第6話  真の敵、鳴動


「んっんつっ・・・」

 怪しげな声が真っ暗な部屋に響き渡る。高級ホテルの最上階、そこで繰り広げられる男と女の踊り。

 その声は男の上に跨った女から聞こえてきた。一糸纏わぬ姿で男の上に跨り、男のいきり立った肉棒をその身に受け入れて、激しく乱れ動く。白い肌にはジンワリと汗が浮かび上がり、長い髪は動くたびに激しく乱れる。

 男と女の狂気に満ちた淫行、それは一組の男女によって行われているものではなかった。大きな部屋の中には10人にのぼる男を20人を超える女たちが取り囲み、交わりあっていた。1人として服を着ているものはなく、赤く上気した肌に汗をかいていないものもいなかった。

 女たちの口や股間からはねっとりとした液体があふれ出し、それでいながらまだ物足りなさ層に男にしな垂れかかってゆく。一人の男に2人、3人の女が群がり、男の精液をすすり上げて行く。ねっとりと絡み尽きてくる舌の動きに男達はたまらず愉悦の悲鳴を上げる。

「おっ、おっ、おおおおっ」

「クス、この程度で悲鳴上げていたら、この先どうなっても知らないわよ?

 男の歓喜の悲鳴を聞いた女のうちの1人がくすくすと笑いながら、男の股間から顔を上げる。そしてそのまま男のビクビクといきり立った肉棒を跨ぐ。そのちょうど真上にはすでにビショビショに塗れそぼり、あとからあとから止めどなく蜜が垂れてくる蜜ツボが男の到着を今か、今かと待ち構えていた。女は男の表情を伺いながらゆっくりとその腰を落として行く。男の硬いものを手で支えながら、ゆっくりと自分の膣内へとそれを導いてゆく。

「んっ、大きいゥァ

 蜜ツボの入り口を無理矢理押し広げる固いそれの感触に、女は気持ち良さそうな声をあげてよがる。男の肉棒の先端を飲み込んだ蜜ツボは、すでにあふれ出してきていた蜜を潤滑油にしてあっさりと男を飲み込んでしまう。男は自分の肉棒を締め付ける心地よさにまたしても愉悦の声をあげる。そんな男をさらに喜ばせるように、先ほどまで男の肉棒をおいしそうに舐めていた少女2人が、今度は男の乳首をペロペロと舐めはじめる。

「うふふっ、どう、憧れの私の膣内は?」

「今でも信じられません。天国みたいです〜〜」

「天国はこれからよ?

 女の膣内に導かれた男はその小刻みに締め付けてくる心地よさに、これ以上内ほど嬉しそうな表情を浮べて歓喜の悲鳴を上げる。そんな男に女はうっすらと笑みを浮べ、男の飲み込んだ腰をゆっくりと動かし始める。ゆっくりと腰を浮かし、落とす。絡みつくような肉壁が男の肉棒に絡みつき、さらなる快感を男に与える。さらに男を取り巻く少女たちが、交互に男の乳首を舐め上げてゆく。体全体を支配する快感に男はもはや耐え切れずにいた。

「だめ、もうがまんできない!」

 元々女との交際の経験のなかった男は、初めて味わう女性との性交渉にあっさりと瓦解してしまう。我慢は瓦解し、男の肉棒の先端から大量の精液が女の膣内に迸る。二度、三度と有り余る精液を女の膣内に、子宮の中に注ぎこんでゆく。女はそれを嬉しそうに受け止め、一滴残さずに受け止める。

「ふぅ、こんなにいっぱい・・・」

「あ、膣内射精しちゃったゥイ△痢△修痢ΑΑΑ

「大丈夫よ。それよりも、もっと楽しいこと、しましょう?

