〜 売れ残り 〜



◆登場人物





◇相模 花子(さがみはなこ)

 女性 15歳(1年生)

やや地味なルックスの眼鏡っ娘。

クールを気取りたがるが、気が短く頑固なところも。



◇足立 冬乃(あだちふゆの)

 女性 15歳(1年生)

花子と同じ寮で暮らす仲間。



◇中川 理佳(なかがわりか)

 女性 15歳(1年生)

花子と同じ寮で暮らす仲間。



◇藤谷 竜司(ふじたにりゅうじ)

 男性 30歳(用務員)

花子を誰か他の女性と見間違える。

年齢的には若手だが、最近入った新人ではない。











深夜2時、1年生たちの使う女子寮内――



照明の落とされた廊下に

ジャージ姿の1年生・相模 花子(さがみはなこ)の姿がある。



俯き加減、表情は暗く、足取りは亡霊のようだ。



やがて食堂へと抜けた花子は、

眼鏡の下の目を細めて足を止めた。





「・・相模も、寝付けないの?」





花子にかけられた声は、暗闇の中にいた先客たちのものだ。



足立 冬乃(あだちふゆの)と中川 理佳(なかがわりか)は、

同じ寮に暮らす仲間だった。





「そうです」





無料開放されているドリンクバーでウーロン茶を入れると、

花子も近くの椅子に腰掛ける





「ね、花子ちゃん・・

 その・・『まだ』・・だよね?」





空元気気味に理佳がそんなことを言う。



それは明らかに必要な言葉が省かれた問いかけだ。





「・・はい」



「あ、はは・・よかった」





だが、それでも会話は問題なく成立する。



何故なら、これは仲間の誰もが最も頭を悩ませる問題だからだ。





「中川さん。

 もしかして、また誰かが・・?」



「・・史枝ちゃん、が」



「・・そうですか。

 どんどん減っていきますね、『まだ』組は・・」





『おつとめ』



この春に学院に入学し、

聖リトリスの乙女となった彼女たちに義務付けられる

――男たちへの性奉仕。



命すら脅かされる厳しい規則に縛られた彼女たちは、

男たちからの求めを断ることができない。



とかく男たちの目を引く花子たち新1年生は、

放課後が来る度に多くの品定めの視線に晒され、

1人、また1人と欲望の闇へ引きずり込まれてゆく。



男たちに奪われ、散らされた女生徒たちのほとんどが、

悲劇を忘れたい一心から心の痛みを麻痺させる聖水を頼る。



花子たちの言う『まだ』は、それを指した『まだ』なのだ。





「ウチらも、いつまで正気でいられるか・・

 いよいよ、わからなくなってきたね」



「ふ、冬乃ちゃん・・そうゆうこと、言わないでよぅ」



「言われようが、言われなかろうが・・

 何も変わりはしませんよ、中川さん」



「・・花子ちゃん」



「皮肉なことに、私たちは・・

 この神の学び舎を選んだ時点で天に見放されていたのです」



「ふん・・相模の言う通りかも、ね」



「望まない快楽に身を焼かれ、

 私たちが男の人たち好みの卑しい存在に成り果てるのも

 ・・もう時間の問題でしょうね」



「や、やだよ・・そんな・・」



《――ガチャッ》





不意に玄関口から人の気配がした。



深夜遅くの女生徒の帰還。



その意味するところは明白だった。





扉の閉じられる音。



かすかなすすり泣きの声。



階段を上ってゆく弱々しい足音。





花子たちの声も、そこで途切れた。











時は流れ、学院は11月を迎えていた。



遅い放課後。



1日のカリキュラムを終えた女生徒たちは、

男たちのうろつき始める廊下へと出てゆく。



春先には、誰もが男たちの目から逃れるため、

そっと息を潜めて駆け出していったものだが、

もうそんな光景もほぼ見られなくなっていた。





「相模、理佳たち拾ってくけど、一緒に帰る?」



「いえ、私は1人で」



「最近・・相模、ちょっとつきあい悪くない?」



「・・・・。

 すみません」



「ま、いいけどさ・・じゃあ、また寮でね」





先を行く冬乃の誘いを断ると、

花子もまたため息を残して教室を出てゆく。





廊下にひしめくのは男と女。



卑しい誘いと虚ろな返事。



今日も多くの契約がそこで交わされる。





《・・ドン》



「あっ、すみません・・」





不意に用務員の男とぶつかり、よろめく花子。



だが、彼女の謝罪に返事はなく、男はそのまま通り過ぎてゆく。





「(・・なによ)」





眼鏡の下、不機嫌そうに目を細めて1人ごちると、

花子は下駄箱口で靴を履き替え、校舎を出た。



だが、この時間は校舎を出ても広がるのは同じ光景だ。



しばし目を閉じて眉間に皺を寄せる花子は、

やがて校門とは異なる方向へと歩いていった。











《ぱんッ! ぱんッ! ぱんッ! ぱんッ! 

