第4話 第二の魔法少女の正体、解明??


「エリザベス=リンゲージで〜〜す!みんな、わたくしに土座衛門しなさ〜〜イ!!!」
「ばか・・・」
 まあやの呟きがかき消されるほどの大音量でエリザベスはとんでもない自己紹介を胸を張ってやっている。その謝った日本語に担任の鈴木先生は冷や汗を浮べてあわててそれが間違った言葉であり、本当はこういうものだと教えているが、エリザベスはそれが理解できないのか、小首を傾げている。
「これのどこがいけないジャパニーズなのですか?」
「だから土座衛門というのはいわゆる水死体の事で、エリザベスちゃんが言いたいのは土下座のことで・・・」
「??どこがどう違うデスか?」
 必死になって説明をする鈴木先生の言葉を真剣に聞いていたエリザベスはその違いがわからないのか、首を傾げる。その仕草にまあやはもう一度大きなため息を漏らす。
「あなたはこのクラスのみんなに水死体になれというの?冗談じゃない」
「まあやちゃん?」
 いつもやさしいまあやの口調が激変する。どこかドスの効いた怒りのこもった口調に変わっていた。いつもと違うまあやのしゃべり方に一番驚いたのはいつも隣にいるりのんであった。いつもニコニコしてやさしいまあやがこんな口調になるのは過去に自分に悪戯をしようとした痴漢に対したときしか記憶がない。
「あんまりバカなこといっていると、東京湾で泳がせるぞ、コラ!」
「オ〜〜、まだまだ海水浴には早いですよ?」
「時期は関係ねぇ。好きなだけ泳がせてやるぜ?ただし脚にはコンクリ、履かせるけどな」
 まあやが非常に怒っている事だけはよくわかる。しかしその言葉の意味はどうにも理解できない。りのんは思わず首を傾げる。それはエリザベスも同様らしく、首を傾げながら遠慮なくまあやに質問を浴びせてゆく。その質問のたびにまあやの眉はヒクヒクと戦慄き、額に浮かぶ血管の数も増してゆく。その様子を真正面から見ている鈴木先生の顔はもはや蒼白を通り越して白そのものであった。何とかまあやの機嫌を直そうとしているようだが、あわあわと言うだけで言葉が出てこない。エリザベスを黙らせようにも遠慮のないエリザベスが黙る事はいっこうになかった。重苦しい空気が教室中に張り詰め、同級生たちもその重苦しさに震えているしかなかった。
「まあやちゃん、私もその海水浴、連れて行ってくれる?」
 その重苦しさを打ち破るようなお願いをりのんは素直な気持ちで口にする。もちろんりのんには他意はない。まあやが言う海水浴に興味を持ち、それに言ってみたいというだけであった。りのんのそんな言葉にそれまでエリザベスを睨みつけていたまあやの動きがぴたりと止まる。そしてくるりとりのんの方に振り返ると、いつもの愛くるしい笑顔を浮べてりのんに抱きつく。そしてこれでもかといわんばかりに頬づりを繰り返す。
「りのんちゃんが望むならもっと綺麗な海に連れて行ってあげるわ」
「わたくしも同行させてくださ〜〜い!」
「てめぇはマリアナ海溝に沈めてやるから安心しろ!」
 頬を妖しく染め上げながら頬づりを繰り返すまあやをりのんは笑顔で抱き返す。そんなりのんの愛らしさに堪えきれず、まあやは体を摺り寄せるようにしてりのんに抱きつく。そんなまあやのスキンシップを見つめながら、エリザベスは横合いから口を挟んでくる。りのんとの愛の時間を遮られたまあやの口調は激変し、またドスの利いた声に変わる。まあやの毒舌の意味がわからないエリザベスの問答はまあやのこめかみにさらに血管を浮かび上がらせてゆく。二重人格さながらのまあやの口調に担任の鈴木先生を始めクラスメイト一同、言葉も出ない。
「さすがは土建屋(仮)の娘・・・」
