〜Sweat spot〜(1)



いつからだろう。
この街が魔都と呼ばれるようになったのは――

多発する怪事件。
妖しげな儀式の跡。
突然豹変する人たち。
街角に潜む人ならざるものの気配。

それは影から歴史を動かしてきた巨大秘密組織の仕業であるとも、密かに地球侵略を開始した宇宙人の仕業であるとも、古代より蘇った悪魔や邪神の類の仕業であるとも噂される。
また、政府はその情報を掴んでいるが、何らかの理由により公表できないのだという話も聞く。
だが、結局のところ、真相は一切知られていないのが現状だ。
いつでもどこかで何かが起こっているという日常。
やがて、人々がそれに慣れていく中で社会は秩序を失い、いつしかこの街は完全な混沌の世界と化していた――


         ▽         ▽         ▽

バス停。
この暗くじめついた魔都のあちこちに無数に散りばめられたポイント。
毎日、そこを伝い走るバスの群れは、さながら張り巡らされた巨大な巣の上を蠢く蜘蛛たちのようにも見える。

どこか色に乏しいといった印象を受ける冬の魔都が、ほんのわずかの間だけ艶やかにその身を染める夕暮れ時。
無駄に広く、人口密度の薄い工場地帯に2つしかないバス停の1つ『西煙町(にしけむりまち)』に、そのコート姿の男は近づいていた。

本作の主人公となる彼、太山大吾(たやまだいご)のプロフィールにはとかく長所がない。
魔都の住民である彼は35歳で無職。
性格は根暗で内気。
外見は若ハゲ気味で肥満気味。
学歴は低く、運動神経もなく、特技・資格は一切ナシ。
そして趣味はもっぱらアダルトサイト周りと――

「――ッ!?」
ただ1人、バス停でバスを待っていた20代前半の女性が小さく息を呑み、身をすくませるのに1〜2テンポほど遅れ、大吾は駆け出していた。
運動神経というものを一切感じさせないその走り方。
今にも転びそうになりながら必死に逃げていく男の後ろ姿を、バス停の女性は自らの尻を押さえつつ、困惑とも怒りとも呆れとも取れる顔でしばし睨みつけるのだった。

「・・ハ・・・・ハァッ・・・ハァ・・ッ」
先ほどのバス停から500mほど。
角を4つほど曲がった先で体をくの字に折り、大吾は荒い吐息を整えていた。
「・・・ハァ・・・・・ハァ・・・・・・フゥ・・」
やがて呼吸も落ち着いてくると、その口元に浮かんでくるのは卑しい笑み。
軽い震えを帯びた右手を覗き込めば、そこにはまだ性的な興奮を呼び覚ます感触が残る。
左手は無意識に自らの股間へと伸び、ズボン越しにイチモツを揉み回していた。

長所のない男、太山大吾。
最近、彼のプロフィールには『趣味:痴漢』という欠点がまた1つ書き加えられ、そのクォリティの低さに磨きをかけていた。

(彼女、わりと細身に見えたのに、ヒップは結構ボリュームあったなァ〜。『安産型』ってやつかナ・・フフフ♪)
人気のない工場地帯の一角で、1人何かを噛み締めるように笑う大吾。
その姿はもう『怪しい人物』以外の何者でもない。

(彼女にチンコぶちこんだらどんな味がするんだろう・・)
大吾にとって、痴漢行為は触る行為自体が無論醍醐味であるのだが、事後に行為を頭の中で反芻し、吟味するのもまたたまらない愉悦だった。
実際、ほとんどの場合は行為の対象となる女性側がすぐに反応し、何らかの拒絶行為を取るので、小心者の大吾はすぐに逃げ出す。
だから、触っている時間はほんの1〜2秒なのだが、あとからその記憶を呼び覚まし引き伸ばすことによって、その陰湿な悦びをしゃぶりつくすことができるのだ。

(・・・気ッ持ちイイんだろうなァ〜・・・)
妄想という毒が回り、ただでさえだらしない大吾の顔が更に緩む。
頭の中では、既に彼は彼女を犯し始めていた。
『いやっ』
『やめてくださいっ』
言葉ではそういいつつも、それ以外大した抵抗もなく、女性は大吾の思うままに組み敷かれる。
『あン・・あっ・・・・ダメぇ・・・・誰か、来ちゃう・・』
そして、性経験は風俗の女性に筆おろししてもらった時だけという大吾の稚拙なテクニックで、すぐに感じ始め、そして――

『ねぇ・・・続きは・・・ホテルで、して?』
(・・・・・・・・・・。んな感じに・・なるわけないよなァ・・)

魔都は国内でもずば抜けて犯罪――とりわけ性犯罪が多発する地域だ。
毎日のように至る所で男と女のネトついた欲望が交錯し、その幾つかは重大なトラブルを巻き起こしている。
そんなニュースは、天気予報のように毎日決まってメディアに流され、相当奇抜なケース以外は社会的反応もほとんどないといった有様。
魔都の住民たちにとって、既に性犯罪は『身近な存在』なのだ。

現に、大吾の周りでも何件かそういう事件は起きていた。
中学時代にはクラスメートの妊娠が発覚したり、高校時代にも下級生の女子がOBたちによる陰惨な集団レイプに遭い引っ越していってしまったりと、そんなネタは尽きない。

(・・ま、痴漢も立派な犯罪だけど・・・・でも、女の子が一生傷つくようなことだけはしちゃだめだよな・・・・)
根が優しいのか、はたまた小心者なだけなのか。
大吾は痴漢はするが、それ以上の凶悪犯罪に走ろうという思考は出てこない。
ダメ人間であることに変わりはないが、この魔都において、そこだけはある種救いの部分だった。

