〜DAYDREAM〜(後)



深い夜の帳が下り始めた魔都。
その地下を失踪する列車の中、壁にもたれかかりスマートホンをいじる保の姿があった。

【人身事故で電車が遅れてる、到着が20分前後遅れるかも。】

保は落ち着かない指先で短いメッセージをしたため、メールの送信ボタンを押す。
送信完了を確認すると、ため息1つと共に天井を仰ぐが、次の瞬間にはもうメーラー画面に視線を戻していた。

(・・いやいや、幾らなんでもこんなに早く返信が来るはずないわな)

そう自分に言い聞かせて意識をメールから切り離そうとするも、それは30秒ともたない。
保を支配する、制御が利かないほど先走った高揚感。
それは一重に、今向かっている先で待っているであろう少女に注がれている。

片倉 志穂。

魔都の中学校に通い、人気バンド『Re:X』の熱心なおっかけをしている少女。
大学の文化祭でトラブルを起こし、保と耕太を散々罵り晒し者にした挙句、退学処分にまで追い込んだ少女。
そして、保の記念すべき初体験の相手となった少女。

(それにしても・・まさか、最悪の結末のあとにこんな展開が用意されているとはなぁ)

傷害事件による退学処分――年下の少女に悪戯半分に突き落とされた地獄。
しかし、その更にどん底には、15歳の性を弄ぶめくるめく極楽が広がっていた。
保はそんな風に考えていた。

(それもこれも、全て亀田のおかげか・・)

そこに至る上で絶対外せないファクターである親友・耕太の生い立ち。
そして、耕太が志穂に施したという催眠術の存在。
突如現れた大きな気がかり2つ。
しかし、保が何度聞いても耕太は適当にはぐらかすだけだった。

《・・フォーン》

突如、メールの着信音が保の意識を呼び戻す。
慌てて開いたメールは、期待通り耕太からの返信だった。

【姫君2人は今到着したから適当に待たせておく。今夜も頑張ろう。】

保はドクンと心臓が高鳴る感覚を覚えた。
今でもまだ夢だったのではないかと疑う、2週間前の甘い夜の記憶。
しかし、着信したメールがそこに現実味という色をつけたのだ。

(・・もうすぐ、また志穂に会えるのか・・)

保は肩からかけていたバッグに徐に手を突っ込む。
そこに黒い円柱型のプラスチック容器を見つけると、それを握り締める掌にじわりと汗が噴出してくるのを感じた。

『男アップサプリ 〜Hello!Baby!〜』

それはネットで購入した精力剤。
このほかにも、体力トレーニングや『Re:X』の情報収集など、保はほとんどの時間を今日の準備に当ててきたのだ。
それがもうすぐ実を結ぶと思うと、保はもういてもたってもいられなくなっていた。


         ▽         ▽         ▽


「(待ってたよ、小西)」

築40年のボロアパート『グリーンハイツ』。
その204号室の扉が開くと、声を殺した耕太が保を迎えた。

「(おう、悪ィ悪ィ・・って、なんだ?今日もしばらく『素』は出さない方がいいのか?)
「(うん、志穂はいいけど、もう一方の梓ってコのかかり方がまだ浅いからね。しばらくは様子見だよ・・この間と同じ)」
「(そっか・・オーケー)」
「(じゃ、ほら上がって)」

KENTに扮した保が通された亀田家の寝室には、制服姿の2人の少女の姿があった。
志穂と隣り合ってベッドの縁にちょこんと腰を下ろしているのは、志穂の後輩・木曽 梓(きそあずさ)。
彼女は例の大学の文化祭で、保にぶつかり怪我を負った少女だった。

『この人です!この人が後ろから梓を思い切り突き飛ばして・・!』

その心に大きな傷を残した忌々しい記憶が、保の中に呼び覚まされてゆく。

『ち、違っ・・たしかに少しぶつかりましたけど、俺は突き飛ばしてなんか・・』
『悪いが今は彼女たちに話を聞いている。お前は少し静かにしていてくれ』
『で、でも・・!』

あのトラブルが流血沙汰になったあと。
駆けつけた男性教員に、都合よく誇張しまくった話をまくし立てる志穂の陰で蹲り、額を押さえていた少女。
そのビジョンが今、目の前にいる梓とピッタリ一致する。

