〜 堕天使たちの絆 〜



◆登場人物





◇京本 こずえ(きょうもとこずえ)

 女性 15歳(1年生)

聖水常用者、自ら望んで学院の闇に堕ちようとしている節がある。

仄暗い情念を内に秘め、瞳には邪な光を宿している。



◇高倉 アン(たかくらあん)

 女性 15歳(1年生)

多くの仲間と身を寄せ合い、必死に身を守っている女生徒。

だが、その結束が酷く脆いものであることも理解している。



◇斉田 均(さいたひとし)

 男性 49歳(用務員)

年輩の用務員。功とよくつるんでいる。



◇管井 功(すがいいさお)

 男性 44歳(用務員)

年輩の用務員。均よりはやや物腰が柔らかい。











放課後を告げる鐘の音と共に、

聖リトリス女学院はおぞましい光景で溢れ返る。



欲望に目をギラつかせた男たちが

美しき獲物を求めて一斉に校舎内外に徘徊し始める。



可憐な蝶が張り巡らされた蜘蛛の巣にかかるように、

多くの乙女たちが次々と男の欲望に身を焦がして果ててゆく。



聖なる霧の学び舎は、瞬く間に魔界の迷宮へと変貌するのだ。











下駄箱口。



下校する女生徒たちが外履きに履き替えるために必ず立ち寄り、

多くの衆目に晒される場所。



聖リトリス女学院の放課後を妖しく彩る性行為の多くが

トイレや倉庫、雑木林の中など何らかの物影で行われる中、

これはなかなかに珍しい光景といえた。





《ぱん、ぱんっ! ぱん、ぱんっ! ぱん、ぱんっ! 

