第1話 無限!夢幻!浪漫!宇宙が俺を呼んでいる!!!


 「うち・・・・」
 「歌うなぁッッッ!!!」
 船の舵を切りながら、気持ち良さそうに歌を口ずさみそうになった精子朗の頭に倫の肘がクリーンヒットする。その痛恨の一撃に精子朗は転げまわって悶絶する。相当痛いらしく声も出ない。放り出された舵は何事もなかったかのように勝手に動いている。元々自動操縦で航行する船であって、この舵自体雰囲気でつけただけの存在で操舵手がいなくても勝手に船は動いてくれる。だから何の問題もなかった。
 「倫・・・ナニを・・・」
 「何を、じゃないわよ!下手なことしてこれ以上厄介ごとを増やすな!!」
 「どういう意味かわからんが、すまん・・・」
 頭を押さえて抗議する精子朗だったが、倫のその鬼気迫る迫力にあっけなく頭を下げる。
 「で、何でまたそんな唄、歌おうとしていたのよ?」
 「ん?いやなに。この格好をしていたらこの唄だろう?」
 倫の問いかけに精子朗は真顔で答える。精子朗の格好は大振りの服に髑髏のついた帽子、片目にはアイパッチ、顔にか傷のシールまで張ってある。端から見れば海賊に見えなくもない。そして乗っている船もまた艦首に髑髏のマークが刻まれ、漆黒のボディをさらに悪党らしく醸し出している。
 「言いたいことは分かったわ・・・でもあたし達は海賊じゃないのよ!!」
 「まあ、カモフラージュにはもってこいだと思いますけど?」
 「こんなもの逆に目立って仕方がないわよ!!」
 倫の指摘どおり、端から見ればただの海賊である。そんなものが近寄ってきたら攻撃されるか逃げられるかのどちらかしかないだろう。しかし、精子朗もアルもどこ吹く風といった感じで倫の話など聞いてはいない。そんな二人の態度に倫はこぶしを握り締め、ワナワナと震えるだけだった。
 「しかし、倫さま。姫様を無事皇帝陛下の身元までお連れしなければならないのですし」
 「それはわかってるわよ、エルさん。でもね、これじゃ目立ってしょうがないでしょう?」
 「ですが、こんな船にシルヴァ姫がお乗りになっているとは誰も思わないと思いますが?」
 「う・・・たしかに・・・」
 エルの一言に倫は押し黙ってしまう。いまやザムザイール皇星連邦は混乱の極みに達しているという。各地で反乱が起こり、治安が乱れているという話であった。そんななか、ザムザイール皇星連邦の第一皇女であるシルヴェリア=デューム=エヴォールを無事に皇帝の元にまで送り届けなければならない。確かに海賊というカモフラージュは目立ってはいるが、そんな船に王女が乗っているなど誰も思わないだろう。別の意味でいいカモフラージュになる。
 「わかった、わかった!今回はあんた達のお遊びに付き合ってあげるわよ!」
 「そうとご理解いただけたならこちらを!!」
 「・・・・・・・・・何、これ?」
 諦め顔で頷く倫の言葉にアルは嬉しそうに隠し持っていた衣装を倫の眼の前に取り出す。それを見た倫は半眼で冷え切った言葉を紡ぎだす。目の前にある衣装、それは黒を基調とし、胸元に髑髏をあしらった女海賊の衣装であった。因みにアルもエルも似たような海賊装束に身を包んでいる。但しその衣装は二人のものとは少し違うところがあった。胸元が大きく開き、左右のスリットは腰の辺りまである深いものであった。少し動けば胸元は丸見え、お尻も丸出しになりそうな服であった。そんな衣装だからこそ倫の声は冷え切っていた。
 「何って、倫さんの服ですよ?」
 「嫌味、これは?こんなのスタイルの言い女の人が着るような服じゃない!!!」
 アルの答えに倫はその衣装を噛み切らんばかりに激怒する。セクシー度満点の衣装ではあったが、それは着る者のスタイルが抜群であることが条件である。言っては悪いが正直、倫のスタイルは寸胴に近い。出るべきところが引っ込んでしまっている体型では正直こんなセクシーな衣装を着ても色気の欠片もない。逆に倫には嫌味にしか映らない。
 「ええ?ダメですか?仕方がないですね・・・」
 倫の怒りを一通り楽しんだアルはニヤニヤ笑ってそれを引っ込めると、代わりに普通の海賊服を倫に手渡す。最初から用意してあったところを見ると、倫をからかって楽しんでいたとしか思えない。そんなアルの性格の悪さに倫はこぶしを握り締めて怒りを堪えるしかなかった。
 「まあまあ。でアル、シュテンカイザーたちの調整は?」
 「正直最悪ですね。まずコウテンフェニックスですが、もう使い物になりません」
 「ってことはシンテンカイザーにはなれないって事?」
 アルの言葉に精子朗は困った顔をして尋ねると、アルも困った顔をして頷く。さらにシュテンカイザーとソウテンカイザーの合体機構も損傷があるらしい。つまり切り札であるシンテンカイザーは使えないということである。その事実に精子朗はさすがにまずいといった顔をする。
 「その代わりといっては何ですが、新しいIEMが手に入りましたからこれで強化パーツを作りましょう!」
 「・・・・それって俺が創ってもいいの?」
 「貴方以外の誰が創るんですか????」
 精子朗の疑問にアルは冷たい声で答える。正直シュテンカイザーやソウテンカイザーの強化など創造主である精子朗以外の誰にもできないことである。そんなことは精子朗自信が一番よくわかっていた。わかっているのにわざと聞いてくるのだから性格が悪い。
 「まあ、出来上がったパーツを順次組み上げていきましょう」
 「んじゃ、急いだほうがいいかな?」
 「そうですね。今のままじゃこの船に対抗できる戦力はありませんから」