(・・さぁて。じゃ、そろそろ次のスウィートスポットに行こうかナ♪)
大吾は『今日は”しよう”』と決めて痴漢をするタイプだ。
『しよう』と決めた日は電車で遠出し、本人が『スウィートスポット』と呼ぶ人気のない通りを、ほぼ丸1日使って周り、何度も痴漢を繰り返す。
今日もこの付近で、あと17ヶ所周る予定になっていた。

(・・・う〜ん・・・)
日は既に落ち、辺りはとっぷりと暗くなっている。
工場排水を流すドブ川の上にかかる橋を歩きながら、大吾は多少神妙な面持ちになっていた。
先ほど『西煙町』で痴漢を楽しんでから既に6ヶ所を周っていたが、どこも誰もいなかったり、男がいたりと『外れ』が続いていたのだ。
(・・次に期待・・だなあ・・)
まるで仕掛けた罠を周る猟のようなこの行為は、大体の場合『ダメ元』だ。
運よくスウィートスポットに、無事に触り・逃げられそうな顔ぶれがいることは稀なのだ。
だが、そんな中でも幾つか『確率の高い』場所があり、次に向かう場所はまさにそれだった。
工場地帯から普通の街並みへと繋がる中間点付近にあるバス停で、いい感じに人気がなく、また近くに女子大のキャンバスがあるので、『獲物』にありつける可能性は他に比べて極めて高いのだ。

(・・・・・・)
期待のスウィートスポット付近まできて、大吾は一瞬ニタリ顔になるも、すぐに小さく顔をしかめる。
期待は悪い意味で大幅に裏切られていた。
そこには、『うってつけ』の1人でバスを待つ女子大生らしい女性の姿があるにはあったのだ。
しかし――

『注意!近頃、ここで痴漢事件が多発しています 苦島(くしま)警察署』

すぐ横の壁に、そう書かれた大きな札が立てかけられていたのだ。
全て大吾の仕業によるものなのか、他にも女子大生目当ての同業者がここを利用しているのか。
大吾が3週間前にここに来た時にはなかった看板が、そこにどっしりと構えているのだ。

「・・・・・・」
大吾には『警察署』という言葉が何よりも恐ろしげに見える。
結局、何食わぬ顔でそこを通り過ぎるしかなかった。



         □         □         □



時間は既に夜9時半を回り、辺りは不気味なまでに静まり返っている。
煙町工場地帯と、そこに続く街を見下ろし、振り向けば鬱蒼とした雑木林。
人どころか車すらまばらな、ちょっとした山間の道路。
その脇にある歩道を大吾は1人歩いていた。

「・・・・・・」
家の遠いはずの大吾がこの寒さの中、こんな時間にこんな場所にいる。
それには理由らしい理由はなかったが、全くないわけでもなかった。

今日は西煙町バス停以外、1ヶ所として『当たり』はなかった。
心中では『1日歩けば、最低でもあと2〜3ヶ所くらいは・・』などと、経験を元にした期待をしていただけに、この結果を認めてしまうのが嫌だったのだ。
それに、今日一番の期待をかけていた場所には警察の看板。
このまま引き下がるのも悔しいと思った大吾は、なんとか新しいスウィートスポットを開拓しようと無駄な悪あがきしているのだ。

(・・ないなあ・・)
大吾は以前、煙街からバスの走ってゆくこの道を見上げたことがあった。
だから、確率は薄くとも、もしかしたらスウィートスポットとなりうるバス停がないかと探しているのだ。
この山道に入る辺りには民家もあったし、バス停もあった。
だが、登り始めてからは雑木林ばかりで、まだ1つもバス停を見かけていない。
それどころか、車とすらすれ違っていなかった。
『まだないかな』
『そろそろあるんじゃないか』
『いい加減、もうあるだろう』
ギャンブラーがギャンブルにのめりこんでいくようなパターンの思考を繰り返し、大吾は相当な距離を歩いてきたつもりだった。
だが、一向にバス停は見当たらない。

この完全な一本道でバス停を見落とすことなどありえないこと。
『あの時見たバスは、通常の都営バスではなく、貸し切りバスだったのではないか』
大吾がそう危惧し始めた頃だった。

「・・・あ」
大吾は思わず小さく声を漏らしていた。
探し求めていたものが、ついに視界に姿を現したのだ。
そして、それだけではなかった。
実のところ、ここまで人気がなさすぎる場所に、大吾は既にスウィートスポットなど期待はしていなかった。
『ここまで来て引き下がれるか』と、たとえ利用客が1日1人いるかどうかの無人バス停であっても、『もうバス停さえ見つかればそれでいい』と意地になっていたのだ。
しかし、少なくとも今現在に限定するならば、そこは間違いなくスウィートスポットであるといえた。
時折か弱い点滅を繰り返す薄暗い街灯の下、そのバス停に1人の少女が立っているのが見えたのだ。

年の頃は小・中学生くらいだろうか。
白かベージュのコートを羽織り、下は暖かそうな厚手のタータンチェックのズボン、背中には平べったい紺色の鞄をリュックのように背負っている。
頭は天然パーマのボブカットで、体つきも年相応で可愛らしく、少なくとも遠目には相当可愛く見えた。

(・・・・・・)
大吾の心臓が早鐘を打ち始める。
長いことお預けを食らい続け、半ばあきらめていたところにこれだ。
相手は『恥の概念が薄く、すぐ声を出されるんじゃないか』と、いつもは敬遠していた高校生未満。
だが、今の大吾は『ここまで歩いた苦労の代償には、しっかりとありつこう』と、だいぶ歯止めが利きづらい状態になっていた。
ドクンドクンと勢いよく体内を掛けめぐる血流に突き動かされているかのごとく、大吾の足は止まることなく少女へと近づいていく。

