序幕 狼は眠らない


 薄暗い路地裏。ほんの少し行けば人が行き交うメインストリートだが…
「ぐぎゅ」
 金髪の15、6の少年が短い悲鳴をあげて巨大な影に殴り飛ばされ血反吐を吐きながら倒れこんだ。
「やめ…いや…」
 その様子をみていた同じくらいの年齢の少女は腰を抜かし涙を流しながら首をいやいやとふり近づいてくる巨大な影を拒絶していたがそれはムダでしかなかった。
「グルルル」
 少年を血だるまにした影は獣のように低い唸り声をあげながら少女に近づく
「こない…」
 少女が口にできたのはそまでだった。影は少女の口の周りを長い舌で舐めわますと少女の下半身を包む衣服を一瞬でボロ布へと変える。
「た…助けてママァァ」
 少女は必死で助けを呼ぶが不幸にもその声はメインストリートの雑音でかき消され人の耳には届いていない。影はその少女の反応など気にすることなく、まだ濡れていない少女の秘裂にいきり立つ己のシンボルを強引に突き刺す。
「痛い…やっ…抜いて…ひぎぃぃ」
 少女は苦痛を訴えるが影は、己の欲望のままに腰を動かす。少女はいままで味わったことのない感覚に苦悶の表情を浮かべつづけたがやがて熱い感覚が胎の奥底に感じると同時に気を失ってしまった。

 2時間後―
 
 いつもと違う喧騒に包まれる繁華街。数台のパトカーが細い路地の前に止まっていた。
「それで、被害者は?」
 無精髭を生やした中年の刑事の質問に若い警官は手帳を広げ答えていた。
「少年のほうは、南野健太。ここら辺の不良グループの一つ『邊埜夢(ヴェノム)』の下っ端らしいです。少女の方は佐原美喜、南野の彼女らしいです」
「状況は?」
「少年は重傷ですね。両腕、肋骨は粉砕骨折、頭蓋骨陥没に、背骨もかなり…奇跡的に命は取り留めましたが、後遺症は免れないそうです。女の子は方は性的暴行を受けていて精神的ショックでうわごとのように『狼が…狼が…』とくりかえしてて酷い物ですよ」
「判った。周辺の聞き込みを重点的に、あと、怨恨の線も洗ってくれ」
 そう指示を出すと少し離れた場所で壁に寄りかかりながらタバコを取り出し一服する。
「ふー嫌な事件だぜ」
「そうですね。斉藤さん」
 いつのまに背後にスーツ姿の女性がにっこり微笑を浮かべたっていた。
「沖田…たのむから気配を消して背後にたたないでくれよな」
「すみません。それでどうです?犯人は…」
「十中八九は犯人は『星の落し物』だろうな」
 斉藤は深くタバコを吸うと空を見上げる。
「意外と詩人ですね。斎藤さん」
 沖田も横に並ぶと同じように空を見上げた。
「おちょくるなよ。だが、そうだろ?1999年に世間を騒がしたパンドラ彗星の落し物…レボウィルス」
 斉藤のぼやきに沖田の顔から笑みが消える。
「かなり迷惑なウィルスですよね。生命力と感染力が強くて空気、接触とあらゆる方法で感染し生命体なら種族を選ばない。植物にも感染するという研究データがあるくらいです。ウィルスに適合しない生き物には『無害』というかなんら変化はおきない。けど一度適合するとウィルスは超高速で進化、変革を起こし宿主の細胞の一部となる。その後は、適合した生命体は常識を超えた超常の力を手にする。まーこれでウィルス進化論が証明されましたけどね」
 一呼吸入れる
「でも、証明されても公表はできませんでしたけどね。まー公表されてたら中世の魔女狩りのよろしく、猜疑心と自己中心的な正義感をかざした殺戮が増えてたでしょうね。まーそんな事を考えない学者はインターネットで公表に踏み切りましたけど都市伝説程度の扱い押さえ込まれてますけどね」
「さすが天才ドクターご高説ありがとございます」
「おちょくらないでくださいよ。それに…」
 沖田は暗い顔で俯き
「アメリカで飛び級して天才ともてはやされ調子にのってレボウィルス抗生剤を作って…」
 肩が震える。
「ああ、悪かった……嫌なこと思いださせちまったな」
 斉藤は頬を指でかきながらタバコを消す。 
「いえ…それで、斎藤さんこれからどうします?」
「一般の警察には対処できないからな。それに対抗するのが俺たち特殊チーム『ガルム』の役目だしな」
 吸殻を携帯灰皿にしまうと壁から離れる。
「ですね」
 斉藤の後に沖田が続くと沖田のポケットから軽快な音楽が流れると沖田は手早く携帯を取り出す。
「どうした?」
「近藤さんからのメールです。フェンリルとピクシーの2人をこっちに回してくれるそうです」
「判った。それじゃー情報収集に行くか」

