第壱幕〜黒騎士の前兆〜



バイストン・ウェルの物語を覚えている者は幸せである。

心豊かであろうから・・・。

私たちはその記憶を記されてこの地上に生まれて来たにもかかわらず、思い出すことの出来ない性(さが)を持たされたから・・・。

それゆえに、ミ・フェラリオが伝える次の物語を伝えよう・・・。









海と陸の間にあるといわれる異世界バイストン・ウェル。

その西方に位置するナの国の女王シーラ・ラパーナは、ここ数日、戦(いくさ)の準備に追われていた。

ナの国と海をはさんだアの国との本格的な戦が始まろうとしていたのである。すでにナの国と同盟関係にあるラウの国では、王の戦死後、幼い王女を中心にまとまり、アの国と連日激しい戦いを繰り広げていた。ナの国もそこに援軍を出していた。そして、ナの国の大型戦艦グラン・ガランの完成とともに、シーラも戦場に赴く事となっていた。







シーラは自室の窓から建造中の戦艦グラン・ガランを見ていた。

聖戦士との謁見から一週間あまり立つ。グラン・ガランももうほとんど完成し、後は進水を待つばかりであった。

「シーラ様。お召しのものが用意できました。そろそろ謁見の準備をお願いします。」

「わかりました。」

シーラは女官に振り返り、返事をした。

青い髪の年の頃は20過ぎぐらいの女官が控えている。つい数日前から女王付きの女官になった娘である。その洗練された物腰や、決して出過ぎたことはしないが、一寸した事にでも気の回る頭の回転の良いところ等、シーラは気に入っていた。

いい娘だ、とシーラは思う。

城下の薬屋の娘と聞いている。彼女自身も薬草の知識があるようで、シーラが疲れているときになどは、彼女が煎じたお茶を持ってきたりもする。そのおかげか、ここ数日、彼女の体調はすこぶる良かった。

(でも・・・それ以上に・・・。)

シーラは思う。

(・・・この娘、ミューズが側にいると、何とはなしに落ち着く・・・。)

シーラはミューズに着替えを手伝わせながら、この年上の娘のことを考える。

(・・・父上母上を亡くした後、近習の者とここまでやってきたが・・・、私を支えてくれる者はあっても、頼れる者はいなかった・・・。)

シーラは幼くして王位についてから、常に人の上に立つ者として、自分を律し、このナの国を守り立ててきた。その人柄が・・・、聡明であるだけでなく、その清廉潔白で常に私欲を待たず、どんな人間にも公平なところが、国民の人気となり、若干17歳という若さでありながら、"聖女王""処女王"と国民から敬い奉られる王となっていたのである。

そんな彼女に甘えは許されなかった。

(私にもし、姉がいたとしたら、こんな感情を持つのであろうか・・・。)

シーラが自分のことをまじまじと見つめていることにミューズは気付き、一寸驚いた顔でシーラを見る。

シーラはいつのまにか精神的にこの女官に頼ろうとしている自分に気付く。

(・・・馬鹿な!私は何を考えているのか!この大事なときに気が弱くなっているのか!)

シーラは自分の弱さを戒めようとする。

(確かに不安はある。しかしアの国を、ドレイクの野望を、ショットの野望を押さえなければ、このバイストン・ウェルに未来はない。)

シーラは気を引き締めようとする。

ここのところ自分のオーラ力(ちから)=気の力が何か弱まっているような気がしていた。体調は良いのだが、気が弱くなりがちなのである。むしょうに何かに頼りたくなってくる。

(いけない!私がこんなでは、兵の士気にも関わる!・・・・しかし何故なのだ・・・。何故こうもオーラ力が鈍くなってきているのか・・・。)





「シーラさまぁ〜!」

ミ・フェラリオのエル・フィノがその小さな羽を震わせ、窓から入ってくる。

「エル、何処へ行っていたのか?」

シーラが尋ねる。エルは30cm程の小さな体を嬉しそうに揺さぶりながら、シーラの周りを飛び回る。

「えへへ!グラン・ガランの中、見てきちゃった!」

「エル。皆の邪魔はしなかったでしょうね。」

「勿論よ!・・・あ!ミューズ!また・・いる・・!!」

エルはこの青髪の女官を見つけると、徐に嫌な顔をし、シーラの肩に降り立ち、彼女を睨む。

「これ!エル・フィノ!あなたは何を言うのです!」

シーラがエルをたしなめる。

「だって、嫌いなんだもん!・・・・もう!ミューズ、用が済んだのなら出てってよ!」

ミ・フェラリオはあまり自分を押さえることを知らない。自由気ままに生きている。エル・フィノも感情のままにものを言う。決して女王の威を借りているわけではなく、ミ・フェラリオとはこういう存在なのだ。