 誰もが誰にも聞こえないように、それでいて同じ言葉を口にする。一方そんな二人の間に立ったりのんは困り果てた表情を浮べてオロオロとしていた。どうにか2人を仲直りさせられないものかといろいろと苦心する。しかしエリザベスはまるでまあやの話し方を気にしている様子がなく、まあやのほうはエリザベスを天敵と認定している。お互いにかみ合わない歯車がぎしぎしと今にも壊れそうな音を立てていた。その均衡はりのんという存在がかろうじて繋ぎとめる。
「まあやちゃん!喧嘩したら・・・」
「喧嘩なんてするわけないでしょう、りのんちゃん」
 上目遣いで訴えかけるりのんにまあやはにっこりと笑って答える。その姿には先ほどまでのとげとげしいイメージは欠片もない。そのあまりの二重人格ぶりに誰もが言葉を失ってしまう。もっともりのんはそんなこと気にした様子もなく、まあやに話し掛けている。まあやがいつものまあやに戻ったことが嬉しくてたまらないといった風であった。
「あ、そうだ。先生。エリザベスちゃんの席は?」
「そ、そうね。え〜〜と、空いている席は・・・」
 りのんに促されてようやく気を取り戻した鈴木先生は慌ててエリザベートが座る席を探す。教室内にある席はほぼいっぱいで空いている席は一箇所しかなかった。それを確認した鈴木先生の表情が一気にこおりつく。それに気が突いたクラスメイトもその方向に視線を向けて、同じくこおりつく。空いている席は一箇所だけ、それはりのんの隣であった。そしてそのりのんの反対側の席には同じくにっこりと笑うまあやの姿があった。しかしその目は一切笑っていない。
(あいつをそこに座らせたら、殺す!)
 その目は明らかにそう言っていた。慌てふためく鈴木先生とクラスメイトを他所に、りのんは自分の隣の空席を指差す。
「先生、ここしか開いていないはずだよ?」
「そ、そうね。でもそこは・・・」
 まるでまあやのことなど気がついていないりのんは無邪気な笑みを浮べて鈴木先生に報告する。一方の鈴木先生は脂汗をダラダラと流しながら、どうしたものかと思案していた。しかし言い案が浮かばない。情けなくも生徒たちに助けを求めるがみなし線をそらして自分に火の粉が掛かるのを避けていた。答えに窮する鈴木先生の様子にりのんは不思議そうに首を傾げる。
「どうしちゃったんだろう、鈴木先生?」
「さあ。何か考えでも・・・」
「まあ、いいや。エリザベスちゃん、ここの席が空いているから座って!」
「おう、サンキューです!」
「り、りのんちゃん〜〜〜」
 エリザベスの手を引いて自分の隣に案内するりのんにまあやは涙目になって訴えかける。しかしその言葉の意味はりのんに伝わらなかった。そのとき誰もがこう思った。
『まあやの心、りのん知らず』・・・
 と・・・


「ひっ!いやぁぁぁっっ!」
 夕闇が迫り、空が茜色に染まりだした頃、りのんたちが通う小学校のそばにある高校のとある部室に悲鳴が響き渡る。恐怖に怯えきった悲鳴の主はその部室を使う部員の1人であった。そしてその少女の逃げ場を遮るように帽子を目深に被った男がじりじりと歩み寄る。その男の足元にはすでに3人の女子高生がぐったりと倒れ伏していた。3人とも口元から白い粘液があふれ出し、同じ白い粘液で顔を汚していた。服は乱れ、大小さまざまな形の乳房が露になり、ピンク色に火照った乳首は自己主張するかのようにつんと突き立っている。スカートはズタズタに引き去られ、下腹部を隠しているはずの下着は剥ぎ取られていた。そのうち腿からも白い粘液があふれ出している。
「だ、だれ?誰なんですか、貴方は?」
「ぐひ、女子高生、女子高生じょ〜〜しこうせ〜〜いっっ!」
 怯える少女の追及に答えようともしないで、男は歓喜の笑みを浮べると少女に襲いかかってくる。恐怖に怯えながらも少女は隠し持っていたスタンガンで男を迎え撃つ。グッとスタンガンを突き出すと、スイッチを入れる。バチバチと高圧の電流が流れ、男の体を電流が駆け巡る。大の男でも昏倒してしまうような一撃である。効果の程は知識として持ったいた少女はこれで男が大人しくなったと思った。あとはここから逃げ出し、警察と教師に任せればいい。そう思い動きの止まった男の横をすり抜けようとする。するとその手をおもむろに誰かが掴んでくる。