 精子朗とアルはそんな話をしながら艦橋から出てゆく。ここから先は精子朗とアルの専門分野で倫が口を挟めることではない。船の操舵関係のことはエルが一手に引き受けてくれているのではっきり言ってすることがない。暇をもてあました倫はこの船の最後の乗組員のところに遊びに行こうと艦橋をあとにする。そして向かった先は艦内で一番大きな部屋だった。部屋に入ると1人の少女が気だるそうにベッドの上に寝そべっているのが見える。
 「まったく・・・少しはしゃきっとしたら???」
 「むっ?倫か・・・仕方がなかろう?身重の体では出来ることなど数少ないのじゃ」
 倫の言葉に少女は自分の下腹部を優しく撫でながら頬を膨らませる。そんな少女の態度に倫も眉をひくつかせるが、あえて何もいわない。少女の名前はシルヴェリア=デューム=エヴォール。ザムザイール皇星連邦第一皇女である。その彼女を父親である皇帝の元にまで連れて行くのが今回の旅の目的であったが、当の本人はこうして一日中部屋でダラダラとしている。その理由はお腹に宿った新たな命にあった。もちろん父親は精子朗に他ならない。だからこそ倫の機嫌も悪いのである。とはいえ身重の彼女を怒らせるようなことだけはしなかった。
 「まあ、いいわ。で、調子はどうなの?」
 「今日はよいぞ。この子も日に日に大きくなってゆくようじゃ」
 シルヴァはそう言って自慢げに自分のお腹をさすって見せる。お互いに同じ人を好きになったもの同士であったが、片やその人の子供を身篭り、片や未だに床をともにしたこともない差は大きかった。倫は少し寂しそうな顔をしたが、自分の方から精子朗にアピールをしていないのだからいた仕方がない。そのことはシルヴァも分かっているのでそれ以上何も言わない。からかう気にもなれなかった。
 「して、この船は今どの辺りを飛んでおるのじゃ?」
 「わからないわよ。ただアルさんの話じゃ、まだまだ掛かるみたい」
 「そうか、急いで父上たちにお目に掛かりたいものよのぉ・・・」
 「まあ、まず最初の目的地はシスルとか言っていたけど・・・」
 「シスル?あの砂の星シスルのことか?」
 星の名前を言われても倫にはよくわからない。シルヴァのほうもうろ覚えで砂の星ということしか思い出せない。ただそこによるのは補給のためだということはわかっているし、その星が今も皇星連邦支配下にあることは間違いなかった。とはいえ、不安定な情勢下ではシルヴァの正体を気取られることはないに越したことはない。二人は砂の星シスルを平穏無事に通り過ぎることを願うのだった。




 砂の星、シスル。ザムザイール皇星連邦の端にあり、ラモール教団神聖国家郡に程近いこの地であったが、ラモール教団側から見てあまり魅力的でないこの星への侵攻は行われていなかった。その理由は支配に力を注いでも見返りが少ないことにあった。戦略的にも重要ではなく、特産物もない。そんな支配する側から見たら何の魅力もない星を支配するために戦力、財力を注ぎ込むよりもその分を他の見返りの大きな地に注いだ方が効率がよかったからである。シスルは砂の星の名前どおり星の殆どが砂に覆われ、絶えず砂嵐が吹き乱れている。そのため人々は地下にオアシスを作り、そこでの生活を余儀なくされていた。
 「え〜〜、もう少し安くなりませんか???」
 シスル第二のオアシスロームに立ち寄った精子朗たちは船にエルを残し、精子朗、シルヴァ、倫、アルの三人は街に買出しに出てきていた。当初はシルヴァも残すつもりでいたが、『つまらない、飽きた』と連呼し暴れる彼女を押さえきれず、仕方なくつれてくることになってしまっていた。もちろん正体がばれないように変装をしてはいる。
 「まかりまへんなぁ、これ以上は」
 「そこをなんとか!」
 「お客さんも商売上手やな。ほな、これで!」
 買い物を一手に引き受けているアルが主人と値段の駆け引きをしている間、精子朗もシルヴァも倫も暇そうに街並みを眺めていた。地下にあるため空はドームに覆われている。人工の太陽が打ち上げられオアシス自体は明るいが、どこか温かみが感じられなかった。そんなオアシスの中を見渡しながら精子朗は大きな溜息を漏らす。
 「どうしたのじゃ、セイシロー?」
 「いや、遠くここまで来たけど、これといった騒動がなくちゃつまらないよ・・・」
 「何言っているのよ!平穏無事にシルヴァを送り届ける。それが一番じゃない!」
 「そうは言ってもなぁ・・・」
 精子朗はそう言ってもう一度溜息を漏らす。ついこの間までの戦いの興奮が忘れられないでいた。もう一度あの興奮を味わいたい、だからこんな平穏無事なヒビは暇でしかなかった。そんな精子朗の耳に何かざわついた声が届く。何か言い争いをする声、それも片方は女の声であった。目ざとくそれを聞き分けた精子朗は弾かれたように駆け出す。
 「どうしたのじゃ、セイシローは?」
 「何か見つけたんじゃない・・・ってまさかあの馬鹿、争いごとに巻き込まれに行ったんじゃ??」
 全力でかけてゆく精子朗の後ろ姿を見送りながらシルヴァと倫は首を傾げながらのん気に話していた。だが、精子朗が何しに駆け出したかを察し、慌てて彼を追いかけてゆく。せっかく平穏無事に進んでいるのに騒動に巻き込まれる必然性はまるでないからだ。しかし、時すでに遅く、精子朗は数人の男達と喧嘩の真っ只中であった。
 「まったく、あの馬鹿は・・・」
 「んっ?ちょっと待て、リン。あの者たちはこの星の駐留軍の兵士たちじゃぞ?」
