第2話  業火の花嫁  後編


 病院にかけ込んだ真達は手術室の前で青ざめた表情でおろおろとする明日香の姿に驚きを隠せなかった。いつ、どんなことがあっても動揺するようなことない明日香が真っ青な顔をして手術室の前を行ったり来たり忙しなく歩き回っているのだった。その姿に美沙香の容態がかなり重いものだと想像ができた。
 「明日香!」
 「お兄様・・・申し訳ありません・・・」
 「お前を責めたりしないよ。怪我がなくてよかった・・・で、美沙姉の容態は??」
 「それが左胸の辺りを・・・それが肺にまで達していて・・・」
 ボロボロと涙を流して泣きじゃくる明日香は美沙香の容態を簡潔に伝える。ナイフの刃が肺にまで達し相当危険な容態であるらしかった。かなり前から始まった手術はいまだ終らず、その赤い光を湛えたままだった。美沙香の命の危機に真は強く拳を握り締める。そして絞り出すような声で明日香に確かめる。
 「こんな大事を起こした犯人は?」
 「もう、捕まっています・・・その場で氷姫ちゃんが押さえ込みました・・・」
 明日香の護衛にと氷姫を側においておいたのがこんな形で役に立つとは思いもしなかった。しかし氷姫も眼の前で大好きな美沙香が刺されたことである種のパニックを起こしていたらしい。危うくその犯人の首をへし折ってしまうところだったそうだ。幸い犯人は明日香の叫びによって氷姫が正気に戻り、何とか息はあったらしい。しかし意識はなく、その場で取り押さえられて警察に引き渡されたという。
 「そうか・・・もしかして犯人は・・・」
 「・・・美鈴里華です・・・」
 「やっぱり・・・」
 予想通りの犯人の名前に真は大きな溜息を漏らす。ここまで予想通りの展開だと思わず笑ってしまいそうになる。が、そんな感慨に耽っている暇はない。なぜ美鈴里華が早紀香に罪を擦り付けようとし、美沙香を刺したりしたのか。その根本的なところ、犯行理由が分からないことにはどうしようもない。
 いま真にわかっていることは美鈴里華が本物の美鈴里華でないこと、偽美鈴里華はその名前を騙って自分たちに近付き、早紀香と美沙香を手に掛けようとしていたこと、ただそれだけだった。
 「それにしても、妙だな・・・」
 「どうかなさったんですか、お兄様??」
 「この二つの事件、同じ犯人が考えたにしては雑すぎる・・・」
 「そうですねぇ。片方は細心の注意を払った犯行、片や行き当たりばったりの場あたり的な犯行・・・」
 「同じ犯人の犯行とは思えませんわね・・・」
 真の言葉に麗も明日香も同意する。確かに同じ犯人の犯行にしてはあまりに違いすぎる内容であった。わずかなミスがあったとはいえ、第一の事件は『犯人は早紀香』とミスリードさせるのに十分な出来であった。しかし、第二の美沙香の事件はどう見ても行き当たりばったり、感情的に起こした事件のように思えてならなかった。
 犯人である偽美鈴里華の犯行には何かある、そう考えさせるには十分すぎることであった。そしてその何かが偽美鈴里華の正体につながっているような気がしてならなかった。そのことを考える真のポケットで携帯が震えだす。病院に来る前にマナーモードにしたまま電源を切るのを忘れていた真は慌てて病院へ外に駆け出すのだった。
 『兄ちゃん、遅い!!!』
 「真菜華か・・・どうかしたのかい?」
 『どうかしたのかい、じゃないわよ!人に調べ物を頼んでおいて!!』
 「!!!何か分かったのか?」
 電話の主は麗と同じく美里の素性を調べてもらっていた真菜華であった。中々でない兄に少しイライラした口調で文句を言ってくる。そんな真菜華を宥めながら真は真菜華が調べ上げたことを聞き出そうとする。すると今度は少し優越に浸った答えが返って来る。
