えていた。
 「無駄なことをするな・・・」
 「そうよ。クリフト様にすべて任せなさいな・・・」
 セツナとエリザベートもベッドの上に登ってくる。二人とも元の人の姿に戻り、一糸纏わぬ姿でリューナの裸をしげしげと観察する。
 「むっ!胸がわたくしよりも大きい・・・」
 「まあ、そなたよりも小さな女性を見つけるほうが難しいというものだ」
 エリザベートは自分とリューナの胸を見比べながらポツリと呟く。セツナはその言葉を聞きつけ、形のよい乳房を反らしながらエリザベートを慰める。慰めるというより、バカにした、といった方が表現として正しいだろう。その言葉を聞いたエリザベートが頬を膨らませる。
 「そう言う貴方は何メートルまで胸を大きくなさるおつもり?15歳でそれではこの先どれほど大きくなることか」
 「そういう事はクリフト様にお聞きしろ」
 エリザベートはちらりとセツナの胸を見ながら言い返す。当のセツナの方は気にした様子はなかった。それをみたエリザベートは更に頬を膨らませる。そんな二人を見ながらクリフトはやれやれといった風に肩をすくめる。
 「二人とも、そんな言い争いをしてるんじゃないぞ。さっさと準備しておいてくれ」
 「「畏まりました、クリフト様」」
 クリフトの言葉に二人は素直に応じると、リューナの胸に舌を這わせる。大きさはセツナに及ばないが、それでも大きな部類に入る。その胸のそこかしこに舌を這わせてゆく。女性のそれも絶妙な感覚で舐めまわす感触にリューナは体が熱くなってくる。
 (何、この人たち・・・うまい・・・)
 押し寄せる快感が拒絶の意思を押し流そうとする。必死にそれに抵抗しながら耐え抜こうとする。だが、二人は容赦なくリューナを攻めたてる。硬く勃起した乳首を嘗め回し、舌先で刺激する。ジンジンといたくなるような快感がリューナに襲いかかる。
 「ああっ!やめて・・・それ以上・・・あああっ!!」
 頭を振ってリューナは抵抗するがセツナもエリザベートも決して許してはくれなかった。何度も何度も嘗め回し、啄ばみ、啜り上げる。二人の絶妙な攻めにリューナは抗う術を持っていなかった。
 「こんなに勃起せてしまって・・・こちらはどうかしら?」
 エリザベートの手が下にさがってゆく。へそを過ぎ、淡い恥毛に触れる。目的地を察したリューナはあわてて足を必死に絡ませ手の侵入を阻止しようとする。
 「そんなことしても、無駄・・・」
 するとセツナが逆にお尻のほうから手を回してくる。さわさわとお尻を撫で回す。その快感に思わず足の力が抜ける。その隙をエリザベートが逃すはずもなかった。力の抜けた脚の間にするりと手を侵入させてくる。エリザベートの細い指がリューナの秘所を撫で上げる。
 「ひあああ!!」
 ゾクゾクという感覚が背筋を走り抜ける。エリザベートの指が秘所を、セツナの指がアナルをそれぞれ撫でまわす。その度に体を電気が駆け巡る。体が小刻みに震え、喜びを訴える。

 「あら、すごい。こんなにびしょびしょ・・・」
 秘所を撫でていたエリザベートがスッと手を離す。指先は遠目からでもわかるほど濡れている。それを見たリューナは顔を赤くして、両手で覆い隠してしまう。
 (魔族に、女性の攻めにあんなに感じるなんて・・・)
 思いもかけない快感にリューナは耐えることが出来なかった。男を迎える準備が出来てしまった自分が恥ずかしく、情けなかった。そんなリューナを無視するかのように、ことは進んでゆく。
 「準備はいいようだな」
 「はい、クリフト様。準備万端ですわ」
 鎧を脱ぎ終えたクリフトが姿を現すと、セツナとエリザベートはリューナの脚を押し広げ、彼女の秘所が潤い、準備万端であることを見せ付ける。それを確認したクリフトがベッドの上に登ってくる。その姿を見たリューナは言葉に詰まる。
 「あなた・・・その姿・・・」