 取っ組み合いのけんかを繰り広げる精子朗の姿に倫は思わず溜息を漏らす。せっかくのこちらの苦労が台無しでしかない。そんな取っ組み合いのけんかを繰り広げる精子朗の姿を頼もしそうに見つめていたシルヴァだったが、喧嘩相手の制服に首を傾げる。非常に見覚えのあるものであった。それもそのはずで自分の配下、ザムザイール皇星連邦駐留軍の制服であった。つまり階級は低いが軍人ということになる。
 「貴様、俺たちに逆らうとどうなるか・・・」
 「しらねえっていっているだろう?俺は旅人だからな!!」
 拳銃や警棒を抜いて応戦する兵士が威圧的な態度で望んでくるが、精子朗はにやりと笑って逆襲に転じている。襲ってきた相手の背中を楯にして拳銃を封じ、警棒は蹴り落として対抗する。素手の戦いになれば精子朗に分があるらしく、あっという間に組み付き、膝や肘を駆使して相手の戦闘能力を奪い去ってゆく。
 「いいところに肘や膝を入れるのう・・・」
 「まあ、相手の急所をつけっていうのが精子朗のお祖父さんの教えだったから・・・」
 「ほう。なかなかの御仁だったようだな?」
 精子朗の戦いぶりをシルヴァは感心して見入っていた。その戦い方を倫は精子朗の祖父に教わったものであることをシルヴァに教える。精子朗のその見事な戦い方を教えた精子朗の祖父の話にシルヴァは満足そうに頷く。何がそんなに満足なのかはわからないが、とりあえずそのことは置いておくことにした。今は精子朗のことの方が重要である。
 「まあ、あの程度の相手なら精子朗一人でも問題ないだろうけど・・・」
 「問題はあっちじゃな・・・」
 衛兵と格闘を続ける精子朗を無視してシルヴァと倫の視線はその暴れる精子朗の後ろに移ってゆく。そこには2人の女がじっと精子朗の戦いを見つめていた。1人は5歳くらいの女の子、怯えているらしくもう一人の女性にしがみ付いてはなれようとしていない。もう一人は20歳くらいの女性。おかっぱ頭で目線はかなりきつい。ただその身のこなしを見る限り、彼女が只者でないことは間違いなかった。
 「どこのどなたかしらね・・・」
 「少なくともどこかの金持ちの道楽旅行ではないようじゃ」
 隙のない女の身のこなしにシルヴァも倫も警戒をしながら精子朗の方に歩み寄ってゆく。当の精子朗の喧嘩はすでに大勢が決まっていた。半分以上が気絶させられ、残りの半分も精子朗に見事に打ちのめされている。もはや混乱も騒動も避けられない状況であった。
 「シルヴァ、あとは任せた・・・」
 「まったくこんなに早く身分を明かす羽目になるとはのぉ・・・」
 ガッツポーズを決めて勝ち誇る精子朗のバかさ加減に大きな溜息を漏らしながらシルヴァも倫も困り果てた顔をする。出来る限り騒動は起こさず、隠密裏に皇帝の下を目指すという彼女たちのプランは出だしから躓いた格好で似合ったからだ。とはいえ、精子朗のやったことなのでそれ以上どうこう言うこともできない。残された手段はこの場を納めて早々にこの星から逃げ出すことだけだった。しかしそれも叶いそうにないことをシルヴァと倫は分かっていた。十数人の兵がくるまでこちらに向かってきているのが見えたからである。
 「貴様らか!この星の治安を乱すものは!!!」
 「治安を乱すだ?昼間から酒によって女に絡んでくるような連中の言う台詞か?」
 身なりの一番正しい男が銃を構えて精子朗を威嚇してくる。しかし、精子朗は平然とした顔でそう言い返す。事実ここでの騒動の発端は憲兵が街の人たちに乱暴を働いたり、女に絡んだりしていたことにあった。そしてそのことはこの男も理解しているらしく、精子朗の言葉に言い返すことが出来ない。
 「貴様、われらを愚弄する気か!!!」
 「愚弄されるようなことをしている方が悪いだろうが!!」
 怒りに震える男をさらに挑発するように精子朗は舌を出す。その精子朗の態度に完全に切れた男は部下に武器を構えさせて精子朗を取り囲ませる。今にも撃ち殺さんばかりの怒り振りであったが、その間にシルヴァが割り込んでくる。シルヴァの顔を見た男の顔がだらしなく歪む。
 「何だ、この男の連れか?」
 「そうじゃが、これ以上の無駄な争いは止めぬか?」
 「こちらの誇りは大いに傷付けられた。ただで止めるわけにはいかぬ!ただし・・・」
 「ただし、なんじゃ?」
 「お前が俺たちに付き合ってくれるならば考えてやってもいいぞ?」
 にやにや笑って男はシルヴァの肩に手を掛けてこようとする。その瞬間、精子朗の右足が男の顔面を的確に捉える。鈍い音とともに男は無様に吹き飛ばされて壁に激突して動かなくなる。突然のことに唖然としていた部下達だったが、慌てて武器を構えなおして精子朗たちを威嚇し始める。
 「すまぬな、セイシロー。ここまでの馬鹿が部隊長であったとは・・・」
 「どうでもいいけど、そろそろこいつらどうにかしてくれないか?」
 「そうじゃな・・・」
 武器でいつまでも威嚇されるのは性に合わないと精子朗がシルヴァに助けを求めると、シルヴァもこれ以上の不毛な対話は無駄と思い、腰に刺してあった短剣を抜き取る。一瞬兵士達はぎょっとした顔をしたが、シルヴァはそれを無視して柄の部分の細工を起動させる。すると柄の部分が開き、赤い文様が宙に映し出される。それを見た兵たちも、町の住民達も皆が顔を青くする。
 「紅蓮の剣十字・・・ザムザイール皇族の家紋・・・」
 「じゃあ、この人、いやこのお方はシルヴェリア=デューム=エヴォール皇女殿下・・・」
