〜 カラダの恋 〜



◆登場人物





◇入間 沙織(いるまさおり)

 女性 15歳(1年生)

敬虔なリトリス教信徒で、偽の聖水を忌み嫌っている。

同じリトリス教信徒の同志である小春とルイとは仲がいい。



◇三河 小春(みかわこはる)

 女性 16歳(1年生)

お淑やかで気が弱い。

最近、聖水を使い始めたという噂が立つ。



◇宗像 ルイ(むなかたるい)

 女性 15歳(1年生)

陽気で怖いもの知らずのムードメーカー。

半分北欧の血を引いているため、赤毛で碧眼と目立つ風貌。



◇宍戸 匡(ししどきょう)

 男性 27歳(用務員)

わりと大胆な性格で肝の据わった新人。











聖リトリスの学び舎に昼休みを告げるチャイムが鳴り響く。



休み時間特有の喧騒の立たない新1年生の教室から現れた女生徒が2人、

廊下を抜けて階段を登っていた。





「あ、あのっ・・沙織さんっ」



「・・いいから。 屋上行くよ」





険しい顔で先を行く入間 沙織(いるまさおり)は、

戸惑う三河 小春(みかわこはる)を半ば強引に引っ張ってゆく。



普段から仲のいい2人の間に漂う微妙な空気。



何かしら、あったであろうことは明白だった。





《・・ガチャン》





やがて、屋上へ出た2人を淀んだ霧が包み込む。



沙織は強く掴んでいた小春の腕を離すと鉄扉を閉めた。





「ちょっと・・沙織さん、昼食はどうするのです?」



「ルイに学食で3人分、

 パンもらって来てって頼んであるわよ」





聖リトリス女学院の女生徒たちは、

家族も含め、卒業まで外部と一切接触が赦されない。



金銭を得る手段が一切ない彼女たちのために、

ここでは学食、購買部、自動販売機に至るまで、

全て無料で解放されているのだ。





「そんなことより小春、アンタさ――」





沙織が細めた目でジロリと小春を睨む。





「――聖水使い始めたって、本当?」



「・・っ。

 ど、どこから、そのような話を・・?」



「別にどこからでもいいでしょ!

 それより質問に答えなさいよ!」



「・・ほ、本当です」





あからさまに目を背ける小春。



沙織は苦々しく歯軋りをする。





「・・ねぇ、なんで?

 ルイとアンタと私で誓ったじゃん。

 ウチら3人、生粋のリトリシタンとして信仰を貫こうってさぁ!」



「そ・・それは・・」



「それっぽいイメージから皆コロッと騙されてるけど、

 リトリス教には『聖水』なんて存在しないって

 アンタもちゃんとわかってたわよね!?」



「・・っ」



「ねえ! どう見ても麻薬だよ? あれ!」





不意に屋上の扉が開き、小柄な女生徒が姿を現す。





「ハイハイ、パンもらってきたよ〜」





沙織と小春目掛けて無造作にパンを投げて寄越すのは、

2人と特に親しい宗像 ルイ(むなかたるい)。



パッと目を引く赤毛と青い瞳は

体を流れる血の半分が北欧のものであるからだ。



彼女は自由奔放で怖いもの知らず、

3人の中では良くも悪くもムードメーカーだった。





「ま、なんだかわかんないけど、とりあえず座ろ?

 せっかく、遠路はるばるもらって来てあげたんだから」



「はぁ・・わかったわよ」





沙織がわざとらしく肩を落としてフェンス前に腰を下ろすと、

ルイと小春もその横に陣取りパンの包みを破いていた。





「・・そんで、どしたの?」





何気ない雑談を交わしつつパン2つをペロリと平らげたルイが、

脈絡なく話を戻す。



沙織と小春は困ったように顔を見合わせると、

自分たちも残ったパンを平らげた。





「――小春がね。

 聖水・・いや、クスリ使い始めたって話」



「えっ、こはるんもついに男の人に捕まっちゃったの?」



「はい・・3日前の、放課後に・・」



「そ、それについては小春が悪いわけじゃないし、

 同情もするけど・・」



「ま〜、野良犬に噛まれるようなものだからね・・ここだと」



「きっと、すごく辛かったってのは、わかるよ?