 『ふふんっ、すごいでしょ!一生懸命調べ上げてあげたんだからね!』
 「だからどんなことが・・・」
 『ええ・ただで聞く気?』
 「わかった、わかった!あとで部屋に言ってあげるよ」
 優越感に浸った言葉は今度は甘えた口調に変わる。そんな真菜華を宥め、ある約束をすると、真は彼女が調べ上げた情報を聞き出してゆく。そしてその情報から犯人の人間像をくみ上げてゆく。そして出来上がった人間像を元にして今回の真相を解き明かしてゆく。
 「そういうことか・・・」
 手に入れた情報からこの一件の真相を導き出してゆく。そうやって導き出された真相を手に真は歩き出す。美鈴里華に真実を突きつけるために・・・そして真が付けなければならない決着を付けるために・・・



 美沙香を殺そうとして殺人未遂の現行犯で捕まった美鈴里華はあくまで黙秘を続けていた。警察に何を聞かれても聞こえない振りをし、鼓膜が破れそうなほどの怒声にもまるで動揺した様子は見られなかった。あの手この手で何とか供述を得ようと試みる刑事たちであったが、その頑なな態度にほとほと手を焼いていた。
 「・・・・・・・」
 「あくまでだんまりか・・・いい加減にしろよ!」
 一言として言葉を発さない美鈴に苛立ちを隠せない刑事が机を思い切り叩く。机の上においてあった灰皿がその衝撃で床に転がる。それでも美鈴は眉一つ動かさず、ちらりとバカにした様な視線を刑事に送って、挑発してくるだけだった。そんな美鈴の態度が刑事をさらに怒らせる。
 「この・・・」
 挑発された刑事は怒りに任せて美鈴の胸倉を掴みそうになる。一緒に居合わせた刑事が慌ててそれを押さえ込んで、宥めたので大きな騒動にならずに済んだが、どこかぎすぎすとした空気が辺りには漂っていた。一言の会話もないままにらみ合う双方の緊張を打ち破るように取調室のドアが開く。
 「おう、ちょっといいか?」
 「なんですか、近藤さん。今取調べ中で・・・」
 「わかってる、わかってる。その取調べを進められるようにしてやろうと思ってな」
 取調室に顔をのぞかせた中年の刑事に取調べをしていた刑事は大きなため息をつきながら応じる。正直行き詰まっていたので誰かに交代して欲しかったというのが本音でだった。そんな刑事に近藤はにやりと笑って答えると、そのうしろに控えていた真を部屋の中に招き入れる。高校生の登場に怪訝そうな子顔をした刑事だったが、同じように真の登場に表情に変化を見せた美鈴の様子に気づき、敢えて何も言わないで話しに耳を傾ける。
 「何でこんなことをなさったんですか?なんて聞かないで置くことにします」
 「・・・・・・・」
 「いい加減本当のことをしゃべったほうが言いと思いますよ、美鈴里華先生・・・いや、金城美樹さん」
 美鈴のそばまで歩み寄った真は自分に顔を背ける美鈴にやや冷たい口調で言葉を投げかえる。しかし、それでも何の反応も、返答もしない美鈴だったが、そんな美鈴に真ははっきりとした口調で言い放つ。その言葉を聞いた瞬間、初めて美鈴の表情に大きな動揺が生まれる。表情は強張り、唇まで真っ青になって震えている。
 「金城?真くん、確か君の・・・」
 「ええ。大叔父にあたる方です。いや、方でしたというほうが正しいですね」
 真はにこりともしないで金城の名前のことを思い出した近藤の問いに答える。真にとって金城の姓は憎悪の対象であり、決して口にしたくない名前であった。しかしそれが今回に事件の根幹であり、金城美樹が早紀香と美沙香を襲ったことに繋がっているのならば、正面からそれと向き合おうと心に誓ってこの場に来たのだ。だから、はっきりとした口調で話を続ける。