  ぱん、ぱんっ! ぱん、ぱんっ! ぱん、ぱんっ!》



「ンアァ〜〜〜〜〜ッ・・たまらンッ♪」



「こっちもだよッ。

 ホッホォ〜♪ エッチなお尻の穴しちゃってからにッ♪」





下駄箱口の一角に女生徒たちの人だかりができていた。



いや、それは厳密に言えば『人だかり』ではなく、

『人詰まり』とでも呼ぶべきものかもしれない。



何故なら、20人近い女生徒たちが、

そこに立ち往生せざるを得なくなっているのだから。





「(やだ・・何で、こんなところで・・)」



「(あれ、G組の京本さんですわ・・)」



「(・・やっぱり、聖水を使われてるのかしら)」





今日、帰りのホームルームが大幅に長引くという

アクシデントに見舞われた1年B組の女生徒たちは、

追い討ちをかけるように次なるアクシデントに直面していた。



自分たちの使う下駄箱の前で、

これ見よがしに性行為が行われているのだ。



1年生が1人、中年の用務員2人に挟まれるように抱え上げられ、

生殖器官と排泄器官を突き上げられていた。





「はあぁ〜〜っ・・あっ、あっ、あっ・・あッ♪」





聖水の使用を未だ拒み続けている新1年生たちにとって、

他人の性行為に自ら近づくということは

食事中の猛獣に近づくことと同意だ。



もし、少しでも男たちの注意を引いてしまえば、

自らに危険が及ぶことにも繋がりかねない。



その上、問題なのは男2人に女1人の、

『3人』というアンバランス。



それはバランスを取るために

もう1人女性が必要となる危険を孕む比率なのだ。



この場に留まること自体が危険だとわかってはいても、

一度、全員で足を止めてしまった以上、

下手に動けば先陣を切る羽目になる。



今は遠巻きに場の成り行きを見守るしかなかった。





「(・・ど、どうします?)」



「(そ、そうですわねぇ・・)」





立ち往生する女生徒たちの間にはハッキリしない囁きだけが飛び交い、

誰も動こうとしない。



入学から2ヶ月近くを必死に生き抜いてきた彼女たちは、

群れからはぐれた者から狙っていく肉食獣の心理をよく知っている。



だから皆、誰かが痺れを切らして『人柱』となるのを待っているのだ。



群れからはぐれた仲間に男の注意が向いた隙をつき、危険をやり過ごす。



――それが彼女たちの企みなのだから。





「(こんなところにずっといては、わたくしたちまで・・)」



「(誰かが先を行かなくては・・ずっとこのままですわ)」



「(どなたか、いませんの?)」



「(そう言われるなら、まずご自分が行かれるべきでは・・)」



「(あ・・いえ、その、私はちょっと・・)」





だが、ここで自らの愚を晒して自滅するような女生徒は、

既にその多くが男たちの餌食となって聖水の魔力に堕ち、

生き残ろうとする仲間の輪から脱落しているのだ。



皆、他の男たちがやっては来ないかと震えながらも、

早く自分以外の誰かが犠牲になってくれないかと

お互いにひたすら牽制を繰り返す。



恐ろしい敵を前にして、

味方同士の争いに意識を割くという愚が

大きな隙を作り出していることにすら気付かずに。





「(ほら・・ごらんくださいな。

  彼女たちはああやって、

  自分以外の誰かが餌食になるのを待っているのですわ)」



「(オイオイ、そりゃまた美しい友情だなァ)」



「(え〜僕は好きだけどねェ、女の子のそういう汚いところ)」





一方、行為に耽る3人も顔を寄せ合い、

小声で言葉を交わしながら立ち往生する一団を伺っていた。



中年用務員の管井 功(すがいいさお)と斉田 均(さいたひとし)、

そして1年の女生徒・京本 こずえ(きょうもとこずえ)だ。





「(けど、本当に悪いコだねェ、こずえちゃんは♪

  同じ1年生のお友達にこんな意地悪して・・)」



「(くふっ♪ いやですわ、斉田のおじさま。

  こずえのお友達は、愛してくださるおじさまたちだけです)」



「(ヒヒッ・・今日、ここで愉しんでるのも、

  元はといえば、こずえちゃんの提案だからな)」





こずえの口元からかすかに漂うのは聖水の香り。



だが、心に麻酔をかけて苦痛から目を背け、

人形に成り果ててしまう多くの聖水使用者たちとは違い、

こずえの眼差しには意思の光がまだ強く残っている。



酷く――歪んだ光が。





「(ところで、斉田のおじさまはもうお決めになられました?

