〜 聖水 〜






◆登場人物





◇片山 志摩(かたやましま)

 女性 15歳(1年生)

よくしてくれる先輩の美和に懐いている。



◇赤沼 美和(あかぬまみわ)

 女性 17歳(3年生)

面倒見がよく、後輩たちに慕われている。

妊娠中。



◇戸山 眞子(とやままこ)

 女性 16歳(享年)

去年、志摩のように美和に懐いていた。

敬虔なリトリス教信徒であることを最期まで貫いた。











《志摩〜? 悪いんだけどお父さん起こしてきて。

 あと、ランディのエサと・・新聞もお願いね》



《ったく、人使い荒いなぁ・・お母さんは》



《いいじゃないの。

 貴方が高校に上がったら、しばらく会えなくなるんだから・・》



《わかったわよぉ・・

 は〜ぁ・・高校にはお母さんみたいな先生がいませんようにっと》



《コラ、何か聞こえたわよ?》



《あははっ!

 今日もいい天気だなぁ〜って言っただけだってば》





一人娘を蝶よ花よと育ててくれる両親や仲の良かった愛犬、

どこにでもある日常風景。



それはたった数ヶ月前、

片山 志摩(かたやましま)が聖リトリス女学院へ入学する前の記憶。



霧に霞む頭の奥底に蘇るそんな記憶たちが、

ゆっくりと真綿で首を絞め上げるように志摩を苦しめていた。







立ち並ぶ女子用便器の傍ら、

少女たちは男性用便器としての務めを強いられる。



そこは光差すことなき――欲望の国。





「はーーっ・・はーーっ・・、はーーっ・・はーーっ・・」





先ほど、漸く男たちの責め苦から解放された志摩は、

ただ命を繋ぐ本能のままに荒い呼吸を続けていた。



自らがグッタリと身を横たえる洋式便器の蓋を間近に捉える視界は、

込み上げてくる涙に壊されグチャグチャになってゆく。





《・・ごぽッ・・・どぽォォ・・》



「・・ん!

 ・・ぁ・・ぁ、ぁぁぁ・・・・ッ」





今もヒクヒクと痙攣を続ける志摩の尻穴が不意に拡がると、

濃厚な精液が漏れ出し、膣口を舐めるように伝い落ちる。



すると、かすかな触感にすら耐え切れないほど

敏感になっていた膣口もまたビクンと震え、

主の違う精液を吐き出していた。





(なんで・・?

 なんで、こんなことになってしまったの・・?)







一ヵ月半前――



希望に胸を躍らせて、

この幻想的な霧の学び舎へとやってきた志摩。





天界の調べのようなパイプオルガンの音色に包まれた入学式。



聖なる乙女となった証として配られたロザリオ、ポケットバイブル、

そして――聖水入りのグラスアトマイザー(噴霧機能付き小瓶)。



新しい教室で出会うクラスメートたちは、

一人として顔見知りはおらず誰もが赤の他人。



不安と期待の中、仲間たちとの距離感を探り合い、

共通の話題を見つけて距離を縮めてゆく高揚感。



そして、聖典の授業や毎日捧げる祈り。



それらの全てが新鮮だった。





だから――





自然現象の範囲を遥かに超えた濃霧にも。



聖水と教えられる液体の恐ろしい正体にも。



どこか様子のおかしい先輩の女生徒たちにも。



異様なほど多く見かける怪しい用務員たちにも。





最初は何も、おかしいと思わなかったのだ――







《じゅぷッ!じゅぷ、じゅぷッ!じゅぷ、じゅぷッ!