 「金城・・・では美鈴里華というのは偽名?」
 「いえ、実在されている方ですよ。写真を取り寄せたんでのですが彼女に瓜二つでした」
 真はそう言って真菜華が送ってきてくれた写真を携帯の画面に映し出す。それを覗き込んだ近藤をはじめとする刑事たちは驚きを隠せずにいた。ほとんど同じ顔立ちの2人の女性が仲良さそうに肩を組み、ピースをしている写真だった。そしてその顔は間違いなく今自分たちの目の前にいる美鈴里華であった。
 「どういうことだい、真くん・・・」
 「簡単なことですよ、近藤さん。教員免許を取得したのは美鈴里華。でもここに居るのは金城美樹。全ては自分の復讐の為に起こした事件だったってことですよ」
 「???」
 「つまり、ことの起こりは25年前にあるんです」
 「25年前?確か金城氏がまだ健在だった頃だね?」
 近藤はそんな昔の話にも頷いてくれる。近藤に言葉に真は頷き返すと、美鈴、いや美樹の一挙手一投足注視する。美鈴は俯いたまま目を見開き、小刻みに震えている。今のところ反論はないのだろうと思った真はさらに話を続ける。
 「25年前、当時まだ無名だった金城烈は一人の女性と関係を持ちました。その女性は金城の子どもを身篭りましたが、金城はその人を捨てて佐々菜グループの元に走ったそうです。その女性は身篭った子供を産み、身を粉にして育て上げたそうです。出会う男性皆が不幸と子どもを残して去っていっても・・・」
 「それが早紀香さんと美沙香さんのご母堂、湊沙耶子さんですか・・・」
 まことが誰のことを話しているのか察した近藤はその名前を口にする。それから18年後、非業の死を迎えた女性のことを近藤は今も覚えていた。そしてその女性の死体の傍らで泣き叫ぶ女の子たちのことも。その事件を実際に目の当たりにして居ない真であったが、沙耶子の死に金城が関わっていたことだけは母親たちからよく聞いていた。それが父・佐々菜修二の原動力の一つなのだと。
 「沙耶子さんが自殺したのち、残された家族と金城があることで接触をしました。そこで金城はかつて愛した女性に瓜二つの、自分の血を継ぐ女性と出会うこととなりました。それが早紀香さんと美沙香さんの姉上、湊明日香さんです」
 「ふむ・・・」
 「金城はかつて愛した女性が帰ってきたことに歓喜し、明日香さんを監禁したそうです。もちろん、この一件はすでに解決済みです。でもこの一件で早紀香さんと美沙香さんは大切なお姉さんを失いました。そしてもう一人、ここに大切な肉親を失った人がいました。それが彼女、金城美樹さんです」
 真は淡々と話してゆく。その言葉を美樹は身動ぎ一つしないで聞いている。周りを固める刑事たちも真に話に真剣に耳を傾けてくれている。真はここで一度大きく深呼吸をすると、さらに話を進めてゆく。
 「彼女の母親は金城の愛人だったそうです。認知はされていないそうですが、一度も父親に会うことは許されなかったそうです。そんな父親を彼女は大変尊敬していたそうです。そんな父親が不慮の死、金城美樹は大いに嘆いたそうです」
 「認知されていないのに父親の姓を名乗っていたのかい?」
 「ええ。彼女が10歳になったら父親と会わせる約束に担っていたそうですが、その二年前に金城はなくなっています。湊明日香と心中で・・・」
 真の『心中』という言葉に初めて美樹が反応を示す。それに気づいた真だったが、あえて何も言わず、そのまま話を続けてゆく。