「エル・フィノ!」

さすがのシーラもエルにきつく注意をしようとする。

「いえ、シーラ様。いいのです。お召し変えもすみましたし、私はこれで失礼いたします。」

ミューズはそういいながら出て行こうとする。

「・・・ミューズ、エルが無礼なことを言いました。許してやってください。」

ミューズはそのシーラの言葉に微笑を返すとそのまま女王の部屋を退去した。

「な〜んでシーラ様があやまるのよ〜!」

エルはむくれながら言う。

「エル、あなたがミューズを良く思っていないのはしょうがありませんが、あれは言いすぎです!」

そう言いながらシーラは、あまり人の好悪の少ない、というかあまり人のことなど考えないエルが何故あそこまで彼女を嫌うのか、不思議に思っていた。

その一方で、自分が彼女に対し頼ってみたいとまで感じてしまうのは何故かと考えてしまう。

グラン・ガランの乗員に対しての謁見の時間が近づいていた。シーラは頭を切り替え、謁見に備えた。









その夜、シーラは何か寝苦しいものを感じ、目を覚ました。

得体の知れない不安感がシーラの胸を締め付ける。

シーラはベッドから体を起こす。周囲は異様に静かであった。

窓辺に月明かりが侵入している。

正確に言うとそれは月ではない。異世界バイストン・ウェルには月はない。ただし、場所によっては、天の海の深海魚が一箇所に集まり、月のようなものを作り出すことがある。ナの国、ウロポロスの城はその月を見れる数少ない場所の一つであった。

シーラはベッドから立ち上がった。体が異様に重かった。頭も麻酔がかかっているかのように何かはっきりしない。何かがおかしいと、シーラは感じていた。

シーラは窓辺から月を望む。月の光がいつもより暗いように感じる。シーラははっとする。全ての光量が足りないのだ。まるで黒い霧に覆われているかのように。

(何かが・・・何が起きているというのか。このウロポロスに・・・。)

シーラは重い体を必死に動かし、ベッドに戻り着替えをする。

空気が重かった。まるで、空気までもが黒い粘ついた霧と化し、体にまといついてくるかのようであった。その霧はシーラの頭の中にも侵入し、その思考を鈍らせているかのようにも思われた。

(何か・・・何か悪しき力がこのウロポロスを包んでいる・・・。)

シーラは、ともすると萎えてしまいそうな気力を奮い立たせ、廊下に出た。

廊下も物音一つせず、不気味に静まり返っている。廊下を照らすかがり火の光も何か心もとないものであった。全てが全体的に暗いのである。その上、頭の中も靄がかかったかのようにはっきりしない。まるで、悪夢の世界を彷徨っているかのように、シーラには感じられた。

「シーラさまぁ!」

不意に声が聞こえる。

シーラが振り向くと、燐の光を航跡にしながら、何かが飛んでくる。

ミ・フェラリオのエル・フィノであった。

「エル。」

エル・フィノはシーラを見つけたことを喜びながら、シーラの肩口に座る。エル・フィノも調子は悪そうであった。

「シーラ様・・・。何かへんよ・・。ものすごく悪いものがこのお城を包んでいる・・・。」

「エルにもわかりますか?」

「うん・・・。大変なことが起こるわ・・・。ひどい・・・何か・・・。」

エルの顔がどんどん曇って行く。

「エル、先に行って、カワッセ艦長を呼んで来て下さい。私もこのまま広間に向かいます。」

「わかったわ。シーラ様・・・気をつけて・・・。」

エルは燐の光をまきながら、グラン・ガランの方へ飛んでいく。

シーラはエルと分かれると、広間に向かい暗い廊下を一人歩き出した。

女王の間に続く廊下に立っているはずの兵士がいた。しかし、その兵士もその場に座り込むように倒れていた。シーラは彼に近づき、呼吸の有無を確認する。呼吸はしていないようであった。しかし体温はある。生きてはいるようだが、体の機能は全て停止しているように感じられた。