 男の射精が終わると、女は自分の下腹部を抑え、そこに集められたものの熱さと量にうっとりとした表情を浮べる。一方、男の方は初めての膣内射精にすこし慌て気味になる。そんな男を宥めながら、女は再度腰を振りはじめる。先ほどまでと同じくゆっくりと、自分の中の肉棒を堪能するかのように。再び襲ってきた女の膣壁の心地よさに勢いの衰え始めていた男の肉棒は、あっという間に元気を取り戻し、女の膣内を犯し始める。再び交じり合う快楽、その心地よさに男も女も気持ち良さそうな悲鳴を上げて、乱れ交じり合う。

「はぁはぁ、・・・ちゃん、・・・ちゃん・・・」

 男は苦しそうな顔をしながら、自分の上で乱れる少女の名前を何度も呟く。自分の体の上で、自分の肉棒をその身に受け入れ、美しくも淫らに舞う少女の姿に、男は興奮せずに入られなかった。徐々に女の動きは早くなり、男の嬌声も大きくなってゆく。やがて一際大きく男が震えると、女の子宮の中で思い切り自分の種を解き放つ。自分の子宮を満たしてゆく熱さに酔いしれながら、女も大きな声をあげて震え上がる。その卑猥な姿に男の射精は一度や二度では納まらない。何度も何度も、女の子宮に納まりきらないほど射精を繰り返す。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

「次は、ボクの番」

 ようやく射精が納まり、男は一息つく。その間に自分の上で踊っていた少女は去り、代わりの少女が跨ってくる。射精を終えて萎えきった男のイチモツを無理矢理勃起させると、そのまま自分の膣内へと導いてゆく。再び襲ってきた快感に、男は苦しそうな嗚咽を漏らす。しかし少女たちの動きは止まらない。射精をしても、射精をしても、次々に少女たちが男の上に跨ってきて、男を求めてくる。男にはそれを拒む術はなく、ただなすがままに女抱かれ続けるのだった。

「ふぅ、満足、満足ゥァ

 どれほどの時間が流れただろうか。部屋中に響いていた甘い嬌声は聞こえなくなり、ようやく少女たちが男から離れる。女たちは一様に満足そうな笑みを浮べ、自分たちの下腹部を弄る。それとは対照的に女たちから解放された男たちの姿は異様なものであった。精も根も吸い尽くされ、あとに残されたのは骨と皮の化け物にしか見えなかった。そんな男たちに少女たちはまるで興味を示さない。

「うっ、あああ・・・」

「あら、まだ生きていたの?

 男の股間の上で激しく乱れる女に男は必死に手を伸ばす。その腕はしわしわに干からび,苦しそうに震えている。顔は激しく痩せこけ、体も内蔵が浮かび上がるほど痩せこけてしまっていた。頬がこけ、ぎょろりとむき出しになった目玉が自分の上で乱れ狂う女を睨みつける。そんな男の声にならない声に女は平然とした顔で答えると、ようやく腰の動きを止める

「なかなかすいがいのある男ね」

 女は妖しく微笑むと、下半身に力を込める。でん部がキュッと締まり、男の象徴を包み込む柔肉も同時にキュッと締まる。締め付けられるような窮屈さに男は嗚咽を漏らす。が、女はそれを気にも留めないで腰を上下に動かし始める。締め付ける女の膣道が男の肉棒を激しく擦りあげる。

「おっ、おおおっ!」

 男は絞り上げられるような感覚を覚え、必死にそれに抗おうとする。そんな男の抵抗を打ち崩すかのように、女は形のいい乳房をタプタプと揺らしながら、男の腰の上で激しく動く。女が与える極上の快楽に、男の我慢などあっという間に瓦解してしまう。

「おあっ!!ああああっ!!!」

 男の腰が大きく震え、女の膣内で大きくはじける。先端から白い粘液が大量にあふれ出し、女の子宮を満たしてゆく。その感触を満足そうに下腹部を擦りながら確認した女は一息ついた後、男の肉棒を自分の膣から引き抜く。自分のたらした愛液と、男の精液とが交じり合い、白く泡立って糸を引く。

「最後の一滴まで吸い付きしてあげる」

 怪しく微笑む女はその場にしゃがみこむと、虫の息の男の股間に顔を埋める。そして半分なえた男の肉棒を手に取ると、有無を言わさずに口に含むと、勢いよくそれを吸い上げる。尿道の奥に残っていた精液の残り汁を吸い上げ、男の精液がカラになるまで吸い尽くす。舌先で男の肉棒を嘗め回し、刺激し、吸い上げる。しばらく男の肉棒を堪能した女はおもむろに口を放す。

