第五章・アカネイアパレス

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 「ドルーアから解放されたアカネイアパレスでは盛大な宴が催されていた。
 長かったドルーアによる支配が終わり人々の顔には笑顔で溢れている。
 その人々の輪から離れたところでマルスは一人佇んでいた。
 「マルス様どうなされました?そのように浮かない顔をして・・」
 心配そうにジェイガンが声を掛けてくる。
 「ちょっと気になっているんだ。今日僕が倒したボーゼンは本物だったのだろうか・・ってね」
 「いや、でもウェンデル殿の話によればボーゼン本人に間違いないとの事ですが・・」
 若き指揮官の突然の不安にジェイガンも少し戸惑っていた。
 「うん、ウェンデル殿がそう言っているのだから本人であることは間違いないんだ。でも、おかしいんだ。今日僕はミディアのおかげでボーゼンを奇襲することができた。隙を突いて一撃で倒すつもりだったんだ。でも急所を外してしまった。その瞬間僕は死を覚悟した。」
 マルスはその時の事を思い出したのか身を震わせた。
 「ボーゼンが呪文を唱え、腕を前に突き出した時・・何故か魔法は発動しなかったんだ。マリクが言うには魔法を失敗することは絶対にありえないそうなんだ。それなのに失敗した・・。それ以外にも不思議なことはある。僕達の軍勢は少しずつ大きくなっているけど昔のアリティアやアカネイアの軍の規模には到底及ばない」
 「はあ、確かにそうですが・・」
 「変だと思わないか?僕達は僅かな兵力だけでマケドニアとグルニアの大部隊に勝ち続けている。もちろん皆が頑張ってくれてるからなんだろうけど・・あまりにも上手く行き過ぎて・・」
 マルスは自分の掌を見つめながら呟いた。
 「時々思うんだよ・・ひょっとしたら僕達は、誰かの掌の上で踊らされているんじゃないかってね」


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