 「このことを知った美樹の母親は大いに荒れたそうです。せっかくあと二年で美樹が認知され、大金が手に入るはずだったのに、全てご破算。認知もされていなかったのですから、遺産分与なんて一銭もありはしませんからね」
 荒れた美樹の母親は酒と薬に溺れ、今も沖縄のとある病院に入院していると真は話を付け加える。そして母親をそんな風にし、自分をここまで不幸にした湊明日香を金城美樹は激しく憎悪していたと言う。真に言わせれば金城という存在そのものが美樹達親子も、湊家の人々も不幸にしたのではないかとといいたかったが、おそらく自分の言葉など美樹には届かないだろうからと、話すのをやめることにする。
 「そんな彼女が大学で一人の女性と知り合った。名前は美鈴里華。自分に瓜二つの容姿を持った彼女と美樹はとても仲良くなったそうです。端から見れば双子のように映るほどだったそうです」
 そんな里華の夢は教師、その彼女が教育実習に向かう直前に事故で大怪我を負い、いまだ意識が戻っていない。そしてその彼女が向かうはずだった実習先が私立睦学園。憎しみの対象であった湊明日香の妹、早紀香が教師を勤める高校であることを知った美樹は里華に成りすまし、教育実習生として潜り込んで来たのだ。
 「そして第一の殺人事件を起こした、というわけですか?」
 「ええ。小山田陽と美鈴里華には一切繋がりはない。逆に早紀香と小山田には争っていたという接点がある。それを利用して小山田を殺害、その罪を湊早紀香に擦り付けようとしたわけです」
 「なるほど。それで捜査をかく乱し、復讐も果たそうとしたわけだ」
 「ええ。案の定、早紀香さんは疑われてしまいましたけど・・・」
 しかし、真という存在がすぐそばにいたため、美樹の想像以上に早く事態が動いてしまった。せっかくの凶器喪失のトリックもあっさりと見破られ、早紀香の身の潔白が意外に早く晴らされてしまった。こうなっては復讐どころか、下手をすれば自分の身の安全まで危うくなってくる。
 「このことに焦った彼女は当初の予定を変えて美沙香さんに襲い掛かった。美沙香さんを殺すことで早紀香さんを苦しめようと思ったんでしょう」
 「でもそれも明日香さんたちによって何とか致命傷だけは免れた・・・」
 「これで彼女のした事はすべてです。ただし・・・」
 そこまで話した真は真正面から美樹を睨みつける。早紀香と美沙香をここまで苦しめた憎むべき女ではあったが、それ以上に気になって仕方がないことがあった。それを聞き出そうと美樹を真正面から見据える。その視線を真正面から受け流しながら美樹は平然とした顔をしていた。
 「この事件、誰に犯行方法を教わったんですか?」
 鋭い口調で真は美樹を問い詰める。先ほどまで平然としていた美樹も、その質問にやや動揺した様子を浮べる。それに気づいた近藤が慌てて真に聞きなおしてくる。
 「どういうことだい?今回の一件は彼女が一人でやったことなんじゃ・・・」
 「犯行自体は彼女1人によるものです。でも第一の事件と第二の事件。あまりにも計画性が違いすぎるでしょう?」
 「そういわれてみれば・・・」
 近藤は第一の事件と第ニの事件とを比べてみてその違いに違和感を感じていた。第一の事件は早紀香に罪を擦り付けようとし、自分のアリバイも完全に確保して自分は捕まらないように計画を練ってきていた。対して美沙香を襲った事件は行き当たりばったりでどうにも同じ犯人の犯行とは思えなかった。
 「だから誰かにアドバイスを受けて犯行に及んだ、ということか・・・」
 「そのだれか、はもしかすると斉藤恵に犯行の手引きをした人物と同じかもしれません」
 「斉藤恵って・・・彼も自分で計画を練ったわけじゃなかったのか?」
