〜Sweat spot〜(2)



煙町の工場地帯を離れ、寂しい山沿いの道を登って行った先。
そこにある閑静な住宅街に菱沼家は存在する。
100坪ほどの敷地に建つ庭付きの一戸建て。
レンガ塀の色合いがしっくりくる、築20年ほどの家の造りは、ほのかに高級感を漂わせている。
既に深夜12時近く。
普段から静かなこの辺りは、もうすっかり静まり返っていたが、庭に面する菱沼家のダイニングルームと、外壁沿いの階段を上っていかねば入れない2階の部屋には、まだ煌々と明かりが灯っていた。

「・・どうもすみません。夕食まで頂いちゃって・・」
「い〜え、こんな作り置きのカレーで宜しければまだまだありますから、お好きなだけおかわりなさって下さいね」
「おかわり!」
「弥生はちょっと食べすぎよ?この間だってそれでおなか壊したじゃない。今日はもうやめときなさい」
「・・うぅ」
ダイニングルームには3人の人影があった。
この家の住人である朱美・弥生親子と――客人、太山大吾だ。
大吾は先ほど4人の女性の見ている前で、派手に精を撒き散らしたあと、『今日はもう遅いので、特にお急ぎの用事さえなければ・・』との朱美の誘いもあり、そのままここへ招待されていたのだ。
それに大吾はどうせ無職、時間的余裕は充分すぎるほどある。
それに車に乗った当初、『しまった』と内心焦った大吾だったが、あんなことを経験したあととなっては、むしろできる限り彼女たちとの縁を繋ぎとめておきたいと思ってしまうのも、男としては当然の成り行きだった。

「それにしても、立派な家ですね・・」
「ええ・・主人がいいところに勤めておりましたので・・」
『主人』
何気ない会話の中で、大吾は非常に大きな見落としをしていたことに気づく。
朱美という母親がいて、弥生という娘がいる。
となればもう1人、父親がいて然るべきだったのだ。

「そこの写真楯に・・」
朱美の手に促されるように見た写真には、朱美と弥生と一緒に移る男の姿があった。
『いいところに勤めていた』というだけあり、絵に描いたような知的で品のあるエリートタイプ。
細身で腕っ節はなさそうだが、眼鏡の似合う美男子だった。
「・・・・・・」
とはいえ、もし彼と今鉢合わせれば、一触即発は免れない。
大吾は背筋に冷たいものを感じる。
だが、朱美の話には続きがあり、彼は5年も前に癌でこの世を去っていたのだった。

(寂しい夜を過ごす未亡人・・・・か)
大吾は1人、何かを噛み締めるように小さくうなづく。
それを知ってから見る朱美の姿は、大吾の瞳に一層悩ましげで妖艶なものに映った。
最初彼女を見た時から大吾が感じていた、男を誘うようなオーラは、そこらへんも大きく関わっていたのだろう。
不謹慎にもニタリとした笑みが浮かんでしまい、咄嗟に顔を背ける大吾。
だが、テーブルにゆったりと肩肘をつく朱美も、そんな大吾の胸中を見透かした上で、熱い眼差しを彼に注いでいるかのように見えた。

「・・あ、弥生。お皿洗わなくていいから、別のお皿にごはんとカレーを盛って2階に届けてあげてくれる?」
「うん、わかった」
朱美のいいつけ通り、部屋を出て行く弥生。
大吾はそれを不思議そうな目で眺めている。

「あの・・他にもご家族が?」
「ああ、いえ。2階には下宿の大学生がいるんですよ」
「大学生・・って、もしかして鬱沼(うつぬま)女子大の?」
『鬱沼女子大』というのは、夕方に立て札があったために痴漢できなかったスウィートスポット、その近くにキャンパスを持つ2流大学だ。

「いえ、彼女は壊殴陰(かいおういん)大ですわ」
「へぇ・・結構な有名大学じゃないですか」
そんな返事を返しつつ、大吾は2つのことで胸を撫で下ろしていた。
1つめは、相手が男でなかったということ。
2つめは、相手が鬱沼女子大の生徒ではなかったということ。
どちらもトラブルの元になりかねないからだ。