 シルヴァの正体が分かった男たちは慌てて武器を降ろしてその場に膝をついて畏まる。精子朗たちを取り巻いていた街の人間達も慌ててその場に畏まっている。精子朗が助けた女性は片膝をつき、敬意を表していた。その姿が他の者達とは違っていて、倫には印象的に映った。
 「そなたら、この状況はいかなるわけじゃ?街のものに迷惑をかけるなど連邦軍人の風上にも置けぬ振舞いぞ!!」
 「も、申し訳ありませぬ!!!」
 「わかったらその不届き者どもを牢にぶち込んで置け!裁きはあとで言い渡す!」
 シルヴァの裁定に衛兵たちは頭も上げられないまま、隊長と同僚を車に乗せると飛ぶようにその場からhなれてゆく。その後ろ姿を見ながらシルヴァは満足そうに頷く。そして残された懸案、精子朗が助けた女達に事情を聞こうと二人のほうに振り返る。その目に2人とともに顔をターバンで覆い隠した男の姿が映る。気配を殺し切っていて二人はまるで気付いていない。いやな予感を覚えたシルヴァは大きな声をあげる。
 「危ない!!!!」
 シルヴァの声にようやく後ろの男の存在に気づいた女が少女を抱きかかえて横に飛ぶ。少女を抱きかかえようとした男の手は空しく宙を掻き、代わりにすぐに動いた精子朗の蹴りがその顔に見舞われる。その蹴り足を易々と受け止めた男だったが、予想以上の精子朗の蹴りの威力に圧されて数メートル後退する。
 「!!貴様は懲罰隊の・・・」
 ターバンが剥れその下から現れた男の顔を見た女が驚きの声を上げる。シルヴァたちもまた驚きを隠せなかった。男の顔は死人を模った仮面に隠され、背筋が寒くなるような無言の圧力を放っていた。男はしたうちをして奇襲の失敗を悔やんだ様子だったが、すぐに気を取り直して怯える少女のほうを見つめる。
 「ラピス様、我等とお戻りいただきますぞ!!」
 仮面の男はそれだけいうと、手に隠し持っていたコントローラーのスイッチを入れる。それに導かれるように地響きをあげて巨大な何かが男のすぐ側に降り立つ。それは真っ赤なロボットであった。手には槍と巨大な楯を持っている。男はそれに乗り込むと、無造作にラピスを摘みあげ連れ去ろうとする。それを阻止したのはシルヴァだった。
 「そなた、巫女殿に無礼であろう!!」
 「第一皇女シルヴェリアか・・・ちょうどいい、お前にも一緒に来てもらうぞ!」
 男はシルヴァに臆することなくそのまま二人を鷲掴みにしようとする。それを精子朗が間一髪のところで2人を抱きかかえて難を逃れる。2人を両脇に抱きかかえたまま精子朗はそのロボットを睨みつける。眉はこれでもかといわんばかりに吊りあがり、目は相手を射ぬかんばかりに鋭く光っている。
 「てめぇ・・・シルヴァに手を出しやがったな・・・」
 「何者か知らぬが、余計なことをすれば怪我をするぞ?」
 「だらが怪我をするって?このクソ野郎!!!」
 男の恫喝に精子朗は逆に怒りを露にする。そして二人を地面に降ろすと、さらに挑発するように中指を立てて舌を出す。自分が馬鹿にされていると察したのか、男は拳を握り締めると、一切の躊躇なくそれを振り下ろす。鈍い音ともに精子朗の姿は土煙の向こう側に消えてしまう。濛々と立ち込める土煙に視界を奪われたシルヴァはじっとそちらを見つめる。
 「神に楯突く愚か者が・・・これぞ、天罰・・・」
 「誰が神だって、三下?」
 精子朗を完全に押しつぶしたと確信していた男は悠然と天罰と告げるが、それに答えたのは紛れもなく精子朗の声であった。誰もが驚く中土煙が晴れてゆき、精子朗の元気な姿が皆の目に映る。そしてその体目掛けて振り下ろされた拳は同じく巨大な手ががっしりと掴んで押し留めていた。
 『無事ですか、セイシローさん?』
 「グットタイミングだったぜ、アルさん!!!」
 通信機を通して聞こえてくるのん気な声に精子朗はにやりと笑って答えると、男のロボットの腕を掴んでいる腕に触る。それに答えるように地鳴りをあげてその腕がせり上がってくる。それは男と同じ真紅のロボット、いや、より赤く燃え上がるような美しさを持ったロボットであった。
 「ロボット、だと??」
 「これが生まれ変わった新決闘機”シュテンカイザー”だ!!!」
 自分の攻撃を遮った存在に男は驚きを隠せなかった。そんな男に見せつけるように、その存在を教えるように精子朗は自分の愛機を紹介する。”シュテンカイザー”、精子朗が生み出した最強の決闘機。真紅の炎をまとう紅蓮の鬼神。しかしその姿はこれまでのものとまるで変わってはいなかった。
 「こりゃ、セイシロー、!それのどこが生まれ変わったというのじゃ!!」
 「見ていな、シルヴァ!これからが本当の生まれ変わりだ!」
 精子朗はシルヴァの抗議を悠然と受け止めると、肩口に手をやる。そこには小さなシュテンカイザーがちょこんと座っていた。小さなシュテンカイザーはシュテンカイザーの掌の上に乗ると、その身を炎に包ませる。そしていくつもの炎に分散すると、シュテンカイザーの体にぶつかってゆく。燃え盛る炎を吸収し、シュテンカイザーの体が徐々に変化して行く。やがて現れたのはより真紅に輝く鬼神であった。
 「あれが新しい”シュテンカイザー”・・・・」
 姿を現した紅蓮の鬼神に倫はポツリと呟く。その姿はこれまでよりも一回り大きくなり、体つきも鋭角になっている。これまではどこからともなく飛んできた斬漢刀も今回は腰に納められている。特に変わっているのは肩で、右肩が一回り大きくなっていて大きな楯が装着されている。逆に左肩はやや細長く、鋭角な飾りがつけられていた。全体的に力強さを増したその姿に倫は胸を高鳴らせちた。これまでも圧倒的な力を示してきた”シュテンカイザー”がどのように代わったのかが非常に気になった。そんな倫の期待にこたえるように精子朗は”シュテンカイザー”に乗り込んでゆく。精子朗が乗り込むと、紅蓮の鬼神の目に光が灯り、その力強さが増してゆく。
