■■1-2


 「オメガ」のお尻はグイグイと強烈にわたしの手を締め付けました。鼻孔と肛門の奥深く電極棒を押し込まれて、通電されている「オメガ」の全身は、ガチガチに硬直し、でたらめな痙攣を繰り返し続けています。彼女に触れているために、わたしの手を苛んでいる無数の針を突き立てられ火や氷でなぶられる感覚が、彼女の場合、鼻奥の粘膜と直腸粘膜の間でスパークし、胎内を暴れ回っているのです。
「へえぐっ! えぐっ! えぐーっ!」
 口腔をこじ開けた開口器から突き出された千切れた舌が、みるみる紫色に変色していくのがわかりました。
プシッ! プシャー! プシ! プシ!
 わたしの手首に熱い液体が当たります。「オメガ」が噴きこぼしたオシッコです。間欠泉のように細切れな放出なのは、それが感電による外因的な排泄だからです。
「止めなさいっ。これはドクターストップですよっ!」
 わたしは、たぶん「らしくない」 怒声を上げました。
 わたしが手を「オメガ」の両足の付け根に挟み込まれ、感電しているのを、そしらぬ様子でうかがっていた尋問官の彼は、ばつの悪そうなそぶりでコントローラーのスイッチを切りました。
 筋肉でできた棒のように硬直していた「オメガ」の身体が同時に縛り付けられた理容椅子に崩れ落ちました。わたしは手を「オメガ」の脚の間から引き抜くと、彼女の頭を横にしました。
「悪かったよ、ちょっと悪ふざけがすぎた……」
「そんなことはいいから! 舌を呑んじゃってるの! 気道を確保しないとっ!」
 なにが幸いするかわかりません。「オメガ」の口にこじ入れられている開口器を全開にして、咽の奥に落ち込んでいる舌を引きずり出します。舌の傷口の断面がきれいなことから、彼女自身が噛み切ったりしたのではなく、外科手術で切り取られたのだと思われました。
「がほっ、がほがほっ!」
「大丈夫?」
 聞こえないと知っていましたが、わたしは「オメガ」に声をかけていました。右の鼻の孔から生えた黒いコードを伝わって、血がしたたります。開口器を慎重に閉じながら(彼女の上下の歯が合わない程度に、……でも唇は醜くめくれ返らないように)、わたしは尋問官の彼に言いました。
「これ、鼻の電極抜きますよ。それから……」
「オーケー、オーケー。治療タイムだ。1時間で再開できるようにして下さいね。じゃ!」
 わたしは完全に、彼には軽く見られているようです。彼はわたしの肩をポンポンと叩くと、パーテーションの向こうへ姿を消しました。部屋の隅のシンクで手を洗いながら少し悔し涙が出ました。
「ちょっと痛いかもしれないけど、治療しますから」
 骨振動マイクで呼びかけてから、鼻孔の電極を慎重に引き抜きました、こんなに長いモノがどこに収まっていたのかと思わせる電極棒には、プティング状に凝固しかけた血の固まりがドロリとまとわりついていました。どうやら出血は止まっているようなので、わたしは理容店の放置された設備で作った蒸しタオルで「オメガ」の身体を拭き清めることにしました。アームレストに針金で括り付けられていた手首と、手錠で繋がれた足首は、擦り傷程度の傷で済んでいました。太い針金と樹脂製の手錠なのが幸いしたのでしょう。感電の硬直痙攣では、自分の筋肉で、自分の骨をへし折るほどの力が掛かることもあるのです。
 オシッコで汚れてしまった「オメガ」の下半身を拭きながら、彼女のお尻から生えている黒いコードが気になります。しかし、尋問官の彼に許可を得ていないので、勝手なことはできません。しかし……。
「治療、これも治療!」
 あとで、彼女はもう一度同じことをされるのかも知れません。でも、わたしは自己満足のために、そうすることにしました。黒いコードをつかむと、引き抜こうとゆっくり力を込めます。「オメガ」がビクッと緊張するのがわかりました。彼女を安心させようと、できるだけ膝に近い内腿を軽くポンポンと叩きます。わたしは指を添えて「オメガ」の尻肉を拡げました、きれいな放射状の肛門の中央から、コードの付いた電極棒の尻が顔を出し、やがてヌルリと金属の電極棒が引き抜かれました。
「オメガ」の全身から力が抜けた様子です。やがて彼女が「わたし」になにか言おうとしているのがわかりました。
「あがっ、でぃやん、いづぐが……。だじぐっで。」
 最初は、なにを言っているのか判りませんでしたが、開口器を咬まされた唇の動きと、何度も繰り返される呻き声のような「オメガ」の声を聞いているうちに、彼女の言葉が、なにを伝えたいのかが急にわかりました。
(赤ちゃんがいるの! 助けて!)
「オメガ」は妊娠していると言うのです。昨日渡されたカルテには、そんなことは書いてありませんでしたが、それを言えば、切り取られていた彼女の舌のことも書いてありませんでした。
 知りすぎちゃ、いけない……。知りすぎちゃ、いけない……。知りすぎちゃ、いけない……。
 だいたい、彼女が何者で、何をして、なんでこんなところに居るのかも、わたしにはわからないのです。彼女とお腹の赤ちゃんにはかわいそうですが、わたしにはどうすることもできません。
「再開できますか?」
 ……尋問官の彼が帰ってきました。