 「一度拘置所に面会に行ったときにそれらしいことを言っていました。間違いないでしょう」
 その話を聞いた近藤たちは一言も言葉が出てこなかった。何者かが事件を裏から操り、相手の復讐を果たしてやっている。そんな人物がいることは恐ろしい事実でしかなかった。真はその事実を告げながら、じっと美樹を見つめる。その視線を知ってか知らずか、美樹はただ俯いたままガタガタと震えるだけだった。
 「誰か言う気にはなれませんか?」
 「知らないのよ、どこの誰だか・・・ある日復讐を手助けしてやるってメールが来て・・・そこに連絡したら湊早紀香に罪を着せる策を教えてもらったの。でも里華のことまで詳しく調べ上げられた計画には寒気がしたわ・・・」
 「何でそのときにやめようとしなかったんですか?」
 「やめる?あいつら姉妹のせいでわたしたち母娘がどれほど苦労したかも知らないで!」
 正体もわからない相手からの計画に安易に乗ってしまった美樹を責めるように、真は彼女を睨みつける。すると美樹は自分は悪くない、自分たちをここまで追いつめたみなと姉妹が悪いのだという自分勝手な持論を展開してくる。その言葉に真の表情が一変する。
 「ふざけるな!お前の父親、金城がどれほど卑劣な男だったかも知らないで!」
 「どういう・・・意味よ?」
 「あの男は女子高生をはじめとして多くの女性を生贄にして自分の地位固めていたんだぞ?自分の欲のために女を捨て、自分の欲でその娘を手篭めにした鬼畜なんだぞ?」
 「・・・・・・・」
 「あいつ1人のため俺たちの母親たちがどれほど・・・」
 真の搾り出すような言葉に美樹は一言もこたえられなかった。真自身の昔の事は断片的にしか聞いていない。しかし今も父・修二の心の中には湊明日香が住んでいて、その存在に苦しめられながら母たちが父を愛してきた事は真もよくわかっていた。そしてその原因を作ったのが金城であることも。母親たちの苦しみがわかるからこそ、金城を許すことが出来なかった。
 「わたしは・・・わたしは・・・」
 それまで黙り込んでいた美樹が搾り出すように呻く。同時に苦悶の表情も浮べる。
 「私はママの、ママのために・・・ママ!ママ!ママ〜〜!」
 顔色がどんどん真っ青に染まり、口の端から泡を吹きながら美樹は絶叫する。その明らかに異常な姿に真は慌てて美樹に手を掛ける。が、美樹の全身はビクビクと震え、その目にはもう正気の光は宿っていなかった。完全に正気を失い、まともな受け答えができない状態になっているのを悟り、真は悔しそうに舌打ちをする。
 「暗示?くそっ!やられた!」
 「どういうことだい、これは?」
 「多分、彼女が計画立案者のことを誰かに漏らそうとすると、精神に異常を来すように暗示が掛けられていたんだと思います・・・」
 「そんなこと、可能かのかね?」
 「・・・・・ええ・・・」
 驚く近藤に真は小さく頷く。そういった暗示を掛けられる暗殺術に長けた人物を真は一人よく見知っていた。その人物がこの事件に関わっているとすれば、おのずとその背後にいる真犯人の姿も浮かび上がってくる。しかしその人物がどういった意図を持ってこの事件に手を貸したのかがわからない。その答えがわからないまま真は搾り出すように呟く。
 「どういうつもりなんですか、父さん・・・」


 「お兄様・・・金城美樹の始末、完了しました・・・」
 「ご苦労様・・・やっぱり彼女は失敗したみたいだね?」
