第参幕〜救出作戦〜
黒騎士は機械の館の外に出る。
ラース・ワウの上空はもう戦場となっていた。
侵入してきた二体のオーラ・バトラーにラース・ワウ警護に残っていたオーラ・バトラー“ドラムロ”が攻撃を仕掛けていた。侵入してきたオーラ・バトラーはナの国製造の“ビルバイン”とラウの国製造の“ボチューン”であった。二体ともギブン家のオーラ・シップ“ゼラーナ”に搭載しているオーラ・バトラーである。
「ビルバインにボチューン!やはり、ゼラーナか!」
黒騎士は北側の空を見る。暗黒の空の彼方にこちらに向かって進んでくるオーラ・シップが見える。
「ゼラーナめ!」
黒騎士は愛機“ズワァース”に向かおうとして、おかしな事に気付く。
(あのビルバイン、いつもと動きが違う・・・。)
足並みを止め、ドラムロと戦うビルバインを凝視する黒騎士。
(ショウではない!あのオーラ光は!誰だ!)
黒騎士はその心眼で、ビルバインを動かすその搭乗者のオーラの色を見る。
(マーベル・・・マーベル・フローズンか・・・。マーベルがビルバインに乗っているということは・・・・、ショウは何処か!)
黒騎士はショウ・ザマの気配を探る。しかし、ゼラーナからもオーラ・バトラーからも彼のオーラ力は感じ取れない。
(ショウが出て来ないわけはない・・・。何処か!・・・ん。そうか!これは陽動か!とすると、奴らの狙いはシーラか!)
黒騎士は直ちに踵を返した。
リムル・ルフトは爆発を掻い潜り、機械の館の地下に入り込む。ミュージィ・ポウとは、この爆撃のドサクサの中ではぐれてしまっている。
(機械の館の下がこんな風になっているなんて・・・。)
リムルは何かおどろおどろしい雰囲気の通路を抜けていく。この先にある何かを自分は確認しなければいけない、そんな想いに駆られ、先を急ぐ。
「誰だ!」
前方にいた兵士がリムルの存在に気付き、剣を構えながら声を上げる。
「私です。リムル・ルフトです。」
「リ、リムル様。何故このような所に・・・。」
兵士はリムルの存在を認めると剣を下ろしながら、しかしリムルがここに来た事をいぶかみながら聞く。
「いいのです。それよりこの中を見せてください。」
リムルは兵士の質問には答えず、彼が守っている部屋の中に入ろうとする。
「い、いえ、それは姫様であろうと・・・。」
「入ります!」
口篭もる兵士を無視し、リムルは強引にその部屋に入ろうとする。この部屋の中に自分が確認しなければならないその“何か”があると、リムルは確信していた。
リムルはその部屋に入ろうとして、ここがただの部屋でなく“牢”なのだということに気付く。胸騒ぎが大きくなる。
「姫様!いけません!」
兵士の制止を押し切り、中に入るリムル。
そこには、数名の警備の兵士と一人の少女がいた。
「・・・これは・・・!」
その少女の服は乱れ、しかもドレスのスカート部分は太腿の付け根まで裂けていた。そして両手を手枷で拘束されていた。年の頃はリムルと変らない。
初心なリムルでも、この状況がこの少女にとって異常なものであることはすぐに理解できた。しかもリムルはこの少女が高貴の出であることを直感的に感じていた。
「この少女に何をしていたのですか!」
リムルは兵士たちを詰問する。
「・・・そ・・・それは・・・・。」
口篭もる兵士たちにリムルはさらに言う。
「あなたたちもアの国の誇り高き騎士の端くれでしょう。恥を知りなさい!さあ、この少女の枷をはずしなさい!」
「・・・しかし・・・。」
