〜 一室しかないラブホテル  〜



◆登場人物





◇武井 迅(たけいじん)

 男性 25歳(用務員)

かつては自分に才能がないと知りつつも、

フラフラと街頭音楽活動を続けていた芯のない男。



◇益子 麻奈(ますこまな)

 女性 17歳(3年生)

表面はウブだが、芯はすっかり性に適応させられている。

聖水常用に至った胸の内を垣間見せるが・・











校舎外部にひっそりと佇む用務員用の宿直室は、

女生徒たちとの『ご休憩』ではなく『ご宿泊』が可能なため、

特に珍重されるプレイスポットの1つ。



だが、昨今になって突然増員された若い用務員たちの提案により、

週末限定で多少異なる使われ方がされるようになっていた。



言うなれば、1室しかないラブホテル。



毎週金曜日の放課後になると、

宿直室の周囲には玄関口からぐるりと一回り椅子が並べられ、

普段とは違うシチュエーションを愉しみたい利用者たちで賑わうのだ。











「ふふっ♪

 お兄さまったら、優柔不断でいらっしゃるのね」



「えぇぇ〜〜??

 これだけ可愛い女子校生たちに囲まれて、

 ビシッと即断できる奴の方が少ないと思うけどなあ?」





夕刻の遊歩道――



帰宅中の女生徒の一団に声をかけた

25歳の若手用務員・武井 迅(たけいじん)は、

自分を取り巻く少女たちの芳香に酔い痴れていた。





用件は周囲にチラホラと見える他の男たちと大体変わらない。



『一夜限りの恋人』探しだ。





「う〜ん・・誰にしようかなぁ。

 あ、そうだ・・」



「きゃっ!?」



「あん、ちょっと・・お兄さまったらっ」





白い首元に鼻先を寄せてクンクンと匂いを嗅ぐ迅に、

女生徒たちはくすぐったそうに笑む。





男に選ばれた者が『何』をされるのか――



それをよく理解しながら嫌悪・苦悩する様子など欠片も見せず、

愉しげに話に花を咲かせる女生徒たち。



2年以上もの間、聖水と性に心も体も委ね続けてきた3年生だ。





教師たちや年輩の用務員が新物を好む傾向にあるのに対し、

迅たち若手の用務員には2〜3年生を好む者も多い。



片や『犯したい、堕としたい』、

片や『モテたい』といった考え方の違いからだ。





「あっ、ん・・くすぐったいです・・」





1人の女生徒のウブな反応が迅の気を引いた。



しっとりとした長髪に歳相応のプロポーション、

特に目を引く特徴こそないが地味さはなく、隙もない。



『優 良 可 不可』の通信簿形式ならば全てが『良』。



3年生・益子 麻奈(ますこまな)はそんな女生徒だった。





「君・・名前は?」



「あ・・はい。

 えとっ、益子 麻奈・・ですわ、お兄さま」



「僕は武井 迅・・今日はよろしく頼んでも、いいかな」



「あ・・は、はい。

 その、麻奈で・・よろしければ」



「あら、残念ですわ。

 どうやら麻奈さんでキマリかしら」





かくして今日番う相手を得た迅は、

招き寄せた麻奈の腰にそっと手を回すと

一団に別れを告げて来た道を引き返してゆく。





「・・・・」





しばらく、会話はなかった。



頬を赤らめ俯いたままの麻奈を抱き寄せ、

迅は可憐な女子校生と2人歩く甘いひと時を愉しむ。



この霧に閉ざされた女子校を訪れるまでは、

虚しい妄想の中でしか味わえなかった至福なのだから。







武井 迅は、とかく芯がない男だ。



高校時代から軽音楽部に所属していた彼は、

大学でもサークルで音楽活動を続けていたが、

仲間たちとの些細な行き違いから離脱。



以降、大学卒業後もアルバイトを続けながら、

ソロで街頭ミュージシャンを続けることとなる。





就職しろとどやす親への『プロを目指す』という言葉が、

中身のない建前であると自覚しつつも音楽活動を続ける迅。



その裏には、高校時代の小さな成功が糸を引いていた。



3年時、文化祭でボーカルとして軽音楽部のコンサートを成功に導き、

多少ながらクラスの女子たちの注目を集めた時があったのだ。





その時の達成感、優越感が忘れられないと共に――



『あの時なら彼女を作れたかもしれない』



『あの時なら童貞を捨てられたかもしれない』



そんな想いが迅の足を繋ぐ鎖となったのだった。