「・・まあ、そんな話はいいじゃありませんか」
しかし、そんなことは意にも介していないのか、朱美はそう話を流すと、また意味深な視線を大吾に向けるのだった――

「・・ごちそうさまでした」
体は無駄に大きいものの、大吾は食べるのが遅い方だ。
とはいえ、女性2人にもここまで遅れて食べ終わったのは、朱美の視線が気になって仕方なかったからだった。
「おかわりはよろしいですか?」
「ええ、もう充分に頂きましたから」
「・・はい、では下げますね」

――ジャアアアア〜〜・・

朱美の立つ流しからそんな音が立ち始めると、大吾は待ちかねたように1つ深呼吸をする。
朱美の纏うプレッシャーのようなものから解放されたからだった。
女性経験のほとんどない大吾の目にも、朱美が何を望んでいるのかはあきらかだった。
もちろん、大吾自身もそれは望むところなのだが、こうまで積極的に求められると逆に調子を崩してしまうのだ。

――キュッキュッカチャカチャ・・

しかし、大吾が立て直すには、朱美の視線がない今がチャンスだった。
大吾は流し場に向かう朱美の後ろ姿をしばし眺める。
「・・・・・・」
見れば見るほど、それは女の肉体だった。
後ろ向きでセーターの上から、でもわかる胸の膨らみ。
タイトスカートにぴっちりと現れる腰から尻、足にかけての見事な曲線。
大吾の口から自然にため息がこぼれる。

「・・そういえば、太山さんは下のお名前は何とおっしゃるんですか?」
そんな大吾に気づいてか、気づかずか。
朱美は洗い物を続けながら、また話を切り出してくる。
「あ・・・大吾です」
「大吾さん・・・・ですか」
ゆっくりと自分自身で確認するかのごとく、朱美はその名前をぼそりと口にする。
背中を向けたままなので、大吾には朱美の表情までは読み取れない。
だが、その声は確かな湿った響きを帯びていた。

――ガチャ

「届けてきたよ」
そこに戻ってくる弥生。
大吾と朱美の雰囲気を察したからではなく、単に夜遅くだからだろうが、抑え気味の弥生の声は一切場の空気を壊さなかった。
「じゃあ、今日は寝るね。おじさんもお休みなさい」
「・・お休み、弥生ちゃん」
「また明日ね」
「あ、ちょっと待ちなさい」
静かな制止の声。
夜の挨拶だけを済ませ、足早にダイニングを去ろうとする弥生を呼び止める朱美は、ふとこんなことをいった。

「ねえ、弥生?」
「ん?」
「貴方・・・・弟か妹って、欲しい?」
「うん。いたら絶対楽しいもん」
「・・そう」
親子の会話はそこで止まる。
弥生からすれば、それは何の脈絡もない奇妙な会話だったのだろう。
しばし不思議そうな顔をするが、結局そのまま部屋を出て行った。

――カチャカチャ・・

今日の夕食分だけでなく、他にもあったらしく、朱美の洗い物はまだ続いている。
大吾も椅子からは動いておらず、何となく朱美の後ろ姿を眺めている。
だが、先ほどと違い、弥生が出て行ったあとから、そこには会話が全くなかった。

(ここまで静かなのも・・なんだかな・・)
大吾は何か話しかけるネタはないかと探していたが、長く続きすぎた沈黙を破るのに妥当な言葉はなかなか見つからない。
気まずい時間を過ごすしかなかった。

――カサッ

その時、朱美の足元にそんな音がする。
何かの紙が落ちた音だった。

「「・・あ」」

大吾と朱美は同じタイミングでそれに気づく。
大吾の位置からは机が邪魔で見えない場所にあるその紙を、朱美はチラリと目線を落とし確認する。

「あの・・多分、弥生が学校でもらってきたプリントだと思うんですけど・・私、今、手が濡れているんで・・・・宜しければ取って頂けませんか?」
「あ、はい」
席を立ち、大吾は流しに近づいていく。
それらしい紙はすぐに見つかった。
落ちた拍子にスリッパの下の隙間にもぐりこんだのか、それは朱美の真下にある。
大吾は膝立ちになり、紙に手を伸ばした。

――パツッ

しかし、紙を引っ張ってみると、ちょうど朱美の体重がかかっているようでなかなか取れない。
更に紙を引っ張った際、上まで響くに充分な音が立ったので、大吾も朱美が気づいて足をどけてくれるかと思っていたが、気づいていないのか、そんな様子もなかった。