リムルは困惑する兵士を無視し勝手に少女に近づき、彼女の枷をはずそうとする。
(お母様とショットが、こんなことをしているなんて・・・・。)
リムルが少女の枷に手をかけたとき、少女が弱っていながらもはっきりした声でリムルに話し掛ける。
「・・・・リムル殿・・・・。あなたがリムル・ルフト殿ですね。」
リムルは、自分の名前を言い当てたこの少女の顔を驚きながら覗き込む。
「あなたは?」
「私はナの国のシーラ・ラパーナです。」
「ナの国の・・・シーラ女王・・・・!」
リムルもその名前だけは良く知っていた。民衆の人気も高い賢王だという噂の女王である。まさかこんなに年の若い王だとは思ってもいなかった。
「あなたたち!敵国とはいえ、一国の王たるものに対しこの仕打ちはなんですか!お父様がこのことを知ったらどのように思うとお思いか!」
リムルはシーラの手枷を取ると力の入らない彼女に肩を貸して立たせ、そして兵士たちを叱責する。
「この方は私が連れて行きます!いいですね!」
「い・・・いや・・・しかし・・・・。」
「ドレイク・ルフトの娘であるこの私の言うことが聞けませんか!」
煮え切らない兵士たちにきつく言い放つと、リムルはシーラを連れ、強引に牢から出て行く。
上空でビルバインとドラムロが剣を交えている。
(初めての機体なのにマーベルも上手くやる・・・。)
ショウ・ザマはラース・ワウの城壁を走りながら、ビルバインの攻撃を見て、そう思う。ゼラーナ隊の攻撃のどさくさに紛れ、誰にも気付かれることなくショウは上手くラース・ワウに忍び込めていた。
(さて・・・。シーラ様は何処か・・・。)
「ショウ。こっちじゃないかな?」
一緒についてきたミ・フェラリオのチャム・ファウが羽を振るわせながら言う。
「わかるのか?」
「ううん。でも、何か感じるの。こっちの方に。シーラ様のオーラかな?」
ショウはチャムの示す方角に走り始める。こういう時のチャムの勘は良く当たるのを、彼は良く知っていた。
ショウは走りながら、昨晩のことを思い出していた。
「エレ様。急にこちらへお渡りとは、何かあったのですか?」
ニー・ギブンの声が聞こえる。
ラウの国の王女であるエレ・ハンムがラウの国の旗艦ゴラオンの艦長エイブ・タマリを連れゼラーナにやってきたのは、真夜中過ぎであった。
「ニー。ゼラーナ隊にお願いしたい急な任務が持ち上がりました。」
祖父フォイゾン王の死により、15歳という若さで急遽大国ラウの軍を率いなければならなくなった少女は、少しずつ王の威厳を身に付けつつあった。
ゼラーナの小さなミーティング・ルームに艦長のニー・ギブン以下、ショウ・ザマ、マーベル・フローズン、といった主だったメンバーが集まって来る
「ニー。至急ナの国のシーラ様のところに飛んで欲しいのです。」
「シーラ様のところへ?・・・何かあったのですか?」
ニーがエレ王女に聞く。
「いえ、よくはわからないのですが・・・・ナの国のウロポロス城周辺に何か悪しき力を感じるのです。」
「・・・悪しき力・・・・。」
ゼラーナの面々はこの王女が“霊力”といわれる物事を見通す不思議な力を持っているのを知っている。
「はい。黒い何かがシーラ様を包み込み、摂りこもうとしています・・・。」
エレ王女は声をかすかに震わせながら、それでも落ち着きを払いながら話す。王としての威厳を身につけつつあるといってもまだ15歳の少女である。怖さを感じてしまっても無理はない。
「は!」
エレ王女が急に鋭い声を上げる。
「なにか?」
ゼラーナの面々がエレ王女の顔に注目する。