 1999年。世界はある一つのニュースで持ちきりで一杯になった。それはパンドラ彗星と呼ばれる一つの彗星が地球との衝突する軌道に入ったというとんでもないニュースだった。人々はノストラダムスの予言の的中かと騒ぎ様々な新興宗教の乱立や自暴自棄になった人々の暴動が世界各地で起き社会はまるで混乱の極みであった。しかし、パンドラ彗星は地球に衝突することはなく無事に過ぎ去り人々は安堵し混乱は収束に向うかに思えた。
 だが、新たな事件がおき始めた。それはどれも常識外の事件で人々を再び恐怖の日々を迎えることになった。事件の真相を調査するうちに特殊なウィルスが発見され研究が進めれた。そのウィルスは適合する固体に着床すると異常な速度で進化・増殖・変革を終え12時間で適合した固体の細胞へと同化し適合した個体に超常の能力を与えるという信じられない物だった。各国の政府はこの事実を隠蔽し、それとともに対抗する手段としてウィルス適合者で結成された特殊チームをしこれに対応することを極秘裏に決定した。
 それから10年の月日が流れ時代は新たな局面を迎えようとしていた。

 ここは某県にある星雲市、人口は約40万人と中規模の都市であり日本一星が綺麗見える都市と復興を遂げている。その星雲市にある公立星雲高校の教室では
「であるから、このパンドラ彗星のもたらした混乱は非常に大きくだな…」
 中年太りの教師で加茂が少しイライラした調子で教科書を読みながら黒板に説明を書いていた。
 ボキッ―
 強く押し付けていたチョークが折れ教師は振り返る大声で
「大上錬(おおがみ れん)!!それに月白一(つきしろ はじめ)!!」
 2人の生徒の名前を呼び上げた。
「ふぇっ…?」
「うぅ…」
 2人はまだ眠そうに目を擦る。
「お前達!!俺が気づいてないからとおもって気持ちよさそうに眠ってるじゃないか、えぇぇ?あれか?しっかり勉強してるので俺の授業など聞きたくないというわけか?あぁっん?どうなんだ。これだから最近の若いもんはだな…」
 教師はそういいながら自分の苦労話なのか自慢話なのかわからない話を始めその話から解放されたのは終業のチャイムがなった時だった。
「うん?もう終わりか…しかたない。56ページから60ページまでを次の授業までにまとめて来いいいな」
 と課題を残して教室を出て行った。
「まったく、あいつらのせいで俺たちにもとばっちりだぜ」
「ほんとほんと」
 クラスではそんな陰口を叩かれる。もっとも、直接言えばイジメと『誤解』されると思って直接言う生徒は1人を除いていない。
「で、2人とも何でも授業中に居眠りしてたのかしら?」
 にっこりと微笑を浮かべながら黒髪のポニーテルと大き目の丸眼鏡が特徴的な少女―山南志乃は今だに眠そうな2人を問い詰める。
「ふぁ〜いや、昨日夜遅くまでバイトで、ほら僕って苦学生だから自分で学費を稼がないといけないんだよね」
 最初に答えたのは大上だった。錬はぼさぼさの髪で身長は170センチと高めなのだが猫背のために低めに見えおまけに気だるそうな雰囲気が常にただよっている。
「それで授業中に寝てたら本末転倒でしょうが!!」
「はははは…」
「笑うな!!それで月白君…君はどうして寝てたのかな?」
 志乃の顔が引きつっている。
「あの…ちょっとレアアイテムを求めて…冒険に…」
 詰め寄られた月白は言いよどむ。一は男子のなかでも小柄でいまいちさえない感じがする少年で分厚いレンズの眼鏡の所為か余計にそう感じられる。
「つまり…あんたまたネットゲームして徹夜したのね」
 眼光が鋭く光
「は、はい…」
「あんたねぇぇ…あれほど徹夜でゲームするなって言ってるでしょ!!」
 怒気が破裂する。ちなみに周りの視線は『ああいつもの癇癪か』程度の物である。
「いや…あの…志乃ちゃん…そのごめん…」
「うん…僕も悪かったよ。委員長」
 2人はもう平謝りするしかなかった。錬と一は高校に入って出会いすぐに馬が合った親友同士、ちなみに2人の成績は良くもないけどそれほど悪い成績ではない程度。そして、2人をしかりつけているのは学級委員長でもある山南志乃。一とは幼馴染という関係から3人一緒くたにクラスでは考えられている。
「まったくちゃんとしなさい2人とも、最近は物騒なんだからボーとしてたら狼男に襲われるわよ」
「はははは、気をつけますよ。大上が噂の狼男に襲われたら洒落になりませんから」
「でも、その噂本当かな?ビルの屋上を飛び跳ねる狼男って?」
「にゃははは。それが本当らしいよ」
 突如1人の少女が会話に割り込んできた。
「「うわっ」」
 錬と一は唐突に現れた少女に驚いてなさけない声をあげてしまった。
「ごめんおどろかしちゃった?」
 どこか猫っぽい雰囲気の少女はぺろんと舌をだしながら可愛らしく謝った。
「ねこ、いつの間にきたの?」
 志乃は現れた少女に声をかける。
「さっきかな?狼男の噂をしてたみたいだからね。愛峰小春(あいみね こはる)は噂があれば何処でもあらわれるよ」
 小春は小柄で明るい少女で猫のような仕草と名前からねこと友達からは呼ばれている。
「それで、狼男あれって正義の味方かもて噂があるんだよね。昨日被害にあった南野ってすっごく乱暴な奴でけっこう酷かったみたい一緒に被害にあった佐原て女の子も性格悪くて自分よりもかわいいて言われてる女の子をいろいろとさせたりとか結構キチクなことしてたみたいなのよね〜だから法で裁けない悪を懲らしめる正義のヒーローて南野と佐原の被害にあった人たちは思ってる見たいなんだよね」
「へー」
「いまのところ狼男がかかわってる事件といえばヤクザの経営するあくどい貸し金業者を壊滅させたとか、まー何かしら人に恨みを買ってる人たちばかりて共通点があるらしいんだよ。だからまー世間一般的な悪党でないかぎり襲われないとおもうよ〜それはそうと3人ともそろそろ行かなくていいの次は移動教室だよ?」
「えっ?」
 気がつくと教室には4人だけしかいなくなっていた。
「大変、ほら2人とも準備して」
「それじゃー先にいくね志乃ちゃん」
「ありがとうねこちゃん」
 3人は慌てて教室を移動した。