  ぱんッ! ぱんッ! ぱんッ! ぱんッ! 》



「ハァァ〜〜・・こりゃ、たまらン!

 嬢ちゃん、いいモノ持ってンじゃないのォ!」





校舎の側面に張り付いた非常階段。



その下の物影に花子はいた。





「(んっ・・ん、んっ・・はぁ・・っ)」





ギュッと目を閉じ、濡れた吐息を押し殺す。



下肢に息づく感覚に頬を染め、背筋を伸ばして肩を竦ませる。



背徳という名の熱病に浮かされた肉体からフェロモンの香りが漂う。





《ぱんッ! ぱんッ! ぱんッ! ぱんッ! 

  ぱんッ! ぱんッ! ぱんッ! ぱんッ! 》



「アァ〜、こりゃダメだッ!

 この極上の生マンコに一発・・キメとこうかッ!」



「(えっ!? いやよ・・中は、中は・・ダメだってば・・)」



「ハハァ! そうだろそうだろ、嬢ちゃんも欲しいんだろ?

 イキてぇんだよなあ? 特濃ガキ汁流し込まれてよォ〜!」



「(い、言ってない・・私、そんなこと・・

  ・・いや・・いやよ・・な、中出し、だけは・・)」



「オホォォ〜〜ッ!!

 ほれほれ、出るぞ・・出るぞォ〜〜〜・・ッ!!」



「(・・いやっ、いやいやっ!

  だっ・・だれか・・誰か、助け・・てぇ・・っ)」



「ンアァァ・・ッ!!」



「(いやよっ・・い――)」



「きゃあぁン☆ 

 おじさまのっ・・一杯、出てるぅぅぅ〜〜〜っっ!!」





1つの区切りを迎えた行為を音に聞きながら、

花子は頭を抱えていた。



絶頂を迎え、体を仰け反った瞬間、

後ろの壁に後頭部を打ち付けたのだ。





「どうだィ、場所変えてもう一戦。

 まだ、頑張れるンだろ?」



「は、はい・・理佳は、その・・オーケーですっ」



「ヒヒ、そうこなくっちゃ。

 ほら、ちょっと歩きながら場所決めようぜ?」



「・・はいっ」





花子の鈍痛が完全に収まった時、

校舎裏にいた男女もまた姿を消していた。



今のショックで地面に落ちた眼鏡をかけ直すと、

ただ憂鬱なひと時だけが、そこに残される。





(・・なんで、こんなことしてるんだろう)





第三者のセックスの傍らに、

そっと身を潜めての――花子のオナニー。



それは男性のそれのように、

絶頂を迎えた直後、急激に冷めるタイプのものだ。



その上、今日は後頭部の鈍痛で何もかも台無しにされていた。





(・・馬鹿じゃないの?

 ・・私、馬鹿じゃないのッ!?)





聖リトリス女学院入学から半年を迎え、

花子は入学当初とは真逆の悩みを抱えていた。





《望まない快楽に身を焼かれ、

 私たちが男の人たち好みの卑しい存在に成り果てるのも

 ・・もう時間の問題でしょうね》





春に花子自身が言い放った言葉。



それはこれまで幾度となく花子の胸を刺してきた。



あれから間もなく理佳が聖水に堕ち、

周囲の仲間も次々とそれに続いてゆく。



花子と冬乃は顔を合わせるたび、

『そろそろ危ないかもね』と自虐的に笑いあっていたが、

やがて、そんな冬乃もその言葉が言えなくなる。



そうして、花子1人が『まだ』側に取り残されたまま、

今も憂鬱な時が流れ続けているのだ。





(今の声・・中川さんだったか・・)



(最近、彼女とは全然話さなくなったな・・)



(足立さんは声かけてくれるけど、彼女はさっぱり・・)



(あのコ、馬鹿だし・・もう私のことなんて忘れてそう・・)



(中出しされて、あんなに悦んじゃって、ホント馬鹿だわ・・)



(妊娠させられて、みっともないお腹になっちゃえばいいのよ・・)