 ベッドに上がったクリフトは体中つぎはぎだらけであった。ダークエルフの肌だけではない。リザードマン、オーガ、様々な種族の肌を移植してあるのだ。その体にリューナは震えが来る。
 「これか?幼い頃に人間どもの拷問を受けてな・・・」
 クリフトは平然とした顔で自分の過去を話し始める。幼い頃クリフトは人間族に捕まったことがあった。ストラヴァイドの軍人にだ。彼らは執拗にエリウスの居場所を詰問してきた。だが、クリフトは決して吐かなかった。詰問はいつしか拷問に変わった。殴る蹴るの暴行など朝飯前。肉をそぎ落とし、爪をはぐ。騎士たちに思う存分嬲られることさえあった。ストナケイトが救出に来たときには全身ぼろぼろで回復の仕様がない状態だった。
 「それでもオレはエリウスの役に立ちたくてな・・・肉体を改造することで生きながらえたんだ。魔法の素質は一切失っちまったが、強靭な肉体と巨人族並の怪力、そして風のようなスピードを手に入れたんだ」
 先ほどのこの男の動きがダークエルフのそれを越えていたのはそのためだったのである。リューナはクリフトに恐れを抱くと同時に、身を裂かれても守ろうとする意志の強さに尊敬の念を抱いていた。
 「まあ、その副作用でまともな生殖機能は失われちまったけどな」
 クリフトはそう言うと自分のペニスを見せ付ける。それを見たリューナは絶句した。これまで見てきたいかなる男よりも大きく、太かった。そして何よりも陰茎にボツボツと突起のようなものがいくつも浮かんでいるのだった。
 「オレに子供を作る力はねえ。もうそんなもの失われちまったよ。その代わり・・・」
 クリフトはそこまで言うと目を閉じる。リューナは息をのむ。
 「魔素を放出して抱いた相手を魔人化することが出来る。そこの二人みたいにな」
 そう言うクリフトの視線の先にはセツナとエリザベートがいた。二人ともうっとりとした表情を浮べてリューナを見下ろしている。その顔を見たリューナは思わず激怒した。
 「貴方たち!人間の誇りすら失ったというの?こんな魔族に犯されて!!」
 「魔族に犯される?違うな!」
 「わたくしたちは自らクリフト様に身を捧げたの。人という醜い殻を捨てるために・・・」
 自分の怒りを二人は平然と受け流す。リューナには二人の言葉の意味が分からなかった。それを察したのかセツナたちは自分たちの身の上を話し始めるのだった。
 「まず先に自己紹介しておこう。我が名はセツナ=クズリュウイン。ユトユラの生まれだ」
 セツナはそう言うと自分の武器をリューナに見せる。それはユトユラ独特の武器、太刀であった。それを確認させるとセツナは話を続ける。
 「我は父上と二人剣の修行のため故国を遠く離れ旅していた。そんな時父上の剣技の噂を聞いた貴族が父上を屋敷に招いてくれた。それが不幸の始まりであった」
 セツナは無表情のまま淡々と話を続ける。リューナも無言のまま話に聞き入っていた。
 「父上の腕前を信じていなかったその貴族は自分の息子と腕比べをさせおった。もちろん父上の足元にも及ばぬものであったがな。それを恥をかかせたとひそかに復讐を誓ったのだ」
 セツナの表情が少し翳ったのをリューナは見逃さなかった。だが、あえてここでは何も言わずにいた。セツナも気にせず話しを続ける。
 「奴らは父上に薬を盛り動けなくした上、腕を、指を一本一本砕いていきおった。我を父上の眼の前で犯しながらな。何人も、何回も、父上が亡くなるまで陵辱は続いたのだ」
 セツナの言葉にリューナは絶句してしまった。自分もこれまで色々な男を、貴族を見てきた。だがそのようなものたちに出会ったことはなかった。噂でしかなく、存在などしないものだと思ってきたのだ。
 「我もそのとき一緒に殺されるはずであった。だがたまたまその国に潜入していたクリフト様に助けられたのだ。そのときより我は誓ったのだ。欲深き人など捨てようと。だからクリフト様を受け入れたのだ」