「うっ、うそ?」
「ぐひっ、痛いじゃないか、そんな危ないもの使って・・・」
 男は平然とした顔をして少女の手を強く握り締める。少女の方は信じられない表情を浮べる。このスタンガンの効果はすでに痴漢相手に実証済みで、気絶しないまでも相手を昏倒させるくらいはできるはずだった。しかし男は平然とした顔をしていて、それどころか電流を流された箇所を書いたりしている。何がどうなっているのかまるで分からず、困惑する少女の手を男は思い切り握ってくる。痛みが走り、思わずスタンガンを落としてしまう。唯一の武器を失った少女は慌てて男の股間を蹴り上げ、大声で悲鳴を上げようとする。そこでようやく自分を取り巻く変化に気がつく。
「な、なに、これ??」
 それは異様な光景であった。部室の中にいたはずなのに、周囲にはロッカーも部活の用具もない。広大な空間が広がり、足元は柔らかな感触を覚える。周囲の色は紫色で、とても尋常な光景とは思えなかった。それでも少女は必死に抵抗し、悲鳴を上げる。声の限り悲鳴を上げて助けを求める。
「いやぁぁっ!誰か、誰か助けて!」
 しかし少女の悲鳴は空しく紫色の空間に消えてゆく。そしてその声を聞いてくれるものは誰も居なかった。それを実感した少女はさらに怯えた表情を浮べる。そんな少女の恐怖を味わうように男は少女を抱きすくめると、その両手、両足を押さえたまま、その身を包み込む制服を引き裂く。
「えっ?えっ?どうやって?」
 どうやってか知らないが自分の両手足を押さえている以上、目の前の男に自分の服を切り裂き事は不可能なはずであった。しかし目の前の男はそれを実行した。不思議な顔をして理由を探す少女は男の両脇に視線を移す。そこからは何本もの手がまるでムカデの脚のように生えてきていた。その手には制服の切れ端が握られている。つまりその手が制服を引き裂いたのである。その事実を少女の頭が理解する。
「き、きゃあああああぁぁぁっっっ!」
 ようやく自分の目の前に広がる異様な光景を理解した少女は喉が枯れそうになるほどの悲鳴を上げる。現実には考えられないような光景、それが今少女の目の前に広がっていたのだ。少女は必死になって逃げようとするが、両手足を掴む男の手は強く、もがくのがやっとであった。そんな少女に男は残った手を伸ばしてくる。それをおぞましい物が迫るような目で見ていた少女は腰をくねらせて逃げようとする。
「いやっ!放して、誰か、助けて!」
 しかしその悲鳴を聞きとめるものは誰もいなかった。男の何本もの手が少女の肌を滑る。そのきめ細かさを確かめるように肌の上を滑る。その自分の体を撫で回す感触に少女は顔を顰める。しかし男は少女を離さない。それどころか男の手は少女の性器にまで伸びてくる。小振りな乳房に触れると、男の手は遠慮なくそこを揉みまわしてくる。その柔らかさを確かめるように何度も何度も揉みあげる。その度に少女の体がびくりと震え、快感という電流が体を駆け抜けてゆく。
「は、はなして!!」
 恐ろしいものが自分の体を触っているという現実が少女の体を敏感にさせ、その感度を高めていた。だから男の指が一本動くだけでも過剰な反応を示すことになる。そんな少女の胸を男は何度も揉みあげる。そして乳首を指で押しつぶし、摘みあげ、擦りあげる。乳首を刺激され、体を快感が駆け抜けて行く。口からは甘い、熱い吐息が漏れ、少女の体はじっとりと汗を帯びてくる。その少女をさらに貶めるように男の指先が少女の股間に伸びてくる。それを察した少女は脚を閉じて逃げようとするが、男はそれを逃がさない。大きく脚を開かせると、唯一残った下着の上から少女の股間を撫で上げる。そこはすでにじっとりと潤いを帯び始め、触っただけでその濡れ具合が確認できた。
「うくっ、あくっ!あああっっ!」
