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 針金と手錠で、重たい理容椅子に拘束された「オメガ」の身体は、みだらな踊りを舞うようにのたうち回っていました。双つの乳房に深々と打ち込まれた電気針から、彼女に強烈な快感を与えるように調整された電流が流し込まれているのです。針の差し込まれた乳首の先端から血の滴がこぼれますが、「オメガ」の全身に吹き出した玉のような汗にたちまち洗い流されてしまいます。開口器でこじ開けられた口からは熱い吐息が吐き出されるようになっていました。
「はひっ! はひっ! ひゅーっ! はひっ!」
 そこに電流の通じた手袋をはめた尋問官の彼が追い討ちをかけます。「オメガ」の身体中を撫でさすり、柔らかい肉を掴み上げ、敏感な神経を責め苛んでいきます。どこかを触られるごとに、「オメガ」の身体はギクン、ビクンと反応します。やがて彼女の股間へと延ばされた尋問官の手は、陰唇をくつろげ、クリトリスを剥き上げて、散々に「オメガ」の秘所をなぶったあげく、そろえられた2本の指がヴァギナに突き立てられました。その瞬間、淫らな「のたうち」を見せていた「オメガ」の動きが凍りつきました。
「あがーっ、でぃやーん、いづぐがっ!」
 そのとき、彼女の叫びに合わせるように、わたしも叫んでいました。
「やめてーっ! 赤ちゃんがいるの!」
 尋問官の彼と眼が合いました。彼は「オメガ」の身体をなぶりながらも、ずっとわたしを見ていたのです。その眼が冷たく笑ったように感じました。
「大丈夫、流産しても君がいる。そういう処置ができるように呼ばれているんだろ、君は?」
 彼の指は「オメガ」のヴァギナを掻き拡げ、内側の襞を擦り上げています。ニチャリヌチャリクチュリと湿った音が、わたしにも聞こえました。「オメガ」は先ほどのよがり狂わされていた様子とはうって変わり、息を止め身体を硬くしていました。乳首の先端に覗いている電気針の基部と、そこから延びるコードが細かく震えています。真っ赤に染まっていた全身も、青白く血の気が引いていました。その身体を責め苛む淫らな電流は、まだ流れ続けているはずです。「オメガ」は自身のヴァギナに侵入してきた指に、かわいそうなくらい緊張しているのです。
「ひゅーっ、ひゅーっ!」
 部屋には彼女の呼吸音と、ブーンという機械の作動音だけが響いていました。
「おや、彼女。堅いなぁ。……そうれ、見つけたGスポット」
「ごおっ! ごひゅーっ!」
 尋問官の彼が、「オメガ」のヴァギナの天井部を突きました。女性の快感のツボを突き上げたのです。彼のもう一方の手は「オメガ」の恥丘のあたりに沿えられていました。最初からGスポットを責めようと狙っていたのでしょう。その瞬間、ガクンと大きく跳ねた「オメガ」の身体は、全身の筋肉を捩るように緊張させ、次には力が抜けきって弛緩してしまいます。電気でイカされてしまったのです。ピシャピシャと液体のこぼれる音がしました。「オメガ」のヴァギナから、大量にしたたり落ちています。
「潮吹きだよ。胎児が出てきたワケじゃない」
 ビクリと緊張するわたしに、尋問官の彼は言いました。

 わたしはコントローラーの電源を落とさせると、聴診器を取って「オメガ」に駆け寄りました。早すぎるペースですが呼吸音も、心臓の鼓動も確認できました。ときたまヒクリと痙攣しましたが、わたしは強烈なオルガスムスの余波だと判断しました。下腹部に聴診器を当て、耳を澄ませてみましたが、専門の産婦人科医でもないわたしには、胎児の心音など聞き分けることはできません。
「続けられそうですか?」
「……休ませてあげて下さい」
「それは、ドクターとしての判断ですか?」
「……それは、……ちがいます」
 尋問官の彼は、わたしを押しのけるように「オメガ」の傍らに立ちました。骨振動マイクを彼女の全頭マスクに覆われた頭にあてがいます。
「お楽しみの次は、お仕事だ!」
「オメガ」が緊張していくのがわかりました。

 わたしは、呼吸補助のチューブを、「オメガ」の喉に通すように言われました。さっき鼻孔内に押し込められた電極で傷付いている右の鼻孔を避け、左の鼻の孔にチューブを差し込みます。
「かはっ、かはっ」
 チューブの先端で、鼻や咽喉の粘膜を刺激された「オメガ」が咳き込みます。開口器でこじ開けられた口腔から喉を覗いて、チューブが喉の奥に達したのを確認できました。切り取られ半分の長さになった舌の断面が見え。わたしの気持ちを萎えさせます。
「出来ました? なら、どいて下さい」
 ワニ口の電極クリップを持って尋問官の彼がやってきます。コードの生えた電極クリップを開き、彼は「オメガ」の鼻に差し込み、そのままギザギザの部分で鼻障子を挟み込みます。
「作業の邪魔になりますから、ちょっと離れていて下さいね」
 尋問官の彼の言葉は柔らかいものでしたが、響きには露骨な棘を含んでいました。
 電極針に串刺しになっている乳首にも、新たに電極クリップが咬ませられました。ワニ口のギザギザに挟まれ、針の差し込まれている乳首の傷口から血が幾筋か流れ落ちました。
 わたしは、紫色を呈しつつある「オメガ」の乳首を見て、頭の芯が痺れてしまったような感覚で、乳腺を灼いてしまったらオッパイが出なくなって困るじゃないか……、などと見当違いのことを考えていました。

