〜DAYDREAM〜(前)



いつからだろう。
この街が魔都と呼ばれるようになったのは――

多発する怪事件。
妖しげな儀式の跡。
突然豹変する人たち。
街角に潜む人ならざるものの気配。

それは影から歴史を動かしてきた巨大秘密組織の仕業であるとも、密かに地球侵略を開始した宇宙人の仕業であるとも、古代より蘇った悪魔や邪神の類の仕業であるとも噂される。
また、政府はその情報を掴んでいるが、何らかの理由により公表できないのだという話もある。
だが、結局のところ、真相は一切知られていないのが現状だ。
いつでもどこかで何かが起こっているという日常。
やがて、人々がそれに慣れていく中で社会は秩序を失い、いつしかこの街は完全な混沌の世界と化していた――


         ▽         ▽         ▽


「(オイ・・これ、マジで効いてンのか??)」
「(見てりゃわかるだろ?バッチリだって・・)」

小西 保(こにしたもつ)は自分たちの後ろを歩く少女を横目でチラ見しつつ、相棒の亀田 耕太(かめだこうた)と時折小声のやり取りをしている。
元々、ネットの巨大掲示板のエロ系スレッド仲間であった保と耕太は、お互い歪んだリビドーを語り合える無二の友人同士。
そして、今は同じ大学に通う仲間にもなっていた。

「さ、入ってくれよ」

築40年のボロアパート『グリーンハイツ』。
その2階右隅にある扉は、男2人と少女1人を迎え入れると静かに閉じられる。

《――バタン》

うっすらと漂うカップラーメン他生ゴミの匂い。
床の所々に落ちる小さなゴミ、そして埃や体毛。
無造作に物を押し込み半開きとなったクローゼット。
耕太の部屋は、ズボラな男の1人暮らしがひと目で見て取れる汚さだ。

「お邪魔しまぁ〜す」

そんな部屋の真ん中、チョコンと腰を下ろす少女の名は片倉 志穂(かたくらしほ)。
中学指定のブレザー服姿の彼女がこんな男臭い部屋にいる。
それだけで犯罪を思わせるほどのギャップだ。

「うわぁ・・すごいお部屋!」

こんな状況下にもかかわらず、志穂の漏らしたのは慇懃無礼な言葉ではなく、素直な感嘆の言葉だ。
何故か『期待で胸一杯』といった極度の興奮が見て取れる志穂。
キラキラと輝かせているその瞳は、わずかに焦点があっていなかった。

「楽にしててくれ。ちょっと、飲み物取ってくる」
「・・あっ、お、おかまいなくっ」
「ははっ、元気な中学生に遠慮なんて似合わないぜ?」

志穂を通した部屋から台所に戻ってくる耕太。
その頭を、保は脇に抱え込むようにして捕まえる。

「(さ・・催眠術って、すげえんだな・・)」

すると、今度は保の脇から頭を引き抜いた耕太が、逆に保にヘッドロックをかけ返す。

「(だから言ったじゃんさ。今、アイツの目に見えているのは、高級マンションの一室。そして、憧れの人気バンド『Re:X(リクロス)』のメンバー、JIN(ジン)とKENT(ケント)さ・・ぬかりはないって)」
「(やべえよ・・俺、すげえ興奮してきた・・!)」
「(おいおい、しっかりしてくれよな小西。お楽しみはこれからじゃないか・・)」

2人は同じタイミングでゴクリと息を飲むと、志穂の待つ部屋をギロリと見やるのだった。


         ▽         ▽         ▽


2人と志穂の出会いは1ヶ月半前。
保たちが通っていた大学の文化祭だった。

「うわぁ、犯罪者予備軍キンモー☆」

校舎入り口前。
遊びに来ていた志穂やその友人たちとぶつかりそうになり、かわそうとした際、足がもつれて耕太が転倒。
落とした大きな手提げ袋の中から、無数の薄い本がその場に散らばった。

『某アイドルの緊縛調教レッスン』
『アナルでアヘってGo!Go!Go!』
『続・ブルマーたちの憂鬱』

所謂エロ同人誌、それも比較的マニアックな内容のものばかり。
それらを慌ててかき集める耕太の姿は、女子中学生たちの目に極めて滑稽なものに映る。
我慢できずに漏らした志穂の一言が、悲劇の幕開けとなったのだ。