 味わったことのないような快感が体を駆けめぐり、少女はいつしか甘い喘ぎ声をあげ始める。その声に呼応するかのように少女の股間の潤いは増し、下着が透けるほどの濡れ具合を見せはじめる。そこまで濡れたところで男は少女の下着を剥ぎ取る。そして少女の体を大きく担ぎ上げると、とろとろと蜜があふれ出す股間に顔を埋める。べろりと男が股間をなめ上げると、少女か大きく体を仰け反らせて喘ぎ声をあげる。男は蜜を啜り上げながら舌先を少女の膣口から捻じ込み、奥へ、奥へと押し込んで行く。人間では考えられないほどの長さを誇る男の舌先は、少女の膣壁を舐め上げながら奥へと入り込んでゆく。
「ふああああっっ!な、なに、こいつの舌!」
 男の信じられない舌の動きに少女は悲鳴を上げる。少女自身、男性経験がないわけではなかった。しかしこんな舌の動きをする男と肌を合わせた経験は一度もない。膣内に入り込んだ舌はもぞもぞと膣壁を撫で回し、こすりあげる。そして奥へ奥へともぐりこんでくる。子宮口まで到達した舌先はその入り口をべろべろと舐め始める。子宮口を舐められるという経験のない少女はその背筋を駆け抜ける感覚に悲鳴を上げる。しかしその悲鳴はおぞましいからではなかった。味わったことのない快感を体が受け付けなかったからである。そしてその快感は一瞬にして少女を絶頂の域に登りつめさせてゆく。
「いやっ!だめっ!イくっ!イくっ!イくぅぅぅっっっ!!」
 一際大きな悲鳴を上げると少女は全身を強張らせて絶頂を迎える。全身はヒクヒクと戦慄き、膣内も激しく収縮する。その高揚感を味わう間もなく、男の舌先は今度は少女の子宮の中を嘗め回しはじめる。子宮を嘗め回された少女はもう一度激しい絶頂を迎え、悲鳴を上げる。その悲鳴を無視して男は何度も何度も子宮を嘗め回し、少女の理性を打ち壊してゆく。
「もう・・・らめ・・・ゆる・・・ひて・・・」
 止め処なく襲ってくる絶頂に少女はいきも絶え絶えと言った様子で男に訴えかける。これ以上絶頂を迎えたら自分が壊れてしまう、そんな気がしてならなかったからだった。その訴えに答えるように男は舌を少女の膣から引き抜く。ようやく解放された少女はホッと息を抜く。しかしその表情はすぐに真っ青に染まる。いつの間にか男の下半身が露になっていて男の性器も露になっていたのである。男のペニスは細長いものだったが、その長さが問題であった。優に一メートルはあろう長さのそれはまるで生き物のように自分から頭を擡げ、少女の膣口に迫ってくる。先端に鈴口があるのでかろうじてそれが男性の性器だとわかるが、それでも恐怖の対象に変わりはなかった。
「いやっ!そんなの、そんなの入れないで・・・ひぐっっっ!」
 今度は少女の訴えを無視して男は少女の膣内にペニスを捻じ込んでゆく。すでに激しく収縮していた少女の膣はあっさりと男を受け止め、飲み込んでゆく。そしてズルズルともぐりこんだペニスは、子宮までもぐりこむと、そこの中で大暴れし始める。お腹の中を肉棒で覆い尽くされ、大暴れされる快感に、少女は白目を剥いて絶叫する。その絶叫を楽しむかのように男は肉棒を踊らせ、少女を攻め立てる。
「ひやっ!壊れる、壊れる・・・ごわれちゃうっっっ!!」
 少女の理性は男の攻めに耐え切れず、崩壊寸前であった。このまま嬲られ続ければ、自分は快楽の海に囚われ、二度と理性を取り戻すことができなくなる、そんな恐怖に少女は怯えていた。怯えながら込み上げてくる快感に抗えず、体はそれを求めてしまっていた。少女の体は流されるままに絶頂の渦に囚われる。
「らめ、もうがまんれきない・・・・イ、イくぅぅぅっっっ!!!」
 襲いかかってきた絶頂の渦に飲み込まれた少女は絶叫とともに激しく全身を硬直させる。これまでに味わったことのない快感に少女は半ば呆然としながらその余韻に浸っていた。しかし、少女の膣を貫いた男の肉棒は留まるところを知らない。絶頂を迎え、絶え間なく弛緩する膣内をさらにかき回し始める。