(・・・ゴクン)
思わず息を呑む。
今、大吾のすぐ前にあの少女の姿があるのだ。
近づいた際に一度目の合った彼女の顔は、大きな丸い目が愛らしい、予想通りの美少女だった。
最上級の獲物を目の前に、大吾の手は震えに震えた。

(・・・警戒は、思ったよりされてないな・・・)
大吾は落ち着ききらない頭で、自分のこれからの動きをシミュレートしてゆく。
『このヒップに触るには多少コートをめくらないといけないな・・』
『触る手の方の肩は、多少落とし気味にしないと届かないか・・』
『こういう場合、いつもはタッチ&ゴーだが、今日はこのコが完全に抵抗し始めてからでも逃げるのは遅くない・・せっかくの可愛いヒップだ、ギュッといかせてもらおう』
『どうせこれだけ人気がないんだ、逃げたらすぐに雑木林に入って1発ヌくかな・・』
ひとつひとつ頭の中で反芻してゆく。
ゆっくりとゆっくりと狙いを定めてゆく。
大吾のそんな姿は、物陰から獲物を狙う肉食獣さながらだ。

(よォし・・っ)
『準備万端』
今の大吾はそれ以外の何者でもない表情だ。
また1つ息を飲み込んで思い切りをつけると、ついに大吾は魔の右手を伸ばす。

――ぽふっ
「・・・ン、ハァァァ・・・」
鷲掴みにした少女の尻は、予想を上回る華奢さと柔らかな手ごたえで、大吾に極めて上質の至福を与える。
無意識についた深いため息は、男の喘ぎ声そのものだ。
完全に無人の夜のバス停で、年端も行かぬ見ず知らずの少女の尻の感触を堪能する。
そんな背徳が酸素と一緒に肺に流れ込み、大吾の呼吸に醜悪な男臭さを乗せてゆく。

「・・ハァ・・・・ハァ・・・・」
自由に揉み回す愛らしい尻に、ふつふつと湧き上がってくる情欲。
グロテスクな虫の様に這い回る指先が、ズボン越しに少女のつぼみを探し始める。
大吾の理性の錠前が1つ、また1つと外れてゆく。
それは大吾にとって、紛れもなく今までで最高の痴漢体験だ。
だが、調子に乗って揉み回すにつれ『ある不安』が浮上してくる。
『当然来るだろう』と予想していた少女からの抵抗の素振りが――全くないのだ。

(なんなんだろう・・もしかして・・何か、俺の気づかないところで物凄いまずい方向に向かってたりしないだろうな・・??)
本来なら喜ぶべき状況だが、大吾の胸中、その不安だけは消えなかった。
しかし。
とはいえ、最高の獲物から手を離すこともできなかった。

「・・・んっ」
その小さな声は、予測していたタイミングからはるかに外れての少女の反応だった。
大吾は一瞬ビクリとするが、まだ手は離さない。
逃げ出すのは相手が明らかな抵抗を見せた瞬間だと決めていたからだ。
「ふ・・・ぁ・・」
大吾は自分の右腹部辺りに軽い重みがかかるのを感じていた。
視線を落とせば、そこに彼女の頭が預けられている。
またしても予想外の反応。
これは抵抗なのか、そうでないのか。
その行為が何を示しているのか、大吾はまだ理解しかねていた。
「・・・っ」
だが、そんな中『まさか』という思いが不意に大吾の脳裏をよぎる。
そして、それはゆっくりと顔を上げ、大吾を覗き込んでくる少女の目を見た時に、徐々に確信に近い形へとその姿を変えていった。

(こ・・このコ・・・)
今、大吾の中には大量の困惑と、それをじわじわと染め上げてゆく全く別の感情だけが存在していた。
大吾の手の動きに合わせて小さく形を変え続ける、その少女の眼差し。
そこには敵意など全くなく、まるで友達を見るかのような悪戯な笑みがあったのだ。

「(――やったなぁ、このエッチ☆)」

大吾は、今まさに自分の世界がひっくり返る瞬間を味わっていた。
少女の吐息に乗せて発した最初の言葉が、まさに核心そのものだったのだ。

「・・アハハ」
大吾は咄嗟の作り笑顔で無難な反応を返す。
『この右手をどうすべきか』
それが一番最優先の課題のように思えたが、なかなか答えが見つからず、未だぎこちない動きで少女の尻を這い回っていた。

その時――

「あ〜っ!?弥生がイイコトされてる〜〜☆」

「・・ッ!?!?!?!?!?!?」
突如、真後ろに現れる人の気配。
場の空気を吹き飛ばすような元気のいい声が大吾の鼓膜を突きぬけ、きっかり1秒心臓を止める。
二重の不意打ちをくらい、完全に麻痺した大吾の脳は何の命令も発することができなかった。
時が止まった大吾の世界の中、視界に映るものだけが変化している。

そんな中、かろうじて得た情報は『2人増えた』ということだけだった。


         ▽         ▽         ▽


「私、成美!こっちが早苗ね」
「あ・・あの、こんばんは」
「あ、ああ・・・どうも」

『たしか・・ちょっと前に、そんな挨拶を交わした――気がする』

そう回想する大吾は、年端も行かない3人の少女に挟まれるように、バス停のベンチに座らされ、口は勝手に何かをしゃべっているようだった。
現在、思考能力の半分近くは停止しているものの、いくらかは落ち着いてきている。
大吾はぎこちなく顔を左右にやり、改めて3人の少女を見回した。