「ちょっ、志穂ぉ・・や〜め〜な〜よ〜w」
「そ〜ですよぉ先輩。こうゆう人たちって、怒らせると何するかわかんないですよ〜?」
「だだだだってwこれとか見てよ・・『召しませ♪孕ませ♪ぱらだいす☆』とか・・キャハハハハハ!お腹よじれりゅww」

志穂に自重を促す言葉を口にする彼女の友人たち。
しかし、その言葉尻には全く隠すことなく、耕太への嘲笑がこびりついていた。
そして、彼を中心に広がる悪意の波紋は、すぐに周囲にも伝播してゆく。

「・・あれって、亀田じゃねえの?」
「オイオイwお前、何やってんだよ・・」
「せっかく遊びに来てくれてるのにサーセンww今、片付けますんで〜ww」

大きなヘマをやらかした者を晒し上げて集団で叩く。
その場に形成された空気は、ネット上でまま見られる『晒し上げ』という状態そのものだった。

「あ・・でも、ちょ〜っとだけ、中を見せてもらっちゃっていいですかぁ?」
「いや〜、中学生にはちょっと刺激強いんじゃねえかぁ〜?ww」
「もぉ〜w志穂ったらぁ〜w」

『なんだなんだ?』と集まったギャラリーは30人を越え、なお増え続けている。
その中心、今やすっかりエンターテイナー気取りとなった志穂の増徴は止まらなかった。
散乱する同人誌から無造作に1冊を拾い上げると、それを取り返そうと振るわれる耕太の腕をヒョイとかわし、また本の内容をネタにはしゃぎ立てる。
そうこうしている間にも、耕太を取り巻く包囲網は自然と野次馬の連帯感を固めてゆく。
それは、志穂が飽きるまで崩れようのない流れになりつつあった。

「オ、オイ!いい加減にしろよ!」

咄嗟に場に躍り出たのは、耕太の唯一の友人・保。
普段、極めて内向的な耕太ほどではないものの、保もやはり友人の多いタイプではない。
この場を治めるだけのカリスマの持ち主でないことは明白だった。

『攻撃対象が1人から2人に増えるだけの結果に終わる』

当事者たちも含め、場にいる全員がそう思った時だった。
保と耕太を更なる悪展開へと導く言葉が、志穂の後輩の口から放たれていた。

「痛・・・ッ!!」

3人いた志穂の友人の1人が、その場に倒れていた。
そして、その手が押さえる額にはじわりと赤い液体が滲む。
彼女は、人ごみを掻き分けて場に飛び出した保にぶつかり転倒していたのだ。

「ちょっ・・大丈夫、梓!?」
「あーっ!血が出てる・・」
「お、おい・・ちょっと、誰か先生呼んで来いよ!あ、あと救急箱な!」

それは、終わってみればちょっとした傷害事件となっていた。
駆けつけた男性教員に対し、事件の原因を作り出した張本人である志穂は勢い任せにあることないことを証言。
正当な反論を試みる保と耕太の言葉には誰も耳を貸さず、逆に志穂の更なる増徴を招く。
結局、耕太を助けに入った保があべこべに退学処分となったのだ。

保はショックから部屋に閉じこもり、学校側に異議申し立てを続けていた耕太も、それが無意味だとわかるや自主退学。
『大学生2人が、たった1人の女子中学生に一方的にやられて人生を棒に振る』
そんな屈辱的な現実を受け入れられず腐っていた保の元に、ある頃から耕太の連絡が入り始める。

『元気を出してくれ、小西は僕の唯一の親友だ』
『小西の無念を晴らす取って置きの方法がある』
『このブログとツイートを全部見て頭に入れておいてくれ』

そして、今日になってついに呼び出しの連絡が入る。

『すぐ来い。今、あの中学生に催眠術にかけた』

耕太の謎の一言に首を傾げつつも、保は得体の知れない期待を抱かずにはいられず、家を出たのだ。


         ▽         ▽         ▽


「志穂、前にさ。武道館のコンサートに来てくれてたよな?」
「あ、うん!あの時は最前列が取れたの!もう、メチャメチャ興奮しちゃって・・!」
「あのコンサートのあと楽屋でさ、KENTと『最前列にちょっと可愛い子いたよな』って話になってさ・・」
「そうそう、それが志穂ちゃんだったんだよね」
「キャー☆・・え?え?え!?・・マ、マジで!?」