この半年で花子の内面は変わり果てていた。



かつては仲のよかった理佳まで切って捨てる、その無様。



それはさながら婚期を逃して嫉妬に駆られる女性のようだ。



仲間が次々と犯されてゆく絶望的状況下での無事は、

花子の女性としてのプライドを傷つけるようになっていたのだ。



『私には魅力がないのか』――と。



追われて逃げていたはずが、いざ逃げられれば欲しくなる。



そんな心理が、花子を悲しいピエロに仕立て上げていた。





(はぁ・・最低。

 私も周りも、何もかもが最低だわ・・もう、帰ろ・・)





のそりと物影を抜け出すと、

花子は今度こそ校門へと向かっていった。











「お・・おい、ちょっと待て」





校門を抜けたところで、

花子は何者かに肩を掴まれていた。



振り向くや、額の擦れ合う間近に男の顔が覗き込んだ。





「・・・・・・っ」



「あ・・あの、私の顔に・・何か?」





30歳の用務員・藤谷 竜司(ふじたにりゅうじ)は、

何かに驚いたような表情のまま固まっている。



花子は訝しげな目でそれを見上げていた。





「あの・・?」



「・・名前は?」



「は・・?

 えっと・・相模 花子・・です、けど」



「ハハッ・・だよな」





隆二は名前を聞くや、自嘲気味に笑う。



一方で、花子は不機嫌そうな顔のまま言葉を返していた。





「あの・・私に何か、御用ですか?」



「あぁ? わかってんだろ?

 愛に、迷ってんだよ」



「はぁ・・そうですか」





胸中では待ち焦がれていたはずの――男からの誘い。



それを前にして、逆に機嫌を損ねるのには理由があった。



妙な竜司の反応から、花子は直感的に悟ったのだ。



男の目を引いたのは自分ではなく、

彼の中にいる誰か別の女性の影だということを。



自分はどう転んでもピエロでしかない。



そんな想いが、花子の胸をまたチクリと刺した。











「おっ、今日はあいてるぜ」





体育館内にある、体育用具倉庫。



竜司は花子を押し込むと中の照明をつける。



そして、わざと音を立て、もったいぶるように引き戸を閉めた。





「さぁ、これで今からここは俺たち2人の王国な?

 俺が王様で花子は奴隷、オーケイ?」



「・・馬鹿みたい」





用務員と女生徒という力関係を誇張するように、

文字通りの上から目線で見下ろす竜司に花子も不快感を露にする。



自分に向けられる冷たい視線は、不思議と竜司を身震いさせた。





「ふん、マジで好みだな。

 だが、花子たちは俺らに逆らってよかったのか?」



「・・わかりましたよ。

 どうかお赦しください、王様。

 ・・こんなんでいいですか?」



「フン・・オーケーだ!」





必要以上に恭しく、大げさに、わざとらしく。



まるで投げつけるかのように下げられた花子の頭をぐわしと掴み、

竜司は更に押し下げた。





「で? 奴隷というからには、何かご命令でも?」



「フン、そう急かすなよ。

 そうだな・・じゃあまず最初の命令だ」



「・・なんなりと」



「これから俺に絶対嘘をつくな、問いかけには黙秘もするな」



「・・? ・・はぁ、わかりました。

 ところで・・王様?」



「なんだ?」



「私、誰に似てるんです?」



「・・あぁ?」



「私が誰かに似てるから、

 さっきあんな風な反応だったんですよね?」



「黙秘だ。

 そんなことより、早くイジメさせろよ」



「はぁ・・

 まぁどうぞ、ご勝手に」





竜司は花子の目の前に人差し指を立ててみせる。



『それが何か?』とでも言いたげな花子の視線を絡ませると、

その先端を細い首元にそっと押し当て、伝い下ろしてゆく。



制服の襟、リボンをなぞった指先は軌道を変え、

ブラウスの生地を擦りながら花子の左胸の先端を捉える。





「花子は今・・ドキドキしてるか?」



「・・まあ、緊張はしていると思いますよ。

 何せ、これからレイプされるんですから」



「フン、正直でよろしい」





再び、指が降りてゆく。



バストの下弦、控えめな腰の括れをなぞり、

スカートの生地を超えてふとももに触れたところで再び止まる。





「花子、今日のパンティーは何色だ?」



「・・白。 縁は薄紫色です」



「本当だな?」



「・・はい?