  今夜のエ モ ノ♪)」



「(まぁ待てって、あんだけいたらさすがに決めかねるわ。

  7人・・いや、8人までは絞ってるんだがなァ・・)」



「(なら、ここはせっかくですし、

  天なるリトリスに決めていただいてはいかがです?)」



「(・・?)」



「(セオリー通り、一番早く来た子を捕えるのですわ。

  一戦終えてもこちらが動く様子を見せなければ、

  他のおじさま方に見つかることを恐れ彼女たちも動くはず)」



「(あぁ、まあそれも一興だがなァ・・)」



「(それに、こちらがセオリー通りに動けば、

  彼女たちの『最初に動いた人が捕まる』という考えの

  更なる裏づけになりますわ)」



「(ん? それがどうかなるのかい?)」



「(くふふっ♪ 『最初に動いた人が捕まる』というのは、

  『誰かを最初に動かしてしまえば助かる』ということ・・

  要は『誰かを殺せば自分は助かる』ということですわ)」



「(あぁ・・なるほどな。

  それが正しい生存方法であると改めて証明してやることで、

  ここで言うところの『殺し合い』を激化させようって腹か)」



「(自分が助かるために平気で仲間を殺すような悪い子が増えれば、

  おじさまたちもお仕置きのし甲斐があるでしょう?)」



「(ハハ・・こずえちゃんは本当に悪い子だねェ♪)」



「(くふっ♪

  なら、こずえにもお仕置きが必要ですわね。

  とりあえずはお尻とおまんこにキツぅ〜いのを・・♪)」





眼前で交わされている3人のヒソヒソ話が、

自分たちを捕える算段だなどと気付くこともないまま、

1年B組女子たちの醜い牽制は完全な膠着状態に陥っていた。



こずえたちが改めて示してやるまでもなく、

ここまで生き残ってきた彼女たちの間には

殺し合いのルールが定まっていたのだ。





「(・・そ、それならこういうのはどうかしら?)」





このままここに留まっていては、

いつ他の男たちに見つかるかもわからない。



リスクの高すぎる膠着状態を切り崩すため、

女子の1人・高倉 アン(たかくらあん)がこう切り出す。





「(恐らく、あの行為は間もなく『一区切り』つくはずよ・・

  その隙をついて全員で一斉に動くの)」



「(・・・・)」





周囲はしばらく返答を返さない。



『全員で一斉に』とはいえ、今度はその『一斉に』の中に

熾烈な先頭の押し付け合いが発生することは明白だからだ。



アンもそれがわかった上で、

一番愚かな仲間に先陣を切らせようとしているのだ。





「(い、いいアイデアかもしれませんわね)」



「(たしかに『一区切り』つけた直後の男女は

  注意力がだいぶ散漫になると聞きますし・・)」





だが、結局は皆アンの提案に乗るしかない。



早々に決着をつけてこの場を離脱しなければ、

被害は更に拡大する可能性が高く、

何より他に選択肢がないからだ。





「(なら、決まり・・ね。

  私が合図をしたら、全員で動いてね・・)」





今度は全員がすぐに頷いて返していた。



膠着した場を動かせたことに内心ホッとするアン。



だが、まだ次なる一手があるため、息は抜けなかった。





(皆、多分、私の合図と共に動き出す振りをする・・)



(他の誰かの先行を引き出すため、フェイクの一歩を踏み出すはず)



(それで誰かが先行すればいいけど、多分この様子じゃ誰も出ない)



(そうなったら・・

 手近な子を1人、こっそり突き飛ばせばいい・・)



(それで、他の皆は助かるんだから・・)



(そう・・皆のために、誰かが辛い決断をしなくてはいけない)



(その役がたまたま私だった・・それだけよ・・)



(だから、たとえ辛くても・・頑張れ、私・・!)





アンがそんな覚悟を決めるのを待っていたかのように、

目の前の行為もいよいよ佳境に入っていた。





《ぱんぱんッ!ぱんぱんッ!ぱんぱんッ!ぱんぱんッ!

  ぱんぱんッ!ぱんぱんッ!ぱんぱんッ!ぱんぱんッ!

   ぱんぱんッ!ぱんぱんッ!ぱんぱんッ!ぱんぱんッ!》



「ハァッ・・ハァッ・・

 そっ、そろそろ・・キメちまうかァ?」



「お・・お尻もイクよッ! ・・覚悟・・してね!」



「きゃあんっ☆ ダ・・メぇ、あっ、はぁっ、あンッ♪」





担ぎ上げた女の腰を前後から一気呵成に責め立てる。



不安定さをものともせず、

男たちの腰の動きはより粗雑に、より荒々しくなってゆく。





「(い・・嫌ですわ、あんなにはしたない声を・・)」



「(ダ、ダメよ。 今は・・集中・・しない、と・・)」



「(・・そうです。 もうすぐ一区切り、なのですから・・)」





3人の絶頂の瞬間にできる隙を狙うため、

顔を真っ赤にしながらも行為をじっと見守る一団。



そして――





「ホアァァァ〜〜ッ・・

 イクぞ、こずえッ! たっぷり、飲ませてやる・・ッ!!」



「アアァッ・・こずえ・・ちゃぁ・・んッ!!

 ンホオォォォッッ♪」



《――ドプゥゥッ!!》



《ビュック! ビュクビュクビュク・・ッ!!》



「あッ! だめぇ・・ッ!

 おじさまたちの子作りミルクで・・イックぅぅ〜ッ♪」





こずえの甘い叫び。



そして、彼女と腰を密着させたまま小刻みに痙攣する男たち。



男たちと深く結合するこずえの体の内部こそ見えずとも、

そこで今、膣内射精と肛内射精が同時に行われていることは

見守る女生徒たちの目にも明白だった。





「(・・い、今ですわっ!)」





機を窺っていたアンがついに一声を発する。



そして、目の前に来る誰かを突き飛ばすための手に力を込めてゆく――





《――ドンッ!!》





瞬間。



場で最も愚かな者が男たち目掛けて突き飛ばされ、生贄となる。



同時に残る全員が一斉に動き出していた。



満足げな顔の男たちの脇で靴を履き替えて、

次々とグラウンドへ駆け出してゆく。





「・・えっ?」





すりむいた膝の痛み。



男たちの前に手をつき倒れこむ自分自身の姿。



そして、複数の手に背中を強く押し出された感触。



想定していなかった情報が頭の中に次々と舞いこみ、

アンは呆然としていた。



男たちに捧げる生贄を選別するはずが、

自分自身が生贄として捧げられてしまったのだ。



――仲間全員に裏切られて。





「ハハッ・・残念だったな、嬢ちゃん・・」



「・・くっ!!」





アンの肩を掴む均の手。



しかし、アンはそれを咄嗟に振り払っていた。



その抵抗を気に止める風でもなく、

均は余裕たっぷりにニヤリと笑った。





「ほォ? 逃げるってなら追わねえぜ?

