三幕 闇に潜む者たち


 高層ビルの最上階にその部屋はあった。部屋の中央に置かれているのは大きな円卓が一つと大きく上質の椅子に10人ほどが腰掛けていた。
「テラークイーン、今回の損失は大きいですね」
 丸眼鏡をかけた優男がそう発言しクイーンのほうにその冷たく鋭い視線を向ける。
「シヴァやんのいうとおりやなぁ。今回の損失はいたいいでぇ〜えっと船の代金だけで52億やしほかの保証やらなんやらで…どひゃ〜どえらいもんや」
 ぽっちゃりとした体型の男がソロバンを弾きながら悲鳴をあげている。
「あららら、凄い額だね〜エク・チュア」
 少年が能天気そうに話すがすぐに手元の携帯ゲームに没頭する。
「アドニス…貴方も幹部の1人として自覚をすこし持ちなさい」
 その少年に穏やかでありながらどこか野性的な魅力な女性が注意する。
「はいはい、わかりました〜もーフルムーンはいつもうるさいな」
「…うるさいのはあなた…」
 ゴスロリ少女が手元の人形をかわいがりながら呟く
「なんだよ。陰険女〜」
「…うるさい…」
 少年と少女の間の空気が膠着する。
「ふっ…やめたまえ。アドニス、ドールプリンセス。ここはこの僕の美しさに免じてね」
 鏡を見つめながら優男が制止する。
「……」
 その様子を黒のスーツを着た男が見つめるがなにもいわないがそれが余計に不気味である。
「くだらないことグタグダいってじゃねぇよ。ナルキス、ヘカトンケイルがあきれて…うん?」
 ガラの悪い革ジャンを羽織った男はあることに気がついた
「おい、ヘカ…てめぇぇ寝てるだろ?」
「…何のことだ…シュラ」
「涎ついてるぞ」
「ば、馬鹿な…」
 慌てて拭う動作を…先ほどまでの緊迫した空気が変わる。
「で、君達はいつまでこんな茶番を僕に見せるのかな?」
 今まで黙っていた青年がその口を開く
「いや、クロノスはんそういわけで…」
「うん、そうだよクロノス…僕もきちんと聞くよ」
「そ、そうですよ。クロノス、怒りなど美しくありません」
「…おとなしくする…」
 他のメンバーも萎縮する。クロノス、それがこのラグナロクを纏め上げる男の名である。
「そう。で、今回の報告だけどテラー・クイーン」
「申し訳ありません…私としたことが…」
 俯きながら返答する。
「いや、いいよ。船はどうなろうとね。資金源は他にもいくつかある。それで君に辛酸を舐めさせてくれてくたれ連中は?」
「特殊機関『ガルム』のメンバー…1人は脱走者であるブラッディーキティでした。今はピクシーというコードネームで呼ばれているようです」
「なーんだ。元飼い猫にまたやられたのか〜」
 アドニスが茶々を入れる。
「アドニス、そういうことは言うものではないよ」
「すみません…」
「話を続けよう、それで実力は?」
「はい、忌々しいですが、その実力は組織を抜けた時よりも能力も数段あがっています」
「なるほどね…もう1人は?」
 その質問にテラー・クイーンは苦い顔を浮かべる。
「どうした?」
「い、いえ…そのギターを弾きながら雷を操る変な能力者ですが…実力はかなりの物です」
「面白そうだな。そいつ一度手合わせしたいね〜」
「シュラ、君はいつも好戦的だね。それで、そのまま手を打たない君ではないだろ?」
「と、当然です。私の手のものを放ちました」
「なるほどね。そういうわけだ…シュラ、君の出番はもう少し後になると思うが、とりあえずテラー・クイーン、借りはしっかり返すように…まー参加したいものは勝手に参加してもいい」
 それぞれの思惑を浮かべ闇に潜む者たちは動き始めた。

