〜 用務員たち 〜



◆登場人物





◇小山 忠正(こやまただまさ)

 男性 44歳(用務員)

自堕落な生活を送っているが、後輩の面倒見はいい。

学院の男たちの中でも屈指の巨根。



◇須加 輝彦(すがてるひこ)

 男性 25歳(用務員)

今年になって突然新規雇用を再開した用務員の新人第一号。

やや臆病だが、真面目で人当たりのいい男。



◇堀田 次郎(ほったじろう)

 男性 43歳(用務員)

用務員仲間の中でも気味悪がられている男。

ハイエナと呼ばれている。



◇大友 梨世(おおともりせ)

 女性 16歳(2年生)

聖水常用者で性を抵抗なく愉しむ淫乱の気あり。











霧に包まれた聖リトリス女学院。



その敷地の片隅に佇むのは、用務員寮という名の魔窟だ。



清掃・修繕や見回り点検といった業務をこなすために

必要な人数を遥かに超過する異常な人数の男たちが

そこで怠惰な生活を送っている。





「フア〜ァ・・」





今年44歳になる用務員・小山 忠正(こやまただまさ)は

部屋着代わりのジャージ姿のまま寮の玄関口で下駄を履くと

眠たそうな目をこすって外へ出る。



今年でこの寮生活10年目を迎える彼は、

他の多くの仲間たちがそうであるように

視界一面に広がる霧の世界にもまるで気を留めない。



玄関前にある流しの蛇口を勢いよく捻ると、

『バシャーッ!』と噴出す冷たい水で顔を洗った。





「オイオイ、小山・・もう4時前だぜ?

 こんな時間まで昼寝かよ、勤務態度悪いんじゃねえのか?」





遅れて玄関口からゾロゾロと出てくる作業服姿の中年男性たちの中、

何名かが忠正に声をかけていた。





「よく言うぜ、清掃はサボってばっかのクセによォ」



「いいんだよォ・・そんなん、誰かやんだろ?」



「誰かって、どうせいつもテルたち若ぇ衆じゃねえか。

 新米だからってコキ使いすぎなんだよ、おめぇらは」



「ハッハ!なァ〜に、

 あいつらももっと若ェやつらが来るまでの辛抱だって」



「チッ、もうさっさと行っちまえよ」





忠正はシッシッと手でゼスチャーをすると、もう一度顔を洗う。



頭を振って飛沫を飛ばすと、もうそこに先ほどの一団の姿はなく、

ただ深い霧だけが立ち込めていた。





「・・ホント、魔物みたいな霧ですよね」





声は頭上から聞こえてきた。



寮2階の窓に忠正を見下ろす顔が覗く。



用務員の中でも取り立てて若い25歳の須加 輝彦(すがてるひこ)だ。





「オゥ、テルか。

 なんだ、おめぇも昼寝あけか?」



「ちょっと、師匠と一緒にしないでくださいよ。

 遅い昼休憩で戻ってきただけです」



「ん?

 ああ・・そういや俺も、少しは腹になんか入れておくかな」



「じゃあ、僕の部屋に来ませんか?

 カップラーメンなら腐るほどありますよ」



「んじゃ、ゴチになるわ」











「どうぞ、あがってください」





忠正が通されたのは、他の用務員たちとは打って変わって

整理整頓された小奇麗な部屋だ。



忠正は1つため息をつく。





「あいっかわらず・・おめぇんとこは汚れてねぇな」



「いや、まぁ掃除はちゃんとしてますから」



「おめぇ・・用務員、向いてねぇんじゃねえのか?」



「ちょっ、何でですか!

 普通、逆じゃないですか?? 師匠」





オーバーアクションでおどけてみせるこの痩せた男は、

同僚の誰に対しても笑顔をよく見せ、愛想がいい。



特に慕っている忠正に対しては何かと持ち上げ、よく気を使う。



だが、輝彦のそれは人付き合い下手の裏返しだった。



常に相手の機嫌を伺い衝突を避けることで立ち位置を確保し、

上手く立ち回っているように見せようとする卑屈な処世術なのだ。





「しかし、テルももうここに来て1ヵ月半か」



「ええ、そうですね」



「おめぇ、まだ25だろ? 

