〜Sweat spot〜(3)



昨晩、激しく燃え上がった男と女の欲望の残り香が漂うベッドルーム。
壁にかかったシックなデザインの掛け時計の針は、既に12時半をさしている。
未だベッドに横たわる大吾は1人、長いまどろみと、心地よい気だるさを満喫していた。

「ふぁ・・・ぁぁ」
他人にまで眠さを撒き散らすような、間の抜けたあくびを1つ。
大吾は重い体をベッドから体を起こす。
それは今日2度目の目覚めだった。

昨日、あのあともたっぷりと朱美の肉体を楽しんだ大吾。
その1度目の目覚めは10時頃だった。
起きると、そこには既に朱美の姿はなく、代わりにスタンド横にメモが置いてあった。
そこには朱美は仕事に、弥生は学校に出ているということや、朝食を食卓に用意してあるということを始め、外出する際の鍵の隠し場所から近所のコンビニの位置に至るまで、大吾に必要な事柄がこと細かに記されており――最後にはこんなメッセージも残されていた。

『いつまででも、お好きなだけ滞在していって下さいね。 ――朱美』

今日も予定らしい予定のない大吾は、そんな朱美の厚意に甘え、美味しい朝食を取り、2度寝をし・・と、王様気分を堪能していたのだ。
だが、さすがにもう眠れなかった。
大吾は立ち上がると伸びをし、徐にベッドルームを出る。
すると、現れるのは綺麗に片付けられたリビングルームと、その奥に連なるダイニングルーム・キッチン。
とはいえ、無論そこは無人であり、何をしようにもものたりない。
サッシから外を覗くと、品のいい緑の庭が広がっていたが、大吾はまだ縁側でゆっくりと茶をすするような年齢ではないし、そもそも空は曇っている。
更にここで待っていれば、夢にまで見た性の欲望を満たしてくれる朱美や、愛らしい弥生とまた会えるという以上、『家に帰る』などという選択肢も、大吾には間違いなくなかった。

(・・・ど〜うするかなァ〜〜)
大吾がまた1つあくびをしようとしたその時、玄関口からドアの開く物音が聞こえてきた。
朱美か弥生が何らかの急な用事で帰ってきたのだろうかと、大吾はリビングを抜けてそちらに向かう。
しかし、そこでバッタリ顔を合わせたのは、大吾の知らない女性だった。

「あっれ〜〜〜?」
素性を知らないならば、間違いなくイレギュラーな存在であるはずの大吾に警戒するでもなく、不思議そうな顔を向けてくるのは、腰まで伸びた艶のある黒髪の美しい二十歳前後の女性だ。
有名なコーヒーブランドのロゴが入った白地のトレーナーに白のジーンズ、それに頭にも白のキャスケット帽を乗せ、手には大きなコンビニ袋を提げている。

「えっとぉ〜・・・どちらさま?」
彼女にそういわれ、どう説明すべきか迷う大吾。
だが、黙っていても怪しまれるだけだ。
『自分は朱美の知り合いで、昨晩からお世話になっている太山という者』
そんな内容をたどたどしく返した。

「あ〜、そ〜いえば!昨晩弥生ちゃんが、ンなこといってたっけ」
(・・・あぁ!)
その言葉で、頭がまだ寝ぼけ気味だった大吾も、彼女が誰だか認識する。
「そっか、ここに下宿している壊殴陰大の学生って、君のことだったのか」
「イエ〜ッス」
彼女はクイッと腰を横に突き出すと、帽子のツバを軽く摘み上げてみせる。

「橋本美祢(はしもとみね)でっす」

そう名乗った彼女は、良くも悪くも現代っ子といった感じで、朱美や弥生とはまた違った魅力があった。

「っと、ちょ〜どよかったっ!」
何か思い出したらしく、美祢は大吾を『ビシッ』っと指をさす。
「ちょっと、運ぶの手伝ってくれません?」
「・・・何を?」
「こっちでっす」
「え?・・あ、うん・・」
ことの内容もわからないまま、大吾は美祢に追うために靴を履く。
『アップテンポ気味のマイペース』
美祢の性格を表現するなら、そんな表現がいいのだろう。
話がかみ合う前に、もう引っ張られているのだ。

(差し詰め、成美ちゃんの大学生バージョンってとこか・・)
そんなことを考えながら玄関を出ると、美祢は既にそこにはおらず、庭の方から何やら彼女の声が聞こえてくる。
声を追うと、庭の片隅にあるベージュ色の倉庫の前に美祢を見つけた。

「ってことで、お願いします♪」
1人で一体何を話しているのかと、不思議に思って近づいて来た大吾に、美祢はそれだけいうと早々と背を向けようとする。

「・・・・・は?」
「は?って・・・え?話聞いてなかったんですか・・?」
「いや、聞いてなかったっていうか・・・・・今、来たばかりなんだけど・・」
「あらま・・」
美祢はガクリと倒した額を指先で押さえる。

「こりゃど〜もすみません。私、ちょ〜っと早とちりなところが欠点で・・」
「アハハ・・いいじゃん、愉快な性格で」
「どもども」
そういって、困ったような笑顔を見せる美祢。
多少やりづらいところもあるものの、そんな彼女は大吾の目に印象よく映っていた。

「じゃ・・とりあえず、こっちで指定するんで、宜しくお願いしま〜っす」
「いや・・・・だから――何を??」


         ▽         ▽         ▽


あれから10分後。
重そうなダンボール箱を持って庭を行き来する大吾の姿があった。

「ふぃぃ〜、結構骨が折れるね・・・で、あと何個くらいあるの?」
「ラスト2でっす!」
「おぉ・・」
「・・・・多分」
「・・・・・(汗」
菱沼家の2階に下宿しつつ一流大学に通っている美祢。
彼女は、たくさんの参考書や事典などを持ち込んでおり、それをこうやって倉庫に入れてあるのだが、その中に今どうしても必要な本が何冊かあり、しかも運の悪いことにどの箱に入っているか覚えていなかった。
だから、一度全部出して調べなくてはならず、その手伝いを大吾に頼んだのだった。

「よいしょっと・・」
美祢の間借りしている2階は、家の外壁沿いの階段を上ったところにある独立した部屋で、庭の倉庫からは決して近い距離とはいえない。
参考書の詰まった箱は小さめのダンボールで、一応女性でも持ち上げられる程度の重さだ。
しかし、腕力に自信のない大吾には、それを複数個運ぶのは少々骨の折れる作業だった。

――ガン!
――バラバラバラ・・・!