「ひはぁぁぁっっ!らめ!らめぇぇっっ!こへいひょうは・・・・」
敏感になった体をさらに弄られる快感に少女は涙を流しながら嗚咽を漏らす。先ほどまでの表情とは別人に思えるほど快感に浸りきった顔を涙と涎に濡らしながら、少女は激しく被りを振る。しかしそれは口先だけの話しで、体は男の肉棒の動きにあわせるようにくねらせ、快感を貪っていた。いつ果てるともいえない狂った宴は、まだ始まったばかりであった。


『りのん、あのエリザベスとか言う娘のことだが・・・』
「エリザベスちゃんがどうかしたの?」
 学校が終わり、帰宅しようと校舎を出たりのんにセツナが語り掛けてくる。学校にいる間は遠慮してか話し掛けてくることがなかっただけに、彼女が常に自分のそばにいることを実感する。その上で彼女が気にしているエリザベスのことを思い返す。が、セツナが何を言おうとしているのか、まるで心当たりがない。
「少し変わった子だけど、いい子だと思うよ?まあやちゃんとも仲良しになっていたし」
『あれを仲良しというなら、そなたの眼は異常だぞ?』
 首を傾げるりのんにセツナはため息を漏らす。誰がどうみても水と油、決して交わりあわない中にしか見えなかった。しかしそれが気に掛かったわけではなかった。セツナが気に掛けていたのは、エリザベスから感じられた感じたことのあるけはいであった。かすかにしか感じられなかったのでその正体はいまだにわからない。分からないが得体の知れない敵のように思えてならなかった。それが心配の種なのだった。
『先日のあの魔法少女、あれがエリザベスかも知れぬぞ?』
「そうなの?それなら心強いね!」
 セツナは気に掛けていたもう一人の魔法少女のことを思い出し、それを指摘すると、りのんは嬉しそうに笑ってくる。あまりに能天気な少女にセツナはもう一度ため息を漏らす。あの魔法少女は確実に当ての息の根を止め、その上で結晶を回収しようとしていた。相手がどうなろうと気にするような相手にはどう考えても見えなかった。そんな相手とりのんが仲良くなれるとは思えない。そしてもうひとつは・・・
(あやつの武器は射撃、ということはエリザベートの可能性が高い)
 セツナはエリザベスから感じられたけはいの正体が仲間であるエリザベートではないかと推測していた。もし彼女であるなら、自分に張り合って魔物狩りをしてくる可能性は否めない。となればこの能天気な少女をたきつけてがんばらせなければという競争心が芽生えてくる。
(しかし、いつの間にあいつがこの世界に来たのだ?)
 エリザベートがこの世界に来たのが自分より後なのは間違いない。どのようにして、どうして追ってきたのか、それがどうしても判断が付かない。鼻歌を謳いながら家路につくりのんのなかでセツナはしばらく考え込んでしまう。ちょうどそのときだった、魔物のけはいを感じ取ったのは。同じくけはいを感じ取ったりのんも足を止める。背中に続々とするものを感じ、りのんは辺りの様子をきょろきょろと伺う。
「セ、セツナさん・・・このけはいって・・・」
『うむ。間違いなく例の魔物だ』
「うえぇぇっ、やっぱり・・・」
 セツナの回答にりのんはあからさまに嫌そうな顔をする。しかしそれでお役ごめんになるはずもなく、しぶしぶコンパクトを取り出す。そしてそれをかざすと、大きく息を吸い込む。
「ソウル・コネクト!マジカル・トランスフォーム!」
 手にした魔導器が発動し、りのんの姿を変えてゆく。ただ前回と大きく異なっているところがあった。それが腰に差した一振りの太刀であった。鞘には竜が描かれた一品であった。
「これって・・・」
『そなたの母上からあずかった守り刀が変化したものだ。なかなかの一品だぞ?』
「へぇ、そんなにいいモノなんだ」
 腰に差した刀に気がついたりのんはそれを抜き放ち、白銀に輝く刃をじっと見つめる。その美しさに見惚れているとセツナがそれがなんなのか教えてくれる。自分にそんなものがあった事ははじめて聞いたが、それから出来上がった太刀がこれほど美しいものなのかと思わず感心してしまう。