 追いかけるのは、怖ぁ〜いお姉さんたちの仕事だからなァ」



「・・あっ・・」





聖リトリス女学院に敷かれた狂気の規律の番人・執行部。



規律に背くものをどこまでも追い回し

非情なる制裁を加える黒衣の死神たちの存在が、

アンから最後の抵抗を奪い去ってしまうのだった――











体育館内にある体育倉庫。



すっかり辺りが暗くなった中、

倉庫内を照らし出す蛍光灯の明かりは

場の閉塞感を一層強めているようだった。





「なんで・・なんで私が、こんな目に・・」





男たちの手に堕ちて以降、

ずっと黙り込んでいたアンが漸く口を開く。



体育倉庫に連れ込まれた直後、

男たち2人はこずえに留守番を頼み出て行ったのだ。



場には俯いてへたり込むアンと、

丸めたマットに優雅に腰を下ろすこずえの2人だけとなっていた。





「くふふっ、よくいいますわ?

 貴女だって仲間を突き飛ばそうとしていたクセに。

 ちゃ〜んと見えてましたのよ?」



「・・そ、それは・・」



「まぁ、とはいえ・・

 仲間全員で結託して1人を殺すなんて、

 あんな酷いやり方・・さすがに同情はしますけれど、ね」



「・・・・」





『同情』



ここまで不敵な態度を見せていたこずえから、

わずかながらも歩み寄る言葉。



これから自分がどうされるのか。



そんな不安に押し潰されそうなアンは、

すがるように顔を上げるとおずおずとこずえを見上げる。





「私・・高倉 アン、あ・・貴女は?」



「京本 こずえですわ、アンさん」





こずえが敵なのか味方なのか、

それはまだアンには判断できない。



だが、たとえ味方であったとしても、

この絶体絶命の状況から自分を救い出せはしない。



そこに期待が持てないことだけは確かだった。





「ねぇ、京本さん・・

 あの2人は、どこへ・・?」



「一度、自分たちの寮に戻っているはずですわ。

 クスリを取りに・・ね?」



「ク・・クスリって、あ・・聖水・・?」



「いいえ、クスリはクスリですわ」



「え・・ま、ま、まさか・・麻薬・・?」



「いいえ、そこは安心なさって?

 貴女に注射するためのクスリではなく、

 彼ら自身がが飲むもののようですから」



「えっと・・?

 あの人たち、体でも患っているってこと?」



「いいえ?

 精神はわかりませんが、体はとっても健康ですわ?

 その健康な体を更に元気付けるクスリ――精力剤、ですわ」



「そ・・そう・・」





目の前にある絶望の群れに、アンは再び項垂れる。



すると、耳の奥に離れてゆく仲間たちの足音が蘇り、

悔しさに歯軋りをした。





「私・・怖い・・

 ・・たす・・けてよ・・」



「・・アンさん?」



「だって、やっぱりいやだよ・・

 なんで、こんな目に合わないといけないの・・?

 酷いよ、赦せないよ、皆してあんな風に・・仲間、なのに・・」





こずえは少しだけ神妙な顔をすると、

立ち上がってアンの元へ歩み寄る。



再びしゃがみ込むと、アンを優しく抱きこんだ。





「いいえ・・仲間などでは、ありませんわ」



「きょ、京本・・さん?」



「仲間面をして身を寄せ合いながら、

 いざという時、自分を守るためにストックしていた捨て駒・・」



「・・・・」



「おわかりかしら、アンさん?

