■■■■4 新生(コトナさんのプリッと赤ちゃん産んじゃうぞ編)


 行方不明になったコトナを探して、有志による捜索隊が何チームも編成されたが、その熱意にも関わらず、コトナの手がかりは一向に掴めなかった。行動範囲が大きい飛行型のレインボージャークを探索するには、陸上活動型のゾイドではどうしても無理があるのである。心配する人々の気持ちをよそに、コトナが姿を消して、すでに十ヶ月の歳月が流れようとしていた……。


「うっぐ! うっぐう〜!」
 コトナ・エレガンスの大きく開かれた肢体が闇の中でのたうっていた。何も身につけていない真っ白な全裸体がビッショリと汗にまみれている。
「ぶうっぐ!!」
 その喉から苦しそうなうなり声が漏れる。腕や脚を拘束され身体を引き延ばされたコトナは、その口中に突き入れられた太い筒状のギャグによって、言葉を発することもままならない。
 その腹部は大きく丸々と膨らんで、先ほどから激しく上下している。表面には青や緑色の血管が網目のように透けて浮かび上がっていた。
 ……その姿は、まぎれもなく臨月の妊婦そのものだ。
「ぴふーっ、ぴふううっ!」
 今にも、はち切れそうなボテ腹に並ぶように、パンパンに張り詰めた乳房が双つそろってブルブルと痙攣している。妊婦特有の濃褐色に染まった乳首の根本には、きつく金属リングがはめ込まれ、その敏感な先端部分を、これでもかとばかりに締め上げていた。
「閣下、……閣下、聞こえますか?」
 コトナの大きく拡げられた両脚の間に陣取るように居座った白衣の医師らしき男が、コトナの股ぐらに呼びかけていた。一見、こっけいな風景にしか見えないものの、額に脂汗を浮かべた男の表情と、なにより苦しみもがくコトナの様子は尋常ではない。
「閣下、応答して下さいっ!」
 コトナの股間には、グロテスクなオムツのような黒い貞操帯が填め込まれていた。
ギュウ〜っ! ギュ! ビク、ビクン!!
 その下では、先ほどから何度も、えずくように女性器全体が激しく収縮を繰り返している。その度にヴァギナに「栓」をするように突き入れられた太い筒具が、コトナの括約筋によって押し出され、そしてまた貞操帯に押し戻されてヒクヒクと痙攣するヴァギナに沈み込んでいった。
「おっ、おっおっお!」
 涙の止まらないコトナの両眼が大きく見開かれ、全身の筋肉をさざ波のように痙攣が走った。ひときわ盛り上がった妊婦腹を、さらに天に突き上げるようにして硬直する。
ビシャ、ビシャ、ビシャ!
 貞操帯の筒具の隙間から羊水が吹き出す。ついに破水したのだ。
「おぐぅ〜。ぐうっぷ!」
 ガッチリとコトナの股間に巻き付けられた貞操帯の底の部分からは、黒いコードが延びマイクロフォンに結びつけられていた。
 そのマイクロフォンに男が呼びかける。
「閣下。すでに破水しています。それ以上、この女の胎内に留まるのは危険です!」
ガー、ガガッ! ガピーッ!
 スピーカーからは、砂嵐の吹き荒ぶようなノイズしか聞こえてこない。男の表情には焦りの色が濃い。
ガチャン! ギイィィ!
 重たい音を立てて分厚いドアが開いた。
「どう? ジーン閣下の応答はあるの?」
 踵の固い軍用ブーツを身につけているにも関わらず、ネコのように音も立てず歩くフェルミを先頭に、靴音高くディガルド新武国の幹部陣が暗い手術室に入ってくる。かつて、武帝ジーンの親衛隊として特権を与えられ、軍部内で反乱が起こった時にも、最後までジーンに着いていた者たちだ。
「……うっ、ひどいな」
 部屋にこもった凄まじい「雌」の臭気にフェルミ以外の誰もが眉をひそめた。戦場で嗅ぎ慣れた「血」よりも濃密なその臭い……。それはコトナの汗や床にまでしたたり落ちる羊水、幾多の分泌物の臭いであった。涙、涎に加え大小便を吹きこぼしながら、もう何時間もコトナは分娩台の上でのたうち回っているのだ。
ピュウーっ! ピュピュ! ピュウーっ!!
 金属リングで封じられた乳首からは、間欠泉のように母乳が周囲にしぶく。破水によって母親の身体として活性化したコトナの乳腺は、すでに「栓」をしたくらいでは、あふれる母乳を留めてはおけないのだ。
「ほうんぐーっ! ほうんぐーっ!!」
 フェルミは、まるでハムのように張りつめたコトナの乳房に手を伸ばし、むんずと掴み五指を乳肉に食い込ませた。
ビュルビュル! ビュルーッ!!
 内部から押し上げる母乳の圧力で、固く固く張りつめたコトナの乳房は、フェルミの指がわずかに押しただけで、太い母乳の奔流を弧を描き吹き上げる。
ビチン! カラカラーン!
 母乳の圧力に、今までそれを封じていた金属のリングが勢いよく弾け飛び床に落ちた。止まらなくなった母乳の噴水は、コトナ自身の身体をビシャビシャに濡らす。
「貴女、ずいぶん臭うわよ」
 フェルミは、笑いながらコトナの口に押し込まれた筒状のギャグを引きずり出した。ベタベタの涎の糸を引きながら引きずり出されたそれは、節くれ立ったペニスを型どったグロテスクな代物である。
「はひーっ! はひっ! はひぃーっ! 産ませてっ! 産ませてーっ! 出させてーっ! お願い、お願ひーっしますぅっ! もう、赤ちゃん産ませてーっ!!」
 荒い息の下、コトナの悲鳴が奔流のようにあふれ出る。