「うふっ、ごちそうさま」

 満足そうに微笑むと女は口元を拭いながら男に謝辞を述べる。しかしそれに男が答える事はなかった。すべてを吸い尽くされ、もはや息絶えた男に快楽の喜びを伝える術は残されてはいなかった。男の絶命を確認した女は顔を上げ、自分の目の前で酒を煽る仲間に目をやる。

「終わったわよ、飛鳥」

「あら、遅かったわね、翠」

「その分、濃厚な生命エネルギーを集められたわ」

「それは上々」

 翠と呼ばれた少女は怪しく微笑むと、飛鳥に近寄り彼女の唇を奪う。突然のことにも飛鳥は動揺せず、むしろ積極的に翠を受け入れる。お互いに舌と舌を絡めあい、乳首と乳首を擦り合わせ、指でお互いの感じる場所を弄りあう。そしてお互いの足を絡めあい、お互いの性器を擦り合わせ始める。男が見たら勃起すること間違いないほど濃厚なレズシーンであったが、重なり合う2人の性器には普通と異なるところがあった。それは太い管のようなものがお互いの膣穴をつなげていることだった。

「んんっっ!飛鳥ぁぁぁっっ!」

「翠、かわいいわよ」

 甘ったるい喘ぎ声をあげながら、2人はお互いを求め合う。やがて快楽の渦に捉えられた2人を絶頂の波が襲い掛かる。それを受け入れた二人は激しく震え上がる。同時に2人を繋ぐ管が怪しく光る。飛鳥の側から翠の側に何かが流れ込んで行く。そのすべてを受け入れた翠は一息つくと、左手に力を込める。

「んっ、これは上々」

 翠の左手は妖しく光り、それを見つめたまま翠は満ぞくそうに頷く。そして今度は自分の足元で息絶えた男の腹の上に座る。そして怪しく光る左手を男の胸元に当てると、それをズブズブと男の体にめりこませてゆく。光は男の体の中を駆け巡り、生き物のように激しく脈動する。やがて男の体は変化をきたす。かさかさに乾ききった肌は鱗に覆われ、獣を思わせるような牙に猛獣の顔、鋭い爪を伸ばし、下腹部には倍する大きさの肉棒がそれを誇示するかのようにそびえ立っていた。そして光を失っていたはずの男の目に光が戻ってくる。

「がぁぁぁぁぁっっっ!」

 完全に蘇生した男は咆哮を上げる。その姿に翠は満足そうに微笑む。

「さあ、立ちなさい、私たちの下僕」

 先に立ち上がった翠は獣と化した男に命令を下す。男は言われるがままに立ち上がると、翠の足元に膝をつく。そして突き出された翠のつま先に服従の口付けをするのだった。男が完全に自分の思うがままに動くと確信した翠は口元を歪めて頷く。

「お前は誰?」

「おレはみどリさマのげぼク」

「そうよ。さあ、私の言うとおりになさい!」

 男は翠の言うがままに闇の中に姿を消してゆく。同じように他の女の子たちと戯れていた男たちもその姿を変えて闇の中に消えてゆく。10体すべての異形の魔物が姿を消すと、翠たちは満足そうな顔をして部屋の中心に集まり、男たちが残していったものを調べはじめる。

「なんだ、あいつ。初美のファンじゃん!」

「あんたはまだ見られる顔していたからマシでしょう?私なんてこんな油ぎっていて」

「それでもあんたのファンなんだからいいじゃん!」

 少女たちは男たちが残していった会員証に書かれた情報を見ながら口々に勝手なことを言う。その姿には今自分たちがやったことについての罪の意識は感じられなかった。

「でもそろそろやばくない?この間も10匹くらい下僕にしたし」

「世間がそろそろ騒ぎ出すかもね」

「問題ないわよ。狙っているのは私たちのファンの中でも嫌われ者ばかりだから」

 飛鳥は魔獣と化した男たちのあとのことを心配する仲間にそっけなく答える。ここに連れて来られた面々はすべて、自分たちのファンの中でも嫌われ者で通っており、いなくなってもファンの間で話題になりにくい人物を演出している。さらにその中から家族と付き合いのない一人暮らしを選んでいるので失踪しても問題になりにくいはずである。たとえ問題になっても、自分たちが妖しいなどと思うものは誰もいないだろう。