催眠術で高級マンションに仕立て上げた耕太の部屋の中。
人気バンド『Re:X』のメンバーに成りすました保と耕太を前に、志穂は興奮の絶頂にある。

全国に熱狂的な女性ファンを持つ人気バンド『Re:X』。
それはJINとKENTの2人からなるボーカルユニットだ。
志穂も友人たちと共に追っかけをしており、小遣いやお年玉なども全て各種関連グッズにつぎ込む気の入れ様。
また、自身のブログやツイートでも、その熱狂ぶりをいかんなく発揮していた。
だからこそ、つけこむのは容易だった。

「志穂って、綺麗な足してるよな・・」
「えーっ・・そ、そんなコト、ないデスヨ・・?」

JINに成りすました耕太の手が志穂の太ももを撫で上げる。
志穂に嫌がる様子は一切なく、ただただ胸の内の期待と興奮を押さえるのに手一杯といった感じだ。

「おい、JIN・・志穂ちゃんはまだ中学生だぜ?そういうのは、怖がられるだろ」
「あっと、ごめんな志穂・・ついつい」

そこにKENTに成りすました保が制止の一言をかける。

「えっ?・・あ・・志穂は、そういうの・・別に・・」

そんな志穂からの反応も織り込み済みで、それは2人が予め決めておいた手順だった。

「芸能人ってさ・・プライベートとかあんま取れないし、色々刺激的な仕事が多いじゃん?」
「ま、ぶっちゃけちまうとさ・・『そういう欲求』がたまりやすいんだよ」
「でも、志穂ちゃんはまだ中学生だし、大人の僕らがそういうのを求めちゃダメだったね。ゴメンね」
「あ、え・・えと・・あ、待っ」
「マジでごめんな?志穂」

2人は一度引き寄せた志穂を突き放してみせる。

「・・待ってくださいっ!」

そして、そこに志穂が自分から食いつく。
これでチェックメイトだった。


         ▽         ▽         ▽


ベッドの縁には、並んで座る保、志穂、耕太の姿。
危険な場所でキモオタ2人に囲まれているとも知らず、志穂は相変わらず甘い夢の中にいた。

「おっぱい可愛いね。何センチあるの?」
「んっ・・あ、トップだよね?な、78・・だケド」

保と耕太が顔を寄せてまじまじと見つめるのは、ブラウス越しにおずおずと自己主張をする成長過程のバスト。
そのサイズを本人の口から聞き出すのも、また2人をじわりと卑猥な気分にさせる。

「揉んでも、いい?」
「あ・・ど、どぉぞ」

保は志穂の背中から手を回し、抱き寄せるようにしてその乳房を揉みしだく。
それは揉まれるたびに程よい弾力で掌を押し返し、内側から未熟なフェロモンをじわりと滲ませた。

「や・・柔らかいカナ?」
「ん?うん、柔らかいね。志穂ちゃんのおっぱい、ずっと揉んでいたいなあ」
「エヘヘ・・い、いいよ?好きなだけ揉んでてもっ☆」

一方、志穂がくすぐったそうにすくめた肩の反対側。
耕太がその髪を梳くようにして、ほのかなシャンプーの香りを楽しんでいた。

「なあ、志穂?」
「あ・・ハイ?」
「志穂ってさ。普段、オナニーとかしてんの?」
「え・・っ」

そこで志穂が一度言葉を飲みこんだのは、答えるのが恥ずかしいからというだけではない。
ずずいと身を乗り出し、顔を寄せる耕太にドギマギしているのだ。
当然、それは志穂の目にはJINとの急接近と映っていた。