「ぐがぁーっ!」
「オメガ」のゲダモノのような叫びで、わたしは我に返ります。尋問官の彼は、手にした棒状の電極を、「オメガ」の股間にあてがい押し込もうとしていました。金属の鋲が無数に露出したそれは、男性自身を型どったモノで、しかも子供の手首ほどもある「巨根」でした。
「ごうっー! うごぃぐーっ!」
「オメガ」は泣き叫び、下腹に力を入れて電極の侵入を拒もうとしていますが、先ほどの強制オルガスムスで弛み、愛液で「ぬめり」を持たされたヴァギナに、それはメリメリと飲み込ませられていきました。大きく押し広げられた入り口の皮膚は、はち切れそうに引き延ばされ、金属鋲の部分が通過する度に、弦楽器の弦のようにピンピンと弾かれています。わたしには、その挿入は永遠に続く悪夢ではないかと思われました。男根型の電極はベルトで「オメガ」の腰に固定されましたが、わたしにはそれは杞憂に思われました。とても自力で「出す」ことなど出来ないでしょう。男根型の電極から生えているコードが無数にあることで、その機能に吐き気がしてきます。金属鋲のすべてが電極としての機能を持たされているのでしょう。眉をひそめ続けているわたしに気づき、尋問官の彼は言いました。
「さっきの「LOVE」モードでコレを使うのは禁止なんですよ。あんまりスゴくて狂っちゃうんです」
「そんなこと、聞いていません……」
 わたしは一連の責めに、陰湿な残酷さを感じていました。尋問官の彼からは、尋問らしい質問も、なにも行われていません。一方的に「オメガ」を痛めつけて弄んでいるだけです。知りすぎちゃ、いけない……。知っても、なにもできない……。でも……。
「あの、……こんなにまでして、彼女から、なにを聞き出そうとしているんですか?」
 自分でも、みっともないくらい涙目になりながら、わたしは勇気を出して聞きました。
尋問官の彼は、きょとんとした顔をしました。
「なにを聞き出すって? 僕の仕事は、死なないようになるべく長く、この「オメガ」をいたぶり続けることだよ」
「……な、なんで!?なんでそんなこと!?」
 自分の声が震えています、どんどんと気持ちが悪くなっていきました。
「聞いていない。君も聞いていないだろ?」
 彼の声が遠くからきこえてきます。わたしは貧血を起こしているようです。
「じゃあ、はじめますよ」
 尋問官の彼がコントローラーのスイッチを入れる音が聞こえました。
「ばきいっ!」
「オメガ」の悲鳴は、まるで戦場で聞いた砲弾の爆発音のようでした。
 バンッと「オメガ」の身体がバネじかけのように弓なりに跳ね上がり、次の瞬間には理容椅子に叩き付けられていました。
「おごうーっ! ごっおうっ!」
 耳を塞ぎたくなるような、おそろしい叫び声を上げながら、「オメガ」は激しく痙攣し身もだえしています。脂汗でテラテラと濡れ光る身体がのたうち回るのは、まるで縛り付けられた理容椅子に、自分の苦痛を少しでも擦り込み移し、痛みを薄めさせようとしているように感じられました。フルフルと、やがてブルブルと激しく震えだした乳房は、その豊かなふくらみ全体が怒張し、まるで勃起した男の人のモノのようにムクムクと突き立っていきます、凄まじい全身の痙攣は、周囲に血と汗をしぶかせていました。
「はぎぃっ! ぎいっー!」
 左右の乳首の電極間を、青白いスパークが飛ぶたびに「オメガ」の乳房は激しく突き上げられ、乳首と乳暈の部分は、そのたびにプックリと膨れ上がっていきます。まるで突きこめらられた電極針を打ち出そうとでもしているようです。乳首を挟み込んだ電極クリップが無ければ本当に針は飛び出していたかもしれません。わたしは額から生じた悪寒に耐え切れず、床に膝をついてしまいました。
「おごふーっ!」
 わたしは視界の隅に明滅する明かりを感じました。涙で霞んだ目を上げると「オメガ」の白い内腿が、赤や青の光を反射して映し込んでいるのでした。それは股間にねじ込まれた男根型電極の底部で、悪趣味に点滅するパイロットランプでした。円周状に埋め込まれたパイロットランプが、通電している部位とパワーに応じて明滅しているのです。赤・緑・黄色……。「オメガ」の地獄の苦しみを、まるであざ笑っているようです。青・橙・紫……。明滅のテンポが段々と早くなっていき、それに合わせて「オメガ」の腰の震えが激しくなっていきました。
「おごふっ!」
 ランプが一斉に点き、「オメガ」の腰が高く突き上げられました。ビシャビシャと固定ベルトの隙間からオシッコがしたたり落ちます。ドンと椅子に落ちた「オメガ」の股間で、いったんは全て消えたパイロットランプが、再びゆっくりと明滅を始めました。
「う、……ぐうっ!」
 わたしは、みぞおちのあたりから突き上げてくるものに耐えきれず、しゃがみ込んで床に胃の内容物を吐き出していました。
「おいおい、ドクターがドクターストップとはね」
 尋問官の彼は、「オメガ」を責め苛むコントローラーのスイッチを切って、かがみ込んだわたしの背中をさすってくれていました。「オメガ」はぐんにゃりと死んだ動物のように理容椅子の上に、その身体を横たえていました。
 ……緊急医療用のパックに、モルヒネ、カンフル、わたしは不足している機材や薬品のことを考えていました。「オメガ」を助けるためにはどうしたら良いのか。……それとも彼女の苦しみを終わらせるためには。

……わたしはどうしたら良いのでしょうか。


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