「それにあいつらは私たちの命令は何でも聞くドレイだよ?」

「そうそう。排泄物を飲めって命令するだけで喜んで飲むようなバカだモンね」

「それが今日の事は他言無用って言う私たちの命令、破ると思う?」

「それもそうか」

 他の仲間の言葉に少女は安心した表情を浮べる。男たちは自分たちの言いなりである以上、そこから漏れる可能性は低い。たとえ自分たちに疑いに目を向けるものがいても、この事実に行き着くものは誰もいないだろう。自分たち人気絶頂のアイドル『La+PULS』が一般人と関係を持っていたなどと想像もしないことだろう。

「それで、あの化け物どもの寿命は?

「あいつらの生命エネルギーをフルに使ったかったからね。もって1週間、というところ」

「その間に女を襲ってエネルギー補給でもするでしょう」

 闇に消えていった魔物たちの後ろ姿を負うことも無く、少女たちはこれから起こるはずの惨劇を想像していた。しかし心は微塵も痛まない。彼女たちには罪の意識など微塵もないのだから。ただ1人、翠だけが魔物たちの消えた闇に視線を送っていた。そしてポツリと一言、言葉をこぼす。

「さあ、見つけてきなさい、私たちのご主人様を・・・・」





 その日の朝も、りのんはまあやとエリザベスの間に挟まれて困りきっていた。

「だからてめえは二度とりのんちゃんの前に面出すなって言っているだろう!」

「おー、りのんはマイフレンド。フレンドと何故一緒にいてはダメですか?」

「お前にはその資格がないって言っているんだよ。第一いつ友達になったって言うんだよ!」

 りのんのことが気に入って片時も彼女から離れようとしないエリザベスに、まあやのイライラは募りに募っていた。それが激しい罵声となってエリザベス本人に浴びせかけられてゆく。が片言しか日本語を理解できていないエリザベスにはまあやの罵声は半分ほどしか理解できていなかった。だからりのんのそばを離れようともせず、さらにまあやを激怒させていた。

「ふ、2人とも、喧嘩しちゃダメだよ」

 喧嘩を続ける2人に挟まれたりのんは弱りきった顔で何とか喧嘩を止めようと、二人の間に立って仲裁しようとしていた。しかし、エキサイトしきっているまあやを落ち着かせることはできないし、日本語を半分しか理解できていないエリザベスには自分の仲裁は届かない。

「あの、セツナさんも何か言って・・・」

『りのん、少し黙る』

 どうすることもできないリのんは困り果てて、自分と融合している戦士の魂に助け舟を求める。が、その戦はりのんの助けをあっさりと一蹴してしまう。

『お前たちののん気さにはほとほと呆れる』

『ご自分たちの無能を私のせいにしないでくださいません?』

『あたしは何も悪くないもん!』

 こちらの方もお互いに逢う旅に、喧々囂々の言い争いを繰り返していた。それもひとえに未だに「若様」といわれる少年が、そしてそのお月のドラゴンの少女たちが見つかっていないことにあった。その「若様がこの世界に来てからすでに一月、その行方すら掴めていない。そのせいもあってセツナたちのイライラが募って、こうしたいいう争いが絶えないのだ。せめてもの救いはこれまで何体かの敵をうちはたせたことだろう。

(でも最近少し様子がおかしいんだよね・・・)

 ケンカを続ける友人たちをよそにりのんは今朝のニュースのことを思い返す。それはこれまでと同じ、女性が何者かに襲われるという事件だった。その犯人は特定できず、捜査も難航しているという。これまでの敵はその足跡をなにかしら残していたので、その足取りをたどるのは難しいことではなかった。だが、今回の事件のはんん員はその痕跡すら残していない。魔力の残滓を追おうにも、それを追うことも困難な状況である。