また1つを部屋に運び終わり、『多分』最後の1個を取りに大吾が階段を降りている時、倉庫の方からそんな音が聞こえてくる。
大吾は倉庫に戻る足を速めた。

「だ・・大丈夫?」
覗き込んだ倉庫の中は、大吾の予想通りの状況となっていた。
所狭しと積み上げてあったあらゆるものが散乱し、その中心に美祢がぺたんと腰を落としている。
高いところにあるダンボールを無理に取ろうとした美祢が、誤まってそれを周りの物ごと落としてしまい、更にそれが周りを巻き込んで被害を拡大させてしまった――その結果がこれだった。

「ノォォォォ〜!!ど〜しよ!朱美サンの物まで散らかっちゃったぁぁ〜〜!!」
大吾に背を向けたまま、ふらふらと立ち上がる美祢は、いきなり『ガバッ』とオーバーアクションで頭を抱えると、開口一番そう叫ぶ。
「・・まあ、怪我はなさそうだね・・・・うん」
「・・・うぅ」
毎度困り笑顔の大吾にコミカルな涙目で何かを訴える美祢。
そこに非常にわかりやすい形で含まれたメッセージを受け取り、大吾は1つため息を挟んでから両手をパンパンとはたき合わせた。

「んじゃ、一緒に片付けよっか・・」


         ▽         ▽         ▽


ゴチャゴチャになった倉庫内の片付けは、実にそこまでの作業の5倍の時間を要した。
実際に片付け始めてみると、量は最初に見た時の印象ほどではなかったが、何せ2人ともこの倉庫の『主』ではないのだ。
何がどこに入っていたものだかわからず、更に細やかなものも多かったので、時間はほとんどそこにとられていた。
そして、一難去ってまた一難。
現在、大吾と美祢は次なるアクシデントに襲われ、途方にくれているところだった。

――ドザザアアアアアアアアアア!!

「・・絶対呪われてる・・」
「・・・・うん、そうかもね」

――ピシャアアアアッッッ!!
――――ゴロゴロゴロゴロ・・・

最低限の照明を確保するために、ほんのわずかに開けられた倉庫の扉。
その外は一面の水の世界となっていた。
時折起こる強烈なフラッシュと空気の炸裂音が、地面に叩きつける重い水音に拍子を取り、まるでそこは自然のライブハウスのようなありさまだ。

「だってこれ、どう見ても真夏の現象ですよ!?何でこんな時期に降るんですか!?冬ですよ!冬なんですよッ!?」
「・・いや、だから俺にいわれても・・」
「あ〜〜〜もうッ!じゃあ、誰にいえっていうんですかッ!?」
「ぷぷっ・・橋本さん、それ逆ギレ。っはは、本当に容赦ない性格だなァ〜」
大吾は思わず失笑する。
起きても転んでも、ひたすらに自分のペースを貫き通す美祢は、知っている他の誰よりもコミカルで、大吾はまた、そこに確かな魅力を感じていた。

そして、もう1つ。
最初に見た時も大吾はそう感じたが、間近に見る美祢は紛れもない美女だった。
整った顔立ちに、陽気かつ、吸い込まれそうな深さも備えた上品なブラウンの瞳。
『髪は女の命』を地でいくような、養分の行き届いた健康的な黒髪。
自分にあった魅せ方をよく理解しているのか、服装にしても1つ1つの仕草にしても、妙に堂に入っている。
また、未発達な弥生とも、程よく熟した朱美とも違う、『締まり』と『張り』が絶妙にブレンドされた彼女の肢体は、無条件に男の目を引き付けるものだった。

「『橋本さん』〜〜??」
無意識の内に見入っていた瑞々しい肉体から、大吾がハッと顔を上げると、何やら不満そうな美祢の顔。
「ん・・・何・・?」
「『橋本さん』はないんじゃないですか?『橋本さん』は〜?・・大学の講師じゃあるまいし〜」
どうやら、美祢は『橋本さん』という大吾の呼び方が気に入らないらしかった。
「えっとォ・・『美祢ちゃん』とかって呼んだ方がいいの?」
「『美祢ちゃん』〜〜??・・なんです、その間に合わせ的な発想は??アンタはそこらを歩いてる一般人ですか??」
「えっ・・ち、違うの??」
「『美祢』で!」
「・・はぁ」
まるで彼女の性格そのものを表すように、ずいずいと詰め寄ってくる美祢は、大吾の顔の前に人差し指を立て、強引に会話を完結させる。
大吾は間近に迫った美祢に鼓動の高まりを覚えつつも、何とか平静を装う困り笑いで返した。

「ま、しょ〜がないですね。雨が止むまで大人しく待ちましょっか。太山さん」
そういうと、美祢は壁に背を預けて座る大吾の横に、『よいしょ』っと自らも腰を下ろす。
すると、シャンプーのいい香りが鼻腔に流れ込み、大吾の表情は自然にうっとりとしたものとなる。

――が、何か引っかかるものがあった。

「ああ、そうだね・・って!?そっちの呼び方は『太山さん』なのかっ!?」
「は?・・あったりまえじゃないですか。32〜3くらい?年上でしょ?」
「え、ああ、35だけど・・」
「エッ、35!?見っえな〜い!結構若作りなんじゃん?」
「さ、35と32〜3って・・そんなに、変わん・・なくない・・?」
「エェ〜?雰囲気が違うじゃないですか〜。ん〜・・例えていうならぁ?豆から選ぶコーヒーと、インスタントコーヒーみたいな!」
「・・・・・?」

(・・ダッメだ・・・全っ然、話の主導権が握れない・・・・というか展開早すぎだし、そもそもワケがわからん・・・)
いかんともしがたい状況に、大吾は心の中で頭を抱える。
不意に『ガン』っと響く音。
それは大吾が困った顔を空に逃がし、力なく後頭部を壁にぶつけた音だった。

