こわばった女の身体につきささる視線。その屈辱の言葉が終わった瞬間、男たちの笑声が女刑事をさらなる汚辱の深みにつき落とした。
 男たちは女の屈辱の言葉にさらなる嘲笑をあびせかける。
「くははははっ。認めやがったぜっ」
「これだけヌレヌレ、ビショビショなんだから意地を張っても無駄だってのに」
 男たちのなぶりはなおもやむことはなかった。抵抗の弱まった女体を思うさま蹂躙していく。
「あっ──そ、そんな、許して──楽になれるって──」
 狼狽する囚人がかすれた声でつぶやくが、返って来るのは残酷な一言。
「感じていることを認めたご褒美に、イカせてやるさ。思い切りな」
 女の瞳に怒りが噴きあがるが、もはや快楽にそまった体ではその怒りすらも持続させることが困難なようだった。
「だ、だましたのねっ! ひ、ひどい──」
「別にだましたわけじゃない。あんたが勝手に期待しただけさ」
 女の燃え上がるような悲憤の瞳を受け流しながら、男はその首筋に唇を押し付けていく。
「く、痛ウッ!」
 男が苦痛のうめきをあげて飛びのいた。耳を押さえて女刑事をにらみつける。エミリーに耳を噛まれたのだ。被害はたいしたことないが、わずかながらも滲んでいる血に、男が逆上する。
「こ、このアマアッ」
 快楽にあえぎ、悶えながらも女刑事は意志の力をふりしぼって男たちをにらみつける。真っ赤になった顔の中で潤みながらも、輝く瞳はなおも美しく凄艶という言葉を思い起こさせた。
「思い知らせて──ガアッ!?」
 エミリーにつかみかかろうとした男の身体が反転して床に叩きつけられる。一瞬のうちに身を起こしていたカーツが男を突き倒したのだ。容赦のない一撃だった。男は昏倒したらしくピクリとも動かなかった。
「すまねえなあ、エミリーよ。油断したあいつが悪いのさ」
 逆上したあげくに女を傷つけようとした部下をあっさりと気絶させると、カーツはふたたび腰を下ろし、一瞬動きの止まった部下達に続けろと合図をしてみせる。
「女刑事さんが頑張っているところ申し訳ねえが、立場というものを思い知らせてやんな。イかせてやったら、ちょっとばかりキツイお仕置きをしてやれ」
 挑むようなエミリーの視線に苦笑を浮かべて見せると、カーツは酒瓶を手にとった。
「ボスは手を出さないんで?」
「ああ、さっきはオレのところまでまわってこなかったからな」
 敵に塩を送られたのか、それともさらなる恥辱に落とされたのか。複雑な心境だったが、今の危機的状況には何ら変化がない。攻め寄せる快楽をいかに耐えしのぐのか、囚人は懸命に頭をめぐらせるのだった。
 すでに状況は絶望的といっていいだろう。だが、この男たちに、組織の男たちに屈するわけにはいかないのだ。なんとしても脱出して組織に戦いを挑むのだ。まだ彼女はあの男の牙城に届いてすらいない。
「うおっ……こ、この女あっ」
 不用意に近付いた男が、エミリーの膝蹴りを受けて苦悶の叫びをあげた。柱に縛りつけられながらも、身体の柔らかいエミリーは鋭い蹴りを繰り出したのだった。まだこの女の牙を折っていないことを思い知らされた男達はカーツの含み笑いに顔をひきつらせながら、手負いの美しい獣を憎々しげににらむのだった。
「わ、私をどうにかしたいなら、一対一でやりあってみなさいっ」
 もはや身につけているのは、腕にまとわりついている部屋着の残骸のみの無残な姿で、状況は絶望的だったが、女はなおも気力を奮い起こして啖呵を切ってみせる。男達の視線には少なからぬ賛嘆の念が浮かんでいた。
 だが、男たちは残酷だった。必死に己を立てなおそうとする女刑事にからみつき、その力をしぼりとっていく。背中に抱かされた柱の向こうで、腕を締め上げる縄に男達の手がかかった。ぐい、と容赦なく持ち上げる。柱の回された腕がギチギチと締め上げられると同時に肩関節に激痛が走った。
「ぐっ……」
 ただでさえ痛めつけられた肩関節には、もう負担はかけられなかった。爪先立ちになって少しでも肩関節にかかる力を和らげるしかなかった。だが、それこそが男達の狙いだったのだ。
 ガチャン! 続けざまに足元で何やら金具の音がした。
 ──しまった──!
 足を枷に繋がれてしまったのだ。男達は女刑事の身体の自由を徹底的に奪うつもりのようだった。枷には細いながらもしっかりした鎖がつながれていて、左足のそれがじわじわと引きしぼられていく。遠巻きに見ていた男達の顔に笑みが広がっていく。
「ひゃっははははあ──いい顔してるぜえっ」
 狼狽する女刑事の表情をあざ笑いながら、鍛えられた長い足が持ち上げられていく。ギリギリと鎖を巻き上げる音とともにバランスを失えば肩関節が破壊されかねない状況で左足が浮きあがる。野生の獣を思わせるシャープな印象のある足が震えていた。
「あ……ああっ……こ、こんなあっ」
 ほとんど全裸のまま柱にくくりつけられた女の左ひざが曲がり、なおも持ち上げられていく。柱の上に繋がれているらしい鎖はそのまま上に引かれていたため、エミリーの左脚はまるであぐらをかいたように足首が下腹部の前に引き上げられていた。
 一本で体重を支えなくてはならなくなった右足は不安定な姿勢にブルブルと震えている。
 ──ま、丸見えじゃない、これじゃあ──っ
 当然ながら、その秘所は隠すものもなく剥き出しになっている。しかも大きく開いた股関節のせいで、形のいい花びらがうっすらと開いてしまっている。エミリーは男達の視線をその部分に感じ、今更ながらに羞恥心を刺激されていた。
「へへっ……いい色合いじゃねえか。興奮するぜえっ」
 下品な声が耳に突き刺さる。かくせるものなら隠したい。なんとか身体をうごかして羞恥の部分を隠そうとするが、無駄なあがきだった。女捜査官の滑稽な動作に男達が笑い声をあげるのを、歯をくいしばって甘受するのみだ。
「ははは、少しは自分の立場がわかったか? 刑事さんよおっ」
 歯をくいしばりながらも、女は男達をにらみつける。無言ながらもその視線は男達の一人一人をその頭脳に刻みこむかのように注がれていた。
「まだそんな目ができるのか。さすがなあ、じゃあ、次だ」
 男達はなおも軽い口調でそんなことを言う。どこまで痛め付けるつもりなのだろうか。さすがにエミリーの背筋に冷たいものが走る
 理性では、一度は男達に従ったほうがいいのは明らかだった。ここで男達を怒らせて命を失うわけにはいかない。だが、同時に彼女のプライドがそれを拒否している。何よりも、「組織」を倒すためだけに生きてきた彼女の自我にとって、この男達に屈するのは死にも等しい選択だったのだ。
「ヌレヌレのアソコ、もっとよく見せてもらうぜ」
 必死に気を張って男達を見返すエミリーだが、もはやその瞳に力はない。女としても恥ずかしい姿勢を強要されたままではその精神の鋭さにも翳りが見えてきたようだった。


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