『・・そうです!両手で『ドンッ!』て思いっきり!この人、怒ってワザとやったんです!』
『ち、違います・・!俺はそんなことッ』
『おい。お前の話はあとで聞くとさっきも言っただろ?』

その男性教員の『保の話も聞く』という言葉が信用できず、保はこうして何度か食い下がった。
それは『否定すべきところは、即否定しないと手遅れになる』という懸念からだった。

『で、君は彼に突き飛ばされたの?』
『だよね?そーだよね?』
『えっ?あ・・えと・・・・』
『この人にドンってやられたもんね?・・梓!』

そして、志穂に半ば押し切られるように口にした梓の一言が、保の運命を決定付けることとなる。

『・・ハイ。私、この人に突き飛ばされました・・』

一応、教員は事後に保の言い分も聞きはしたが、それは既に方針を決めた後の無意味な行為となる。
懸念は的中したのだった。

(ああ、間違いなくあの時の女だ・・)

KENTに扮する保が軽やかに挨拶をすると、彼の脳が『敵』と認識した少女は両手で口元を隠して『キャー!』と黄色い声をあげる。
双方向の認識にあまりのズレがあることを滑稽に感じ、思わず含み笑いを漏らしそうになる保。
しかし、視界に飛び込むもう1人の少女の姿が、保にまた違うスイッチを入れていた。

「あっ・・KENT」
「・・志穂ちゃん」

保が最も憎むべき相手でありながら、また一方で狂おしいほどに欲し、求める相手。
2週間前、お互いに初体験を交換し合った少女・志穂。
緩んでゆく顔を隠そうともしない保が『おいで』とゼスチャーをすると、志穂の中にあったかすかな困惑が弾け飛ぶ。

「KENTぉ〜!会いたかったよぅ〜!」

飛びついてくる志穂を、保もまたしっかりと抱き止めていた。


         ▽         ▽         ▽


「えぇ〜・・でも、まさか本当だとは思いませんでしたよぅ〜」
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜、嘘じゃないって言ってたジャン!」
「ハハハ!そりゃま・・幾ら先輩の言うことでも、ちょっと信じられねえよなぁ?」

本来は呼ぶ予定のなかった梓が今日ここにいるのは、耕太のちょっとした気遣いによるものだった。
この2週間、すっかり恋の病にかかっていた保。
彼に志穂を譲るためにも、耕太にはもう1人、自分の相手をする少女が必要になる。
そこで白羽の矢が立ったのが、志穂と同じく忌わしい事件の黒幕の1人であり、また『Re:X』の大ファンでもある梓だったのだ。

「ところで・・梓ちゃんは、志穂ちゃんから僕らとのコト・・どこまで聞いてるのカナ?」

前回の別れ際、保と耕太は志穂に『このことは決して誰にも話すな』と念を押した。
しかし、方針変更により梓も仲間に入れることになったため、彼女1人だけは例外としていい旨を伝えていたのだ。

「えっ?・・えっとぉ〜」

耕太から突然話を振られ、梓は少し困惑がちに志穂を見やる。
それは『どこまで言ってもいいのか』と確認するような素振り。
しかし、志穂も何やら照れ臭そうに、梓と目線をあわせようとはしなかった。

「前のコンサートの時から興味を持たれてたってコトとか、ここで密会したってコト・・とか」
「・・他には?」
「えっとぉ・・KENTと結構イイ感じだったコトとか・・?」

しどろもどろにそう応えつつ、あからさまに視線を泳がせる梓。
その頬はほんのりと桜色に染まっていた。

「『SEXのコトとか』は?・・んン〜?」
「ふ、ふぁいっ!キカセテイタダキマシタ!」

話題が話題であることから意識的に避けていた核心。
そこを耕太の一言に狙い打たれ、梓は新兵の敬礼のようにオーバーアクションでビシッと背筋を伸ばす。
その様に、梓を除く3人はドッと噴出していた。

「そっか、それ聞いてもここに来たってのは・・即ち『OK』ってコトだよな?」
「あ、ハイッ!一応・・その、ショーブシタギ的なモノは、つけてきました・・ケド」
「お、本当?じゃあ早速、拝見させてもらおうかな」
「えっ・・えぇぇ〜っ!?」
「ホレホレ、サービス!サービス!」

思わず口走ったポロリ発言を男2人にターゲットされ、また萎縮する梓。
無言で志穂に助けを求めるも、返ってくるのは助け舟ではなく『知〜らないっ』といったゼスチャーのみ。
男たちの視線を集める自分の膝元としばし睨み合うも、やがて覚悟を決め、両手でミニスカートの裾をつまむ。