『うむ。魔力を通わせて切りつければ、魔物など易々と切り裂けよう』
「うわぁ、心強いなぁ・・・ってそれじゃ、殺しちゃうんじゃ?」
『そこなお前の腕次第、だな』
 とんでもないことをさらりと言ってのけるセツナに、りのんは驚きを隠し切れない。しかもすべての責任は自分にあるとまで言われては思わず逃げ出したくなってしまう。しかし、逃げることは叶わず、いやいやながらけはいのしたほうに向かう。そしてそのけはいのする高校の敷地に足を踏み入れる。りのんはビクビクしながら辺りの様子を伺うが、それらしい姿は見当たらない。しかし魔物の気配は確実にこの高校から感じられた。
「セツナさん、どう?」
『・・・間違いなくここにいる。しかし、けはいが拡散しているのはどういうことだ?』
「もしかして罠だったとか?」
『そこまでの知識があるとは思えないのだが・・・」
 自分に自信が持てないりのんはセツナにけはいがどこか特定してもらおうとする。そのりのんの問いにセツナは渋い声で答える。セツナをしてもその気配を特定することは出来なかった。しかも小さな魔物のけはいが無数に感じられ、それがセツナをさらに困惑させていた。それを聞いたりのんはけはいを察したのは罠で、自分が魔物の群れに飛び込んでしまったのではないかと心配をする。しかしそれをセツナはすぐに否定する。この世界に来た魔物の内知性を持っているのは例のモグラだけであるはずであった。それ以外の魔物はまともな知性を持ち合わせておらず、あるのは性欲ぐらいのもののはずであった。だから罠を張ってりのんを捕まえるなどというわずらわしいことをするはずがない、というのがセツナの考えであった。
「じゃあ、このけはいって・・・」
『・・・答えの方が顔をのぞかせてくれたぞ?』
「え?あああっっ!」
 セツナの言葉にりのんが視線を前に戻すと、そこには無数の男たちが立ちふさがっていた。しかしその脇からは無数の腕は生え、その姿はとても人間とは思えない姿であった。その姿を目の当たりにしたりのんは思わず驚きの悲鳴を上げる。するとその悲鳴に吸い寄せられるかのように男たちはぞろぞろとりのんのほうに向かってくる。
「セ、セツナさん。これってどうなっているの?」
『どうやらお前を牝と認めたようだな。気を抜くなよ?』
「牝って、捕まったらどうなるの?」
『むろん、奥にいる娘の二の舞だな』
 ぞろぞろと近付いてくる男たちに恐れ戦くりのんにセツナは奥のほうを見るように促してくる。その言葉に導かれるようにりのんは視線をそちらに移した瞬間、その光景に絶句してしまう。そこでは数人の女性が男たちに捕まり、嬲られていた。肌着は一枚も纏っておらず、生まれたままの姿を曝しながら男たちのその身を嬲られ続けている。もはや悲鳴を上げる声も、抵抗する力も失せ果て、ただ男たちの行為に奇声を発するだけだった。そんな姿にりのんは思わず身震いしてしまう。もし自分があの男たちに近まったらあれは自分の未来の姿ということになる。そうならないためにも目の前の男たちをどうにかしなければならない、決心したりのんは腰の刀を抜き放つ。
「でもどうやって倒したらいいの、こんな人数・・・」
『相手のほとんどは複製に過ぎぬ。本体意外は思う存分切り刻め!』
「よ、よ〜〜し!」
 セツナに敵の本体を除いて人間ではないと教えを受けたりのんは大きく息を吸い込むと、襲い繰る男たちに飛び込んでゆく。そしてその中心で刀を振り回し、次々に男たちを切り倒して行く。ずぶりと肉を切り裂く感触が手に伝わってきて、それが最初は気持ち悪く感じられたが、徐々に感覚が麻痺したかのように相手を切る動作が心地よく感じられてくる。
「いやぁぁぁっっっ!」
(いまのは閃夢舞刀・・・いや、閃夢武鳳・桜・・・か)