 外に未練はなかったのかよ」



「あ・・いえ」



「面接の時に言われたと思うが、ここは永久就職だ。

 誰にでもできる簡単なお仕事、悠々自適な生活、

 トドメに『お愉しみ』には事足りねえ」





『ニシシ』と下品な笑みを浮かべていた忠正は、

そこですっと真顔になる。





「だが・・代わりに二度と帰れねぇ職場だぜ?」



「・・・・。

 まぁ、ここがおかしな場所だってことは理解してるつもりですよ」





この魔都と呼ばれる大都市には、

魔力に通じた人非ざるモノたちが隠れ棲むとされ、

彼らの手による常識や科学で説明のつかない謎が数多く存在する。



また、そんな謎との遭遇を恐れる者たちがいる一方で、

不思議と心惹かれて止まない輩も多い。



『人の欲望を何よりも好む』という

魔都の裏にひしめくモノたちの性状は、

人間の本能に訴えかける魔性の魅力ともなりうるのだ。



ここに集う用務員たちも、

例に漏れずそんな男たちばかりだった。





「そうそう、師匠は知ってますか?

 ここの用務員面接、『二度と家には帰れませんが、いいですか?』

 なんて言葉を突きつけてるわりに、合格率100%なんだそうです」



「・・へぇ?」



「なんでも、必ずOKする人間だけを不思議な力で見抜いて

 面接に通しているとか・・ネットではもっぱらの噂でしたよ」



「ま、ここならありえそうな話だな。

 ここに10年も住んでりゃ、もうどうでもいいことだが・・」





そう言うや、大あくびをする忠正。



それは現世との未練を完全に捨て去った世捨て人の姿だ。





「おっと、やべぇな・・ちょっとゆっくりしすぎたか」



「あ、そうですね」



「んじゃぁ、テル・・俺らも出かけるとしようか。

 ピチピチの天使ちゃんたちに愛を教えてもらいに行くとしようぜ」



「はい!」





やがて、忠正はカップラーメンを平らげて腰を上げると、

輝彦を伴い用務員寮を出てゆくのだった――











夜空の見えない霧の庭園。



女子寮から校舎へと続く遊歩道に、手を繋いで歩く男女の姿があった。





「えっと・・大友 梨世ちゃん、だったよね?」



「はい・・お兄さま♪」





1人は輝彦。



彼は先ほど『便所組』に声をかけられた忠正と別れ、

今夜、番う相手を探すために下校中の女子を物色していたのだ。



もう1人は大友 梨世(おおともりせ)という2年生。



輝彦のお目にかかった『今夜の相手』だった。





「・・んふふっ」



「ど・・どうかしたのかな?」



「いいえ?

 お兄さまったら、先ほどから横目でチラチラと

 梨世の胸元ばかり覗き見てらっしゃるんですもの」



「ア、アハハ・・

 そんなこと・・ある、けど」





輝彦の目を引くのは、いつも同じタイプの女生徒だ。



理不尽な性を強要される聖リトリスの乙女たちは、

学院側が精神的な逃げ道として用意した『聖水』を吸い込み、

負のスパイラルに陥る思考を放棄することで精神崩壊を防ぐ。



辛い現実から目を背けるため、

多くの女生徒たちが『聖水』を常用しているのだ。



しかし、正常な思考を放棄したまま快楽を受け入れてゆく過程で

芯まで淫乱な白百合に堕ちてしまうケースも少なくない。



結果、輝彦の趣味であったアダルトゲームに登場するような

極めて都合のいいヒロインが形成されるのだ。



それこそが異性への興味は強いものの、

基本的に他人を恐れる輝彦が好む『淫らな人形』という女性像だった。





「まぁ、お兄さまったら。

 一体どんな良からぬことを考えてらっしゃるのかしら?