 ★ ★ ★

 深夜二時、繁華街からすこし離れたところで6階建てのビルの中でその事件はおきていた。
「てめ…こんなことして…ごふっ…」
 ごきゅっ―
 鈍い何かが砕ける音がした。
 そこはヤクザの組の事務所ではあったが電灯が点滅する薄暗く血と汚物の嫌なにおいで満たされその部屋の中央には3メートルはある二本足でたつ巨大な狼―狼男がたっていた。
「悪は滅びなきゃ…ねっ」
 狼男は部屋を見回す、部屋中に赤い液体がまだらに飛び散り壁や足元には肉の固まりが転がっていた。
「てめぇこんな真似してタダで済むとおもなよ。やろどもやっちまえ!!」
 人相の悪い十人の男たちが狼男に銃を向けているがそれに怯む狼男ではない。
「そんなじゃ殺せないよ」
 狼男はそういと悠然と構える。
「やろうどもやっちまえ!!」
 男たちは一斉に引き金を引き狼男に銃弾の雨を浴びせるが狼男は怯むことなく銃弾の雨をまるで霧雨とかわらないかのようにつき進む。
「だからそんなんじゃ殺せないよ」
「ひっ」
 狼男が1人男の頭部を掴むと壁に押し当てる。男の頭部はまるで豆腐のようにもろく潰れピンク色の肉片が床に滴り落ちる。
「ははははは、悪は滅びろ」
「ひぃぃぃに…にげろぉぉぉお」
 男たちは逃げ出そうとするがもう遅かった。
「逃がさないよ」
 狼男は鋭い爪で次々に切り裂き、あるものは力任せに引きちぎられもうそれは虐殺の域を越えた地獄絵図でしかなかった。
「貴方で最後だ」
「た、助けてくれ」
 男は腰を抜かしながら小便を漏らして命乞いをしたが狼男に聞き入れる気はまったくない。狼男は無慈悲に爪を振り下ろすと
 ヒュッ――
 風の擦れる鋭い音が部屋に響きわたる。
「ぐっ…」
 だが、その後に苦悶の声をあげたのは以外にも狼男だった。よく見ると狼男の右腕にナイフが刺さっている。
「誰だ!!」
 ナイフが飛んできたであろう方向をみると小柄な少女がたっていた。暗がりのためか顔は見えない。
「貴方の暴挙を止める者…くらいなさいシルバー・キラー・ビー(殺人銀蜂)」
 少女から複数の銀光が迸る。
「さっきは油断しただけだ」
 狼男は身を屈め素早く銀光を避けると同時に少女との間合いを近づけると腹部を狙って拳を叩き込んだ。
「しまっ…」
 その動きは少女の予想よりも早く回避が追いつかずになんとかガードするが腹部に衝撃が伝わり痛みで気を失いそうになる。
「君もただの人ではないみたいだけど僕には敵わないよ」
 狼男は右腕に刺さったナイフを引き抜く。すると傷口があっというまに再生していく。
「リジェネレート(再生能力)…厄介な能力まで」
 少女は悪態をつきながらナイフを構える。
「邪魔した罰を受けてもらわないとね」
 舌なめずりしながら狼男は鋭い爪を伸ばして少女に近づいていく、少女も構えるが自身の攻撃能力で止められる自身はなかった。
「なに、殺しはしないから安心していいよ」
 狼男が後、数歩という所まで近づいたところで入り口のほうから声がした。
「はい、そこまで」
「またか…今夜はなんなんだ」
 うんざりしながら狼男は視線だけをうごかす。入り口に立っていたのは頼りない感じのする銀髪の男がたっていた。
「ピクシー、大丈夫か?」
「なんとか…でも…フェンリル…遅い…なにをしてたの」
 ピクシーと呼ばれた少女は苦痛に歪んだ声で苦情を訴える。
「すこし用事があってね」
 フェンリルと呼ばれた男は頬を掻きながら謝る。
「今度は誰?いっておくけど貴方でも相手にはならないよ」
 狼男はフェンリルに体を向けると地面を蹴って間合いを詰めると少女の腹部を狙った一撃よりも重く鋭い突きを顔面めがけて放つ。だが…
「おっと」
 少女がガードするのに精一杯だった突きを軽く避けて間合いを広げ低い姿勢で構える。
「なに!!」
 狼男は驚愕し一瞬動きが止まる。その瞬間フェンリルは地面に手の平を地面につけると
「…構成物質は鉄…形状タイプ:刀…性質は振動!!」
 その言葉とともに地面から現れた刀をフェンリルは両手でしっかり握り横一文字に構える。
「そんな物を取り出したからって!!」
 再び襲い掛かるだがフェリルには狼男の動きをしっかり捕らえておりがら空きの胴体に鋭い斬撃を刻み付ける。
「ぐっ…けど…こんな傷…すぐに治療して…がはっ…なんで…思ったよりも深い…再生しない…なんでだ…」
「この刀はただの刀じゃないんでね。俺の能力で作ったヴァイブレード(振動剣)たとえ再生能力があっても細胞単位でダメージを受ければ治りが遅くなる」
「そんな…くそっ…」
 狼男は悔しそうにしゃがみ込む。
「観念するんだな」
 フェンリルは刀を構える。
「観念なんてするもんか!!」
 狼男はそうさけぶと近くに落ちいていたヤクザの死体を掴むと投げつける。
「ちっ!」
 その死体を避けようとフェンルリが横に飛ぶと同時に狼男は窓に向って突進し突き破る。
「しまっ…」
 そう思ったときは遅く狼男は姿は窓の外になかった。