「いえ、ラース・ワウです。ラース・ワウに行って下さい。」
エレ王女が顔を上げ、きっぱりと言う。全ての動きが見て取り、迷いが消えたような顔であった。
「黒き力がシーラ様を包み込みラース・ワウに向かいました。事は一刻を争います。今、シーラ様のオーラ力が薄れていくことは、アの国・クの国連合に対しての均衡が破れることを意味します。おそらく敵はそれを狙っていると思われます。でも、何よりも心配なのは、あのシーラ様がこうも簡単にさらわれたということです。」
「簡単にさらわれたって・・、ナの国の警備の隙を疲れたんじゃ・・・・それに前にもガロウ・ランにさらわれた事が・・・。」
ショウが言う。ショウとシーラが初めて会った時、シーラはガロウ・ランの一統にさらわれ、追われており、ショウはそんな彼女を偶然救ったのであった。
「いいえ。ショウ・ザマ。シーラ様のオーラ力が充実していれば、ガロウ・ランごときはシーラ様に近づくことさえ出来ません。あれは、ショウ、あなたと出会う予兆があったから起きたことなのです。」
エレ王女が言う。
「どういうことです?」
ショウはエレ王女の言わんとしている事が理解できなかった。
「シーラ様は、噂の聖戦士にお会いになるため、自ら危険をかえりみず行動したと、私は思っています。このバイストン・ウェルを救う聖戦士なのかどうか、ご自分の目で確認したかったのでしょう。」
ショウは機械の館の中に侵入していた。
(シーラ女王・・・。じゃあ俺は女王様のお眼鏡にかなった、ということなのか?)
ショウはシーラの儚げな体に似合わない強い意志の力を思い出す。
その甘えのないきつい部分がショウには一寸煙たかった。
(国を背負っているのだものな・・・。都会育ちのやわな精神とは違うよな。)
ショウはシーラの17歳という年齢を感じさせない王としての品格の理由を、そう感じ取っていた。
「ん!」
ショウは人の気配を感じ、立ち止まる。
「あん!」
勢いあまって、ショウの背中にチャムがぶつかり、小さな悲鳴をあげる。
「ひどいじゃない!急に立ち止まって!」
「し!」
ショウはチャムの口にというか顔に手をやり、文句を言うチャムを黙らせる。
「見つかったの?」
「いや!誰かこっちにくるぞ!」
そう言うか早く、ショウとチャムは通路の壁際に体を潜ませ、近づいてくる相手に対し警戒をする。
ショウは懐から拳銃を取り出す。
「キーン!ドラムロがそっちに行ったわ!気を付けて!」
無線機からマーベル・フローズンの声が響いてくる。
キーン・キッスは近づくドラムロを剣で切り裂く。
キーンの乗るオーラ・バトラー“ボチューン”はすでに二機のドラムロと対していた。
「ショウはまだなの!もう、こっちはあまりもたないわ!」
キーンはゼラーナのニーに向かって怒鳴る。
「まだだ。もう少し頑張ってくれ!キーン!」
ニーの声が無線機から聞こえる。
(気楽に言ってくれるわよ・・・。)
キーンはそう思いながらも、自分の力がニーの役に立っているかと思うと嬉しくなってくる。その力が彼女の戦果につながっていた。
キーン・キッスはギブン家に仕えていたキッス家の一人娘である。ギブン家がなくなった後も兄のように慕っていたニー・ギブンに付き従い、ゼラーナで戦う13〜4のまだ幼さの残る少女である。
(・・・・?・・・あれは?)
キーンは空中でボチューンを旋回させたとき、ラース・ワウの城壁に見慣れた少女の姿を見たように思った。
(あれは・・・リムル?リムルはラース・ワウに戻っていたの?)
