<<8月18日(水)13:00 葦挽樹海・ロッジ>>

  

節子は1人、ロッジまで帰ってきていた。
本当ならば、一直線に森を抜ける道に行きたいところだったのだが、極度の空腹と、雨から逃れたいという本能の部分が、彼女をここへと向かわせていたのだ。
この大きなロッジは、内部の作り的に通常のそれとは全く違い、どちらかというと普通の家に近い。
主に談話室として使うキッチン・トイレの付いた一階広場に加えて、階段が二階へと伸びており、そこには幾つかの寝室があるのだ。

「はぁ・・はぁ・・っ」

節子は、一度自分たちが泊まっていた二階の部屋まで上がると、ベッドの横に置いてある自分のリュックの中から持って来たお菓子を貪るように食べ始めた。
また、食べるのに時間がかかりそうなスナック類は避け、手を出すのは短時間で食べられて更にエネルギーにもなるチョコレート類だ。
だが、それだけではなかなか空腹は膨れない。
他の仲間のリュックも逆さにして中身を振り落とし、簡単に食べられそうなものを探し、食い漁った。

(・・こんな事になるなら、来なければよかった・・)

口に物を詰め込みながら、節子は取り返しのつかない後悔に捕らわれていた。
普段は怖いもの知らずな節子だが、先程目にした男たち、いや、そのあとに見た恐ろしい光景が頭を離れなかった。
節子はガイとスカルに遭遇した際、芽衣子とは多少違った道筋を通って湖に出たのだが、その際に見てしまったのだ。

――あの暴風雨でさえ流しきる事が出来ない、大量の血痕を。

それは足元の草に、周りの木に、ベットリと張り付いており、それがもし人間の血液であるならば、確実に一つの死がそこにあった事を表していた。
そこで誰かが殺されたのだ。
それも、自分と一緒にここに来た仲間の誰かである可能性は極めて高い。

怖かった。
恐ろしかった。
何でも構わない、節子は自分を支えてくれるものを無意識に欲していたのだ。
だから・・
いつの間にか倒れこんでいたベッドから、彼女はもう、起き上がる事などできなかった・・

    ▽     ▽     ▽     ▽     ▽

人間の睡眠のサイクルでは、一時間半毎に眠りが浅くなるという。
ロッジのベッドで節子が目覚めたのも、ちょうどその頃だった。

「・・ふぁぁ・・あれ?・・ここ、どこだろ?」

節子は目を開けると不思議そうな顔をした。
何の事はない、寝惚けているのだ。
結局、夢の中の平凡な日常風景と今の状況との区別がつくまでに約10秒。
それだけ彼女の本能が、夢の中から出たくなかったのだろう。
そして、その自衛本能は、運悪く的を射ていた。

――ギチィ・・!
「エ・・?」

彼女は起き上がろうとして、何故かそれができない事に気付く。
一気に血の気が引いた。
自分の両手首が、ベッドの縁に結ばれたロープで縛り付けられているのだ。

「お、目覚めたようだなァ?ちょうど今、起こそうと思ってたところだったんだ・・」
「ひィ・・っ!」

2時間ほど前、森で遭遇した男たちと同じ服装をした男が、節子の顔を覗き込んでいた。
ダンだった。

「・・・・」

蛇に睨まれた蛙、その言葉が今の節子にぴったりの表現だ。
眼前に迫った恐怖になかなか声が出ない。
今ここで下手な事を口にすれば殺されるかもしれない、という思いが節子をがんじがらめに縛り付けていた。

「おう!おはよーさん、眠り姫ちゃん♪」
「・・お、おはよう・・」
「目覚めはどうだい?」
「・・う、うん、普通・・かな」

節子はむりやり笑顔を作り、相手の話を壊さない事だけに注意した。
今までも、何度か危険な場面を切り抜けた事のある節子だ。
まずは相手を見極める事、これが重要だと冷静に判断をしていた。
まぶたの裏を過ぎるのは、鮮烈な赤に染まった森の草木。
全ては殺されないため。
彼女は頭をフル回転させて、目の前の事に集中した。