「・・っとぉ〜。ちょっとだけ?・・エヘヘ☆」
「えっ、やっぱり志穂ちゃんくらいの子でもするんだ?」
「そりゃそうだろ。なんつっても、志穂はエッチな子だもんな?」
「うぅ・・ま、まぁ・・ちょ〜っと、エッチ・・カモ?」
「コラ〜?・・『ちょ〜っと』じゃねえだろ?」

強気なJINを耕太が、優男のKENTを保がそれぞれ演じる。
普段の性格から考えれば、逆にすべきだったキャスティング。
しかし、それもだいぶ板についてきていた。

「週に何回くらいしてるんだよ?」
「う・・うぅ」

志穂はすくめていた肩を更にすくめ、胸元に親指以外の4本の指を立ててみせた。

「ほォら、4回もしてンじゃねえかよ!こんのエロ中学生がっ」
「・・きゃン☆」

すかさず入る耕太のツッコミをガードしようと、掌で頭を隠そうとする志穂。
だが、次の瞬間には、その顎を保の指で絡めとられて逆を向かされる。

「ふふ・・で、志穂ちゃん?オナニーは何をオカズにしてるの?」
「・・も、もちろん、JINとKENT・・だよ?」
「僕たちとSEXするところを想像しながら?」
「・・ウン」

保と耕太の間を忙しなく行ったり来たり。
それはまるで、2人の王子様に奪い合われているかのようで志穂をうっとりとさせる。

「志穂〜?それ、明日からはよりリアルに想像できるようになるぜ?」
「・・ふ、ふえっ?」
「そうだよ?だって志穂ちゃんは、これから僕たちとのSEXを体験するんだから、さ♪」
「は・・はうぅぅ〜〜〜〜っ☆」

こうして、時計の針が20時を廻った頃、場は次のステージへと進む。
幸せな幻覚に知覚を冒されたまま、志穂は底のない泥沼へと沈んでゆく。


         ▽         ▽         ▽


《――カチャリ》

そのやや異質な金属音は、ベッドに横たわった志穂の頭上に響く。

「これはあとで外してあげるからね」
「ウ、ウン・・」

志穂の細い手首に鈍く輝くのは――手錠。
そのチェーンはベッドのフレームを半周し、そこに志穂を拘束する。
それは耕太が『雰囲気を出すために』と装着を持ちかけたものだった。

「あ、ふ、服とか着たままで・・いいの?」
「ああ、僕らは普段のまま飾らない・・素顔の志穂ちゃんが抱きたいんだよ」
「あっ・・んちゅっ」

照れ隠しも兼ねてか、たどたどしい言葉を発する志穂の唇。
しかし、すぐに保のタラコ唇に塞がれ、うっとりと声を失う。
志穂にはわずかなイニシアチブすら許されない状態が、そこに形作られていた。

「ほぉ〜ら・・志穂、見てみろよ?」

志穂の目の前につきつけられたのは、つい今まで志穂の大切な場所を隠し守っていた薄布。
普段から見慣れている下着も、それが男の手にあることで、全く異なる意味合いを持つものへと変わっていた。

「志穂の恋のエキスで、大きな染みになってるぜ?」

林檎のように真っ赤に染まった15歳の頬。
しかし、それを覆い隠すための両手は鉄の器具に繋がれて役に立たない。
反射的に頭をひねって逸らそうとする視線すらも、保の声にそっと制止されていた。

「志穂ちゃん?目を背けちゃダメだ。ちゃんと、見るんだよ」

ついに観念して、眼前に拡げ晒されたショーツと対面する志穂。
保もまた、同じ視線を共有するかのようにそこに顔を寄せる。

「あんなに濡れてるのは、志穂ちゃんのカラダがSEXをする準備を整えたからなんだよ?」
「そうそう。もう志穂が一人前の・・オトナのカラダだっていう証拠なんだからさ、胸張れよ」
「・・はぃ」
「そう。だからね?志穂ちゃん――」

しばしの静寂。
保と耕太の密かなアイコンタクトを挟み、言葉は紡がれる。

「――志穂ちゃんのカラダはもう、誰かと愛し合うためのパスポートを持っているんだよ」

それは夢見る少女を地獄へと誘う甘い悪魔の囁きに他ならない。
甘い幻想で五感を奪った志穂の心に容易く入り込み、そっと根を下ろしてゆくのだ。


         ▽         ▽         ▽


片や、高級マンションの一室で憧れの人気バンドメンバー2人と。
片や、薄汚い男の1人部屋で生意気かつ憎たらしい女子中学生と。
異なる2つの世界の中で、その行為は並行して行われていた。