 あの中には誰1人として、仲間などいなかったということ・・」



「だ・・誰1人として・・仲間なんか・・いない・・」



「アンさん? 実は――こずえも同じなのですわ。

 クラスメート同士の危うい関係に希望を持ったが故に裏切られ、

 ・・深い闇の底へ突き堕とされた」



「京本さん・・も?」



「だから、こずえにだって絶対赦せない子たちがいます。

 純粋な信頼を踏みにじってこずえを殺し、

 今ものうのうと無事でい続ける・・かつての仲間たちが」





これまで飄々として掴みどころがなかったこずえの瞳に、

ドス黒い炎が燃え滾るのをアンは見た。



恐らく、こずえは自分とは違い、

本心から信頼していた仲間に裏切られた。



だからこそ、その絶望は今の自分をも上回る煉獄の責め苦であり、

美しかったであろう天使の心も悲しい悪魔の心と成り果てた。



それが今のこずえの姿なのだと、アンは深く感じとっていた。





「――復讐。 するつもりなのね?」



「・・そうですわ。

 だから、まずは心も体も完全に闇の住人にならなくてはいけない。

 その上であの子たちを、闇に引きずり込んでやるのですわ・・!」



「ふふ・・」



「・・アンさん、何か?」



「ううん? 私、京本さんのこと、好きかも」



「・・はぁ?」



「かっこよくて憧れちゃうよ。

 悲しみと狂気を纏う闇のヒロイン――だね」



「なっ、なんですの? それ・・」





意図せず、こずえの口元は緩んでいた。



本来はどこまでも醜く唾棄すべき相手だったはずのアン。



だが、仲間に裏切られ、闇に堕とされた者同士の連帯感が、

そこには確かに生まれつつあるのだ。





「ねぇ、京本さん・・私も『そっち側』に行きたい・・」



「アンさんも、復讐を?」



「いえ、私は別にあの子たちに復讐したいとまでは思わない。

 だって、私もあの子たちを殺そうとしていたから・・」



「じゃあ・・なんで『こっち側』に来たいのです?」



「京本さんと・・お友達になりたいから」



「・・アンさん」



「だから、私も無事に『そっち側』に行けたら、

 お友達になってくれる、わよね?」





これまで培ってきた多くを投げ捨てるように、

マットに大の字に身を投げ出すアン。



そのどこまでも儚い笑みが、

こずえにもまた同じ表情を作らせていた。



そして間もなく、男たちが戻って来た。











「ハハ・・お待たせしちゃったね。

 こずえちゃんに・・えぇ〜っと?」



「アン。

 高倉 アンです、おじさま」



「おや・・なんか雰囲気がだいぶ変わったな?」



「いえ、ちょっと京本さんに、

 悪い魔法をかけられただけです」





つい先ほどまで絶望の淵に沈み、黙り込んでいたアン。



彼女が浮かべる娼婦の笑みは自然と男たちの目を引いた。





「・・・・」



「・・・・」





支配したい、孕ませたい――



そんな衝動が、男たちの中に沸々と沸きあがってくる。





「まぁ、おじさま方ったら。

 ここにこずえもいるというのに、

 すっかりアンさんに見惚れてしまって・・くふふっ♪」



「おっ? お、おう・・」



「あぁ、いや・・ハハハ」



「今夜、アンさんは精魂尽き果てるまで、

 おじさま方のお相手を続けるお覚悟・・ですわ」



「ほ・・ほぉ・・」



「ですから、今夜のこずえはアシスタント。

 おじさま方の子作りミルクは

 一滴残らずアンさんに注いであげて欲しいのですわ」



「なるほど、そういうのも悪くない趣向だよねェ。

 でも、本当に覚悟はいいのかい? ・・アンちゃん」



「・・はい。

 うまくできるかどうかは、わからないですけど。

 愛され方・・教えてくれますか?」



「ヒヒッ・・しかし、こずえといい・・

 俺らの今年の女運はすこぶるいいようだぜ? 管井」



「ハハッ、そのようですなァ・・」



「では、準備をいたします。

 それが整うまで、おじさま方はおあずけですわ。

 順番を決めつつ待っていてくださいな」





今にもアンの柔肌に手を出しそうだった功と均を、

こずえは自らの体で遮るように遠ざける。



先ほどまで自分が座っていた丸めたマットの上にアンを座らせ、

こずえは顔を覗き込んだ。





「では、アンさん、覚悟はよろしくて?

 これからおじさま方とセックスする準備をいたしますわ」



「うん。

 いいけど、京本さん・・その前に1つ、いい?」



「はい?