キーンはもう一度その少女の姿を探すが、建物の陰にでも隠れたか、もう見えなくなっている。
(確かにあれはリムルだったわ・・。)
キーンにとってリムルはどうしても意識せざろう得ない少女であった。個人的にはキーンはリムルのことを好きだった。身分は違うものの、仲の良い友人と思っていた。リムルがゼラーナで戦っていたときも、友人として、オーラ・バトラーの使い方等を教えたりもした。しかし、キーンがどうしても彼女を必要以上に強く意識してしまうのは、彼女がニーの恋人だからである。
キーンはニーのことが好きであった。それは子供の背伸びにも似た憧れなのかもしれなかったが、彼女はニーのためなら自分はどんなことでもするだろうと考えていた。ゼラーナに乗り込んだのも、大義のためというよりは、ニーの役に立ちたい、という気持ちが強かったからである。
しかし、そんなキーンの気持ちはニーには届かない。彼の中には、ドレイクを倒すことと、そしてリムルのこと、それしかなかった。キーンの入る余地などは全くなかった。彼はキーンのことを妹のような存在としてしか見てくれていなかった。
(それでもいい。)
キーンはそう思っていた。
(ニーが喜ぶのなら、私はそれでいい!)
キーンはオーラ・バトラー“ボチューン”をラース・ワウの城に向け、一気に降下させた。
「キーン!どうしたの!やられたの!?」
無線機からマーベルの声が聞こえてくるが、それを無視してキーンは城に向かう。
(この騒ぎに乗じれば、きっとリムルも救い出せる!リムルを救い出せれば、ニーも・・・。)
キーンは恋敵を自分の愛する人のところに連れて行こうとしている自分に馬鹿さ加減を感じる。
(ばかかな・・・。私・・・。でも、ニーが喜ぶのなら!)
ショウ・ザマは通路の陰に潜み、相手が通り過ぎるのをやり過ごす。
人影は二人だった。一人は怪我をしているのか、もう一人の肩に寄りかかりながら歩いていた。
ショウは二人をやり過ごすと後ろから、怪我をしていない方の人影に拳銃を突きつける。
「!」
相手の息を呑む声が聞こえる。
「誰!」
怯えながらも聞き返す声にショウは聞き覚えがあった。女性の声である。
「?・・・リムル・・・リムル・ルフトか?」
そのショウの声に、その少女は驚きを隠せずに振り返る。
「ショウ!」
リムルの顔が喜びに輝く。
「リムルー!!!」
ショウの肩にいたチャムが再会の喜びのあまりリムルの顔に飛びつく。
「ああ!チャム!」
リムルがチャムを抱きしめる。昔からこの二人は仲がいい。
「リムル。ラース・ワウに戻っていたんだ・・・。」
ショウはこの状況を把握しながら、初めてリムルの連れを見る。
「!・・シーラ様!」
ショウは乱れた衣服を着たこの少女がシーラであることに驚くとともに、激しい怒りを覚えてきた。聖戦士と云われていても、ショウは別に聖人君子ではない。地上にいる時には人並みにエロ本やアダルトビデオも見る普通の青年であった。シーラの衣服の乱れから彼女に何が起きていたのかは、リムルなんかよりも容易に想像がついてしまう。
(シーラ様は・・・・まさか・・・。くそ!ドレイク奴!)
シーラはショウの考えなど気にも欠けず、その澄んだ瞳で彼を観察しながら言う。
「ショウ・ザマ・・・・。本当にショウ・ザマか?」
シーラはウロポロスの城でのこともあり、彼女は用心深くなっていた。
「はい。シーラ様。ラウの国のエレ王女より特命を受け、シーラ様を救出するためゼラーナにてラース・ワウに潜入しました。」
ショウは自分の心持ちを押し隠しながら、平静を装いながら言う。