「それで、ジーン閣下からの応答はあったの?」
 コトナの悲痛な叫びには耳も貸さず、フェルミは冷たい目線で再度、医師に尋ねた。
「そ、それが……」
 医師は脇の下に冷たい汗をかきながら言葉を濁した。何かしらの反応があるはずなのに、砂嵐のような空電と、胎児の鼓動しか聞こえてこないのだ。
(フン。やっぱりね)。
 フェルミは、この計画の失敗をあらかじめ予測していた。
 バイオゾイドのコアとして人間の命を利用するために、無数の人々を生体実験した結果、ジーンは「生命」の神秘にいくらかは近づいたかもしれない。しかし、しょせん、そこは「神」の領域なのだ。永遠の生命を求めてバイオゾイドのコアに移されていたのは、あえて言えばジーンの残留思念とも呼ぶべき反応の記憶にすぎなかったのだ。
「大丈夫よ。新しく産まれる際に前の記憶がリセットされるだけで、魂はジーン閣下のモノだから」
 フェルミは、自信なげな様子の医師に、自分自身が毛筋ほども信じていないことを口にする。
「……この女の出産の準備に取りかかりましょう」
「は、はいっ!」
 巨大な無影灯が点灯され、真昼の太陽よりも強く、ヌラヌラと濡れ光るコトナの裸身を照らし出した。
「産むっ! はやく産ませてぇっ! 産むの、赤ちゃん出すの。……お腹いたあいっ!」
 虚ろな眼で、産む産むとだけ口走るコトナの腰に巻き付けられた貞操帯が医師の手で外された。
ムリムリッ! ジュッポン!
 十ヶ月近く封じられていたコトナの秘所から太く短い筒具の「栓」が引き抜かれた。紅く腫れた秘肉がビリビリと痙攣しながら筒具にまとわりつき、粘っこい糸を引いて引き剥がされていく。
「はぁっう〜ん!!」
モア〜ッ!
 湯気と共に周囲に強烈な異臭が立ち上がった。
「うおっ、コレはたまらんっ! 早く洗え!」
プシャーァ! プシャア!
 医師の指示で、温水の柔らかな水流が、そこに集中して浴びせられる。
「あっ! あっ! 気持ち良いっ! 産むわっ! 赤ちゃん産むーっ!」
 コトナの上げる声は、すでに脊髄反射の領域である。身体に加えられる刺激に、神経が反射して言葉を発しているにすぎない。
「産むーっ! 赤ちゃん出るっ! 出るーっ!!」
 やがて、モリモリとコトナのヴァギナが内側から膨らみ、めくれ返った粘膜の内から、赤茶の髪の赤ん坊が頭から姿を現した。
「オギャー! ギャア! ギャア!」
 「彼」は大音声で、世界に自分の誕生を告げる。
「まだ産むっ! まだ産むのーっ! おおうっ!!」
 そして、もう一人。
「ヒニャー! ヒャ! ヒニャー!」
 緑の髪の「彼女」も、小さな声ながら元気に産声を上げる。
 ルージとコトナの生命を受けた、双子の男女の誕生だった。
「……ど、どちらの子に、閣下の命が宿っているのでしょう?」
 ごく普通の赤子のように、無心に母親の母乳を求める泣く双子に、医師である男は激しい迷いを隠せないでいた。
「い、いったい。どうすれば!?」
 答えをすがるように、腕を組んでコトナの出産後の処理を見下ろしているフェルミの様子をうかがう。
(ジーン、私にどうしろっていうのさ。え?)。
 しかし、わずかな時間でフェルミの表情に輝きが戻った。
「落ち着きなさいな!」
 身体を拭き清められた二人の赤ん坊は、いまだ放心したままのコトナの胸にあずけられ、その乳房にすがり、無心に母乳を吸いはじめる。
「一旦、赤子にもどったジーン閣下の意識が、元通りに回復するには、おそらく数年の時が必要になるでしょう……」
 フェルミの頭のなかに「新しい絵」が描かれつつあった。
(そうよ、何事も面白くなきゃ、面白くね!)。
 ファルミは唇に浮かびかけた笑みを隠し、動揺している周囲の幹部たちを鋭くねめつける。
「……それまでの私たちの役目は、新しいジーン閣下の理想を実現する強力な国造りよ!」
 武帝ジーンの復活を大きく掲げて、ディガルド新武国を建ち上げるのだとフェルミは幹部一同を鼓舞した。
「そして、この女には次の役目をこなしてもらうのよ」
 フェルミは、ぐったりと力無く分娩台に横たわり、赤ん坊たちに乳を吸われるままのコトナを顎で指した。
「薬物、電流、色責め、ありとあらゆる手段を使って徹底的に洗脳しつくしなさい。強力な独裁者としての帝王学を叩き込むのよ! ……この女には、ジーン閣下の意識が回復し、武帝ジーン二世として復活するまで、ディガルド新武国の皇帝として立ってもらいます!」
 それは、新たなる戦乱の時代の幕開けであった。
 ディガルド新武国軍総司令のフェルミを宰相とし、かつてはコトナ・エレガンスだった者を新皇帝としていただいたディガルド新武国は、かつてのそれを上回る恐怖で、惑星全域を染め上げることとなる。
 その恐怖に立ち向かう勇者たちの物語は、まだ始まったばかりである。
 惑星Zi。そこは金属生命体ゾイドの生息する惑星……。

おしまい


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