 暗闇の中から姿を現した妖艶な女性は自分の目の前に座る男子に恭しく礼をしながら、仕事が終わったことを報告する。男は満足そうに頷くと、その両手を広げ女を誘う。その誘いに応じるように女は身につけていたものすべてを脱ぎ去り、一糸纏わぬ裸体を曝して男に静かに歩み寄る。
 「はい。しかし美沙香様に手を出した時点で契約は不履行になっていたはずでは?」
 「そうだね。でもこれであいつも俺の存在に気づいたことだろう」
 「まさか、真にお兄様も存在を教えるために?」
 女が腹立たしげに男に尋ねると、男は不遜な笑みを浮べて答える。当初の予定では美沙香もとある事件に巻き込まれる予定だった。しかし、その計画を金城美樹に伝えるよりも先に彼女が動いてしまったためにすべての計画が水の泡と消えてしまった。それ自体はかまわないのだが、美沙香を手に掛けたことが女には腹立たしくてならなかった。
 「美沙香のケガは大丈夫なのだろう?お前のガードもあったし、あいつが手術に協力しているんだ。問題はないよ」
 「金城美樹がこうするだろう事は予測していた、と?」
 「まあね。ああいうタイプは追いつめられると焦って自爆するタイプだ。絶対に美沙香に手を出すと思っていたよ」
 男はそう言ってくすくすと笑う。そして自分にしな垂れかかってきた女のその細いウエストに手を回し自分のそばまで引き寄せる。女は一切抵抗などしないで男の胸元にその身を預ける。
 「それで、これからそうなさるおつもりで?」
 「どうもしないよ。金城美樹の一件はこれで終わり。真もこれ以上動けはしないさ」
 「そうやって真を試しているのですか?自分のもとに来れるほどの器かどうかを」
 その女の問いかけに、男は一言も答えようとはしなかった。代わりに自分の唇を女の唇に重ねあわせ、ゆっくりと女の艶やかな肢体を貪り始める。そんな男の愛に女は一切抵抗することなく、されるがままに流されてゆく。艶やかな嬌声が響き渡る中、男と女、2つの影は淫らに重なり合い、もつれ合うのだった。



 「じゃあ、明日の仕事は8時から。6時30分には迎えに来るからね」
 「は〜い、おやすみなさ〜い」
 マネージャーの大磯の言葉をほとんど聞き流しながら真菜華は自宅であるマンションの中には入って行く。今日も一日、収録に取材にと忙しい一日を過ごし、くたくたに疲れきっていた。早くシャワーでも浴びてベッドで惰眠を貪りたい気分だった。エレベーターを使って自宅の扱いまで来た真菜華はそこで自分の部屋の前に誰かが待ち構えていることに気づく。
 (やだ、また追っかけ?)
 以前に追っかけに自宅まで来られた経験のある真菜華は人影を激しく警戒する。細心の注意を払って人影を確認した真菜華はその顔を見た瞬間、表情を一片させる。
 「兄ちゃん!」
 「おかえり、真菜華。夜遅くまでご苦労様」
 「どうしたの、急に?」
 「今日のお礼に来たに決まっているだろう?もしかして迷惑だったかい?」
 「そんなこと、あるわけないじゃん!」
 真菜華は満面の笑みを浮べて真の胸の中に飛び込み、これでもかといわんばかりに甘えてくる。そんな真菜華の頭を真は優しく撫でながら、そのか細い体をそっと抱きしめる。
 「よかったぁ、早く会いに来てくれて!」
 「?なにかあったの?」
 「来週から全国ツアー!忘れてたでしょう?」
 「そういえばそんなこと言っていたな・・・じゃあ、真由華は来週からウチで預かるのかな?」
 「それもお願いしておいた!」
 真菜華は真の言葉にむっとした表情を浮べる。自分が前もって話しておいたことを真が完全に失念にしていたことが相当お冠の様子だった。このままではまずいと感じた真はしばし考え込み振りをして、不意をついて真菜華の唇を自分の唇で塞ぎこんでしまう。不意を突かれた真菜華は面食らった顔をしていたが、すぐに大人しくそのキスを受け入れる。