「そうか。この攻撃はゼラーナなのですね。」
シーラはショウに顔を見られないように一寸うつむき、そして笑みを浮かべた。それは、ショウが本物かどうかを疑った自分へのおかしみと、ショウが自ら自分を助けに来てくれた事への嬉しい気持ちが混じったものであった。
リムルはそんなシーラの密やかな微笑を垣間見てしまう。この人も私と同じように人を好きになったりするのだな、そんな風にリムルは思い、急にシーラに親近感を覚えた。
「さあ、シーラ様、リムル。ラース・ワウを出ましょう。向こうにウイング・キャリバーの“フォウ”が隠してあります。」
ショウはリムルに変り、シーラに肩を貸そうとシーラの前で跪く。と、シーラの裂けたスカートの裾から真っ白い形の良い太腿とそのつけ根の部分にある白い下着がショウの目に飛び込んでくる。その美しさに、ショウは思わず見惚れてしまう。
「こら!ショウ!何見てるのよ!えっち!」
チャム・ファウがそんなショウの顔に得意の飛び蹴りを食らわす。
「いて!何すんだよ、チャム。」
「いぃぃぃぃーだぁ!ショウのえっち!!スケベ!!もう知らない!」
シーラはそんなショウとチャムのやり取りに思わず笑ってしまう。自分の下半身をショウに見られてしまった恥ずかしさも忘れて。
「さあ、ショウ。行きましょう、案内してください。」
シーラはショウとリムルを促す。
「こちらへ。」
シーラのいつもと変らぬ態度にショウは安心感を覚えていた。きっと間に合ったのだと、そうショウは感じていた。
キーン・キッスは城の広場を走っていた。
(確かにこちらの方に見えたのだけど・・・。)
と、正面の建物から一人の人影が現れる。
「!・・誰!」
キーンは短剣を抜く。
その人影は黒いマントを着た男であった。キーンは以前に遠くからであるがその男を見たことがあった。
「・・・ショット・・・。ショット・ウェポン!」
ショットはゆっくりとキーンに近づいてくる。キーンが剣を構えなおし身構える。
「ほう、私を知っているか、小娘。お前は誰だ?」
「私はゼラーナのキーン・キッスよ!」
キーンが強い語気でショットに言う。気の強い彼女であるが、ショットから感じる不気味さには激しく恐怖を感じていた。
「ほう、キブツ・キッス殿の娘子か。」
ショットは相変わらずゆっくりとキーンに近づいてくる。キーンの理性が警戒信号を激しく発している。
(何よ・・・。この男・・・。変だわ・・・。以前に見たときと感じが全然違う!)
キーンの剣を持つ手に力が入る。
「おやおや、ゼラーナの勇敢な女戦士は丸腰の者を剣で刺すのかね?」
ショットは不気味な笑みを浮かべながら、両手を前に出し、武器を持っていないことを誇示しながらゆっくりと近づいてくる。
キーンは気付いていなかった。近づくショットの右手の手甲から、黒い霧のようなものが湧き出し、やがてそれがキーンの体を包みこもうとしていくのを。
(何?この感じ!え?あ?・・・・あ・・・ああぁぁぁ・・・・・。)
キーンは急に気が遠くなっていくのを感じていた。
目の前が暗くなっていく。
(・・・あ・・・あぁ・・・・ニー・・・・・。)
「しかし、何故リムルがシーラ様と一緒に?」
オーラ・マシン“フォウ”に向かいながらショウ・ザマはリムル・ルフトに尋ねる。
「?え、ええ。それは・・・。」
リムルはかいつまんでこれまでのことをショウに話す。しかし、話しながらもリムルの心はもう別のところに飛んでいた。
(もうすぐゼラーナにいける・・・。ニーに、ニーに会える!!)