「え、えいっ☆」

細い指に一瞬だけ摘み上げられ、フワリと舞うスカート。
しかし、恥じらいから加減しすぎたため、その下の魅惑の薄布は結局お目見えせずに終わっていた。

「オイ、KENTォ・・お前、見えたか?」
「えっ?いやぁ〜、ちょっとあれじゃ見えないなぁ〜」
「んじゃ・・罰ゲームだな」

そう言うと、耕太――基、JINは意地悪そうな笑みを浮かべるのだった。


         ▽         ▽         ▽


ベッドの縁に腰を下ろしているのは保と志穂、そして少し空けて梓。
先ほどまでベッド横のチェアに座っていた耕太の姿は、今はそこにはない。

「ほうほう・・」
「〜〜〜〜〜〜っ☆チョ〜〜はずいんですケド☆」

不自然に足が開かれた梓のスカートの下に異様な膨らみ。
そこにすっぽりと耕太の頭が収まっていた。
スカートの中、耕太の吐息がかかるその鼻先に14歳の性の器官。
それを危うく守っているのは、背伸びする猫のシルエットがワンポイントとして添えられた黒いショーツだった。

「え?で・・JIN〜?梓のって〜、どんな感じ?」
「せせせ、せんぱぁ〜い!!今は変な話振らないでいいデス〜☆」
「ん〜?黒の猫ちゃんパンティー」
「ちょ・・ちょっとぉ〜〜〜☆」
「ククク・・しかも、ほんのりと梓のエッチな香りがするな?」
「どっ、どどどっ、どこ触ってるんですかぁ〜〜☆」

すっかり耕太に囚われの身となり、キャーキャーと声をあげる梓。
しかし、その奇妙な盛り上がりも、外野2人には次第にBGMとなっていく。
保と志穂もまた自然に視線を絡ませていた。

「・・志穂ちゃん、今日もオールナイトOKなんだよね?」
「う、うんっ・・大丈夫」

そこに交わされた吐息交じりの声2つ。
それだけで、そこに2人だけの空気が形作られていく。

「あ・・ねぇ、KENT・・?」
「ん?何・・?志穂ちゃん」
「あの、さ・・」

志穂がコクリと息を呑む小さな音が響く。

「こないだ、KENT・・志穂のアソコの中に・・一杯出してくれたじゃん?」
「うん」
「あれって・・もしかしたら、その・・デキちゃうかもしれないってコト・・だよね?」

らしくもなく心細そうな志穂の声。
保の目には、その小さな肩が更に一回り小さくなったかのように映っていた。

「もし、もしだよ?・・その、赤ちゃんとかデキたら・・KENT、どうするの?」

保はしばし言葉を失う。
自分を見上げるのは、全てをこちらに委ねる弱々しい眼差し。
そして、『妊娠』という問題と向き合うにはまだ早い15歳の眼差し。
今になって、保は自分のしていることに疑問を抱き始める。

(ど、どう応えるべきなんだ・・?)

考えれば考えるほど、真に志穂が望む答えは返しようがないことを再認識させられる。
まだ幼い志穂が望む答えが『KENT本人からの認知』なのは明らかだ。
謎の多い耕太の催眠術をもってしても、さすがに一生志穂を騙し続ける事は難しいだろう。
そう考えると、保の頭の中に濃密な戸惑いの靄が充満していく。

《・・コンコン》

そんな保の足先を、耕太の指先がそっと小突く。
不思議と、保にはそれだけで耕太の言わんとすることが伝わっていた。

――これは正当な復讐だよ。
先に遊び半分で小西を不幸のどん底に追い込んだのは、その女の方。
僕たちがそいつにされたことを思い出すんだ。
やられたことをやり返す、ただそれだけだよ。

それに、今、投げかけられた言葉は催眠術で夢を見せているからこそのもの。
もしそれが解けた時、その女がまたあの醜い本性を剥き出しにするのは目に見えている。
騙されるな、そいつは狡賢く憎たらしい女じゃないか。
地獄に落ちて当然なんだよ――