 けど・・それでもクスリに逃げるのはどうなのよ!」





聖リトリス女学院は宗教系の学校とはいえ、

生粋のリトリス教信徒である女生徒は一握りしか存在しない。



そんな中、沙織、小春、ルイはその『一握り』に属していた。



入学するまで赤の他人だった3人を引き寄せあったのも、

幼少より同じ教えに慣れ親しんできたというプライドからくる

仲間意識だった。



――だからこそ、沙織には小春の決断が納得できないのだ。





「ねぇ、小春・・A組の小野さんは、

 2度も連れて行かれたのに聖水には頼ってないってよ!?

 あれこそリトリシタンの鑑よ!」



「・・小春は・・

 お、小野さんではありませんから・・」



「ちょっと小春! アンタ、本気で言ってるの!?」



「ま〜ま〜・・さおりんも落ち着きなってば」



「あのねぇ、ルイ!

 アンタも友達なんだから、何か言いなさいよ!」





しばし黙り込むルイの顔から、さっと笑みが引く。



だが、それは八つ当たり同然に

沙織から怒鳴られたからではないようだった。





「ねぇ、さおりんさぁ。

 さっきこはるんに『辛かったのはわかる』って言ってたけど、

 多分、全然わかってないよ?」



「・・えっ?」



「だって、さおりんは『まだ』組じゃん。

 まだ何もされてないさおりんに、何がわかるの?」





そんなルイの口振りに違和感。



沙織の脳裏を嫌な予感が掠める。





「・・えっと、ルイ?

 なんか、その口振りって・・」



「ま、ぶっちゃければそういうコト。

 私ももう『まだ』組じゃないよ」



「えっ・・ルイさん・・も?」



「うん。 それに私はこはるんと違って、もう3回・・」



「ちょ、ちょっと、ルイ! ・・じゃあ、聖水は?」



「使ってないよ」





答えを聞くや、沙織はルイを抱き締めていた。



その身を汚されても、

自分たちの信条を貫いた勇気ある同志として。





「ルイ・・!

 辛かったでしょうに、よく耐えたわね・・!」





だが――





「だぁ〜から、何もわかってないさおりんが、

 『辛かった』とか勝手に決め付けないでってば」



「え・・っ?」



「すぅ〜っごく、気持ちよかったよ?

 ・・せっくす」



「ル、ルイ・・?」





ルイは想定外の答えに硬直する沙織の抱擁を、

ゆっくりと解いて元のように隣に座らせる。





「こはるんも・・じゃないの?」



「・・と、いいますと?」



「こはるんの場合、聖水使ってるから私とは違うけどさ。

 でも、聖水の効果で『何も感じてない』というよりは

 文字通り『感じた』って顔してるよん?」



「あっ・・い、いやですわ・・」





淡く染めた両頬を慌てて隠す小春。



呆然とそれを眺める沙織の頬にも、2人の紅潮が感染していた。





「ちょ、ちょちょちょちょ・・ちょっと?

 ほ、本気なの? ・・アンタたち」



「ちょっと見てみ、こはるん?

 さおりんまで真っ赤になってる」



「ちょっと・・ルイさんたら」



「なんだか、もう一押しって感じなの? コレ」





これまで信仰を貫くことだけに凝り固まっていた沙織の認識は、

まるで悲壮感なく語られるルイの言葉により足場を危うくする。



『信仰を脅かすほどの絶望と苦痛』



安易にそう位置づけていた男たちとの性の認識に

抜け落ちていた快楽的側面が加えられたせいで、

本来の性への興味が混じり始めたのだ。



すると、ここまで場の強者であったはずの沙織は、

途端に一番の弱者となり黙り込んでしまう。





「ね〜ね〜。

 こはるんはさ、どんな感じで『された』の?」



「こ、小春は・・

 あるお兄さまに声をかけられて、

 体育館の裏手に・・誘われたのです」



「えっ、3日前だよね?

