■偲芳歌(しほうか)■【1】
「私の可愛い人形 素敵な着物着せましょう
キラキラ金の簪(かんざし) 幸せをあげる」
「私の可愛い人形 綺麗な帯もあげましょう
茜の珊瑚飾った 美しい帯よ」
「恵み多き豊かな国 花が溢れ
街角に ほら聞こえる 喜び歌う声が」
「私の可愛い人形 優しく抱いてあげましょう
紅色の唇 褪せないように」
「恵み多き豊かな国 風はそよぎ
街角に 聞こえる歌 永久に誓う幸せを」
「ふふ、素敵な歌ね。
さすが、鷹隼に一瓊ありと言われていたほどですわ。」
祥瓊は、主人からお褒めの言葉を頂いた。
「はい、ありがとうございます。」
祥瓊は幸せだった。
かつてのように王宮に住んで『素敵な着物』を着て歌っていればいいのだから。
それに、祥瓊を必要だと言ってくれる主人がずっとここにいていいと言ってくださっている。
仙籍に入れてもらったので、醜く老いることもなくなりかつてのように髪も肌ももとの艶に戻り永遠に美しいままでいられる。
難しいことなどなにも考える必要はない。
主人の命令に従っていればなにも問題はないのだから。
祥瓊はまさに、歌の中の人形のようであった。
「祥瓊がこの国にいるってどういうことなの?」
玉座に座っているのはどうみても12〜3歳ぐらいの勝ち気そうな雰囲気の少女だった。
それが恭国供王珠晶である。
珠晶は、苛立ちも露わに金色の髮の大柄な若者に当たり散らしていた。
若者は恭国の麒麟である供麒である。
「あたしは祥瓊を国外退去にするように命じたはずよ。
十分なほど寛大な処置だと思うのだけど、何が不満なのかしら?」
「祥瓊様は主上に直接会って謝罪したいそうなのです。」
「それで?」
「祥瓊様は何度も私に嘆願なさったのです。
一目だけでも会ってはいただけませんか?」
供麒は叱られた飼い犬のように身を縮めながら、それでも主人の説得を続ける。
「祥瓊様はいかなる罰でも受ける覚悟でここに参られたのです。
その心を察してください。」
供麒の必死の説得にも最初は聞く耳を持たなかった珠晶だが、興味を引かれる台詞に笑みをもらした。
「あの……主上、どうなさいました?」
「ふ〜ん、『いかなる罰でも』ね。
ふふ、いいことを思いついたわ、いいでしょう。
会ってあげてもいいわ。
でも、その前に供麒に準備して貰いたいものがあるのだけど……」
先ほどまで珠晶は祥瓊に会うことなどまるで考えていなかったが、今では一刻でも早く会うことが楽しみでならなかった。
祥瓊が王宮の中に入ってから一週間が過ぎていた。
祥瓊が今いる部屋は罪人には不釣り合いなほど豪華なもので、最初は何かの間違いではないかと疑ったほどだ。
しかし、かつての暮らしを思い出させる豪華な部屋はかえって祥瓊の居心地を悪くするだけであった。
この豪華な部屋に入ってから祥瓊は珠晶はおろか供麒にも会うことが出来ず、ずっと待ち続けることしかできなかった。
与えられた服も食事も豪華なものであったがそれを楽しむ余裕は今の祥瓊にはなかった。
それに、ここ何日か躰が火照って疼く感じがしてなんだかもどかしかった。
一週間が過ぎ朝食後、婢(はしため)が湯浴みをするように言ってきた。
祥瓊は命じられるまま、婢(はしため)に浴室に案内される。
祥瓊は贅を尽くした浴室で、婢(はしため)達の手で、徹底的に頭から爪先まで磨き上げられた。
広い浴室で祥瓊の躰を、婢(はしため)達が石鹸の泡を立てながら布でごしごしと洗い立てる。
祥瓊の蒼い髪も丹念に洗い、泡だらけの祥瓊を婢(はしため)達が湯で洗い流し湯船に沈めた。
脱衣所で丹念に祥瓊の躰は乾かされ、甘い香りの香油を祥瓊の躰に塗り込んだ。
婢(はしため)達の手は特に股間の秘所や、胸の小さく敏感な乳首に不自然なまでに執拗に触れてくる。
その後、用意された小衫(じゅばん)だけを纏った。
こんな薄着だけなんて恥ずかしいかったが、我が儘が言える雰囲気ではないので大人しく従う。
小衫(じゅばん)は、おそらく絹なのであろうがおどろくほど薄かった。
なにしろ、広げてみればその小衫(じゅばん)の向こうが透けて見えるほどであったのだ。