 「ぐぅっっ、何だ、このロボットは・・・我が懲罰機”ベルス”を上回る力を持つだと??」
 男は自分の腕を押さえる機体ごと精子朗を押しつぶそうとフルパワーで押し込んでいたが、その腕はピクリとも動かず、逆に易々と持ち上げられてしまっていることに激しく動揺していた。その男の動揺をさらに高めるように”シュテンカイザー”は”ベルス”の腕を締め上げる。ぎしぎしと鈍い音を立てて”ベルス”の腕が軋む。
 「クッ、この離せ!!!」
 「ああ、離してやるよ!こんなところで暴れたら街の人の迷惑になるからな!!」
 腕が軋む音に慌てる男に精子朗はにやりと笑うとそのまま無造作に”ベルス”を頭上に放り投げる。勢いよく放り上げられた”ベルス”は男が必死になって制動を掛けようとするがまるで止まることはなかった。勢いの止まらない”ベルス”はそのままドームから飛び出してゆく。”シュテンカイザー”もその後を追って外に飛び出してゆく。”シュテンカイザー”の開けた穴はすぐさま修復され、塞がってゆく。外に飛び出した2体の戦いはアルがモニターで中継してくれる。
 「ぐっ、おのれ・・・」
 「まさかとは思うけど、あのまま街の人を人質に出来なくなって悔しいのか?」
 「人聞きの悪いことをいうなぁ!!!」
 精子朗の挑発に男は激昂して襲い掛かってくる。手にした槍は”シュテンカイザー”と同じく炎に包まれ、楯も赤く染まっている。”ベルス”の機体も赤さを増し、炎を纏っているようにも見える。相手を焼き尽くし、貫く槍で男は”シュテンカイザー”を射抜く。いや、射抜こうとする。だがその槍は易々を受け止められてしまう。
 「馬鹿な・・・何故燃えない・・・」
 「燃える?この程度の炎でか?笑わせるな!”シュテンカイザー”を燃やしたかったら・・・」
 「ひっ・・・」
 「これ以上の炎を出せるようになりやがれっっっ!!!!」
 これまでありとあらゆる敵を焼き尽くし、貫いてきた槍が易々と受け止められた現実に男は激しく動揺していた。そんな男の一言を精子朗は鼻で笑いながら”シュテンカイザー”の力を増してゆく。精子朗の怒りに答えるように各関節部から噴出す炎の量はこれまでよりも増し、赤々と燃え盛る。噴出した炎は槍を溶かし、楯を溶かす。それでも止まらない勢いは”ベルス”の機体までも溶かしてゆく。
 「なんだ・・・何なのだ、この炎は???」
 「何だ、知らぬのか?これが”シュテンカイザー”、新たな皇帝機となる”シュテンカイザー”だ!」
 ”シュテンカイザー”の放つ圧倒的な力に男は愕然とする。懲罰機を駆り、圧倒的な力で相手に罰を下してきた自分が圧倒的な力の前になす術もない状況に言葉はなかった。そんな男に教え、諭すように精子朗は男の前に佇む機体のことを教えてやる。”皇帝機”の名前を聞いた男の表情はさらに青くなる。
 「これが、あの魔王を・・・」
 「そうだよ、残念だったな!ご褒美に新しい武器を使ってやる!”フレイム・デス・クロウ”!!」
 愕然とする男ににやりと笑うと精子朗は絶叫する。それに答えるように”シュテンカイザー”の指が開き、そこから炎が噴出す。噴出した炎は巨大な手となり、爪となる。”シュテンカイザー”はその炎を纏った拳を腰ダメに構えると、猛然と”ベルス”に襲いかかる。
 「超技”爆炎乱舞”!!!!」
 一気に距離を詰めた”シュテンカイザー”は炎を纏った拳を”ベルスの両脚に叩きつける。超高熱と超パワー、二つの力を思い切り叩きつけられた”ベルス”の両脚は音もなく拉げ、腿の辺りで切断させる。精子朗はそのまま地面に落ちそうになった体を蹴り上げると、今度は体に拳を、蹴りを、何発も何発も叩き込んでゆく。その嵐のような乱撃に”ベルス”のボディは大きく拉げ、原形をとどめてはいなかった。それでも”シュテンカイザー”の猛攻は止まらない。両手で腕を掴むと、今度は頭突きを食らわしてゆく。角がボディに突き刺さり、体を叩き潰してゆく。
 「これで、終わり・・・だ!!!」
 もう一撃頭突きを叩き込むと、その勢いを殺さないで”ベルス”の両腕を引き千切る。支えを失い、宙を力なく舞う”ベルス”のからだ目掛けて精子朗はとどめの手刀を繰り出す。炎の手刀は正確に”ベルス”のコックピットを刺し貫く。全てを燃やし尽くす炎をまともにその身に受けた男は悲鳴を上げる間もなく、消し炭と化し消えてゆく。しばしの沈黙の後、”ベルス”の中から爆炎が噴出し、大爆発を引き起こす。
 「あれが新たな皇帝機・・・」
 ラピスを抱きしめたままカーラはその圧倒的な力に息を呑む。そして彼ならばラピスを護ってくれるに違いないと確信する。震えるラピスを護れるものはもう彼以外に考えられなかったから・・・



 「さて、先ほど話を聞きそびれたが、何ゆえ巫女殿がこのような辺境の地におられる?」
 母艦へともどった精子朗たちは自分たちについてきた2人、ラピスとカーラを見つめながら詰問する。もっとも詰問しているのはシルヴァだけであった。アルとエルはこの場にはいないし、倫は事情が読めないらしく困惑顔で黙り込んでしまっていた。同じく事情のわからない精子朗はというと、ソファーに寝そべって眠り込んでしまっている。
 「どうした?何ゆえ黙っておる?」
