■■2-2


 「オトコって、わかったような顔してても、胸を揉んだり、孔に突っ込めばオンナが感じるって思ってるよね」
「オメガ」の双子の妹だという彼女は、理容室の備品から見つけだしたひげ剃りクリームを泡立てながら、二ッコリと歯を見せて笑うとカチャカチャとクリームを泡立てながら、わたしの周りを回りました。
「……………………」
 わたしは、「オメガ」の縛り付けられていた理容椅子に座らされていました。両腕を高く上げさせられ、手首を針金で理容椅子のヘッドレスト部分に縛り付けられた姿勢でしたが、縛られているのはそこだけでした。わたしは、なるべく硬く膝を閉じて身構えていました。性器を拷問するために、脚を開かれて縛り付けられると思っていたからです。
「前を開いちゃって。……あ、肌着はそのままで良いからね」
 彼女に言われた尋問官の彼は、黙ってそれに従います。彼女の階級のほうが高いのでしょう。彼女が身に着けている制服は、士官でないと入隊を許されない特殊部隊のはずでした。尋問官の彼は、わたしの着衣のボタンを丁寧に外すと、グイと前をはだけ出します。
「ほう!」
 尋問官の彼が息を呑むのがわかりました。わたしの左肩から右脇腹に走る稲妻のような大きな傷跡を見たのです。
「……あんまり、見ないで下さい……」
 わたしが軍隊を退役する原因になった傷です。何年も前の傷で、今では完治していましたが、傷口の痕は紅くクッキリと残っていました。
「名誉の負傷ってとこ?」
 彼女が指を伸ばしてきます。わたしの傷跡に触れて、その指をなぞり降ろしました。その指の冷たさに、わたしは思わずビクリと緊張します。鎖骨の上から、胸の谷間を経て(ブラジャーのフロントホックに触ったとき、彼女は悪戯っぽく笑いました)、肋骨の下まで……。わたしは彼女に触れられた部分が傷口を開いて、血を流し始めるのではないかと思いました。「オメガ」とその赤ちゃんを殺した罪が、彼女のかたちになって、わたしを罰しにきているのだと、そう感じていました。

「全然、お手入れしてないのね」
 彼女は、わたしの腋の下に髭剃りクリームを塗りたくりながら言いました。ブラシの毛先が、腋の毛に絡まります。
「……ちゃんと、……ちゃんと洗っています……」
クスリ。
 彼女は鼻で笑うと畳まれていた理容カミソリを広げて、わたしの腋の下を剃りはじめました。
ジッジジッ、ジッジジジッ。
 冷たい刃先が腋の肉をなぞります。
ジッジッ、ジッジジッ。
 わたしの左右の腋の毛をすっかりきれいに剃り上げると、裸になった両腋を、彼女の指がくすぐります。彼女の指には氷のような冷たさを感じるだけで、わたしはくすぐったいとは微塵も思いませんでした。

「そう、オトコって、わかったような顔してて、揉んだり、突っ込んだりでオンナが感じると思ってるよね。たしかにキメるには一番だけど、……だけどオンナの<泣き所>は、そんなトコだけじゃない」
 彼女の傍らで尋問官の彼が、捧げるように持つトレイから、自らの重さでユラユラと柔らかくたわむ細い細い針をつまみ上げると、彼女はわたしの腋の下に、針先を近づけてきます。
「……な、……なにをするんですか!?」
ツイッ!
 腋の毛孔を捉えた針先が、そのまま奥に送り込まれます。トン、毛孔の奥に微小な針先が突き当たる感触があり、わたしの腋の下では、その先端を毛孔に突き込まれた細い針が揺れていました。彼女は手馴れた様子で次々とわたしの腋の下に針を打ち込んでいきました。
「……ヒッ、ヒッ! ヒーッ!」
 痛みはありませんが、とても、おそろしいことをされている感覚が、わたしを怯えさせます。冷たい汗が腋を伝わって落ちます。左右で数十本の針がわたしの腋の下に打ち込まれました。
「これが、アタシの「LOVE」モード。アナタ、どこまで気持ち良くなれるかしらね?」
 ザワザワと房のようになったコードの束を、彼女と尋問官の彼は、わたしの腋に生えた細い針の末端に繋いでいきました。小さなワニ口クリップをカチャカチャと針のお尻に咬ませていきます。その重さで柔らかく細い針は大きくしなりますが、抜け落ちることはありませんでした。
「……ヘンなこと、……ヘンなことしないで下さい……。……わ、わたしは「オメガ」さんが可哀想で、……………………殺しちゃったんです……。それだけです……。信じてください……」
 泣きべそをかきながら訴えるわたしを、彼女は眼を細めて見ています。「オメガ」の眼なんだ。わたしが見ることのなかった「オメガ」の眼なんだ。この妹の眼を通してわたしを見ているんだ。
「じゃ、はじめて」
プチン、プチン!
 彼女の声に、尋問官の彼がコントローラーのスイッチを入れます。
モヤリとした、軽い掻痒感がわたしの脇腹を登って行きます、肩甲骨を周り込み、首筋から頬にかけて、そのモヤリとした感覚が広がると急に身体の芯が、カッと熱くなりました。