 ★ ★ ★

「たく。お前ら二人いて逃がすなんてな」
 斉藤は悪態を突きながら火の着いていないタバコを咥えていた。
 フェンリル達は狼男を逃がしたことを本部に伝え救援として惨劇の起きた場所には斉藤と沖田が駆けつけていた。
「もうしわけ…つっ」
 ピクシーは謝罪し様と体を動かすが先の戦いで肋骨の何本かにヒビが入っていたのである。
「ほら、治療中に動かないでください」
 沖田はそう言ってピクシーの腹部に手を当てると暖かい光放たれピクシーの顔色が良くなる。
「それでどんな奴だった?」
「予想通りにライカンスロープ(獣化能力者)で、あと再生能力もある厄介なタイプです」
「ですけど、もっと厄介なのはその精神構造です。悪即滅というか自分の正義の味方で悪党には何してもいいと思ってます」
 ピクシーが自分の見解を伝える。
「なるほどな…それで目星は?」
「それは…たぶん中学生か高校生だと思いますけどそれ以外は…」
「いや、あるぜ。格闘技なんかの経験はない。あいつの攻撃はどれも直線的に力任せに攻撃してる感じだった。あとは力に対して強い思いみたいなものを感じた」
「なるほどな。沖田どう思う?」
「そうですね。その条件である程度搾れると思います」
「判った。2人は引き続き夜の警備を頼む。ただ、次は逃がすなよ?手負いの獣は厄介だからな」
「了解…」
「了解です」
「それじゃー2人は帰りな。後の処理はこっちで済ませるからよ」
 そういわれフェンリルとピクシーは後を去っていた。
「しかし、こいつは酷いな…」
「そうですね。出来るだけ修復してみますよ…彼らは悪党かもしれませんけどこんな最期はあまりにも可哀想ですから」
 現場に残った斉藤と沖田はなんともいえない気持ちになった。