 じゃあ、多分その時、中に私いたかも」



「・・あ、体育倉庫・・

 たしかに、明かりがついていました」



「こっちはロリコンのオジサンだったけどね。

 そっちは若い人だったんだよね?

 どんな人だったの?」



「えっと・・少々恐持てだったので、

 最初は怖い方かと思ってしまったのですが・・」



「全然、そうじゃなかったと?」



「ええ・・わりと普通の方というか、優しい方というか、

 小春のこと『可愛い、可愛い』としきりに褒めてくださる

 お兄さまで・・」



「へぇ〜?

 でも、それなら聖水使う必要なかったんじゃないの?」



「あ・・その、お恥ずかしいことなのですが、

 最初、お兄さまから声をかけられた時に

 『もうダメだ』と思ってしまい、手遅れになる前に、と・・」



「ああ、その場で使っちゃったんだ?」



「はい・・あの時は小春も恐ろしくて

 『どうか聖水を使わせてください』と涙ながらに頼んだのです。

 そうしたら、そのあとはずっと気を使ってくださって・・」



「なぁ〜る。 優しく愛されちゃった・・と♪」



「ル、ルイさんったら! ・・い、いやですわ・・」





小春とルイと傍らで、じっと俯いたままの沙織。



だが、その耳がピクピクと反応しているのを、

ルイはチラチラと覗き見ていた。





「んで? 結局のところ、気持ちよかったワケ?」



「・・・・」



「って、あれ・・黙り込んじゃうの? 

 もしかして、相手の人ものすごい下手だったとか?」



「あっ・・いえ、そうじゃないんですっ。

 気持ちよかった、というのは、間違いありません・・

 だ、だって、小春はちゃんと・・」



「ちゃんと、イケたんだ?」



「う・・は、はい・・」



「じゃあ、何で黙り込んじゃったの?」



「あの時、とても不思議な気持ちにさせられたのです。

 それが未だによく理解できていなくて・・」



「・・不思議な、気持ち?」



「あの瞬間・・お兄さまに愛され、アツい液体を受け止めて・・

 『あぁ、自分は女の子なんだなぁ』としみじみ感じたんです。

 それが、何故かとても誇らしくて・・」



「ふぅ〜ん・・

 なんだろ、こはるんなりの女の幸せってやつなのかな?

 まぁなんというか、こはるんってホント尽くすタイプだよね」



「小春も・・よくわかってないのですけれど、ね。

 正直なところ、また体験してみたいと、思っています」



「なるほどね〜・・」



「・・・・」



「で、そこで聞き耳立ててる、さおりん?

 私の体験談の方も聞きたい?」



「・・なッ!?」





突然、話が振られてガバッと向き直る沙織。



その真っ赤な顔は、

まさしく爆発寸前のダイナマイトだ。





「べ、別に何も聞いてなんかなかったわよっ!」



「そのわりにちゃんと返事してるじゃん?」



「うっ・・」



「ちょ・・ちょっと、ルイさんたら・・」



「いや違っ・・これはその・・っ」



「あはは、いいっていいって」



「も、ももも・・もう知らないっ!

 ばーかばーか! ルイのばーかっ!