左側には、先ほど元気よく声をかけてきた少女――倉田成美(くらたなるみ)。
その奥に、大人しく理性的に見える眼鏡の少女――浦辺早苗(うらべさなえ)。
そして右側には、最初に大吾が痴漢を働いていた少女――菱沼弥生(ひしぬまやよい)。

いつの間にか進められていた会話の中から、大吾はなんとか3人の名前を拾い出し、確認する。
要点を得ずにしゃべる成美の横から、早苗が補足を入れるように教えてくれた情報だった。

3人は同じ学校に通う小学6年生。
また塾も一緒で、今はその帰りだと話していた。

「・・・なるほど」
それが1分だったのか、10分だったのか、それ以上かかっていたのか、それはわからない。
だが、大体の情報整理が追いついてきた頃、大吾はやっと理解することに成功していた。

――今、自分が極めて非日常的なシチュエーションの中にいることを。

「おじさんは名前なんてゆ〜の?」
「・・・・ああ、太山大吾だよ」
「ダイゴ?本当におじさんぽい名前だね〜」
「ちょっと、成美ちゃん?年上の人にそういう口の聞き方はダメだと思うよ」
「そうだよ・・恥っずかし〜なぁ〜」
「何が恥ずかしいわけ〜?別にいいじゃん」
「よくないです」
「てゆうか、大体成美ちゃんはさ・・」
一度回り始めると止まらない少女たちのトーク。
また、ここまで年の離れた相手とは全く付き合いのなかった大吾だ。
『おじさん』呼ばわりされるのも初めてで、どう返すべきなのかもわからない。
大吾は困り笑いで何となく会話を繋げるしかなかった。

「と・こ・ろ・で・!」
常に会話の主導権を掌握しているのは成美だ。
そんな彼女が、今度は大きく身を乗り出して大吾を覗き込んでくる。
「・・な、なにかな?」
間近にある愛らしい顔、ツンツンしたボブカットの毛先が当たり、うっすらと漂う女性の体臭。
今までとは別のそわそわ感が大吾を取り巻いていた。

「さっきぃ〜、おじさん、弥生のお尻、すん〜ごいエッチに触ってた☆」
「・・・・んぐッ!?」
大した前触れもなく、成美の言葉の一突き。
大吾の心臓に穴が空く。
もし、今何か口に入っていれば、間違いなく噴いていたに違いない。

「おじさんくらいの年でも、やっぱり私たちにエッチな興味とかあるんですか?」
「そりゃそうだよ早苗ちゃん。ないと触らないって。ね、おじさん?」
「・・え?あ、うん・・・・・・あるかな・・」
「だって、さっきおじさん、おちんちん勃ってたもん☆」
「・・ぶっ」
「うっわ〜、ヘンタ〜イ☆」
無邪気に手玉にとられる感覚。
この空気、大吾にはこそばゆくて仕方がない。
だが、最高に心地よいこそばゆさではあった。

「あの・・・よければ、見てみたいです」
そんな風に切り出してきたのは早苗だった。
眼鏡の奥になにかを期待する眼差しで身を乗り出す。
大人しく下ろされたポニーテールがさらりと流れ落ちた。

「・・へ?」
「あ、弥生も見たいな」
「・・えっと・・・・『何』を・・・・・かな?」
「おちんちんに決まってんじゃん!」
「・・・・や、やっぱり?」
少しずつ少女たちの性格は掴んできた。
しかし、まだついていけてはいない。
それが今の大吾だった。

(・・ど、どうする???メチャメチャ恥ずかしいというか、それ以前の問題なような気もするけど・・・見せてみたい気もする・・)

「・・ダメですか?」
「い、いや・・そんなことないよ・・っ?」
それは不意を突かれて咄嗟に答えてしまった言葉。
だが、大吾はむしろそう答えられて胸を撫で下ろしていた。
「やったぁ☆」
ついに逆からも弥生が身を乗り出し、大吾には死角がなくなる。
大吾は何かをごまかすような視線を一度空に泳がせると、『じゃあ、ちょっとだけだよ』と自らのベルトに手をかけた――

「・・・うわぁ・・・」
そう漏らしたのは弥生だが、見せた表情は3人とも同じ。
驚きになかなか言葉が出てこないといった感じだった。

「・・・・・っ」
そんな中、一番落ち着けないのが大吾。
高校時代に『皮が剥けて』から、自分のイチモツを風呂場と病院以外で他人に見せるのは、これが2度目だった。
5年前に風俗嬢に見せた時ほど恥ずかしくはなかったが、今回は野外で子供相手ということもあり、また趣の異なる恥ずかしさが込み上げる。
肌に直接染み込んで来る冷たい風も、今は全く感じないくらいだ。
それにもう1つ。
今は性的興奮というより、こそばゆさが先に立ち、適度に肥大してはいるものの『勃っていない』のだ。
「・・ふっとぉ〜い!」
「勃ってないみたいですけど・・・でも、すごいです」
「うん・・」
「・・あ、あはは・・」
そして何より、3人がマジマジと食い入るように見つめているため――動くに動けない。

「・・ね〜ぇ」
黒ずんだグロテスクな玩具から、最初に目を離したのは弥生だった。
恥ずかしそうな大吾の顔を悪戯な視線で嘗め回すと、何かをいい出そうとするが、一度視線を逸らして唇を噛む。
「あ・・・なんだい、弥生ちゃん?」
「・・ん〜とぉ〜・・・」
そして次に大吾と目が合った弥生の顔は、うっすらと赤らんでいた。