(この世界に来たコアの数は後一つ・・・それが何かをき引き起こしているのかも)

 りのんはこれまでに起こった事件を指折り数えてみる。そしてセツナがこの世界に来た時の話を思い返し、この世界に落ちてきたコアの数、そしてそれを持ち込んだ張本人の数を数える。そして残されているこあはその張本人、ただ一人だけだった。そしてそいつは自身の意思を持っている。ならばそいつが何かしらの計画を建てて動き始めたとも考えられる。

(情報が少なすぎる、のかな?)

 自分の身に降りかかった悪夢を晴らすためにはすべてのことをなし終えなければならない。しかしそれをするには、自分たちには情報が少なすぎる気がした。その情報不足がある事件を引き起こしていた。



「それでこれからどうするの?」

 学校も終わり、帰宅の路に着いたりのんたちはこれからどうするかを話し合っていた。これから何処かを回って最後のコアを探すのか、行方の「若様」やドラゴンの少女たちを探すのか、その優先順位を3人は決めかねていた。実害のあるのは前者であり、優先すべき事案は後者であった。

「被害が大きくなる前に最後の馬鹿を抑える、それはしかたがないんじゃない?」

「デスが頼まれごとを早く済ませるのは、タイセツなことデ〜ス」

「そうなんだよね・・・う〜〜ん」

 いくら話しあってもその順番を決めかねる。まあやの言うこともエリザベスの言うことももっともだ。この二つを同時に攻略できれば、こんなに悩むコトはないだろうにとりのんは思う。しかしいくら頭をつきあわせて見ても、答えはでてこない。ならばできることから優先的にやっていこうということになったが、このできることもまた限られていた。

「私たちにできることって・・・・」

「誰かが襲われた場所を探してみる、それくらいしかないよね」

 自分たちにできることを考えたりのんたちだったが、わかさまたちをさがそうにも手がかりは皆無。無闇に歩き回っても見つかるはずもない。となれば今朝のニュースでやっていた事件現場に赴くのが得策と言えた。

 今朝報道されていたニュース、それは池袋で起こった傷害事件だった。ただの傷害事件ならばりのんたちも興味を示さなかっただろう。だがその事件の特異性がりのんたちの興味を誘った。総勢50人にも及ぶ被害者、それもその辺りに屯していた暴走族の一団だったという。その50人が一方的に殴り倒され、全員病院送りにされたというニュースが今朝流れたのだ。

「相手は一人だったって言う目撃情報もあるみたいゥァ

 まあやは携帯に送信されてきた最新のニュースを読みながら、事件現場の情報を集めてゆく。目撃された喧嘩の現場には1人しかいなかったということや、その1人が一方的に相手を殴り飛ばしていたことなどが情報として入ってきていた。喧嘩慣れした相手を一方的に殴り飛ばす、そんな特異な事ができるものは限られてくる。

「ここに若様、もしくは龍の娘がいるってことね」

「もうその場にはいないだろうけどね・・・」

「イエ〜〜ス。昨日の晩にタマタマいただけ、ね」

「そこで喧嘩に巻き込まれた、そんなところかぁ」

「でも、そこにいけばなにかしらの情報が手に入るかもしれないでしょう?」

 情報を分析していたりのんたちはその場に当の本人がいるとは考えられなかった。だが、少なくとも目撃情報を手に入れるくらいは出来るだろう。そしてその人がどちらに逃げたのかも。知りたいことの情報が少ない今、わらにも縋る思いでりのんたちは池袋を目指す。

「で、来たまではよかったんだけど・・・」

 池袋に降り立ったりのんたちは辺りを見回す。事件現場はここから少し離れたところということだったので、そちらに向かってみる。まだ夕方ということもあって人通りは多い。りのんたちは手分けして周囲の人に事件のことを聴いてまわる。小一時間ほどして3人は集合場所に集まる。