 ふんっ、だ!」





そして、爆発――殺傷力は悲しいほどに皆無だ。



結局、沙織はそんな小学生レベル以下の啖呵を切ると、

逃げるように階段へ駆け込んでゆくのだった。











小さく触れる感触。



頭が蕩ける。





「・・んんっ!」





突然、眩いルームライトが視界に突き刺さり、

沙織は思わず目を背ける。





「あ・・れ?」





眠気と疲労、沙織の意識は酷く混濁としている。



何か夢を見ていた気もしたが、よく思い出せず、

今、どこかで自分が目覚めたのだということしかわからない。



沙織はボヤけた視界で周囲を確認する。



見知らぬ部屋。



自分は見知らぬベッドに寝かされ、

身に纏っているのはブラウスとソックスのみ。



そして、すぐ傍らには――自分を見つめる、見知らぬ男。





「眠り姫のお目覚め・・かな?」





自分と並んでベッドに身を横たえ、

優しく微笑みかけるこの男を、沙織はまだ思い出すことができない。



顔も、名前も、どこで出会ったのかすらもわからないのだ。



だが、男と向き合う沙織の瞳からは不思議と涙が溢れた。



――イトオシイ、ヒト。



途切れていた意識の中に突然飛び込んできた見知らぬ異性。



だが、沙織の本能は彼を警戒するどころか、強く惹かれていた。





「・・貴方、誰?」



「眠り姫をキスで起こしたんだから、

 やっぱり王子様ってことになるんじゃないか?」



「キ・・キス・・?」



「そう・・キス」



「あ・・んんっ」





ゆっくりと顔を寄せてくる男に、沙織は自然と瞳を閉じる。



小さく触れる感触。



舌先が絡み合い、頭が蕩ける――





《――覚悟を決めろ、沙織ッ! 膣内に・・出すぞッ!》





瞬間、記憶がフラッシュバックする。





《・・パァンッ》





男を咄嗟に押しのけ、沙織は平手を打っていた。



吐息を荒げ、頬を真っ赤に染め、瞳をカッと見開き、

しかし、か弱く戸惑いに満ちた表情で沙織は男を睨みつける。





「ハハッ・・その様子だと、思い出したか?

 俺に・・抱かれたこと」



「私・・何度も『待って』って言ったのに!

 すごく、怖かったのに・・!」





先週、校舎の屋上で親友2人にいやらしい話を聞かされて以降、

下半身に言いようのない疼きを感じ続けてきた沙織。



小春が、ルイが・・

男を繋げて快楽にふける妄想が四六時中頭を離れず、

毎晩のように自分自身を慰めずにはいられなかった。



そして、今日の下校中。



若い用務員・宍戸 匡(ししどきょう)に声をかけられた沙織は、

戸惑いこそ覚えながらも、内に湧き出す期待に逆らうことが

できなかったのだ。





《どうだ、沙織?

 今、これから自分が抱かれる場所を探してるんだぜ?

 ドキドキ、するだろ?》





匡に手を引かれるまま霧の中を彷徨い、

現在は使われていない寮の一室へ上がりこんだ沙織は、

そこで男と女の営みを経験することとなった。



それもきっちりと――『最後』まで。





「・・わかってるよ、沙織」



「わかってないッ!

 おっ、男の人はいいですよっ、気持ちいいだけなんだから!

 でも、女の子は・・妊娠・・しちゃうかもしれないのよっ!?」



「女がどれだけ重いものを背負い込んじまうかは、わかってる。

 だが、一度『欲しい』と思っちまったらダメなんだ、男ってのは。

 たとえ相手が傷つくとわかっていても、止められないんだ」



「・・勝手よ・・」



「ああ、だから沙織も勝手にしていいんだぜ?」



「はい?」



「そこにルームスタンドがあるだろ?

 持ってみると、結構ずっしりしてる。

 それで思いきり頭部でも殴られれば、俺も無事じゃすまないぜ?」



「えっ・・?

 ベっ・・別にっ・・そこまで、は・・」



「『そこまで』・・じゃないのか?

 合意の上ではない膣内射精――妊娠するかもしれないんだろ?」



「そ・・それは・・そう、だけど・・」



「なら、どう考えても『そこまで』なことだ。

 それとも手を伸ばすのも怖いのか?