「・・・・・弥生のおまんこ・・見たい?」

――ゾクリ!
神経を直接弾かれたかのよう。
大吾は思わず身震いする。
一瞬、一番顕著に反応した股間を隠すため、無意識に足をもじらせていた。

「え・・いいの?」
「・・うん、見せてあげるよ?」
恥ずかしそうな顔はしているが、どちらかというと見せたいのだろう。
弥生はしっかりとした返答を待つまでもなく立ち上がり、コート・ズボンと順に手をかけてゆく。
そして、中から現れた真っ白なパンツも、もったいぶることなく下ろしてしまった。

「・・ほおおぉぉぉぉ〜〜〜・・」
そんな感嘆の声。
先ほどの3人とちょうど同じ表情で大吾が見入っているのは――弥生のスウィートスポットだ。
まだまだ毛の生え揃わない『そこ』は男の目にはたまらなく愛らしく、またかすかに漂う未熟なフェロモンの香りが鼻腔を通り、脳を少しずつ麻痺させていく。

「ぅぅ・・・恥ずかし〜よぅ・・・」
たまらず股間を隠そうとする弥生の手を、大吾は自然に掴んでいた。
「・・・ぁぅ」
うれしはずかし。
顔を真っ赤にしてあたふたする弥生の上半身をよそに、大吾の顔はその下半身に吸い寄せられていく。

「・・ちょっと、いじるよ?」
「・・ぇ?」
今度は大吾の方が、弥生の答えを待たずに動き出す。
自らの理性の大半が死滅していることに、大吾自身気づいていなかった。
――ぴち・・
「・・きゃはんっ・・・・ん・・」
弥生の下半身に、再び魔の右手が伸びる。
既にじんわりと湿っており、直接触れる大吾の指先にキスをするかのように絡んでくる12歳の果実。
大吾はたまらなくなり、そこに本物のディープキスのお返しを浴びせる。
「・・・・っあ!」
弥生が高い声を上げて身をよじらせると、フェロモン臭の濃度がやや上がったかのようだった。


「う、うっわぁぁ〜!」
「はぁぁぁ・・」
そんな大吾の頭の後ろ。
静かだった成美と早苗が不意に声を上げた。
「勃つとそうなるんだよ」
理由がわかっている大吾は振り向きもせず、それだけいう。
野外で男根を放り出し、弥生の生性器にむしゃぶりつき、既に恥ずかしさという呪縛を解き放った今の大吾は、やっと年上としての威厳を取り戻していた。

「ねえ、おじさん!」
弥生弄りに一心不乱な大吾だったが、すぐ耳元の声にはさすがに驚く。
横に座っていたはずの成美が、すぐ前にしゃがみこんでいた。
「なんだい、成美ちゃん?」
「あたしのも舐めてよっ」
「お、もちろんいいよォ〜♪じゃあ、ズボンを・・・・って、待った!!」

大吾の防衛本能が突如警報を鳴らす。
背中に火がついたような慌てぶりで自分と弥生のパンツとズボンを上げると、転びそうになりながらベンチから距離を取る。
全ての原因は、はるか遠くから近づいてくるエンジン音だった。

――ブルルルル〜〜

後ろめたさからか、不自然に道路側に背を向けて立つ大吾。
その額に頬に、じわりと脂汗が浮かんでいる。
(・・あ・・あぶ・・・・なかっ・・・)
危機一髪。
ヘッドライトが大吾の視界に入り始めたのは、全ての行動を終えた直後だった。
だが――

――ルルルルル・・・!
(・・・・・・・・・)

いつまで経っても止まないエンジン音。
そしてそれは、大吾のすぐ後ろから聞こえてくる。
恐る恐る振り向いた先に、シルバーボディのセダンが止まっていた。

「あぁ〜・・遅れちゃってごめんなさいね。もう11時になっちゃったわ・・」
低い音を立てて開くドアのウインドゥから顔を出したのは、20代後半くらいに見える女性だった。
その口振りと、何よりその外見から、大吾は彼女が誰であるのかすぐに悟る。
「ん〜ん、別にい〜よ」
車の女性をそのまま小さくしたような少女――弥生がすぐに駆け寄っていく。

(やっぱり・・弥生ちゃんのお母さんか・・・)
大吾は動けなかった。
不安が胸にぽっかりと穴を空ける。
事と次第によっては、通報されることも多いに考えられた。
逃げるべきか、止まるべきか、それが問題だった。

「おじさんとおしゃべりしてて楽しかったし、ね〜?」
「うんうん!」
「え・・おじさん?」
「ほら、あそこのおじさんです」
時の流れは無情なもの。
大吾の判断を待ってなどくれず、否応なく決断を迫られる。

「どうも、娘たちがお世話になりましたそうで・・」
「・・・・あ・・ど、どうも・・」
「私、弥生の母です」
「・・あ、自分は太山といいます」
今、自分がどんな表情をしているかすらわからない大吾。
ともかく無難な言葉だけが口をついて出る。
このまま、相手が3人を乗せて走り去るのを待つ消極策に出たのだ。

「よければ、乗っていかれます?」
「・・え?あ・・いえ、悪いですし、ここでバスを待ちますよ」
『ともかく、ここは無難に断るのが正解だ』
弥生の母からの不意の誘いに対し、冷静に返したはずの大吾の言葉。
だが大吾は直後に致命的ミスを悟るのだった。

「バスって・・・ここの最終は8時前ですけど・・?」


         ▽         ▽         ▽


魔都の夜。
どこか色の乏しく見える世界は、更に一層色を失っていくようだ。
そんな、深く朧な夜闇を切り裂くようにセダンは軽やかに走る。

「皆、テストはどうだったの?」
「・・・・・ぅ」
「え?何のテストですか?」
「えっ?て・・今日、貴方たち模擬テストだったんでしょ?」
「おばちゃん、それ来週」
「あら・・だって弥生、貴方・・今日あるって・・」
「んん〜〜・・ま、間違えたのぉっ!」
「うっわ、弥生おっちょこちょいだ☆」
「な、成美ちゃんだってよく間違えるじゃんっっ!」