「乳首から電気針を乳房内にまっすぐ下ろします」
 10センチはある電気針を消毒液のトレイから取り上げながら、尋問官の彼は作業の説明をします。
「ま、女性には見ていて辛いでしょうね」
 どうやら、わたしを精神的になぶるのが楽しいのでしょう。笑いこそ見せませんが、彼にはそんな様子が感じられます。
「暴れると痛いぞ」
 骨振動マイクで「オメガ」に伝えると、尋問官の彼は「オメガ」の胸の下に幅広で分厚いベルトを回し締め付けました。すでに「オメガ」は身体を硬くしています。荒い呼吸が彼女の恐怖を伝えてくるようです。
「ほぐっ!」
 彼の手が「オメガ」の右乳房をつかむと、ゆっくりこねるように揉みしだきます。
「ほーっ! ほおーーっ!」
 わたしはキラキラと光を反射する長い電気針が、彼女の乳首にあてがわれて、そこに沈みはじめる瞬間を見てしまいました。プツリと鋭い先端を持つ針が、鳶色の乳首の頂点を切り裂き、スルリと信じられないほどスムースに乳房の中に侵入していきます。電気針の基部が貫かれている乳首に達し、針は全部乳房に打ち込まれてしまいました。電気針を使うのを見るのは、もちろん初めてではありませんが、女性の乳房に、こんな使い方をするのを見るのは初めてです。尋問官の彼は手慣れた様子で、「オメガ」の左の乳房にも電気針を打ち込みました。
「これ見るのは初めてでしょう。これは、アメにもムチにも使えるんですよ」
「オメガ」の両乳首の先でフルフルと震えている接続部にコードを結線しながら、彼はわたしに話しかけてきました。
「痛い思いだけじゃ、感覚が鈍くなりますしね」
 尋問官の彼がコントローラーを操作すると、「オメガ」が身体がのけぞりました。
「ほうんっ!」
 さっきのような硬直痙攣とは異なる反応です。「オメガ」の呼吸が荒く大きくなっていき、電気針を打ち込まれた乳房から上半身、そして全身が赤く火照っていきます。
「性的に感じてるんですよ。感じさせているんですけどね」
 彼女の全身は汗でビッショリ濡れはじめ、電気針に貫かれた乳房がプックリと努張していくのがわかりました。赤く染まった乳肌に青い静脈が浮きだし、電気針を押し返すように乳首が勃起しています。
「ほうんぐっー! ほうんっ! ほうーんっ!」
 よがり狂わされている「オメガ」の姿は、先ほどの苦しみ悶える彼女の姿より、むごたらしいものに見えました。わたしは眼をそらさずにいられませんでした。
「まあ、オッパイだけじゃかわいそうですよね」
 尋問官の彼は、ラバー状の手袋を両手にはめて、わたしの手を取りました。
ジジジッ、ジーン。
「きゃ、きゃあああ! 離して!」
 無数の昆虫が這い回るような感触に、彼の手をふりほどきます。見れば手袋からはコードが伸びてコントローラーに繋がっていました。
「アメとムチの、アメの方で廃人になるかもしれませんから、ちゃんと見ていてドクターストップお願いしますよ」
 彼は「オメガ」の、のたうちまわる身体に電気の愛撫を加えはじめました。
「おごーーっ! ごっふぃうっ! ぐるうっ!」
 電気針の避雷針に貫かれた乳房をこね回し、柔らかいわき腹をなで回し、開口器で閉じることのできない口腔をもて遊び……。
 乳房をギュと掴んで絞り上げた尋問官の彼の手が、やがて「オメガ」の股間に降りていきます。彼は「オメガ」ではなく、わたしを見ていました。視線で犯されている気持ちがしました。わたしにとっては、素顔すら知らない「オメガ」でしたが、彼女の痛み、苦しみ(そして快感!?)を感じるような気がしました。
 彼の電気の指先が、「オメガ」の陰唇の内側をなぞり上げます(厚みを増し膨張した陰唇がヒクリと彼女の意思とは関係なく動きます)。包皮を剥き上げクリトリスを転がされます(痛いほど勃起し突き立った莢肉が内側から脈動し弾けそうです)。やがてカギのように曲げた指がヴァギナに差し入れられ、そこを無理矢理に拡げました(やめて、やめて、やめて!)。
「あがーっ、でぃやーん、いづぐがっ!」
「やめてーっ! 赤ちゃんがいるの!」
「オメガ」の絶叫と同時に、わたしは大きな叫びを上げていました。


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