■2-1


 「ふーん、このヒトがおねえちゃん殺しちゃったんだ」
 小型の冷蔵庫から引きずり出され、わたしは室内の明るさに眼を眩ませました。本当は薄暗い部屋なのですが、何時間も真っ暗闇な中に居たために、部屋の隅に数個置かれたスポットライトが眼の底に突き刺さるようでした。身体を縮こまらせ、自分の肩を抱いて寒さに震えているわたしに、バケツで叩きつけられるように水が掛けられます。しかし、その水を暖かく感じるほど、わたしの身体は冷え切っていました。
「……おねえちゃん!?」
 それは「オメガ」のことでしょうか?
 わたしの目前に、軍の特殊部隊の制服に安っぽいエナメル地の黒コートを羽織った女性がいます。その顔立ちに見覚えがあります。口元、あごの形……、掻きあげるブルネットの髪……。
 わたしは、ああ「オメガ」はこんな風にカッコイイ美人だったんだなぁ、と思いました。……でも、「オメガ」も彼女のように冷たい眼をしていたのでしょうか、その口元は冷笑を浮かべていたのでしょうか?
 わたしは捕虜である「オメガ」と呼ばれる女性を拷問死させないようにと、医師として尋問に立ち会っていました。けれど、自分の眼の前で繰り広げられる地獄のような光景に耐え切れなかったのです。女性の急所に電極を繋がれた「オメガ」は、強制的な絶頂と、責め苦を繰り返され、その精神も身体もボロボロでした。「オメガ」は妊娠していましたが、膣の奥深く突き入れられた電極棒からは、何度も胎内に放電を受けていて、その胎児が無事だとは、わたしにはとても思えませんでした……。
 何度目かの仮死状態に陥った「オメガ」に、わたしは医療に関わる者として一線を越えてしまいました。注射器に致死量の薬液を吸い上げると、「オメガ」の静脈に注射針を滑り込ませていたのです。彼女は何も感じなかったはずです。脂汗と血にまみれた胸は、ゆるやかに上下動を止めました。それに気が付いた尋問官の彼がわたしを突き飛ばし、「オメガ」に蘇生措置を試みました。わたしと彼の役割が、完全に逆転している風景が、皮肉でこっけいでした。泣き笑いの表情を浮かべ、放心しているわたしは、部屋の隅にあった小型の業務用冷蔵庫に押し込められました。
「くそっ、バカな女だ!」
 膝を抱えて座るだけで精一杯の広さの冷蔵庫の中は、電源が入れられたために段々と冷えていきました。空気が通うように扉に挟まれたドライバーの隙間から外の光が一筋の線のように見えています。わたしは膝を抱え、声を上げて泣きました。自分が命を奪うことになった「オメガ」とその赤ちゃんのために……、そして感情に駆られ、道を踏み外してしまった自分のために……。