 「そのようなことはございません、シルヴァ姫様。実はわれらは神殿から脱出してきたのでございます」
 「神殿から?巫女殿が???」
 カーラの言葉にシルヴァは胡散臭そうな顔で問い返すと、カーラは小さく頷く。その真剣な表情に嘘は読み取れない。とはいえ、巫女であるラピスがこのような場所にいる理由としてはよく分からないところが多すぎる。もっと詳しく説明をするように求めようとしたとき、横から倫が口を挟んでくる。
 「あの、ちょっといいかな、シルヴァ??」
 「何じゃ、リン??」
 「この子達って誰なの?巫女殿って何???」
 話が通じない倫は素直に自分が疑問に思っていたことをシルヴァに問いただす。なにを聞いているのだと言う顔をしたシルヴァだったが、すぐにその意味を理解し、倫に簡潔に話し始める。
 「まず、ラモール教団神聖国家郡の事は聞いておるな?」
 「たしか、ザムザイール皇星連邦と敵対している国だっけ?」
 「正確にはラモール教団の過激派が作った反ザムザイール皇星連邦組織のことじゃ。国ではない」
 「じゃあ、ラモール教団とはもともと仲が悪くなかったって事?」
 「ラモール教はザムザイール皇星連邦の国教じゃ。仲が悪いはずなかろう?」
 シルヴァによればラモールの過激派が跋扈し始めたのは教皇よりも皇帝の方が権力が強すぎたことだった。実際には皇帝は教皇には敬意を表していたし、関係は良好であった。しかし一部の妄信的信者からすれば教皇が跪くことはひいては主神ラモールが皇帝に跪いているように思えたのだろう。以後、反ザムザイール皇星連邦を名乗り、過激な行動を繰り返してきたのである。それはときにはまったく無関係な人々にまで危害を加える行為であった。
 「つまりラモール教団神聖国家郡ってそのもう信者たちが名乗っていただけって事?」
 「そやつらの勢力が強い地域であったが、これまでは実際の支配は皇国が行っておったのだがな」
 「皇帝機と将軍機がなくなり、ザムザイール皇星連邦内部でのごたごたに乗じて乗っ取っちゃったってこと?」
 倫の言葉にシルヴァは忌々しそうな表情を浮べて頷く。つまり今の混乱はザムザイール皇星連邦の支配に反旗を翻したものたちと、ラモール教団の過激派が手を組んだことで混乱に拍車が掛かっているのだ。大体の対立関係はわかったが肝心なことはまだまるでわかっていない。
 「で巫女殿って何?」
 「ラモール教団で教皇の側仕えで次期教皇になられるお方のことじゃ」
 「じゃあ、この小さな女の子が?」
 「次期ラモール教団教皇、ラピス=リズリスナ殿じゃ」 
 そう説明したシルヴァがカーラにしがみ付いて隠れている少女の方に視線を送る。がそこにはすでに少女の姿はなかった。カーラは落ち着いているので何かあったわけではないだろうが、どこへ行ったものかと辺りを見回す。倫も少女がいなくなったことに気付き一緒になって辺りを見回す。そしてその姿はすぐに見つかった。
 「ちょ・・・ええっ??」 
 「こりゃ!そなた、どこで寝ておる!!」
 ソファーの上でグースカと眠る精子朗の胸の上ですやすやと寝息を立てるラピスを見つけた二人は驚きの声を上げる。ラピスの姿はまるで無防備で気持ち良さそうに精子朗の胸の上で眠っている。そこは自分の特等席だと主張したかった2人だったが、小さな子供相手にムキになるわけにもいかず、やむなく引き下がるしかなかった。
 「で、何で巫女殿がここにおるのじゃ!!!??」
 「先ほども申しましたが、逃げてきたからです」
 「誰からじゃ!!??」
 「・・・・祭司長エクレア=ファンテスノーからです」
 「祭司長???」
 祭司長とはラモール教団のNo.2、教皇に何かあったときには教団を取り仕切ることができる実力者である。それから次期教皇候補である巫女が逃げてきたというのは不可思議な話である。考えられるのは教皇に何かが起こり、次期教皇候補者争いに何かがあったとしか思えない。
 「まさか巫女殿の暗殺を??」
 「いいえ。教皇様がお倒れになられたので巫女様を保護しようとなさったので逃げてきたのです」
 「・・・・・・意味がよくわかんないんだけど??」
 「あんな変態に保護されたら巫女様が穢れます!!」
 カーラの一言にシルヴァも倫も何も言い返すことが出来なかった。カーラの言葉の真意がよくわからない。やがてその意味がじわりじわりと理解できてくる。すると自然に二人の視線が後ろで寝息を立てている精子朗の方に向いてゆく。正直可愛い寝息を立てる少女がこの少年の側にいても穢れるような気がしてならない。
 「しかしエクレア祭司長といえば50歳を越えた方であったはずじゃが・・・」
 「50?とんでもない!あの方は500歳を越えた化け物です!!」
 「5、500???」
 子供の頃から知る祭司長の実年齢を聞かされたシルヴァは驚きを隠せなかった。まさかそんな年増だったとは思いもかけなかった。しかもエクレアは女である。そんな奴がラピスに興味を示していると思うと背筋が寒くなってくる。そんなシルヴァと倫にカーラはさらに驚きの事実を突きつけてくる。
 「エクレアがラピス様に興味を示しているのはそれだけが理由ではないのです」
 「他にも何か??」
 「シルヴァ様はラピス様の事はご存知でしょうか?」
 「うむ。現教皇のご息女であったな。幼き頃から不思議な力をお持ちとか・・・」
 「父親については?」
 「いや、知らぬ。そなたは存じておるのか?」
 「・・・父親のお名前はロドリオ=デューム=エヴォール様と申されます・・・」
