第三章・プリンセスミネルバ

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 「ぐわぁ!」
 「くそぉ!コノヤロー!」
 突然、シーダの耳に男達の怒号と金属と金属のぶつかり合う音が聞こえてきた。
 何事かと自由の利かない身体を這わせて馬車から顔だけ出して外の様子を覗いてみた。
 そこには自分達を奴隷として売り捌こうとした山賊達の姿は無く、替わりに飛竜に乗った女騎士の姿が見えた。
 飛竜の女騎士は倒した男がもう立ち上がって来ないことを確認してから地に降り立つと馬車に近づいてきた。
 「怪我はありませんか?もう大丈夫ですよ」
 薄らと微笑みながら近づいてきた女騎士はとても落ち着いた綺麗な声で話し掛けてきた。
 「あ!」
 蒼白い月明かりに照らされた女騎士の顔を見てシーダは目を見開いた。
 「ミネルバ王女・・・」
 戦乱に陥る前はタリスとマケドニアはとても友好的な関係を築いていた。
 シーダも父に連れられてマケドニアに赴いたことが何度もあった。
 その時に目にしたのが王女でありながら最強と謳われるマケドニア竜騎士団の一員であるミネルバの凛々しい姿だった。
 (自分も何時の日にかミネルバ王女のような素晴らしい人物になりたい)
 シーダがペガサスに乗るようになったのはミネルバとの出会いが原因であったといっても過言ではなかった。
 そのミネルバに自分の恥かしい姿は見せたくない。
 シーダは急いで身体を隠そうとするがとても間に合うはずがなかった。
 「まさか・・・シーダ王女では・・・」
 「いやっ・・・見ないでっ!」
 タリスの王女が奴隷を運ぶ馬車の中にいるとは思っていなかったミネルバは声を失っていた。


 拘束を解かれ、ミネルバのマントを借りて素肌を隠したシーダは徐々に落ち着きを取り戻した。
 そして今までの出来事をミネルバに包み隠さずに話した。
 「マルス王子・・・それなら昨日出会いました」
 ミネルバの言葉にシーダは驚きを隠せなかった。
 アリティアとマケドニアは対立している。
 そんな状況で出会って戦闘にならないはずはなく、そして今ミネルバが目の前にいる。
 ということは、マルスは戦闘に負けたということなのか・・・。
 シーダの不安が顔に出たのを見てミネルバはすぐに続きを話しはじめた。
 「出会ったと言っても少し見かけただけです。私は将軍のやりかたが気に入らず途中で離脱してしまいましたのでその先はわかりませんが、マルス殿はあのような浅はかな策略に掛かるような方では無いでしょう。今頃はレフガンティを抜けてワーレンに辿り着いている頃と思われます」
 ミネルバの言葉を聞いてシーダのマルスへの思いは一気に高まっていく。
 「ミネルバ王女、私をワーレンまで連れて行って貰えませんか」
 シーダの心からの願いを叶えてあげたいミネルバであったがそれは出来ない事であった。
 「ワーレンは今グルニアの統治下になっています。同盟国とはいえマケドニアの人間は無断で入るわけには行かないのです。お力になれなくてすみません」
 とても申し訳なさそうに話すミネルバを見てシーダもそれ以上、頼むことは出来なかった。
 「伏せて!」
 これからの進路について思案中だったシーダ達にミネルバは細く鋭い口調で言い放った。
鬱蒼と生い茂る草々は腰の辺りまであり身を屈めれば簡単に姿を隠すことが出来る。
 茂みの中にシーダ達が身を隠すのと同時に上空から竜騎士が舞い降りてきた。
 「ミネルバ殿、何をしておられる。ジューコフ殿がお呼びだ。すぐ参られよ」
 それだけ言い残すとその竜騎士はまた大空へ飛び立っていった。
 その姿が見えなくなるとミネルバはすまなそうな口調で言った。
 「出来ればシーダ殿を匿いたいのですが、今の私は兄に反抗していることもあってマケドニア内で危うい位置にいるのです。砦にお連れしたとしてもその後の無事を保障することはすることはできません。かえって酷い目に会わせてしまうかもしれません。なので暫くここで身を隠していてもらえませんでしょうか。すぐに私の部下のパオラをここに向かわせます。どうか私を信じてパオラの指示に従ってください。決して悪いようには致しません」
 ミネルバはシーダの手を強く握ると軽く抱きしめてから飛竜に乗って飛び立っていった。そして不安な面持ちの二人が草原に残された。


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