《ぱん。・・ぱん。ぱん。・・ぱん。・・ぱん。ぱん。ぱん。・・》

「あっ!あぁっ!・・KENTぉぉっ」

ベッドの上、男と女の肉が奏でるのは歪なリズムだった。
志穂だけでなく、KENTに扮する保もまた初めての性体験。
最も敏感な先端をめくるめく異性の肉の感触に支配され、満足に腰を振れないのだ。

「く・・おぉぉっ♪やべぇってコレ・・本物のマンコって、こんなにすげえのか・・」
「ハハ、この街が性犯罪に満ち溢れてるのも頷けるだろ?」
「くンン・・!KENT・・好き、好きぃっ!」

また、性行為の進展にあわせ、男女間の状況にも大きな変化が現れていた。
志穂を縛り付ける催眠状態は、長時間の効果的な持続をもって、更なる強固な暗示へと成長していたのだ。
もはや、その五感は志穂にとって都合のいい情報しか受け付けない。
そのため、志穂にはJINとKENTの会話は聞こえても、保と耕太の会話は聞こえないのだ。

「ハァ・・ハァ・・ダメだぁ・・これじゃ、すぐ出ちまう」
「えぇ?別に・・それなら、とりあえず一発出しちゃったら?」
「バッカ、今日はオールナイトでハメるんだぜ?幾ら溜まってても、このペースで出してちゃもたねえって・・」
「フフ・・じゃあ、ちょっと交代する?」

ベッドの縁で響く『パン』という音は、タッチ交代の合図。
横たわる志穂の前から保が外れ、入れ替わりに耕太が収まる。
耕太は仰向けだった志穂をうつ伏せにすると、腰を抱え上げて自らの先端を紅く濡れた少女の穴に宛がう。

「さて志穂、交代だ。俺とKENTに交互に愛される・・こういうのも悪くねえだろ?」
「はぁ・・はぁ・・はいぃ」
「いいコだ・・じゃあ、行くぜ?」
「はあぁぁ・・っ。志穂、JINとも繋がっちゃうんだ・・♪」

深い暗示が不必要な情報を全て遮断する今の志穂に、破瓜の痛みはない。
2人目の男に一気に奥まで貫かれても、その身に走るのは強烈なゾクゾク感と偽りの幸福感のみだった。

《パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!》

ブクブクと肥えた耕太の腰が、華奢な志穂の尻肉や太ももにテンポよく叩きつけられる小気味いい音。
同じ行為であるにもかかわらず、それは先ほどの保のものとは比較にならないほどスムーズに行われる。
明らかに『慣れ』を感じさせる動きだった。

「あれ?・・なんか、亀田・・お前、もしかして慣れてンの?・・こういうの」
「え?いやぁ・・うぅ〜〜〜ん・・どうだろ?」

《パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!》

意外な一面を見せる相棒の姿に、保はふと思い出していた。
大学で実際に顔を合わせる前の耕太の日常を全く知らないことを。

「お、お前・・大学に上がる前とかって、何やってたんだ?」
「いや?小西の知ってる通りだよ?」
「え、いや・・大学前だぞ?例のエロ掲示板でよく俺としゃべってたこと以外、俺、全然知らねえんだけど・・」
「いやぁ、だからさ、それだけだよ」
「はぁ・・?」

妙に食い下がる保に、耕太は一度ピストンを止める。
そして、少しだけ困ったような笑みを浮かべた。

「まあ、どうあれ・・僕は小西の味方だよ」

『それより、今は楽しもうよ』と話を続ける耕太に、小西はそれ以上何も聞かずに頷く。
そして再び、ベッドの縁で『パン』という例のタッチ音が響くのだった。


         ▽         ▽         ▽


《パン!》

ベッドの縁で数分おきに響いていたその音も、既に10回を数えていた。
いつもはカップラーメンやスナック菓子といったズボラな男の生活臭に満ちた室内に、かすかに漂う気が遠くなるような甘い香り。
それは今まさに花開きつつある15歳の性の香りだ。