「ハッハハハ・・『普通』ねぇ!なかなか面白い女だな」
「・・あ、面白かった・・?」
「ま、これからもっと面白ェ事、すんだけどな・・!」

ニタリと笑むダン。
また節子の目には、迷彩ズボンの専用ポケットに収まるナイフが映っていた。
呼吸が浅くなる。
冷や汗が額を伝う。
だがその判断力は、彼女なりに冷静なレベルを保ち続けていた。

「・・あ。なに、お兄さん。あたしにエッチなコトでもするの?」
「・・あ?」
「だって、あたしをこんなふうにベッドに縛り付けてるのって、動けなくしておいて、あそこにエッチなお注射とか…するためなんじゃないの?あたしのコト、あんあんって鳴かせたいんじゃないの?」
「・・あ、あん?」

一方、ダンの方は彼女の誤解など露知らず、その予想外の言動に少々困惑気味だ。
会話の先手を取られ、しばし言葉を失っていた。

「・・・・」
「・・エ?な、なに?どうしたの?」
「・・・・」
「・・ほら、しないの?お兄さんのコト、気持ちよくしてあげるよ?可愛い声、聞かせてあげるよ・・?・・ね、ねぇ・・」

節子は、部員の中で唯一の男性経験の持ち主。
それもお小遣い欲しさに多少悪い事にも手を染めており、この年にしては場もかなりこなしている方だ。
だから男を色でつって、最悪の事態から回避しようとしていたのだ。
だが、相手の反応は期待に反して薄い。

(・・やっぱり、殺すつもりかな・・ベッドに縛り付けて、悪魔の儀式みたいにあのナイフで・・あたしのお腹を・・いやだ・・いやだ・・いやだ!)

「いやだ・・!」

色仕掛けが通じなければ、他には対して有効と思われる策などない。
しかし、万策尽きれば、それは己の死を意味するかもしれないのだ。

「・・お願い・・殺さないで」
「・・・・?」
「助けてくれたら・・あ、あたし、お兄さんの言う事なんでも聞くよ?・・ね?・・お願いだから・・!」

(なぁる・・そーゆ事だったのかァ)

ダンはそこでやっと、節子の不可思議な言動の意味を悟った。
そしてそれと同時に、心の中で舌なめずりをするのだった。

「・・マジで、どんな事でも聞くんだな?」
「あ、うん!うん!・・でも、『死ね』とかじゃなければ・・ね?」
「それはどうするかな?ま、嬢ちゃんの心がけ次第かなァ・・」

そう言いながら、ダンはベッドの横から身を乗り出す。
節子のTシャツを胸元までたくし上げると、濡れて透けたブラジャーを上にずらし、そのまま柔らかな双丘を絞り上げるように揉み始めた。

「あは・・お、お兄さん、すごくエッチな触り方・・だね?」
「ヘヘ・・中2にしちゃぁ、でけぇパイオツしてるじゃねぇか♪」
「も、もぅ!そんな言い方、恥ずかしいよ・・」
「んな事言って、乳首おっ立ててんじゃねぇか♪オマ○コの方もグチョグチョなんじゃねぇかァ?へへへ・・どれどれェ〜?」
「んっ・・いやぁン☆」

(・・それにしてもこの男、あたしが中2だって知ってんのね・・誰が教えたんだろ、高橋かな・・?)