(・・・馬鹿な・・・。一体どうなっているのだ・・・。他の者たちは・・・。)

シーラは立ち上がり、広間に向かった。

頭がずきずきしてきた。体もさらに重くなる。黒い空気は体にまといつき、まるで水の中を歩いているかのように思われてきた。シーラは何度も立ち止まり、壁に寄りかかり休み、そしてまた進んだ。

広間までの距離が異様に遠く感じられた。途中休みながら、シーラは何度も行くことをあきらめようかと考えた。このままこの場に倒れこんでしまいたい、何度もそう思いながらも、その度に気を奮い立たせ、進んだ。

(・・・・だめだ・・・。早くこの状況を・・・・。私はこの国の女王だ!クッ・・・・。早く、誰か・・・。誰かいないのか・・・・。)

やっとの思いでシーラは広間に辿り着くと、警戒する余裕もなく、そのまま中に進んでいった。





広間もやはり静まり返っていた。兵士たちが眠っているかのように倒れている。動く者は全くいない。

(やはり・・・・ここも・・・。)

シーラの頭痛も限界にきていた。頭を抑え、うずくまりたいのを必死に押さえる。

と、そのとき背後から自分を呼ぶ声が聞こえてきた。

「女王!シーラ女王!」

気分の悪さを抑えながら、その声の方に振り向く。

目が霞んできていた。誰か、騎士のようなものがこちらに走ってくる。

(誰か・・・?)

輪郭がやっと見えてくる。革鎧を着た騎士である。ナの国のものとは鎧が異なる。

(誰・・・?)

「女王!大丈夫ですか!?」

騎士が近づいてくる。緑がかった革鎧を着ている。その革鎧には見覚えがあった。

(ショウ・・・ショウ・ザマか・・・。)

シーラの頭はがんがんと痛み、目は霞み、立っているのが精一杯の状態であった。目の前まで騎士が来て、やっとその男が聖戦士ショウ・ザマであることを認めた。

(ショウ・・・・来てくれたのか・・・。)

シーラは張り詰めていた気持ちが一気に緩んでいくのを感じた。聖戦士ショウが、来てくれればもう安心だ。この城内の異常な状況ももとに戻る・・・。わけもなくそう感じていた。

(ああ、ショウ、愛しいショウ・ザマ・・・私を助けに来てくれた・・・・。)

シーラはいつになく自分が弱気になり、一人の男に頼りきろうとしている自分の行動、普段では考えられないような自分の行動に気が付いていなかった。

(・・・しかし・・・ショウは、ラウの国で戦っているはず・・・。ウロポロスに来れるはずがない・・・。)

シーラの頭の中をかすかに警鐘が響く。しかし、そんな理性の声も、今のシーラの湧きあがってきた感情の前に押し流されそうになる。

「女王!シーラ女王!お探ししました。」

ショウがシーラの前に跪き、言った。

「ショウ・ザマ、何故ここへ・・・。この状況は一体何か?」

シーラはショウに身を投げ出したいという強く湧き上がってくる感情を必死で抑え、そして、この激しい頭痛と気分の悪さに耐えながら、ショウに毅然として聞いた。それは、物心ついてからずっと上に立つものとして育てられたシーラだったから出来たことであった。

「はい、何者かがラウの戦場を飛び越し、ナの国に単独で侵攻したとの情報を得て、こちらに参りました。確かに今のウロポロスには何か異常なことが起きています。これも敵の何らかの攻撃でしょう。」

しかしながら、きびきびと報告をしてくれるショウの話を聞いているうちにも、シーラの気分の悪さはどんどん進行していった。もう口元を抑えながら立っているのがやっとである。もう何も考えることも出来ない。ショウの話さえも耳に入ってこない。