(・・・・・・)
とはいえ、美祢と悪くない雰囲気であることも、また確かだった。
これが美祢の性格なのか、はたまた何か別の理由なのか。
大吾は彼女に強い親密感を――いや、好意を覚える自分に気づき始めていた。

「で・・と。あっれ〜?そもそも、何の話をしてたんでしたっけ?」
「・・・いいよ、もう。話題を変えよう。その・・美祢は・・さ」
「うっわぁ・・きははっ☆『美祢』だって!そんな風に呼ばれたの高校時代の彼氏以来だっ!」
「ちょ・・・そ、そっちがそう呼べって・・」
そこで大吾は自らの言葉を危なく出しとどめる。
ここでツッコんでは、またペースを持っていかれるのは目に見えていたからだ。
だが、奇しくも大吾が聞こうとしたことの答えは、その前に美祢が口にしていた。

「今はいないんだ?彼氏・・」
「まぁ〜ね。その彼は故郷の屍餓(しが)県に置き去りにしてきたんだけど、そしたらアイツ、『腹いせにセフレ作った』とかメールよこしてきてさ!しかも『美祢より具合がいい』とか抜かしやがんの!マッジムカつんだけどぉ〜??」
「セ・・『セフレ』・・・ね」
美祢がふと口にしたのは、男の琴線に触れるワード。
大吾も思わず、そこにピンポイントかつストレートに反応する。
大吾が自ら繰り返した言葉は、美祢に対しての返事ではなく、無意識に出た言葉。
「ハァ・・ハァ・・・」
それは自分自身で再度、その意味を噛み締めるためのものだった――

――ピッシャアアアアアアアアアアン!!

どこか近くに落ちた雷の如く、脳を通らず、本能から直接末端神経へと送られた指令。
それに従った大吾の体は、振り向きざまに美祢の唇を奪っていた。
そして、死角となった胸元にも手を伸ばす。

「・・・!?」
一瞬、何が起きたのかわからず、美祢は咄嗟に大吾を跳ね除けようとする。
だが、突き出そうとした腕も、大吾の左手によってすぐに押さえ込まれる。
美祢はしばらくジタバタするも、やがて静かになっていた。

「俺がなってやるよ、美祢・・」
らしからぬ強引な切り出し。
大吾は美祢の唇を解放すると、『魔の右手』で形のいいバストを豪快に揉み回す。
昨晩、朱美と一夜を共にし、付け焼刃ながら『女の抱き方』を知った大吾は、見違えるほど男としての自信を身につけていたのだった。

「ンもぅ・・強引だなぁ」
「そっちの方が好きだろ?」
「・・ま、まぁ・・そですけど」
こちらも『まんざらでもない』といった感じの美祢。
彼女とニタリ顔で会話を進めつつ、大吾は今度はトレーナーの下から魔の右手を潜り込ませてゆく。
美祢が下に着るブラウス越しに触る膨らみは、トレーナーの上からより、更にリアルなその形と柔らかさを大吾に伝える。

「ンォォォ〜〜〜・・いい揉み応え♪ここ、結構ある?」
「ふ、んぅ・・っそうでも、ないですよ?82だし。結構普通?」
「へェ、でも感度はよさげじゃない?」
「あは☆そんなの・・ん、もうちょっと揉んでれば、自ずとわかるんじゃないですか?」
大吾は自分がアダルト小説の主人公になったような錯覚を感じていた。
相手の許可を取らずに触る痴漢はできても、昨晩までは絶対無理だと思っていたこんな会話・行為。
小説の中のヒロインにしかぶつけられなかったものを、生身の美女にぶつける悦び。
憧れ、嫉妬していた様々なアダルト小説の主人公たちを、今、大吾は無意識に自分に重ね合わせていっていた。

「でも、揉むのも最高だけど、レロレロチュバチュバの方がいいなァ〜」
「じゃっ、じゃ〜脱がせばいいじゃないですかっ」
「・・そうする♪」
「あっ、でもやっぱちょっと寒いんで、前だけってことで」
「OK。ま、今ちょっと寒くても、あとでたっぷり熱くしてやる予定だけどね」
「きははっ☆・・楽しみ」
彼女独特のくすぐったいような笑い声を漏らすと、美祢は自らのトレーナーをたくし上げる。
その下でブラウスのボタンを外してゆく大吾は、最後にこっそりベルトとジーンズのボタンまで外しておいた。

「おォ〜、黒ブラだ!」
「ん〜〜・・黒じゃなくてスモークっ!私、あまり原色系は・・・って、んっ☆」
たまらず、そのブラをめくり上げてゆく大吾。
上がってゆくブラの端が乳首の上を通過すると、引っかかっていた左右の乳首が順に弾けるように解き放たれる。
勢いよく『ぷるるん』と揺れるそれは、男にとって新鮮な果実以外の何者でもなかった。

「うっわァ〜・・綺麗なおっぱいだァ〜」
「どもども」
――レロッ
「・・あンっ」
不意打ちのひと舐めに、美祢は可愛く反応する。
そんな彼女を覗き込みつつ、口内に戻した舌先で、大吾は味わったばかりの乳首の残り香を転がすように楽しむ。
それはまるで、ワインの味を見るソムリエのよう。
決定的に『品がない』という一点を抜かせば、だが。

「ふむ、非常に良質なスィーツですな?コック長殿♪」
「きははっ☆新鮮な内に召し上がれ、おっぱいソムリエ殿っ」
「ぷぷっ・・でもま、これで練乳なんかかかっていたら最高なんですがねェ〜?」
「ん〜〜、ミルクがけスィーツはぁ〜・・・・・・・・んむぅ・・レシピ、教えましょ〜か?」
「おっ、レシピなんかがあるんで?」
「きはっ☆たっぷり生出しキメて、10ヶ月ほど寝かしておけば完成でっす☆」
「・・うっわ、すごいことを平然といい切りましたな」
「きはははっ☆エロコックですから♪」
「おっし!んじゃ、レシピ通りにことを進めるためにも、まずは下のお口もたっぷり濡らしてもらっちゃおっかナ」
美祢と特に馬が合うのか、もしくは潜在的に持っていた話術だったのか。
スムーズに進む美祢とのやりとりに大吾はすっかりゴキゲンだ。
だが、その時、現代人を潜在的に平常に呼び戻す音が鳴り響く。