その車内には、外とは裏腹に賑やかな色に溢れた世界があった。
子供3人は後部座席に陣取り、きゃいきゃいと会話に花を咲かせている。
最初は弥生の母も混ざっていたが、すぐに『子供ペース』が展開され始めると、そこで彼女は一度言葉を収め、向ける先を変えた。 

「・・うるさくてすみません」
「ハハハ・・いえいえ、あの年代はやっぱりこのくらい元気じゃないと・・」
大吾はこの車内にいた。
あのあと結局、話の流れからこうなってしまったのだ。

「・・・・・・」
助手席に乗る大吾は、色々な意味で落ち着いていなかった。
勿論、後部座席の子供3人の口から先ほどのことがバラされないか、というのもあったが、それともう1つ――隣の座席に座る女性が気になって仕方ないのだ。
タートルネックのセーターにタイトスカートといった上下。
これといって変わった格好をしているわけでもないのに、大吾の目には香るような色気を帯びているように見える。
見事なまでに女の曲線を構成しているその肉体、服の上からでもその柔らかさが感じ取れる肌、薄化粧の横顔に、時折垣間見えるうなじもたまらない色っぽさがある。
『彼女のことをもっと知りたい』
弥生の母親は、大吾がそう思ってしまうのも無理ないほどの美女だった。

「あの・・」
「・・はい?」
「・・・・・・。小6のお子さんがいる母親には、とても見えないというか・・・・ずいぶんお若く見えるんですが・・」
「うふふ・・弥生は私が高3だった時に生まれた子供ですもの」
「・・へぇ・・」
(高3で出産・・か。彼女、若い頃は相当乱れてた・・ってことかな)
彼女に対し、大吾は色気以外にも、なにか独特の迫力のようなものを感じていたのだが、何となくその正体がわかった気がしていた。
そして、1人でなにやらうなづく大吾を横目に、彼女は『あ〜ぁ・・』と漏らす。
「・・でも、あと半年でとうとう30ですわ・・『30過ぎてから』な男性が羨ましいです」
「い、いやいや、そんなことはないですよ!大体俺なんか35ですし、それに・・えっとぉ〜・・」
「あ、私ですか?『朱美』ですわ。菱沼朱美(ひしぬまあけみ)」
「あ、どうも・・まあなんです。朱美さんはその・・まだまだとてもお若いですし、それ以上に綺麗な方だと・・・・思いますよ」
そういうと、大吾はなにやら恥ずかしさを覚え、少しだけ目を逸らす。
(・・・・・・)
逸らす前の一瞬。
大吾には朱美がちらりと視線をよこしたのが見えていた。
どこかとろけるような、男を誘うような色っぽい目つきだった。

「あ〜っ!おじさんが弥生のママ口説いてるぅぅ〜〜!」

「・・ぶっ」
この少女の一声は、毎度狙ったかのように大吾の度肝を抜く。
後部座席中央に座る成美が、大吾と朱美の間にひょっこりと顔を出していた。
そして彼女が絡めば、当然のように弥生と早苗もそれに続く。
「おじさん、ママみたいな人が好みなの〜?」
「それは・・弥生ちゃんのママは特に美人だから・・男の人だったら当然だよ」
「ちょ・・・・ちょっと、ちが・・・・・(わないけど・・)」
まるでダムが決壊し、一気に流れ込む濁流のごとく。
朱美ですら手を焼くこの3人娘の勢いは、大吾などにはとても抑えきれるものではない。
そして、彼女たちのもっとも厄介なのは――大人と違って、世間体など考えないところだ。

「ちっがわな〜い!だって、またおちんちん勃ってるじゃん!」

「ぇ・・うわわぁっ!?」
大吾自身気づいていないうちに、すっかり反応していた下半身。
ビクリと小さく飛び上がると、ワンテンポ遅れて足を組む。
だが、守りに入るには既に遅すぎたことを、大吾は思い知ることになる。

「おじさんのおちんちん、勃つとものすごいおっき〜から、すぐわかっちゃうね☆」
「さっき、弥生ちゃんのあそこを触ってた時なんか、今より大きかったくらいです」
「ほんとだよ〜、おばちゃん。『こ〜〜んっくらい』あった!」

(・・・・・・!!!!!!!!!!!)

『燃え上がった炎がそのまま凍りつく』
大吾の心境の変化を表すならば、まさにそんなところだ。
無邪気な子供たちの言葉に容赦なく核心をえぐられ、いきなり足場がなくなる。
呼吸は半分停止し、瞳孔が開いたかのような瞳は何も映していない。
場の空気などわからず、またドッと盛り上がっている3人の少女たちの声が、大吾にははるか遠くのものに聞こえていた。
そして朱美の反応は――未だ何もなかった。

――ガチャ

ギアを入れる音。
セダンを風のように走らせていたタイヤがゆっくりと動きを遅め――止まる。
そして、またギアの音。

(・・・・・・)
大吾の耳に、朱美の手によるその音だけが酷く鮮明に響く。
またそれは、自分の首がセットされたギロチン台の調整を行っている音のように聞こえていた。

「・・・太山さん?」
大吾が、早く来て欲しいとも、永遠に来ないで欲しいとも思っていた朱美の声。
その声。
ちょっと聞いた感じでは、冷たいそれでも怒っているそれでもなく、先ほどまでの調子とほとんど変わらない。
だが、大吾にはそれが逆に、いいようのない迫力であるように思えた。