保は小さくため息をつく。
そして、そっと口を開いた。

「・・もし、赤ちゃんがデキたらどうするか・・だって?」

そして、らしくもなくクスッと笑うと、志穂の頭を抱き寄せる。

「そしたら、その赤ちゃんは・・僕と志穂ちゃんの永遠の絆になるんだよ」
「KENT・・志穂、嬉しい・・」
「だから志穂ちゃんは心配しなくていいんだ。僕に任せてくれて、いいんだよ」

保は抱き寄せた志穂の頭を更に強く抱きこむ。
それは、いかに催眠状態にあるとはいえ、口にした言葉とは異なる表情を志穂に見せないためだった。

「――ひゃああ〜ンっ☆」

そこで室内に響き渡る声。
BGMどころか環境音楽に成り果てていた梓の声色は、突如恥じらいの声から快楽に濡れた声へと大きく変調する。
そして、それは保と志穂を取り巻く重くなりすぎた空気をも、突風の如く吹き散らしていた。

「そ、そっちはダメ・・ダメだって・・う、ふぅ〜ン・・」

保と志穂が2人の世界に入っている間に、耕太と梓もまた状況を変化させていた。
180度向きを変えた梓は、ベッドの奥に手をついて愛らしい尻を耕太の眼前に晒している。

「クク・・梓、ダメって言うわりには気持ちよさそうだぜ?」
《レロッ・・レロレロ・・・レェロレロォ・・ッ》
「ん!・・んん・・んんんんっ!」

梓の尻の谷間に顔を埋める耕太。
そのグロテスクな舌先がターゲットするのは、梓の排泄用の器官だ。
小さく閉じた穴に収束する皺は一本一本丁寧に舐られ、そこに付着した唾液がテラテラと部屋の明かりを照り返している。

「だ、だめ・・ふんん・・だッ・・ひゃっ!?・・あぁンン!!」

最初、梓がわずかに見せていた拒絶の意思も、次第にその禁断の快楽に飲み込まれてゆく。
羞恥心は全て快楽へとシフトし、従順な牝猫へと成り果ててゆく。

「ふー・・ふー・・ふーー・・」
「な?こっちも気持ちいいだろ?」
「・・ハイ。お尻の穴、気持ちィ〜ですぅ」
「よしよし。じゃあ梓、今日はケツ穴で俺とSEXしような?」
「ハイ・・がんばりますぅ」

頬を染めて淫靡な吐息を漏らす梓の艶姿に、しばし目を奪われていた保。
その服の裾を志穂がチョイッと引っ張る。

「ねぇ・・KENT」
「んっ?・・あ。えっと・・何かな?」

仮初めのとはいえ、恋人の前で他の女性に目を奪われていたという失態。
咄嗟にごまかすような笑みを作る保に、志穂は少しだけ頬を膨らませてみせた。

「・・梓の方ばっかり見てるの、嫌だよ」
「あ・・ああ、ゴメンゴメン」
「もしかして・・KENTも、あ〜ゆ〜コト・・したいの?」
「・・えっ?」
「もし・・もしも、どぉ〜してもKENTがしたいなら・・い〜よ?」

志穂との肛門性交。
それは可愛い嫉妬が生んだ魅惑的な提案だ。

「えっ、志穂ちゃんもお尻の穴で僕を受け止めてくれるの?」
「ん、うん・・もし、KENTがしたいなら・・志穂、挑戦しても・・いい」
「・・志穂ちゃんとのアナルセックスか。それも気持ちよさそうだけど・・でも、今日はいいや」

しかし、保はそれを断る。
志穂との今後の関係を決定付ける上で今、必要なこと。
それは退路を断つことに他ならない。
だからこそ、今やるべきことは別にあった。

「・・それよりも、僕は志穂ちゃんとの確かな絆が欲しいよ」

この両者間における『絆』という言葉の意味。
先ほどの会話の中で決定付けられたそれは、両者ともに大きな覚悟を伴うものだ。

「・・だから、志穂ちゃん。僕と一緒に・・赤ちゃん、作ろう?」
「う、うんっ」

志穂はKENTに自分の人生を委ねるという覚悟。
そして、保は志穂を地獄に落とすという覚悟。

全く方向性の違う2つの覚悟が絡み合ってゆく様。
それはあまりに滑稽で残酷なものだった。


         ▽         ▽         ▽


魔都の深い夜の闇に包まれた『グリーンハイツ』204号室――その寝室。
耕太と梓が姿を消したベッドの上には、今まさに1つにならんとする保と志穂の姿があった。

「ホ〜ント、男の人って・・こうゆうの、好きだなぁ」
「ハハ・・たしかに、否定はできないかな」

差し出された白い尻をさわさわと撫で回しつつ、保は少し困ったように笑う。
その前でうつ伏せになり、膝立ちで足を開く志穂。
だが、上半身を支えるはずの両手は背中に回され、例の手錠に拘束されている。
それは、これ以上ないほど男性上位な体位だった。