「ドウでしたカ?」

「だめ。こっちは目撃情報なし」

「わたしの方はあったよ」

 集まるとエリザベスは首を横に振りながらりのんとまあやに尋ねてくる。それは自分には何の収穫もなかったことを意味していた。それに対してまあやも首を横に振る。しかしそんな中でりのんだけは満面の笑みを浮べて大きく頷き返してくる。

「Oh、どんなジョーホーですか?」

「あのね。喧嘩をしていたの、赤い髪をした女の子だったみたい。歳は18歳くらいの」

『その外見から考えるに、エンだと思われる』

 りのんは自分が手にいれた情報を胸をはって答える。彼女と一体化しているセツナもそれに自分の意見を付け加える。それだけの力を持ち、赤い髪をした少女など、早々はいないだろう。セツナたちの記憶にある限り、炎龍の人型、エンに間違いなさそうだ。

「あとね、喧嘩は一方的に女のこの方が殴りかかっていったみたい。何かわめきながら」

『若様が見つからなくてきれたわね、あの子…』

 りのんの説明にセツナは溜息交じりに言葉を続ける。エンのことをよく知るエリザベートとアンナは苦笑するだけだった。しかし見つからないからといって恐竜が大暴れしたのでは、こちら側の人間がたまったものではない。すぐに見つけ出して保護する必要がある。

「ところで、りのんちゃん。暴れていたのは一人だけ?」

「うん。1人だけだったみたい。そばには誰もいなかったって」

「それって、もう一匹の恐竜も野放しってこと?

 まあやのといにりのんは大きく頷いて答える。その答えを聞いたまあやはうんざりした顔をする。エンとライ、二匹の神竜が一緒にいてくれれば二度手間にならなくてすむのだが、どうやら二匹は離れ離れになってしまったらしい。その心もとなさが暴走に拍車を掛けているのかもしれない。

『まあ、あの子がこの辺りにいたのは昨晩。まだこのあたりをうろうろしているかもしれませんわね』

『そうだな。あいつが逃げたって言う方に行ってみようぜ』

 誰がここで暴れていたのか、どうしなければいけないのかはすでに分かった。あとは行動あるのみである。すぐさまりのんたちはエンが走り去った方に移動を開始する。そうやってあとを追ううちに3人はどこからともなく聞こえてくる轟音を耳にする。何かは硬いものが殴りあうような地響きであった。

「なに、このおと?」

「工事、ってわけじゃなさそうだけど・・・」

「アチラのほうから聞こえてキマ〜〜ス」

 3人は慌てて音のするほうに向かう。角を曲がるとそこは大型の駐車場であった。今は車の台数も少なく、駐車スペースも多く空いている。その一角で大人数が何か揉め事を臆していた。よくよく見れば、一人の女の子を数人の男が取り囲んでいるのが見て取れた。

「エリザベート、あれって」

『間違いありませんわ。馬鹿炎龍ですわ・・・』

 まあやの視覚を通して、そこで暴れているのが誰であるかを確認したエリザベートは溜息混じりにまあやの言葉を肯定する。その光景を見たりのんもエリザベスも絶句するほかなかった。

 喧嘩はエン1人に対して、男は十人以上。それも手に手に角材やバットなどを持っている。ただそのほとんどが頭や腕に包帯を巻き、痛々しい姿を曝していた。

「あれは昨日やられたっていう暴走族の奴らね」

「Oh、知ってマス!七五三参りというやつデスね?」

「いや、エリザベスちゃん。それちがうから・・・」

 素っ頓狂なことを言うエリザベスにまあやが苦虫を噛み潰したような表情を浮べているのに気がついたりのんは慌ててエリザベスに突っ込みを入れる。そんなことをやっている間にも喧嘩は言い合いでは終わらなくなっていた。大人数で脅しを掛けても不敵な笑みを浮べるエンに、男たちのほうの我慢が続かなかった。