 ★ ★ ★

 事件が起きてから3日
 物騒な事件が起きてもそれはそれ休日である今日は街にはそれなりの活気が溢れていた。
「次は何処に行きます?」
「噂では、新しくできたパスタ屋が美味しいそうですよ」
「じゃーそこに行こうか?」
「うん…」
 錬、一、志乃、小春の四人は遊びに出ていた。
「おい、おめーらちょい面かせや」
 そんな四人の背後から5人組の男が声をかけてきた。
「な、なんなのよあんた達」
 志乃が真っ先に睨みつける。
「志野ちゃん…噂によるとこの人たち邊埜夢のメンバーらしいよ」
「いいから来い」
「止め…うご」
 錬の腹部をタンクトップを着た男が殴りつける。
「さーて、お前らにはすこし付き合ってもらうぜ。おい、リーダに連絡。いい餌ができたってな」
「あいよ」
 仲間の1人が携帯を操作して一言二言喋ると黒いバンが凄い速度で止まる。
「さてと、それじゃー目的地に着くまでに遊んで…」
「まてよ。リーダーの許可なくそんなことしてみろ後が怖いぜ」
「しょうがねぇか…」
 男たちはそんな下衆な会話を馬鹿笑いしながら進む。
 車が着いたのは少し町外れにある旧都市。そこはパンドラ彗星が接近するまではメインタウンであったが暴動と彗星接近時の重力の影響でおきた地震のために今ではゴーストタウンと化していた。
「リーダー適当に狩って来ましたよ〜」
「おうっ、他の連中も戻ってきてるぜ」
「おら、降りろよ」
「ちょっ…離しなさいよ!」
 志乃はいまだ気丈に振舞うが目の前の光景に絶句した。
「いや…やめ…あぐっ…」
「へへへいまさらなに言ってんだよ。もう2時間もやられてるんだ諦めるんだな」
 そこでは何人もの少女が犯され、そして
「よし、まだ気絶してねえな。じゃー次はここだ」
「ぁぅ…」
 柱にはロープで何人かの少年をつるしサンドバックのように殴りつづけてた。
「なんなのよこれ…」
「な〜に。ちょっとした儀式さ噂の狼男を呼び出すな。まーどんな奴かは知らないけど内のメンバーに手を出してくれんでな落とし前というやつさ」
 リーダー格の少年は志乃を値踏みするように見つめる。
「いいねぇぇ。その低い身長に薄い胸さらに丸めがね…完璧だ魚瑠田」
「ありがとうございます。リーダー」
「とりあえずこの子は俺が楽しむとして残りは好きにしな」
「よし、ほらさっさと降りろよ」
 錬、一、小春も降ろされる。
「さてと、楽しもうかね。お嬢ちゃんたち…ああ野郎は適当に半殺しだな」
「いや…いや…」
 志乃の衣服に手を滑り込ませ小さな胸の頂きの蕾をなでる。
「止めろ!!志野ちゃんに手を出すな」
「うっせいよ!!」
 男が一の顔をサッカーボールのように蹴りつける。
「さてと…俺たちはこの子で遊ぼうかな、こっちは結構、胸あるんだよな」
 小春にも魔の手が伸びようとしたそのとき
「いい加減…しろ」
 一の声のトーンが変わる。
「なんだと!!」
 もう一度、男が蹴りを放つとこんどはその蹴りを手の平で掴むと
 ゴキュ――
 鈍い音が響き全員の注目が集まる。その衆人の目の前で一は見る見るまに狼男へと姿を変える。
「殺してやる」
「やろうどもやっちまいな!」
 リーダ格の少年が号令をかけると腰が引きながらも少年達は狼男に襲い掛かるが…それは徒労に終っていった。殴りかかった少年は顔面を殴られ吹き飛び、ナイフで切りかかった少年は顔面を握られ顔の穴という穴から血が滴り落ちる。次々に暴風に吹き飛ばされるように少年達が待っていく。