 「じゃあ、今日の分の借りと次会えるときまでの分、まとめて払ってあげようかな?」
 「んふふっ、兄ちゃん!」
 真は真菜華の唇から自分の唇を離すと、優しく微笑みながら真菜華の唇を撫でる。そんな真に真菜華は満面の笑みを浮べてまた抱きつくのだった。


 「んくっ、あああっ・・・」
 真菜華の部屋に入った真はシャワーを所もする真菜華の言葉を無視してそのままベッドに倒れこむ。そして手早く服を脱がせると、その白い肌にキスを雨を降らせて行く。何度となく味わってきた義妹の体の弱いところはすでに熟知していた。そこを重点的に攻め立ててゆく。
 「あああっ、兄ちゃん・・・」
 「相変わらず乳首が弱いみたいだね、真菜華は・・・」
 「知っていてそこばっかり攻めるんだから・・・んんっ!」
 自分の乳首を重点的に責めてくる真に真菜華は少し膨れた表情を見せる。その表情をかき消すように真はそのピンク色の突起を口に含み、音を立てて吸い上げてゆく。びりびりとした痺れるような快感が体を駆け抜け、蕩けるような熱い吐息が真菜華の唇から漏れてくる。
 「ほら、ここはこんなにビンビンに・・・」
 「んああっっ!」 
 真はビンビンに勃起した乳首を舌先で転がして遊ぶ。その痺れるような快感に真菜華は甘い吐息を漏らす。その吐息を聞きながら真は空いた手をゆっくりと真菜華の体の上を走らせながら、下へ下へと進ませてゆく。胸から腹部へ、そして太股へ。その無駄な贅肉のない太ももを真はその感触を確かめるように撫でまわす。
 「ふむ・・・アイドルオタクどもがこんな姿を見たら狂乱するだろうな・・・この太股を見ただけで狂乱するような連中は・・・一度見せてみる?」
 「いや!あたしのすべてを見ていいのは兄ちゃんだけなんだから!」
 「はいはい。心得ていますよ!」
 真は真菜華の太股の感触をじっくりと味わうと、その間に指を滑り込ませる。そしてその2本の太股が合流するところに指を移動させる。すでにじっとりと濡れ始めていたそこは指の到達に歓喜を持って迎えてくれる。奥から溢れ出す愛液はさらにその量を増し、お尻のほうまで濡らして行く。その真菜華の濡れ具合を確かめながら真は言葉で真菜華を虐めてやる。その真の言葉に真菜華は真剣に怒っている。そう言うところが可愛いんだがと思いながら真は滑り込ませた指先をゆっくり遠くへと押し込んでゆく。熱く湿った感触が指先を包み込む。
 「真菜華は乳首とここを一緒に愛撫されるのが大好きなんだよな?」
 「あああっっ!ダメダメ!兄ちゃん、ダメ!」
 「何がダメなの?もしかしてもうイきそうなのかな?ならいいよ、イっても・・・」
 「やだ、ダメ!兄ちゃん!ああああっっっ!」 
 全身を震わせて戦慄く真菜華の絶頂が近いことを察した真は、指先で真菜華のヴァギナをかき回し、穿り返す。溢れ出す愛液がトロトロと溢れ出し、シーツをびっしょりと濡らして行く。それにあわせるように真菜華の膣内の痙攣も激しくなり、かき回す真の指を激しく締め付ける。終わりは近いと感じた真は真菜華のもっとも弱い箇所を重点的に攻めたて絶頂へと導いてゆく。ヒクヒクと震える真菜華の膣内が一際締まり、半透明の液体を盛大に撒き散らしながら絶頂に達する。
 「真菜華、気持ちよかった?」
 「うん、兄ちゃん・・・じゃあ、今度は真菜華がしてあげる」
 「ツアーが近いんだろう?それはまた今度。俺も我慢できないし」