――ピリリリリ・・・ピリリリリ・・・・

「・・ん?」
じゃれあうようなペッティングを一時中断し、反射的にポケットに手をやる大吾。
だが、取り出したケータイはからは受信音はしていなかった。
「あ。多分、私のです」
衣服を乱したまま、自分の前でディスプレイを確認する美祢の姿に、大吾は妙な興奮を覚える。
それは、その仕草に『セックスフレンド』という言葉を強く意識させるからだ。

「もしもっし?」
半分押し倒されかかっていた体勢を立て直し、また壁に背を預ける美祢。
通話ボタンを押し、何やら話し始めたので、大吾にとってはお預けの形になる。
美祢が早々と切ってくれることを期待し、大吾も一度体を離した。

「・・お、玲菜?どしたん?」
挨拶もなしに本題に入る美祢。
親しげで、話し慣れている印象を受けるが、それでも最低限は気を使ったようなイントネーションの口調。
『玲菜』という美祢の電話相手は彼女の友人だった。

「・・え?今?ん〜、まぁ別に・・いいけど?」
美味しいエサをお預けされ、まだかまだかと待つ大吾の前、会話の雲行きはいきなり怪しくなる。
もしここで美祢のスケジュールが上書きされれば、まさに蛇の生殺し。
それに大吾には、せっかく親密になってきた関係も、固まる前に冷めてしまうのではないかという心配もあった。
大吾の目に、美祢は熱し易く冷め易いタイプに見えたからだ。
不安が――よぎる。

「え?こっち?クス・・何してると思う?」
だが、会話の流れは大吾の予想と大きくかけ離れた路線を走り始める。
「・・ヒント?そ〜だなぁ〜、”S”から始まって”X”で終わるコトかなっ」
「(・・ぶっ)」
「うん。・・あ、ほんとに?それでいい?・・・じゃ、まあいいけどさっ」
そこまでいうと、美祢は受話器から顔を話して大吾に悪戯な目線を送る。
そして、こんなことをいった。

「きははっ☆太山さん。『このまま続けろ』、だって☆」
「ぶっ!・・ほんとに?」
「もっち」
「っていうか、相手は誰なの?」
「あ、大学の友達ですよ?堀川玲菜(ほりかわれな)たんでっす」
美祢は性別まではいわなかったが、名前からしても女性であることはほぼ間違いない。
『それはそれで面白いな』と、大吾は顔をニタリとさせる。

「ハハ・・まあOK。んじゃ、ちょっと寒いけど、下を脱いでもらっちゃうかな」
「ん〜・・・・んじゃ、本当に寒いんで、これ以上寒くならないようにして下さいよ?」
「大丈夫大丈夫、気合入れて弄繰り回すから。脱いだらそこに立って、そのままお話してな?」

それから十数秒が経過する。
土砂降りから隔離された暗い倉庫の中。
美祢の電話と大吾のペッティングが、時を同じくして再開されていた。

「く・・くン・・っ・・え?うん、そう、下のお口の方・・ンッ・・・中指・・入ッてるよ・・ッ」
「ほォら、美祢。だァいぶ濡れてきたよォ〜?」
大吾は壁に背を預けたまま立つ美祢の下にいた。
片膝立ちに体を支え、程よく開かせた美祢の生穴を弄んでいるのだ。

「くすっ・・・うん。もうくッちゅくちゅ☆・・・ぁッ・・は・・・・ぶっ☆・・っでも、そうかもよ?・・ッ・・だって、なんか、わざと玲菜に聞こえるようにいってるっぽいしっ?」
「ぐぁっ、バレバレだ☆じゃ、ちょっと自粛モードにっ・・・」

口と口と電話口。
薄暗い半密閉空間で繰り広げられる歪な会話は、様々な要素を帯びて次第に熱を帯びてゆく。

「ん!・・ふんんんン・・ッ・あッ、ちょッと待って、今舌が・・あッ・はンッ」
――レェ〜ロレロレロ・・
「・・えッ・・とね・・なんか、うちの大家さんのッ、知り合いの人だッて・・・うん、そだよ・・ッ?・・・えっと、ふッ・・・32・・だっけかな・・」
「んぷはッ!・・いや、年なら35だってば」
「あ、そだっけ。・・・え?あぁ、いや、なんでもない」
「・・・ぶッ。なんでもなくないって!」
美祢を責めつつも、その会話を邪魔しないように楽しんでいた大吾だったが、話の種に自分が使われていたことに気づき、思わず口を突っ込んでしまう。
そしてそれと共に、年頃の女子大生2人とのこんな関係に、たまらないゾクゾク感を覚えていた。

「ん?あらら・・・ってェ!おもろいとかゆ〜な!」
そこで一度、美祢は言葉の向け先を大吾へと戻す。

「怜菜、あんまり電池残ってないらしいから、さっさと進めちゃいません?」
「え?ってことは、さっそくズッコンバッコン?」
「ぷぷっ・・そですそです」
「OK。じゃあ立ちバックでいいかナ?」
『よいしょ』っと立ち上がる大吾の胸元を、美祢はケータイの背でコツコツとやる。
大吾は不思議そうな顔するが、美祢は悪戯な笑みでこういった。

「バトンタッチでっす」
「えっ・・?」
突然訪れた新展開に困惑気味の大吾の前で、美祢はすらりとした足を伸ばし、惜しげもなく大吾に尻を突き出す。
「・・・・・・」
受話器の向こう側にいるのは、美祢の友人の堀川怜菜という女性。
大吾は多少緊張を覚えつつも、声の調子を整えつつ横っ面に当てる。

「もしもし・・」
《あはっ、堀川です。どうも初めまして》
「こ、こちらこそ初めまして、太山です」
《今、美祢とヤッてるんですよね?》
「ええ、まあ、色々となりゆきで」
照れ笑いから切り出しつつも、いきなり本題に突入する怜菜の話しっぷり。
それは『いかにも遊んでいそうな女子大生』といった雰囲気だった。