「……はあぁーっ! はあんっ! あん!」
 わたしは熱い息を吐きながら、理容椅子の上で身をよじっていました。顔や首筋、胸元が真っ赤に上気し、浮かび上がった汗の玉で光っています。腋の下の針がシャンデリアのように触れ合いチリチリと音を立てています。そのたびにショートが起こり、背骨や膝の裏、そのほかにも、……恥ずかしいところに、まるでインクを落としたように、次々とモヤリとした感覚が広がります。
「どう? いいセンいってる?」
 彼女はコードの繋がったラバー状の通電手袋をはめると、わたしの傷跡をもう一度なぞります。その刺激で、身体の芯で熱くなっていたものが沸騰し、頭の頂上めがけて駆け上り、そして身体の底に滝のように落ちていきました。そして下腹でドロドロと溶けていたマグマと合流すると、そのまま熱いほどばしりとなって、わたしのヴァギナから吹き出します。彼女は、わたしのスカートに手を差し入れてきました。
「……やめてッ!」
 彼女が触れてきたとき、わたしのそこはグッショリと熱く濡れていました。さっきの感覚は錯覚ではなかったのです。愛液があふれかえり潤みきった秘所に触れさせまいと、膝を閉じるわたしの脚を上に下にと器用に取り回しながら、彼女の通電手袋は、ついにわたしの股間をこじ開けました。
「……ひいくっ! ひくっ! ひいくっ!」
 わたしの全身を、熱さをともなった掻痒感が満たしていました。それを瞬間で洗い流して、チリチリと凍りつくような冷たい感覚が取って代り、次には細胞の一つ一つが沸騰する灼熱の感覚まで急上昇していきます。その感覚の震源地である、腋の下の針を突き入れられた毛孔のひとつひとつがはっきりと意識できました。そして、残酷な天国と地獄をあわせもった彼女の指先が、腫れぼったく鬱血したわたしの陰唇の内側をまさぐりにきました。
「ここでしょ? ここが良いんでしょ?」
 陰唇の襞を何度もなぞり上げられ、そのたびにガクガクと痙攣し、わたしはもうなにも考えられませんでした。ただ幼女のように泣いていました。
「……はあぁーんっ! ひっく! ひっく! ひいーんっ!」
 クリトリスの包皮をほじくり返すように彼女の指先が潜り込んできます。鞘肉を中心に彼女の指先が包皮の内側をなぶります。彼女の指先は、わたしの膨れ上がったクリトリスが顔を出すことを許してくれませんでした。通電手袋の指の腹で、真っ紅に勃起したクリトリスを何度も胎内に押し戻されます。押し戻されるたびに、電気刺激でさらに膨れ上がるクリトリス。わたし自身の愛液でまみれた快楽の防衛線は、完全に彼女の思うがままに侵略さてれいきました。
 ……彼女は残酷でした。
「……イカせて下さい! イカせてっ! お願いーっ!」
 涙と汗でグシャグシャになったわたしは、彼女の愛撫に屈服の叫びを上げていました。浅ましく腰を突き出し、脚を拡げられるだけ限界まで拡げて、紅く腫れ上がったソコを埋めて欲しいと彼女に嘆願していました。
「……入れて下さい、……お願い、わたしをイカせて下さい……」
 ニッコリと、彼女は今まで見た中で、一番美しく、しかし残酷な笑みを浮かべて、わたしを見下ろして言いました。
「おねえちゃんの仇だ。……イカせてなんかやらない」
 わたしの地獄は、そこから始まったのでした。死ねば本当の地獄に落ちることができるかもしれません。そこで「オメガ」がわたしを待っているような気がしました。


→進む

→戻る

OMEGA(オメガ)のトップへ