 絶頂に達した真菜華は恥ずかしそうに頬を赤く染めながら、真のビンビンに勃起したペニスに手を伸ばしてくる。その手を真は優しく握ってやめさせる。今舐められたら加減することが出来ないかもしれない。そうなればツアーを目の前にした真菜華の喉を痛めてしまう可能性だって否定できない。ここは我慢するべきと自重する。そんな真の言葉に真菜華は少し膨れた顔をする。真は膨れた真菜華の頬にキスをすると、自分の腰をするりと真菜華の腰の間に滑り込ませる。自然に真菜華の脚が左右に開き、びしょびしょにぬれた真菜華のヴァギナと真のペニスが真正面から向き合う格好になる。
 「じゃあ、いくよ」
 真は一言だけ言うと、真菜華の返事も待たないで腰を進める。ぬるりとした感触が真のペニスを包み込み、心地よい締め付けがペニス全体を締め付けてくる。その感触を味わいながら真はゆっくりと腰を動かし、真菜華のヴァギナをそのいきり立った肉棒でかき回してゆく。
 「あっ、あっ、あっ!兄ちゃん、兄ちゃん!」
 びしょ濡れのヴァギナを肉棒でかき回すたびに真菜華は甘い悲鳴を上げる。濡れそぼったヴァギナを肉棒で付きまわすたびに愛液が溢れ出し、お尻を、そしてシーツまでもびしょ濡れに濡らして行く。真菜華は火がついたように喘ぎ声を上げ、その肉棒の感触を味わいつくす。真も真菜華のヴァギナの締め付けに我を忘れて腰を振り続ける。ギチギチという締め付けは心地よく、真の我慢ももはや限界であった。
 「くっ!出る!」
 「ああああっっっ!イく、イく、イくぅぅぅっっ!」
 真の肉棒が真菜華の最奥を一際激しく叩いた瞬間、真菜華の膣は強烈に真のペニスを締め上げる。その締め付けに耐え切れず、真は真菜華の子宮目掛けて熱い粘液を迸らせる。お腹の中に放たれた熱い思いを感じ、真菜華はさらに大きな声で喘ぐと、全身を激しく強張らせて絶叫する。同時に膣はさらに締めあがり、真のペニスから一滴残らず搾り取る。
 「兄・・・ちゃん・・・」
 絶頂の心地よさに酔いしれながら真菜華は夢見心地の声を上げる。そんな真菜華の髪をそっと撫でながら真は風と大きなため息を漏らす。かわいい異母妹のお願いとはいえ、また子宮の中にたっぷり出してしまったことを少しだけ後悔していた。だがそれ以上に異母妹と愛し合った充実感に浸っていた。
 「にぃにぃ!」
 そんな真の充実感をぶち壊すような明るい声が飛び込んでくる。何事かと顔を上げた真の首に小さな女の子が飛びついてくる。勢いよく飛びつかれた真はそのままうしろに倒れこむ。
 「真由華ちゃん?どうしてここに?」
 「まなちゃんのおうちにお泊り!」
 真の首に飛び込んだのはまだ2,3歳くらいの小さな女の子だった。舌足らずな話し方が幼さをさらに際立たせている。これでも真菜華と同じく業界では有名な子役であり、真の異母妹の1人であり、一番年下の妹であった。そのため他の異母姉たちからは非常に甘やかされて育ってきた。
 「にぃにぃ。まゆも一緒におねむしていい?」
 「はぁ、いいよ。おいで」
 「うにゅぅぅぅっ!」
 「あ!真由華ちゃん!独り占めしちゃ、ダメ!」
 意識を取り戻した真菜華は真の胸の中に飛び込んだ真由華と真の取り合いを始める。そんな異母妹たちを宥めながら真はふと天井を見上げる。そして少し悲しそうな、少し腹に据えかねたような表情を浮べる。そしてポツリと一言口走る。その言葉は争いを続ける真菜華と真由華には聞こえることはなかった。その言葉を聞いたものは誰もいなかった。ただ暗闇だけがそれを聞いていた、

 「これがボクへの挑戦状、ですか・・・父さん・・・」

 という言葉は・・・


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