「どうして、おねえちゃんのこと、殺しちゃったかな? どっかの「組織」に頼まれた?」
 重たい理容椅子の上に横たわる「オメガ」の身体には、工事用のビニールシートが掛けられています。「オメガ」と同じ外見と、おそらく同じ声を持つ彼女は、思わず眼をそむけるわたしの頬を抓り上げました。彼女からは、自分の姉を殺されたという、復讐の念は感じられませんでした。わたしの眼を覗き込み、薄ら笑いすら浮かべています。びしょ濡れのわたしは、震える唇で、ただ彼女を見上げていました。
「暖めて上げないと、風邪ひいちゃうわね?」
 彼女は、わたしが閉じ込められていた冷蔵庫に足を掛けると、蹴り飛ばして倒しました。
「ひいっ!」
 ものすごい音がして、怯えたわたしは眼をふさいで悲鳴を上げます。
「そこに、うつ伏せに縛り付けて! 暴れても大丈夫なように、冷蔵庫抱えるようにしっかりとね!」
 尋問官の彼と、見張りの兵に引き据えられ、凍えたわたしは、精一杯の抵抗にもかかわらず、倒れた冷蔵庫に四つん這いの姿で拘束されてしまいます。手首と膝を手錠や皮ベルトで固定され身動きが出来ません。寒さとは違う震えが全身に生じています。
「キミも手伝う?」
 彼女の問いに、見張りの兵は、顔をしかめると、自分の持ち場である扉の横に戻っていきました。
 残った尋問官の彼は、指を鳴らし、大きな工具箱を開きます。
「なさけってモノがないヤツだねぇ」
 禍々しい道具を揃えはじめる尋問官の彼に苦笑すると、彼女はわたしのスカートを腰まで捲り上げました。
「……いや、いやぁ! ひぃっ!」
 ピシャリピシャリと、わたしのお尻が叩かれます。お尻や腿の内側の柔らかい部分が抓り上げられます。彼女はわたしのショーツに手を掛けると、クルリと引き下ろしました。
「……やめてぇー!」
 お尻ばかりか、股間がすべて剥き出しになっています。恥ずかしさに目線を過剰に意識してしまいます。
「緊張しすぎよ。オンナの孔関係がカッチカチじゃない」
 彼女の指先が、わたしの恥部をまさぐります。ペチャリ、ペタリと通電パッドが、わたしのお尻に貼り付けられました。……お尻に電気を流される。わたしは震え上がりました。けれど、わたしに用意された責め苦は、それだけではなかったのです。
「暖めてあげないとね」
 尋問官の彼から彼女が受け取ったのは太い葉巻サイズの電極でした。尖りのある頭部から、コードの生えた末端までビッシリとコイル状にニクロム線が巻かれたそれに、透明なジェルを塗りたくると、彼女はわたしのお尻の側に屈みこみます。……視界の外でなにが起こっているのでしょう。あれがヴァギナに突き入れられるのでしょうか? 怯え震え身体を硬くしたわたしの肛門に、その電極の先端が触れました。
「……ひっ! お尻っ!」
 先端がわたしの肛門の筋肉の輪を押し広げ、メリメリと直腸に進入してきます。お尻の孔から異物が進入してくる異様な感覚。わたしのお尻が電極棒で犯されているのです! コイルの表面の小さな凹凸がお尻の孔をゾリゾリと擦り立てていきます。
「……ひーっ! ひっ! いやあっ! お尻がっ! お尻にーっ!」
 電極の太い部分がわたしの括約筋をくぐり抜け、コードの部分がスルスルと肛門をくぐっていきます。下腹に電極棒のズーンという異物感が内側から湧き出てきました。
「締めなくて良いんですか? 出しちゃいますよ」
 貞操帯のような皮ベルトを、わたしの腰に締めこもうとした尋問官の彼を、彼女は止めました。
「それはいいの。……ね、ゲームしましょ」
 今、わたしのお尻に入れられているのは、通電によって発熱するコイル棒だったのです。通電から約5〜6分で赤熱し、挿入された腸内を灼いてしまうのだという彼女の説明に、わたしは震え上がりました。人間に耐えられるのは通電3〜4分での摂氏40〜50度が限界だというのです。
「それまでに、それをひり出すのね。ただし、お尻の肉にも電気流すから、大変でしょうけどね。……こんなふうに!」
ビッ!ビビビビッ!
「……ひぎっ!」
 左右のお尻に貼り付けられた電極パッドに電気が流れ、わたしのお尻が、かってな痙攣をはじめました。キュキュッと筋肉が収縮しているのがわかります。
「じゃあ、ゲームスタート!」
 パチリとスイッチが入れられた音がしました。ブーンと昆虫の羽音のような音がします。それは、わたしのお尻の中から響く音でした。
「……いやぁ! いやああーっ!」
 冷たかった電極棒が、ゆっくりと熱を帯びてきたような気がしてきます。わたしは縛り付けられた冷蔵庫に頬をピッタリと着け、お尻を高く突き上げて必死に力みました。こんな姿勢で、どんなふうに力めば「出せる」のか、よく判りませんでした。
「……ふうーんっ! うーんっ!」
 お尻を振り立て、恥も外聞もなく、わたしは動物がいななくように、ウンウンとおめいていました。電極パッドからの電気は硬直痙攣を起こすほどの強さではありませんでしたが、力むタイミングを外され、わたしを焦らせます。コイル電極棒は、すでに体温の暖かさになっていました。
「……いや、いや、いやあ! お願い取ってぇーっ!」
 彼女はわたしを見下ろし、細めた眼をキラキラと輝かせて、笑みの形の唇を濡らしていました。彼女は明らかに楽しんでいるのです!。
「早く出しちゃわないと大変だよ。一生ウンチできなくなっちゃうよ」
 紅く染まり上気したわたしの顔に顔を近づけて言います。わたしの身体を濡らしているのは、先ほど掛けられたバケツの水ではなく、全身に吹き出した脂汗でした。
「……ううーんっ! 出ない、出ないのーっ!」
 すでにお尻の中で「熱く」なっているコイル電極棒が、どうしても出すことができません。
 わたしは、涙でグシャグシャになりながら、お尻を高く振り立て力を込めました。
「やれやれ、手伝ってあげるかあ」
 お尻に貼り付けられた電極パッドからの電気刺激が、それまでとは別のものに切り替わりました。前より鋭く激しい電気の爆発です。
「……ひっ! ひいいいっ!」
 ギュギュギュ! と、わたしのお尻の孔がすぼまり、クルクルと捲れ返る感覚がしました。
ププッ、グゥポンッ!
 湿った音を立てコードを引いたコイル電極棒が宙に飛びました。ペチャリと床に落ちたコイル状電極では、まとわり着いたわたしの直腸内の粘膜が湯気を立てていました。電極パッドからの通電で、お尻を細かく震わせ続けるわたしの目前で、それは段々と赤く赤熱化していきました。やがてシュウシュウと床のリノリウムを焼き始めます。高く突き上げていたお尻を落とし、それでもフルフルと震わせ続けるわたしの横にしゃがみ込み、その震えるお尻を小突きながら、グッタリとしたわたしに彼女が言います。
「しゃべることある? 次は「LOVE」モードを試すことになるけど?」


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