 んふふっ・・♪」



「えぇ〜っと、梨世ちゃんさぁ。

 自分が狼に連れ去られる赤ずきんちゃんだって自覚、ある?」



「ん〜〜・・ちょっと頼りない感じのお兄さまが、

 ちゃ〜んと狼さんになって下さればいいんですけれども?」



「なっ・・なるよ! なりますとも!」



「そうですかぁ・・?

 では、これから赤ずきんは

 どちらへ連れて行かれるのでしょうか?」



「んん〜・・

 雰囲気がよくて、2人きりになれるところがいいんだけど」





聖リトリス女学院の広大な敷地内には、

先輩用務員たちが『ヤリ場』『プレイスポット』などと呼ぶ、

女生徒たちと性行為に及ぶために適した場所が複数存在する。



忠正が向かった校舎内のトイレもその背徳感から人気スポットで、

特にそこに入り浸る連中は『便所組』などと呼ばれる始末だ。



しかし、相手の全てを受け止める覚悟もないクセに、

一丁前にムードにはこだわる輝彦は主に屋外でのプレイを好んでいた。





だが――





今日に限って、どこにも人の気配があるのだ。



雑木林、プールの裏手、泉のほとりの休憩所・・

梨世の手を引く輝彦は、ここまで幾つかのプレイスポットを回っている。



しかし、近づくにつれて女生徒たちの喘ぎ声が聞こえてくるやUターン。



それを繰り返していたのだ。





「・・オイ」





そんな中。



突如、梨世との会話に割って入ってきたのは

地獄の悪魔かと思うような低くしゃがれた声だった。



不意のことに輝彦は2〜3テンポ遅れてワッと声を上げる。



振り向いた先に、輝彦と同じ作業服を着た小太りの男がいた。





「いいヤリ場ァ探してんのか? 新入りのボウヤ」





不潔そうなボサボサ髪に浮き出たニキビ、酷く歯並びの悪い口元。



輝彦はこの不気味な男を知っていた。



堀田 次郎(ほったじろう)という古株の用務員であり、

誰からも気味悪がられる異端だ。



同僚たちは彼を名前ではなく

『ハイエナ』というニックネームで呼んでいたが、

その理由について輝彦はまだ教わっていなかった。





「そう邪険にすんなよ。

 別にとって喰やしねえからよ」



「・・あ、ハイ・・」



「いいヤリ場ァ教えてやるぜ。

 ボウヤはムードのいいところがいいんだろ?」



「はい・・そう、ですけど・・」



「・・なら、来な。

 その牝ガキと早く盛りてぇんじゃねぇのか?」





何かしら得体の知れないものを感じつつも、

輝彦は梨世の手を引いて次郎についてゆくのだった。











静けさに包まれた夜闇に漂う白い霧の中、

ステンドグラスから幻想的な光の束が差す。



輝彦の不安をよそに、次郎が教えてくれたのは

ともすれば聖域とすらいえるほど美しい場所だった。





聖なる鐘を掲げて聳え立つ教会――その裏手。



2人身を寄せあうように、

輝彦と梨世が一夜限りの恋を謳歌していた。





《ちゅこッ・・ちゅこッ・・ちゅこッ・・ちゅこッ・・

  ちゅこッ・・ちゅこッ・・ちゅこッ・・ちゅこッ・・》





「僕のおちんちん、気持ちいいかい? 梨世ちゃん」



「んふふ・・っ♪

 ・・はい、お兄さま・・っ」





白い壁に手をつき、愛らしく、淫らに差し出された梨世の尻。



揺れるミニスカートの下、絡み合う牡と牝が密かに背徳を重ねる。



堕ちてゆくスリルに高鳴る小さな鼓動は、

その形や質感、重みをたしかめるかのように

愛でられる乳房越しに輝彦の掌へと伝わってゆく。



聖水に魅入られた偽りの愛の行為に、

輝彦は身も心も蕩けきっていた。





「梨世ちゃんのおっぱい・・すごく、いいよ。

 すごく・・いい」