「あの、ちょっと足元すみません。朱美さん?」
「・・・・・・」
仕方なく大吾が声をかけても返事がない。
(水音でうるさくて聞こえないのかな・・)
だが、再度、声をかけるために顔を上げた大吾は、そこで朱美の真意を悟ることになった。

「・・・くふっ」
2人の目が、合う。
朱美は気づいていなくなどなかった。
大吾にプリントを拾うことを頼み、そしてわざと体重をかけてそれを拾わせず、また声にも耳を貸さない。
最初から計算ずくだったのだ。
全ては、この構図を作るために――

「・・・・ぁ」
かすかに漏れた大吾の声は、わずかな感嘆の色を含んでいる。
たった今、朱美と目があったのは一瞬で、大吾は別のものに目を奪われていた。
その視線の見上げる先は朱美の内股、そしてそこを伝い落ちる――

「・・おわかりになります?今、濡れているのが、手だけではないこと・・」
(・・・ゴクリ)
『据え膳食わねば男の恥』
そんな言葉がある。
今の大吾が置かれている状況こそ、まさにそれだった。

「朱美さん・・・ええ、よォ〜くわかりますよ」
この引くに引けない状況。
大吾の声も次第に攻撃色を帯び始める。

「こォんなに濡らしてェ・・・そんなに俺のチンポが欲しいんですか・・?」
「・・だって、あんなすごい射精を見せられたら・・・もぅ・・」
「あんないやらしい手つきでしごかれたんですからね。でも、正直なところ車の天井じゃなくて、朱美さんにかけたかったですよ?」
「くふふっ・・・やっとケダモノになってきて下さいました。・・最初から、もっと強引に襲われてもよかったですのに」
「ハハハ・・御主人に先立たれてから、相当欲求がたまってたみたいですね」
大吾の何本かの指先が朱美の白い内腿をこすり上げ、発情した牝の雫を掬い取る。
指を開けば、それはワンテンポ遅れて糸を引き、垂れた。

「いえ、もっと前からですわ。私、主人はとてもいい人だと思っていましたけれど、男としての魅力は・・そこまで感じていませんでしたの・・」
「え・・あの御主人に?彼に比べれば、俺なんかただの肥えた豚じゃないですか」
「・・そんなことっ・・・・ん・・」
咄嗟に否定しようと振り向いた朱美の唇に、吸い上げるような大吾の品のないキス。
大吾はそのまま朱美の横から手を回し、水を垂れ流していた水道の蛇口を捻る。

「あっ、あの人は・・」
そういって、再び大吾に背を向ける朱美。
「・・宗昭さんは、『妻を大切にする』という言葉の意味を取り違えているようなところがあって・・」
「抱いてくれなかった・・ってことですね」
「・・いえ、それなりには・・」
「ん?・・ああ、なるほど♪もっと、激しいのがよかったんですね?」
「・・ぁン」
朱美の二の腕を掻き分けるように、脇の下から回された大吾の2本の手が、その重量感のあるバストを持ち上げるように鷲掴みにする。

「っ・・・ええ、まあ大吾さんならおわかりだと思いますけど・・・優しく抱かれるだけで満足する女なんか、実際にはほとんどいないんですよ。ああいうのは、ドラマの中とかだけで・・」
「フフフ・・」
この言葉には、大吾はすぐに明確な応答を返せない。
含み笑いを漏らすだけにとどめた。
『おわかりだと思いますけど』と断定されてはいるが、女性と正面から接する機会とはほとんど縁なく生きてきた大吾の中に、そんな引き出しなどない。
この場合。
時折、こっそり後攻に回って朱美から『女性』を学びつつ、知ったかぶりをして話を合わせるしかなかった。

「俺も・・『抱く』より『犯す』方が好みですよ」
「くふっ・・・さすがに6歳も年上だけあって、女のことがよくわかってらっしゃいますね・・」
「ま・・年の功ですよ」
「宗昭さんは立派な人間でしたが、そこらへんがさっぱりだったんですよ・・・ね」
細い肩越しに見える、寂しげな朱美の眼差し。
それはどこか遠くを見ているようにも見えた。

(・・・ん?)
そこで1つ。
大吾の中に引っかかることがあった。
朱美の旦那である宗昭とかいう男が、それほど性に対して淡白であるなら、菱沼親子に関して1箇所、どうしても矛盾じみてくる部分があるのだ。