 リューナはセツナの言葉をただ黙ったまま聞いていた。しかし心の中ではそんな貴族などほんの一部でしかにと、人はそれほど捨てたものではないと思っていた。すると今度はエリザベートがリューナのほうを向き直る。
 「今度はわたくしですわね。わたくしの名前はエリザベート=ヴォル=アルセルムと言いますわ。もっともすでに捨てた名前ですけど」
 そのままえを聞いたリューナは驚き表情を一変させた。アルセルムと言えば大陸の北東に位置する強国である。確かそこの第三王女が一年ほど前病死したと言う噂を聞いたことがあった。名をエリザベートと言う王女が。
 「まあ、名前を聞けばわたくしの正体はお分かりでしょう?言っておきますけど、わたくしは病死したわけではありませんわよ?暗殺されかけたのです」
 リューナの表情から彼女が自分の正体に気づいたと察したエリザベートは、彼女を睨みつけながらそういった。
 「一年前、わたくしは静養のため田舎町にいました。従姉妹達と一緒に」
 エリザベートは話を始める。リューナは息を呑んで話に聞き入った。
 「当時のわたくしはストラヴァイド光国との関係強化のためにかの国の有力貴族の子息との縁談が決まっていました。しかしその方に横恋慕した従姉妹があろうことか私を殺そうとしたのです」
 エリザベートは淡々と話を進める。 
 「彼女は子飼いの戦士たちを城に引き込み、使用人や警護の騎士たちを次々に殺していきました。そして最後にはわたくしを・・・」
 そこまでいうとエリザベートは押し黙ってしまう。そのあと何があったのかはリューナにも分かった。王家の娘として、女として屈辱的な扱いを受けたに違いない。それを口に出して言わせるのは忍びなかった。
 「幸いにも命を奪われる瞬間、クリフト様に助けていただき今に至っている。噂ではその従姉妹殿はその貴族と結婚したらしい」
 エリザベートは気に食わなさそうに顔をしかめる。病死と言うのは体面的なことで、実際には夜盗に襲われて殺されたと言うことになっているのだろう。王家の体面を保つために病死ということにしてあるのだろう。二人の話を聞いたリューナは黙ったままでいた。
 「どうです?貴方も人という生き物が嫌になったでしょう?」
 「そんなこと・・・ない・・・貴方方は不幸にあったかもしれない。でもそんなの人のほんの一部に過ぎない!」
 エリザベートの言葉をリューナは真っ向から否定する。確かに彼女たちは不幸な目にあったかもしれない。だが、それが人のすべてとはリューナには思えなかった。
 「そう思うなら、それでもいいさ。君には僕の力の一部を分け与えよう。それを解放するか否かは君次第さ」
 クリフトはそう言うとセツナとエリザベートに促す。すると二人はリューナの両足を抱え込むと足を大きく開かせるのだった。蜜を滴らせた花園が全開される。
 「やめろ、やめろーーー!!!」
 「魔族は魔族らしく、これ以上の前戯はなしだ!」
 クリフトは極大のペニスを花園に押し付けると、拒絶するリューナの言葉には耳も貸さずに一気に押し込めるのだった。狭い膣道を押し広げてクリフトのペニスが侵入する。大きいだけでなく陰茎にあるぶつぶつの感触がリューナには刺激的であり、気持ち悪いものだった。
 「あくぅっ!あああ、やめ・・・ああああっ!!」
 リューナは頭を振って悶えるがクリフトは容赦などしなかった。遠慮なくペニスを引き抜き、押し込む。激しい抽送運動にリューナは涙目になって悶え苦しんだ。味わったこともないような強烈な快感がリューナを狂わせる。それに必死に抗った。だが、絶え間なく襲い来る快感にいつしか押し流される。
 「ひぁぁぁっ!ら、らめ・・・ごりごりって・・・ふあぁぁぁっ!!」