  じゅぷ、じゅぷッ!じゅぷ、じゅぷッ!じゅぷ、じゅぷッ!》





ズボンを下ろした小太りの用務員2人に抱え上げられた女生徒が、

前後から挟まれ、生殖器と排泄器官を交互に突き上げられる。



今も無残な姿を晒す志摩の尻のすぐ後ろには、

先ほどまで彼女が身を置いていた光景があった。





「やっ、やぁっ・・あんっ

 はぁ・・う・・うむ・・あはぁ・・っ」





前の男の首元に手を回し、長い髪を振り乱し、

しなやかな腰で便器としての務めを果たす女生徒は、

志摩の慕う3年生の赤沼 美和(あかぬまみわ)だ。





思考を放棄したかのような眼差しに虚ろな笑みを湛え、

テンポの違う2つのピストンを自然体で迎え入れる。



それは2年少々という長い学園生活の中で、

レイプされることに適応してしまった少女の姿だ。



その腹部に見える異様な膨らみが、

この学院の業の深さをありありと語っていた。





「おッ・・・お、おぅッッ!!」





大した前触れもなく、

美和を責め立てていた不定形の旋律が大きく崩れる。



後ろの男が美和の排泄器官の奥に精液を排泄したのだ。





《・・ドプゥッ!!

 ・・・・コポ・・・・ゴポッ!》



「・・あはぁっ!

