〜 黒のリボンの乙女たち 〜



◆登場人物





◇倉田 郁(くらたいく)

 女性 15歳(1年生)

自分を助けた親友の夏希を我が身可愛さに男に売った上、

後日、それを追及された際に逆ギレして完全に関係崩壊。

自らの醜さを痛感して失意の底にいたはずだが・・



◇小宮 璃亞(こみやりあ)

 女性 15歳(1年生)

以前、学院からの脱走を試み、執行部に見つかるが、

その際、自分を守ってくれた数学教師の石坂に想いを寄せ、

以降、恋人関係が続いている。



◇大越 冬樹(おおこしふゆき)

 男性 31歳(教員)

1年C組の担任教師。

酷く憔悴しきっていた郁を気にかけていたが・・











「では皆さん、また明日」





担任・大越 冬樹(おおこしふゆき)のそんな一声で

1日のカリキュラムを終える聖リトリス女学院1年C組の教室。



多少長引いたホームルームが終った途端、

女生徒たちは神妙な顔で帰り支度を整えると、

一斉に廊下へと駆け出してゆく。



獣たちを呼び寄せる次のチャイムが鳴るまでに、

できる限り危険地帯から離れるために。



波の引いたあとのような教室内には冬樹の他、

他の女生徒たち赤いリボンとは違う黒のリボンを首に巻いた

2人の女生徒が取り残されていた。





「ああ、そうそう、小宮さん?」



「はい?」



「貴方は石坂先生の補習があるようですね。

 職員室に寄って行くように」



「はいっ、大越先生」





先ほど、一斉に教室を出て行った女子たちとは違い、

未だ椅子に腰掛けたまま帰り支度を進めている小柄な女生徒は

小宮 璃亞(こみやりあ)だ。



一度は学院生活に絶望し、

人知れず決死の脱走まで図った彼女だったが、

その後、また何事もなかったかのようにクラスに復帰していた。





「ふふ〜〜ん・・?」





そして、その傍らで璃亞に冷やかしの視線を送る、もう1人の女子。



それは半月前に親友・酒井 夏希(さかいなつき)と大喧嘩をし、

失意の底にいたはずの倉田 郁(くらたいく)だった。





「なっ、何でしょう? 倉田さん」





悪戯な視線を俯き加減にかわそうとする璃亞に、

郁はぬっと顔を寄せるとお互いの前髪をこすり合わせる。



2人の乙女の芳香がふわっと溶け合った。





「(お さ か ん で す コ ト ♪)」



「〜〜っ!」





顔をカァァッと紅潮させて身を強張らせる璃亞。



硬直を解くようにため息をつくと、

所謂ジト目でゆっくりと郁の目を覗き返す。





「・・り、璃亞だって・・

 倉田さんと大越先生の件、知っているのですよ?

 ・・お互い様ではないですか・・」



「あの大人しい小宮さんがねぇ〜・・って、

 そう思った ダ ケ ☆」



「も・・もぅっ・・

 璃亞は倉田さんのそういうところ、

 あまり好きにはなれませんわ・・っ」



「あははっ、ごめんごめんっ。

 小宮さんがあまりにも愛らしいから

 ちょっとイジワルしたくなっちゃったんだってば」





璃亞をからかい無邪気な笑みを浮かべる郁の顔に、

救いようのない形で親友を失った失意の色はない。



それは夏希との一件の前に戻ったというより、

この学院に入学して絶望に囚われる前の本来の郁の姿だった。





「えと、では・・

 あまり先生をお待たせするわけにはいきませんので、

 璃亞はそろそろ失礼しますわ」



「あっ、うん。 ごめんね」





だが、鞄を手に取り、立ち上がって身を翻す璃亞を、

郁は再び呼び止める。





「・・小宮さんっ」



「・・はい?」





璃亞の振り向きざま、

その耳元に口付けるように郁が囁いていた。





「(お互い、頑張ろうね)」



「(あ・・はい、倉田さんっ)」





冬樹に軽く会釈して璃亞が教室を出て行った後。



しばらく続く静寂の中、

残された2人の視線はゆっくりと絡み合っていった――











人もまばらな夕刻の遊歩道。



立ち込める濃霧の中、

身を寄せ合うようにして歩く男女の姿があった。





「さっきは小宮さんと何を話していたんですか?」



「黙秘権発動です」



「ふふっ、ホント意地悪ですねぇ、倉田さんは」



「あ〜〜〜・・ちょっとぉ〜、先生?