「・・あれ?朱美さん・・じゃあ、弥生ちゃんは・・旦那さんとの・・・?」
「・・・お察しの通りです」
そこで一呼吸置いて、朱美は続ける。
「・・宗昭さんと出会ったのは20の時。18の時に産んだ弥生の父親ではありませんわ」
「ああ、もしかして当時付き合ってた彼氏ですか?」
「・・いいえ」
ちょっとだけ困った顔をする朱美。
だが、何故かその顔は妙に赤らんでいた。

「・・弥生の父親が誰なのかはわかりません」
「は・・どういうことですか?」
「・・高3になってすぐの4月・・当時は都心の方に住んでいたんですけど・・私・・・誘拐されたことがあるんですよ」
「・・・えっ?」
「ちょうど、今の大吾さんくらいの年頃の5人組の男たちに、マンションの中に監禁されて・・警察が来るまでの23日間、毎日のように輪姦されました・・」
「・・・・・・」
「弥生は・・・その時にできた子供です」
そもそもこの街が何故、『魔都』と呼ばれているか。
全てはそれだった。

人外の黒い力が裏で蠢いているとか、宇宙人が関わっているとか、根も葉もない噂は無数に飛び交っているが――単純に、自らの欲望を満たすためだけに道徳を捨てた住人が多い。
それが大吾の知る、まぎれもない現実だった。
朱美が遭遇したというこの手の事件も、新聞を見れば毎日のように何かしら載っているのだ。
大吾は、内に湧き上がるいいようのない怒りに小さく舌打ちをする。
それは無論、朱美を犯したという男たちに向けられたものがほとんどだったが、またほんのわずかに、せっかくの今のいいムードをぶち壊された個人的な感情も混じっていた。

「大変だったんですね・・」
「・・ええ。さすがに最初の日とかは物凄く怖かったですし・・・それに毎日5人もの相手をするのは、当時の私には本当に大変でした」
(・・・ん?)
違和感。
大吾が気づいたのは、朱美の言葉に含まれたやや奇妙なフレーズ。
だが、すぐにその謎は解けるのだった。

「でも・・思えば、あの時のレイプが一番気持ちよかったですわ」
「えっ・・・き、気持ちよかった・・って・・・・」
「だって、倍近くも年の離れた5人もの男たちが、毎日のように有り余る性欲を私1人にぶつけてくるんですよ?こっちは縛られてるっていうのに、本当に容赦なく・・・別に、縄を解いても逃げたりしなかったんですけどね・・」
「え、いやっ・・・でっでも・・・・」
さすがに困惑する大吾。
だが、朱美はそんな彼を振り返ると不思議そうに首をかしげる。

「あの・・・もしかしてとは思いますけど・・この話を聞いて、私のこと『可愛そう』だなんて・・・思ってらっしゃいます・・?」
「え・・・」
「・・まあ、拉致監禁は一応、法的に罪にはなりますし、あれですけど・・」
「あ・・いや、別に俺はそういうんじゃなくて・・・」
「ですよ、ねぇ・・・宗昭さんじゃあるまいし・・」
(・・妊娠までさせられてるのに・・・って・・・これも俺の認識違い、なのか?・・それとも、朱美さんが特に変わっているってことだろうか・・?)
頭を悩ませる大吾。
だが、どうあれ、何かでっち上げででも修正発言を挟まなければ確実に損をする。
それは確実かもしれなかった。

「ッハハ・・・やだなぁ。ちょっと勘違いしてませんか?朱美さん。その時、俺も高校生の朱美さんを輪姦すのに混ざりたかったなって、その5人に嫉妬してただけです」
半信半疑のまま、力の限りのでっち上げを口にする。
彼女が傷ついていないというなら、大吾にはもうそれでよかった。
それよりも、この美女を早く味わいたかったのだ。

「あ・・そうですよね。私ったら年上の方に対して、随分失礼な誤解をしてしまいました・・」
「アハハ・・でも朱美さん・・・今のは正直、多少傷つきましたよォ?」
「・・はい」
「男たちの欲望のままに犯されて、しかも孕んじゃうなんて、女の幸せそのものじゃないですか。俺がそんなことすらわかってないなんて、まさか本気で思ったんですかァ?」
大吾はそんなデタラメを当然のような口ぶりでいいきる。
今の彼は、既に理性的な思考は封印していた。
それが常識なのか、そうでないのか。
逐一そんな風に、しかも自分が損をすることについて生真面目に悩むのが、馬鹿らしく思えてきたのだ。
もう、全ては欲望任せだった。