 たしか、嘘をつくなとのご命令でしたよね?」



「んじゃ、脱いでみろ」





竜司の命令に従い、

スカートの下に手を入れるとパンツを下ろしてゆく花子。



密室に男と2人きりという不安極まりない状況が、

下着を剥いだ直後のスースー感を一層強める。





「・・どうぞ」



「よし、確認させてもらうぞ」





パンツを必要以上に近づけてじっくりと観察する竜司から、

花子はそっと目を逸らす。



これから自分を犯そうとしている男が、その実、

自分など見ていないという屈辱から意固地にはなっていても、

構えてしまう心と体はどうしようもなかった。





(私のパンツ見て、勃起してる・・)



(あれが、私の中に挿入るのよね・・)



(中出し・・されちゃうんだろうな・・)





花子は無意識にコクリと息を飲む。





(中出しは・・やっぱり、妊娠のリスクが怖い)



(けど、どうせ出されるなら、この男本人も驚くくらい一杯出されたい)



(これだけリスクを背負わされておいて、相手には何の印象も残らない)



(それだけは――嫌だから)





これまで胸の内に抱え続けていたコンプレックス。



それがこんな状況下で沸々と沸き立つのを花子は感じていた。





(私はたしかに、地味なタイプだと思う)



(足立さんや中川さんの方が私より目を引くわよ)



(だから、男の人たちは私に見向きもしなかった・・)



(今、この人だって、私を見ているわけじゃない・・)



(惨めすぎるわよ、こんな悔しいことって――ないもの)





「・・おい、恭子」



「はい?」



「見てみろよ、白と薄紫だけじゃねえぞ。

 ほ〜ら、ここに黄色い染みが・・」





突然の竜司の呼びかけ。



だが、花子は咄嗟に返事をしたあとで、

その名前が自分のものでないことに気付く。





「――恭子、って言うんですか?

 その、私に似てる人って・・」



「・・っ」



「また、黙秘ですか?」



「チッ・・

 い・・妹だよ、歳の離れた。

 それによく考えたら、もう大学出てる歳だったしな」



「やっぱり。

 そんなことだろうと思っていましたよ」





明らかに自分の失言ということもあり、

竜司はバツが悪そうな顔をする。





「けど、そのわりに辛く当たりますよね?

 妹さんと仲が悪かったんですか?

 それとも、私が妹さんに似ていることが赦せない・・とか?」



「後者は違ぇよ・・前者が半分正解だ。

 恭子は・・俺のことが嫌いだったからな」



「なるほど・・

 一方的な、しかも赦されざる愛だった・・と」



「あれが愛だったかどうかはわからねぇよ。

 単に俺のものにしたくてたまらなかっただけだ」



「・・それも一種の愛なんじゃ?」



「そうかァ?

 何もわからなくなるまで犯して、孕ませて・・

 こいつは俺の女だぞと見せびらかして歩きたかったんだぜ?」



「最っ低。 ・・嫌われて当然ですね」



「フン、花子のそういう反応・・あいつにそっくりだ。

 『お兄ちゃん最低』って、よく言われたよ。

 花子も、やっぱり俺のこと嫌いか?」



「――嫌い」





すっと目を閉じて、

花子は心底呆れ返るようにそう言い捨てる。



と思いきや、一転、

相手を揺するような意地の悪い笑みを浮かべていた。





「・・って、言って欲しいんですよね?

 私、貴方のこと、わかってきました」



「はっ・・、・・花子、てめぇ・・」





ここに来て、初めて心理的な上下関係が崩れる。



自分に瓜二つで、竜司の最愛の妹だったという恭子。



花子はそんな恭子に共感を覚えるからこそ、

竜司のことも理解できるのだ。





「実は私、ただでさえボロボロになっていたプライドを

 今日、貴方に更に傷つけられてすごく不機嫌なんです」



「傷つけた・・?

 そういや、あった直後から不機嫌だったよな。

 わかんねぇぞ、何でだよ?」



「そんなこと、教える必要はないと思いますけど?

 ・・と、思ったのですが、黙秘できないんでしたっけ」



「そうだな、問いかけには正直に答えろ」



「・・私、今日まで男の人に一度も声かけられたことないんです。

 最初は皆と同じく怖がっていました。

 でも、次第に周囲の友達もレイプされ、聖水を使い始めて・・」



「なるほど、花子1人が取り残されたってワケか。

 ハハッ・・んで、売れ残りが不満だったと」



「そうです。

 そして、今の一言で更に機嫌が悪くなりました」



「ハッ、正直でよろしい」



「だから私、こう思うことにしました」



「あん?」



「――貴方のこと、大好きです」



「・・なに!?」



「あ、『お兄ちゃん』って呼んでも、いいですよね?」





竜司の――本当の望み。



それが先ほど彼自身が言っていたものでないことが、

花子にはわかっていた。



竜司は妹の恭子を支配・独占したかったのではない。



下卑た欲望をぶつけることで恭子に気持ち悪がられ、

――蔑まれたかったのだ。



だから、あえてその裏をつく。



それがささやかで意地の悪い花子の反撃だった。





「ほら、お兄ちゃん、どうしたんですか?