そして、何の手応えもないまま日々を重ねていた迅は、

ネット上で奇妙な噂とそれに纏わる求人に出会う。



そして、あっさりと『今』を捨てたのだ――







「さっきから黙りこくっちゃって・・どうしたの?」



「あっ・・いえ、その・・」



「ん?」



「えと・・

 ・・・・・・。

 心の準備を・・していたんです」



「・・緊張、してる?」



「そっ・・それはそうですよ、お兄さま。

 さすがに・・こればかりは絶対に慣れません。

 いえ、慣れてはいけないとすら・・思っています」



「なるほど・・それは、そうかもね。

 でも、そう聞かされると逆に

 意地でも慣れさせたくなっちゃうなぁ」



「おっ・・お兄さまっ!」



「ハハッ、ごめんごめん。

 全然ジョークじゃないことも含めて・・ごめんね?」





だが、陣に後悔の念はない。



聖水に毒された乙女との偽りの恋愛は、

いつでも迅の心を望むままに潤してくれるのだから。











「さあ、ついたよ」



「えっ・・ここって?」



「だいぶ並んでるなぁ、僕たちも最後尾の椅子に座ろうか」





週末の宿直室は、今日も盛況だった。



周囲を取り巻く椅子には8組ものカップルが並ぶ。



迅も麻奈を誘い、その最後尾に並んで腰を下ろした。





「えぇっとぉ・・

 ここは、宿直室・・ですよね?

 その・・この、列は??」



「ああ・・金曜だけはね、いつもの宿直室じゃないんだ。

 ちょっとした、ラブホテルってとこかな。

 中も僕らでちょっと頑張って改装したんだよ?」



「ラ・・ラブ、ホテル・・ですかっ?」



「そっ。

 だから、ここに並んでるのはみぃ〜んな、

 いやらしい〜ィコトをするための順番待ちの列なんだよ」



「そっ、そゆコト言わないでくださいっ。

 ・・ただでさえ、緊張、してるのに・・」





ここではこんな話をしていても、

他の用務員たちに絡まれることは少ない。



多少の形の違いはあれど、彼らは皆、

この『カップルでの順番待ち』を愉しんでいるのだから。





「えと、ちなみに・・

 その、嫌なわけじゃないよ、ね?」



「えっ?

 あ・・大丈夫ですっ、嫌なワケじゃないですよっ?」



「よかった」



「その・・こういうコトを言ってしまうと、

 はしたないと呆れられてしまうかもですが・・」



「ん?」



「本当に『嫌いじゃない』んです、男の人に抱いてもらうのは。

 その、やっぱり・・気持ちいい・・ですし」



「それってさ、『好き』ってことだよね?

 へぇ〜〜・・麻奈って、見かけによらずエッチなんだ?」



「うぅ〜〜〜〜〜〜・・っ

 どっ、ど〜せそ〜ですよっ!

 わわわ、悪いですかっ!?」



「ああ、悪いね。

 麻奈はとぉ〜っても悪いコだ。

 僕のハートをしたたかに掠め取っちゃうんだから」



「しっ、叱られてるのか・・

 それとも、褒められてるのか・・わかりませんよぉ・・」



「褒めてるのさ、『今は』ね?」



「い、『今は』・・ですか?」 



「そう、だから叱るのは『後で』。

 順番が回ってきたらベッドでた〜っぷりと、してあげるよ」



「う、うぅ・・」



「あ、一組出てきたようだ。 1つ席を詰めようか」





順番待ちがある関係上、

混雑時の一組の使用時間は概ね30分〜45分ほどだ。



だが、それでも利用者数が多い時は5時間、6時間の順番待ちとなる。



今日もその例に漏れず、迅と麻奈ももう4時間以上並んでいた。





「あっ・・

 今、入っていった隣のコ、クラスメートなんです」



「ウエーブ髪の?」



「はい。

 吉原さんっていって、2年生の時も一緒でした。

 でも・・大丈夫なのかなぁ・・?」



「えっ、何が?」



「彼女、一ヶ月前に出産したばかりで・・」



「えっ、子供産んだの?」



「はい」





この霧の牢獄に避妊具というものは存在しない。



日々、学院のそこかしこで行われる性行為は、

最も自然かつ、最も危険な形で行われているのだ。



当然、そこにチラつくのは――妊娠という結果。



迅がここにやってきてから1ヶ月、

未だそれと身近に触れ合う機会は持っていなかった。





「え、でも・・その子供は? 