『まったく男のくせに、忍耐力のない』

『まあ、エンの挑発もそれなりに効いたんじゃない?』

 のん気なことを入っている間に男たちの1人がエンに襲い掛かる。手にした武器を大きく振り上げて、容赦なくエンに振り下ろす。その武器をエンは躊躇なく受け流し、そのがら空きの顔面に手痛い一撃を見舞うと、腹部を蹴り上げ、さらに肘を後頭部に叩き落す。男はカエルが踏み潰されたような声を上げて地面に倒れ込む。その後頭部をエンはご丁寧に踏みつけ、さらに男たちを挑発する。

「この!」

 そのあからさまな挑発に乗った男が金属バットを思い切り振り回してエンに襲う掛かる。その攻撃をエンは避けようともしないで真正面から受け止める。片手で易々と受け止められた金属バットはすぐに真っ赤に変色し、掴まれたあたりから焼け落ちてしまう。自分の手の中で変形した金属バットの姿に呆然とする男に、エンは勢いのついた回し蹴りと側頭部に見舞う。

「がっ!」

 脳を揺らされ、よろめく男の胸元を掴むと、エンは奇声を発しながらその鼻柱に頭突きを見舞う。ぐしゃっと言ういやな音を立てて男の鼻骨が変形する。しかしエンの攻撃は収まらない。何度も頭で男の鼻を打ち据え、鼻を砕き、歯をへし折ってゆく。ようやくエンが手を離した頃には男の顔は血で真っ赤に染まり、鼻は見る影もないほど変形しきっていた。支えを失ってよろめく男に、エンは止めといわんばかりに跳び蹴りを見舞う。男は短く呻くと完全に気絶し、そのまま後に倒れ伏す。

「うわぁ、えげつない」

 エンの容赦のない攻撃を目の当たりにしたまあやは素直な感想を口にする。そこには美しさなど存在はしない。ただ暴力によって相手を組み伏せる、野蛮な世界がそこには存在していた。そしてエンという名の少女と男たち、双方の間にあるのは喰らう側と食われる側という現実だった。それほど双方の実力の差は歴然としていた。その間にも3人目、4人目と次々に男たちがエンに無謀な喧嘩を挑み、あえなく叩き潰されていった。

「ふしゅううっっ!!」

 口元から真っ赤な炎を覗かせながらエンが猛る。その獰猛なまでの暴力に、男たちの勇気はあえなく折れてしまう。我先に仲間を押しのけるようにして逃げ出そうとするが、エンは背後から襲い掛かり、逃げようとする男たちまでも次々になぎ倒して行く。男たちはかろうじて息をしているようだが、もはや動くことも出来ず、ビクビクと全身を痙攣させていることしか出来なかった。そんな一方的な暴力の宴に、りのんたち3人は絶句していた。

「すごい、ね・・・」

「圧倒的な力の違い、って奴ね

「勝負にナッテませ〜〜ん」

 その力の嵐に当てられた3人は溜息交じりに感想を述べる。ここまでいったらさほど時間を掛けずにこの喧嘩は終わりを迎えるだろう。そんな楽観を持っていた3人にセツナが警戒を促してくる。

『のんびりしていると、やられる!』

「えっ?」

 セツナの警告にりのんは顔を上げる。その視線の先ではエンがすでに最後の一人を血の海に沈めているところだった。他の面々は血の海に沈み、うめき声を上げて痙攣している。最後の一人を始末すると、エンはつまらなさそうにその手を話すと、視線をこちらに向けてくる。エンの目は興奮によってか、真っ赤に染まり、遠目からは爛々と赤く萌えているように見える。その獰猛な眼に睨み付けられたりのんは思わず震え上がる。

『どうやら闘争本能に完全に火がついたみたいね』

「それって・・・」

『次の標的はわたくし達ってことですわ』

 エンの真っ赤に燃える目を見てすぐに察したことだったが、できれば遠慮したい事実であった。しかし闘争本能に火がついたエンをこのまま野放しにしておく事はかえって危険である。りのんたちは溜息交じりに覚悟を決め、各々の変身アイテムを手に取る。

「もうどうなったて知らないから!!!」

 りのんの泣き言が辺りに響き渡る。それが戦いの始まりを告げるゴングであった。



   続く


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