1.■黒十字軍の女刺客■


 夕闇迫る郊外の造成地。
 ときおり吹く強風が土埃を巻き上げ、遠く草むらを騒がせる。
 周囲に人の気配さえない、そんな場所に数十人の人影があった。若い女ひとりを取り囲む、黒いスーツ姿の男たちである。
「もう、この辺で良いんじゃないかしら?」
 長い黒髪に秀でた額、清楚な顔立ちの若い女は、本来ならば不釣り合いであろう短いベストとホットパンツ、長いブーツにその肢体を包んでいた。剥き出しのフトモモのはち切れそうな肌が、その若さを主張して眩しい。
「そうだな」
 その若い女には少女の可憐さと、女王の気位が両立していた。そのアンバランスが不思議な調和を醸し出している。
「……そうだな、我々も交渉事の条件など知らされていないしな」
 先頭を切っていた男がきびすを返し、若い女の方に向き直った。
「それじゃあ、人質交換の話というのは……」
「その通り、ペギー松山。おまえをおびき寄せるための罠だっ!」
 スーツ姿の男たちは身を翻すと、漆黒の戦闘スーツを身につけた黒十字軍戦闘員ゾルダーの正体を現す。
「卑怯な……!」
 彼女、ペギー松山は、黒十字軍から自分宛に送り付けられてきた数枚の写真を、そっと胸ポケットに納め直した。黒十字軍の収容所らしき施設でボロボロに疲弊した人々の写真だった。……三ヶ月前に黒十字軍の奇襲を受け、ペギー松山たった一人を残し全滅させられた筈のイーグル北海道支部。その生き残りと、ペギーたちゴレ○ジャーの捕らえた黒十字軍仮面怪人の人質交換の申し入れは、真っ赤な偽りだったのである。
「おとなしく捕虜になるか、それともここで死ぬか決めるがいい!」
 戦闘員ゾルダーたちは、短剣を手に無防備に見えるペギーを包囲する。
 黙ったまま顔を伏せたペギーの表情は、戦闘員ゾルダーたちからは読みとれない。
「……娘十八命を捨てて、……戦場に咲く桃の花!」
 黒づくめの戦闘員の群にグルリと取り囲まれたペギーは、伏せていた顔を上げて、悽愴な笑顔を見せると、その耳朶に飾られたアクセサリーに手をかざした。
「イイわね、イクわよ!」
 その声紋に反応し、イヤリング爆弾のロックが解除され信管が作動する。ヒラリと蝶がひらめくような手の動きで投擲されたハート型の超小型爆弾は、戦闘員ゾルダーの包囲陣形の中央で炸裂した。
ズズズッ、……ドウンッ!
「GO!」
 爆風と共に、ペギーの鋭い気合いが周囲に響きわたった。
 全身傷だらけになり放射状に吹き飛ぶ戦闘員ゾルダーの中心から、爆炎をまとわりつかせたピンク色の流星が天空高く舞い上がる。
 それは、国際防衛機構イーグルの特殊部隊所属モモレ○ジャーの勇姿である!
 爆発の中心にいたはずなのに、きらめく強化スーツには傷一つ付いていない。
「今日のイヤリング爆弾は、ひと味ちがうわよ!」
 パーソナルロケット・バーディで空中を舞い踊りながら、モモレ○ジャーの、すさまじい「爆撃」が地表の戦闘員ゾルダーを殲滅していく。
  *    *  
 周囲数キロにまで広がった爆雲が風に吹かれて散ったとき、荒野に立っているのは、モモレ○ジャー・ペギー松山ただひとりだった。
 転換(変身)を解除して強化スーツを格納する。マスク越しには感じられない硝煙と血肉の焦げる臭いがペギーの鼻を突いた。決して心地よい臭いではない。しかし、彼女は、この「臭い」を作り出したのが自分自身であることを忘れないように、そして無念の思いを遺していったイーグル北海道支部の仲間たちのことを忘れないために、その「臭い」を深く吸いこみ、記憶の奥に刻みつける……。
「!」
 その鉄錆じみた臭いの中に、自分のものではないパフューム(香水)の匂いを嗅ぎ取ったペギーの全身が緊張した。おそろしく近い場所に、誰かが居る!?
「オイタはそこまでよ。モモレ○ジャーさん」
 すぐ背後で女の声がした。いつの間にか背後を取られていたのだ。
 ペギー松山は一瞬で前転し、相手との距離を稼ぐと全身で構えをつくる。左肘で心臓と脇腹をガードし、右の拳に力を溜める。数瞬後には、低く落とした腰を支点にすさまじいバネを持つ、きき脚の蹴りが準備完了。
「あら、お見事!」
 身構えることもなく、スラリと立っているのは、黒十字軍の仮面怪人だった。
「何者っ!」
 ノッペラボウのようにツルリとした深紅の仮面にスーツ。露出した口元に、その衣装と同じ色に染められた深紅の唇が鮮やかだった。
「私は黒十字軍特務戦隊所属ベニレンジャー!」
 仮面怪人はクルリと身体を回転させると、その変身を解いた。純白のブラウスに、黒い皮ベストと乗馬ズボンに編み上げのブーツ。ワンポイントの深紅のスカーフが眼にも鮮やかだ。
「よろしくね。イーグル特殊部隊のモモレ○ジャーさん」
 豊かに波打つウェーブヘアをひと振りして、ベニレンジャーはペギーに微笑みかけた。
「何のつもり!?」
 自分も再度、転換(変身)しての格闘戦を想定していたペギーは、出鼻をくじかれて鼻白んだ。
「うふふ。コレに興味があるんじゃないかと思って」
 人間体のベニレンジャーは、黒い皮ベストのポケットから、数枚の写真を取り出した。
「貴女に送った写真のつづきよ」
 トランプのカードを扱うように、扇に拡げた写真を、ベニレンジャーはヒラヒラとペギーに振って見せた。
「ジョージ!?」
 やはり、生きていた! 思わずあふれそうになる涙をこらえる。
 ……写真にはイーグル北海道支部の壊滅と共に失われたと思っていた、ペギー松山の、たったひとりの弟、ジョージ松山の姿があったのだ。


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