 どこか病院に預けられるんだよね?

 まさか、女子寮にそういう子供たちも暮らしてるの?」



「あっ、いえ・・違います。

 その、出産の儀を担当するのは執行部のお姉さま方なんですが、

 生まれた赤ちゃんは、そのまま彼女たちの手に委ねられるんです」



「え?」



「ほら・・その、やっぱり経緯が経緯じゃないですか。

 その・・妊娠に、至るまでの」



「あぁ・・うん」



「だから、正式な出生として届けることが色々問題あるので、

 学院のつてで擁護施設みたいなところに預けられるんだとか」



「へ、へぇ〜〜・・」





そんな途方もない話に迅はやや乾いた反応。



自分の生まれ育った魔都という街の異常さを、

改めて思い知らされる。





――が。



『今』を捨てた迅にとっては、どうでもいい話でもあった。



そんなことより、今は目の前に極上の果実があるのだから。





「ちなみに、

 麻奈はもう・・『その経験』・・アリ?」



「えっ?

 あ、いえ・・麻奈はまだ、ないです」



「ふっう〜〜〜〜〜〜〜〜ん・・?」



「なっ、なんですか・・お兄さま?」





今日、これまでで一番だらしない笑みを浮かべる迅に、

麻奈は少しだけ肩を逃がして身構える。





「んんん〜〜?

 いやぁ、それなら僕がその一番乗りの栄誉に輝けたら・・

 それは光栄なことなんだろうなぁ〜ってね」



「えっ、お、お兄さまっ??

 お兄様は・・そのっ、麻奈のこと・・

 にっ・・妊娠、させたいんですかっ?」



「やっぱり・・怖い?」



「いえ・・聖水のお導きとは思いますが、怖くはないんです。

 お兄さまに抱かれて、子供がデキてしまう・・こと」



「なら、他に何か戸惑いでもあるの?」



「わから・・ないんです」



「・・?」



「麻奈は多分、妊娠してもちゃんとお役目を果たすと思います。

 産まれた子も執行部のお姉さま方に躊躇いなく委ねると思います。

 けど、今の麻奈は聖水の作り出したニセモノの麻奈、だから・・」



「麻奈・・?」



「あっ・・ううん、やっぱりいいんです。

 麻奈は、もうしばらく目を閉じたままでいますから。

 だから、お兄さまが望むなら・・麻奈は、従います」





それは苦悩から逃れたい一心で

悪魔に心を売った姫君の切ない呟きだった。



多くの女生徒たちの心に巣食い、蝕む――聖水。



迅もその恩恵に預かる身である以上、

学院生活の中で聖水に心奪われた女生徒たちが皆、

悲壮な決断を経てきたことをわからないわけではない。



理性の針に刺されて痛まない心は、

まだ持ち合わせていないのだ。





「正直・・麻奈たちに色々あるのは、わかっているよ」



「え・・」



「でも、僕も見果てぬ幻想に心奪われたダメな男なんだ。

 だから・・逃がしては、あげないよ」



「お、お兄さま・・?」



「麻奈ちゃんはさ、僕たちが君たちとは違って、

 もう二度と元の暮らしへは戻れないって話、知ってる?」



「・・噂話で、聞いたことはあります」



「面接で『もう二度とこちらには戻れませんが、本当にいいですか?』

 って言われるんだよ。

 宇宙ステーションへの移住の話かよ、って感じだったさ」



「お兄さまは、それでもOKしたってことですよね?