「あの・・本当にすみません・・・でした」
「まァ、いいですよ。償いは朱美さんのいやらしい体で・・してもらっちゃうつもりですから♪」
「・・まぁ。大吾さんったら、くふふっ・・・」
2人は求め合うように唇を重ねる。
唾液と肉欲とが混ざり合いボタボタと滴る、先ほど以上に品のないロング・ディープキス。
それが2度、3度と1分以上続いたあと、大吾は荒い息を押し殺すように囁いた。

「・・ベッドに行きましょう、朱美さん・・・」


         ▽         ▽         ▽


ダイニングルームに連なるように存在する、菱沼家のリビングルーム。
朱美のベッドルームは、そこからドア1枚を隔てた先にあった。

絨毯・カーテン・ベッドシーツと、ワインレッド1色にまとめられたこの部屋。
ベッド脇に置かれた暖色のスタンドが、それをおぼろげに照らし出し、作り出された幻想的な空間。
ベッドに座る女と、その前に立つ男、一糸纏わぬ2人の支配する小さな世界。
これもまた、魔都の夜の一風景だった。

「・・綺麗ですよ、朱美さん」
「・・・大吾さん・・・」
大吾は朱美の裸体を舐めるように見回すと、その足元に腰を下ろす。
形だけ閉じた朱美の両膝の中央に手をかけると、大吾がほとんど力を入れずともそれは開いてゆく。
その最奥で『ジュクッ』と湿った音がすると、大吾はたまらないといった感じでそこに顔を割り込ませえてゆく。

「・・うわぁ・・さっきより濡れてますよォ・・・?」
「だっ・・大吾さんが・・・・焦らすからじゃないですか・・・」
そんな朱美の声は、今にも泣き出しそうなか弱さを帯び、男の征服欲をかきたてる。
ピクンと即座に反応した自分の分身に小さく失笑すると、大吾はゆっくりと攻勢に出る。

――チュク・・・・ッ

「・・・んンンッ」
朱美の剥き出しの生肉に、大吾の親指が沈んでゆく。
グロテスクに、野性的に。
そこはまるで腹を空かせた蛇のように、自ら男の指を呑み込んでいるかのようだった。

「・・朱美さァん・・そんなに強引に頬張らないで下さいよ。これは前菜ですよォ〜?」
「ほ・・・頬張るだなんて・・・・私、そんな・・・」
「俺、力入れてないのに、指が勝手に吸い込まれるんですけどねェ?この困ったおまんこちゃんは・・♪」
「い・・・・・・・意地悪・・っ」
そんな朱美の言葉とタイミングを同じくして、大吾は親指を激しく抜き差しする。

「んひっ・・ひぃぃぃンっ!」
「・・あれ?朱美さん、今何か・・いおうとしてました?」
「だ・・・だっ、大吾さんのいじわ・・・やっ・やぁぁぁ〜んんんっ・・」
『同じ手は二度通用しない』
なんてことはなく、2度も連続でしてやられた朱美は真っ赤な拗ね顔。
例え未亡人であっても、自分より経験が遥かに豊富な相手であっても、大吾にとって、それはやはり年下の愛らしさだった。

「朱美さん、可愛い・・」
ヌルリとした親指を抜き去った朱美の秘穴に、大吾は間髪要れず、むしゃぶりつくように舌を突き入れてゆく。
朱美の奥で舌先が感じ、舐め取ったのは、紛れもなく女の味そのものだ。
「ふっン・・・わっ、わざと・・っ、話を流しましたね・・っ?」
――レロレロ・・レロォン・・・
「・・あっ、あとで・・ッん!・・・・・・あと、で・・覚えてらしてくださ・・・ひんんん〜〜・・ッ!」
――ネェロ・・・レロレロ・・・ヌリュッ
「ダっ・・ん・・・んっん・・・し、搾り取ってやるんだからぁ・・・・っっ」
徐々に平静を保ちきれなくなってきている朱美からの反撃宣言。
大吾は多少プレッシャーのようなものこそ感じたが、それ以上に胸が躍るのだった――

「アハハ・・・なんだかちょっと怖いなァ〜・・」
意味深な笑みを見せる朱美の真下、仰向けにベッドに横たわる大吾の姿があった。
大吾からは、自分の下肢を跨いでいる朱美の股間は丸見えで、手を伸ばせば届かない位置ではない。
だが、この体勢は明らかに『受け』であり、ここから下手に攻勢に出れば、返り討ちは目に見えていた。