「・・・はい」
「・・・・・・」
2〜3秒の間隔のあと。
体をピクリとも動かさずに、口だけを動かして何とか搾り出した大吾の返事。
朱美がそれに返したのは沈黙だった。

(・・・・・・・ゴクリ)
大吾は小さく息を呑む。
そして、ギアの辺りで止まっていた視線をゆっくりと上げてゆく。
目線があった瞬間に死刑宣告が降りるのはわかりきっていたが、それでも無言不動を貫くのはつらすぎたのだ。

そして、無情にも判決は大吾の予想通りのタイミングで降りる――

「・・太山さんのペニス、私も是非見たいですわ」
大吾はそんな短い言葉の意味を理解するのに丸々5秒は要していた。
年端も行かない愛娘に手を出した中年男を前にして、この発言。
今日の大吾は、ありえないくらいに予想を裏切られ続けている。

「・・・・・は?」
そして、言葉自体の意味は理解しても、そこに含まれる意味を理解するのには、更に多くの時間がかかった。
「・・・えっと・・」
「・・あ、やっぱりもっと若い子じゃないと、そういう気は起きませんか?」
大吾の視界には、残念そうな困り笑いを浮かべる朱美の顔。
「あ、いやっ・・全然いいですけど・・」
考えも全くまとまらないうちに、大吾は咄嗟にそう返していた。


         ▽         ▽         ▽


寒風吹きすさぶ真夜中の山道。
そこの知れない闇と、色のない街灯の明かりだけが支配する、そこはまるで魔の世界。
そんな中わずかに存在する『人の世界』が、この車内だった。

――カチャカチャ・・

大吾の2本の手先は、自らの突き出た腹部を這い回っていた。
酷くゆっくりとだが、ベルトを外しているのだ。

(・・・い、いいのかな・・・・・???)
脳から来た指令を理解しないまま従う自らの両手を見ていると、大吾は不安になってくる。
一度手を止め、恐る恐るといった感じで再び朱美を見やる。
だが、困惑に引きつる大吾の顔を見ても、朱美は不思議そうに顔をかしげるだけだ。

「あの・・・えっと・・・・・その・・」
「・・はい?」
「そ、そうストレートに見ていられると・・その・・」
朱美の真意がわからず、大吾の口は咄嗟に本意とは別のことをしゃべっていた。
だが、朱美はそれにも予想外の返事を返してくる。

「えっと・・・・・まさか、とは思いますけど、お恥ずかしがってたり・・・・なんか、していませんよね?」
「・・・ぇ?」
「太山さんは、もう35歳でいらっしゃるんでしょう?なら『勿論』、女性経験も相当おありになるんでしょうし・・」
「いやっ・・・あの・・っ」
『勿論』という言葉が、大吾にさらりと、しかし重くのしかかる。
とりあえず、朱美がどういう目で自分を見ているのか、大吾は少しだけ理解できたようだった。
とはいえ――
『女性経験は5年前に風俗で1回だけ』
これが太山大吾の真実なのだ。

「え・・・・えっと、まさか・・そのお年で女性経験がほとんどない・・・とか・・・」
「い、いやいや・・・そんな、まっさか・・」
だが、朱美が年上ならともかく、一児の母とはいえ、6つも年下の女性。
大吾にも男のプライドというものがあった。
たとえ真っ赤な大嘘をついてでも、絶対に引き下がることなどできなかった。

「こ・・こう見えても、若い頃は、だいぶならしたものですし・・・勿論、恥ずかしいなんて、そんなことは・・」
「ですよねぇ・・・これは失礼なことをいってしまいました」
「アハハ・・・いえいえ、お気になさらず・・」

――カチャカチャ

そして、大吾はまた腹部の手を動かし始める。
運転席の朱美はもちろん、後部座席からも3つの視線が『そこ』に注がれているのはわかっていた。
だが、自らの発言で『完全に』逃走経路を遮断してしまった以上、もうこうするしかないのだ。

(ぅ・・・)
ベルトを外し、ズボンを下ろしたところで大吾の手が止まる。
トランクスの下にある『モノ』が、先ほど、子供たちに見せた時と同じ、いやそれ以上にまずい状態なのだ。
勃っていないどころか、朱美のプレッシャーからか完全に収縮してしまっている。
いや、それだけならまだいい。
更に大吾は仮性包茎なのだ。
最悪なことに、今はモロに皮を被った状態だった。

(・・やっ・・ばい・・・・・・・・・・)
知識のない子供たちに見せるならまだしも、期待している大人の女性にこれを見せるのは、男として屈辱以外の何者でもない。
大吾としては、これはなんとしても回避しなくてはならない事態だった。
ほとんど猶予のないタイムリミットを目前に、大吾は必死に『勃てる』方法を模索する。

(・・・・・・)
わりとすぐに幾つかの方法が頭に浮かんだ。
だが、その方法の成功率やデメリットなどについて充分に考える暇は間違いなくない。
どんな結果をもたらすかわからずとも、案の1つをそのまま使うしかなかった。

「あの・・朱美さん」
「・・はい?」
「ちょっと、突然のことなんで、今その・・『勃ってない』んですよ・・」
そこで一呼吸。
間違えて『被ってるんですよ』と漏らさなかったかどうか、一瞬で頭の中で反芻する。

「だから・・なんか、朱美さんにエロいことでもしてもらって、トランクスから出す前に勃たせて欲しいな・・なんて」
これが大吾の勃起作戦だった。
上手くいくかという模索は全くしていない。
だが、朱美は見知らぬ男に子供に手を出されても自然に流し、更にその子供たちの前で平然とこんな要求をしてくる女なのだ。
その作戦はすんなり通っていた。