《あれ、もう挿れてるんで?》
「あ、いや、これからですよ・・・ン、ンン・・ッ」
「ぅ・・・あはぁ・・・っ」
怜菜に促されるように、大吾は挿入を開始する。
反り立った先端部に感じる、心地よさと――多少の挿れづらさ。
つい先ほどまで程よく濡れていた美祢の赤身だが、幾らか乾き始めているようだった。

(まずいな・・)
なんとなくながら、せっかくの状況が悪化しつつあるのは大吾自身にもわかっていた。
ケータイを渡されてから、大吾は知らない女性と話すという緊張からか、妙に大人しくなっており、それが狂おしい男女の熱を冷まし始めてしまっているのだ。
(・・もっとエロエロでいかないと)
大吾は『どうせ、電話口の向こうの相手なんだ』と、無意識に体面を取り繕おうとする自分を諌め、ゆっくりとピストンを開始する。

――くちゅっ・・くちゅっ・・ぐちゅっ・・

「アァ〜〜〜・・・気持ちィッ!」
「・・は、はン・・」
《お、挿れたっぽ?》
「ン・ンフゥ〜・・!挿れたよォ〜?堀川さんのお友達のオマンコ、すっごい気持ちイイ♪」
《きゃぁ〜☆なんか、そんなこといわれると、あたしがヤられてるみたい》
「ハァ、ハァ・・今度、堀川さんも交えて3Pなんて、イイかもネ・・ッ」
《あはは。いいですよぉ〜?んじゃ、あたしと美祢の食べ比べでもして下さいよ》

――ぐちゅっ・・ぐちゅっ・・ぬぽッ・・

「はぁっ、ん、んふっ・・って、ちょっ・・何の話してるんですかぁッ☆」
「ふゥっ、はァっ・・っえ?美祢と堀川さんのオマンコバトルについて、だよッ?」
「・・あン、もぅッ!太山さん、マジエロいですよっっ??」
『あはは』と笑いながら一層深く突きこんでくる大吾のピストンに、美祢も負けじとリズミカルな腰の動きで応じる。
外から入ってくる土砂降りの音と雷鳴もクラブ・・というより、昔のディスコを思わせる強引な盛り上がらせ方で、倉庫内の小さなセックスパーティーを支援していた。

「でもっ、太山さんのピストン・・かなり嫌いじゃないかもっ。1回1回、奥までズボッズボッて・・んふっ・・すっごく気持ちいくて、病み付きになりそう・・・・なぁんて。きはっ☆」
「ふっ、ふぅ、はふ・・みっ、美祢も、すごく可愛いよ。それに、この腰使いっ、エロすぎる♪」
《きゃああ〜、可愛いだって〜☆すっかり美祢とらぶらぶMODEっですかぁ?》
「そうだねェ・・ッン!アァ・・ッ。うん、結構らぶらぶかも?ま、セフレだけどね」
「あぁン・・太山さんさえよければ、スペルマ専用のトイレ代わり・・でも、イイですよっ?」
美祢は肩越しに悦びを共にする男を見上げると、チロッと舌を出して猫のように笑う。
大吾の目に映るその真っ赤な顔は、どこまでも『エッチな女の子』だった。

「うほほっ☆まっ、マジでェ〜????」
「きゃぁ〜〜☆いっちゃった♪きははっ☆」
《えっ?えっ?何々、どしたんすか?》
「え?ああごめん。いやね、美祢が俺の精液便所になってくれるって・・」
《おぉぉ〜!大胆告白キタ〜〜♪》

――パンッパンッパンッパンッ!

次第に勢いを増していく、醜悪な肉と美しい肉の摩擦音、衝突音。
腰をくねらせ、淫らなダンスを踊るかのように、美祢は男の本能を刺激し続ける。
汗ばんだ小麦色の尻は、まるでこうやって男根を咥え込んでいるのが本来の姿であるかのように、とめどなく滴り落ちる悦びにまみれていた。

「ちょっと〜、っン・・ぅ、ぅぅ・・なっ、なんですか『精液便所』って!?」
「ハッ、ハァッ、ハァッ・・えっ?だって今・・」
「そうですけど、下品すぎですよッ!も少し可愛いいい方して下さいッッ!」
「可愛いいい方っていっても・・たっ、例えば?」
「っだからぁ・・ッン!『スペルマ専用トイレ』とか、『中出し奴隷』とか・・ぁ、い、いろいろあるでしょッ!」
「・・どう、違うの・・?」
「エェ〜?雰囲気が違うじゃないですか〜。水族館で見る魚とぉ・・っはン・・さ、魚屋で見る魚・・みたいな?・・っあ、は!」
「あぁ〜もう!全っ然、意味が・わっからぁ〜〜〜ん!!!」
「きゃっ!?ひ・・っ、あぁぁぁ〜〜〜〜ン☆」
《あはは・・・なんとなく、会話内容が想像つくなぁ・・・》
こんな状況ですら容赦なく炸裂する美祢節。
野放しにするとすぐ手に負えなくなる彼女の話術を、一気に勢いを増した大吾のピストンが強引に黙らせる。

「アァッ、ハアァッ・・ッハハ。よ、よォッし・・こンのままァ、一気に中出しぶちこんでッ、大人しくさせてやるゥッッ♪」
《あは。太山さん、なんかキレ気味だぁ》
「あぁそうさ。クッ・・美祢みたいなのはッ、ちっと強引にヤらないと・・ナッ!」
大吾はより深い接合を求め、美祢の左足を抱き込むように担ぎ上げる。
丸見えになった接合部は、膣内で分泌される濁ったぬめりが泡立ち、大吾の剛直を受け止めるたびに弾けて『パツッパツッ』と小さな無数の音を立てていた。

「あんっ、あっ、は、うぁっ・・すっご、きもちィ・・・ッ」
「ハーッ、ハッ、ハッ・・ハハッ・・イキそうか、美祢?」
「・・うっ、うン・・も、すぐ、イク、ぽぃ・・」
狂おしいセックスに身を任せつつ、恥ずかしそうに上気しつつ浮かべていた美祢の笑み。
それも、今やすっかり苦しそうに歪みに満ちている。
だが、年頃の娘にそんな余裕のない笑顔で見つめられれば、男の獣欲は否応なしに昂ぶるもの。
大吾の体内を本能が雷となってかけめぐり、その肉体が男としての役目を果たそうと一気に強張って行く。

《キャ〜キャ〜!『イキそうか、美祢?』だって〜♪あったしも、いわれたぁぁ〜い☆》
「うッ・・っはは。さてッ、堀川さんッ・・今から、君のッお友達のオマンコにッ・・・いッぱい出しちゃう、からね・・ッ?」
《あっぁん☆出して出してぇ〜☆》

――パンッパンッパンッパンッ!