 膣壁をペニスの雁首が、細かい突起がゴリゴリと擦りあげる。その擦り上げる感触がリューナを高みへと押し上げる。リューナは顔を赤らめ高みへと登りつめてゆく。
 「しゅごい・・・いはぁぁぁっ!もっろ・・・ごりごりって・・・」
 抵抗する理性すら押し流されてしまったリューナは、完全に快感に取り込まれてしまう。ペニスの擦り上げる快感に身を任せ、流されるに身を任せた。
 「そろそろ・・・イくぞ!!」
 クリフトの宣言にリューナは反応を示す。快楽に身を任せながらも首を左右に弱々しく振る。
 「だ・・・め・・・膣内は・・・赤ちゃんが・・・」
 「さっき言っただろう?俺には生殖機能がない!だからいくら出しても赤ん坊は出来ない!」
 膣内射精をしようとするクリフトに弱々しく拒絶の意思を示そうとするリューナだったが、クリフトはきっぱりと子供が出来ないことを宣言する。それに安心したのか、リューナの膣壁は先ほどよりもクリフトのペニスを締め付け始める。はやく膣内に射精してほしいとねだっているかのように。それに答えるようにクリフトの腰の動きも激しさを増す。パンッ、パンッと肉と肉のぶつかり合う音が響き渡る。
 「うぐっ!!!」
 クリフトが短くうめく。同時に膣内のペニスが大きく脈打つのを、リューナは膣壁を通して感じ取った。熱い何かが膣内を満たしてゆく。次の瞬間、下腹部に激痛が走る。膣を何か針のようなもので刺されているような痛みだった。それも何十本もの針で。
 「あぎぃぃぃぃっ!!ら・・・らに・・・?」
 「ペニスから突き出した針だよ。射精と同時に飛び出す仕組みになっている。これで圧縮した魔素を体内に送り込む仕組みになっている」
 「そんな・・・」
 自分が魔族に変体して行くことを想像し、リューナは体を震わせる。だが、クリフトは彼女の髪を撫でて、恐れおののく彼女を落ち着かせながら、変体することを否定する。
 「まだだ、まだ変体はしない。そうなるかを決めるのは君自身だ」
 クリフトの言葉の意味は分からなかった。だが、すぐさま魔族になる可能性がないことだけは確認できた。それが分かっただけでも幸運だった。ホッと胸をなでおろす。
 リューナは激痛と共に何かが体の中を満たしてゆくのを感じていた。激痛と快感。二つの感覚が脳を焼き、リューナの意識を奪ってゆく。クリフトが射精し終わる頃には完全にその意識を闇に落としてしまうのだった。
 「あら、一発で失神?情けないですわね」
 「そう言うな。初めてだぞ?」
 意識を失ったリューナを見下ろしながらセツナとエリザベートは笑みを浮べていた。
 「さてと、今度はお前たちの番だな。今日は活躍してくれたからな、いっぱいご褒美をやるぜ」
 「ああ、クリフト様!!」
 「そんな、急に!!」
 リューナから離れたクリフトは即座にセツナの中にペニスを押し込む。同時にエリザベートの膣に指を押し込みかき回す。クリフトとリューナの痴態を見せ付けられてきた二人の膣はすでにビショビショに濡れ、愛液を滴らせていた。クリフトは二人を容赦なく攻めたてる。
 「ああ、いい!!と、ところで、クリフ・・・ト様・・・」
 「なんだ?」
 「リューナ殿の件、これで・・・あああっ!よ、よろしいので?」
 ペニスの激しく攻めたてられながらセツナは疑問に思ったことをクリフトに尋ねてみる。
 「これでいいんだ。大丈夫だよ、彼女は必ず、我々のもとに来る。必ず、な」
 絶対的自信を持ってクリフトは断言する。その言葉に嘘はないと感じた二人はそのまま欲情に身を任せるのだった。結局朝までクリフトは二人を何度も攻めたてるのだった。

 翌朝。リューナは新しい服と鎧を分け与えられ、ヴェイス軍から解放された。思いもかけないことにリューナは戸惑ったが、クリフトは一言だけ彼女に告げた。