「シーラ様、ここは危険です。脱出を。・・・・シーラ様?」

シーラの異変に気付いたショウが顔を上げ、シーラの様子を見ようとした瞬間、シーラはその華奢な体をショウにあずけてきた。

「!シーラ様!!」

ショウが驚きながらシーラの体を抱きとめる。

「・・・・シーラ・・・様・・・?」

シーラはショウの胸にしがみついていた。その小さな体が小刻みに震えている。

「・・・大丈夫です・・・・大丈夫です・・・。ショウ・・・ザ・・マ・。」

シーラはやっとの思いでしゃべる。そんなシーラをショウは優しく抱きとめる。

その瞬間、シーラの体の中で歓喜の情が膨れ上がっていった。

それまでシーラを悩ませていた頭痛や気分の悪さは一瞬に消え去り、代わりに体が熱くなるような心地よいような不可思議な感覚に包まれていった。聖戦士の胸に抱かれている、そう思うだけで、頭が痺れてきているようであった。

(ああ・・・。ショウ・ザマ・・・・。)

シーラは、思わずため息が出そうになるのを必死でこらえながら、ショウに体を預け続ける。体がだんだん熱くなっていく。

(・・・このまま・・・・ずっとこのままでいたい・・・・。)

シーラの頭の中には、今こうしてショウに体を預けていることにずっと浸っていたいという気持ちで一杯になっていた。

「シーラ様!ここは危険です。早く脱出しましょう!」

ショウはそんなシーラに向かって、冷静に言う。

(おかしい!)

シーラのかすかに残っている理性が再び警鐘が鳴る。

(ウロポロスの城は確かに異常だ。でも王たるものは大きな理由もなく簡単に城を捨てることはできない。なのに何故ショウは・・・・。それにショウが今ここにいることも・・・。それに私は一体・・・・。)

しかし、ショウに抱かれていることによって感じる歓喜の情が、そんなシーラの理性の声も吹き飛ばしていく。

「シーラ様!早く!」

ショウがシーラを抱きかかえながら、立たせようとする。

「・・・は・・・はい・・・。」

シーラは答えながら、ショウの手助けを借りながら立ち上がろうとする。

と、その瞬間、ショウの逞しい太腿がシーラの股間の大事な部分に擦れる。

「あああ!」

シーラは思わず声を出してしまう。

シーラの股間から体全体に向け、激しく電流が流れる。それと同時にシーラの体から力が抜けていく。シーラはショウの方に掴まり、体を支える。腰が完全に砕けてしまっていた。

(・・・ああ・・・、だめ・・・・、ああ、ショウ!ショウ!)

シーラはショウにぶら下がるかのように体を預ける。

ショウがそんなシーラの腰に手を廻し、彼女の体を支える。

「シーラ様!しっかり!」

ショウの手が強くシーラの腰を抱く。

シーラはこんな風に男に体を触れられたことはこれまでなかった。逞しい男、しかも自分が愛おしく思っている男の腕に抱かれ、怖さと嬉しさで混乱していた。

(ああ・・・ショウ!熱い!ショウ!ショウ!)

シーラは自分のお腹の奥の方が熱く、何かドロドロと溶けていくような、それでいて気持ちの良い感覚に襲われていた。

(ショウ・・・もっと・・・もっときつく抱きしめて・・・。)

そんなシーラの気持ちに応えるようにか、ショウの腕に力が入る。

「!」

シーラのまだ未成熟な胸が、ショウの厚い胸板の中でつぶされる。と、その胸の先からも電流が彼女の体の中を駆け巡る。

(はあ!ああああ・・・・・。)

シーラは何とか声を上げない様に必死でその快感に耐える。

しかし、彼女の腰の辺りはさらに熱くなり、痺れたようになってきている。もう、自力でショウに掴まること自体、困難になってきていた。

(おかしい。おかしすぎる。)

シーラの頭の中で警鐘が鳴り続ける。

しかし、今のシーラにはその声に従うことどころか、耳を傾けることさえも出来ない。頭の中は靄がかかったかのように何も考えられず、ただひたすら、体の奥底から湧き上がる快楽の波に翻弄されるだけであった。

シーラは自分の股間の辺りがまるで小水を漏らしてしまったかのように、熱く濡れているのに気付いていた。そして、自分のそんな体の変化が恥ずかしく、ショウがその事実に気付かないことを願っていた。そのため、自分を抱きしめていてくれるショウの顔を見ることが怖く、彼の胸に顔を埋めたまま快楽の波に耐えていた。

しかし、体の奥はどんどん熱くなり、シーラの女性の部分は彼女の意志とは別に勝手に蠢き、熱い液を湧き出させ続けた。シーラはもう自分の力でショウに掴まって立つことも出来なかった。ショウがその腕で彼女を強く抱き、体を支える。その度に彼女の胸がショウの体に押し付けられ、シーラはそのことにも感じてしまう。

(はあ・・・・、だめ・・・、ああああああ!ショウ!・・・ああ・・はああああ!!!)