リムルの気持ちはショウと出会った事で、ゼラーナ、そしてニーのもとに飛んでいた。
そんなリムルの様子をシーラはうらやましく感じていた。
(こんなにも素直に・・・そして一途に好きな男性のことを想えるとは・・・。)
シーラの唇に再び笑みが甦る。
機械の館を抜け、広場に出た瞬間、一人の騎士が四人を迎えた。
「待っていたぞ!ショウ・ザマ!」
「なに!誰だ!」
ショウはシーラとリムルを背後にかばい、騎士の前に身構えて立つ。
その男は全身黒い板金鎧を着、顔の部分も兜で完全に覆った不気味な騎士であった。
「・・・黒騎士・・・。」
シーラがショウの背後で呟く。
「黒騎士?」
ショウがシーラに聞き返す。しかし、ショウはその男の発するオーラ力に覚えがあった。
「ショウ、この騎士、あの時の黒いオーラ・バトラーの・・・。」
チャム・ファウも思い出していたようだ。数日前、ナの国に向かう途中で出会った謎の黒いオーラ・バトラーから感じた悪しきオーラ力と同じものを全身から発していた。
「ショウ・ザマ、貴様をここから帰さんぞ。」
黒騎士が剣を抜く。
その動きにショウはこの騎士が自分に対し深い憎悪の念を発しているのを感じ取っていた。
(何者だ、この男・・・。)
ショウは剣を抜きつつ考える。しかしこのような深い憎悪の念を発する騎士の存在は記憶になかった。しかし、この男がひどく自分を憎んでいることだけは肌の先からもピリピリと感じ取れた。
ショウは気を張り詰めながら、自分の肩の上にいるチャムに耳打ちする。
「チャム!ここは俺が食い止める。シーラ様とリムルをフォウまで案内して、早く脱出しろ!」
「ええ?でも、ショウ!」
「いいか、この黒い男の標的は俺らしい。だから俺が引きつけている間に二人を連れて行け!」
しかしそれでもショウを心配そうに見つめて動かないチャムにショウはさらに言う。
「今回の作戦の目的は何だ、チャム!」
「シーラ様の救出・・・。」
「わかっているなら、行け!俺は隙を見て逃げる。フォウの操縦はリムルが出来るはずだ!」
ショウはそう言うと、剣を構え直し、黒騎士と対峙する。
キーン・キッスは暗闇の中に一人いた。
そこは上も下もないような、良くわからない世界であった。
(・・・ここは、ここは何処なの・・・。)
キーンは走り出す。しかし、どう走っても何も見えず、何もなかった。まるで無の世界であった。
「みんなは?何処行ったの?ここは何処なのよ?!」
キーンは寂しさと恐れで、叫びまくる。
「誰もいないの!どうして!ねえ!ショウ!マーベル!チャム!」
親しい人の名前を次々に呼ぶキーン。しかし返事はない。キーンの目に涙があふれてくる。
「ニー!!!!」
最後に彼女の愛しい人の名前を叫ぶ。
と。
「キーン。」
背後から彼女を呼ぶ声が聞こえる。
「ニー?」
キーンは振り返る。
と、人影がおぼろげに見えてくる。青い革鎧を着た男だ。
「ニー!」
キーンが叫ぶ。
「キーン、無事だったのか。」
ニーの優しい声が聞こえてくる。その瞬間キーンは駆け出し、彼の厚い胸板に飛び込んでいた。
「ああ、キーン。よかった、無事で。」
ニーが心配でしょうがなかったと言いたげな声で、キーンを抱きしめる。
ニーの熱い体温をキーンは感じる。
(ああ、ニー。ニー。こんなにも私を心配してくれていたの。)
キーンは嬉しさで心が一杯になる。
(ああ、ニー。好き。たとえ振り向いてくれなくても、私はニーのことが好き・・・。)
キーンの中で突然ニーへの慕情の心が膨れ上がる。
そんなキーンの気持ちに応えるかのようにニーが強く彼女を抱きしめる。
彼の熱い体温がますます感じ取れてくる。また心臓の鼓動までも聞こえてくる。
あまりに生々しい体温を感じ、キーンがニーの腕の中で目を開ける。
(え?)
キーンは裸のニーに抱きしめられていた。
そして自分も一糸まとわぬ裸であることに気付く。
驚きつつキーンは顔を上げ、ニーの顔を見る。
ニーの優しい顔がキーンの事を見ている。しかしいつもと表情が違う。そう、ニーはいつもリムルを見るときにだけするあの特別な笑顔をキーンに向けていた。
キーンの体が嬉しさで熱くなってくる。今まで何度この表情で自分の事を見て欲しいと念じていたことか。
(ニー・・・。)
キーンはキスをねだるかのように、そっと目を閉じる。
と、彼女の唇に暖かい柔らかいものが触れてくる。
(ああ・・・・。)
キーンの体が奥の方からさらに熱くなってくる。全身の力が抜け、ニーに体を預けていく。
(ああ・・・ニー、ニー!好き!大好き!ああ!ニー!ニー!)