 2人の時は・・『郁』って・・」



「ああ、すみませんでしたね――郁」





甘えるように預けてくる郁の頭を、

冬樹はそっと抱き寄せて撫でてやる。



あの後、冬樹と職員室へ向かった郁は、

残った雑務の片付けを手伝い、連れ立って校門を出ていたのだ。





「ところで、郁?」



「はい?」



「何か、辛いことはありませんか?」



「ん〜〜〜〜、強いて言うならぁ〜・・

 愛する人と、こうやってずぅっと毎日一緒にいられないことが

 ・・辛いですぅ」



「ふふっ、大丈夫そうですね」



「あっ、酷!」





ともすれば失意のあまり自殺していたかもしれない郁が、

ここまで元気を取り戻した背景にあったもの。



それは聖水ではなく、この担任教師の存在だった。





「いいえ、郁。

 できる限り一緒にいられるように先生も努力する、と・・

 そう言っただけですよ」



「っ!?」



「可愛い郁が少しでも苦しむようなことは、

 先生にも耐えられないですから」



「せっ・・先生の馬鹿っ!

 ・・また、好きになっちゃうじゃないですかぁ・・」





夏希と大喧嘩した明くる日、

体調不良を理由に授業を休んだ郁を冬樹が見舞っていた。



酷い傷心の郁は優しく問いかける冬樹に全てを打ち明けて懺悔し、

また冬樹は郁の苦悩をまるまる包み込むように全てを赦す。



たったそれだけのこと。



郁はたったそれだけのことで苦悩から解放され、

夏希たち他の女子仲間より遥かに頼りになる心の支えを得たのだ。



クラスメートの小宮 璃亞が

数学教師の石坂 秀光に対してそうなったのと――同じように。





「で・・先生?

 今日はその・・どこへ・・?」



「普段は使われていない小さな小屋があるんです。

 ランプをつけると、ちょっといい雰囲気なんですよ?」



「へぇ〜・・いい雰囲気、かぁ・・

 ふふ・・ふふふふっ♪」



「な、なんです、郁?

 何か良からぬことでも考えているんじゃないでしょうね?」



「ちぃ〜が〜い〜ま〜すぅ〜!

 そうじゃなくってぇ・・

 私・・今、とても幸せだなぁ・・って・・」



「ふふっ、そうですか?」



「だぁってぇ〜・・

 他のコたちは、毎日あ〜んなに必死になってるのに、

 私だけはこんなに・・うふふ♪」





愛する男の腕に抱きついて、すっかり上機嫌。



安心して心を寄せられる相手を得た郁は、

今も用務員たちの目を怯えて暮らす他の女子たちを

哀れむようになっていた。





聖リトリス女学院内には、

暗黙のうちにある種のカースト制度が形成されている。





理事長>執行部>校長>教師>用務員>女生徒





力関係は上記のようになっているため、

教師たちの『お気に入り』に対しては

用務員たちも手を出すことができない。



璃亞や郁が身につける黒のリボンこそ、

乙女から獣たちを遠ざける『教師の女』の証なのだ。





だが、安堵に浸っていたいあまりか、

この黒のリボンが非公式とはいえ『制度化』されていることに

郁は疑問を抱こうとはしなかった――











敷地内の外れに幾つかある小さな小屋。



昔ながらの木こりたちがいそうなその小屋は、

学院内においては用途不明な建造物の1つだ。



しかし、本来の用途はさておき、

そこは時折、人の目を忍ぶように使われていた。





《ちゅろっ、ちゅろっ、ちゅろろ・・っ》





「んっ・・やぁだ・・あっ、はぁ〜ん」





壁に手をつき、恥ずかしそうに尻を差し出す郁。



机に置かれたランプの灯りが妖しく照らし出すのは、

男の指に押し広げられた魅惑の洞窟だ。



そこにしばらく顔を押し付けては離れ、

またしばらく押し付けては離れ――



冬樹はそんなことを繰り返していた。





「ハァァァ・・

 とても甘くて、美味しいですよ・・郁の蜜は」





柔らかな膣壁に滴る愛液を舐め取っては、

それをソムリエよろしく口内で転がして優雅に味わう。



そうやって悦に入っているのだ。





「も、もぅ〜・・そろそろにしてくださいよぅ〜

 ホント恥ずかしいんですからね? 先生ぇ〜」



「郁?