シーラは自分のお腹の辺りに、堅く熱いものが押し当てられているのに気付く。それはショウの革鎧を通してもその熱さがしっかりシーラに伝わってきていた。

(!・・・これが・・・・男性の・・・!)

シーラの麻痺してきている頭でも、そのモノが何なのかはおぼろげに理解できた。シーラは物心ついてから、これという男性と近づいたことはない。王道を行くものとして育ち、自分の欲望を常に遠ざける訓練をし、自分の性欲など考えたこともなかった少女である。他の同世代の少女たちと比べても、男性についての知識は疎い。そういうものの存在は知っていても、実際にはこれまで想像もできないものであった。

シーラはそのものに対し、激しい恐怖と、そして愛おしさを感じた。

とたん、体はそのシーラの気持ちに反応し、熱い蜜をさらに湧き出させ始めた。

「はああ!」

短いが、遂に歓喜の声をシーラは漏らしてしまう。

と同時に、腰が砕け、その場に倒れこみそうになる。

ショウが自分の太腿をシーラの両足の間に滑り込ませ、シーラの体を支える。

シーラの女性の部分がショウの太腿にあたる。

「!ひいいいい!」

シーラの体をもの凄い電流が駆け抜ける。思わずショウに自ら抱きついてしまう。

ショウはそんなシーラをさらに強く抱きしめる。

そして、彼女の部分を支えている右太腿で彼女のそこを刺激し始める。

「あ!はあ!はあ!・・・んんんんん・・・。」

激しい快感がシーラの体を包み込む。もう彼女は自分に何が起こっているかわからなくなっていた。翻弄され、自ら腰を彼の腿に擦り付け始めていた。

胸もショウの熱い胸板に自ら押しつけていく。

(ああ!ショウ!ショウ!ああ!強く!もっと強く!はああああああ!)

熱い液がシーラの女性の部分から滾々と流れ出す。

シーラは完全に快楽に身を任せていた。





「シーラ様!だめぇぇぇぇぇ!!!」

突然、閃光のようなイメージがシーラの頭の中に飛び込んでくる。それはシーラの頭の中を覆っていた靄を一気に吹き飛ばす。

「!」

どうしても目の覚めない悪夢から急に現実世界に戻ったかのように、シーラの頭の中がはっきりとしていく。それは夜間にサングラスを気付かずにかけていたのを、とった時のような感覚であった。

シーラは自分の痴態に気付き恥じ入り、ショウの体を突っぱね、彼から離れる。ショウのそれまでの行動をいぶかみながら。

(ショウ・・・。何故?何故私にあんなことをした・・・?)

シーラのオーラ力が充実してくると同時に、広間を覆っていた黒い霧も薄くなっていく。明るさが戻ってくる。

と同時に目の前のショウの姿に変化が現れる。ショウの姿かたちが別のものに変わっていく。

「なに!」

シーラは身構えながら、自分のオーラ力を充実させていく。もう、黒い霧の力に惑わされ、体の不調を訴えることもない。逆に彼女の白きオーラ力がその悪しき力を駆逐しつつあった。

「シーラさまぁぁ!」

ミ・フェラリオのエル・フィノが飛んでくる。

呼びに行ったカワッセ艦長は、見つからなかったか、はたまた他の兵士同様気を失っていたのかはわからないが、とにかくエル・フィノ一人であった。

「シーラ様。大丈夫。」

エル・フィノはシーラの肩に下りながら言う。

先程の閃光のような呼びかけは、彼女のオーラ力によるものであった。

「有難う、エル。助かりました。」

シーラはさっきまでショウの形をしていた異形の騎士を見据えながら、エルに礼を言う。

「シーラ様・・・。あれ・・・ひどく危ないわ・・・。」

エルは怯えつつも、その騎士のことを言う。

その者は全身黒ずくめの鎧を着た騎士であった。兜も顔全体を覆い尽くし、その素顔は見えない。ただ眼光だけが、異様に激しかった。そして、その全身から滲み出すように黒いオーラを発していた。この城を覆い尽くしていた黒い霧のようなものは、この男から発せられた黒きオーラの力であった。