「んふっ、光栄・・ですわ」



「ハァァ・・

 梨世ちゃんのおっぱい・・梨世の、おっぱい・・」



「んふふっ♪

 お兄さまったら・・本当にお好き、ですのね?」



「うん、大好きだ。

 本当に・・好きなんだ」





幾つになっても甘えん坊が抜け切らない輝彦にとって、

女性の魅力の最たる部分はその乳房だった。



夢中でしゃぶりつき、絶対の安心感に包まれた赤子の日の記憶が、

深層心理に今も深く刻み込まれている。



歳を取り、エロスという知識の毒に心汚されても、

その根幹が揺らぐことだけはなかった。





「ほォら・・たぷたぷしてるよ? 梨世」



「あぁんっ・・くすぐったい、ですわ」



「この中に、梨世の甘ぁいミルクが入ってるんだね」



「んふっ、まだ出ませんけれどね?

 あ・し・か・ら・ず・♪」





意地悪な笑みを浮かべる梨世の唇。



そこに誘われるように顔を寄せる輝彦の口元に、

梨世は細やかな人差し指をそっと押し付けて『待った』をかける。



だが、輝彦は構わず顔を寄せて梨世の唇を奪っていた。





「・・梨世。

 そろそろまた、いくよ?」



「はい・・お兄さま」



《ちゅこッ・・ちゅこッ・・ちゅこッ・・ちゅこッ・・

  ちゅこッ・・ちゅこッ・・ちゅこッ・・ちゅこッ・・》



「んふっ、素敵・・ですわ」



「うん。

 梨世は僕は今、セックスしてるんだからね」



「・・はい♪」



「ほら、梨世。

 『セックス』って、言ってごらん?」



「えっ・・?

 えと・・『せっくす』?

 んふっ、改めて言うと少し恥ずかしい・・ですわ」



「でも、すごく可愛いよ。

 なんだか・・どんどん、興奮してくる」



「梨世も・・なんだか、

 お腹の奥がウズウズして、きましたわ・・」



「・・・・・・」



「・・・・・・」





コンマ数秒の沈黙。



輝彦の眼差しが確かめる何か問いに、

梨世は小さく頷いて返す。





《ぱん!・・ぱん!・・ぱん!・・ぱん!》



「あはぁ・・っ。

 お・・お兄さまぁ・・っ!」



「梨世・・梨世っ!」



《ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!》



「はぁぁぁぁ〜ン!

 ど・・どんどんよくなって・・

 はぁっ・・感じて、しまいますぅ・・っ」





小気味のいい音が響くたび、

情欲のビートを刻まれた白い尻が戦慄く。



牡と牝が激しくぶつかり合う場所からは透明なしぶきが散り、

やがて淫靡な水糸を引いて落ちる。



そんな乙女の雫が地面に描く染みが、

2つの肉体の昂ぶりと呼応するように広がってゆく。





「り、梨世・・

 もう、我慢ッ・・でき、ないよ・・ッ」



「はっ、はいっ・・

 どうぞ、そのまま・・中にぃ・・っ」



「あぁッ、梨世・・!

 梨世の、膣内に・・だッ、射精すよッ!!」





瞬間。



聖水の魔力に狂った哀れな姫君は、

天使の小部屋の奥底に神秘の胎動を感じる――





「うぅッッ!!

 く・・ぁぁぁッッ!!」



《ビュク! ビュククッ!!

 ビュルルッ! ビューーーーーッ!!》



「や、やぁ・・っ!

 ふあああぁぁ〜〜〜〜〜っっ!!」





立て続けに訪れる無数の一瞬が、

使命と向き合った牡と牝の体を次々と駆け抜けてゆく。



心は天に昇り、体は地へと堕ちてゆく感覚。





やがて、2人もつれ合うようにして崩れ落ちる輝彦と梨世を、

深い霧が音もなく飲み込んでゆくのだった――


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