「くふふっ・・・♪」
ここから始まろうとしているのは、牝の肉食獣の食事の時間。
自らの細やかな中指をチロリと舐め、朱美は女豹の笑みで大吾を見下ろす。

「・・覚悟なさって下さいね♪」
未だ唾液がテラテラと光る中指は、今度は大吾の口へと滑り込む。
そして、それがゆっくりと引き抜かれていくのと同時に、大吾の股間に突き立つ反り返った影が、上から大きく妖艶な影に呑み込まれていく。

――グッチュゥゥゥゥゥ〜〜〜〜・・

「・・・ッグンン〜〜〜・・・・・!!!」
襲い来る強烈な感覚。
大吾が押さえ込むことのできない声を漏らす。
たまらず小さく身悶えすると、視界が縦に潰れ、かすんだ。

――ぺたん

それは大吾の腰に朱美の尻が乗った、肌と肌の小さな衝突音。
それまでのほんの数秒が、大吾には数十秒にも感じられた。

「・・・すっご・・」
思わず口をついて出る大吾の言葉。
それを悦ぶように、朱美の眼差しは更に悪戯な輝きを増してゆく。
「・・大吾さん・・・?」
「は・・・はい・・?」

「くふふ・・・・・マウント・ポジションです♪」

『朱美はわりと根に持つタイプだ』
そう理解を深める大吾だが、今はいかんともしがたい状況だった。
冷や汗と失笑を少々漏らすのが精一杯だ。

「きっ・・・騎乗位じゃ、ないんですね・・?」
「はい。そんな優しくするつもりはございませんので♪」
「・・・あ、あはは〜・・」
「・・では、いきます」

――バウンッ!

スプリング式のベッドの上に訪れたのは、深度6強の直下型地震。
予告通り、朱美の強烈な攻勢だ。
下腹部の一点からグワングワンと広がる強烈な波が、大吾の全身の神経系統を狂わせる。

「う・うわわっ・・ちょ・・・すご・・・ッ!・・って、アッ・・・ハアァァ・・ッ!!」
「くふっ・・・大吾さんも可愛いです・・♪」
「いやッ・・・かわぃッて・・それちが・・・ック!・・・・あけっ・ん・みさッ・・ンンンィィィ〜〜〜・・・ッッ!!」
『ゴシュッ!ゴシュッ!』と音を立て、濡れた肉壁にしごかれる大吾の怒張。
体の自由が利かず、口にした言葉もすぐに言葉でないものになっていく感覚。
先ほどの朱美の反撃宣言を、大吾は生易しく見過ぎていた。
だが、だからといって無論後悔をしているわけではない。
何故なら、それは狂おしいまでの快楽に他ならないのだから。

「んっ・・・くふ、くふふっ♪・・まぁだまだ・・・許しませんよ・・っ?」
「ッ・・ちょちょちょ・・・ちょッと・・まッ・・・」
「や・弥生がっ・・兄弟を欲しがってるの・・っふン、大吾さんも・聞いたでしょ・・ッ?」
「ふぐ・・・・っくぅ・・・でもぁッ・・ちょ・・休まなッ・・・・マジ・・やば・・・ッ」
「あら?・・・もう、出ちゃいそう・・・なんですか・・?」
一度腰を止め、朱美はやや心配そうに大吾を覗き込む。
だが力の限りコクコクと首を振る大吾は、もう言葉を口にすることすら危険な状態だ。
既に臨界点間近で、一瞬の気の緩みでも達してしまいそうなのだ。
このまま、全神経を集中してなんとか爆発を抑え込むしかなかった。
しかし――

「・・じゃ、ペース上げますね」
「・・・・えッ?」
「いったじゃないですか大吾さん・・・『優しくするつもりなんかない』って」
「・・っちょ、待ッ――!?」
「くふふっ、イキますっ♪」
朱美がそういうや、再びベッドがギシギシときしみ始める。
今度の地震は先ほどのそれに加えて横揺れも混ぜられており、大吾に一切の逃げ場を与えない。