「フ・・・。フェラリオが・・・。余計なことを・・・。」

異形の男が呟く。

「そなた、何処の手の者か。」

シーラはこの凄まじいほどのオーラを放つ男に気負わされないように、気を高めながら尋ねる。

「さすがは、ナの国の女王シーラ・ラパーナ。噂どおり強いオーラを持っているらしいな。」

騎士が声を上げる。その声はバイストン・ウェルの地の底カ・オスから響き渡るような重く不気味な声であった。

エルがシーラの肩の上で怖え上がる

シーラの気迫が強まっていく。

普通の者であれば、この気=オーラに圧倒され抵抗できなくなる程の力をシーラは持っていた。

「ふっ、さすがに一筋縄では行かないな・・・。」

騎士はぼそりと呟いた後、名乗りをあげた。

「我はアの国の王ドレイク・ルフトの配下、ショット・ウェポンの手の者。黒騎士である。ナの国王シーラ・ラパーナ殿をラース・ワウの城にお連れすべく、参上つかまつった。」

黒騎士と名乗る男は、シーラの放つオーラに圧倒されまいとしながら話し始めた。

「なにを、馬鹿なことを。妖しい術を使い、城に忍び込むような者が何を言います!敵に対するにしても、礼儀というものがあります!即刻このウロポロスから立ち去りなさい!」

シーラは先刻とは異なり、完全に冷静さを取り戻し、強いオーラ力を発していた。黒騎士の放つ力は、今はシーラの力に押されつつあった。城内を覆っていた黒きオーラ力も、拡散を始め、少し時間がたてば城内の兵士たちも皆気付きだすであろう。黒騎士はシーラの発する白きオーラ力に綻びが生まれる機会を狙っていた。

「そして戻ってショット・ウェポン殿に言いなさい!このような悪しき力に身を任せ、このバイストン・ウェルを汚す者たちを、私は許しません、と!」

「ふふふ・・・。」

黒騎士がその兜の下でそんなシーラを嘲笑う。

「何が可笑しいか。」

シーラがキッと睨みつける。

「礼儀とは片腹可笑しい!先刻まで、下半身から涎を垂らし、自ら腰を男の体になすりつけながら振るような売女風情に示す礼儀などないわ!」

黒騎士が言う。

「クッ、何を・・・!あれはそなたの使う幻覚に惑わされたから・・・。そのような術を施すそなたにいわれる筋合いはない。」

シーラは激しい屈辱に耐えながら言う。

先程までの自分の痴態が思い出される。恥辱と怒りでシーラの体が震える。

(あのような幻覚を!よりによってショウの幻覚を使うとは・・・。黒騎士・・・許せない・・・。)