 ★ ★ ★

 志乃はやっとで日常の生活に戻ることができた。と同時に非常に驚いた。あの事件はバス事故として報道されていたことや両親もそのように認識していた。むろん細部にも細工がされていたために心の中ではもやもやした物があるが久々の日常を送れたことに少なからず嬉しかった。
「どうでした志乃さん」
「あっ…錬…うん、みんなにウソついてるみたいだけど…でも、こう平和っていいね」
「ですね」
 2人は並んで歩くただ少し気まずく会話が上手く続かない。
「ねー錬…私と一緒にいるのって…」
「一応、護衛。僕なら怪しないし」
「つまり…お仕事で私と一緒にいてくれるんだ…ふーん」
 志乃の機嫌が少し悪くなる。
「えっ…ああ、えっと…その…ん?」
 錬は志乃の手首を掴むと志乃の背中を壁に押し当てる。
「ちょっ…なにするのよ!!」
 あまりにも強引な行動に戸惑うが次の瞬間、
 ズザァァァァァァァ――
 今まで歩いて場所に大気を切り裂くような衝撃が走る。
「えっ…な、なに?」
「ひゅー避けやがった」
 パンクファッションの長身の男が口笛を吹きながら悠然と歩いてきた。
「なー、ファンタズマこいつらがそうなかの?」
 その隣を歩くブレザー服をきた学生に話し掛ける。
「いえ、ただ能力者である可能性は高いですからね。なんらかの形でガルムと関わりがあると思いますよ。ブレード」
 何気ない会話を交わしながらではあるが2人の少年からは錬達に対して殺気が放たれつづけていた。
「じゃーいくぜぇ」
 ブレードと呼ばれた少年が腕を大きく振るとその軌跡をたどるように衝撃波が錬達に襲い掛かる。
「志乃さん、僕の後ろに…」
 錬は腕を前に突き出し志乃と自分を包み込む繭を形、質感、重量等を細部にまで強く想像する。そして、錬の想像は創造へと代わり物質分解を再構築する。それが錬の能力『グレート・ザ・フール』の一部である。
「すげー、こいつすげぇぞ。ファンタズマ、こいつはオレがやる邪魔をするなよ」
「はいはい、では、女性のエスコートはこの私がしますか、彼女はどんな能力をもっているのか気になりますしね」
 ファンタズマと呼ばれる青年はそういと地面に手を置く
「ファンタズマル・メイズ(幻想迷宮)」
 地面に光の亀裂がはいるとその光は錬と志乃を包み込む。
「これは…」
 光から解き放たれた錬たちが目にしたのは空は血に染まったように紅く、大地は何も無い荒野へと成り代わっていた。
「ほーら、ボーとしてると死ぬぜ」
 衝撃の刃が錬と志乃を分断する軌跡をえがく。錬は衝撃から志乃を守るように障壁を作り出すが力任せの攻撃による奇襲が反応を遅らせ自分の防御が間に合わずに左腕の袖が破け腕には無数の傷がつく。
「では、こちらも…」
 錬と志乃の距離がほんの5メートル離れた瞬間、二人の間の空間が一瞬歪むと、その次の瞬間には互いの姿が見えなくなっていた。
「さてと、彼には少し遠くにへと言ってもらいましたのでその間たっぷりと楽しみましょう」
「な、なんなのよ…」

 ★ ★ ★

 鋭い衝撃の刃が、一閃、二閃と次々に錬を襲い掛かる。だが、錬はその攻撃を確実に見切り難なく回避しつづける。
「ちっ、また避けやがった」
 ブレードは自分の攻撃が当たらないことに怒りを覚え始める。しかし、その怒りのため攻撃の威力は上がっているものの雑になりその攻撃の軌道はさらに読みやすくなっていく。
「いい加減に当たりやがれ。It tears apart(刃は別々に切り裂く)」
 数条もの衝撃の刃が錬に襲い掛かかり土煙を巻き上げる。
「おっと、ついカッとなっちまった…楽しむつもりだったんだが…しょうがねーファンタズマの方に加勢してやりにいくか…」
 勝利を確信し背を向ける
「まだ、終ってないぜ…構成物質は大気…形状は刃…方式は放出。空刃飛翔」
 錬は目の前の空間に意識を集中させ空気の性質を変化させると衝撃の刃をブレードへと放つ
「な、なに…てめぇも…The wall of a shock(衝撃の壁)」
 倒した思った敵の意外な攻撃に咄嗟に作った衝撃波による防壁では間に合わず顔に紅い筋が引かれるとそこから赤い雫が落ちる。
「やってくれるじゃねぇか!!オレの顔に傷つけやがってよう!!頭きたぜ!!もう、殺す。殺す!!The
evil spirit of a shock rages(衝撃の悪魔は荒れ狂う)」
 無秩序に生み出された衝撃の刃が錬に向う
「ひゃはははは、どうだこの攻撃が避けられるか?」
「別に、避けるまでも無い…構成物質は大気…形状はドリル…方式は放出。突貫空撃」
 今度は空気の螺旋を作り出すと無数の衝撃の刃を容易く貫く
「な…んだと…」
 自分の最大の攻撃があっさりと打ち破られブレードは動揺を隠せない。
「お前の攻撃は軽い。一見すると派手だが、その分威力が拡散し隙も多いんだよ」
 錬の髪が銀色に変わり始める。
「テメェはまさか…ガルムの銀髪の狼『フェンリル』」
「いろいろ、聞きたいけど…とりあえず決めさせてもらうぜ。状況は危険レベルCと判断。戦闘要項より戦武装を発動に相当と判断し敵の撃破を開始」
 塵のが舞い錬の体を覆い始めて0.5秒。錬の髪は銀髪となりその両腕には鉤爪のついた手甲を身につけていた。
「いくぞ」
 そういうと一足でブレードとの距離を縮める。
「くそっ…」
「お前の攻撃は手を振るという動作をもって衝撃破を生み出すきっかけにしている。そのため距離が縮まれば…はっ!!」
 錬の素早い攻撃はやすやすとブレードを捕らえ切り刻む。
「オレは…選ばれたんだ!!うぉぉぉThe evil spirit of a shock rages!!!」
「もう、その攻撃は見たぜ…空破浸透」
 ブレードの技を放つことも出来ず、逆に腹部に押し当てられた手の平から放たれた衝撃波により意識を混濁していった。
「げぼっ…」
「早く志乃さんのところにいかないとまずい事に…」
 錬は戦いの時とはうって変わりその顔には焦りが窺えた。