 なら、俺がスタンド取ってやるよ」



「い、いいっ! いいですっ!」



「遠慮するな。

 俺は別に執行部とやらにチクりはしないからよ」



「だっ、だから・・いいですってばッ!」





自分自身を傷つけるための武器に手を伸ばす匡を、

沙織は咄嗟にしがみついて止めていた。



先ほど、匡の頬を思い切り張っておきながら、

その胸の内には一片の敵意すら抱くことができない不思議。



理解の及ばないところにあるジレンマに感情を制御され、

沙織はギリリと歯軋りをする。





「・・本当に、いいのか?」



「・・本当に、いい」



「言っておくが、夜はまだ長いんだ。

 今、ここで決断しなければどうなるかくらい、わかるだろ?」



「――わからない」



「ん?」



「だから、わからないのッ!

 好きでもないはずの人を、何でこんなに庇っちゃうのかが・・」





沙織の声に混じる嗚咽。



それは1つの争いの終焉を意味していた。



匡にしがみつく沙織の力が次第に抗うためのものから、

委ねるためのものへと変わってゆく。





「DNAだよ」



「・・えっ?」



「恐らく、もう沙織の遺伝子には、

 『俺に愛された』という記憶が刻み込まれているんだ。

 だから、本能的に俺を守ろうとする」



「愛された・・記憶?」



「経緯はどうあれ、牡と牝が体を重ねるのは子孫を残そうとする本能。

 たとえ心が通い合っていなくても、そこには必ず快楽が生じる。

 時に失神さえしちまうような強烈なものが・・な」



「・・っ」



「牝のDNAってのは、特にその快楽と相手の情報を記憶しちまうんだ。

 子孫を残すという重い使命から逃がさないため、快楽の鎖に繋ぐ。

 そういう状態を『カラダが恋する』という」





『カラダの恋』



沙織は妙にその言葉に納得していた。



先ほど匡を庇おうとしたのは、心ではなく体だった。



体に心が引きずられているのだ。





「沙織の体は――俺を認めたんだ。

 もう、いくら心で抗おうとしても無駄だぜ?」



「・・なるほど、たしかに・・

 ・・そうなの、かもね・・」





再び、疼き始める内股にゆっくりと伸ばされる匡の手を、

瞳に涙を浮かべる沙織が無抵抗で見守る。



ぷっくりとした柔らかな入り口に

触れる人差し指と中指が左右に広がると、

剥き出された穴の奥から生々しい粘液がゴポゴポと溢れ出す。



そんな光景を、沙織は匡と2人、しばし眺めていた。





「奥から、たくさん出てきたな?」



「・・うん」



「沙織を失神させた、俺の精液だ」



「・・うん」



「もし受精すれば、子供がデキる」



「・・うん」



「もしも、本当にデキたら・・嬉しいか?」



「・・嬉しいわけ、ない。

 それに貴方だって、どうせ私を妊娠させたいだけで、

 子供が欲しいわけじゃないんでしょう?」



「・・そうかもな」



「・・サイテー」



「ああ、本当に最低だな。

 最低ついでに、また懲りずに抱いてもいいか?」



「・・なんで、そんなこと聞くの?

 こっちが逆らえないの、知ってるのに・・」



「だから、言っただろ?

 ――最低だから、さ」





通い合うことのない2つの視線。



だが、牝は身を横たえ、牡は覆い被さる。



匡と沙織の肉体があるべき形へと繋がってゆく。





《ぱんっ! ぱんっ! ぱんっ! ぱんっ! 

  ぱんっ! ぱんっ! ぱんっ! ぱんっ!》



「・・っ・・ん・・んふ・・っ」





目当ての牡に貫かれて歓喜する肉体から目を背けるように、

沙織は真っ白な窓の先を眺めていた。





(小春、ルイ・・恨むからね)



(アンタたちのせいで、今、好きでもない人と子供作ってるんだから)



(なのに、どんどん気持ちよくされていくのが・・すごく、辛い・・)



(これじゃ、まるで本当に愛し合ってるみたいじゃない・・)





匡の首に手を回し、腰に足を絡め、キスを求められれば従順に従う。



今、沙織を突き動かすのは恋してしまったカラダだけ。



置き去りにされる心を、毀れる涙だけが慰めていた。





《ぱんっ! ぱんっ! ぱんっ! ぱんっ! 