「ふふふ・・・・・・・・はははははははははははは!!!」

黒騎士は低く笑ったかと思うと、今度はこらえられないかのように高笑いを始める。

「何が可笑しい!」

シーラが再度睨みつける。

「ふふふふ・・・。何を見たか知らんが、それはお前の望むこと。私のせいにされても困る。」

黒騎士が可笑しそうに応える。

「なに!」

「我のオーラ力は、人の心の内の欲望、望みを解き放つ力がある。だから何を見ていたか知らんが、それはシーラ女王、あなたが普段から望んでいること。」

シーラの顔が恥辱で赤くなっていく。

「聖戦士とでも激しく交わって、愉悦の声を上げまくる幻でも見ていたのか?」

黒騎士が追い討ちをかける。

「ば・・・・馬鹿な!!!」

シーラはこれまでこんな屈辱的な言葉を浴びせ掛けられたことはなかった。怒りが心頭に達する。

黒騎士の目が光った。この瞬間を彼は狙っていた。シーラが怒りで一瞬我を忘れ、彼女のオーラ力に綻びが出来たその瞬間、彼は行動に移っていた。

「は!」

シーラがそれに気付いて身をすくめたが、もう遅かった。

黒騎士は体術にも優れていた。目にも止まらない速さで、シーラの懐に入り込むと、そのみぞうちに拳を打ち込んでいた。

「あ・・・・・はぁ・・・・・・・・。」

短い悲鳴を上げシーラの体が黒騎士に倒れこむ。それを、さっと肩に担ぎ上げる。

「シーラ様を離せぇぇ!!!」

ミ・フェラリオのエルが、小さな体で黒騎士の顔面に向かって飛び蹴りを繰り返す。

しかし、顔の全てを兜で覆っている黒騎士にとっては痛くも痒くもない。

「うるさい奴め!」

黒騎士がうるさそうに手で払うと、エルにその拳があたる。

「アン!」

エルは2、3メートル吹っ飛ばされ、そのまま気絶してしまう。

黒騎士は周囲を見回す。シーラの白きオーラ力のせいで彼の術が解けつつあった。城内の者たちが気付くのも時間の問題であった。

「ク・・・。思ったより手間取ってしまったか・・・。兵士たちが気付く前に脱出しなければな。余計な騒動は面倒だ。」

黒騎士が踵を返し、シーラを担ぎ上げたまま広間から出ようとする。

と、広間の入口に一人の人影が見える。

「!」

女王付きの女官のようである。その女は青い髪をかき分けながら、妖しい笑みを黒騎士に向けうかべた。







続く















◎登場人物紹介



ナの国

○    シーラ・ラパーナ

ナの国の処女王。バイストン・ウェルの意志を感じ取る強いオーラ力の持ち主。聖戦士ショウ・ザマに好意を抱いているが、決してそれを表に出さず、女王として生きようとする若干17歳の少女。本SSの主人公!

○    エル・フィノ

シーラにいつもくっついているミ・フェラリオ。原作ではほとんど活躍はないのだけど、このSSではもう一人のフェラリオ、チャム・ファウの性格を一部反映させて活躍させました。

○    ベル・アール

エルと一緒にいる赤ちゃんミ・フェラリオ。あまり好きでないので、このSSでは活躍しません。

○    カワッセ・グー

ナの国のオーラ・シップ"グラン・ガラン"の艦長。シーラの信任が厚い騎士。

○    ミューズ・ザラマンド

??? 



オーラ・シップ"ゼラーナ"

○    ショウ・ザマ

日本人。17歳。異世界バイストン・ウェルに落ち、聖戦士としてダンバイン、ビルバインで戦う男。

○    マーベル・フローズン

アメリカ人。ショウより前にバイストン・ウェルに落ちていた。ドレイクの野望をショウに教え、ゼラーナ隊に彼を誘う。元はニーが好きであったが、だんだんショウに惹かれていく。相思相愛?

○    ニー・ギブン

アの国の地方領主ロムン・ギブンの息子。早くからドレイクの野望を知り、抵抗を続けてきた。なお、戦いの中でギブン家はドレイクに滅ぼされた。

○    チャム・ファウ

ミ・フェラリオ。最初はニーが好き(恋愛感情ではない?)で、ゼラーナにくっついていたが、その後、好奇心からショウのダンバインに一緒に乗り込むようになる。現在はショウに恋愛感情を持っているが、その小さい体ゆえに結ばれることができない悲しみを、その明るさの中に秘め始めている。



アの国

○    ドレイク・ルフト

もともとはアの国の地方領主。国王を討ち、現在アの国王。地上人ショット・ウェポンの発明したオーラ・マシンを用い、コモン界を征服しようと考えている。

○    ショット・ウェポン

アメリカ人。オーラ・マシンの発明者。ドレイク・ルフトを利用し、バイストン・ウェルを支配したいと考えている。このSSでは、オーラを機械の力で自在に操る男に設定。

○    黒騎士

元はドレイク軍の騎士団の隊長、誇り高き騎士。ショウ・ザマとの戦いより、度重なる失敗をし、失墜。ショウへの深き怨念により魔道に堕ち、黒騎士として復活。このSSでは魔道の騎士として活躍予定!