 花子とエッチなコト、したいんですよね」



「こ、こいつ・・」



「花子も、大好きなお兄ちゃんに可愛がって欲しいです。

 そのパンツはあげますから、今は花子だけを見てください」





だが、一方でそれが反撃であることに変わりはない。



言葉自体は兄にベタ惚れの妹像を演出するものであっても、

その声色の所々に、そして何よりもその眼差しには、

小悪魔的・攻撃的な色が滲み出ている。



蛇の生殺しと言えなくもないものの、

それはそれで竜司の興奮を掻き立てるのだ。





「じゃ、じゃあ、花子・・

 おっぱいだ、おっぱいを出せ」



「・・はい、お兄ちゃん」





ブラウスの前をはだけさせ、ブラジャーをたくし上げ、

花子がおずおずと差し出す柔らかな乳房。



その先端に竜司がむしゃぶりついてゆく。





「あっ・・お兄、ちゃ・・っ」





乳房を絞るように揉みしだかれながら、

音を立てて乳首を吸い上げられる。



悲しい1人遊びでは決して味わうのことのできない未知の快楽に、

花子は声を震わせた。





「ハァ・・花子ォ、おっぱいミルクは出ないのかよ?」



「で・・出ないですよ。

 花子、まだ赤ちゃん産んでないですから」



「ハハッ・・なら、まずはお兄ちゃんのおちんぽミルクを

 花子のエロマンコにゴクゴク飲ませてやらないとダメかァ?」



「いいですよ。

 お兄ちゃんの精子と花子の卵子をチュッチュさせるんですよね?

 花子、お兄ちゃんのためなら頑張っちゃいます」



「マジでいいのかよ?

 花子が妊娠したら一緒にあちこち挨拶に連れ回すぞ?

 俺の仲間はもちろん、花子の友達連中なんかにもな」



「大好きなお兄ちゃんとの妊娠お披露目デートなんて・・

 ふふっ、花子も愉しみです」



「・・ぐぬぬ」





なんとか花子の蔑みを引き出したい竜司と、

そんな竜司の思惑を弄ばんとムキになる花子。



しかし、お互いに引けない滑稽な意地の張り合いは、

絡み絡まり次第に収束しつつあった。





《ジュ、ジュルッ・・ジュロォォッ》



「あ・・んっ・・ん、んふっ」





布団代わりに敷かれたマットの上。



ミニスカートの中で蠢く竜司の舌先の生々しい感触に、

花子は硬直と弛緩を繰り返していた。





「さぁ・・そろそろ本番だぞ、花子ォ。

 お兄ちゃんのちんぽでガンガンイカせてやるからな」



「ふぅ・・ふぅ・・

 ・・じゃあ、花子が可愛くイケたら、

 ご褒美のキス、くださいね? ・・お兄ちゃん」





竜司がズボンを脱ぐ音を聞きながら、

花子はボーっと天井の照明を見上げていた。





(ああもう・・我ながらメチャクチャ言ってる・・)



(すっかり引くに引けなくなっちゃったわよ・・)



(けど、今は不思議とワクワクしてる・・)



(自分の体なのに、今まで一度も使ったことのない機能を使うこと)





