2.■女拷問使ベニレンジャー紅(べに)子■

 
 ベニレンジャー・紅(べに)子に黒十字軍のアジトへと連行されたペギー松山の武装解除には時間が掛かった。
 通信ブレスレットや、強化スーツの転換(変身)システム以外にも、ペギーは全身のありとあらゆるところに小型爆弾を隠し持っていたからである。
「うっぐ!」
 ペギーの口中にこじ入れられたペンチが巧妙に奥歯に偽装された爆弾を引き抜く。
「毒薬じゃなく、自分の頭を吹き飛ばす爆弾とはね」
 血まみれの義歯爆弾を光にかざしながら、紅子は感心するように言う。
「自決だけじゃなく、アンタたちの頭を吹っ飛ばすのにも使えるしね」
 唇の端から血を滴らせながら、ペギーはひきつった笑いを見せる。
 身につけたピアス、指輪、化粧品からブーツの踵、ベルトのバックルに、果てはつけ爪や下着の留め具からも、爆発物の反応が出ていた。
「小さな要塞なら跡形もなくなる量の爆薬です」
 ペギーの武装解除にあたっていた戦闘員ゾルダーは、すっかり怯えながら紅子に報告する。超小型ながらも強力な爆弾ばかりなのである。手違いでその一つが起爆すれば、連鎖的に起きる誘爆で自分たちがいるアジトは壊滅する。
「大丈夫よ」
 紅子は余裕の笑みを見せた。手にした乗馬ムチを、ヒュンとひと振りする。
「自分の弟の安否を確かめるまでは、この女の爆弾たちは爆発しないわ」
カランッ!
 ペギーの口腔から引き抜いた義歯爆弾を、わざと乱暴に金属トレイに放り込み紅子はきびすを返す。
「それじゃあ、特別室まで案内しましょ」
 両脇を戦闘員ゾルダーに固められて身動きもならないまま、ペギーはアジトの深部へと連れ込まれる。
  *    *  
「支部長っ!」
 ペギーは、通路の強化ガラス越しに見せ付けられた光景に思わず眼を背けた。それはイーグル北海道支部長の変わり果てた姿だった。グロテスクな磔台に裸で大の字に寝かされ、股間の逸物(陰茎)を隆々とそそり立たせている。……いや、強制的に勃起させられているのだ。陰嚢や鼠径部に丸い吸盤型の電極パッドが装着され、肛門にも複数のコードが潜り込んでいる。
「紫(ゆかり)子。やりすぎないようにね」
 紅子は壁のインターフォンで室内に呼びかける。
 紫子と呼ばれた、紅子と瓜二つの女は、強化ガラス越しにヒラヒラと手を振った。その楽しげな様子のまま、眼の前で怒り立つ北海道支部長の陰茎の根元に、黒い射精封じのベルトを巻いて締め付ける。
「あの子のオトコ好きにもこまったモンね」
 強化ガラスの向こうでは、その紫子がパンパンに膨れ上がった北海道支部長の陰茎をムンズと握り締め、激しくしごき立てはじめた……。
「だいぶガンコだったけど、三ヶ月もカワイがってやれば、人間なんてチョロいモンよ。もっとも、ヤリすぎると壊れちゃうけどね」
 次に見せられた部屋の中では、見知らぬ女が拷問椅子に座らされていた。乳房や性器に拷問装置らしき機器が取り付いている。装置のパイロットランプがチカチカと点滅して作動中であることを示していた。どのような責め苦なのか、女は全身に脂汗を滲ませながらも眉間に皺を寄せ、口をへの字に結んで耐えている。
 先と同じくインターフォンで紅子が室内に呼びかける。
「すこしは懲りたでしょ。闇(やみ)子? 粛清されないだけマシってモンよ」
 拷問椅子の女は、閉じていた眼を開くと激しい目つきで紅子を睨みつける。
「これは、せっかくの情報源を、壊しちゃった罰なのよ」
 今度は、紅子が強化ガラス越しに、拷問椅子の闇子にヒラヒラと手を振った。
「あれは、……みどりさん!?」
 その同じ部屋の隅で、小さく縮こまって震えている女性の方にペギーは見覚えがあった。犬にように首輪を付けられた以外は、まったく全裸の身体を隠すように身を縮め。ワナワナと全身を震わせながら、拷問椅子の女・闇子を見つめ続けている。それは、北海道支部で研究開発部の同僚だったみどりだった。
「みどりっていうのね。その女ったら、自分の名前すら吐かなかったのよ」
バシイッ!
 ふいに室内の拷問椅子からスパークが部屋中に飛ぶ。その光と音に、部屋の隅のみどりから絶叫が上がる。
「もう、イヤあっ! もう、イヤああーっ!!」
 強化ガラス越しにもみどりの絶叫が聞こえてきたほどだった、部屋の隅でさらに身体を縮めて脅えきっている。
「じゃあ、闇子ちゃん。またね」
 拷問椅子に座った闇子は、紅子の挨拶に対して口元を笑いのかたちに歪ませると、早く立ち去れと眼で促した。
「18名の捕虜のうち、7名が自決を含む拷問死、9名が精神に異常をきたしたわ」
 紅子の読み上げるイーグル北海道支部の犠牲者の数に、ペギー松山は歯噛みする思いだった。いや、実際にギリギリと喰い締めた奥歯が、先ほど引き抜かれた義歯の傷口を広げ、ペギーの口中に血の味を広げていた。
「残る二名のうち、北海道支部長は陥落寸前。……そして、あとの一人」
 地獄絵図のような通路の端の、特別室のドアを開けて紅子は告げた。
「イーグル北海道支部の生き残り、松山姉弟。この地獄の底で感動の再会よ♪」


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