「ちょ・・たや、まさ・・早く、キメてッ・・・も、イッちゃうぅぅ・・・!」
「ハァハァハァ・・あぁ、出すよッ・・しっかり、踏ん張って・・・ッ・・」
《そ〜れ、ナッカッダシッ♪ナッカッダシッ♪》
「ふッ・・も、ダメだよッ・・・は、はやッ・・来て・・・・・ッッッ!!」
「・・オ、オラッ!み、ね・・イク・・ぞ・・・・・・・・・・ッア!!!!!」
瞬間。
大吾の中の獣は解き放たれる、女の最奥へと――

――ブビュッ!ッビュゥゥゥ〜〜ッッ!!
――ビュクッ・ビュクッ・・・ビュクッ!!

「ン・・やぁはッ!?出ッ・・てる・・ッく!――ぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜ッッ!!」
女のもっとも無防備な場所に、ドッと流れ込むドロついた快楽の大波。
喘ぎは叫びとなり、狭い倉庫内に響き渡る甘い雷鳴。
何もかもわからなくなり、狂ったように身をよじらせる美祢を、大吾は逃がすまいとガッチリと抱き込み、最後の一滴までザーメンを残らず注ぎ込む。

そして――やがて訪れるのは、男と女が何かを確かめ合うような静寂。

射精の際、『ガタン』と音を立てて落ちた大吾のケータイ。
そのディスプレイに、大吾と美祢のミックスエキスがドロリと糸を引いて落ちるのだった――



         □         □         □



天に輝くのは、冬の風物詩の白い月。
魔都の一部だとは思えないほど、シンと静まり返るこの一帯の夜の風景。
そんな中、まるでそこにしか人の気配がないかのように一箇所だけ輝く家の明かりは、菱沼家の2階からだった。

大吾が迎える、2度目の菱沼家の夜。
急用で今晩は帰れないというこの家の主の姿はここにはなく、この家の娘と、下宿の大学生と、ふとしたことから転がり込んだ居候の3人が、のんびりとコンビニ食を囲んでいた。

「へぇ〜。美祢ちゃんたち、そんなコトしてたんだ〜?」
「いやぁ・・なんせ、あの雨で出られなくってねぇ・・」
「・・・・・・」
「ん?何、太山さん?」
「いや・・ふぅ・・何でもないよ、うん」
昼間の倉庫での情事を、小学生である弥生にあっけらかんと話してのける美祢。
大吾はコンビニおにぎりに海苔を巻きつつ、大きなため息を漏らす。
だが、この程度の反応で済むのも、昨日今日でだいぶ慣れた証拠かもしれなかった。
大吾が今まで縁のなかった――女性との付き合いというものに。

「おっじさ〜ん?美祢ちゃんとのエッチ、よかった〜?」
美祢が美祢なら、こう切り出す弥生も弥生だった。

「えっ?あ、うん。そりゃ〜ね・・」
「ちょちょちょ、ちょっとぉ〜〜。なぁ〜んで、そこで声のテンション落とすんですかぁ〜!」
「いやっ・・ていうか・・」
「んん〜・・こんな可愛い中出し奴隷なのに、もうヤリ捨てですかぁ〜〜?」
「ち、ちがうって!!い、今は弥生ちゃんがいるし・・ちょっと、いいづらいだけで・・・ッてて・・!」
自らを平然と『中出し奴隷』といってのける美祢。
それはすなわち、望むセックス全てを許容する意味合いの言葉であり、またそれが年頃の美女の口から放たれたものだと思うと、大吾は征服感を刺激され、心地よい興奮を感じてしまう。
だが、昨晩の朱美に今日の美祢と、短期間に何度もの射精を繰り返してきただけに、まだ勃起は痛みを伴う。
男として嬉しい痛みではあるが、痛いものは痛かった。

「ん?おじさん、弥生がいるとなんでい〜づらいの?」
「あ〜いや〜・・・ほら、弥生ちゃんはまだ小学生だし・・・」
そういって、バツが悪そうにおにぎりをかじる大吾。
その顔を、弥生は三白眼で覗き込んだ。

「・・弥生のコト『れーぷ』したクセに」
「・・ぶぇっ」
ごはんの塊が喉につまり、大吾は胸をドンドンとやる。
小学生の口から出た、そのイントネーションも、恐らく意味も理解していない大人の言葉。
先ほどの美祢の言葉とは種類の異なる興奮に、大吾はまた股間の痛みに襲われた。

「しっ、してないしてない!!」
「だって、バス停でいきなりお尻触ってきたじゃん〜!おまんこだって・・見たし」
「そ、そっ・・・それは・・そう・・・だけど・・」
「太山さん・・・・・・・範囲、ひっろ〜!」
「いや・・美祢もツっこむとこが違う気がするけど・・まあ、いいや・・うん」
大吾はまた次のおにぎりに手を伸ばす。
完全に話に乗り切らないところで切り上げるのは、全て股間事情によるもの。
正直、弥生の愛らしい肉体も『深く』味わってみたい衝動はあったが、今の大吾がそれを考えるのは自殺行為に他ならない。
ともかく食べるのに一生懸命なふりをして、会話から外れるしかなかった。