「と、いうわけで。今夜は逃がさないよ・・お姫さま?」
「や、やだもぉ・・っ☆」

志穂は特にお姫様願望の強いタイプ。
弱点をつかれて一気に熱を帯びる頬は、すぐ枕に押し付けるようにして隠される。
そして、志穂が視界を失い無防備となった瞬間、その柔らかな穴はしたたかに貫かれていた。

《ちゅぷッ・・ぬぷぷぷぷぷぷぷぅ・・!!》

思わぬ不意打ちに見舞われた志穂が、枕に顔を埋めたままくぐもった声を上げる。
その腰はビクンは跳ね上がり、背中のチェーンが『カチャカチャ』と無機質な音を立てる。
そして、更に男と女の肉の調べと快楽の声が重なり、淫らな音楽を奏でてゆく。

「あぁ・・気持ちいいよ、志穂ちゃんのエッチなカラダ」
「エ、エッチなのはKENTでしょ・・ん、んぁっ♪」
「僕がエッチなのは、今はもう・・志穂ちゃん限定だよ」
「えぇ〜・・さっきは梓を見てたくせにぃ〜」
「フフ、だから『今はもう』って言ったじゃない」
「むっ・・ずぅ〜るぅ〜いぃ〜〜」

深く繋がりながらもじゃれあい、戯れあう保と志穂。
その行為には、前回と打って変わって余裕が見られた。
初体験から3P生本番をこなしたという自信が、2人の肉体をスキルアップさせたのだ。

「ハハッ・・でも、約束するよ。僕は志穂ちゃんだけを愛するって・・」
「え?あ・・や、やだっ・・・・嬉しぃ」
「今日さ。急に梓ちゃんを呼んだの・・あれ、実はJINに宛がうためだったんだよ?」
「え・・っ?」

肩口に後ろを振り向く志穂。

「だってホラ・・そうしないと、僕が志穂ちゃんを独り占めできないじゃないか」
「あ・・エヘヘ☆じゃあ梓、超グッジョブじゃんっ☆」

したり顔で親指を立てる保に、志穂もまた悪戯な猫のように舌を出して応える。

「まあ、でも梓ちゃんには、ちょっと悪いことしちゃったかなぁ?」
「えぇ〜?そんなことないよ。梓だって『Re:X』の大ファンだし、それに・・」
「それに・・?」
「今頃・・きっと、JINと・・」


         ▽         ▽         ▽


小野川第3公園は、『グリーンハイツ』から徒歩15分ほどの場所にある緑に満ちた空間だ。
しかし、昼間は人々に憩いをもたらす木々の緑も、夜は不気味な存在感を漂わせる。
それが風もないのにザワザワと揺れる様は、まるで魔都の闇に命を吹き込まれたかのようであった。

「よう、兄弟・・何やってんだい?」

公衆便所前にある休憩所のベンチ。
そこにゆっくりと腰を下ろす男は、横に座る先客にそう声をかけた。

「別に?単なる時間潰しですよ」
「便所の中、何やら賑やかじゃねえかよ?」
「ええ、まあ・・」

冷色の蛍光灯の灯りに照らされた公衆便所。
その中からは『ガタガタ・・』と個室の扉の揺れる音が鳴り響いていた。

「近所の不良たちが5人いるんです。あとは中学生の女の子が1人」
「へえ、輪姦させてるのかい?」
「まあ、ケツ穴オンリーですけどね」
「いいねえ、青春だねえ」
「青春?青春してるのは、むしろ僕の方ですよ」

《――シュボッ》

そこでアルコールライター独特の着火音が響く。
しかし、異様に深い闇の中に一瞬だけ灯った小さな炎は、何故かライターの持ち主を照らし出すことはない。

「ふゥ〜・・で?こんなところで日和ってンのが青春なのか?」
「最近、男の子と仲良くなりましてね。コイツがいいヤツなんですよ」
「男の子ォ〜?んじゃ、中にいるって中学生は何だよ?」
「ああ、あれはそのトモダチを嬲り貶めてくれた悪ガキの1人です」
「なるほど、お仕置きってワケか」
「いえいえ、だから言ってるじゃないですか・・ただの時間潰しです」