クの国

○    ビショット・ハッタ

アの国ドレイクと同盟関係にあるクの国の国王。



その他

○    ジャコバ・アオン

バイストン・ウェルを司るエ・フェラリオの長。





◎用語説明



★    バイストン・ウェル

陸と海の間に位置するといわれる異世界。魂の安息地、もしくは修練の場。地上界(我々の住む世界)で疲れ、汚れた魂を、地上界に再び赴く前に浄化するための世界。魂はフェラリオ、コモン、ガロウ・ランといった人間に転生し、趣くままに楽しむ世界。この物語の舞台。構造的には、上から"ウオ・ランドン""コモン界""ボッブ・レス"と分かれる。

★    天の海(ウオ・ランドン)

バイストン・ウェルの天に位置する水の世界。フェラリオが住む。

★    コモン界

地上界に良く似た世界。コモンと呼ばれる我々と変らない人間の住む世界。ヨーロッパの中世さながらの世界。この物語の舞台。

★    カ・オス

悪意に満ちた闇の世界"ボッブ・レス"の最下層の世界。地獄のようなところか?

★    オーラ力(ちから)

バイストン・ウェルを支える力。人間の生命力のこと。地上人はバイストン・ウェルの人間よりこの力が強いとされる。このSSでは、スターウォーズのフォースの力的に脚色しています。

★    オーラ・マシン

バイストン・ウェルに満ちているオーラの力をエネルギーとして動く機械のこと。地上人ショット・ウェポンが発明した。それまで機械という代物がなかったバイストン・ウェルの人からはただ"機械"とも称される。

★    オーラ・バトラー

オーラ力で動く人型(昆虫型?)の兵器。操縦系は一応あるが、オーラ増幅器により、基本的にパイロットのオーラ力の強さによっていかようにも動く夢のようなマシン。

★    オーラ・シップ

オーラ力で動く空中船。

★    ゼラーナ

アの国の地方領主ギブン家所有のオーラ・シップ。ドレイク・ルフトを討つため、様々な場所でゲリラ戦を行なう。

★    ビルバイン

ナの国が開発したオーラ・バトラー。聖戦士といわれるショウ・ザマを見込んで、ナの国の女王シーラ・ラパーナがゼラーナ隊に寄贈した新式オーラ・バトラー。

★    ダンバイン

ビルバインに乗るまで、ショウ・ザマが愛用していたオーラ・バトラー。その後はマーベル・フローズンが使用。

★    グラン・ガラン

ナの国のオーラ・シップ。城のごとく巨大な戦艦。

★    ミ・フェラリオ

トンボのような羽の生えた体長30cmぐらいの人間。見た目はいわゆる妖精。嘘つきで噂好きで、ただフワフワ飛ぶことしか能がない生き物といわれている。

★    エ・フェラリオ

バイストン・ウェルの天界"ウオ・ランドン"に住む人間。見た目は妖艶な美女達。バイストン・ウェルの世界を司っている存在? 地上界とバイストン・ウェルを物理的につなぐオーラ・ロードを開くことができる巨大なオーラ力を持つ。ミ・フェラリオが成長した姿といわれるが、外見的には異なる。

★    コモン

バイストン・ウェルのコモン界に住む人々のこと。

★    ガロウ・ラン

バイストン・ウェルの下層"ボッブ・レス"に住む心弱き人間たち。自堕落で猜疑心が強く、強欲で凶暴な者たち。体力はほとんど野獣並。

★    地上人

我々のこと。バイストン・ウェルの上に、我々の世界があると信じられているため、このように言われる。オーラ力が強いらしい。

★    聖戦士

コモン界の伝説で、バイストン・ウェルが乱れるとき、聖戦士が何処からともなく現れて世界を救うというものがあるらしい。そこから戦雲のバイストン・ウェルに現れた地上人のことを"聖戦士"と称している。

★    ナの国

女王シーラ・ラパーナが治める国。現在、アの国、クの国と敵対中。

★    ウロポロスの城

ナの国シーラ女王の居城。

★    アの国

ドレイク・ルフトが治める国。現在、ミの国を占拠し、ラウの国に侵攻中。

★    ラース・ワウ

アの国王ドレイク・ルフトがアの国の地方領主だったときの居城。オーラ・マシンの生産工場である"機械の館"がある。

★    ラウの国

アの国と敵対する大国。ナの国とは友好関係を結んでいる。ゼラーナ一行はこの国に身を寄せている。


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