 ・・・・ん、んんっ・・・・」





したたかに奪われるキス。



そこに小さな花びらが2つ、重ねられる。





「はぁ・・全く、とんだ不意打ちでしたわね」



「ふふ・・ごめんね。

 ファーストキスだけは、京本さんがよかったの」



「くふふっ♪

 仕返し上等、と受け取ってもよろしいですわね?」





こずえは姫君に傅く侍女のように、

アンの足元に膝をついてしゃがみ込むと、

ミニスカートの中に手を入れて薄布だけを引っ張り出す。



そして、今度はそこに頭を突き入れてゆく。





「・・あっ!? はぁぁ〜〜〜〜〜・・っ」





最も敏感な場所をチロチロと嘗め回され、

目をシロクロさせて声をあげるアン。



反射的に股を閉じて身を守ろうとするも、

押し付けあう花びらと花びらの内側での出来事には干渉できない。



蕩けた顔のまま、酷くゆっくりとイヤイヤを続ける。





「そ・・そんなに気持ちいいのかい? アンちゃん」



「はっ・・はぁ・・はいっ。

 こっ・・こんなにっ・・んんっっ!!

 ・・我慢、できないものだなんてぇ・・」



「いやいや、感度自体もだいぶよさそうなんじゃねえか?

 ちょっとマンコを舐められただけでそんなんじゃ、

 生マラぶち込んだらどうなるか・・ヒヒッ、見物だぜェ」



「ふ・・ふふっ・・

 おちんちん挿入れられるの・・本当は怖い、はずなのに・・

 なんでだろ・・少し、愉しみに・・なってきちゃいました・・」



「ハハッ・・こりゃ、僕らも責任重大だなァ。

 でぇ〜・・そろそろ、ダメかね? こずえちゃん」





均とのジャンケンでトップバッターの座を勝ち取った功が、

もう我慢ならんと伺いを立てる。



ミニスカートの中から顔を出すこずえと目を見合わせ、

アンもまたコクリと頷いていた。





「さぁ、管井のおじさま・・」





こずえの指先に拡げられた小さなアンの泉の入り口に、

ギチギチに勃起した男根が押し当てられる。



そこに立つチュクッという小さな水音は、

微弱な痺れとなって激しい行為の始まりを予感させる。





「ハァ・・ハァ・・

 じゃあ、いくよ・・アンちゃん」



「はっ・・はっ・・はっ・・

 ・・はいぃ」



「いい子だ・・気持ちよくしてあげるからねェ・・

 ・・ン、オォォォ・・ッ」





背を預けるこずえに促されて恐る恐る見守る視線の先で、

血管の浮き立つ男根がアンの股間に埋められてゆく。



まるで耐えられなかったこずえのクンニより、

遥かに強烈で生々しい感覚が牝の体を一気に目覚めさせる。





「あ、あ、あ・・あ――――――ッ」





ズブズブと徐々に縮められてゆく功との距離がなくなった瞬間、

アンは吐息にかすれた絶叫を上げていた。





「くふふっ♪ あらあら・・」



「ハハッ・・もしかしてアンちゃん、

 ひと突きでイッちゃったのかい?」



「はっ・・はっ・・はっ・・はっ・・

 ご・・ごめんなさい・・ごめ・・なさい・・」



「なぁに、謝る必要なんてどこにもないよ。

 可愛かったよォ? アンちゃんのイキ顔・・♪」



「あぁ・・おじ・・さまぁ・・」



「アンちゃん、そろそろ動くから、

 次は一緒にイケるように頑張ろう」



「は・・はいっ」





アンを気遣うようにゆっくりと始められるピストン。



その様子を後ろから肩越しに覗き込むこずえの頭に自らの頭を預け、

アンは快楽のリズムを下肢に覚えこませてゆく。





《ぱんッ! ぱんッ! ぱんッ! ぱんッ!

  ぱんッ! ぱんッ! ぱんッ! ぱんッ!》



「ふーーっ・・ふーーっ・・ふーーっ・・

  ふーーっ・・ふーーっ・・ふーーっ・・」



「くふふっ♪ そうです、その調子ですわよ? アンさん」



「わっ・・私、次こそは・・

 ちゃんと、おじさまと一緒にイクから・・

 お、応援・・しててね? 京本・・さんっ」



「えぇ、もちろんですわ? アンさん」



「おやおや・・

 こずえちゃんにアンちゃん、仲睦まじいねぇ♪

 おじさんも仲間に入れてよォ〜」



「ですって、どうします? アンさん」



「ふふっ、ダメですぅ・・京本さんが、一番だから・・っ」





適度にアンの気が紛れるように交えていた雑談だったが、

しばらくするとアンの口数がみるみる減ってゆく。



ほとんど間を置かず、アンに2度目の絶頂が近づいてきたのだ。





《ぱんッ! ぱんッ! ぱんッ! ぱんッ!

