第六章・悲しみの大地グラ

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僅か一ヶ月足らずの間にアカネイア大陸を巡る状勢は大きく変化していた。
大陸のほぼ全土を手中にしていたドルーア帝国の領土が急激に減少し、今や大陸の半分近くがアカネイアを中心とする反乱軍によって解放されていた。
そしてそのアカネイア軍の進攻は留まることを知らず、パレス開放から数週間後には先の戦いで裏切ったグラを滅ぼし、今やカダインに向けて兵を進ませていた。
その一方、ただ軍を進めるだけではなく、解放した国への処理も適切に行っていた。
本来アリティアを裏切ったグラは完全に滅ぼされる所なのだが、マルス王子の「グラを無くしてしまうのは簡単だが、それはいずれグラの国民の心に大きな傷を残し、新たな戦争の火種になりかねない。グラは父の仇ではあるけれど、その仇討ちをするよりも未来の平和の為に我慢することを父も望むはずだ」という言葉によって不問にされることとなった。
よってグラは当分の間、アカネイアの監視下に置かれ、戦争が全て終わった後に新たな国家として出発することになったのである。

「遠いところをわざわざおいでいただきありがとうございます」
本来、グラ王ジオルが座るべきはずの玉座に腰を下ろしたラングに対して、一人の女性が頭を下げていた。
彼女はジオルの一人娘のシーマという長身長髪のとても美しい女性であった。
「うむ。俺はアカネイア王女ニーナの命令でグラの監視役になったラングだ。この先グラが独立国になるか、アカネイアの属領になるかは俺の判断に掛かっていると思ってくれ」
左右にシーダとリンダの二人の美女を従えたラングは目の前のシーマを見下していた。
ラングの言っていることは本当で、ニーナの命令でグラの監視役に選ばれたのではあるが、実際のところ、国政のことなど全く知らないニーナに代わりラングの息の掛かった貴族がラングを監視役になるように仕向けたのである。
「とりあえず、ジオル殿と会って話をさせてくれ」
簡単な挨拶を終えると一行はジオルの部屋へと向かった。

グラ王ジオルはアカネイア軍との戦いで深手を負い、今は生死の境にいた。
ラングはそのジオルが寝ている部屋へ入ると、人払いをしてたった一人でジオルの前に立った。
「あんたがジオルか。生きているうちに会えて光栄だな」
一国の王に全く敬意を払わないふてぶてしい態度でラングは自分がグラの監視役であり、今後グラの存亡を握っていることなどを話した。
「そういうわけで、この国を潰すことも俺なら簡単に出来るんだが、今のところはそのつもりはない。但し、次の質問に正直に答えたら、だ」
黙って聞いていたジオルの目が少し細くなった。
本来なら人の話を聞いているだけで苦痛なのだろうが、グラの将来が掛かっているとなれば我慢をするしかない。
「ジオルよ・・光の剣はいったいどこに隠してあるんだ?」
ラングの質問に細くなったジオルの目が一瞬大きく開かれた。
「アカネイアに負けたとき、ニーナ王女にも申し上げたが、光の剣はこの国にはない。ドルーアのガーネフが持っている・・」
言葉を発するのがやっとと言わんばかりの細い声でジオルは光の剣の無いことを話した。
しかし、ラングはそのジオルの言葉が嘘だと見抜いていた。
「おい、ジオル。嘘をつくんじゃねえよ。ニーナのような甘ちゃんは騙せても俺は騙せねえぜ。大体、こんなちっぽけな国が今までドルーアに攻撃されなかった理由はなんだ?光の剣をアリティアから奪った褒美か?ドルーアの連中はそんな約束を守るはずがねえ。光の剣を渡したらそのままこの国も一緒に滅ぼされてたはずだ」
「貴様・・いったい・・・」
ジオルは正直驚いていた。
今ラングが言ったことは本当であった。
3年前、アリティアを裏切り光の剣を手に入れるとすぐにドルーア軍からその剣を渡せという命令が来た。
もしジオルが暗愚な王であったらそのまま渡していたのであろうが、ジオルはその申し出を断った。
理由はラングが言ったとおり、光の剣を渡せば用無しになったグラは滅ぼされると思ったからである。
「どの国にも王族しか知らない秘密の宝物庫があるはずだ。そこに光の剣が隠してあるんだろう。ドルーアの連中も光の剣は喉から手が出るほど欲しいが、宝物庫の場所がわからない。もしグラを攻めたとき、ジオルを首尾良く生け捕りに出来ればいいが、その前に自害されたら光の剣の在り処は永遠に謎のまま。そんな理由でドルーアも手が出せないでいたんだろう・・・。だが、ひとつわからないのは何故ニーナには光の剣の場所を教えなかったんだ?」
「・・・わが国に侵略してきた輩には、例え相手がだれであろうと宝物庫の場所など教える気などない・・・無論、ラングお前にもだ・・・」
「俺の話を聞いていなかったのか?俺はこの国を再興するためにやってきたんだぜ・・・だが、まあいい。どうしても教えないというなら・・・あのシーマというのはお前の娘だそうだな。俺好みのいいオンナだ」
ラングの顔がいやらしく歪む。
「貴様、我が娘に何をする気だ・・」
「光の剣の在り処を素直に話せば、悪いようにはしない。グラ王国も再興できるようにしてやる」
暫くの間沈黙が流れた。
そしてジオルがゆっくりと口を開いた。
「宝物庫はこの部屋から続いている。鍵はこれだ。しかし鍵穴の位置は今は教えられん。この部屋が月の光に照らされたときにだけ現れるように細工してある」
ラングは窓から外を眺めた。
あいにくな事に今日は曇っていて月は出ていなかった。
「本当なんだろうな」
疑うような視線でジオルを睨みながら、宝物庫の鍵を奪い取った。
ジオルは疲れきった表情で深い眠りに落ちていた。


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