「ッ・・・ィィィィィアッ!!ッハ・・ンン・オォォ〜・・ッ!!」
「・・ンッ・ンふッ・ンッ・ふッ・・」
声にならない声を上げて身をよじらせる大吾は、本能的に寝返りを打って迫り来る何かをかわそうとする。
だが、思った通りに力の入らない今の大吾の体では、女の朱美からすら逃れることができない。

「くふっ・・逃がしませんよ」
そこに朱美の更なる追い討ち。
馬乗りになったまま上半身を倒し、朱美の動きを少しでも食い止めようと伸ばしてくる大吾の両腕を抑え込んだのだ。
そして、完全に自由を失った大吾の肉体に、容赦なくラストスパートを繰り出した。

「〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!」
やがて、『時』の訪れがすぐ次の瞬間に迫ったことを示す、大吾の小さな悲鳴。
そこを見計らって、朱美は完全に腰を落とす――

――ブビュルッ!
―――ドプドプドプドプドプ・・!!
――――・・・・・・・・・・・・・・コプッ。

「・・や!あ!あ!あぁッ!・・あッはッ!!!・・・・・・・く・・ふぅ・・ン・・・」
逃げ道全てを失った大吾の体内の激流全てが、一点にドッと流れ込み爆発を起こしたかのような強烈な射精。
それが朱美の子宮口を押し広げんばかりの勢いで内部へと流れ込む。
そして、その威力は朱美の許容量を軽く飛び越し、絶頂の誘爆を引き起こしていた――


         ▽         ▽         ▽


「ハァッ・・ハァッ・・・ハァッ・ハァッ・・・・」
「ふ・・・・・ふぅ・・・ふぅ・・・・・っ」
激しくも艶かしかった大地震は通り過ぎていた。
スタンドの小さな明かりが照らす中、大吾と朱美は重なり合ったまま、しばしの余韻に浸っている。
暖房など入れていない冬の室内だというのに、2人は全身にじっとりと汗をかいていた。

「・・・っ」
しばらくすると朱美は何とか腰を上げ、その尻上がりの四つん這いを崩していくように、大吾の体を頭の方へとよじ登る。
大吾の頭を抱きかかえるように、左右に手をつく。
そして、心地よい疲労に上気した顔で大吾を覗き込んだ。

「・・だ〜いごさんっ?」
その顔に浮かぶのは、あの悪戯な笑み。
「・・・いかがでしたか?」
「・・ふぅぅ〜・・・・ふぅぅぅぅ〜・・・・・ちょ・・っと、待ってくだ・・・・」
無駄な肉が多いからだろうか。
それともキャリアの差のなせるわざか。
朱美より時間がかかっていた大吾の回復は、それから更に1分近くを要した。

「す・・すごかったすよ・・」
一番素直な感想を口にすると、大吾は1つ息を呑んで思考を整える。
「・・もう、一方的に責められてるうちに、自分の体が、いうこと聞かなくなって、自分の体じゃなくなっていくみたいで・・・・それがすごい、というか」
「・・・というか?」
「そうですね・・・むしろ・・・『怖い』・・・って感じで」
『蹂躙』
今の朱美の責めは、まさにそれだった。
抑えることのできない力でじわじわと侵食される体は、脳からの指令を待たずに各々がバラバラに防御反応を起こし始め、しかしそれすらも侵食を食い止めることはできない。
そして、その侵食は全身の感覚を未知の領域へと引きずってゆくのだ。
その時、大吾にはそれが――未知への突入が何よりも恐ろしいことのように思えた。
逃げ出したいとすら思った

だが――

また心のどこかには、そのまま未知の領域へ連れて行かれることを強く望む自分もいた。
そして、今となって考えれば、それこそが本心だったのだと、大吾は確かに感じていたのだ。

「それは・・・その『怖い』は、嫌なこと・・でしたか?」
「・・まさか!怖かったのは確かですけど・・でも、それが逆にイイんですよ」
「・・『怖さ』を感じていた時、同時にその『怖さ』の先に何があるのか、物凄く知ってみたくなりませんでした・・?」
「あっ・・!それです!まさにそれ!」
頭の中でなかなか整理のつかなかったことを、朱美に先にまとめられ、胸のつっかえが取れた大吾は大げさに同意を示す。
朱美はそこに軽いキス1つを浴びせ、大吾の興奮を適度に冷ますと、また1つ『くふふ・・』と笑う。
そして、耳元にこんなことを囁いた

「――それが、『レイプされるという快感』なんですよ♪」


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