そして、その小衫(じゅばん)はその薄さだけではなく、全体が抜けるような真っ白であることもあいまって、それを身に付けたものの躰の線どころかその裸身すらも見ているものに丸見えにしていた。
その結果、祥瓊は躰の大半を布で覆っているのにもかかわらず、全裸よりもはるかに恥かしい姿を晒すはめになっていた。
その小衫(じゅばん)だけを身に着けた祥瓊を婢(はしため)が薄暗い地下に連れていった。
そこは牢獄のような作りで、これまでの豪華な部屋とのあまりの違いに祥瓊は恐れを抱いた。
中には粗末な大卓(つくえ)や床几 (こしかけ)、石で出来た臥牀(ねどこ)、炉や金床、何に使うか判らないが禍々しい道具類がいくつも並べられていた。
こんな場所に珠晶がいるのか疑念を抱きつつも祥瓊は婢(はしため)に従い、地下の部屋まで連れていかれる。
「お久しぶりね、祥瓊。」
部屋に入ると珠晶が笑みを浮かべながら祥瓊を出迎えた。
それは、欲しがっていた玩具をやっと手に入れた子供のようにも見える。
珠晶はじっくりと、祥瓊の躰を視線で舐めまわした。
祥瓊の乳房は布地がぴったりと張り付き、その頂点のピンク色の蕾を含めその全体を珠晶の眼にさらしていた。
お尻にも乳房同様布地が張り付き珠晶の眼を楽しませた。
躰を視姦された祥瓊は、全身が強張るほどの羞恥を感じたが懸命に堪えようとした。
だが、同姓に見つめられているだけなのに鼓動が早くなり躰が沸るような気がした。
祥瓊は羞恥に震える躰を隠すように跪き頭を床につける。
震えてしまうのはそれだけではなかった。
珠晶はいつも祥瓊につらく当たっていたので、笑みを浮かべていることがとても不気味であったのだ。
「顔を上げなさい。
なにか、言いたいことがあったら言ってもいいわよ。」
「……あ、あの、申し訳ありませんでした……」
祥瓊は羞恥に震えながら、顔を上げると珠晶に謝罪の言葉を紡いだ。
「なにが申し訳ないのかしら?」
珠晶は笑みを浮かべたまま意地悪く、知らない振りをして祥瓊に問い返す。
「王宮の御庫にあった宝飾品を盗んだことで御座います。」
「あら、国外退去では不満なのかしら?」
「不満などございません。一目、お会いして謝罪したかったのです。」
「それだけ?」
「いえ、無くなった宝飾品はなんとかして、お返しします。」
「判っているの?
あなたが盗った宝飾品の価値は莫大なものなのよ。
あなたが死ぬまで婢(はしため)として働いたとしても、とても払いきれない額よ。」
「どんなに辛いことでもします、なんでもします。
ですから、お願いします!」
「本当になんでもするの?」
「はい」
「それならば、これからあたしのすることには一切逆らわないと約束できるかしら?」
「はい、仰せのままにいたします。」
「よろしい。
あたしの言うとおりにすれば、これまでのことは許してあげるわ。」
「寛大な処置、ありがとうございます。」
勢いで言ってしまったが、祥瓊はなにか取り返しのつかないことをしてしまったような気がした。
もはや、二度と日の光を見ることは叶わぬのではないかと思った。
珠晶は愉快な気分であった。
王となって、もはや十二歳より成長することのない小さな躰に対して、十二分に成長した祥瓊の躰は珠晶に羨望と嫉妬を抱かせるものであった。
その祥瓊を自分の思うまま嬲ることは、珠晶の心に淫靡な楽しみをもたらしてくれるだろう。
そう思うと、つい笑みが漏れる。
珠晶は口元に笑みを浮かべて真っ直ぐに祥瓊を見た。
嬉しそうに笑みを浮かべる珠晶の視線に気付き、祥瓊はこれから起こることを思うと不安に感じたが跪き顔を伏せていることしかできなかった。
「そんなに不安がらなくても大丈夫。
そんなに難しいことはさせないし、あなたもすぐに好きになるはずよ。」
「は…はい。」
祥瓊はすぐにでも逃げ出したくなったが、それではここまで苦労して来た意味が無いと思い止まった。
「実は1週間もお前を待たせてしまったのは、これを用意させていたからなのよ。」
そう言うと珠晶は婢(はしため)に命じて、大小さまざな箱を脇の大卓(つくえ)に持って来させた。