「ね〜美祢ちゃん?おじさんの『なかだしどれ〜』になったの〜?」
「うん。『おじさん』とはセックスの相性がとってもよくて♪」
「でも、『なかだし』って赤ちゃんできちゃうんじゃないの?」
「ん〜、そ〜だねぇ。デキる時はデキるよ?」
「できたら困るんでしょ?それでもエッチしちゃうんだ?」
「まあ、困るといえば困るけど?・・でも、そういう『デキちゃうかも』っていうのが、また気持ちいいスリルだったりす・・・・・・・ッン!?」
途中で途切れた美祢の言葉は、突然口を塞がれたせい。
会話から外れたはいいが、昂ぶる興奮からは逃げられなかった大吾が、衝動的に覆いかぶさり、美祢の唇を奪っていたのだ。

「んっ・・・・んん・・・」
「うわぁ・・」
顔を赤らめる弥生をよそに、大吾は豪快に美祢のバストを揉みしだく。
一瞬驚いた美祢もまた、すぐに『抵抗しない』ことで即時交尾可能の意思表示。
小学生の目の前だというのに、大吾と美祢の欲望は既にスウィートスポットへと突入していた。

――しかし、大吾の肉体だけがそれを許さない。

「いでででででええええぇぇぇ〜〜!?!?!」
あれだけ押さえ込もうとしていたにもかかわらず、すっかり忘れていた股間の爆弾。
大吾は横倒しにゴロゴロと転がり、のたうち回る。
不思議そうな顔をする弥生の横で、しばし『ぽかん』としていた美祢も『そゆことか』とようやく事態を納得。
それを弥生にも話して聞かせる。

「・・というコト♪」
「へ〜、じゃあ、おじさんは今おちんちんおっきくするとそうなるんだ?」
「っつぅ〜・・・うん、ま、そうだね」
直後。
『だから、そういう話題は今は・・』と続ける前に、大吾は後悔に顔を引きつらせていた。
そんな彼の瞳に映るのは、同じ笑みを浮かべる2人の女性だったのだ。

「おじさぁ〜ん。弥生のおまんこにも『なかだし』してみるぅ〜?」
「ひぎっ!?」
「今ならさせてあげるよ〜?」
「いッでででで!!」
「太山さ〜ん。弥生ちゃん、もう生理あるから・・きはっ☆1発アテてあげたらどうです〜?」
「や、やべてえええええ!!」
「ね〜ぇ〜?したくないのぉ〜?」
「よっし。んじゃ、弥生ちゃん脱いじゃえっ☆」
「う・・うんっ」
「だずげでええええええええええええ〜〜〜〜!!??!?!」

菱沼家の夜。
そんな、ある種羨ましい拷問は、そこから更なる盛り上がりを見せていったのだった――



         □         □         □



次の日の昼前。
雨こそ降ってはいないものの、相変わらずの曇り空の下。
菱沼家付近の停留所でバスを待つ大吾の姿があった。

別に菱沼家での生活に飽きたわけでも、いづらくなる理由ができたわけでも、無論、昨晩の拷問に嫌気が差したわけでもない。
今朝も朱美のベッドで心地よい目覚めを迎えた大吾のケータイに、1本の電話が入ったのだ。
発信元は彼の母親。
大吾が無数に送った履歴書の幾つかが、書類選考を通ったらしく、企業によっては準備しなくてはならないものもあるので、すぐに戻ってこいとの内容だった。

『よりによって、何でこのタイミングで・・』と、大吾には正直戻るのを渋る気持ちが強かったが、それでも彼にはここにい続けることに1つ大きな心配事があった。
今まで、弥生はともかくとして、朱美や美祢に仕事のことを聞かれたことはなく、それを切り出されるのが色々な面で怖かったのだ。
だから、そんな不安を抱えつつここにいるより、一度戻ってでも先に就職を決めた方が、今後の彼女たちとの関係も上手くいくと思い、大吾は無人の菱沼家に――

『急な仕事が入ったので一度戻ります。また後日伺います ――太山』

そう置手紙をして出てきたのだった。

――ブルルルルルルルル・・・

やってきたガラガラのバスに乗り込み、席に腰を下ろすと、大吾は窓からしばしの別れを告げる菱沼家を見やった。
そこは、まさに大吾にとって大きな人生の転換点に他ならない場所。
例え一時といえども、そこを離れないといけないと思うと、大吾の中にこれまでのことが溢れ出るように浮かんでくる。

痴漢をしにきた煙町で、最大の期待を寄せていたスウィートスポットに警察の看板を立てられ、悔しさと口惜しさから夜の山道を寒さに耐えつつ、意地になって歩いたこと。
その先の寂しいバス停での弥生との出会い。
勇気を出して触った小さな尻の感触。
そこに姿を現した禁断の妖精たちや、美しい未亡人朱美との危険な遊び。
その夜、朱美から至上の快楽と男としての自信をもらい、次の日にそれを美祢へとぶつけたこと。
電話口の怜菜をも交えた倉庫の中での3P・・いや、2.5P。
朱美に続き、美祢にも怜菜にも好印象を持たれ、その夜には弥生にもまんざらではないようなことをいわれたのだ。

(・・・・・・)
何かを噛み締めるように、すがすがしい顔を上げる大吾。
その自信に満ち溢れた顔立ちは、ここにくる前の彼からはとても想像がつかない。

『あの菱沼家こそ、俺にとって最大のスウィートスポットだったんだ』

大吾は確かな確信を胸に抱くと、バスの揺れに促されるように、今日2度目の夢へと落ちていくのだった――



         □         □         □



緑や花々の影に隠れて、様々なものが芽吹く魔都の春。
大吾にとっての運命の出会いの日から、早2ヶ月が経とうとしていた。

「・・・ふぅ」
独特の匂いの漂う西煙町の一角にある、ほとんど利用者もいない小さな公園の入り口。
昼過ぎから付近をうろついて大吾だったが、今は日も落ちてしまっている。
大きなため息1つを空に溶かし、公園の柵に腰を下ろすと、大吾はすぐ横にある自販機で買ったホットティーのミニペットボトルを開け、それを煽った。