 「どこぞへと好きなところへ行くといい。他国に逃れるもよし、革命の起こった首都に報告に向かいもよし。好きにするといい」
 「か、革命?なんですか、それは?」
 信じられない言葉にリューナは耳を疑った。クリフトは首都で起こった革命、反乱をつぶさにリューナに教える。サンドリアが宰相に反旗を翻したこと。首都の各所で戦闘が起こっていること。自分の知りうるすべてを彼女に教えるのだったそれを聞いたリューナは顔を青くする。
 「リューノ・・・」
 首都の守備隊に配置された妹のことが気がかりになってくる。不安が胸の中を支配し、一刻も早く首都の様子を知りたかったリューナはクリフトに解放された礼もそこそこに駆け出していた。その後姿を見送るクリフトはポツリと誰にも聞こえないような声で呟いた。
 「見てくるといい・・・人の欲望の様を・・・」
 そんなクリフトの言葉は彼女には聞こえるはずがなかった。自分の行く先の悲劇を知らずにリューナは全力で首都を目指してかけてゆくのだった。


数日をかけてリューナは首都・ナムにたどり着く。だが、そこはかつてのような賑わいを見せる街ではなかった。硬く門は閉ざされ、自分よりも早くここにもどってきた敗残兵たちも中に入れずに街の外にその身を晒していた。
 「どういうことだ、これは・・・」
 近くにいた兵に尋ねると、街はヴェイス軍侵攻に備えて守りに入ったとの事。敵軍兵士の侵入を阻止するために外部からの侵入を絶対拒否しているとのことだった。ならば、ここで自分が開門を呼びかけても中に入れてもらえないとリューナは判断した。
 「なら・・・あそこから・・・」
 正攻法で入ることをあきらめたリューナはその場を後にする。遠く離れた川沿いまで進む。そこから林の中に入ったところに秘密の抜け穴があった。ここを知っているのはほんの少ししかいない抜け穴だった。リューナは穴に飛び込むと地下道を通って街に侵入する。
 「これが・・・ナムの街?まるで、廃墟ではないか・・・」
 自分が遠征に出る前までは人が賑わい、多くの人が行きかう街だったはずだった。今はとおりに人影はなく、さびれ、どこも扉を硬く閉ざしていた。まさに廃墟と呼べる街だった。
 「こんなことって・・・リューノ、無事でいて・・・」
 あまりの街の変貌振りにリューナは絶句しながらも、妹の無事を祈り、守備隊の詰め所へと急ぐ。詰め所の前に立つと中からは人の声が聞こえてくる。リューナはホッと胸をなでおろし、ノブに手を掛ける。が、そこで中から聞こえてくる声に異常を感じた。聞こえてくるのは会話ではない。女性の喘ぎ声と男たちの笑い声だった。嫌な予感が脳裏をよぎる。息を呑んでドアを少し開け、中の様子を伺う。 
 「・・・・・・・・・・・!!!!!!」
 そこでは信じられない光景が繰り広げられていた。一人の少女が全裸にされ、男のペニスを咥え込んでいた。両手で二人分のペニスをそれぞれ握り、おまんこにもアナルにもペニスを捻じ込まれていた。顔中、体中、髪のいたるところにに精液が附着している。
 「おら、もっと腰を振れ!!」
 「もっと丁寧にしゃぶれよ!休んでるんじゃないぞ!!」
 少女の動きが少しでも弱まると男たちは容赦なく少女を殴りつける。赤い血が床を汚し、少女は恐怖に縮こまって必死に許しを請う。そんな少女を男たちは容赦なくまた攻めたてる。自分たちの欲望さえ満たされればそれでいい。少女の命など、尊厳など気にする行為ではなかった。
 「なんて・・・こと・・・」
 リューナはクリフトの言葉を思い返していた。彼の言ったことは、セツナやエリザベートが言ったことなどほんの一握りの人間の出来損ないのすることで、自分の周りにはそんなことができる人間はいない。そう信じてきた。だが今自分の目の前で繰り広げられている光景はそれを根底から覆すものだった。
 「こんな・・・ことって・・・えっ?」