珠晶はそのなかにある箱のひとつを開けると、大きさの違う金属の輪を取り出した。
「…え……これは?……」
「見て判らない?首輪よ。
今からお前を飼ってあげるわ。
それには、お前の身分がすぐ判るようにしないといけないでしょ?」
「そ……そんな…あんまりです…」
「さっき言ったでしょう。お前は一切逆らうことなんてできないのよ!」
「…ヒッ……」
不意に珠晶の顔が近づき、真っ正面から祥瓊の瞳を覗き込まれると、恐怖のあまり祥瓊は躰を硬直させ首を縦に振ることしかできなかった。
「あたしに対する返事は『はい』と『判りました』だけよ!」
「は…はい…」
「よろしい、まずはこれを首に嵌めてあげるわ。」
祥瓊を床几 (こしかけ)に座らせると、珠晶は首輪を取り出し祥瓊の首に填めた。
幅の広い金属の首輪を嵌めるとしゃらんと鈴のような音をさせしっかりと固定させた。
首輪は鉄製の頑丈なもので中央にはOの形をしたリングが取り付けてあった。
それだけなら奴隷用の首輪でしかなかったが、その首輪の表面は鏡のように磨かれ大きな宝石がいくつも埋め込まれていた。
「どう、苦しくはない?」
「はい…大丈夫です。」
「良かったわ。もう破壊する以外には取ることは不可能だからね。」
「そんな酷い!」
「これは、お前のためなのよ。
こうしておけば盗られたり、無くしたりすることはないでしょう?
この首輪だけで館第 (やしき)が1つ買えるだけの価値があるのよ。」
「どうして、首輪なんかにそんな豪華な装飾を……」
「あら、お前が宝飾品が好きだから、せっかく着けてあげたのになにが不満なのかしら?
ああ、判ったわ、もっと飾り付けて欲しいのね」
「そんな、ちが……は…い、そうです。」
再び、珠晶に睨まれると祥瓊には否定の言葉など言えるはずも無かった。
「次は腕輪と脚輪よ。
これは自分で着けなさい。」
「判りました……」
結局、祥瓊は言われるが侭に自らの手で二度と取ることのできない豪華な枷を取り付けてしまった。
腕輪、脚輪は首輪と同様の構造をしており、大きさのみ違っていた。
「それじゃあ、着物を脱いでそこの石の臥牀(ねどこ)に寝てちょうだい。」
珠晶が指を示した先には、石で出来た拘束台があった。
台の上には躰を拘束する鎖とそれを巻き上げるための車輪のような機械が備え付けられている。
「…イ…イヤ……」
祥瓊はガタガタと震えだし床几 (こしかけ)から動けなくなった。
祥瓊は村での私刑を思い出していた。
手足を縛られ、牛に躰を裂かれる恐怖が蘇る。
「世話がかかるわね、仕方ないわ。」
そう言いながら珠晶が婢(はしため)達に目配せすると、婢(はしため)達は無言で祥瓊の小衫(じゅばん)を剥ぎ取り、両脇から腕を掴み二人がかりで無理矢理臥牀(ねどこ)に引っ張っていった。
今、祥瓊が身に着けている物は豪華な装飾を施された金属の輪だけであった。
「やめ……やめて……お願い!」
「………」
婢(はしため)達は祥瓊の懇願にも耳を貸さずに黙々と作業を続けた。
ガチャ…ガチャ…
「い…痛っ…痛いわ……」
首輪、腕輪、脚輪に鎖を取り付けると、車輪のような機械で一本ずつ鎖を巻き上げていった。
祥瓊の手も足も限界以上に引っ張られ、石の臥牀(ねどこ)に固定されてしまった。
大の字で固定されると祥瓊は身動き一つできなくなる。
「やめて、死にたくない……お願い…」
「大人しくしなさい。別に殺しはしないわよ。
いい、祥瓊。これからお前はあたしを楽しませるだけの人形になるの。
そのためにお前の躰を大好きな歌の通りに飾り付けてあげる。
そうしてあたしがお前を淫らな人形としてずっと可愛がってあげるからね。」
「…は…はい、判り…ました……」
祥瓊の躰は拘束され動くことなどできない状態であったが、見た目は年下の少女でしかない珠晶に威圧され心もまでも拘束されてしまっていた。
ここに来てようやく祥瓊は珠晶が温情を見せて受け入れたのではなく、自分を嬲るために招いたことに気がついた。
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