――ゴク・・ゴクゴク・・ゴク・・

この2ヶ月、大吾の周りでは状況が色々と移り変わっていた。

あのあと、面接の1つが無事に通り、大吾は無事に職にありつく。
勤め始めた小さな工場の仕事は誰にでもできそうな単純作業だが、その分量が多く、毎日残業はもちろんのこと、土日に至るまでほとんど休みがなかった。
更に車の運転もできない大吾では、仕事の合間に菱沼家に、ということもできない。
日々たまるストレスの中、彼は2ヶ月経たずにそこをやめてしまう。
やめる際には両親からの強烈な反対があったが、それも今の自信に溢れた大吾を止めるには至らなかった。
『すぐに別の仕事を見つけるから』と、スパリといいきったのだ。
かくして、再びフリーの身になった大吾が喜び勇んで訪れた西煙町。
だが、何故か『あのバス停』に続く道はどこにも見当たらなかった――

(おっかしいなァ〜・・・)
仕事をやめてから3度目の訪問となる今日も、やはり探し物はみつかっていなかった。
先ほど、似たような道を見つけ、滴るような笑みをこらえつつ必死に登ったものの、それはあの道ではなく、ひどい落胆と共に引き返してきたところだった。

(あぁ〜・・なんで、ケータイ番号教わらなかったんだろ・・。地形は覚えていても地名を覚えるの忘れるし・・)
次から次へと頭をよぎる後悔の大波小波。
そして、朱美と美祢と弥生の顔、声、痴態。
まさに王様として過ごした日々の思い出、そしてその中で得た自信。
アクセス手段がない今となっては、それらはほとんど形のない幻。
指の隙間から零れ落ちる砂のようなもの。
だが1つだけ、恐らくは一番重要なものが手元に残っていた。

『自信』
そのおかげで、大吾は負け組から勝ち組へと変貌を遂げたのだ。
以前は絶望やあきらめに自ら道を閉ざしてしまっていた就職活動も、今は胸を張って臨むことができるし、人間関係に関してもそうだった。
『友達にしろ恋人にしろ、作ろうと思えば簡単に作れる』
大吾の胸の奥に確かに息づく前向き思考は、まさにその賜物なのだ。

――ガチャ・・・・ゴトン!

(・・・ん?)
突然、大吾のすぐ近くでそんな音。
振り向いた先、ブレザー服姿の少女が自販機の釣り銭口に手を伸ばそうとしているのが見えた。
2ヶ月前まで、大吾は痴漢をしていた過程で幾つもの制服を記憶しており、その彼女の着ているものもまた見覚えがあった。
魔都でも最大規模を誇るマンモス高校として有名な『聖デラルゴ学園』のものだ。
その淡い黄土色のブレザー服は、これといって変わったデザインではないが、何故か不思議に目を引かれ、見る者にも着る者にも人気も高い。

――ゴクゴク・・・コポッ
大吾は飲みかけのホットティーを空にすると徐に立ち上がる。
5歩の歩みを進めたのち、自販機横の専用ゴミ箱にそれを押し込む。
そして、ペットボトルから開放された右手を見て、軽くニタリと笑んだ。

「・・っ!?」
不意に小さく息を飲んだのは、大吾ではなく聖デラルゴの制服を着た女子高生。
何の前触れもなしに臀部にへばりついた強烈な感触に、すぐにありありと困惑の表情が浮かび上がる。
釣り銭を取ったあと、腰を折って取り出し口に手を突っ込んだ、まさにその瞬間の出来事だった。

「・・・・・・」
「・・ハァ・・・ハァ・・・」
女子高生はホットのアルミ缶に触れかかっていた指先を離し、ゆっくりと身を起こす。
困惑はゆっくりと恐怖へと転化し始め、その対象である男の発する粘液質の吐息に身震いする。

「あ・・・あの、やめてください・・」
女子高生と一言にいっても、性格は様々。
この状況で、一目散に逃げ出す、大声を上げる、真正面から抗議する、仕返しとばかりに金的の1つでも見舞ってやる・・など、対応は多数ある。
だが、これが性格なのだろう。
それがこの手の相手を増徴させることを知ってか知らずか。
彼女の取った対応は、怯え気味にそういっただけだった。

「・・大丈夫だよ」
「・・・・きゃっ」
女子高生を次に襲ったのは胸元をまさぐられる感触。
そして、後方からその手を回されたことにより、捕獲された形となった自分の現状に気づいていた。

「ハァ・・ハァ・・、君、可愛いね。おっぱいもすごく柔らかいよォ?幾つあるの?」
「やっ・・やめて、くださ・・・」
「ヒップも結構あるねェ・・子作りには向いてるんじゃないかな?」
「ひ・・ひっク・・お、お、お願いですから・・離してください・・・・」
「おっと、逃がさないよォ?今から、君をレイプしてあげるんだから♪」
後ろから体を抱き込まれ、耳元にはそんな恐ろしい囁き。
性格上か、大吾を振りほどいて逃げることすらできない彼女にできるのは、許しを請うことと、涙を流すことだけ。


「ん?泣いてるの?俺が怖い・・?」
その時。
もう足場のない状況で囁かれた、彼女にとってはやや不自然な助け舟。
『こくこく』と必死に頷いて、それにすがろうとする少女の耳に口づけるように、大吾はこんなことをいった。

「フフ、大丈夫だよ。その『怖い』の先に、『レイプされるという快感』があるんだから――」

そのあと30分以上も続けられる、男の歓喜と女の悲痛の混ざり合う狂ったようなデュエット。
それは当事者2人以外、誰の耳にも入ることなく、とっぷりと暮れる魔都の夜に沈んでいくのだった。



         □         □         □



魔都は国内でもずば抜けて犯罪――とりわけ性犯罪が多発する地域だ。
毎日のように至る所で男と女のネトついた欲望が交錯し、その幾つかは重大なトラブルを巻き起こしている。
そんなニュースは、天気予報のように毎日決まってメディアに流され、相当奇抜なケース以外は社会的反応もほとんどないといった有様。
魔都の住民たちにとって、既に性犯罪は『身近な存在』なのだ。

そして。
その全てが、不可思議な魔力を帯びる魔都自体の意思によるものであることを知る物は少ない。
魔都は、今日も己の意のままに動く哀れな虜を求め、至るところに大きな口を開けている――

――To be continued...


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