「なあ、亀田」
「うん?」
「俺・・そろそろ、一発イクわ」
「ああ、うん。じゃ、一番奥にどっぷり流し込んじゃいなよ」
「ちょっ・・今、そういうこと言うな。それだけで出ちまうだろ」
「おぉっと!ハハ、ゴメンゴメン」

保は昂ぶりすぎた興奮を鎮めようと1つ深呼吸をする。
そして、再び志穂と向き合う。

「さて、志穂ちゃん?」
「はぁー・・はぁー・・♪・・は、はひ」

これまで保は正常位で、耕太は後背位でひたすら責め続けている。
タッチ音のたび、仰向けとうつ伏せに交互に転がされていた志穂も、今は2人に合わせて自ら体位を整えるようになっていた。

「・・僕たちの本気、受け止めてくれる?」
「ほ、ほえ・・?」
「このまま避妊しないで出しちゃうよ・・ってコトさ」

そう言って保が覗き込んだ志穂の大きな眼差し。
それはここまで何度か訪れた絶頂で更に強化された暗示効果により、輝きを失い濁りきっていた。

「うんっ。JINとKENTの、受け止める・・っ☆」
「よし・・いいコだね」
「うん。志穂、いいコだよぉ?JINとKENTのゆうこと、何でも聞いちゃうモン☆」

妨げるもののない男女の合体――生本番。
志穂も当然、その行為が帯びる重い可能性を知らない年ではない。
しかし、本来そこに敷かれるはずの心の堤防は完全に機能を失っていた。

「フフ、これで一応『合意の上』なんじゃない?」

そこに妙に上機嫌な耕太が口を挟んだ。

「ん?まあ、コイツ的にはJINとKENTと・・ってコトだろうけどな」
「え?だって、今は僕らだってJINとKENTじゃんさ」
「いやいや、そう名乗ってるだけじゃんよ」
「だって、そもそもこれって芸名でしょ?本物の方も名乗ってるだけじゃん。同じことだって」
「ハハ、それもそうか」
「ほら、じゃあ小西。もうヤッちゃいなよ」

行為の大きな節目、仕上げとも取れる段階を前に少しだけ腰が引けていた保。
その背をそっと押すと、耕太は友愛の笑みを浮かべるのだった――


         ▽         ▽         ▽


甘く淫らな夜が明けた翌朝、亀田家の玄関に志穂を含めた男女3人の姿があった。
つま先をトントンとやり靴に踵を入れると、志穂は未だ夢覚めやらぬ顔でJINとKENT――基、耕太と保を向き直る。

「あの・・JIN、KENT・・えと、また・・来ても、いい?」
「ふふ、だから、志穂ちゃんの番号を聞いたんだよ?大丈夫・・また、時間を見つけて連絡するよ」

そう言葉を交わして見つめあう保と志穂を、耕太はどこかニヤニヤしながら眺める。

「よかった・・これっきりなんて、志穂・・絶対嫌だから・・」
「志穂ちゃん・・?『これっきり』なんて、本気で思ってるの?」
「え・・だ、だって、やっぱ・・不安、だし」

らしくもなく気弱そうに俯く志穂。
保はその頭を胸に抱き寄せると、もう一方の手を志穂のスカートの下に滑り込ませる。

「あっ・・・・んんっ」

その野太い指先が薄布越しに触れた場所。
昨晩、幾度となく咲き乱れた少女の器官が、ジュワッと小さな水音を立てた。

「昨晩、志穂ちゃんが頑張って何度もココで受け止めてくれたモノ。あれは僕たちの『本気』だって言ったと思うんだけど?」
「ケ、KENT・・」
「それとも、志穂ちゃんは僕が嘘をついているとでも思うの?」
「あ・・んーんっ!・・そんなコトないっ!」
「ふふ・・じゃ、大丈夫ってコトだよ」
「・・うんっ」