  ぱんっ! ぱんっ! ぱんっ! ぱんっ!》



「ハァ・・ハァ・・

 気持ちいいか? ・・沙織」



「い・・いいわよっ」



「俺のこと好きか? ・・沙織」



「だぁ〜から、好きなワケが・・・・あっ、はあぁっ!」



「もうイキそうなのか?

 ハハッ・・可愛いな、沙織はっ・・」



「うっ・・うるさい・・っ」





男の腕の下で汗だくになりながら、

沙織は近づきつつある絶頂の瞬間を必死に遠ざけようとしていた。



『可愛い』と、からかわれたことにムキになっているわけではない。



牡側にまだ余裕ありと感じ取った牝の本能が、歯止めをかけたのだ。



牝として最も美しい散り様を射精の瞬間に捧げることで、

愛しい牡への最大の賛美とするために。





「健気、だな・・」



「・・っ」





一方、そんな粋な配慮を感じ取った匡の肉体も、

沙織の体に無理はさせまいと動きのリズムを早め、

急ぎ射精の準備を整えてゆく。





「もう少しだ、もう少しだけ我慢しろよ?」



「ん、わかってるわよ・・っ!

 って、なによ、この夫婦みたいなノリは・・っ!」



「ハァッ・・ハァッ・・

 なんならッ、アナタって呼んでもいいんだぜっ?」



「よ・・呼ぶかッ!」



「ハハッ・・残念だ・・ッ

 だが、今度は嫌がらずに・・受け止めてくれそうだなッ」



《ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!

  ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!》



「い・・嫌にッ、決まってる、でしょ・・ッ!」



「ハハッ、わかったわかった・・

 じゃあ、また膣内に・・出すぞッ」



「う・・うんっ!」





匡と沙織。



声を介しての意思疎通の裏で、

牡と牝の本能は激しい肉の触れ合いの中で言葉を交わす。



神秘の瞬間へのカウントダウンが肉体言語で紡がれてゆく――





「クオォッ! ・・オ、オオォォォッッ!!」



《――ビュルルルルッ!! ブビュッ! コプコプコプッ!!》



「んんッ! あぁぁぁ〜〜〜〜〜〜ッッ!!」





二度目の膣内射精に女の真芯を打ち浮かれ、

たまらずシーツを掴み、目を見開く沙織。



快楽の濁流に押し流されそうになる意識を今度はなんとか繋ぎ止め、

やがてゆっくりとベッドに沈んでゆくのだった――











「今度は・・失神してないのか?」



「・・してない」





やがて、体の火照りが引いてきた頃、

しばらく続いていた静寂は破られていた。





「なんだ・・あまり、気持ちよくなかったか?」



「・・よ、よかったわよっ。

 2回目だし・・体が慣れてきたんじゃないの?」



「じゃあ、どうだ? 俺のこと、ちっとは好きになったか?」



「・・なるワケないでしょ」



「・・そっか」





不意に匡はガバッと身を起こすと、

脱ぎ捨ててあった衣服を纏い始める。



どこか戸惑いがちな沙織の目線が、自然とそれを追う。





「なら、今日は授業終った後、迎えにいくからな」



「えっ・・なんで、そうなるのよ」



「決めたんだよ。

 沙織に好きって言わせるまでは頑張ろうかってな」



「はぁ?」



「ほら、俺から解放されたいんだったら

 たった一言『好き』っていうだけでいいんだぜ?」



「・・嫌いだっていってるでしょ!」



「じゃあ、迎えに行くから」



「か・・勝手にすれば?」





プイッとそっぽを向く沙織を残し、

匡は口元に笑みを浮かべて部屋を出て行くのだった――


→進む

→戻る

魔 都物語外伝のトップへ