  ぱんッ! ぱんッ! ぱんッ! ぱんッ!》



「ふーーっ・・ふーーっ・・ふーーっ・・

  ふーーっ・・ふーーっ・・ふーーっ・・」



「ハハッ、また我慢できなくなってきちゃったかな?」



「くふふっ♪ 本当に感じやすい体みたいですわね」



「でも、アンちゃんっ?

 あまり、無理しすぎなくてもいいからねっ?」



「ふーーっ・・ふーーっ・・ふーーっ・・

 い・・いいえっ・・次は、絶対・・ッ!!

 京本さ・・っ・・みッ、見てて・・ッ!!」



「・・管井のおじさま、

 どうか急いであげていただけませんか?」



「ああ、わかってるともさっ」





こずえに認められたい一心から、

限度を超えた快楽に耐えて絶頂を必死に拒絶し続けるアン。



こずえに乞われるまでもなく、

功はアンの健気な想いに報いようと

腰のテンポを速めて自らも絶頂を引き寄せてゆく。





《ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!

  ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!》



「ふーーっ・・ふーーっ・・ふーーっ・・

  ま・・まだ負けない・・まだ、負けない・・ッ!!」



「ハッ、ハッ、ハッ・・

 アンちゃん・・可愛い子だなァ・・ッ」



「アンさん、もうすぐですわ! 頑張って・・!」



「うんっ・・うんっ」



「さ・・さぁッ・・お待ち、かねだッ

 おじさんのッ、子作りミルクゥ・・イ、イクよッ」



「はッ・・はッ・・はッ・・は――ッ」





頭の中でピンボールが激しく行きかうかのようなアンの極限状態。



意識のほとんどを動員して爆発寸前で食い止めていた衝動を、

ついに功の悦びが解き放っていた。





「アッ、アンちゃん、アンちゃん・・ッ!

 ン・・ンオオ――ッ!!」



《ドビュル――ッ!

 ・・ドクドクドクドクッ!!》



「はッ、はぁッ・・

 はぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!」





誰よりもか弱く敏感な牝の性器は、

功の射精まで絶頂を耐え凌ぐことに辛くも成功していた。



耐えに耐えての絶頂は、アンを大きな悦びに包み込んでゆく。



ブルブルッと身を震わせ、

体力全てを吐き出すように長い喘ぎ声をあげていた。





「はーーーっ・・はーーーっ・・はーーーっ・・」



「フゥ・・よく頑張ったね、アンちゃん」



「くふふっ♪ 

 こずえもアンさんのことが

 とても愛しくなってしまいましたわ」



「はーーっ・・はぁ・・

 こ、こずえ・・さんっ・・んんっ」



「ハハッ、やれやれ・・お熱いねぇ♪」





今度はこずえから、ご褒美とばかりに熱いキス。



初めて本気で好きになったこずえに支えられ、

共に大きな山を登りきったかのような達成感が

冷めやらぬ火照りとなってアンの体を包み込んでいた。



奇妙な連帯感に包まれ、場はひとまずの収束に向かおうとする。



が。





「ちょっと待てや。

 俺を・・忘れちゃいねえか?」



「――あっ」











朝。



長かった夜を懸命に戦い抜いたアンを、

こずえが優しく包み込んでいた。



彼女たちに気を使った功は均を連れて先に戻り、

見つめあう2人を邪魔する者はもう誰もいなかった。





「はぁ・・はぁ・・」



「結局、4回もされてしまいましたわね。

 本当にお疲れ様、アンさん」



「ねぇ、こずえさん・・

 これで私も、闇のヒロインに・・なれた、かな?」



「だぁ〜から、なんですの? それ。

 でも・・闇のヒロインは知りませんが、

 お友達ならここに1人、できましたわね?」



「ふふ・・よかった・・

 じゃあ、これからは華麗な悪女コンビだね」



「くふふっ♪ ・・ですわね。

 いい子になる気なんて、もうさらさらありませんわ」



「復讐・・私も手伝ってあげるね・・」



「・・ありがとう、アンさん」





学院の闇に堕ちた少女たちの間に交わされた友情。



しかし、それは未だ心と体に傷を負うことなく、

正気を保ち続ける少女たちの上辺だけの友情とは違う

確かな絆となるのだった。


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