《――ゴホンッ》
そこに挟まるあからさまな咳払い1つが、保と志穂を元の距離間に戻す。
そして、今度は場を一度リセットさせた耕太が、軽く舌なめずりをしてみせた。

「でもよ、志穂。その時はまた、俺らの欲求不満をそのエッチなカラダで解消させてもらうぜ?」
「えっ!?あ・・ハ、ハイっ☆」
「クク、次は昨日みたいに手加減はしないぜ?・・そうだな、次はケツ穴とかもイッてみようか」
「は、はぅっ・・はゎゎゎ・・」
「コラコラ・・JIN?」

困り笑顔を浮かべて耕太を制止する保だったが、そこでまた何かを思い出したように真剣な表情を作る。

「そうだ、志穂ちゃん。大事なことを言い忘れてた」
「あ、な、何?」
「志穂ちゃんならわかってると思うけど、僕たちとの関係は誰にもしゃべっちゃダメだよ?」
「・・言っとくが、ブログやツイッターもだぜ?」

保は慌ててそう釘を刺す。
それは、志穂を手放す気はないという思惑の現われでもあった。

「約束できるね?志穂ちゃん。これは秘密の関係だからね?」

そして、絶対に他言しないと固く誓った志穂は、保からご褒美のキスを1つ貰い、そっと朝の街の中に消えていくのだった。


         ▽         ▽         ▽


志穂を送り出し、一気に華やかさを失った亀田家の屋内。
しかし、そこにかすかに漂う15歳の少女の残り香は、昨夜の出来事が夢や幻想でないことを物語っていた。

「小西ぃ〜、カップラーメンでいい?」
「ん?いやいや、今日はもうちょい待ってしっかりしたもの食べに行こうぜ?俺が奢るよ」
「お、いいの?遠慮しないよ?」
「いやぁ、今は無性に肉が喰いてえんだよナ・・」
「ふふ、さっきまでだって喰ってたじゃん」

耕太が台所から戻ると、居間には呆けた保が胡坐をかいて座っていた。
めくるめく一夜の余韻に、今度は保が催眠術にかかったかのようだった。

「ふふ、小西・・さっきはだいぶ名残惜しそうだったね」
「うん?・・ああ、まあな・・」
「え?もしかして、好きになっちゃった・・とか、じゃないよね?」
「バッカ!そんなんじゃねえよ・・でもよ?今、志穂の子宮の中に、俺の精液が詰まってるんだって思うとナ・・」

今、保の中にある興奮の名前。
それは――征服欲。
形はどうあれ、保の初体験の相手となった志穂。
しかも、彼女は妊娠という大きなリスクを負うことに同意し、保はそこに思う存分想いを遂げたのだ。
だから今だけは、自分の人生をメチャメチャにした相手という認識より興奮が勝っていた。

「なあ・・昨日、お前何発出したっけか?」
「うん?えっと、僕は3回かな」
「じゃあ、あわせて8発か。う〜ん、アタるとしたら、お前と俺とどっちのかなぁ〜?」
「・・小西?」
「アタってたら大体10ヶ月ちょいだろ・・?中学の卒業式前に腹膨らみ始めるのかなぁ?」
「オ〜イ、小西ぃ〜〜?」
「15歳でママとか・・よくねえか?・・いや、その頃には16なんかな?」

うっとりとした面持ちで、1人呟くようにぽろぽろと漏らし続ける保。
その中にある志穂への想いは、やはり純粋な恋心とは程遠い歪んだものだ。

「小西ってば!」
「うおっ!?な、なんだよいきなり・・」
「・・いきなりじゃないよ、ずっと呼んでたじゃん」
「え・・マジで?」
「ふぅ・・やっぱ小西、志穂チャンにお熱なんじゃないの〜?」

とはいえ、ある意味で耕太の指摘は正しかった。

「えっ!?いやっ・・だから、別に・・違ぇってよ・・」
「・・ハイハイ」

尻つぼみとなった言葉。
保は少し気まずそうにその場を立ち上がると、カーテンを開いて朝の光に目を細める。

「次は、いつ頃呼べそうかな・・志穂」

一夜ですっかり元気を取り戻した保の後姿。
それを見て、耕太もまた満足げに笑んで見せるのだった。


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