意地になり、自ら最も危険な行為を誘う花子。



しかし、聖水など使っていないにもかかわらず、

その胸中に不安や恐怖はない。



竜司に言われるまま、足をM字に開いてゆく。





「よし・・いくぞ、花子」



「あ、お兄ちゃん・・ゆっくり・・」



「・・オォラッ!」



《ヌプププププププ・・ッッ!!》



「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!」



「ッフウゥ〜・・♪

 おっと、悪いな。 一気に全部ブチ込んじまった」



「・・ぁ・・あ・・ぁぁ・・ッ」





たまらず強く閉じこんだ花子の目に涙が滲む。



口をパクパクさせながら、小刻みに声にならない声を漏らす。





「ひ・・ひ・・ひ、ひどいです、お兄ちゃん」



「んじゃ、俺のこと嫌いになっちまったか?」



「いっ、いいえ・・大好きです。

 大 好 き で す」



「チッ・・」





竜司は一番奥まで挿入したペニスを一度先端まで引き抜くと、

再び、一気に打ち下ろす。





「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!」





それは2度、3度と繰り返された。



その度に内股に鮮烈な痺れが走り、目をチカチカさせる花子。



それは無意識に体が構えてしまう危うい感覚だが、

繰り返される内に体が覚え、受け止められるようになってゆく。



受け止められるようになると、

今度はその危うさがクセになってゆく。





《ぱん!ぱん! ぱん!ぱん! ぱん!ぱん!》



「あっ、あん! あっ、あん! あっ、あん!」





やがて、柔穴を貫くピストンが軽やかなリズムを刻む頃には、

花子も自然と甘い声を乗せていた。





「すっかり慣れやがったな、花子ォ」



「ふふ・・っ

 大好きなお兄ちゃんの射精でイクためには、

 あまり時間もかけていられませんからっ」



「で、ちゃんと、イケそうなのか?」



「中出しされる感覚がわかりませんから、なんともいえません。

 けど・・多分、大丈夫だと思いますっ」



「よっしゃ! なら、出しちまうぜぇ!

 こっちも、わりと限界ギリギリなんだよ・・」



「・・っ」





本能的に竜司の首元に抱きつく花子。



そのままギュッと身を寄せ、自分の全てを竜司に委ねる。



出会ったばかりの、しかも名前すら知らない男に、

こんなにも強く焦がれる自分が花子には不思議でならなかった。





「おにぃ・・お兄ちゃん・・っ」





以前の花子は決して性への興味が強い方ではなかった。



充実した学生時代を送って、いい企業へ就職して、

そのうち同僚の誰かといい関係になって、付き合い始めて、

その人に求められたなら、その時に考えればいい。



せいぜいその程度の関心しかなかったはずなのだ。





「ハハッ・・

 花子は兄の俺に似て甘えん坊さんだな」



「だ・・だって・・」



「まあいいさ。

 花子だって妹なんだから、好きなだけ甘えろ」



「はぁっ・・大好きです、お兄ちゃんっ」





繋がったままの花子をマットの上から抱え起こすと、

大きく上下に揺らしながら突き上げる。



重力と慣性を加えた荒々しいピストンに、

膣壁がゴッシュゴッシュと擦り上げられるたび、

花子の内に不思議と『離れたくない』という感情が沸き起こる。



激しく突くほど一層健気にしがみついてくる花子に対し、

竜司もこれでもかとばかりに一層ヒートアップ。



ゆっくりと近づいていた2人の限界が、

ここに来て一気に手繰り寄せられてゆく。





《ッぱん!ッぱん!ッぱん!ッぱん!

  ッぱん!ッぱん!ッぱん!ッぱん!》



「ハァッ・・ハァッ・・

 は・・花子・・だッ、出すぞ・・ッ!!」



「・・はっ・・はいっ」





力任せに揺さぶられる遅く大きなストロークから、

奥底だけを責め立てる早く小さなストロークへの変化に、

花子の肉体もまた膣内射精の気配を感じ取る。



迎え入れた男根を、そこから注がれる精液を逃すまいと、

膣壁をキュゥゥッと収縮させるのは健気に竜司を求める本能。



ならば、そこに牡の本懐を遂げたいと思うのも、

また竜司の本能だった。





「花子・・ッ

 ・・ッアアアァァァ・・ッ!!」



《ドチューーーーーッ!!

 ビュビュッ! ビュククッ! ビュッ――!》



「あっ、あっ・・お兄ちゃ・・っ

 ふあぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」





深く繋がる奥底に生命の神秘を感じながら、

ギュッと抱き合い身を震わせていた竜司と花子も、

やがてマットへと倒れこんでゆく。



しばらくは荒い吐息だけが2人の会話だった。





「・・ねぇ、お兄ちゃん・・?」



「ん〜〜? なんだぁ、花子?」



「まだ、花子に『嫌い』って、言って欲しいですか?」



「・・いや、いいさ。

 同じ妹でも、お前は恭子じゃねぇ、花子なんだからよ」



「・・っ。

 そう、ですか」



「花子こそ機嫌悪いのは直ったのか?」



「えっ? 機嫌悪いって何の話ですか?

 花子はお兄ちゃんにラブラブですよ♪」



「・・お前なぁ・・」





竜司と花子はどちらからともなく手を絡めると、

いつまでも見つめ合うのだった――


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