一向に鳴り止む様子がない公衆便所内のガタガタ音。
しかし、そこに男女合わせて6人がいるというわりに一切の会話はない。
時折、荒い吐息と満足そうな男たちの呻き声がするだけだ。

「でもよ。あまり、トモダチとやらに入れ込みすぎるのはオススメしないぜ?」
「ほっといてくださいよ」
「・・まァ、いいけどよ。とりあえず、俺はそろそろいくわ」
「そうですか、ではまた・・って、帰るんじゃないんですか?」
「帰るさ。悪ガキチャンとやらのケツ穴をチョイとつまみ食いしてから、な」

ベンチに残る男は、呆れるようにため息をつく。

「まあ、いいですけど・・まだ壊さないでくださいよ?」


         ▽         ▽         ▽


長かった夜が過ぎ去り、次第に白み始める空。
ベッドの上では大仕事を終えた保と志穂が見詰め合っていた。

「KENT、お疲れ様」
「ハァ・・ハァ・・志穂ちゃんこそ、頑張ったね」
「エヘヘ・・だって志穂、KENTの赤ちゃん欲しいモン・・☆」

例の精力剤の力も借りて、志穂の肉体に体力の限界まで挑み続けた保。
後ろ手に手錠をかけられつつ、危険な膣内射精を受け止め続けた志穂。
大きな達成感に包まれる2つの肉体は、薄っすらと命の香りを漂わせていた。

「ふふっ、どうかな?志穂ちゃん、今日ので妊娠しそう?」
「えぇ〜っ?そんなの、わっかんないよ〜☆」
「ハハ・・そりゃそうか。あっと・・そうだ、手錠外してあげるね」

《――カチャリ》

自分の手首から取り外され、ベッド脇にある机の上に置かれる手錠。
それを、志穂はどこか寂しげな面持ちで眺めていた。

「ん?志穂ちゃん、どうしたの?」
「えっ?あぁ・・んーん?今日はもう手錠しないんだなって・・思って」
「何?物足りない感じ?」
「だって、その手錠、前回も今回も志穂がエッチする時には必ずつけてたでしょ?だから、外されると夢から覚めちゃったみたいで・・」
「なるほど、囚われのお姫様気分がとんじゃうってわけだ」
「うん。最初は正直ちょっと怖かったのに・・フシギ☆」
「ハハ・・じゃあ、次にする時もつけようね」
「・・ウン☆」

そこで玄関の開閉音。
続いて、耕太と梓の声が響いていた。


         ▽         ▽         ▽


「ねえねえ梓、そっちはどこ行ってたの?」
「えと、近所にある公園のおトイレ・・デスヨ?」

風呂場独特の反響を帯びる少女たちの声。
狭い湯船の中に背中合わせに座る志穂と梓は、真っ赤に染まったお互いの顔を見ようとしなかった。

「JINと・・お尻で、したんだよ・・ね?」
「ハ、ハイ」
「ど・・ど〜だった?お尻って、イイの?」
「ハイ・・私、ずーーーっとうっとりしてて、それ以外のコトよく覚えてないくらいデシテ」
「へぇ・・やっぱ、気持ちいいんだ?」

梓の脳裏におぼろげに残る公衆便所の中での記憶。
憧れのJINのペニスを肛門に感じながら、ひたすら悶え喘ぎ続けた数時間。
しかし、それが二重の暗示により偽装された記憶であることなど、彼女は知る由もない。

「でも、ぶっちゃけさ。お尻ですると、その・・『漏れ』ない?」
「ノッ・・ノーコメントでッッ!」

志穂が『聞き辛い質問』を口にするや、ビクンとあからさまな反応を見せる梓。
JIN――そして、記憶にはないが5人の不良たちの前で、梓は肛門性交の準備という名目での排泄ショーを披露している。
しかし、それはいくらぶっちゃけていようと、さすがに口にできる内容ではなかった。

「えっ・・教えてよぅ?」
「ダメダメダメダメ、ダメデス!」
「うぅ〜・・」
「そ、それよりセンパイこそどうだったんデスかっ?」

苦し紛れから『攻守交替!』とばかりに、梓はそう切り返す。
しかし、『今度は志穂にも恥ずかしい思いをさせてやろう』という思惑はあっさりと外れる。

「ふふ、こっちィ〜?・・KENTと頑張ったよ〜?中出し、6回」
「お、おぅ・・サイデスカ」
「KENTとさ・・赤ちゃん、作るんだ・・志穂。ふふっ」
「え?・・あ・・ハイ・・ゴッツァンデス」