 お、おし・・り・・・・きましたぁぁ〜っ♪」





身を震わせるほどのゾクゾク感に声を絞り上げる美和。



性行為用器官としての開発が完了している美和の肛門は、

ドロついた牡の欲望を打ち上げられて歓喜の色に染まる。



まるで無数の小さな花が一斉に花開いていくかのように、

内側からジワァッと拡がってゆく背徳の快楽に、

美和はうっとりとした面持ちで天井を見上げる。





「やれやれ・・

 タイミング合わせろよなァ」





だが、まだ余韻に浸るのは許さないとばかりに、

前の男が腰の動きを一層激しくしてゆく。



やがて薄暗闇の中、再び乙女の甘い祈りが響き渡る。



そして、今度こそ静寂は訪れたのだった――











《――シュッ、シュッ》





思う存分欲望を吐き出した男たちが姿を消したトイレの中。



自分にすがりつき、わんわんと声をあげて泣く志摩の鼻先に、

美和は聖水の霧を吹きかけていた。





「ごめんなさいね、志摩・・」





間もなく、深い静寂が戻ったトイレから、

美和と志摩はお互いを支えあうようにして出て行く。



その先は、校舎の外へと向かっていた。











学院の敷地の一角に食い込む大きな泉。



そのほとりに聖リトリスの銅像が佇み、

またその傍らには小さな休憩所がある。



夜闇と深い霧の中、

ランプの明かりでボゥッと浮かび上がるそこに、

2人寄添いベンチに腰を下ろす美和と志摩の姿があった。





「いつも、すみません・・お姉さま」





静かにそう切り出す志摩は、

少し前まで壊れんばかりに泣きじゃくっていたとは

思えないほどの落ち着きを取り戻していた。





「いいのよ、志摩は私の大切な妹分だもの」





美和は志摩の頭を優しく抱き寄せるとそっと撫でてやる。



何度も、何度も。





「志摩、もう落ち着いた?」



「はい・・お姉さま」





頭を寄せて志摩の顔を覗き込む美和。



すがるように自分を見返してくる美和の眼差しに、

あるべき生気が薄れていることを確認すると、

複雑そうな面持ちでため息をつく。





「あの・・お姉さま?」



「なぁに?」



「でも・・これって・・

 『聖水』――いえ、『薬』の効能なんですよね?」





美和はそんな問いかけに対し、

何かを飲み込むかのように目を閉じると『そうよ』と返した





『聖水』



そう呼ばれる液体の入ったグラスアトマイザーは、

聖リトリス女学院の女生徒たちが携帯を義務付けられるものの1つだ。



毎週末、HR時に先週分と交換する形で配られる他、

希望があればいつでも補給を受けることができる。





『ひと噴きすれば聖リトリスの慈愛に守られ、

 如何なる悩みや苦難からも解放される』





学院側が生徒たちにそう教えるこの液体。



しかし、そのわりに聖リトリスの聖典に関連する記述はなく、

その正体はまるで知られていない。



女生徒たちが知ることを赦されるのは、その効能のみだ。





聖水の霧を吸引した者は、

そのまま脳内も霧がかかったような状態となる。



その時、脳が取り扱っている全ての情報は一度全てがぼやけ、

霧中の物が近づいてよく見なくては判別できないように、

意識的に注意を払わなければ見えなくなるのだ。





これにより吸引者は、

脳内で取り扱う情報の再整理が可能となる。



苦痛や苦悩など精神的負荷のかかる情報を認識外に外し、

都合のいい情報だけを認識できるようになるのだ。





そう。



即ち、これは辛い現実から目を背ける薬。



乙女たちの清純な心を楽な方へ楽な方へと誘い、

次第に逃げ、従うだけの従順な奴隷へと堕としてゆく悪魔の薬なのだ。





「私は元々リトリシタンではありませんし、

 崇高な精神とか信仰とか、そういうのは正直よくわかりません。

 けど・・!」





その言葉に美和は顔をしかめる。



志摩の言わんとしている事は痛いほどよくわかっていた。





「理由はどうあれ、薬に逃げるのが正しいことのわけがない。

 志摩は、そう言いたいのでしょう?」



「・・はい」



「たしかに、その通りよ。

 この『薬』は、私たちを形だけでも生き長らえさせるために

 悪魔が用意した薬なんだと思う、『逃げ』だと思うわ」





『――けどね』と繋げる美和の眼差しは冷ややかだった。





「こんな状況なのよ?

 森に無数に吊られた死体のことは話したわよね?

 ここには狂った規則とそれを守らせる執行部がある。

 私たちには『薬に逃げるか、死に逃げるか』しかないの」





何者にも負けない力があるわけではない。



しかし、どこかで自分を誤魔化しきれず『逃げ』を拒む。



そんな志摩に対して、美和はいつも大きな危機感を覚えるのだ。





「・・眞子って子がね、いたの」





だが、志摩を納得させる上手い言葉が見つからず、

美和は最も出したくなかった名を口にする。





「志摩の1つ上、去年1年生だったの。

 そうね、志摩と似ていたわ・・」





美和の口から語られるのは、

1人の女生徒に関する壮絶な内容だった。





戸山 眞子(とやままこ)。





昨年、2年生だった美和を慕っていたその少女もまた、

先ほどの志摩と同じことを口にした。



だが、敬虔なリトリシタンであった眞子の悲運は、

志摩よりも強い信仰の持ち主であったこと。



聖水を悪魔の薬とキッパリ切捨て決して頼らなかったこと。



その結果、彼女は日々の陵辱行為に耐えかねて発狂し、

最期は――自ら命を絶ったのだ。





「そ・・そんなことが・・」



「眞子の選択は立派だったかもしれない。

 もしかしたら、眞子自身は悪魔に最期まで屈しなかった

 自分の死を誇りに思っているかもしれない・・」



「・・・・・」



「けどね・・私は眞子に生きていて欲しかった・・」





これまで身近な者の死に縁のなかった美和が、

ろくに頼る者もいない中で直面した親友の凄絶な死。



その時に味わった悲しみだけは、

聖水に頼っても逃げることができずにいる。





「私は眞子とは違う・・

 絶対に生き残って家に帰る、それが私の戦いだから・・

 だから、たとえこんなお腹にされても、私は・・ッ!」



「お、お姉さま・・落ち着いてください」





取り乱しそうになる美和を志摩がなだめる。



そんな、いつもとは逆の光景。



だが、美和はポケットから取り出した聖水を、

躊躇なく噴きかけるとすぐに平静を取り戻していた。





「志摩、3年よ・・3年だけ我慢するの。

 私は眞子に続いて貴方まで失いたくない。

 だから、どうか薬を頼ってでも生き延びてちょうだい――」





自分のことを心から案じてくれる美和の、

しかし、あまりにも重い言葉。



志摩は震える手でポケットの中の小瓶を握り締めるのだった。


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