 いまだに続く凄惨な光景にリューナは言葉を失っていた。だが、その攻めたてられる少女の顔を見たとき驚きと悲しみに心をかき乱された。殴られ、ぼこぼこに変形してしまっているが、間違いなく妹のリューノだった。まだ14歳になったばかりの妹は姉の助けになりたくてこの守備隊に入ったばかりだった。その最愛の妹が男たちに暴行を受け、陵辱されているのだった。
 「リューノ・・・リューノ・・・リューノ・・・」
 涙を流しながら妹の名前を連呼する。まだ恋すらしたことのない妹に対するこの仕打ち。リューナはクリフトたちの言葉が頭の中を駆け巡る。唇をかむ力がこもる。皮膚が避け血が滴り落ちる。怒りに体が震え、血の涙が目から流れ出す。魔族である彼らの方がまだ礼節をわきまえていたようにさえ思えてくる。
 「人など・・・人など・・・」
 激怒と憎悪が心を支配する。支配した心が体に流し込まれた魔素と混ざり合い、体に変化をもたらす。体の各所が角質化し、鎧の様になってゆく。全身に変化をもたらし、腿と肩の箇所にリボルバーが装備される。リューナの顔を飛蝗の頭部が覆い隠す。肩には"炎"の文字が浮かんでいた。
 「人など滅べばいい!!」
 リューナはそう叫ぶと詰め所内部に飛び込んでゆく。魔族の出現に男たちはパニックになる。リューナはその男たちを次々に蹴り倒してゆく。腿を蹴り砕き、崩れ落ちたところを鼻柱に踵を叩き込んでゆく。合金で出来た踵が命中した瞬間、腿のシリンダーが回転し中の弾丸が発射される。と言っても弾が出るわけではなく命中した箇所の破壊力を倍増させる仕組みだった。
 「ぐぎゃあああああ!!!」
 踵が命中し、魔弾が炸裂する。踵の部分で爆発が起こり、男の頭部を吹き飛ばす。脳漿と眼球が当たりに撒き散らされ、吹き出した血が床を赤く染め上げる。頭部を吹き飛ばされた男は糸の切れた人形のように地に倒れ伏す。
 その凄惨な光景に男たちは恐怖し、あわてて逃げ出そうとする。それをリューナは許す気はなかった。妹にここまでのことをしておいて自分たちだけ逃げ出そうとする輩にかける情けはなかった。 
 「己が命で、己が愚行を償うがいいっ!!!」
 リューナは跳躍すると手短な男の頭部を踏みつける。魔弾が炸裂し、頭部を吹き飛ばす。そのまま空中を踊るようにして男たちの頭部を次々に蹴り飛ばしてゆく。楯で防ごうと、テーブルの下に隠れようと結果は同じであった。たては砕かれ、テーブルは真っ二つに蹴り割られた。許しを請うものもいたが、それを許す気はなかった。妹が許しを請うてもそれを聞き入れなかったやからをどうして許す必要があろうか。リューナは容赦なく男たちを打ちのめし、蹴り殺していった。
 「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
 ものの1分もしないうちに男たちは全員リューナに蹴り殺されていた。全員頭部をけり砕かれ、部屋の中は血で溢れかえっていた。リューナは息を整えると、辺りを見回す。部屋の隅にはリューノが投げ出され、倒れ伏していた。あわてて近寄り抱き起こすが何の反応も示さない。その目は死んだ魚のようだった。呼吸をしているのがせめてもの救いだった。見回せば、リューノと同僚だった少女たちも同じようにぼろぼろになって放置されていた。すでに事切れたものもいた。
 「人とは、こんなにも欲望の塊なのですか・・・」
 リューナは妹の体を抱きしめながら絶叫した。人の欲望が新たな融合人間(キメラ・ヒューマン)を誕生させる結果となったのだった。そしてそれはセルビジュにとって滅びへの一歩にすぎなかった。
 ナムの街にリューナの悲しい声が響き渡る。悲しみに満ちた声が風に乗り辺りに響いてゆくのだった。


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