キーンは自分の股間の辺りが熱くなり、溶けていくような心地よい感覚を感じ始めていた。ただそれが何を意味することなのか、彼女には良くわからなかった。ただそこが疼きだし、何かを求めているような気がしていた。
ニーが唇を離す。キーンはゆっくりと目を開ける。変らない優しい笑顔がある。キーンはこの笑顔を守るためなら自分は何でもするだろうと思った。
ニーの左手が腰から胸の方に廻ってきた。彼女のまだ幼い胸の上を優しく愛撫し始める。
「ああ!」
キーンは思わず声を漏らしてしまう。一瞬裸でいる自分、そしてその裸の胸を触られる恥ずかしさを感じるが、乳首を触られた瞬間に体を走った電流により、その感情は消し飛ばされた。
「や!怖い・・・。」
キーンは言いながらも、その電流が駆け巡るたびに感じる気持ち良さに完全に酔っていた。
「ああ!はああ!やだ・・・。ニー。怖い・・。は!はああああああああああ!!!」
キーンはその気持ち良さに、もう何も考えられなくなっていた。
「はあ!熱い!いや!熱いの!ああ、ニー!ニー!ああぁぁぁ・・・・。」
キーンは自分の体の奥の方が熱くなり、何かドロドロと溶け出していくような感覚を強く感じていた。その感覚は股間まで伝わり、痺れたような快感を感じさせていた。
「ニー!ニー!抱いて!私を!強く!お願い!」
キーンは求めるように、自らニーに強くしがみつく。すると、キーンのお腹に堅く熱い棒状のものがあたった。
「・・?これ・・・・?」
キーンはこれが自分の求めているものだと本能的に感じ取った。
先ほどから快楽を生み出しつづけている自分の股間の部分が、どうしてももどかしい感覚を覚えていた。キーンは無意識にそのもどかしさを埋めるものを探していた。そして今、それが何なのか、はっきり理解したのであった。
キーンは男と女のことはほとんど何も知らない。“男性”というものに、彼女の場合は具体的にはニー・ギブンのことなのだが、ぼんやりと憧憬を持っているだけのまだ幼い少女であった。しかし、この瞬間、彼女の本能は男女の営みを本能的に悟っていた。
キーンの女性の部分が激しく疼きだす。知らず知らずのうちに彼女のそこは、溢れんばかりの蜜を沸き立たせ、彼女の膝の辺りまで内股を濡らしていた。
「はあああ!ニー!お願い!お願い!ニー!私、ニーが欲しい!」
キーンはニーの首にしがみつき、キスを求める。そして自分の女性の部分をニーの体に擦り付ける。
ニーはキーンのキスに応じながら、その右手を彼女の膝の下に廻し、抱えるように彼女の下半身を持ち上げる。キーンのそこにニーの熱いものがあたる。
(ああ・・・。ニー・・・。来て・・・。お願い。・・・私の・・・ニー!!)
ニーのものがグイッとキーンのそこを押し広げ、侵入を開始する。
「!はああああ!!!」
キーンはその感覚に耐え切れず、ニーの口から唇を離し、声を出す。
ニーはそんなキーンの様子に構わず、ゆっくりと侵入を続ける。
「はああ!ひ!はひいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃ!」
キーンが悦楽の声を上げる。痛みはなかった。ただこのまま果てしない快楽の中に堕ち込んでいくような、そんな気持ちの良さが彼女の全身を包んだ。
キーンは自分の中にニーの熱いものがしっかり入っているのを、全身で感じていた。それはこの上ない幸福の瞬間であった。
(はあ・・・。ニー!ニーと今一緒になっている!ニーと私は一緒になっている!)
キーンはニーに強く抱きつく!涙が一筋流れる。
(ああ・・・、嬉しい!私はニーと!嬉しい!もう離さない!何があっても!)