 りのんが振う刀の着せにに合わせて切り刻まれた男がまるで桜の花吹雪のように霧散する姿にセツナはその技名を呟く。しかし、りのんがそれを無意識の内に振っている様子を見ると、幼い頃から叩き込まれた動作がそれを成し遂げているだけのようにも見えた。つまり、まだ技など知りもしないりのんが無意識の内に技を使っている、その現実がセツナを大いに驚かせた。同時にそれがとても心強く感じられた。
(このまま成長してゆけば・・・)
 将来性豊かな少女の才能にセツナは思わずにやりと笑ってしまう。その間にもりのんは次々に男たちを切り倒して行く。しかしいつまでたっても数が減らない男たちに徐々にりのんの意気が上がってくる。
「ああ、もう!いったい何人いるのよ、こいつら!」
 女たちの生気を奪ってその数を増殖させる男たちにりのんは思わず怒鳴り声をあげてしまう。しかしいくら怒鳴ってもその数は減らない。ならば少しでも数を一度に倒そうと、りのんは懐から符を取り出す。
「万帝符殺・雷!」
 りのんの声とともに手にした呪符から雷が迸る。迸る雷撃はグラウンドを大きく抉りながら次々に男たちをなぎ倒して行く。ある者は雷に焼かれ、ある者は巻き上げられた土砂に押しつぶされる。その攻撃力は魔法に勝るとも劣らない力であった。それをりのんの中から目の当たりにしたセツナは感心した声をあげる。
『これが万帝符殺・・・素晴らしい力だな・・・』
 自分にはない強力な力にセツナは感嘆するしかなかった。しかしそれでも男たちの数はなかなか減らない。刀で切りつけ、呪符でなぎ倒すも、少女たちから産み落とされる虫たちの数が多すぎて数が減らない。その数の多さにりのんもセツナも焦りを覚え始めていた。ちょうどそのときだった。
「OH−−ここです、ここで〜〜す!」
 能天気な声がグラウンドに響き渡る。その聞き覚えのある能天気な声にりのんは恐る恐るそちらの方を振り返る。果たしえつぉ個にはエリザベスが嬉しそうな顔でグラウンドを見渡していた。その現状を理解できていないようなエリザベスにりのんは驚き、セツナはげんなりとしてしまう。
『何を考えているのだ、あいつは・・・』
「エリザベスちゃん、危ないよ!逃げて・・・」
 危険を感じたりのんが声をかけるよりも早く男たちがエリザベスに襲い掛かる。この新たな獲物を刈り取るために群れを成して襲い掛かる。そうはさせまいとりのんが後を追うが、距離的に間に合いそうにない。りのんは声の限りエリザベスに逃げるように叫ぶが、エリザベスは笑うだけで逃げようとはしなかった。
「こいつらはミィーがぶっ倒しま〜〜す!ソウル・コネクト!マジカル・トランスフォーム!」
 エリザベスの元に急ぐりのんの目の前で彼女はそう宣言すると、懐からコンパクトを取り出す。それはりのんが変身するときに使うコンパクトと同じ形をしていた。そして掛け声とともにエリザベスは変身を開始する。それを見た瞬間、セツナは相手の正体を確信する。
『やはりあいつはエリザベート、このあいだの魔法少女か!』
「えっ?あの子がエリザベスちゃんだったの?」
 ようやく相手の正体に気がついたりのんが驚きの声をあげる中、エリザベスが変身を完了する。身にまとう衣装梁のんのそれとほとんど変わりがない。しかし、縦ロールの金髪はなぜか短く切りそろえられ、ショートカットに変わっている。そして手には大振りのハンマーとつるはしが合体したような武器を手にしていた。どこをどうみてもあの日自分を助けてくれた少女とは似ても似つかない容姿であった。
「魔法重兵マジカルエリザベス、ここに惨状です!」
「いや字が違うから・・・」
 エリザベスの名乗りに突っ込みを入れながら、りのんは驚きを隠せなかった。それはセツナも同様であった。混乱する頭を必死に整理しようとする中、戦いは続く。場をさらに混乱させながら・・・


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