憧れのKENTに望まれての子作り。
それは志穂にとって、口にするのを躊躇うような恥ずかしい話ではない。
むしろ、現状では話せる相手が梓しかいないことを残念にすら思っているのだ。

「あ・・でも、デキちゃったら、学校とかは・・どうするんです?」
「モチ、辞めるよ?だってKENT忙しいから、あまり赤ちゃん構ってられないだろうし・・志穂が頑張らないと」
「え・・家族とかは大丈夫なんです・・?」
「あ〜・・反対されるだろうね。うちのパパとママ『Re:X』とか嫌いだし」
「じゃ、じゃあ・・」
「いいよ別に。そしたら、家、出るから。KENTがいればいいモン」

あまりにも異常で突拍子のない話に言葉もない梓。
しかし、志穂と同じ趣向を持つ彼女にとって、それは純粋に羨ましい話でしかなかった。

「センパイいいなぁ・・JINは私のコト、どう思ってるのかなぁ・・」
「ふふっ、梓も頑張りなよ」
「で、でもぉ〜」
「だって、梓はJINとお尻エッチしたんだよ?それって大きなアドバンテージじゃん。他のファンの子たちより絶対有利だって」
「・・そ、そ〜デスかね?・・エヘヘ♪」

そこに仄めかされたわずかな期待に顔を緩ませる梓。
その後頭部を、志穂が頭でコツンとやる。

「というわけで、話を戻すけどさ・・」
「・・・・へっ?」

昨晩、大量に注ぎ込まれた精液の微熱を子宮と直腸に感じながら、年頃の少女らしい夢を語り合う志穂と梓。
しかし、暗示に濁った4つの瞳は、すぐ横で耳を澄ます男たちの姿を映すことはない。

そして、前回と同様、偽りの記憶に胸を躍らせながら、少女たちは帰途に着くのだった。


         ▽         ▽         ▽


「で、結局、吹っ切れたの?小西は」
「ん〜・・そのつもりだけど、正直、よくわかんねえな」

少女たちと、その甘い幻想が消え失せた亀田家。
その居間に、カップラーメンができるのを待つ保と耕太の姿があった。

「言っておくけど、もうどうにもならないからね?」
「ああ、わかってる。いいよ、もう」
「志穂は妊娠が発覚した段階で切るよ?」
「ああ、そうしてくれ」

窓から外を見つつ、保はどこか投げやりな答えを返し続けていた。
昨夜、志穂との生殖行為に入る前に、キッチリと割り切ったつもりだったモノ。
それは志穂と体を重ねる中で、再び保の胸の内に舞い戻ってきていたのだ。

「小西・・もしかして、泣いてるの?」
「バ、バカ言うな・・」
「なら、小西。志穂を孕ませたら、スパッと捨てられるよね?」
「あ、あた・・りま・・っ・・・・・・」

言葉を詰まらせる保に、耕太は軽くため息をつく。
大事な親友のためによかれと思ってやったこと。
しかし、やがてそれが逆効果になるであろうことは目に見えていた。

(チッ、僕としたことが・・)

催眠術の効果とはいえ、自分に一途な想いを向けてくる志穂に保もまた心奪われたのだ。
恨んでも恨み切れない相手であるにもかかわらず、もう保には志穂を切り捨てることはできない。
だから、このまま志穂を弄んで地獄に堕とせば、芋づる式に保をも巻き込むことになる。
自分の無計画さを呪うなど、本来、道徳心とは無縁の存在である耕太には初めての経験だった。

「――仕方ないな。僕が何とかしようか?」

耕太がボソッと口にした言葉に、保は息を呑む。

「な、何とかできるのかッ!?」

はじかれたように振り返る保の眼差しから、生気の輝きが消えてゆく。
そこにいる得体の知れない存在。
それが親友・耕太の本性であることが、保には直感的にわかっていた。

「ごめんね、小西・・志穂のことはもう忘れよう。次はもっと上手くやるからさ・・」

頭の中が真っ白になっていくのを感じながら、保は『ああ、そういうことか』と静かに納得するのだった。


→戻る

魔都物語のトップへ