 その・・未練とか、なかったんですか?」



「こっちに配属される前、身辺整理はしたんだよ。

 けど・・いざそうなってみて気付いたんだけど、

 僕には、驚くほど捨てるものがなかったんだ・・」



「・・・・」



「僕にも大切なものなり、人間関係なり、

 人並み・・いや、人よりちょい少ないくらいはあると思ってた。

 けど、何にもなかった・・ひどく、惨めな気分になったよ。

 以降、ずっとモヤモヤが晴れなかった・・この霧みたいに」





芯がないわりに、プライドだけは人一倍ある迅。



そんな彼が自分の苦悩する姿を認めること、

増してやそれを誰かに話すことなど今までなかった。



だが、これこそ、彼にとっての最後の身辺整理だった。





「だから、僕は今からこう思うことにするよ。

 あっちでの生活は悪い夢だった、ここが僕の現実なんだって」



「お兄さま・・でも、それは・・」



「当然、麻奈たちにとっては逆だ・・こっちが、悪い夢。

 だから、いつかは夢から覚めて僕の前から消えてしまう。

 永遠に手に入れることはできない」



「・・っ」



「だから、聖水に冒された姫君のニセモノの心でいい。

 貪らせてもらうよ、麻奈・・」





「――イク・・ぅぅぅぅ〜〜っ!!」





その時、扉の奥に響いた女の声。



それは迅の夢現を引っ繰り返す合図となる。





「・・終ったのかな?

 よく響くいい声だ」



「あ・・」



「さあ、次は僕たちの番だ。

 麻奈の甘いヴォーカル、期待してるよ――」











暖色のルームライトが照らし出す室内。



そこは壁紙や絨毯、カーテンなど、

最低限のインテリアの差し替えで設えられた即席のラブホテルだ。



中でも一番の存在感を放つ柔らかなベッドは、

学院側に掛け合い、特別に用意させた新品だが、

その上では既に数え切れないほどの罪が重ねられていた。





《ちゃこッ、ちゃこッ、ちゃこッ、ちゃこッ

  ちゃこッ、ちゃこッ、ちゃこッ、ちゃこ・・ッ》



「うっ・・うぅ・・ん、んんっ・・んふぅっ」





迅を優しく迎え入れるヌルヌルの膣内は、

突かれ、かき混ぜられるたびに卑猥な音を立てる。



自分が選ばれる前、自分たちの一団に迅が声をかけてきた時から、

経験豊富な麻奈の肉体は行為の準備を整え始めていたのだ。





「フゥッ・・フッ・・フゥッ・・

 気持ちいいよ・・エッチな体だね、麻奈」



「・・っ、もう2年もっ、ここにいますから・・ね。

 何度も・・何度もっ・・抱かれました・・からっ」



「もう2年? いや、『あと1年』だ。

 ・・あと1年で、麻奈は悪い夢から覚めるんだ」



「あっ、んはぁっ・・」



「そうなったら、全て忘れてしまえばいい。

 苦悩も、汚れも、ここであった何もかもを・・ッ」





麻奈の上肢をベッドに押し付け、バックから突き上げる迅。



それはお互いが目を合わせないための形だ。





「ここの卒業生たちは、何故か多くが大きな成功を納めてる。

 魔都の魔物たちからのささやかなご褒美なのかもね。

 きっと麻奈ちゃんにも輝かしい未来が開けるさッ」



「ん、んん・・っ

 お兄さまっ・・でも何故、そんなことを・・っ」



「マゾ、なのかもねッ、僕は。

 自分を痛めつけてテンションをあげているのさッ」



《ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!

  ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!》



「あん! んんっ! はげ・・しぃですぅっ!」



「好き、なんだろ?

 麻奈は・・激しい、セックスがさッ!」



「おっ・・お兄、さま・・っ??」



「忘れたりなんか、させないさ――

 麻奈にとっては夢でも、僕にとっては現実なんだ!

 麻奈の心は聖水に冒されていても、肉体は本物なんだッ!」



「おに・・さまぁっ、そんな・・急、にぃっ

 はぁぁぁぁぁ〜〜〜んっ!」



「いなかったことになんて・・されてたまるかッ!

 麻奈のエロマンコに、僕の愛の記憶を植えつけてやる!」





薄暗い魔都の底でひっそりと生涯を終える自分と、

そこから這い上がり輝かしい未来へと歩き出してゆく麻奈。



聖水を使った難易度Very easyの恋愛に夢中になるのも、

17歳の膣の奥底に必死に自己主張を続けるのも、

今の迅にとっては何もかもが惨めだ。



だが、それは同時に

身震いするほどの興奮をも呼び起こしていた。





「オオォォォ〜〜〜ッ!!」



《ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!

  ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!

   ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!》



「はッ!?

 ぁ・・やだっ・・あぁっ!!」



「ハァッ、ハァッ、ハァーッ・・!