 「何じゃと?????」
 シルヴァの驚き方は尋常ではなかった。それもそのはずである。ロドリオ=デューム=エヴォールという名前には非常に聞き覚えのあるものであった。聞き覚えがないはずがなかった。自分の父親の名前である。それでも聞き間違いであって欲しかった。しかしカーラの真面目な顔が嘘をいていないことは一目瞭然であった。
 「まこと・・・か??」
 「はい。まだお二方がお若き頃に出来たのが巫女様でございます」
 「ではラピス殿はわらわの姉上??」
 「いえ。実際にお生まれになられたのは5年前。ですからラピス様は5歳に間違いありません」
 カーラは淡々と説明をする。カーラによれば今から30年前、まだ皇女であった母と父が出会う前に契りを交わした仲だそうだ。その一回限りの契りで身篭ったのがラピスであったらしい。実際ラピスの父親については公表されていない。この話を聞く限り公表など出来るはずがなかった。
 「そうか、だからエクレアはラピス殿を・・・」
 「はい。ラピス様の持つ先読みの力、現皇帝陛下と教皇の血筋であること・・・」
 「知らなかったのぉ・・・エクレアが教団の過激派のリーダーだったとは・・・」
 カーラの言葉からエクレアの正体を読み取ったシルヴァは大きな溜息を漏らす。小さな頃から歳を取らない化け物とは思っていたが、その裏の顔が教団の過激派を牛耳るものだったことは驚きであった。同時にこれほどの地位の人間であればこそ過激派がこれまでおとなしかったとも考えられるし、教団の懲罰部隊を自由に出来る人間がいることも理解できた。ラピスという旗印が産まれたのである。彼らが暴挙に出ることは納得がいった。あの時懲罰機が自分とラピス2人に手を出そうとしたのは自分を亡き者にし、ラピスを皇帝と教皇に据えるためだったのだ。それで彼らの悲願であるラモール教団が皇国の支配が達成されるのだ。
 「で、ラピスちゃんをこれからどうするの??」
 これまで黙っていた倫が始めて口を挟んでくる。確かにここでこうやっているわけにはいかない。何かしら策を講じなければ後手後手に廻ってしまう。それは避けなければならない。そうなると出来ることは限られてくる。このままラピスを連れて父の元ヘ向かうか、エクレアの元に乗り込んでこれを討ち果たすか。そのどちらかしか考えられなかった。
 「カーラ、そなたはどうしたい?」
 「あれが生きている限りラピス様に平穏は訪れないでしょう。ならば・・・」
 「ふむ。そなたも同意見のようじゃな」
 「本気??敵の本拠地に乗り込むなんて??」
 「本気じゃ!なに、気をつけなければならぬのは懲罰機のみ。一般の過激派はラピスには手出しできぬは!」
 胸を張るラピスの言葉に倫はしばし考え込む。確かに一般人が”シュテンカイザー”に勝てるとは想像もできない。つまり”シュテンカイザー”がある限り普通の人が自分たちに手を出すことはできない。ここに乗り込んできても大人数で動くことは出来ないはずである。少人数ならばアルやエルたちでどうにかなるはずである。そうなれば怖いのは先ほど戦った懲罰機の仲間たちだけであった。
 「懲罰機は全部で6機。残りは5機でございます」
 「ふん。その程度、セイシローの敵ではないわ!」
 シルヴァはそう言って胸を張る。戦う本人ではないのにこの自信がどこから来るのかは分からないが、確かに”シュテンカイザー”をもってすれば造作もないことのように思える。事実、今回対戦した懲罰機はいとも簡単に倒すことが出来たのだから。となれば後はエクレア本人が最大の障害ということになる。
 「そこは大丈夫でございます。教皇様をお助けしさえ出来ればエクレアは・・・」
 「まあ、反逆者として始末できるか・・・」
 カーラの提案に倫は頷いて答える。事実反逆者であるが、今はそうとは認識されていない。それを公開するためにも教皇の元に向かわなければならない。そこには戦いの連続が待っているかもしれない。それを考えると倫は大きな溜息を漏らしたくなってしまう。そんな倫の苦悩も知らずに精子朗とラピスは気持ち良さそうな寝息を立てるのだった。




 「んんっ・・・セイシロー・・・」
 ベッドの上、全裸になったシルヴァの後ろに廻った精子朗はその大きな胸を包み込むように揉み回す。上に下に指を、掌を使ってその柔らかな脂肪の塊を弄ぶ。その度にシルヴァの口からは甘い声が漏れてくる。その声を楽しむように精子朗は指を動かしてシルヴァの胸全体を愛撫し続ける。
 「ああっ、セイシロー・・・そこは・・・」
 「ここ?もうコリコリとしこって来ているじゃないか?」
 甘い声を上げて悶えるシルヴァの言葉に答えるように精子朗は指先で固くしこり始めた乳首を弄ぶ。廻りの肉のやわらかさに比べてそこの硬さは際立っていた。そこを指先で転がし、押しつぶし、摘み下げる。その度にシルヴァの口からは甘いと息が漏れる。
 「こっちがこんなに硬いってことは・・・こっちはどうなっているかな?」
 「!!こりゃ、セイシロー!!?」
 乳首の硬さを確認し、弄んでいた精子朗は突然片手を下の方に伸ばしてくる。とっさのことに対応が遅れたシルヴァを他所に精子朗の手はシルヴァの下着の中に滑り込んでゆく。柔らかな恥毛に覆われたシルヴァの秘所に指先を伸ばしてゆく。指先がそこに触れるとそこはすでにじっとりと潤い始めていた。
 「やっぱりシルヴァって乳首が弱いんだな?」
 「それがわかっていてそこばかり攻めるのはどこの誰じゃ?」
 「俺だよ。でもこういうのがシルヴァは好きなんだろう?