「・・・っ」
ギアに触れない辺りに左手をつくと、朱美はすっと身を乗り出す。
大吾のすぐ真横。
小さな吐息すらはっきりと伝わるほど近くにある朱美の顔は、ほんのりと桜色に染まり、潤むような眼差しでしばし大吾を見つめる。
大吾はそれだけで自分の血流が早くなっていくのを感じていた。
そして、朱美の頭は更に距離を縮め始める――

――ナカニ、ダシテ・・

後ろの3人には、朱美が大吾の耳に口づけたようにしか見えなかった、その行為。
しかし、それは口づけではなく呪文。
大吾は他人の目からもはっきりとわかるほど反応し、その下半身を見れば、朱美の目的は見事に果たされていたのだ。

「あっ!」
「・・勃ってます」
「おばちゃん、すっごい・・・なにしたの?魔法??」
朱美のかすかな囁き。
それは、たしかに大人の魔法に他ならなかった。

「くふっ・・こんなもので、いかがでしょうか・・?」
「はは・・・・・完璧、です」
そんな朱美の言葉に含まれた、透明な要求。
それに促されるままに取り出した大吾の分身は、本人すら驚くほどの膨張具合を見せていた。
すぐに子供たちの歓声が上がるが、大吾にはその声はほとんど耳に入っていなかった。

「・・・素敵・・・」
聞こえたのは、子供たちよりはるかに小さいはずのそんな声。
声をたどればそこに、うっとりとした表情を見せる朱美の姿があった。
「あの・・太山さん・・」
「・・は、はい?」

「・・・もう1つ、見せて下さいね・・」

『何をですか?』と返そうとして、大吾は思わず言葉を飲み込んでいた。
ひんやりとした何かの冷たさが言葉を奪ったのだ。
『刃物を押し当てられている』
その一瞬、大吾が感じたのはそんな認識だった。
そして、その刃物が容赦なく肉に食い込んでいく――内臓が異物にかき混ぜられるような感覚。
無意識に腹筋が激しい収縮を起こし、呻き声が漏れる。
「・・っぐ、うぅぅぅぅ・・・ッ!!」

――――――。

しかし、何故かいつまで経っても痛みはやってこない。
今も大吾が感じ続けている強烈な感覚は、もっと別のものだった。

――シュッシュッシュッシュッ・・

「・・・うぉ・・っ!?」
突然やってくる大波のごとく、おかしくなっていた大吾の思考能力が一気に回復する。
そして、思考と繋がった視力は、瞬時に全ての原因を解き明かしていた。

――シュッシュッシュッシュッ・・
大吾の股間にまとわり付き、艶かしく上下する朱美のか細い左手。
先ほど大吾が内臓をえぐる刃物かと思ったものの正体は、それだったのだ。

「・・ハッァ・・・・ク!・・・ァァァ・・・〜ッ」
これまでの射精の99.99%は自らの右手だった大吾にとって、他人の、それも飛びっきりの美女の手コキは鮮烈の一言に尽きる。
「・・・あっ・・朱美さ・・・ちょ・・ちょっ・・・・・」
「くふふ♪」
「あ・・あけっ・・・・・ンッ!・・アァッ・・」
自分で一切コントロールできない刺激。
背徳と畏怖と悦楽に絡みつかれ、脳までもを冒されてゆく。
目はぎゅっと閉じられ、朱美の手から流れ込む波にあわせ、大吾はただただ身悶えるしかない。

「おじさん、気持ち良さそうです・・」
「うん・・・ママすごい・・」
「ね!ね!おじさん、もうイキそう!?」
そして、大吾の耳元に聞こえるのは妖精たちの声。
今はほんのわずかな刺激すら危険な状態だが、やはりそんなことを考慮する彼女たちではなかった。

「それはないよ〜、成美ちゃん。だって、男の人がイクのって、女の子のおまんこに入れないとダメじゃん」
「そんなことないって!」
「そうだよ。だって、それじゃ男の人が1人エッチできないじゃない」
「だって、本に載ってたもん・・」
「見てれば、すぐにわかるよ。おじさん、もうイッちゃいそうだから・・」
「ッフ・・・ちょ、ちょっとまずっ・・・そんなこと、いっちゃ・・・・」
構図はもはや女4人対男1人。
それも女性側の総大将は歴戦のツワモノで、男性はヘタレという絶望的な状況だ。
女性側は止めを刺す準備をしつつ、チクチクといたぶり続けているのだ。

――シュッシュッシュッシュッ・・

「くふっ♪じゃ、そろそろ成美ちゃん?おじさんの耳の中に『ふっ』ってしてみてくれる?」
「って・・うわ!だっ・・ダメダメダメ・・そんなことしたら・・・ッ」
「くふ、くふふ・・♪」
必死に許しを請う大吾のすぐ横に、無慈悲な妖精が『ニシシ・・♪』と微笑む。
『許しを請っても無駄だ』と頭のどこかでわかっていた大吾。
そして、事は微塵の容赦もなくその予想通りに進むのだった――

《・・ふぅっ☆》

寒く暗い魔都の夜、途方もなく広大な魔の世界。
その片隅に呑み込まれたかのように存在する人の世界は、今や肉密度の高い密室――至高のスウィートスポット。
夜闇を恍惚とした明かりで照らし、更なる恍惚へと落ちてゆくかのよう。

「・・ッく・ぁぁッ!!!!!」
――ドクビュクッ!!――ビュッ!――――ビュルルルルル―――――ッッ!!!

訪れた『時』に大吾の体が大きく弾む。
勢いよく噴出した大量の迸りは、車の天井を突き破らんばかりの勢いで叩いていた――


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