節子はそこまで考えると背筋を冷たくさせる。
あのあと翔乃がどうなったのか、それを想像したくはなかったのだ。
とにかく、今は可愛い中学生に徹しなければと自らに言い聞かせ、節子は恐ろしいイメージを振り払うように頭を振るう。
ダンはそんな様子を楽しみながらも、表向きはニタついた顔で節子を威嚇し続ける。

「嬢ちゃんのオマ○コ、やっぱ大洪水だぜェ?」
「だってぇ・・」
「『だって』じゃねぇよ。本当は早くオレのチ○ポ、ぶち込んで欲しいんだろ?バッコンバッコンやられまくって、生出しされる感覚を楽しみてぇんだろ?」
「んもぅ、生出し・・って、そんなエッチなコト・・まだ、経験ないよぅ・・」
「ハッハッハ!じゃ、初タイケンってかぁ?」

14歳の膣に指を入れたまま、節子をダンが大きな顔が覗き込んだ。
ダンは節子の鼻先に噛みつけるくらい顔を近づけると、一つ舌なめずりをする。
鼻っ面に吹き掛けられる生臭い吐息に、節子は思わず体をびくつかせるが、手首を縛りつけるロープが、ぎしりと重い音を立てただけだった。

「じゃあ運がよかったな!オレのザーメンは、とろみも量も勢いも一級品だァ。オレの生出しくらったら・・嬢ちゃん、絶対病み付きになるぜ♪」
「・・や、病み付きになっちゃうくらい・・き、気持ちいいの?」
「そうだ!オレのザーメンを子宮に食らった女は皆、気持ちよさそうな恍惚の顔しやがるぜ?あまりの気持ちよさに、失神しちまうやつも少なくねェほどだ!」
「ふぅん・・で、でも失神するのは・・ちょっと、やだなぁ・・怖いよ・・」
「安心しろって!もし失神しても、また次のザーメンぶち込んで、気持ちよく目覚めさせてやるからよォ♪」
「あ・はは・・それなら・いいかも・・ちゃ・ちゃんと、起こしてね・・?」
「ハァハハ、任せとけって!じゃ、たっぷり可愛がってやるとすっかぁ♪」


すっかり調子に乗ったダンは、そこで行動を再開する。
節子の唇を乱暴に奪うと、次は彼女の足元に回り、その下肢を覆うズボンとパンティを剥ぎ取った。
そして、そこに露になる節子の性口をじっくりと観察しつつ、自らのベルトの留め金をカチャカチャと外し始めると、やがて、そこに威勢のいい男根が覗いた。

「グヘヘ・・今、気持ちいいヤツをぶち込んでやるからな、このヤロォ♪」
「・・・・」
(やっぱ中出しかよ。畜生、子供堕ろすのって、幾らぐらいだったかなぁ・・)

節子は表向き、何かを期待したような表情を作りつつも、今のところ作戦が順調に進んでいる事には、小さく安堵していた。
だが、その時だ。

――ギシッギシッギシッギシッ

節子の聴覚は、誰かがゆっくりと階段を上り始める音を拾っていた。
だが、彼女の中で高まったのは期待ではなく不安だけだ。
そのどっしりとした歩き方は仲間にしては無用心すぎるし、もしそうであったにしても、所詮目の前の屈強な男の腕力に敵うはずもない。
自分の横に並べられて仲良く3P・・落ちとしてはどうせそんな感じだろう。

(ちっ・・結局、こいつとのセックスは必須課題ってワケか・・)

無意識に溜息を漏らす節子。
見下ろすダンの言葉が、そこに追い討ちをかけた。

「多分オレのダチどもだ、遅れて来る事になってんだよ。嬢ちゃんのお友達も全員来るはずだから、そしたら皆でセックスしようなァ♪」
「えぇ〜、それはちょっと恥ずかし・・」
「恥ずかしくなんてねえだろ!皆で仲良くあんあんヨガればいいじゃねえか!そんなのはレクリエーション、レクリエーション♪」
「・・・・」
「大体、セックスなんてスポーツみてぇなもんだろ?嬢ちゃんたちだって、運動部なんだから得意分野じゃねェか。そうだろォ?」
「・・き」
「・・ん?・・どうした?」

そこで、節子からダンを挟んだ反対側にある扉が開かれる。
続いてその奥から、足音の主が姿を現す。
それが視界に入った瞬間――節子の鼓動が・壊れる――

「き・・きゃあああああああああああぁぁ〜〜ッッ!!!!」


→進む

→戻る

→狼と兎と黄色い湖のトップへ