 「ふあぁぁぁんんんっっ!!」
 精子朗の指が膣内に滑り込み、じっとりと潤った膣壁を指先でかき回して行く。同時に硬くしこった乳首をもう片手で摘みあげ、丹念に揉みあげてゆく。さらに舌先で首筋を舐めあげ、シルヴァの体を嬲り、その気分を盛り上げてゆく。じっとりと潤っていた泉の入り口は徐々にその水量を増してゆく。
 「んはぁぁっっ、セイシロー・・・」
 「ほら見て、シルヴァ。こんなにびしょびしょ・・・」
 「!!そのようなもの、わらわに見せるな!」
 精子朗の愛撫にうっとりとした表情を浮べて甘えていたシルヴァだったが、精子朗が差し出した指先を見た瞬間、思わず悲鳴を上げて、怒鳴り散らす。びっしょりと愛液に濡れた指先はねっとりと糸を引き、自分の股間がどれほど濡れているかがいやでもよく分かった。すでにシルヴァの準備が万端であると確認した精子朗はシルヴァの下着をゆっくりと剥ぎ取ると、自分の股間に手をやる。すでに大きく反り返ったそこはいつでもシルヴァの中に入る準備が整っていた。シルヴァの片足を抱えるような格好をすると、そのまま自分の腰をその間に滑り込ませてゆく。
 「セイシロー、ちょっとよいか?」
 「どうしたの、シルヴァ??」
 「こ、今宵はわらわがしてやりたいのじゃ・・・」
 ことに至ろうと精子朗を呼び止めると、シルヴァは恥ずかしそうにもじもじとしながらそう告げてくる。そして有無も言わさずに体の位置を入れ替えると、精子朗の股間からそびえる肉棒に手を添えてくる。細く白い指先がそこに触れた瞬間、精子朗は背筋に痺れを感じる。痛みではない。強烈な快感に体が反応したのである。
 「あんっ・・・んんんっ・・・」
 「ウッ、シルヴァ・・・・」
 指先で二度、三度扱いたシルヴァはおもむろに肉棒を口に含んでくる。シルヴァの口の中が暖かく肉棒を包み込む。口の中で舌を使いながら愛撫すると、肉棒はヒクヒクと戦慄き、さらに大きくなってくる。先端からは水が滴り、激しく脈動しているのが口の中に伝わってくる。
 「シルヴァ、それ以上やったら出る・・・」
 「んぐっ、んんんんっ!!」
 肉棒全体を包み込むような吸い上げに精子朗が悲鳴を上げると、シルヴァはしてやったりという表情で吸い上げをさらに強くしてくる。その袋の中から全てを吸い上げようとする吸い付きに精子朗は我慢できずにシルヴァの口の中に思い切り己の欲望を解放してしまう。
 「んぐっ、んぐっ・・・げほっげほっ!!」
 「だ、大丈夫か、シルヴァ??」
 「うむ。少々咽返っただけじゃ。しかし、久方ぶりなゆえか、相当でたのぉ・・・」
 むせ返るシルヴァを心配する精子朗にシルヴァは嬉しそうに微笑み返す。そして飲み干しきれず、あふれ出したザーメンを指でぬぐい取るとそれをおいしそうに舐め取ってゆく。その艶かしい姿を見ているだけで精子朗の股間はまた熱くなってくる。その情熱を抑え切れない精子朗はシルヴァを自分のそばに抱き寄せる。
 「何じゃ、セイシロー・・・もうこんなに元気に・・・」
 「うん。だから続きを、ネ?」
 「・・・仕方がないのぉ。但し生はダメじゃぞ?この子が心配じゃ」
 シルヴァに熱くたぎったものを押し付けてくる精子朗にシルヴァは顔を赤らめながら小さく頷く。しかしそのまま膣内で射精されたらお腹の中の赤ん坊がかわいそうだと、ゴムを取り出して精子朗に突きつける。生でしたかった精子朗は少し不満そうな顔をするが、着けなければさせてあげないというシルヴァの言葉にしぶしぶゴムを肉棒に装着させる。
 「それじゃ、いくよ!!」
 「うむ。あっ、ああああっっ・・・」
 シルヴァを自分の腰の上に抱きかかえると精子朗は一気にシルヴァを己の欲望で貫く。膣壁を押し広げて侵入してくる久方ぶりの感触にシルヴァは思わず歓喜の悲鳴を上げる。その悲鳴に一気に火がついた精子朗は激しく腰を突き上げ、シルヴァの体を揺り動かす。猛る肉棒シルヴァの膣内をかき回し、シルヴァの体にも火を灯す。
 「あああっっ、セイシロー、セイシロー!!」
 「うぐっ、シルヴァ、締め付けすぎ・・・」
 歓喜の悲鳴を上げるシルヴァの膣内はその悲鳴にあわせてキュッキュッと締まってくる。その締め付けに精子朗は苦しそうな顔をする。それでもそこから込み上げてくる快感を抑えることは出来ず、さらに動きを加速させ、シルヴァの体を貪ってゆく。シルヴァもまた快楽に取り込まれ、精子朗にすがって悶え、喘ぐ。
 「セイシロー、イく、イってしまう・・・」
 「いいよ、シルヴァ。派手にイけ!!」
 「んああっ、もう、もう・・・あああああああっっっっ!!!」
 あっという間に限界まで登りつめたシルヴァは激しく体を痙攣させながら快楽の極みに登りつめる。その瞬間、膣内も激しく収縮し、肉棒を強烈に締め付ける。その締め付けに負けた精子朗もまた快楽の終着駅へと到着する。肉棒の先端から迸る精液をゴムが受け止める。2人はしばし心地いい余韻に浸りながら口付けを交わして抱きしめあう。
 「セイシロー・・・」
 「シルヴァ・・・」
 ことを終えた二人は手を握り締めあったままベッドの上に横になる。お互いの手のぬくもりが安らかな眠りを誘う。だが、そんな二人の間に別のぬくもりが感じられる。小さく温かな存在を感じ取った精子朗とシルヴァは慌てて布団を捲ってそこを確認する。果たしてそこにはラピスが心地良さそうな寝息を立てて眠り込んでいた。
 「ラ、ラピス???」
 「そなた、なんでここに・・・??」
 しかしぐっすりと眠り込んでしまっているラピスが答えるはずがなかった。やがて心地良さそうだった眠りが浅くなったのか、夢身が悪いのか、その小さな手が宙を掻く。精子朗がそっと手を差し伸べると、その手を必死と握り締め、また安心しきった顔で眠りに落ちてゆく。
 「ラピス、これはわらわのものじゃ!放さぬか!!」
 「シルヴァ、子供相手に大人気ないよ?」
 「うるさい!セイシローは、セイシローはわらわのものじゃぁぁぁっっっ!!」
 精子朗に窘められるもシルヴァの怒りは収まらない。とはいえ気持ち良さそうに眠るラピスを起こしてまで精子朗を取り上げることも出来ず、ただただ空しい叫びが響き渡るだけだった。そんなシルヴァの空しい叫びを聞き流しながら精子朗はラピスの手を優しく包み込みながら眠りにつく。今はただ疲れた体を休ませてあげたい、ただそれだけだった。新たな冒険はまだ始まったばかりなのだから。


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