キーンのそこはいつまでもニーを感じようとギュッとそれを掴みつづける。
(もう離さない!ニー!この幸せを!誰にも壊させない!)
ニーのものがキーンの中で動き出す。
「は!はひい!いい!ああ!ニー!もっと!もっと!強く!あああ・・ひいい!」
キーンのそこから全身に向け、激しい刺激が駆け巡る。
「いいの!いいの!もっと!もっと、ニー!ああひい!」
キーン自身、自ら腰を振りつづける。
キーンはもう何がどうなっているのか全くわからなくなっていた。自分の大事なそこから湧き出してくる快楽をひたすら貪ろうとした。
「はあ!ニー!お願い!もっと!もっと!強く!いい!ひゃあ!はひい!ひい!ひい!」
ニーの動きが速くなる。キーンもそれに応えるかのように、もしくは、ニーを強く感じるかのようにギュッとニーのものを掴みこむ。
その瞬間!
ニーのものがキーンの中で爆発した。熱い液体がキーンの体の奥深くに注ぎ込まれる。
「はあああぁぁぁぁ・・・・・・・・・。」
キーンは体の中がその熱いもので満たされていくことに激しい幸福感を感じていた。
(はあ・・・ニー・・・・ニー・・・。)
キーンはその瞬間、この激しい幸福な気持ちを失いたくないと強く感じた。そして、それを失うことは死よりも、いや、この世のどんなことよりも恐ろしい事のように思えた。
(ニー・・・。もう離さない・・・。何があっても・・・・もう・・・。)
キーンはニーに強くしがみつく。
(私からこの幸せを奪おうとするものがいたら・・・・。)
キーンは激しく思う。
(私はそれを殺す。)
続く
◎登場人物紹介
ラウの国
○ エレ・ハンム
ミ
の国の王女。大国ラウの国のフォイゾン王の孫娘。“霊力”といわれる先を見通す不思議な力を持つ14〜5歳の少女。ミの国がアの国ドレイク軍に滅ぼされた後、“霊力”を高めるため母とともに山にこもる。母の死後、ミの国崩壊のときに縁のあったゼラーナに乗り込むこととなるが、祖父フォイゾン王の死により、ラウの国の旗頭となる。
○ エイブ・タマリ
ラウの国の巨大戦艦“ゴラオン”の艦長。エレを常にサポートするラウの国の軍人。
○ フォイゾン王
大国ラウの国の賢王。古武士の風格を持つ。ドレイクの野心に危険なものを感じ、ゼラーナ隊に協力する。ミの国に駆け落ちした娘の子エレには愛情を感じつつもそれを面にあらわすことはない。アの国との戦の中、戦死する。
オーラ・シップ“ゼラーナ”
○ キーン・キッス
ギブン家に仕えていたキッス家の一人娘。ギブン家の跡取であるニー・ギブンに憧れに近い恋心を抱いている13〜4歳ぐらいの気の強い少女。リムルとも仲はいい。
アの国
○ キブツ・キッス
キーンの父。ギブン家滅亡後、キッス家を守るためドレイクに仕える。その後ゼラーナと戦い、戦死。
◎用語説明
★ ボチューン
ラウの国製造の量産型オーラ・バトラー。
★ ズワァース
黒騎士専用の黒いオーラ・バトラー。
★ ドラムロ
初期に作られたオーラ・バトラー。ドレイク軍の多くはこのオーラ・バトラーを使用している。
★ ゴラオン
ラウの国の城のような巨大なオーラ・シップ。ラウの国軍の旗艦。
★ ウイング・キャリバー“フォウ”
オーラ・バトラーの輸送も出来る重戦闘機のようなオーラ・マシン。(オーラ・バトラーの馬代わりか?)フォウはゼラーナに所属する虫形をしている二人乗りのウイング・キャリバー。
→進む
→戻る
→黒きオーラ力のトップへ
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