 ★ ★ ★

「きゃぁぁ…なんなのよ…これ」
 志乃の体をねっとりとした触手が絡みつく
「どうです?女性として生理的嫌悪を感じるでしょ?抜け出したかったら貴方の『力』を見せてくださいよ」
 触手はゆっくりとした動きでありながら志乃の大事なところに迫っている。
「力って…私は…なにも…やぁ…普通の…女子…高校生…なの…」
「そんな、ウソ僕にはすぐ分かりますよ。まー使っていただけないのなら…しかたありませんね」
 ファンタズマは指を鳴らすと触手が増えると服の下へと侵入するとその先端から細い触手を伸ばし志乃の敏感なところに触れ
「ふぅぅぅ…」
 思わず甘い声を漏らしてしまい志乃の顔は赤くなる。
(こんなのって…初めてはもっと………とがいいと…)
 羞恥と怒りとが志乃の体で燃え上がる。
「おや、感じてしまいましたか?顔も赤く汗もかいてますね。服がボディーラインをくっきりと…ですが女子高生というわりには貧相ですね。なんというかそう小学生の低学年なみのスタイル…いえ、それ以下かもしれませんね」
 その言葉に志乃の心は怒りはMAXをやすやすと突き破り
「ひ、人が気にしてることを…いってくれるじゃないのよ!!」
 怒りが噴出すように志乃の体から突如炎が噴出す
「なっ…やはり力があるじゃないですか、何とも美しいですね」
 触手から解放された志乃がゆっくりと立ち上がる
「よく判らないけど…とりあえず…この炎は私が出していて…私には熱くないと…そして、あんたをぶん殴れわけよね?」
『ええ、思う存分殴れます』
「えっ?」
 隣から聞こえた聞き覚えの無い声に志乃が隣を見るとそこには炎で模られた女性の騎士が立っていた。
「あなたはいったい…」
『私は貴方のサーヴァントです。マスターのご命令はあの痴れ者を殴り飛ばすでよろしいでしょうか?』
「そうだけど…」
『では、しばらくお待ちを…マイマスターを辱めた貴公をいまから殴り飛ばす』
 炎の女騎士は構えを取ると
「いったいなにが…えっ」
 動揺するファンタズマの前に女騎士がたち
『殴ります』
「ぐぅっ…馬鹿なこの世界は僕の…くそっ、邪魔だお前」
 その言葉に反応するかのように地面が盛り上がると醜悪な巨人が立っていた。
「どうだ!ファンタズマ・ジャイアントに踏み潰されろ」
『マスター、武装許可をお願いいたします』
「ど、どうすれば…」
『武装許可と申していただければこの程度の障害なら1分もあれば終了できます』
「武装許可します」
『承認確認…武装開始…モード『クレイモア』」
 女騎士は炎の大剣を生み出すと巨人へと振り下ろし腕を切り落とす。
「こんなこと予想していないぞ…なんだこの能力は…ええい、この僕が負けたわけでは…」
「いや、終わりだよ…構成分析…波長確認…理解完了…能力強制解除開始」
 背後に現れた錬から放たれた青い波動が世界に亀裂を生み出す。
「ばかな…僕の能力が破れるなんて…」
「ファンタズマとかいったな。お前の能力は精神世界に人を引き込む能力だろ?その原理がわかればすぐに解除できるさ…ただ、ブレードとかいうやつが派手な能力だったからな逆に利用して倒させてもらったがな」
 そう告げると錬の手刀がファンタズマの首筋に叩き込まれた。
「くはっ」
「さてと…えーと…とりあえずその…志乃さんにも話したいことがあるので本部で…でいいですよね?」
 先ほどまでの強きでなく微妙に低姿勢になりながら志乃の機嫌をうかがう錬であった。

つづく


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