「ちっ…動くな。動くとこいつの顔に一生消えない残るぜ」
 リーダー格の少年はのこぎりを握ると志乃の顔に押し当て様とするだが…
 キィーン――
 鉄同士がぶつかり合う高い音ともにのこぎりが吹き飛びリーダー格の少年がバランスを崩すと一は飛び掛り拳を振り下ろす。
「止めだ!!」
 一は鋭い爪で喉元を掻ききろうとする。
「止めて、一!!もういいから…これ以上は止めて」
 志乃がたまらず止めに入る。
「でも、こいつらは…こんな酷いことを許せるもんか!!」
 だか、一は怒りに納まらず一気に振り下ろす
「はじめーーーーー」 
 志乃の絶叫がこだます。
 ドゴ―
 その豪腕からくりだされ衝撃が土煙をあげ様子が良く見えなくなる。
「どうして一…」
 あまりの出来事にうなだれ座り込み地面に手をつく。
「大丈夫だよ。志野ちゃん」
「え?」
 その背後から小春が声をかけた。
「なぜだ…なぜ邪魔をするんだ!!」
 土煙が消えるとそこには錬がたち一の豪腕をそらしていた。
「錬なんでだ!!いや…それよりもなんで…君が…そんなこと…」
「一もう止めろ…お前が悪だと決めてただイタズラに暴力を振るえば更なる暴力を生むだけだ…」
「何を言ってるんだ…悪は滅びるべきだ!!この惨状を起こした奴らを許すのか?」
「確かに…こいつらは許せないが俺ならもっと上手くやっている…」
 そういって静に目を閉じると額に瞳が現れ髪の色が銀色に変わる。
「彼らも裁かれなければいけないのは確かだが…一お前も裁かれなければいけない。いかなる理由があろうと人殺しは人殺しだ。善であろうが悪であろうが命を奪う行為が悪なのだからな」
 普段の気だるそうな雰囲気が消える。
「友としてお前の暴挙を止める」
「君が悪を庇うなら君も悪だよ錬!!」
 2人の間の空気が固まる。
「どうして…なにが…今日はみんなで遊ぶはずたったのに…」
 志乃は目の前の現実が信じられなかった。あの弱気だった一が狼男で不良たちをあっという間に倒した…でも殺そうとしたことは認められない。そして錬がその前に立ちはだかって銀髪になってもう頭がおかしくなりそうである。
「志乃ちゃん大丈夫だよ。錬がきっと止めてくれるから…」
「ねこ?」
 普段と違う小春の雰囲気にさらなる戸惑いを覚える。
 そんな2人を他所に先に動いたのは一だった。持ち味であるパワーで思いっきり振り降ろす亜音速の突き。だが錬はそれを数ミリ動いただけで避ける。だが一は避けられたことを気にすることなく何度も当たれば致命傷となる突きを繰り出すがかすりもしない。
「なんで、なんで当たらないんだ!!」
 百を越える突きを放っても掠る事ができないことに焦りが現れる。
「一…お前の攻撃は直線的で初動さえ見落とさなければ避けることは容易だ」
 それに対して錬は慌てることなく一の攻撃を避けつづける。
「避けれるからって…僕が負けるとは…」
 錬はゆっくりとした動きだが容易に一を捕らえ手の平を押し付ける。
「ムリだ。なぜなら…キャリアが違う」
 ドンッ――
 鈍い音が響くと一は前のめりに倒れこむと徐々に体が萎み元の姿に戻った。
「ミッション…完了…ピクシー…斎藤さんに連絡を」
「判った…フェンリル…ところで志乃ちゃんは?」
「それは……」
 フェンリル―錬は答えを一瞬ためらった。
 だが、彼らの大きな運命のほんの序章でしかなかった。



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