 そんな遠まわしに言わなくても、

 早く欲しい物があるなら素直にそう言えばいいのですよ?」



「え・・ちっ、違っ・・

 ・・・・うぅ〜・・」





そんな冬樹の言葉が次のステップへの、

見え見えの誘導であることは郁にもわかっていた。



『恥ずかしい』も『違う』も本心であったが、

郁はそれを引っ込め、愛する男の意を汲み従うことを選ぶ。



出しかけた言葉を飲み込むと、

そっと、恋の文句に摩り替える――





「せ・・先生?」



「はい?」



「先生が・・

 ・・私の中で幸せになってくれたら・・嬉しいです」



「・・まったく。

 愛して・・いますよ? 私の可愛いお姫様を・・ね」





スラックスに巻かれたままのベルトのバックルが

床を叩く『・・ゴトッ』という音。



郁は拘束から漸く解き放たれた冬樹の獣を、

愛らしく尻を振って誘い、受け入れてゆく。





《ちゅぐっ・・

 ・・ぬぢゅるるるる・・ッッ》



「やっ・・・・あンっ♪」





心地よい圧迫感を確かめるように押し込まれてゆく切っ先が、

やがて『コツッ』と終着点を叩く。



そこに生じる小さな振動は奥へ奥へと伝わり、

新たな生命を育む神秘の臓器に果たすべき使命を伝えていた。





《ぱん、ぱん、ぱん、ぱん、ぱん・・っ

  ぱん、ぱん、ぱん、ぱん、ぱん・・っ》





ゆっくり優しく、しかし絶え間なく求められ続ける。



それは甘美なチークダンスのようだった。





「ふふっ、

 ・・せ〜〜んせっ?」





郁は甘えたような顔で肩越しに冬樹を見上げ、

冬樹はただ小さく笑みを作って返す。





「私のアソコの中・・幸せ?」



「もちろんです」



「どの・・んっ!・・

 ど・・どの、くらい・・?」



「そうですねぇ・・

 天なるリトリスに嫉妬されかねないくらい・・でしょうか?」



「・・よかった。

 先生が幸せなことが・・私の幸せだから・・っ」





意識がふわふわと浮遊しているかのような感覚を、

郁はしばし瞼を閉じて愉しむ。



満たされてゆくオーガズムは精神面に大きな比重を置くものだ。



リトリスの乙女たちの多くが聖水に心狂わせて性行為に臨む中、

郁はそうではない。



――いや、今の郁には聖水が必要ないのだ。





「あの日、先生がお見舞いに来てくれなかったら、

 私、どうなってたんだろう・・」



「・・郁」



「親友を失って、自分の弱さに打ちひしがれて、

 私、本当に消えてしまいそうだったんです」



「でも、郁は先生が来るのを

 ちゃんと待っていてくれたじゃないですか」



「待っていた?

 そう・・なんでしょうか?」



「あの時の郁のすがるような瞳・・

 先生には、そんな風に見えましたよ?」



「あは・・っ

 先生って、本当に優しいんだから」



「いいえ、郁には特に、ですよ」



「先生・・

 先生は、私の罪を全部赦してくれた・・

 消えちゃいそうだった私に救いの手を差し伸べてくれた・・」





感極まった郁は目頭を熱くする。





「・・大好きです、先生・・っ」





思い込み、矛盾、嘘――



何ひとつ実のない愛の言葉に溺れる。



心に麻酔をかけてゆく様は聖水の効能そのものだ。



そして、この『聖水に頼らぬ堕落』という精神状態こそが、

黒のリボンの乙女たちの多くに共通する特徴なのだ。





「郁はず〜っと、

 先生が守ってあげますからね・・」





今日もまた――



『それ』が呪いの首輪であるとも知らず、

虚構の愛に目隠しされた乙女の耳元に悪魔が囁く。





「さぁ、では郁?

 ――中に出してしまっても、よろしいですか?」



「・・はいっ」





教師たちの多くは聖水に溺れた女生徒を養殖モノの魚の如く見なし、

そこに群がる用務員たちを見下している。



自分たちは教壇という特等席から悠々と品定めをし、

お気に入りの獲物の弱みにつけ込んで近づくと、

優しい笑みを浮かべて黒の首輪をかけるのだ。





《ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!

  ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!》



「はーーっ・・はーーっ・・はーーっ・・!

 せんせぇ・・せんせぇぇ〜っ!」



「アァ〜、すごい・・ッ!

 郁、先生は今すごく幸せですよ・・

 けれど、あともう少しで、もっと幸せになれそうです・・!」





そうやって冬樹たちが作り出すのが、

郁のように自分1人に無垢な愛を捧げ続けるラブドール。



彼女たちとの恋愛ごっこを飽きるまで愉しんだ後は、

聖水を宛がい、用務員たちに卸してやるのだ。





《ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!

  ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!ぱんッ!》



「郁ッ!

 先生・・幸せに、なりますよッ?」



「は、はいっ!」



「先生ッ・・

 エッチな郁のオマンコの中でッ

 しッ、幸せに、なっちゃいますよォ・・ッ!?」



「はいっ!

 い、いっぱい・・出して、くださぁいっ!!」





ロシアンルーレットを繰り返すような日々の中、

当然、『大当たり』を引き当ててしまう女生徒も一定数存在する。



彼女たちの宿す子供の多くが父親不明な中、

黒のリボンの乙女たちは『まだ救いがある』ととれなくもない。



何故なら、その罪を重ねた相手はあきらかなのだから――





「うっ・・ぉおおおおッ!!」



《ドクドクドクッ!!

 ・・ビュッ・・ビュゥッ!》



「あ! あぁっ!!

 ・・ぁ・・・・ぁ・・・・あぁン・・」





優しい悪魔に恍惚の笑みを捧げ、

郁は安寧の闇へと堕ちてゆくのだった――


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