 このまま生撃ちだッ・・たっぷり注ぎ込むぞッ!!」



「はぁっ・・あふ、はぁぁんっ!

 おに、お・・にぃ・・さまぁ〜〜っ」





先ほどまでのスローテンポな責めから一転、

突然荒々しいリズムを刻み始めたセックス。



だが、悲しいまでに慣らされた麻奈の肉体は

そんな急激な予定変更にも柔軟な反応を見せ、

快楽を損ねることなく最後のレールに乗せる。



あとは終点へと急転直下あるのみだ。





《ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!

  ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!

   ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!》



「ハァッ・・ハァッ・・ハァッ・・!

 に、妊娠ッ・・妊娠させるぞ、麻奈っ!」



「はぁっ! はぁっ! はぁっ! はぁっ!

 はッ・・はいぃ・・っ!」



「俺のっ・・俺の子供を、妊娠するんだ・・っ!

 麻奈っ! 俺のっ・・俺の、子供を・・っっ!」



「わっ、わかりましっ・・わかり、ましたからぁっ!

 早くっ・・はやくぅ〜っっ!」





「・・ンッ! ・・クアァァッッ!!」



《――ドッキュ!!

 ブビュッ! ドクドクッ! ドクドクドクドクッッ!!》



「はぁぁッ・・ダメ、すご・・っ

 やああぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜んッッ!!





迅の歪んだ情欲の末に導き出された激しいフィニッシュ。



だが、それは結局、

その日、このベッドで行われたセックスの1つでしかない。



衣服を整えた迅と麻奈が次のカップルと交代して出て行く様は

酷く味気ないものにも見えた。











「その、なんか・・

 今日は1人でラリっちゃって・・ごめんよ、麻奈」



「いえっ、麻奈は全然大丈夫です」





即席ラブホと化した週末の宿直室で一戦終えたあと、

迅は麻奈と共に街灯に照らされた遊歩道を歩いていた。



ベッド上で迅に取り付いていた病的な興奮は鳴りを潜め、

今は本来の彼の姿を取り戻している。





「麻奈の方こそすみませんでした。

 お兄さまの苦しみを上手く癒してあげられなくて・・」



「えっ、いやいや、そんなことはっ・・

 それに、すごく気持ちよかったことは・・たしかだし」



「あっ・・それは麻奈だって・・

 お兄さまにアツいのを注がれた瞬間・・

 その・・すごく、よかった・・ですっ」



「・・・・」



「そ、それより、お兄さまっ?」



「え・・あっ、何?」



「その・・今日は、これで・・もう?」



「・・えっ?」



「えと、並んでる時、前後の人たちの話が少し聞こえたんです。

 ここで一戦終えたら、場所を変えてじっくりもう一戦・・とか

 そんな・・話を」



「あっ、うん・・

 あそこだとたしかに時間をあまりかけられないから、

 そういう人も多いみたいだ・・けど」





迅はどこかで冷めている自分に気付いていた。



それが射精直後の強烈なクールダウンのせいだけではないことも。





「あの、お兄・・さま?」





元の生活を捨てたモヤモヤを未だ引きずっていた迅が

開き直るためにあえて惨めな胸中を吐露したのは、

それに伴う痛みを覚悟してのものだった。



直前に麻奈も聖水に心身を委ねる胸中を垣間見せており――



『1人ではなく、誰かと一緒に傷つけるなら』

『2人で負った痛みが絆となるのでは・・』



そんな想いが引き金となったのだ。



だが、淡すぎた期待はやはり裏切られた。





「麻奈は・・

 その、まだ・・頑張れます、けれども・・っっ☆」





――聖水に冒された心は痛みを負わない。



あのセックスのあとでなお求めてくる麻奈は、

最初から傷ついてなどいなかったのだ。



悲しいほどに独り相撲。



しかも、自業自得。



迅は乾いた笑いを漏らさずにはいられなかった。





「ハハッ、これだ。

 これこそ、開き直るには最高のきっかけかもな・・」



「え・・っ? お兄さま、何か・・?」



「ううん、何でもないよ。

 それより麻奈、どこがいい?」



「はい?」



「もう一戦したいんだろ?

 なら、麻奈のお望みの場所でにしようか」





覗き込む光薄き眼差しに淫らな色を秘めた麻奈を連れ、

迅は深い夜闇と霧の中へ消えて行くのだった――


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